ARIA The PIACERE 1 その輝かしい船出を祝して   作:neo venetiatti

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第4話

晃はうかない表情で、姫屋本店の一階ロビーにあるテーブルのひとつに腰かけていた。

「困ったことになったなぁ・・・」

店内を行き交うウンディーネや従業員たちを気に止める様子もなく、ぼんやりと前方に目を向けていた。

つい一時間ほど前に、主要スタッフと打合せをしていた晃だったが、こんな状況になるとは想像もしていなかった。

〈藍華にどう知らせようか・・・〉

晃はそれが気がかりでならなかった。

「晃さん、お電話です」

従業員が声をかけてきた。

「誰からだ?」

「ゴンドラ協会理事のアリシア・フローレンス様からです」

「アリシアからか・・・」

晃はふぅと息を吐いた。

「わかった。すぐ行く」

そういってすっくと立ち上がり、自らが向かうべきところへと力強く歩き始めた。

 

〈晃ちゃん、突然でほんとうにごめんなさい〉

電話の向こうで、アリシアが申し訳なさそうに応えた。

「なにもアリシアが謝ることじゃないじゃないか」

〈でも・・・〉

晃は目を閉じると、気持ちを落ち着かせるように一呼吸おいた。

「起こるときは起こる。そういうことだ」

アリシアがわざわざ電話をかけてきたことと、晃がスタッフとのミーティングで聞いたことは、同じ件に関することだった。

マンホームから賓客がやってくる。

民間の水先案内会社にはそれ以上の情報は明かされない。

それはこれまでにもあったことだし、どう対処すべきか心得がない訳ではなかった。

だが、今回だけは違った。

〈藍華ちゃんには?〉

アリシアの言葉には、心配と気遣いが溢れていた。

「いや、まだ伝えていない」

晃は努めていつものように冷静さを保とうとしていた。だが、そこから先の言葉が出てこない。

〈それにしてもタイミングが悪かったわねぇ〉

「確かにな」

〈ゴンドラ協会も知ったのは昨日なの〉

「そうか。それなら仕方のないことだ。そんなこともある。そう考えるしかあるまい」

〈そうは言っても、やはり藍華ちゃんが心配ね〉

「あいつには私からちゃんと話すつもりだ」

〈わかったわ。その件は晃ちゃんの方でお願いします〉

「しかし、よりによって同じ日になるとはな」

マンホームから賓客が来る日は、姫屋のカンナレージョ支店開業一周年記念イベント開催のその日だった。

アクアに代々続くウンディーネの歴史において、その創業を最初に行った水先案内店である姫屋は、大きな記念行事などに出席することは恒例のことであり、ひとつの役割にもなっていた。しかも、このネオ・ヴェネツィアでおもてなしをするということは、とりもなおさず、ウンディーネが活躍することを意味していた。

他の水先案内店のウンディーネたちが出席するなか、その大部分を姫屋のウンディーネたちが努めることになり、それは姫屋にとっての誇りでもあった。

ここ数年は、その任を晃が中心となり、藍華もシングルでありながら、オーナーの娘ということで出席していた。そして、本来ならプリマに昇格した藍華が、胸を張って晃の側でその役割を果たす、絶好の機会でもあった。

「私たちにとって、このネオ・ヴェネツィアで、そしてこのアクアで、そのすばらしさを伝えるために、どんなおもてなしができるか。その大事な役割をになっていることにかわりない」

晃は自分にも言い聞かせるように、強くしっかりとした口調で話した。

〈単に観光案内をするだけじゃない、大事な何かをを伝える役割。確かにそうね。晃ちゃんの言う通りだわ〉

「藍華ならきっと理解してくれるはずだ」

支店の一周年記念のイベントに関しては、その大部分の内容が決定し、案内や告知を済ませていた。後はそれに向けて準備を進めるだけだった。

しかし、今回のことは、それをほぼ中止にしなければならない状況といえた。

マンホームからの賓客。

それだけでは、はっきりとしたことがわかるわけではなかったが、ネオ・ヴェネツィア行政自治区からゴンドラ協会や水先案内業界へ緊急の協力要請があったことから、事態が大きな出来事であることは察しがついた。

〈今から日取りの変更は無理かしら?〉

「アリシア、それが難しいことはお前が一番よくわかっているはずじゃないか。ネオ・ヴェネツィアあげての行事ごとを行う前で、一支店のイベントを比べる訳にはいかない」

〈それでも何かいい方法はないかしら・・・〉

「アリシア、ありがとう。お前だって調整やら何やらでかなり大変なはずだ。気にかけてくれただけでもうれしいよ」

晃は、これから迎えるであろう様々な出来事に対し、しっかりと腹をくくって向かっていかなければならないことを十分にわかっていた。ただひとつを除いては・・・

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