ARIA The PIACERE 1 その輝かしい船出を祝して   作:neo venetiatti

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第7話

ドアをノックする音がした。

「はーい。少々お待ちくださーい」

本日最後のお客様だった。

マンホームからの賓客を迎える歓迎式典があったことで、あちこちの水先案内店が忙しい一日を送っていた。

ゴンドラ協会の仕切りで急遽お客様の手配が行われ、それによりスケジュールの変更を余儀なくされた各社は、まさにてんてこ舞いの一日を送った。

ただし、ARIAカンパニーだけは、灯里ひとりの状態を考慮して、予定のスケジュール通りで終わるはずだった。

しかし、その日の朝になって、どうしてもという連絡がお客様からあり、灯里は断りきれず、その要望を受け入れることにした。

「いらっしゃいませ。ARIAカンパニーへようこそ」

ドアを開け、挨拶をすると、そこには綺麗に着飾った年配のご婦人が立っていた。

「ご予約頂いたアマンダ様でしょうか?」

「はい、そうです」

その姿を見た灯里は、少し意外な表情になった。

それを察した婦人が話始めた。

「ごめんなさいね。急な事を頼んでしまって」

「いえ、お気になさらないで下さい。少しでもお客様のお力になれるのでしたら、それはこちらとしても嬉しいことです」

「そう言っていただけると助かるわ」

灯里はアマンダ婦人を中に招き入れ、テーブルのところへ案内した。

「お茶をお持ちしますので、少々お待ちください」

「それはそれは気を使っていただいてありがとう」

アマンダ婦人は灯里の笑顔を見て、優しい口調で言った。

少しして灯里がティーカップを持ってくると、婦人の前に置いた。

紅茶を口にして、落ち着いた様子になった婦人は灯里に話しかけた。

「不思議に思われたでしょう?」

「えっ、何がでしょうか?」

「電話の声と印象が違ったから。あなた、先ほどドアを開けてわたしの顔を見たとき、意外な顔をしてらしたわね」

「あ、はい。正直に申し上げて、もう少しお若い方かと思ってました」

「ハハハハ、正直なウンディーネさんね」

「すみません。失礼なことを申し上げて」

「いえいえ、いいのよ。わたし、正直な人好きだわ」

アマンダ婦人は、もう一度紅茶を口にすると、微かなほほえみをたたえた。

「電話をしたのは私の娘なの。だから声の印象が若かったのよ」

「そうだったんですか」

灯里が微笑むと、その笑顔を見たアマンダも微笑み返した。

「いい人に当たったみたい・・・」

「はひっ。何のことでしょうか?」

「いいのよ、こちらのはなし」

そう言ってにっこりと微笑んだ。

「ところでお客様。どういったご依頼なのかは、会ったときに話されると、電話でおっしゃってましたが?」

「そうねぇ、そんなふうに伝えといてって言ったわね」

「どういうことでしょう・・・」

灯里の中で不安と不思議が入り交じっていた。

「そうだ」

「はひっ」

「お名前、聞いてなかったわね?」

「どうも失礼しました。ARIAカンパニーの水無灯里と申します」

「灯里さん、とお呼びしていい?」

「はい、それで結構です」

「灯里さん、実はね、ARIAカンパニーにどうしてもお願いしたかったのは、ある人から評判を聞いてたからなの」

「評判、ですか」

「そう。その人がね、このネオ・ヴェネツィアに以前来たときに、とても素晴らしい体験をしたというの」

婦人は、少し遠くを見るような表情で続けた。

「ゴンドラに乗って観光をするのがとても楽しみだったのだけど、何かの行き違いで予約が取れてなかったの。それで、運河のほとりをとぼとぼ歩いてたら、ひとりの女の子が声をかけてきてね。どうかしたのって」

「女の子ですか・・・」

「それで、特に何も考えず、経緯を話したら、なんとかしてあげるって言って、あるお店に連れていってくれたらしいの」

「その女の子がですか?」

「そうなの。でも、あいにく忙しくて無理だったみたい。急なことだったから仕方のないことよね。すると、別の店に連れていってくれたらしいの。そしたら、急なことなのに引き受けていただいて、無事、念願のゴンドラでの観光を楽しむことができたというの。それがこのARIAカンパニーだったというわけ」

灯里は、笑顔で優しく応対したアリシアの顔を思い浮かべた。

〈アリシアさんなら、きっとそうしたに違いない〉

「そのウンディーネさんのやさしさと気遣い、そして笑顔が忘れられないって、しばらくその話を繰り返していたわ」

「そんなことがあったのですね」

「おそらく、もういらっしゃらないわよね、そのウンディーネさん。もう大分と前の話だから」

「多分そのウンディーネは、一年前まで当店に勤めていたアリシアだと思います」

「そう、アリシアさんという方なのね。できれば、お会いしてみたかったわ。どんな方だったのかしらねぇ」

「とても素晴らしい方です。ずっと尊敬してます。私の憧れの人であり、目標としている方です」

「そうなの。素晴らしい方なのね。あなたもなれるといいわね」

「はい」

「ごめんなさい。なんか偉そうに言ってしまって」

「お客様のおっしゃられる通りです。でも、なかなか思うようにもいかないみたいです」

「そうなの?でも頑張ってね」

「はい」

「なんかもうお別れのような会話ね」

「ほんとです」

ふたりは顔を見合わせて笑った。

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