荒魂の刃   作:ヨメナ

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第1話

――わたしこと、燕結芽は刀使と呼ばれる存在だった

刀使とは、御刀と呼ばれる、玉鋼を精錬して作られる日本刀を使い、荒魂を切って鎮めるのを職務とする仕事

荒魂とは、怪異、妖怪、物の怪、悪霊などとも呼ばれるモノであり。

それは、御刀を作る際、玉鋼を精錬する時に溢れ出る不純物の集合体。

極小量であれば、それはノロと称され害はなくとも、集合し密度を増せば、疑似生物となって人間に害するもの

になり得る。

 

そしてそれを管理し、鎮めていたのが折神家と呼ばれる人達、その筆頭折神紫様。

全ての刀使の頂点に立つ凄い人、肺を患って死ぬ寸前だったわたしに小さな荒魂、ノロを入れ込んで

命を延命させてくれた人。

折神家には親衛隊と呼ばれる直属のボディーガードみたいな人達がいて。

 

第一席、獅童真希。

獅子色の髪をした優しい長身のおねーさん。

薄緑って御刀を使い、流派は神道無念流。

 

第二席、此花寿々花。

特徴的な赤毛とお嬢様みたいなですわ口調の優しいおねーさん。

九字兼定を使い、流派は鞍馬流。

 

第三席、皐月夜見

毛先だけが黒い白髪のおねーさん。

水神切兼光を使い、流派は深甚流。

 

そして第四席に、わたしこと燕結芽がいる。

愛刀はニッカリ青江、流派は天然理心流。

 

席順はただの加入順ってだけで、強いから第一席ってわけじゃないし。

なんならわたしが1番強い自信だってある。

みんながみんな、その体に荒魂、またはノロを注入されていて。

その扱いが非人道的だって言われていたのを聞いたことがあるけど、わたしにとってはどうでもいい事だった。

そのまま死を待って朽ちる事と、少しでも命を長らえる

事。

どちらがいいかなんて聞くまでもないと思う。

 

そしてその日は、その夜は、折神家に刀使達が襲撃をかけてきた夜だった。

そして、襲撃をかけてきた刀使の中に1人、見知った顔がいた。

千鳥という御刀を使う、柳生新陰流を使うとっても強いおねーさん、衛藤加奈美。

 

以前誰かか話しているのを聞いたことがあった

紫様は悪い事に手を染めてると、いつからか人が変わってしまったようだと。

今回の刀使の襲撃は多分、そういう事で。

こっちが悪くて、向こうが正しいのかもしれない。

だけれども、わたしにとってそんなのは関係なかった。

命を延命してもいずれ来る終わりからは逃げられない

それならば、わたしが生きていたという証を残したかった。

でも、わたしに出来ることは、強さを刻むことだけだった。

小さい頃に御刀に認められ、神童だと持て囃された。

そして直ぐに肺を患って、持て囃していた人は勿論、パパとママすらわたしの前から消えていった。

 

だから、強い人に自分を刻めば、自分が生きていた証になる。

それだけを理念として、この戦いに望んだのに。

 

「横槍!」

 

「ダイナミーック!」

 

「くっ!このおっ!」

「もう少しだったのに!なんで余計な真似するの!」

 

千鳥のおねーさんを狙った切っ先を防いで、邪魔してきた刀使が2人いた。

祢々切丸と呼ばれる大太刀を使う小さな刀使と、越前康継を使う大きな刀使

一人一人はわたしに適わないのに、弱いから置いて行かれたくせに

2人がかりでないとわたしを抑えられないと判断された癖に、邪魔をする。

連携が上手いその2人の刀使を倒すのは手間取ったし、体力も使った。

 

「時間……とらせて、こんなのに……わたしがっ!」

「行かないと……わたしは、もっともっと戦わなきゃ」

 

……そして、同時にわたしの体にも限界は近づいていて

ついぞ、千鳥のおねーさんと手合わせをする機会は巡ってこなかった。

 

「うっ……げほっ……かっ……!」

 

2人の刀使を下した後、折神家の奥へと入り込んで行った千鳥のおねーさんの背中を追った。

けれど、ふらつく足に喀血、ノロで延命していた体の限界が近い事を感じた。

御刀、小さい頃からずっと一緒にいたわたしのニッカリ青江を杖代わりにして折神家の敷地の中を進む。

けれど、本殿へ向かう途中、長い石段の前で体の限界を感じた。

傍に生えていた大きな木の下、背中を預けるようにして体の力を抜いて……ううん、抜けていった。

 

「もう……おしまいかぁ」

「まだ全然足りないのに、もっと凄いわたしをみんなに焼き付けたいのに」

「何にもいらないから……覚えていてくれれば」

「それでいいんだよ……?」

 

冷え切っていく体、呼吸を辞める肺に暗転していく視界

死が追いついてきた、あれほど遠ざけていた死が眼前に迫る。

強い私を刻みたい、覚えていてもらいたい。

ただそれだけがわたしの原動力だった。

だけどそれも限界みたい、開いているはずの眼が景色を写さなくなっていく。

嗚呼、もうダメみたい。

心残りは、千鳥のおねーさんと満足いく手合わせができなかった事。

力無く瞳が閉じられていく、走馬灯みたいに今までの思い出が。

それから、親衛隊のおねーさん達と過した暖かい日が思い起こされて―――――

わたしは死んだ……はずだった

 

―――――――――――――――――

 

俺は竈門炭治郎、炭焼きを生業とする竈門家の長男だ。

今の竈門家の家族構成は、母ちゃんの竈門葵枝、妹の禰豆子、次男の竹雄、次女の花子、三男の茂、四男の六太

今はもういないけど、炭十郎って父ちゃんもいた

俺の家は代々長子相続制の炭焼きを営んでいて、山奥に家屋が1つ、家族で身を寄せあって暮らしている。

暮らし自体は楽じゃないけど、兄妹達や暖かい母ちゃんの存在。

そして炭を売りに行く村の皆の好意によって生活は成り立っている。

それは問屋に卸に行く前に村の皆が炭を買ってくれるからなんだけど……そんな話はさて置いて。

 

「ふう……今日も全部売れた、有難いな。」

 

俺はいつも通り、炭が売れて空っぽになったカゴを背負って村から家への帰路についていた。

行く時はぎっしり詰まっていて重かった炭籠も、完売御礼のお陰で軽いし、山を登るのも楽になりそうだ。

さく、さくと足裏で感じる雪の感触。

まだ日が高いこともあり、吐く息は白くてもそこまで寒くもない。

帰ったら母ちゃんの焼いた煎餅が食べたいな、あとは六太と遊んでやらないとな、なんて考えていた矢先だった。

余談だけど、俺は鼻が効く方だ。

嗅いだことの無い香りと妙な気配、辺りに視線を振りまいて、小鼻がひくひくと反応する。

 

「女の子……?」

 

死んだように雪の上で眠る桃色の女の子がいた。

見たことの無い材質の服に身を包んで、日本刀を抱くようにして大木に背中を預け、眠っている女の子。

髪の色は桃色をしていて、小さく胸が上下しているところを見ると生きているようだった。

様子を伺うと、ただ眠っているだけらしい、冬の山で遭難する人はたまに見るけれど……流石に昼寝をしている人を見るのは初めてだった。

雪を踏み締めながらそっと近づいていく。

その女の子は、匂いが入り交じっていた。

1つは甘い果実みたいな香りの中に混じる血の香り、そしてもう1つは……

 

「嫌な匂いだ、まるで何か悪いもののような……」

 

自分でもよく分からない、けれど鼻を突く不快な香り。

けれど体臭ではなく、もっとなにか直感的なもの。

嫌な気配、と言った方が正しいのかもしれない、けども。

それは声をかけない理由にはならない。

 

「起きて、起きて、こんな所で寝ていたら風邪ひくよ?」

 

「んぅ……え、貴方誰……?」

「え、ここどこ……?」

 

鈴が鳴るみたいな綺麗な声、ぱっちりした大きなまあるい眼。

瞳の色は黒じゃなく澄んだ青色をしていて、その奥に赤い揺らめきが見えた気がした。

目を閉じていれば大人びて見えたけど、瞳を開けば幼い顔立ちをしていたその子は、多分禰豆子と同じくらいの年の頃だと予想できた。

変わった髪の結い方、頭の右横に尻尾みたいに括られた桃色の髪がゆらゆら揺れ、雪上の光を反射していて、猫が顔を洗うようにして目を擦っている。

寝ぼけているみたいで、きょろきょろと辺りを見回していた。

……もしかしたら、口減らしの為に山に捨てられた子なのかもしれない。

それにしては小綺麗な格好をしているとも思ったけど。

雪の上に座っていたこともあって、服も濡れて居るはずだし、風邪でも引いたら大変だ。

俺が出来ることは、一先ずこの子を連れ帰って風呂に入れてやる事だとも思った。

 

「とりあえず、この近くに俺達家族の家があるから一緒に行こう!雪で濡れてて気持ち悪いだろう?」

 

「うえっ……ち、ちょっと待ってってば、そもそもここは何処で……私は死んだはずで……あと雪でおしりが濡れてるのは気持ち悪いけど」

 

「じゃあ決まりだな!色んな話は暖まった後で!帰ったら風呂を沸かすから入ってもらって……」

「あと!それから俺は竈門炭治郎!君の名前は!」

 

ちっちゃくて白い手を握って立ち上がらせる。

綺麗な手だった、水仕事によるあかぎれも、ひび割れもない、"仕事"を知らない手だ。

もしかしたら、良いところのお嬢さんなのかもしれない、もしそうなら捜索願いも出ているかも。

そうなると家出だろうか、後々ゆっくり話を聞かないとな。

 

「ご、強引すぎない!?えっ、と……わたしは燕結芽、よ、よろしく炭治郎おにーさん」

 

2つ分の足音が、山奥へと消えていった。




次は竈門家の日常です
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