風が吹けばクズ男が儲かる〜犯罪を働くだけで感謝されるとか人生イージーモードだろ   作:或売奴千刺

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  本作はなろうで投稿してたものを見直して改正した作品です。
  勘違いを重ねて来た大学生の主人公がエージェントとして登録されていることを知らぬまま事件を解決して行く物語です。
 どうぞ今後ともよろしくお願いします。

挿絵はライトノベルの文庫風に作りました。よかったら見て言ってください^ ^
※著者 御丹斬リ丸は私の小説家になろうでのペンネームです。
※挿絵は天霧みとら が描きました。
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません


序章 BAD AGENT
0-1◇イライラしたからオッサンを殴ってみた件w


 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 あるところにひとりの少年がいた。

 昔はとんでもない悪ガキだったが年をとるにつれ、まともになって今では普通の大学生である。

 

 本人曰く、普通というには少し運が悪いかも知れないというが、大学生活は順風満帆。

 両親も生きているし、へんな組織に勧誘されたり、自分を巡って美人エージェントと悪の組織が交戦したり、スナイパーに狙われたりとかはない。

 至って普通、せいぜい修学旅行が延期にになったり、行き先で火事が起きたりするくらい。

 

 でも最近はこの運の悪さに悩んで神社にお祓いに行ったくらいだ。

 あと、趣味に神社巡りが追加されたくらいか。

 

 

 良く晴れた月曜日の朝、サラリーマンや学生は家を出なくてはいけないと朝起きて憂鬱になり、多くのオカンや鬼嫁たちが『いつまで寝ているんだ! さっさと起きろ!』と憂鬱ボーイたちの布団を剥いでいるであろう。そんな朝、東京をひとり難しい顔をしてずんずんと歩く少年がいた。

 

 その少年の名を五味 秋人(ごみあきひと)と言う。

 確かに彼は性格がゴミ人間であるが、五味さんは沢山いるし、塵とは意味が違うので小学生みたいにゴミゴミ言うのは可哀想だ。

 

 そんなゴミやろう……おっと失礼、秋人はイラついていた。

 神社でお祓いをしたり、神社巡りで心を清めたのではないのだろうか。

 原因は彼の趣味にあった。

 

 たしかに最近になって神に祈ることに心地よさを覚えた信徒たる秋人だが、一番の趣味はやっぱりゲームであった。割と大学生だといえばふつうな感じである。

 

 特にpvpが大好きな彼だが、決して上手くない。

 ファンタジー系の作品よりも近代武器で戦うバトルロワイヤル系ゲームを好む彼だが、特段上手いわけではない。

 スナイパーで遠距離の敵を射抜くだとか出会い頭の敵に正確に攻撃を当てられるわけでもない。マシンガンを撒き散らして物量でキルするか、スナイパーを後ろから不意打ちで殺すのが秋人のプレイスタイルになっている。

 彼がいざ武器を取れば、VC(ボイスチャット)勢に『クソエイム乙w』とか煽られる程度の実力しかない。

 

 しかし、近接武器での暗殺や高火力武器での奇襲攻撃が非常に上手くキル数は上位である。

 

 ……ただしそれは味方のだが。

 

 フレンドリーファイアが可能なゲームで誤射と言いながら味方を殺して回るのが楽しみだった。味方のまさかの裏切りにキレる相手、ゲームに生きる人間を嘲笑うような糞プレイだ。

 相手が怒れば怒るほど愉快で仕方ないようであった。

 そんな品格を疑うプレイの仕方だが、ゲームは自由だ、そういうシステムがあるのだ。運営も想定内だろう。

 

 ……しかし、運営側によほどクレームが寄せられたのだろう。味方陣地から迫撃砲で近くの味方を吹っ飛ばして笑っていた最中、突然回線が切られた。

 何ごとかと思っていると画面中央に英語でメッセージが表示され、"悪質なプレイの為アカウントを削除しました"とのことが書かれていたのだった。

 

 

 そう、彼は楽しみにしていたゲームを垢BANされムカムカしていたのだった。

 最近の若者はキレやすい、まさにお手本のような状態だった。

 何にイライラしているのだろうか、どう考えても彼が悪いのだが。

 

 そのイラつきを誰かにぶつけてやろう、そんな悪意を持って彼は朝早くに街へ繰り出したのであった。

 

 朝七時半頃、丁度通勤ラッシュと重なるこの時間、東京はどこも混んでいた。

 流れに合わせず、早歩きをすれば誰かにぶつかるし、強そうなやつも弱そうなやつも選り取り見取りのこの時間。

 当然彼は弱そうなおっさんめがけて早歩きをしていた。

 

 目の先、十mくらいを歩く小太りの眼鏡をかけたスーツを着たおっさんが歩いていた。

 秋人の尋常ではない怒気を感じたのか目の前にいた人々が少し避けたのをいいことに一気に距離を詰める。

 

 早歩きで迫る秋人、気づかないおっさん。

 右肩を押し出し、勢いをつけてタックルを決めた彼はなかなか清々しい顔をしていた。

 まぁそうだろう、イラつきを弱いものいじめで発散したのだ。

 

 そんな力を入れたつもりはなかったがそのまま足を滑らせて地面に倒れるおっさん。

 普通ならあ、やべ。と逃げるであろうがさすがは根が腐った人間、このくらいでは終わらない。

 いてて、と呟きながら擦りむけた手を見て痛そうに顔を歪ませるおっさんに追い打ちをかける。

 ……ただの鬼畜である。

 

「おい、おっさん! てめぇ何ぶつかってんだ? あ? おい! こっち向けよ! ちっ、聞いてんのか? ちゃんと周りを見ろよな? 危ねえだろ? しかもぶつかってさ、こっちも肩痛めたんだわ……あー、いってえぇ……こりゃあ、だっ……えーあー。 あれだ、なんか凄くヤバイなんかなってる。、ほら慰謝料寄越せ!」

 

 見るからにチンピラ、聞くからにチンピラ。もう顔面や性格以上に言葉の端々から馬鹿ですオーラが滲み出ている。

 

 そんな秋人は怒鳴りながら視線は地面を見ていた。

 地面に転がる謎の金属らしき物。銅色のピカピカ輝く何かに目を奪われていた。

 しかし、一般人より少しばかり目が悪い彼には十円玉に見えていた。

 後で取りに行こうかと考えていたが、おっさんもそちらに気づいてしまったので、見てなかったふりをしておっさんを睨みつける。俺の十円が……と思っただろうが今更遅い。

 

 そして、何より自分からぶつかっておいて罵倒する秋人、最悪である。

 どこの変が"普通"の大学生なのであろうか。

 不良ではないのであろうか?突然カツアゲまで始めた彼に通行人は面倒くさそうなものを見るように避けて通り、同時に絡まれたおっさんに同情の目を向けていく。だが助けない、さすが集団でしか動けない民族と歌われる日本人である。

 

 しかし、絡まれたおっさんは秋人を上回る訳の分からない行動をとったのである。

 突然左胸ポケットから取り出した高級そうな黒い革の財布を取り出し小切手を切ってサラサラとボールペンで数字を書いていったのだ。

 これには秋人もたじろぐ。

 

 "いきなり紙に何か書き出すとかヤベー奴だ"

 

 と思ったようだがお前が言うなである。

 

 そもそも彼は小切手と言う存在を知らなかった。

 だから財布から金を出すわけではなくなんか紙に数字を書き出したことに頭が混乱したのだ。

 

「ありがとう、本当にありがとう」

 

 そう言いながら小切手を渡すおっさん。

 何がありがとうなのか、そもそもこの紙切れはなんなのか彼には分からなかった。

 そしてパニックを起こした彼の頭ははある答えに行き着く。

 

 こいつ……ドMか!

 

 いや、いくらなんでもそれはないだろう。行き着いた答えが馬鹿過ぎである。

 

 内心、ドMかー、キモい奴に絡んでしまったと落ち込んでいる彼は手元にある紙切れを見た。

 いや、だから紙切れではなく小切手なんだが。

 渡された小切手の額面に書かれていたのは"¥40,000,000"つまり四千万円であった。

 しかし、何度も言わせてもらうが小切手を知らない。

 親が幼い子供に『ほら1000円だよー』とかいいながら紙に"1000"と書いたものを渡してきたようなそんな気分であった。

 馬鹿にされたと勘違いされた彼は、

 

「こんな紙切れはいらねぇよ、今度はちゃんと用意するんだな!」

 

 と逆ギレをしながら走り去っていった。

 カツアゲしたが金が目的ではない。

 ぶつかって八つ当たりをするという目的を達した彼にこの場合にいる必要はすでになかった。

 今はなによりもこの、キモいドM男から今すぐ離れたかった。

 

 

⚔︎⚔︎⚔︎

side :外交官エリック

 

 いきなり自己否定のようですまない

 私の名前はエリック……ではない。

 それから外交官補佐でもでもない。

 私の名前は……おっと、これは機密事項であったな。

 

 私はエリック。ロシア大使館に外交官として所属するものだ。

 ロシア人らしい名前といえばなんちゃらニコフだとか、イワンだとかそういう名前だろうか。

 もちろん私も類に漏れずそう言った名前を持っているが、今は仕事上エリックとか言うとてもさわやかな名前を拝借しているよ。

 だからかな、本当の私はもっと静かなタイプなのだけど、エリックというもう一人の自分を演じるようになってからは道化のようにヘラヘラするようになったのさ。いやいや二重人格じゃあない。こういうのをペルソナというのさ。

 ペルソナというのは自分の求められる役割に乗じて普段とは違う性格の人間を演じる技能のことさ。

 

 父はアメリカ人母は日本人ということもあり私は見た目的に言えばほぼ日本人なのだから、ロシア風の名前もこの、エリックという名前もおかしい様に感じるが。

 

 上が決めたことだから仕方がない。

 だが、同僚が私の名前を呼ぶたびに笑ってくるのは少々頭にくる。

 かなりややこしい話だが私はロシア大使館で外交官補佐として働きながら、日本国内の情報をロシアに送る仕事をしている……ふりをして日本のとある諜報機関に情報を提供するという二重スパイじみたことをしている。

 エリックという名前は私がロシア政府の諜報機関からコードネームとしてもらった名前だ。だけども日本側にも情報を流す私は日本の諜報機関から山村慎司という見た目とマッチした名前と戸籍が用意されているのだ。

 

 

 それにしても、今日も朝七時頃だというのに東京はどこをみても人、人、人である。狭い道がぎゅうぎゅうになるほど人だらけであった。

 十時出勤の私がこんな朝早く街を歩いているのには理由がある。

 

 もちろんそれは暗殺を恐れてのことだ。

 今までバレたことはないが、スパイと言う仕事は危険である。

 いつ殺されるかわかったものではない。

 それは、敵からでもあるが味方からでもある。

 

 こんな人混みの中を歩くのは肉の壁に利用しているのもあるし、人の目を気にして私のような末端を堂々と殺すような真似はしないだろと踏んでのことだ。

 どこかの大統領でもあるまいし私を堂々と人前で殺す意味がない。

 見せしめだとして誰に見せしめるというのか。あまり重要な人物以外は人混みの中にある暗殺対象をリスクを恐れて暗殺しないと知っているからだ。

 

 銃社会でもない、表面上平和な日本で銃を使えば即バレる。

 しかも監視カメラの台数は世界一、さらに、この国の民族はどうやらお互いを監視するらしい。我が祖国ロシア、いやソビエトがやろうとしていたことを人々が自主的に行っているという素晴らしい状況である。

 

 疑わしき者は、住民がよってたかってリンチ。

 疑わしき者は、警察がお話を聞くといいつつ拘束、尋問、誘導、逮捕のコンボを決める素晴らしき監視社会である。

 

 だから日本に来る工作員やら暗殺者たちはリスクを恐れてなかなか暗殺を実行しない。路地裏や建物の中で行われることは知らないが、大通りで暗殺なんてありえない。

 

 おそらく人通りの少ない場所は危ないが、ましてや朝のラッシュ。

 こんな人混みの中で暗殺しよう馬鹿はいないだろう。

 

 

 

 

 

 その時、何が起こったのかまるで理解できなかった。

 全く反応ができなかった。

 

 後ろから思いっきり押され、地面に倒れたのだった。

 ーーパシュッ!!

 と同時に何かが地面に当たる音もした。

 

 あまりの不意打ちに咄嗟の受け身も取れず、無残に倒れてしまう。

 しかし、無意識に出していた両手で地面につき頭をぶつけるのを避けるが、手を擦りむいてしまった。

 しばらく荒事をしていなかった私の手は昔ほど硬くないし、いかにも一般人を装うために太らした体は、自らの判断までもを遅らせてしまった。

 それに、殺伐とした環境から平和な日本と言う国に来てしまって馴染んだせいか、全く後ろから来た悪意に気づけなかった。スパイ失格である。

 痛みは流石に感じていないが、血が染み出しているこの状況で平気な顔をしていたらいくらなんでも怪し過ぎる。

 

 私は小太りの冴えない弱っちいデブの日系アメリカ人エリックと言う設定なのだ。

 ここで言うとしたら、『ああ、僕の手が』とか『血、血が出てるよぉ!』だろう。いや、それは流石に恥ずかしい。

 あまり間を開けても怪しまれるか。

 

 一発無難そうな

 

「いてて」

 

 と言いながら立ち上がり、後ろを振り返った。

 

 そこにいたのは典型的なヤンキーであった。

 栗色に染めたであろう髪の毛に、鋭い目つき、頭の悪そうな見下したゲス顔、趣味の悪いピカピカの時計とドクロやらドラゴンやらがプリントされたダサい服。

 ヤンキー……いや、チンピラだろう。

 舌打ちをして睨んで来ている。

 軟弱デブエリックなら『ひ、ひい』とかいいそうだが、私はそこまで堕ちることが出来ない。本気で成り切る同僚には尊敬しか浮かばない。

 そもそもこの頭の悪そうな相手にそこまで本気で演技する必要はないだろう。私は役者じゃないのだ。好きで演じているわけではない。まだ仕事も始まっていないというのに疲れたくはない。

 

 いやしかし、私はなぜこの男に突き飛ばされたのであろうか。

 いや……何故絡まれたのか心当たりしかない。どう見ても絡みたくなるような外見だからだ。

 それを肯定するようにチンピラが難癖をつけてくる。

 

「おい、おっさん! てめぇ何ぶつかってんだ? あ? おい! こっち向けよ! ちっ、聞いてんのか? ちゃんと周りを見ろよな? 危ねえだろ? しかもぶつかってさ、こっちも肩痛めたんだわ……あー、いってえぇ……こりゃあ、だっ……えーあー。 あれだ、なんか凄くヤバイなんかなってる。 ほら慰謝料寄越せ!」

 

 

 怒鳴ってくるチンピラ。

 怪我をしたなら、そもそも慰謝料じゃなくて医療費だろとツッコミを入れたくなるがグッと堪える。

 それ以前に彼に違和感を感じていた。チンピラなのだから睨みつけながら胸ぐらでもつかんでくるのかと思えば彼はずっと左下の地面を見ていた。

 何故私を見ないのか、何があるのか。

 ついついつられて見た私は全てを理解した。

 

 なるほど。

 

 

 そこに落ちていたのは潰れてコインみたいに薄くなった弾丸だった。

 銅色の弾丸だったものが地面のアスファルトとぶつかり潰れてめり込んでいた。

 そこで突き飛ばされた直後の異音についても理解した。

 

 なるほど。

 

 なるほど、なるほど。

 そうか、そうだったのか。と。

 私は目の前のチンピラを見くびっていた。

 どう見てもイラついたから八つ当たりしたチンピラにしか見えなかったが、彼は私よりよっぽど優秀なエージェントらしい。

 私は、外交官は新米であるがスパイ歴はかなり長い。ベテランに近い、いやもしくはベテランであろうか。若い。彼はとても若かった。しかし私よりも場慣れしていると感じた。自然な雰囲気、敵意を感じ取り弾丸を避ける技能、見るからにチンピラにしか見えない完璧な演技。その全てが私を上回っていることを理解させられた。

 

 ああ、驚いた。変装、心理戦、隠密行動、大概なんでもできる私だからわかる。だから、目の前の少年に遠く及ばないことを瞬時に理解した。

 

 どこから撃たれたのか撃たれてから理解する私と、撃たれる前に私を気付き身を呈して助けてくれた彼。どちらが優秀なのだろうか。

 言わずともわかることだ。

 

 そして彼の意図も理解した。

 チンピラとして絡んで来たのは彼が素性を晒さず、私の面子と正体を悟らせず、よくある世界の一コマのなんてことない少し不幸なイベントとして騒ぎを起こさないためにわざとチンピラめいた方法をとったのであろう。

 心理戦は得意な方であるが、自然だ。

 自然なチンピラで、あまりの自然さに逆に恐れをなしたくらいだ。

 

 それからさっきの難癖も恐らく私に対する遠回しの警告だろう。

 多分こう言いたかったのだろう。

 

『おい、おっさん! てめぇ何ぶつかってんだ? あ? おい! こっち向けよ! ちっ、聞いてんのか?』

 "おい、おっさん、アンタ同業者だろ。気配くらい感じろよ。俺の忠告をよく聞け"

 

『ちゃんと周りを見ろよな? 危ねえだろ? しかもぶつかってさ、こっちも肩痛めたんだわ……』

 "前ばっかり見ているなんて本当に馬鹿な奴だ、常場戦場の意識で周りにも気を配れ。俺が助けなければお前は死んでたし、タイミングがずれれば俺も怪我をしていた。だが間に合った。肩を痛めただけで済んだがな。"

 

『あー、いってえぇ……こりゃあ、だっ……えーあー。 あれだ、なんか凄くヤバイなんかなってる』

 "馬鹿なふりをして教えてやっているが、おまえは今大変なことになっている。いちいち説明してやる時間はねえが命を狙われてるぞ"

 

『ほら慰謝料寄越せ!』

 "仕事でもないのに助けてやったんだ、誠意をみせろよ"

 

 

 なるほど、よく出来ているものだ。

 どう聞いても一般人にはチンピラの難癖だが、同業者が聞けば意味は変わってくる。

 何にせよ、どこの機関のエージェントか知らないが助けられたのは真実。

 とりあえず、作戦のために渡されている充満な資金があるからこいつに正当な金額を払っても問題はないだろう。

 

 私は早速、外交官補佐として恥ずかしくないようにと買わされたロシア産のブランド品の財布を取り出し小切手を切った。

 それと、相手の素性を調べるためカメラ付きのボールペンを取り出しサラサラと金額を書いて行く。

 ボールペンで書き出すとカメラに気づいたのか、ムッとした顔をして来たがこれくらいは許してほしい。

 

 そんな感じで相場の二倍以上の四千万円の小切手を渡した彼は更に難しい顔をした。

 

「ありがとう、(命を助けてくれて)本当にありがとう」

 そう言いながら渡したのだが、失敗だったのだろうか。

 何か凄い馬鹿にしたような顔をして、それからキッと睨みつけて来た。

 

 それからハッと気がついた。

 撃たれて、突き飛ばされて助かって、自分より若くて凄いエージェントにあってすっかり忘れていたがここは人混みの溢れる街中、同業者ならまだしも一般人の前に見せる金額ではなかった。

 ここは個室じゃない。小切手をいきなり取り出して渡せば怪し過ぎる。私はつくづくどうかしていた。

 私が今することは四千万円の小切手を切ることではない。

 命を助けられたという恩に感謝し、彼が助けを求めてきた際には命をかけて協力することであろう。

 何をやっているのだ私は!

 カツアゲされたからと言って小切手を渡すのは目立ちすぎるだろう!

 危うく警察が来てしまうところだった。

 

 小切手を引っ込めようとしたが、既に周りの人間はこちらを見ていた。

 目の前の若きエージェントはイラついたような空気を発している。

 

 私は気づいた。ああ、恩を仇で返してしまったのか……。

 

 落ち込む私に彼は

 

「こんな紙切れはいらねぇよ、今度はちゃんと用意するんだな!」

 

 と言って走り去っていった。

 

 つまりはだ。

 "こんなところで小切手渡しやがって、馬鹿かてめぇ、今度はちゃんと出来るように同業者として思い出しておくんだな"

 

 と忠告いう忠告だろう。

 見られたからには小切手を持って行ってもおかしくなかったがもらわなかった。おそらく報酬はいらないということだろう。

 そうか、もしやこんなもの俺からしたら紙切れ同然だからいらないと。

 

 両方の面子を保ち、人混みの中銃が発砲されたという事件を隠蔽し、さらには報酬を受け取らず助けることによって恩を売る。

 

 

 なんてことだ。

 なんてエージェントなんだ。

 私は猛烈に感動していた。

 年のせいか、どうなんだろうな。

 

 涙を流し呆然とする私に今頃野次馬たちが大丈夫かと心配の声をかけてきた。

 私は彼らが嫌いになった。

 先程まで舞台の観客のようになり良きを見ていただけのくせに、私が一人になったら心配するだなんてとんでもない民族だと思った。彼らと私、それから若きエージェントは同じ人種である。

 今まで人種という大きな枠組みで見てきたが、人間というのは一人一人違うのだと理解した。

 私はアメリカのスーパーマン精神が嫌いだった。凄いチカラをもつ超人がさも当たり前のように報酬も貰わず助けるなんて頭がおかしいんじゃないかと思っていた。でも。

 今、そんな人間に助けられて彼らがスーパーマンのような人間を褒める気持ちがわかった気がした。

 

 私の中であの若きエージェントがヒーローとなった日でもあった。




 以前は伏線回収とかを考えず書いてしまったので、今回文章を修正する際に伏線を回収することにしました。

序章 主人公→二章に続く
序章 エリック→ 一章 3-1に続く

 解説その1
『しかもぶつかってさ、こっちも肩痛めたんだわ……あー、いってえぇ……こりゃあ、だっ……えーあー。 あれだ、なんか凄くヤバイなんかなってる。、ほら慰謝料寄越せ!』→肩を痛めた。もしかしたら脱臼したかもしれないから治療費を出せと、主人公はいいたかったようです。脱臼が出て来ず、だっ……(なんだっけ)となりなんか凄くやばいことになってると抽象的に表現したようです。

 解説その2
 物語本編の解説です。
 主人公はとんでもない幸運持ちです。ありとあらゆる行動が意味深に捉えられるという謎の運ですが。本話では主人公である五味秋人がエリックにタックルをしたタイミングとエリックに何者かが弾丸を打ち込んだタイミングが重なってエリックは主人公に助けられた形になりました。
わかりずらかったらすみません。
エリックの話は1章3-1の白豚エージェントに続きます。
2020/10/31 全文のミスを修正しました

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