他人が居る前では厳しいけど、2人きりになると途端に甘え始めるオペレーター。   作:棺祀師

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最近めちゃくちゃアークナイツにハマってるので書いてみました!
ツンとデレの割合は1:9です。よろしくお願いします。


チェン隊長の話

 「居眠りとはいい度胸だな。」

 

 「あぇ、」

 

 静寂が支配していた部屋に、突如女性の怒気を孕んだ声が響いた。机に足を乗せ、読みかけの本を顔の上に置いたまま居眠りをしていた俺はその声で目を覚ます。慌てて本を閉じ、涎を袖口で雑に拭、姿勢を正して声がした方向を見ると、眉をひそめた紺色の髪の女性がこちらを睨みつけていた。

 

 「げ、チェン。」

 

 「"隊長"が抜けているぞ。貴様、本当にいい度胸をしているな。」

 

 「……チェン、隊長。」

 

 彼女の絶対零度の眼差しが俺を貫く。

 完全に油断していた。カッコつけて大して理解もできてない数学の本を読んで見たは良いが、案の定意味が分からずものの数分で眠ってしまったらしい。

 

 「あいつまた怒られてんぞ。」

 

 「これで何度目だよ。」

 

 俺のこの状況を見た、同じ部屋にいた隊員の話し声が聞こえて来る。

 くそ、好き勝手に言いやがって。

 

 「ふん。おおかた、格好をつけて数学書(その本)を読んだは良いが、結局理解できずに寝てしまったという所だろう?」

 

 エスパーかな?

 

 「来い、根性を叩き直してやる。」

 

 そう言うと俺は胸ぐらを掴まれ、部屋の外へと連れ出されて行く。俺より頭一つ分は小さい女性が引っ張っているとは思えない、とんでもない怪力になす術は無かった。

 

 連れて行かれたのは彼女の執務室。道中でも、すれ違った隊員達が面白がって寄ってきたが、チェンが睨みつけると途端に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

 彼女は執務室につくなり俺を押し入れ、部屋に鍵をかける。そしてキョロキョロと部屋を見渡したのち、先ほどとは打って変わって申し訳なさそうな表情でソワソワし始めた。

 

 「さ、さっきはすまない。痛くなかったか?」

 

 「え?ああ……。」

 

 そう言いながら俺に寄ってきた彼女は、さながら夫のネクタイを直す妻のように俺の乱れた襟元を直し始める。

 

 「強引に連れてきてしまったな。でもどうしても2人きりになりたかったんだ。」

 

 少し赤くなった顔を隠すように俯き、けれども手は止めずにそう言った。

 

 「なら、普通に呼んでくれって。」

 

 「す、すまない。でも、お前が居眠りしてたのも悪いんだぞ!全く。それに呼び捨てにして良いのは二人きりの時だけと言っただろう。これじゃあ他の隊員に示しが付かないぞ。」

 

 「返す言葉もございません……。で、それで何の用なんだ?」

 

 「あぁ、そうだな、それなんだが。」

 

 用を聞いた途端、彼女は更に顔を赤くし俯いてしまう。口調もしどろもどろになり、声を発する決心がつかないのか口を閉じたり開いたりして妙に歯切れが悪い。

 

 「チェン?」

 

 「えーと、その、最近私はかなりの激務でな、行ったり来たりで寝れてもいなくて……とにかく、私は頑張ったんだ。」

 

 「あぁ。」

 

 そういえば確かにここ最近彼女の姿を見なかったし、目元をよく見ればうっすらと、本当にうっすらとだが隈もできているような気がするが、なぜ今この話を?イマイチ話の先が読めず困惑してしまう。

 

 「だから、お前からの褒美が欲しいんだ。」

 

 「褒美?あぁ、わかった。今度飯でも奢るよ。」

 

 「いや!そんな金銭的な物は望んでいないんだ!ただ、その、あ、」

 

 「あ?」

 

 「頭を撫でて欲しい……

 

 彼女は消え入りそうな声で、顔を真っ赤に染めてそう言った。いつものような凛々しい彼女ではない、まるで一人の少女のような振る舞いに思わず俺もドキリとしてしまう。

 

 俺達がこんな関係になったのは1年ほど前だ。最初は冷酷無慈悲の鬼上司だった彼女だが、ある事をきっかけに彼女は俺に対して優しくなり、頻繁に話しかけてくるようになった。それからは少しずつ2人でいる時間が長くなり、今ではこうして暇さえあれば呼び出される始末。まぁ、俺も悪い気はしないからいいのだが。

 

 「ダメ、か?」

 

 彼女は胸元に手をやり、気配を窺うような上目遣いでそう言った。少し潤んだ真紅の瞳の奥には、同じく頬を染めた俺が写っている。

 

 「そんな事でいいならいくらでも。」

 

 正直、彼女の美貌でこんな頼み方をされたら男なら誰も断る事はできないだろう。手を伸ばし、彼女の頭の上まで持っていく。

 

 「ぁ、」

 

 角のある種族は角が敏感だというから、そこには触れないよう気をつけながら撫で始める。

 彼女の髪はさらさらで、高級な絹糸のように柔らかい。忙しい中でもしっかりと手入れされている事がわかる綺麗な髪だ。なるべくその髪を乱さぬよう、流れに沿って手を動かす。心地の良い肌触りに一生撫でていられるのではと思ってしまう。それは彼女も同じのようで、目を細めながらにへら、と脱力した表情を見せている。

 

 「ど、どうだ?」

 

 甘ったるくなっていく空気に耐えきれずにたまらずそう尋ねてしまうが、彼女はよほど心地が良いのか表情を崩したままで返事は返ってこなかった。

 

 

 「……なぁ。」

 

 それから数十分後、彼女はおもむろに口を開いた。

 

 「もう一つだけ、わがままを言っても良いか?」

 

 「ん?」

 

 「少し、屈んでくれ。」

 

 「分かった。」

 

 俺が言う通りに屈んだのを見て彼女は微笑む。そうして俺の首の後ろに手を回し、グッと自身の顔へと引き寄せて行く。自身の視界が、彼女の顔で埋まる。ここからどうなるのかは明白だった。お互いが、そうであるのが当然かのように目蓋を閉じる。そして——

 

 「チェン隊長!緊急事態です!!」

 

 触れ合う直前、執務室の扉の向こうから焦った男の声が聞こえた。その声で俺とチェンは目を開き、慌てて距離を取る。男の声で冷静になった思考が、自身がつい数瞬前に行おうとしていた行為を理解して頬が赤くなる。彼女に至っては最早心配になる程に顔全体が真っ赤に染まっていた。

 

 「ど、どうした!?」

 

 彼女は平然を装って扉の向こうの男に返事をする。

 

 「武装集団が街の運送会社を襲撃したとの通報が入りました!」

 

 かなり深刻な事態だった。

 彼女は恨めしそうに扉を睨みつけると、思いっきり蹴りつける。扉が扉としての機能を果たせなくなったことを告げる破砕音が響き、彼女が一言。

 

 「行くぞ!騒ぎを起こした事を後悔させてやる!!」

 

 

 

 

 その後、件の武装集団はこちらが同情してしまうほどにボッコボコにされたのちに連行されていった。

 その場を目撃した隊員は口を揃えて「チェン隊長を怒らせてはならない」と言っていてたそうな。

 

 




 オチの付け方がわからん!
 ちなみに投稿者はスカジ推しです。

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