お姫ちゃんは引き篭もりたい ~TS系オタク転生者美少女の生存戦略?~   作:とんこつラーメン

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オマエハイラナイ

 バチカン市国 南東端 サン・ピエトロ大聖堂

 

 カトリック教会の総本山である、この場所の地下礼拝堂内に、嘗ての大戦にて破壊された聖剣エクスカリバーの破片などから修復され、その際に七つの姿に分かたれた『七本の聖剣』が安置されていた。

 尤も、既に七本の内の二本は既に主が決まっていて、もうこの場には存在していないが、それでも残りの五本がちゃんとある筈だった。

 だが、実際にはその五本も無くなっていて、この場にはもうどこにも聖剣は存在していない。

 

 そんな、神聖な場所でしかなくなった伽藍堂に、彼女は無言で立っていた。

 

(まだ『事件』は始まっていない。後の盗まれる聖剣が全てこの場に残されていたのが証拠だ。と言う事は、間違いなく『奴』がここに来る筈……)

 

 彼女…刑部姫は、冥界のフェニックス家の屋敷から地上に戻ってきてからすぐにバチカンへと影を利用して移動し、そこで少しの間はぐれ悪魔を狩っていた。

 そして、時を見計らってからサン・ピエトロ大聖堂の地下へと侵入し、後に起こる『事件』の犯人を待ち構えていた。

 

(…………来る)

 

 刑部姫の眉毛がピクリとした瞬間、地下礼拝堂の扉が音を立てながらゆっくりと開かれ、そこから十対の黒い翼を持つ男が姿を現した。

 向こうもすぐに彼女の存在に気が付いたのか、眉間に皺を寄せながら睨み付けてきた。

 

「こんな時間のこんな場所に、誰にも知られる事無く侵入するとは…貴様、何者だ……ふんっ!!」

「ちっ……」

 

 言葉を交わすつもりが無い刑部姫は、相手の顔を見た途端に十八番である折り鶴を使って攻撃するが、簡単に片手で弾かれてしまった。

 

「今のは…折り鶴だと? たかが紙程度で、この俺の手が焼け爛れるとは…恐ろしい程に濃密な魔力を凝縮して纏わせているな」

(流石に、こいつ相手には誤魔化せないか……)

 

 ここで初めて、刑部姫は黒い外套の下で拳を握りしめる。

 

「娘。この俺がコカビエルであると知っての攻撃だろうな?」

「当たり前でしょ。戦争狂いの堕天使」

「ほぅ……その言い方、どうやら俺の目的まで知っていると見た。と言う事は、大方…アザゼル辺りの差し金か。奴め、こんな秘蔵っ子を隠していたとはな。昼行燈め……」

(なんか勘違いしてるみたいだけど、真実を教える義務は無いし、このまま誤解したまま死んで貰おうか)

 

 彼女の目的はあくまでも『コカビエルを殺す』ことで、彼に洗い浚い教える事ではない。

 なので、ここは黙って戦闘態勢に移る事に。

 

「む…? おい、ここにあった筈の残り五本の『聖剣』はどうした?」

「さぁね」

「お前が持っている可能性は低いか。アレは『因子』が無ければ扱う事は出来ないからな」

(その思い込みが命取りだよ)

 

 刑部姫はコカビエルとの戦いに際して、自分の両腕と両足を生贄に捧げ、四肢が完全にドラゴン化している。

 その左腕は勿論、右腕も同じようなデザインの籠手で覆われていて、両足も龍の鱗を彷彿とさせるレッグアーマーに覆われていた。

 勿論、その全ては漆黒に染まり、血のような紅蓮の線が走っているが。

 

「ここは仮にも世界文化遺産に登録されている場所だから、まずはここを出てからにしない?」

「ふん……いいだろう。貴様には、聖剣の在り処を吐いて貰わねばならんからな。俺とて、このような場所で戦うのは御免被る」

「意見があってなにより。それじゃ、外で待ってる」

 

 自分の足元にある影の中へと潜っていき、あっという間に刑部姫はこの場から姿を消した。

 

「影の中に…!? 成る程な。同じ方法でここへと侵入し、この俺を待ち構えていた…か」

 

 コカビエルもまた、彼女を追って外へと向かって行った。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 サン・ピエトロ広場。

 

 先程まで二人がいた『サン・ピエトロ大聖堂』の正面にある楕円形の広場で、4列のドーリア式円柱による列柱廊と140体にもなる聖人像に周囲を囲まれた広場に中央にオベリスクが立っている。

 

 そこに、刑部姫とコカビエルが離れた位置にて対面していた。

 時間帯は深夜になっているが、それでも念の為に広場には人避けの結界が張られている。

 

「こんな世の中になって退屈な日々を送っていたが、どうやら久し振りに楽しめそうだ」

「油断大敵って言葉もあるんだけど」

「相手が遥かに格下ならばな。だが、お前は人間でありながらも、かなりの強者のようだ。だから、今の俺に油断も慢心もありはしない。娘、この俺を存分に楽しませろ!」

「そんなのはどうでもいい」

「なに?」

 

 興奮が抑えきれないコカビエルとは対照的に、どこまでも冷静で無表情な刑部姫に、コカビエルは言葉に出来ない違和感を感じた。

 

「アンタは(わたし)の『(ヴィラン)』で、この場で必ず殺す。その事実だけあれば、それでいい」

「その通りだ!!」

 

 大きく目を見開きながら、コカビエルは自分の手に光の槍を作り出し、刑部姫に向けて勢いよく投擲した。

 最上級堕天使の腕力で放たれた槍の速度は凄まじく、一秒も経たずに刑部姫の元まで到達し、彼女の体を易々と貫通……しなかった。

 

「犬が卒倒…ワンパターン……」

「なん…だと…!?」

 

 籠手に包まれている左手を翳しただけで、光の槍は直前で停止して、眩く光っていた槍が徐々に黒く染まっていく。

 

「それじゃあ…返すね」

 

 槍の矛先が反対になり、そのままコカビエルに向かって飛んで行く。

 無論、そんな見え見えの攻撃なんて通用するはずも無く、追加で生み出した槍を使ってから突き壊された。

 

「この俺の光の槍を奪っただと…!」

「もう終わり?」

「舐めるなよ……小娘風情が!!」

 

 黒い翼を羽ばたかせながら飛び上り、先程とは比べ物にならない程に大きな光の槍を作り出す。

 

「これならばどうだ!!」

「サイズを大きくすればいいってもんじゃ……あ」

 

 当然のように投擲してくるが、今度はさっきとは違った。

 飛んでくる途中で光の槍が分裂し、無数の小さな槍へと変化したのだ。

 

「フハハハハハハハハハ! この光の雨の全てを支配出来るならば、やってみせるがいい!!」

「そう来たか……それなら、こっちも『あの手』を使うか」

 

 外套の中から無数の『黒い折り紙』をばら撒くと、空中で勝手に折り畳まれるように変化していく。

 一つは剣に、もう一つは槍に、他にも矢や斧などの折り紙が次々と誕生していく。

 そこで間髪入れずに、刑部姫は漆黒の籠手の力を使用した。

 

『Boost』

 

 ぐぐもった音声と共に能力が使用され、武器に変化した折り紙たちの数が倍になる。

 

「もっと」

『Boost』

 

 更に倍。本当はもっと倍化したかったけど、今はこれで留めておく。

 

「行け」

 

 夥しい数になった武器の折り紙たちは、創造主の命に従って光の雨へと向かって突き進む。

 光と闇の雨が空中でぶつかり合い、激しい衝撃と音が響き渡るが、お互いに全てを迎撃し切れてはおらず、そのまま光の槍の幾つかは刑部姫に落下してきたが、そのいずれもが命中せずに地面に突き刺さって終わった。

 だが、コカビエルの方はそうはいかず、漆黒の紙の武器たちは意志を持っているかの如く彼の事を追い駆けていく。

 

「おのれ…! この俺が回避に徹するなど!! ぐあぁっ!?」

 

 追い駆けてきていた折り紙の一つ『手裏剣』が肩に命中し、その時に生じた僅かな隙を見逃さず、地面スレスレまで高度を下げたコカビエルに『黒い雨』として降り注ぐ。

 

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 咄嗟に両腕を使ってクロスアームブロックをするが、時既に遅し。

 コカビエルの全身に渡って折り紙の武器が突き刺さり、彼が完全に地面に落下しても猶、延々と突き刺さっていく。

 

「ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!」

 

 土煙が舞い、鮮血が飛び散る。

 コカビエルのダメージに耐えようとする呻き声が聞こえてくるが、全く手を緩めることなく全ての折り紙が落ちてくる。

 

 数秒の後に刑部姫の攻撃が止むと、周囲を覆う土煙がいきなり何かによって払われる。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…! この俺が…ここまで…ダメージを負うとはな…!」

 

 胸部だけはガードすることに成功したので、辛うじて致命傷は避けられたが、それでも四肢には針山のように折り紙の武器の数々が突き刺さったままだ。

 コカビエルの足元には血だまりが出来ていて、その立派な10対の黒い羽根も見るも無残な姿となっていた。

 

「だが…この程度で倒したと思うな……なにっ!?」

 

 刑部姫がいた場所に視線を向けると、そこに彼女の姿は無く、いつの間にか懐にまで潜り込まれていた。

 その手には、刀身は愚か、柄の部分まで漆黒に染まった大剣が握られている。

 

「遅い」

「がはぁっ!?」

 

 大剣はコカビエルの胸を易々と貫通し、確実な致命傷を与えた。

 吐血をし、目の前の光景が信じられないコカビエルは、自分に刺さっている剣を見た。

 

「こ…これは…まさか……『破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)』か…!? 何故…因子を持たない筈の貴様がこれを……!」

「残念だけど、これはもう『聖剣(エクスカリバー)』じゃないよ」

「な…に……!?」

「この剣は『魔剣(カースソード)』…『破壊の魔剣(カースソード・ディストラクション)』ってところかな」

「カース…ソード…だと…!? まさか…聖剣を汚染したのか…!?」

 

 流石のコカビエルも、呪われた剣を胸に刺されれば唯では済まないようで、その場に膝をついて倒れそうになる。

 

「こんな『偽物』なんて、それだけ泥塗れになっても問題無いでしょ」

「偽物……矢張り…あの7本の聖剣は……」

「少し考えれば分かりそうだけど。はい、お喋りタイムは終了。『敵』なら『敵』らしく、とっとと死んでくれる? ほら、今死ね。すぐ死ね。早く死ね。無様に死ね。情けなく死ね。小便垂れて涙を流して『死にたくない』って懇願しながら死ね」

 

 完全に死に体になっている相手にも容赦なく、更に剣を深く刺す。

 だが、驚異の生命力でまだコカビエルは息があった。

 

「最後に教えろ……この俺を屠った貴様の名前は……」

「うっさい」

 

 胸から刀身を抜いて、そのまま真っ向唐竹割り。

 コカビエルは断末魔も上げることなく、文字通り真っ二つになった。

 

「なに戦士っぽく死のうとしてるのさ。戦争狂は戦争狂らしく、最後の最後まで醜く足掻いてから死んでよね」

 

 聖剣改め、魔剣を地面に突き刺すと、そこから泥が溢れて剣が吸い込まれるように消えた。

 だが、泥はまだ残留し続けて、そこからコカビエルの惨殺死体を覆い尽くしていく。

 

「性格はクソだけど、その能力は有用だからね。姫が使ってあげる(・・・・・・)。感謝してよね」

 

 泥の中に遺体が沈んでいき、あっという間に広場からコカビエルの痕跡が全て消えた。

 残されたのは、勝負に勝ったにも拘らず微塵も嬉しそうにしていない刑部姫だけだった。

 

「さて、今度はあのクソッタレな『マッドサイエンティスト』の所まで行かないと。コカビエルがいた以上、あいつもこの街にいると思うけど……」

 

 影に入っていくようにして、刑部姫の身体もまた、この場から完全に消えた。

 同時に人避けの結界も解除されたが、最初から誰も近寄ってこなかったので問題は無かった。

 

 次の日、広場にて何者かが争った痕跡が見つかり、すぐに捜査が開始されたが、数年経っても全く解決せず、最終的には迷宮入りしたという。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」

 

 眼鏡を掛けた小太りで初老の男が必死の形相で裏路地を逃げ回る。

 全く余裕が無いようで、口から涎を流し、鼻水と涙を流しながら年甲斐も無く辺りにゴミを散らかしながら走っていた。

 

「姫が言えた立場じゃないけど、もう少しぐらい運動するように心掛けた方が良かったんじゃないの?」

「来るな……来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 背後から音も無く忍び寄ってくる黒い影。

 綺麗な顔とは裏腹に、その眼光は非常に鋭く、見る物全てを射抜かんとする勢いだ。

 

「はいそこ」

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 影…刑部姫の手元から黒い帯のような物が伸びて、中年男の足を切り裂いた。

 それで男は地面に倒れ、脚を押さえて痛みに耐える。

 

「あ…足が…私の足があぁぁぁぁぁっ!」

「これじゃあ、剣っていうよりも鞭だね。『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』…いや、『擬態の魔剣(カースソード・ミミック)』か」

 

 伸縮自在に伸びた黒い刀身は、そのまま刑部姫の手元まで戻ってきてから泥の中へと消えた。

 

「まだだ…まだ私は死ぬわけにはいかんのだ……真の聖剣を…私だけの聖剣を完成させる瞬間まで……!」

「なーる。『自分だけの聖剣』…ね。そんなクソみたいな我儘のせいで、木場君達は……」

 

 嘗ての彼女ならば、ここで怒りが込み上げてくるのだろうが、今は何の感情も浮かび上がってこない。

 どこまでも虚無で、どこまでも空虚だった。

 

 必死に生きようと醜態を晒す豚を見下ろしながら、刑部姫はとある細身で漆黒の剣を泥から出した。

 

「そ…それは…『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』っ!? なんで貴様がそれをっ!?」

「残念。今のこの剣の名前は『天閃の魔剣(カースソード・ラピッドリィ)』だよ」

「なんだとっ!? ま…まさか……!」

「もうさ……マジで黙っててよ。普通にウザいから。つーわけで、はい死ね」

「ぶぎゃ……!」

 

 僅かな断末魔と共に、中年男は首を切断された。

 

「バルパー・ガリレイ…か。蛆虫の最後は呆気ないって相場が決まってるのかな。ま、どうでもいいけど」

 

 バルパーの死体もまた泥の中に沈んでいくが、今回はそれだけで終わらなかった。

 何かを咀嚼するかのような音が泥の中で聞こえてきたと思ったら、吐き出されるようにして『ナニか』が泥の中から飛び出してきた。

 

 それは、『肉の塊』だった。

 つい先程まで人の形をしていたとは思えない程に見る影も無く、不思議な事に全く出血をしていない。

 まるで、血抜きされた加工肉のように。

 

「…………行こ。日本に戻らなきゃ」

 

 刑部姫は地面に置かれた肉に見向きもせずに、その場を後にした。

 

 次の日の朝に肉の塊は発見されたが、誰もそれが人肉とだとは気が付かず、そのままゴミ処理業者によって処分されたという。

 

 余談だが、事件そのものが発生する前に終わったので、例の二人は日本に訪れることなく、そのままバチカンで何事も無く、これまで通りの生活を過ごした。

 『彼』と親しかった『とある少女』にとっては、その方が良かったのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

これからの展開に関する質問です。

  • 逆ハーレム!
  • 百合ハーレム!
  • どっちもありのドタバタ系ラブコメ
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