お姫ちゃんは引き篭もりたい ~TS系オタク転生者美少女の生存戦略?~ 作:とんこつラーメン
果たして、曹操は生き残れるのか?
仲間達の危機を気配で察した曹操は、急いでアジトの中に入って全力で走るが、其処で待っていたのは他の派閥である美猴と黒歌とオーフィスが廊下のど真ん中で謎の黒ずくめの少女と一緒にいる光景だった。
「その少女は誰だ? 他の皆はどうしたんだっ!?」
「覗いてみな」
美猴が顎で開けっ放しになっている部屋の向こうを指し示す。
恐る恐る曹操が中に入ると、彼の目に入ってきたのは……。
「ヘ…ヘラクレス! ジャンヌ!」
同志達が見るも無残な姿になっている地獄絵図だった。
小奇麗に片付けられていた室内は、鮮血によって真紅に染まり、夥しい量の臓物が辺り一面に飛び散っている。
一体何をどうすれば、ここまで残酷な死に様になるのか。
「そこの少女……まさか…お前が皆を……!」
「遅かれ早かれ、こうなるのは確定事項だったんだからいいじゃん」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
怒りに身を任せてから、己の持つ
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!」
曹操の顔は冷や汗でいっぱいになり、槍を突き出している腕も激しく震えている。
確かに曹操は強い。桁違いに強い。その彼が持つ神器もまた規格外だ。
しかし、それでも彼は『人間』だった。
人間であるが故に逆らえない。抗えない。越えられない。
自分の目の前にある『絶対的な死』に。
「
邪魔くさくなったのか、目の前にある槍の穂先を人差し指でどかした。
「どれだけ体を鍛えても、どれだけ強い武器を持っていても、心の弱さだけは守れないんだよ」
「お…俺は……!」
倒そうと思えば倒せる。簡単だ。
あと一歩だけでいいから踏み込めばいい。
だが、その一歩が踏み出せない。
自分の足が前に進む事を拒絶する。
自分の頭が『逃げろ』と訴える。
この少女には絶対に勝てないと。
戦えば自分が死ぬぞ、と。
「止めとけ曹操。正直言って、仮に英雄派の連中が束になって掛かっても、この嬢ちゃんには掠り傷一つとしてつけられねぇよ」
「美猴…!」
曹操ですら認めるほどの猛者である美猴が勝てないと断言する。
認めたくなかった。英雄の子孫である自分が負けるなどと。
けれど、自分の中にある生物としての本能が訴えるのだ。
この少女は普通ではないと。『生物』が関与していいような存在ではないと。
「他のヒーローごっこしてるアホ共とは違って、少しは生存欲求ってのがあるみたいだね」
「くっ……!」
曹操の精神が限界に達したのか、『黄昏の聖槍』は光の粒子となって消えた。
「ずっと思ってたことが一杯あるから、この際に全部言わせて貰おうかな」
「なん…だと……!?」
すっ……と、刑部姫の目が鋭くなり曹操を睨み付ける。
それだけで彼は思わず後ずさりをした。
「まず、英雄の子孫だからって、絶対に戦って何かを成さなきゃいけないって事は無いでしょ」
「そんな事は無い! 偉大なる先人の血脈を継ぐからこそ我々は!」
「日本には」
曹操の言葉に被せるように、刑部姫の静かで強い言葉が出る。
「日本には、実際に織田信長や豊臣秀吉や徳川家康といった『日本の大英雄』の血を引く子孫が一杯いるけど、その人達は誰一人として、あんたらみたいなことはしてないよ。皆が皆、それぞれに普通の人生を歩んでる。信長の子孫さんはスケート選手として有名になってるけど。それでも、アンタ等みたいなバカな事はしてない」
「そ…れは……」
「ついでに言うと、こいつらが死んだのはある意味で自業自得。とある偉大な仮面の人はこう言い残しました。『撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ』ってね」
「撃たれる…覚悟……」
「そ。今まで好き放題に暴れてたんだから当然、自分達が似たような目に遭って虐殺される覚悟は出来てたんだよね? じゃなきゃ、テロなんて出来ないもんね?」
「……………」
何も言えなかった。
確かに、生きている以上は死ぬのは当たり前だ。
だが、自分達の死に場所は戦場で、華々しく散る事だと思っていた。
曹操の視線は激しく揺れ、刑部姫の事を直視できなくなった。
「つーか、『人外を殺せば自分達は英雄になれる』とか、本気でガキのお遊びかっつーの。何をどうこじらせれば、そんな小学生以下の馬鹿な考えに至るわけ?」
「……俺達は英雄の子孫だ。だから……」
「自分達も同じように英雄にならなくちゃいけないって? ハッキリ言っていい? バッカじゃないの? 頭大丈夫?」
刑部姫の目つきが急に変わる。
あれは敵を見る目じゃない。虫けらを見る目だ。
「紫式部。清少納言。葛飾北斎。ハンス・クリスチャン・アンデルセン。ウィリアム・シェイクスピア。レオナルド・ダ・ヴィンチ。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。アルキメデス。アレクサンドル・デュマ。トーマス・エジソン。チャールズ・バベッジ。エレナ・ブラヴァッキー。シェヘラザード」
「な…なんだ…?」
いきなり、色んな偉人の名前を言い出した彼女に、訳も分からず呆然となる曹操。
思考が追いつかず、思わず棒立ちとなってしまった。
「今言った人物達は、生前に一度も『誰かと命を懸けた戦い』なんてしたことなんて無い人達。当然だよね? だって、皆が皆、科学や文化、芸術方面で大活躍した人達なんだから」
「それがどうした……」
「でも、『世界の意志』は、この人達を『英雄』と認めている」
「なんだとっ!?」
耳を疑った。
戦う事は愚か、剣を握った事すら無いような者達が『英雄』と呼ばれているという事実に。
「あの人達は『人類史の発展に多大な貢献をした』って事で英雄と定義されたんだよ。分かる? この意味が」
「あ…あぁぁ……」
自分の中にあった存在理由が根本から崩れていく。
これを嘘だと断じる事は簡単だ。
けれど、曹操は理解していた。理解してしまった。
確かに、彼らの成したことは戦場で武勲を挙げる事と同じぐらいに偉大な事であると。
「中には、マリー・アントワネットやアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァやシバの女王、クレオパトラや楊貴妃みたいに、世界的にも有名な女王的な人達も『英雄』となっているみたいだけど」
「な…なんで……」
「だって、女王もまた立派に『国を守った英雄』でしょ?」
「!!!」
その発想は全く無かった。完全に目から鱗。
非戦闘員だからと言って英雄になれない訳じゃない。
寧ろ、そんな彼女達だからこそ出来る事もある。
「それだけじゃないよ」
「まだあるのか……」
「酒呑童子に茨木童子。エリザベート・バートリー。メドゥーサ。他にも色々といるけど、これらの人達もまた『英雄」となっている」
「そんな馬鹿なッ!? それら等はいずれも、歴史上に置いて大量虐殺をしてきた者ばかりではないかッ!? そんな連中が英雄になんてなれる筈がない!!」
「正確には『反英雄』なんだけどね」
「反…英雄…だと……?」
「そ。簡単に言うと、『どれだけ悪行を繰り返しても、最終的に何処かで誰かを何らかの形で救っていれば英雄になれる』ってこと。メドゥーサが一番分かりやすい例じゃないかな? ほら、あの人の血からはペガサスが誕生してペルセウスの足となったし、その生首はかの有名な『イージスの盾』となって怪物からアンドロメダ女王を救ったんだし」
「それで…世界は彼女を『英雄』と認めたと……?」
「そういう事だね」
聞けば聞くほど、自分が今までしてきたことが虚しくなる。
最強の神器を与えられ、先祖の様な英雄となるべく己を鍛えてきた。
けど、そんな事をしなくても英雄になれた者は沢山いた。
「果ては、世界の意志は生き物ではない存在も英雄と定めた」
「生きてないのに英雄……?」
どういう意味なのか本当に分からなかった。
言葉自体が矛盾しているように感じた。
「姫が知っているのは二人だけだけどね。一人は『ナーサリーライム』」
「それ知ってるにゃ! 確か、絵本のジャンルだった筈にゃ!」
「そう。ナーサリーライムってのは、実在する絵本のジャンルの一つなんだよ」
「絵本が英雄になれるのか……?」
「なれるでしょ。だって、この世に存在する絵本は全て『子供達の夢を守る英雄』なんだから」
「夢を守る…英雄……」
なんて素晴らしい響きの言葉か。
自己顕示のみを求めて戦ってきた曹操にとって、誰かの夢を守るということは考えもしなかった事だ。
「そして、もう一人は現在進行形で今なお、漆黒の宙を一人で飛んでいるよ」
「漆黒の宙……?」
「その子の名前は……『ボイジャー』
「それなら知ってるぜ。あれだろ? NASAが開発した無人惑星探査機だろ?」
「よく知ってるね」
「無限の宇宙は男の浪漫だからな!」
嬉しそうに話す美猴だが、目の前に大量の死体がある場所ではサイコパスにしか映らない。
「無人探査機……機械が英雄になれるというのか……」
「当たり前じゃん。つーか、ボイジャー君の方がアンタ等よりも遥かに立派な大偉業を成してるからね?」
「大偉業……」
「彼は1977年に飛び立って、今でもまだ真っ暗な宇宙空間をたった一人で旅して、人類に沢山のデータを送ってくれて、新しい惑星の発見などに絶大な貢献をしたんだよ? あんたらさ、誰か一人でも人類史に貢献できるような大発見とかしたことあるの?」
「ない……あるわけない……」
「だろうね。どいつもこいつも、脳まで筋肉で出来てそうな連中ばっかりだったし」
「うんうん」
後ろで黒歌が大きく頷いているが、今は無視することに。
「しかも、彼は自分の任務が終了しても地球に帰還できない。彼は未来永劫、宇宙空間を彷徨い続けるの」
「なんだとっ!?」
「だから、彼はもう一つの使命を背負っているんだよ」
「それは一体……」
「広大な宇宙のどこかにいるかもしれない、人類以外の知的生命体に地球のありとあらゆる情報が詰められている『ゴールデン・レコード』を届ける事」
「なんと……!」
「つまり、彼は宇宙の果てを探索する冒険者であり航海者。そして、地球という惑星の碑文を運ぶ人類代表のメッセンジャーでもあるんだよ」
「……………」
敵わない。敵う訳がない。
成る程、自分なんかでは絶対に勝てない程の大英雄…否、超英雄。
それ程の偉業など、どんな超人でも絶対に不可能だ。
「彼は、未知の領域の拡大=人類の可能性を広げたと世界の意志に認められたみたい」
「はは……人類の可能性と来たか……」
崩れ落ちて膝をつき、乾いた笑いを浮かべる曹操。
もう彼には戦う気概は愚か、英雄の子孫として振る舞う事も出来なくなっていた。
「戦わなくても英雄にはなれる。人でなくても英雄になれる。生き物でなくても英雄になれる。そもそも、本当の英雄は生前に一度でも自分から『英雄だ』と名乗った事は無いよ」
「あぁ……」
「真の英雄というのは、須らく死んでから後世の人々に『英雄』って呼ばれるもんじゃないの?」
「全く持ってその通りだ……」
曹操は完全に戦意を失った。心が折れた。
彼はもう二度と『英雄になりたい』とは言えないだろう。
「……行こうか」
踵を返して、その場を後にしようとする刑部姫を見て、美猴達が後から追い駆ける。
「いいのか?」
「何が?」
「生かしておいて…だ」
「別にいいでしょ。他の連中はどれだけ言っても話を聞きそうになかったけど、彼は違った。ちゃんとこっちの話を聞いた上で全てのモチベーションを失ったんだ。後はもうどうなろうと知った事じゃないよ」
「…それもそうか」
美猴も、そこまで曹操に興味があったわけじゃない。
だから、戻ってまで彼の事を慰めようとは思わなかった。
「にしても、嬢ちゃんの話は興味深かったぜ。英雄の定義…か。特別な資格なんざなくても、その気になれば誰だって英雄になれるって事だな」
「かもしれないね。それよりも、そっちのお仲間さん達に何か連絡とかしなくてもいいの? 多分だけど、まだ生きてるでしょ? それらしい人を殺した記憶はないし」
「恐らくな。まぁ…あいつなら問題無いだろ。俺とは違って頭が回る方だしな」
「それって、自分から『私は脳筋です』って言ってるようなもんじゃない?」
振り返らずに歩き出すと、いきなり後ろから曹操が話しかけてきた。
「最後に一つだけ聞かせてくれないか……」
「答えられることなら」
「君は…どんな人間を英雄だと思う…?」
「…それは姫にも分らないけど、たった一人の大切な人の為に全てを敵に回せるような人はカッコいいとは思う」
「万人に認められる英雄ではなく…愛する者だけの英雄…か」
(なんか勝手に過大解釈してるし……)
もうどうでもいい。
ここには用は無い。
次の目的地は日本の駒王学園だ。
「……少し前に旧魔王派のカテレア・レヴィアタンが部下を引き連れて駒王学園で開催される予定の『三大勢力協定会議』を強襲するつもりで出撃していった」
「んだとぉっ!? ちょっと待て! 一体どこでンな情報を手に入れて…いや、それよりも、三大勢力の協定だとっ!?」
「もしかして、刑部姫様はそれを知って……?」
「まぁ…ね」
今度こそ本当に用が無くなった。
既に知っている情報を聞かされても意味ないけど。
「俺は……俺達は間違っていたのか……? この体に流れる血の呪縛を振り切る勇気があれば……もっと違った未来も……」
その後、仲間達の亡骸を丁重に葬ってから、曹操は何処へとなく姿を消した。
後の歴史において『黄昏の聖槍』が使われた記録は無い。
姿を消す直前、彼はこんな言葉を残している。
「殺されたのは自業自得…か。そうかもしれないな……。誤った道を進んでしまった以上、俺達が滅びるのは必然だったのかもしれない……」
それから数年後。
一人の男がとある子供の凶刃によって倒れ、そのまま息を引き取った。
子供は大笑いしながら『兄さんを実験動物にした悪い奴をやっつけた』と叫んでいたという。
曹操、論破。
けど、その後は……。
次回は遂に戦闘狂な彼が登場し、これまでずっと出番が無かったオカ研メンバーと魔王様を初めとする面々も出て来るかも……?
これからの展開に関する質問です。
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逆ハーレム!
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百合ハーレム!
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どっちもありのドタバタ系ラブコメ