お姫ちゃんは引き篭もりたい ~TS系オタク転生者美少女の生存戦略?~ 作:とんこつラーメン
調子乗った白トカゲのクソガキを戦闘不能にした。
黒く染まったドライグの拳を受け、グラウンドに出来た大きなクレータの中心に倒れているヴァーリ。
誰から見ても瀕死の重傷で、つい先程まで戦闘意欲に満ち溢れていた青年とは思えない。
刑部姫は溜息を吐きながらそれを一瞥だけして、軽い足取りで校舎に入り、皆が待っている会議室へと戻っていった。
「終わりましたよ。ちゃんと言われた通り、死なない程度には手加減をしてあげました」
「何言ってんだっ! ドライグまで召喚して、どこが手加減だってんだ!」
案の定、ヴァーリの養父のような存在であるアザゼルは激高したが、刑部姫はそんな怒りもどこ吹く風。
彼女は言われたことを実行したに過ぎないのだから。
「手加減ですよ。だって……」
掌の中に黒く染まり、赤黒い血管のような物が全身に走っている折り鶴を見せた。
「もしもドライグじゃなくて
「なん…だと……!」
普通ならば冗談だと笑い飛ばす所だが、刑部姫の出したちっぽけな折り鶴から凄まじい力を感じたアザゼルは、彼女の言葉が決して嘘ではない事を本能で理解した。
「だから、ドライグを呼び出して戦わせたんですよ。御理解して頂けました?」
「くっ……!」
言い知れぬプレッシャーを感じながら、アザゼルは会議室から出て行き、未だにグラウンドで気を失っているヴァーリの元まで向かった。
「全身複雑骨折してると思うから、軽く見積もっても全治半年から一年ぐらいだと思う…って、もういないか」
「お…刑部さん……」
表情一つ変えずに白龍皇を倒してみせた刑部姫に、リアスを含むグレモリー眷属は恐怖を覚え、サーゼクス達も戦慄した。
特に、リアスは彼女の豹変ぶりに驚きを隠せないでいた。
ほんの少しだけしか話していないが、それでも刑部姫の人となりは理解しているつもりだ。
一体何が、臆病で優しい少女を此処まで変貌させてしまったのか。
そして、リアス以上に驚き、恐怖ではなくて悲しみを感じていたのが朱乃だった。
一晩だけとはいえ、沢山話して再会の約束もした。
少なくとも、朱乃は姫の事を大切な親友のように思っていた。
「お…おい…嬢ちゃん。その口の端から流れてるのは何だ…?」
「口の端? あ……」
美猴に言われて、思わず袖で口を拭うと、其処には『泥』が付着していた。
最近になって、何もしていなくても体の中から『泥』が溢れるようになってきた。
それだけ、彼女の体が『
「ごほっ…ごほっ…」
「お…刑部姫様っ!? 大丈夫ですかにゃっ!?」
黒歌が急いで刑部姫の元に行き寄り添うが、彼女が見たのは掌に先程と同じ黒い『泥』が付いている姿だった。
「こ…この黒いのは……」
「『泥』に触っちゃダメ……黒歌さんも侵食される……」
「浸食……」
姫に遮られて、黒歌は少しだけ距離を取る。
何度か深呼吸をしてから、ようやく気分が落ち着いたようだ。
「黒歌さんは、これからどうするの?」
「わ…私ですかにゃ? それは……」
いきなり話を振られて動揺する黒歌だが、来ている着物の袖をギュッと握りしめる小猫を見て、数瞬だけ考えた後に答えた。
「この子と一緒にいます。今までずっと寂しい思いをさせてきたから、これからは少しでも姉らしく白音を守ってあげたいから」
「うん…姫もそれがいいと思うよ。美猴さんは?」
「俺か? そうさなぁ……」
自分の顎を擦りながら天井を見て、すぐに姫の方を見直した。
「昔のように、強い奴を求めて旅にでも出るわ。風の向くまま、気の向くまま…ってな」
「貴方らしいよ……」
ふと、刑部姫が該当の中から一通の封筒を取り出して、サーゼクスの前まで歩いて行った。
「…サーゼクスさん。魔王としてではなく、駒王学園理事長である貴方に渡す物があります」
「なにかな?」
「これです」
そう言って机の上に置いた封筒には『退学届』と書かれてあった。
「…これはどういうつもりだい?」
「そのままの意味です。もう私は皆と一緒に日常には戻れない。本当はもっと早くに提出すべきだったんですけど、やることが沢山あって中々出来なくて」
「だから、今のタイミングで出したと?」
「はい」
会議中でも決してしなかった渋い顔で、サーゼクスは目の前にある退学届を見つめる。
目を瞑って考えた後、封筒を手に取ってから傍に控えていたグレイフィアに渡した。
「…一先ずはこちらで預かっておくよ。でも、まだこれを正式に受理したわけじゃない」
「え?」
「全てが終わったら、必ず帰ってくるんだ。楽観的かもしれないが、その体もきっとなんとかなる。三大勢力で力を合わせれば……」
「…………」
そんな簡単にいく訳がない。
それは姫自身が一番よく理解していた。
だが、それでも、彼の言葉が嬉しく思ってしまう。
「ありがとう…ございます」
「うん。僕も君の事を待っているよ」
後顧の憂いが無くなったとは言い難いが、それでも不思議と胸につっかえっていた『何か』が取れたような気がした。
「…姫島さん。一つ…お願いをしてもいいかな?」
「お願い…?」
「オーフィスちゃん。こっちに来て」
「姫? ん…分かった」
先程まで、ずっと静かにしていたオーフィスの頭を一回だけ撫でてから、傍まで連れてきた。
「この子…オーフィスちゃんの事をお願いしたいんだ」
「オ…オーフィス…?」
その名を聞いて、この場に残っていた首脳陣が思わず立ち上がる。
「お…刑部さん。今…オーフィスと言ったのか? その少女が?」
「はい。どうも、禍の団の連中に良いように言い包められて祭り上げられていたみたいなんです。彼女の名前の影響力と蛇の力を利用する為に」
「その子自身に悪意は無い…のよね?」
「ありません。この子は良くも悪くも純粋無垢ですよ。酸いも甘いも、善も悪もよく分かっていない。だからこそ奴らに利用されてしまった」
「聞けば聞く程、本当に質が悪い者達だったのですね……」
サーゼクスが恐る恐る聞き、セラフォルーは警戒しながらも尋ねる。
そして、ミカエルは一人の天使として嘆いていた。
「この子に色んな事を教えてあげてほしい。別に他の人でも構わないんだろうけど、姫は姫島さんにお願いしたい。ダメ…かな?」
「……分かりましたわ。他ならぬ、刑部さんの頼みですから」
それを聞いてから、刑部姫はオーフィスの方を見て頷き、そっと彼女の背中を押してから朱乃の方へと向かわせた。
「…ありがとう。これで本当に心置きなく行けるよ」
「行くって…どこに?」
「まだ世界中に禍の団の残党が残ってる。それを片付けないと」
刑部姫は何も言わず、会議室の扉へと向かっていく。
もう何も心残りは無い。
後はもう只管に進むだけだ。全てが終わる瞬間まで。
「私…待ってるから。刑部さんが…姫子ちゃんが帰ってくる日をずっと待ってるから!」
「我も待つ。姫が帰ってくる日」
「うん……」
背中を向けて去ろうとすると、他のメンバーも声を掛けてきた。
「私も待ってます。まだ刑部先輩には、まだちゃんとお礼が出来てませんから」
「そうですにゃ! 刑部姫様、絶対に戻って来るにゃ!」
「僕も皆と同じ気持ちです。先輩とは、色んな事を話したいですから」
「ぼ…ぼぼぼ僕も待ってますぅぅぅぅぅぅっ!」
今初めて、感情や感覚が無くなった事を悔しく思った。
自分がほんの少しでも人間らしさをまだ残していれば、この場で涙の一つでも流すのだろうが、今はそんな上等な事なんて出来ない体になってしまっている。
「刑部さん」
「グレモリーさん……」
「絶対に帰って来なさい。まだ、貴女を部室に招待してないし、朱乃の紅茶も御馳走してないから」
「そうだね…機会があれば…飲んでみたいね……」
もう味覚も失っているけど。
それを言えば確実に場の空気が重くなるので、心の中に仕舞いこんだ。
「嬢ちゃんは人気者だなぁ。こりゃ、死ねない理由が出来ちまったな?」
「かもね……」
ドアノブを握り扉を開け、出ていく瞬間にもう一回だけ部屋の中を見て、小さく呟いた。
「皆…ありがとう……またね」
その言葉に全員が頷くのを見てから、刑部姫は出て行った。
窓から照らし出されている廊下を歩いていくと、ズタボロになったヴァーリを背負っているアザゼルと鉢合わせになった。
刑部姫は何も言わずに通り過ぎようとしたが、すれ違う瞬間に乱暴に頭を撫でられた。
「え…?」
「ったく……ガキの癖になんでもかんでも背負い込むんじゃねぇ……。ちっとは大人を頼りやがれ……」
その手付きと言葉に父親のような暖かさを感じた彼女は、心の中で『ありがとう』と言った。
刑部姫が廊下の角を曲がると、そこにはもう彼女の姿は無く、真っ暗な闇だけがどこまでも広がっていた。
もうすぐ『終わり』が『始まる』。
そして、その後は……。
これからの展開に関する質問です。
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逆ハーレム!
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百合ハーレム!
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どっちもありのドタバタ系ラブコメ