お姫ちゃんは引き篭もりたい ~TS系オタク転生者美少女の生存戦略?~ 作:とんこつラーメン
とある国のとある町中にある路地裏。
深夜という事もあって周囲は完全に静まり返っていて、野良猫すらも寄りつかない。
そこで、一人の男が満身創痍になりながら腕を押さえて立っていた。
「な…何故だ…! 何故…この僕がこんな少女相手に……!」
「……………」
「こんな事は認めない!! 僕は英雄シグルドの末裔だぞ!! その僕が…手も足も出ないだなんて……!」
男の名は『ジーク』。
彼もまた禍の団の残党の一人であり、英雄派のメンバーでもある。
英雄シグルドの末裔を名乗ってはいるが、碌な証拠も無く、あくまで『自称』であるため、本当にそうなのかは定かではない。
だが、そんな事は彼と対峙している刑部姫には全く関係は無かった。
『この程度の実力で、あのシグルドの末裔を名乗るなど…万死に値する』
「なん…だと…!?」
『もしも貴様が本当にかの英雄の末裔で、その手に持つ魔剣が『グラム』であるならば、龍属性を持つ相棒に対して絶大な力を発揮する筈だ。だが、実際はどうだ? ダメージを与えるどころか、お前は相棒に掠り傷一つ与えられていない。となれば、考えられることは一つだけだ』
「言うな……!」
『所詮は貴様は他の雑魚共と同じで『自称』に過ぎなかったということだ。自分達で『英雄派』などと名乗っていても、結局は相棒が言っていた通り、遊び感覚で力を振るっていたゴミに過ぎなかったんだよ』
「言うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ドライグの言葉を掻き消すかのように絶叫しながら、自分の持つ魔帝剣『グラム』を我武者羅に振り回しながら突撃するが、それは呆気なく刑部姫の黒い籠手に覆われた右手に掴まれる。
「う…動かない…!」
「腹立つんだよね……」
「なに……?」
「お前が…その名前を名乗る事が…」
空いている左手で首を掴み、そのままゆっくりと持ち上げていく。
ジタバタともがくが、ビクともせずに足が地面から離れていく。
「
「あがぁ…!」
籠手の爪が首の肉に突き刺さって血が流れる。
「凄く優しくて……だけど勇気もあって……」
「は…はなぜ……!」
更に力が籠められ、頸動脈が圧迫されていく。
「自分の為じゃなくて、大切な誰かの為に怒れる男の子だった。正真正銘のジークフリードの心臓を分け与えられた彼こそが、龍殺しの末裔に最も相応しい真の英雄だ。お前みたいな蛆虫が気軽に名乗っていい名前じゃないんだよ…」
「がはっ…!?」
ごき。
その時、確かに何かが折れた音がした。
手に持っていた剣が地面に落ち、金属特有の甲高い音が鳴る。
「お前の顔は二度と見たくない。だから、こうしよう」
近くにあった壁に掴んでいたジークの顔を叩きつけ、そのまま上下させて文字通り顔を削っていく。
とっくの昔に絶命しているが、それでも気が収まらないのか、顔のサイズが半分ぐらいになるまで顔削りを続けた。
『その辺で勘弁してやれ。俺も非常に腹立たしいが、相棒がそんな奴の体に触れていること自体が俺には耐えられん』
「そう…だね……」
ジークの首から手を離すと、そのまま彼の死体は刑部姫の影に飲まれて消えていった。
「ねぇ…ドライグ……これで……」
『神器使い自体はまだまだ数多くいるが、あの組織に属していた悪意ある神器使いはもう存在しない。泥に飲まれたせいか、俺もまた『悪意』には非常に敏感になっているらしくてな、少なくとも、ついさっき相棒が縊り殺した奴が英雄派最後の生き残りだったようだ』
「そっか…よか…った……」
『相棒!!』
少しだけ気が抜けてしまったのか、急に足元がふらついて倒れそうになる。
だが、そんな彼女の背中を誰かがそっと支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
「誰……?」
彼女の体を支えてくれているのは、爽やかな印象の好青年だった。
「美猴の言っていた通り、見た目に反して相当な無茶をしているようですね」
「あの人の…知り合い…?」
「はい。私は君が奪い損ねた七本の偽りの聖剣の一本である『聖王剣コールブランド』を所有している『アーサー』という者です」
「ということは…もしかして……」
「えぇ。貴女が壊滅させた禍の団に所属していました。だからと言って何かをしようとかは考えていませんけどね。私は純粋に、君の事が気になって探していました」
「姫を……?」
「こんな事をたった一人でするだなんて、どんな女の子なんだろうと…ね。まさか、こんなにもか細い少女だったとは思いませんでしたけど」
「悪かった…ね……」
アーサーの手を借りながら立って、何回か大きく深呼吸をしてから、ようやく気持ちが少しだけ落ち着いた。
「…余計なお世話かもしれませんが、もう君の体は……」
「自分の身体は……自分が良く分かってる……ごほっ…ごほっ…」
「だ…大丈夫ですかっ!?」
「近づいちゃ…ダメ……」
咳き込んだ拍子に口を手で覆うが、その時に泥が掌に付着する。
それをアーサーに見せる事で、彼が近づくのを阻止した。
「…その泥が…貴女の体を蝕んでいるのですか…?」
「そうでもしないと……姫は弱いから……」
「そんな事はありません。貴女は強い…この世界の誰よりも……」
「お世辞でも…嬉しいな……」
顔を伏せながら、刑部姫はアーサーに背中を向けながら去って行こうとする。
その気になればそれを止める事も出来たが、アーサーにそれは出来なかった。
それをしてしまえば、刑部姫の決意を侮辱してしまいそうだから。
「どこに…行くのですか?」
「日本の…兵庫県……」
その足取りは重く、一歩一歩と歩くだけで今にも倒れてしまいそうな危うさがあった。
だが、それでも止められない。彼女の背中がそれを拒否しているから。
「……自分の死に場所ぐらいは…弁えてるよ……」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
兵庫県 姫路市 姫路城
江戸時代初期に建設された天守閣や櫓などの主要建築物は未だに現存し、国宝や重要文化財などに指定されていて、中堀の内側は『姫路城跡』として国の特別史跡に指定されている。
その天守閣部に、刑部姫は脱力したかのように座り込み微塵も動かない。
まだ辛うじて息はしているようだが、彼女の命が風前の灯なのは誰の目にも明らかだった。
『相棒……』
「…………………」
ドライグの言葉にも何も反応しない。
否、反応したくても出来ないのが正しかった。
『この世全ての悪』に浸食され過ぎた結果、もう五感の事如くを失い掛けていた。
身体を動かす事は愚か、声を出す事すらも叶わない。
先程までの戦いこそが、文字通り最後の力を振り絞ったものだったのだ。
心身共に限界なんて当の昔に通り過ぎ、完全に気力だけで体を動かしていた。
「………?」
自分以外は誰もいない筈の空間。
そこに、どこかで見たことがあるような魔方陣が浮かび上がり、突如として誰かが転移してきた。
「刑部さん……」
「姫……来た」
『お前達……どうしてここに……』
転移してきたのは、朱乃とオーフィスの二人。
予想外の訪問者に、もう首も動かせない刑部姫は目だけを動かして驚いていた。
「いきなりやって来た『アーサー』という方に教えられて、ここまで来たのですわ…。姫子ちゃんが姫路城に向かったと……」
『そうだったのか……あの男……』
姿が出ていないので分からないが、ドライグも満更ではない様子だった。
「あの…姫子ちゃんは……」
『…お前達には悪いが、今の相棒はもう話す事もままならんのだ……』
「そんな……」
「姫…おしゃべりできない…?」
「………………」
居た堪れなさに目を瞑る。
その時、ふと何かに触れた感触があった。
思わず目を開けると、そこには泣きながら刑部姫を抱きしめている朱乃がいた。
「もう…終わったの…?」
『あぁ…つい先程、最後の残党を片付けた。これで本当に禍の団は壊滅した』
「そう……」
抱きしめる力が僅かに増し、朱乃の涙が頬に落ちる。
「よく…頑張ったわね……姫子ちゃん……」
「ん……姫、えらいえらい」
オーフィスも近づいてきて、刑部姫の頭をそっと撫でた。
許されるなら、ここで涙の一つでも流したいが、もう透明な涙なんて出ない。
この目から出るのは漆黒に染まった泥だけだ。
「ぁ……」
『相棒…無理するな。今のお前は五感の殆どは愚か、話そうとするだけでも相当にキツい筈だ』
「で…も……わた…し…は……」
眼鏡が外れ床に落ち、それに合わせるようにして刑部姫の右腕も同時にボトリと落ちた。
切断面からは血なんて一滴も流れず、その代わりに泥が流れる。
「ひ…姫子ちゃん…腕が…!」
「う…で……?」
感覚が極端にまで鈍っている今の刑部姫には、自分の腕が千切れた事にすら気が付いていない。
「ひめ…しま……さん……」
「姫子ちゃん……」
「ごめ…んね……」
「なんであなたが謝るの! 何も謝るような事無いじゃない!」
「姫…が…ばか…だった…か…ら……」
「そんなことない…そんなこと…ないわよ……」
感覚が無いから分からないが、いつの間にか左足が太腿から千切れていた。
こちらもまた血が流れず、泥が流れていた。
「けど……姫島さんに会えて…仲良くなれて…よかった……嬉しかった……」
「姫子…ちゃん……」
「姫…死ぬのダメ」
「オーフィス…ちゃん……」
必死に言葉を紡ぐが、声を出す度に意識が朦朧としてくる。
少しでも気を抜けば、確実に意識が持っていかれる。
本当は早く楽になりたい。目を瞑ってしまいたい。
けれど、ここで話さないと絶対に後悔しそうな気がした。
「あれ……姫島さん…? どこに…行ったの…?」
「もしかして…もう目も……」
瞳が黒く染まり、完全に視覚が消滅する。
「なん…だか…静かに…なった…?」
次いで聴覚も消滅。
先程まで辛うじて聞こえていた朱乃とオーフィスの声すらも聞き取れなくなってしまった。
「…最後に…もう…一回…だけ……姫島さんのごはん……食べたかった…なぁ……」
「作ってあげるから…何回でも作ってあげるから…しっかりして……目を開けて!! お願いだから!! 死なないで…姫子ちゃん!!」
「あぁ…………」
朱乃に体重を掛け、体を預けるような体勢になってから、静かに一言だけ呟いた。
「暖かいなぁ……」
それが、刑部姫子という少女の最後の言葉となった。
(ごめんね……ドライグ……)
(気にするな。お前は本当に頑張ったよ。そろそろゆっくりと休め)
(うん……そうする…ね…。なんだか…眠たくなってきた……よ……)
瞼を閉じると、その瞬間に刑部姫の全身が泥と化し……溶けるように潰れた。
ずっと彼女を抱きしめていた朱乃に泥が付着したが、彼女には何にも影響は無かった。
「姫子…ちゃん…? いや…いや……」
残された服を握りしめながら、朱乃は泣き叫んだ。
大切な友の死を、掛け替えのない人の死を嘆いて。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「姫……姫ぇぇぇ……ひっく…ひっく……」
オーフィスも泣いた。まるで幼子のように泣いた。
長き時を生きた彼女であったが、こんなにも悲しい思いをしたのは生まれて初めてだった。
無限を生きる彼女にとって、死という現象は基本的には他人事だ。
だが、その他人が死んでこんなにも胸が苦しくなるとは思わなかった。
この感情こそが悲しみだと知るのに時間は掛からなかった。
転生者 刑部姫子。
こうして彼女は、短くも激動と闇に満ちた第二の人生に幕を閉じたのだった。
「は?」
次回…『救済』開始。
これからの展開に関する質問です。
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逆ハーレム!
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百合ハーレム!
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どっちもありのドタバタ系ラブコメ