お姫ちゃんは引き篭もりたい ~TS系オタク転生者美少女の生存戦略?~   作:とんこつラーメン

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遂に、彼女が目覚める時です。

さてはて、お姫ちゃんはどんな世界に転生したのか?







全力で幸せになりなさい!!!
今度はお前が幸せになる番だ


「……………………は?」

 

 目が覚めて最初に見えたのは、物凄く見慣れている天井だった。

 天井の模様は愚か、シミの数すらも克明に記憶している。

 

「ここは……」

 

 まずは現状確認から。

 自分が寝ているのは、お気に入りのベッドの上。

 それは間違いない。この寝心地だけは忘れたくても忘れられないから。

 

「よいしょ…っと」

 

 半身だけを起き上がらせてから、窓を隠しているカーテンを開く。

 ガラスの向こうには雲一つない澄み切った青空が広がり、眩しいまでの朝日が瞼を刺激する。

 そこでふと気が付く。ガラスに映っている自分の髪が黒に戻っている事を。

 手を見ると、血色のいい肌色に戻っていて、それは他の部分も同様。

 

「え?」

 

 改めて部屋を観察してみる。

 自分が好きなアニメのポスターに、推しの声優のCDが棚の上のラックに並んでいる。

 買い溜めた漫画やラノベも全て本棚にきちんと収納済み。

 ハンガーラックには、着慣れた制服が綺麗な状態で掛かっている。

 

「……うん。間違いなく、これは(わたし)の部屋ですね。分かります」

 

 えっと……これはどーゆーこと?

 あの時、姫は確かに姫路城で姫島さんに抱きしめられながら死んで、それからいつの間にか英霊の座にいて、そこでアベンジャーやもう一人の私と話して、それから……。

 

「どうしたんだっけ?」

 

 う~ん…そこからの記憶が全く無い。

 アベンジャー曰く、姫は色んな人達の尽力により二回目の転生を果たしたらしいけど……。

 

「ここ…完全に一回目の転生の時に使ってた姫の部屋、そのまんまだよね……」

 

 まさか、あの時の部屋を精密に再現したって事? マジで?

 

「また…この部屋に戻ってくるなんてね……。正直、想像もしてなかったよ」

 

 そう思うと、なんだか見る物全てが懐かしく感じてくるね。

 見慣れた部屋に、見慣れた風景。

 そして、姫の隣には見慣れた可愛らしいオーフィスちゃんが寝て……。

 

「……んん?」

 

 …ちょい待ち。

 今さっき、姫ってばなんて言った?

 見慣れたオーフィスちゃんとな?

 

「んぅ~……むにゃむにゃ……」

 

 試しに目を擦ってから再度確認するけど、間違いない。

 姫のベッドに潜り込んで、目の前で天使の寝顔を披露してくれているのは紛れも無くオーフィスちゃんだ。

 え? なんでこの子がいるの? ど…どゆこと?

 

『ようやく目が覚めたようだな。相棒』

「ド…ドライグッ!?」

『あまり大きな声を出すな。オーフィスが起きる』

「あ…ゴメン」

 

 姫の左手の甲に緑色の淡い光が灯って点滅する。

 この感じは忘れもしない…ドライグの光だ。

 

「…ドライグも一緒に転生してくれたって話…本当だったんだね」

『当たり前だ。今度こそ、お前の幸せを傍で見守ると心に決めた以上、再びお前と共に有るのは当然の事だ』

「…ありがとう」

『礼を言われる程の事でもない』

「うん……」

 

 ちょっとぶっきらぼうだけど、照れてるのかな?

 だとしたら、ドライグにも意外と可愛い一面があるもんだ。

 

『本当ならば、ここで俺の口から色々と説明をするべきなのだろうが、今は俺以上に相応しい奴がいる。一階に降りてみるといい』

「一階に?」

『あぁ。安心しろ。この家の構造は前と全く変わっていない』

「やっぱ、ここは姫が暮らしていた家をそっくりそのまま再現した家なんだ…」

 

 なんといいますか…転生の神様たち、気前良すぎなのでは?

 

 なんてことを考えつつ、姫はオーフィスちゃんを起こさないように注意をしながらベッドから出て、一階に向かう事にした。

 そういや、姫が今着ているパジャマをチョイスしたのは誰よ?

 これ、あの事件が起きる少し前に姫が密かに通販で購入しておいた魔界村グッズの一つである『ハート柄の勇気のパジャマ』なんですけど。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 ドライグに言われた通り、姫は階段を下りて恐る恐る一階へと降りてきた。

 傍から見ると完全に挙動不審に見えるだろうけど、今回だけは勘弁してください。

 

「え~っと……?」

 

 一階もまた二階と同じように何も変わっていない。

 姫が良く撮り貯めていたアニメを見ていた薄型テレビに、時には転寝もしていた愛用のソファー。

 テーブルも棚も、何もかもがあの時のままだ。

 

「はは……神様は伊達じゃないってこと?」

 

 きっと、アクシズぐらいなら簡単に押し返しそうだ。

 

「あら? もう起きたのかしら?」

「え?」

 

 こ…この声は……まさか……?

 

「うふふ……おはようございます。姫子ちゃん」

「ひ…姫島さんッ!?」

 

 な…なんで彼女がキッチンからエプロンをつけた状態で出てきてるのッ!?

 しかもあの感じ、明らかに姫以上に事情を知ってる感じだよねッ!?

 もしかして、ドライグがさっき言ってた『相応しい人物』ってのは姫島さんの事っ!?

 

「刑部姫様! 私もいますにゃ!」

「私もいますからね~」

「く…黒歌さんに塔上さんもっ!?」

 

 姫島さんが出てきたキッチンから顔を覗かせてきたのは、同じようにエプロンを付けている黒歌さんと、その傍で手伝いをしていたと思われる塔上さんだった。

 

「え…えぇ~っ!?」

 

 もう、何がどうなっているのかサッパリなんですけど~っ!?

 姫の…姫の頭がキャパオーバーになってきた……。

 

「ん~…? 姫ぇ~…?」

 

 ここでオーフィスちゃんもご起床ですか!?

 つーか、目を擦りながら降りてくるオーフィスちゃんマジで可愛いな!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 姫が混乱している間に、リビングのテーブルの上にあれよあれよと料理が並んでいく。

 あっという間に姫の家のテーブルが豪華な食卓へと早変わりしてしまった。

 

「これで全部ですわね。では、頂きましょうか。姫子ちゃん」

「え? あ…うん」

「「「「いただきます」」」」

「い…いただきます?」

 

 流されるがままに手を合わせて、いただきますをすることに。

 正直、まだ混乱の真っただ中にいます。

 

「姫子ちゃんのその顔、今の状況が分からないって感じかしら?」

「う…うん。正直、かなり混乱してるというか……」

「それじゃあ、朝ご飯を食べながら一つ一つ説明していきましょうか」

「お…お願いします」

 

 震える手で久方振りに箸を掴み、炊き立てほかほかのご飯を一つまみ。

 それをそっと口の中に放り込む。

 

「ん……!」

 

 お…美味しい…!

 時間的には少ししか経過してない筈なのに、もう何十年もこの感覚を味わっていないような気がしてくる。

 それ程までに『人間』に戻った証拠である『味覚』は衝撃的だった。

 

「お味はいかがかしら?」

「最高!」

 

 思わず涙を浮かべながらのサムズアップをしてしまった。

 それ程までに美味しかったんだから仕方がないよね?

 

「あっ! その卵焼きは私が作りましたにゃ!」

「ほんと? あ~む! ん~♡」

 

 醤油なんて掛けなくても、めっちゃ美味しい…♡

 この卵焼き一切れだけでご飯が何杯も行けちゃうよ~!

 

「姫子ちゃんは、どこまで知っているのかしら?」

「えっと…姫が転生の神様たちの手で転生して、他の皆も一緒に転生させたってことしか……」

「そこまで分かっていれば十分よ。その通り、私達はあれから、転生神様たちのお力によって転生したの。この『並行世界の駒王町』にね」

「へ…並行世界の駒王町っ!?」

 

 それはまた…凄いと言いますか、何と言いますか……。

 

「この街は勿論だけど、その他の事も『前の世界』と殆ど大差ないみたい」

「大差ないって?」

「三大勢力や各神話も健在って事」

「あ~…成る程ね」

 

 そこまで再現してるんだ…その執念がマジでパないです。

 

「と言っても、何から何まで一緒って訳じゃないけど」

「そうなんだ?」

「例えば、前の世界で起きた事を考えて、三大勢力は最初から互いに協力関係にあるし」

「それって地味に凄い事なのでは?」

「そうね。その切っ掛けになったのは間違いなく姫子ちゃんなんだけど」

「…はい?」

 

 お味噌汁に伸びた手がピタッと止まった。

 

「姫子ちゃんの頑張りが、魔王さまたちや他の方々に決意をさせたの。同じことを繰り返すわけにはいかない。今度は自分達が頑張らないとって」

「そう…なんだ…」

「事実、この世界の歴史では一度も三大勢力の争いは起きてないわ。勿論、はぐれ悪魔みたいのも生まれてないし、禍の団みたいな組織も誕生していない」

「え? それじゃあ黒歌さんは……」

 

 思わず彼女の方を見ると、耳をピンとさせてからニッコリと笑った。

 

「はい! 今の私はもう転生悪魔じゃなくて、普通の猫又ですにゃ!」

「因みに、私も悪魔じゃなくて普通の猫又になってます」

 

 そういうと、黒歌さんの隣で朝食を食べていた塔上さんも猫耳と尻尾を出した。

 おぉ…なんか、姫の目の前で美少女猫又姉妹が並んでる…。

 

「元々、私が部長の眷属になったのは姉さまと生き別れになってしまったのが切っ掛けですから。それが無い以上、悪魔になり理由もまたありません」

「確かに……」

 

 って事は、今の塔上さんは猫又である事だけを隠して学校に通っているってこと?

 

「んじゃ、オーフィスちゃんは?」

「我、異世界転移した」

「そう来ますか……」

 

 確かに、無限を司る存在であるオーフィスちゃんに『死』という概念があるかどうか怪しいしね。

 向こうとしても異世界転移させた方が手っ取り早いって事か。

 

「ここがどこで、あれからどうなったのかは分かったけど……」

「けど?」

「…どうして皆がウチにいるの?」

 

 姫が最も疑問に感じているのはソコだった。

 転生云々は百歩譲っても分かるよ?

 これで二回目になるわけだしね。

 でも、姫島さん達が普通にウチにいるが謎なんですけど。

 

「そんなの決まってるじゃない。これからもずっと、姫子ちゃんと一緒にいる為よ」

「姫と…一緒に…?」

「うん」

 

 静かにそう呟くと、姫島さんは徐に箸を置いてから、いきなり姫の事を抱きしめた。

 

「もう…あんな事は二度と御免ですもの。例え何があっても、絶対に姫子ちゃんの傍を離れませんわ……」

「姫島さん……」

 

 そこで姫が気が付いた。姫島さんが泣いている事を。

 それを見た姫は、申し訳なさと嬉しさが混ぜこぜになって、同じように彼女の事を抱きしめた。

 

「ごめんね……ありがと……」

 

 少しだけその状態を続けてから、その後にそっと離れた。

 まだ朝ご飯を食べ終わってないからね。

 

「そういえば、姫島さんにはちゃんと家が無かったっけ? 神社を家って言うのはおかしいかもだけど……」

「その点なら心配いらないわ。ちゃんと両親がいるから」

「あぁ~…御両親がいるなら大丈夫だね~…って?」

 

 …あれれ~? 姫の記憶が正しければ、姫島さんのお母さんは幼い頃に死んじゃってて、お父さんとも敬遠しがちになってたような気が……。

 

「前の世界では、私の母は幼い頃に死んでしまっていたのだけど、どうやら転生神様たちは母も同じように生まれ変わらせてくれたみたいなの。今じゃ、お父さんと毎日のようにイチャついてるわ。娘の前であんなのを見せられたら、こっちの方が居た堪れなくなるし。だから、ちゃんと理由を言ってから、この家で姫子ちゃんと一緒に暮らす事を許可して貰ったの」

「そうだったんだ……」

 

 本当に粋な事しかしてないな、転生の神様たち。

 マジで足を向けて寝れないじゃない。

 

「私は、刑部姫様に御恩を返す為に来ましたにゃ!」

「同じくです。刑部先輩には何にもお礼が出来てませんでしたし、私も先輩に興味がありますから」

 

 そんなに気にすることは無いんだけどなぁ~…。

 姫はそんなに大したことはしてないんだし…。

 

「我、ずっと姫と一緒いる。もうお別れヤダ」

「オーフィスちゃん……」

 

 そんな純粋な目でお姉さんを見ないで~!

 罪悪感で胃に大きな穴が開いちゃうかもだから~!

 

「それじゃあ、早く食べて学校に行きましょうか。時間にはまだ余裕があるけど、急ぐに越したことはないし」

「え? 駒王学園もあるの?」

「勿論。私達の在籍記録もそのままになってますわ。学年も同じで」

「本当に徹底的なんだね……」

 

 神様が本気になるとは、こういう事なのか……。

 けど、学校に行くって事は、他の皆にもまた会えるって事になるのかな…?

 姫…一誠くんにどんな顔をして会えばいいんだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




緩やかですが、新章にして本編の幕開けです。

荒事? ないない。

戦闘シーン? あってたまるか。

マジで今度こそは、姫ちゃんを幸せ一直線にします。

そして、これまでにずっと立て続けてきたフラグを一気に回収していきます。

これからの展開に関する質問です。

  • 逆ハーレム!
  • 百合ハーレム!
  • どっちもありのドタバタ系ラブコメ

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