お姫ちゃんは引き篭もりたい ~TS系オタク転生者美少女の生存戦略?~ 作:とんこつラーメン
これもゲッター線の成せる技なのか?
駒王町の外れにある小さな廃ビルの一室。
昼間だというのにも関わらず、真っ暗になっているそこに、刑部姫が苦しそうに呻き声を出しながら横たわっていた。
「う…ぐぅぅ……!」
震える体を必死に支え、壁に手を付きながら立ち上がるが、すぐにバランスを崩して再び倒れ、その際に近くにあった机を倒してしまう。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
息が荒く、短い呼吸を繰り返すが、その顔からは汗などの類は一滴も出ていない。
既に発汗機能が無くなってしまったのか。
「なんで…なんで…
苦痛に顔を歪め、血が滲む程に力強く拳を握りしめる。
だが、傷口から出るのは血ではなくて黒い泥。
徐々に彼女は生物という存在を逸脱しつつあった。
「確かに…あいつらを倒そうとは思ったけど…けど……」
隣にあった金属製の棚を殴りつけ、それが大きく歪む。
殴った拳には傷なんてついていない。
「あそこまで…するつもりはなかった……!」
視界が滲む。頭の中で、憎悪と怨嗟の声が激しく鳴り響く。
自分の全てが黒く染まっていく感覚に、刑部姫は必死に抗っていた。
(姫の中で……『この世全ての悪』が叫びをあげている……!)
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圧倒的な殺戮衝動。
全てを壊せと、殺せと、呪えと『ナニか』が叫ぶ。
だが、今はまだそれに身を委ねる訳にはいかない。
彼女は壁に手を付き、必死に立ち上がろうとする。
今度はちゃんと屹立する事に成功するが、まだその足は痙攣していた。
「まだ…まだ……姫は『お前達』に負けるわけにはいかない……! 姫は…姫のままで戦わないといけないんだ……! じゃないと……ゴホッ! ゴホッ!」
咳き込んで、反射的に口を手で覆うと、掌についていたのは血でもなければ唾でもない。
ドロドロに溶けた怨嗟の泥だけがそこにあった。
「姫が死なせてしまった人達に……殺した人達に…申し訳が…ない…!」
体を落ち着かせてから、ようやく背筋を伸ばせた。
天井を見上げながら、少しの間だけ呆然とする。
(あれから何も口にしてないのに…全くお腹が空かない……。それに、眠気も来る気配が無い……)
人間の三大欲求。
食欲。睡眠欲。そして性欲。
今の彼女は、そのうちの二つを完全に失った状態にあった。
否、この様子ならば性欲ももう既に失っているだろう。
「ハァ…ハァ…ハァ……暗くなったら、街中に潜んでいる残りのはぐれ悪魔を全て倒してから……」
部屋の端の方まで行き、そこで小さく縮こまりながら足を抱えて座る。
「『あの人』の所まで行かないと……」
少しでも体力を回復する為に、眠れないと分かっているにも関わらず、そっと瞼を閉じた。
(昔の姫ならいざ知らず…今の姫なら『あの人』の所まで影を伝って行ける……。なんとなくだけど居場所も分かる……。『あの人』はきっと話せば分かってくれる……きっと…きっと……)
全身から力を抜き、刑部姫は本格的に体を休め始めた。
そんな事をしても、気休めにもならない事は本人が一番よく理解していた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
冥界 フェニックス邸
完全に日も暮れ、悪魔たちも眠りに付く時間帯。
それは、ここに住んでいる者達も例外ではなく、館全体が暗闇と静寂に包まれ、使用人たちも含め全ての者達が静かに就寝していた。
だが、そんな場所に一つの影がとある部屋にいきなり出現する。
影が出てきたのは、フェニックス家の三男である『ライザー・フェニックス』の部屋。
彼は上半身が裸の状態で眠っていて、シーツからは彼の非常に整った肉体が見えていた。
「…………なんだ?」
眠っていても悪魔としての勘は働いているようで、彼は自分しかいない筈の部屋の中に、自分以外の気配が出現したことを感じた。
音も立てずに顔だけを横に向けると、いつの間にか部屋の窓が開いていて、外からの僅かな光によって、自分が寝ているベッドから少し離れた位置に誰かがいる事を確認する。
向こうもまた、ライザーが目を覚ましたことを知り、一歩だけ近づいた。
「ライザー・フェニックスさん…だよね?」
「いかにも、俺はライザーだが…お前は何者だ? どうやって、この屋敷…いや、この部屋に侵入できた?」
最低限の警戒をしながらも、ライザーは全く攻撃をしようとはしない。
それは、目の前の存在を計り兼ねているからだ。
(本当に何者だ…? 足元などを見る限りでは女のようだが、敵意は全く感じない…。それどころか、気配自体が非常に希薄だ。本当に目の前にいるのか疑わしくなる程に……)
取り敢えず、敵ではないと判断したライザーは、影に隠れている少女への警戒心を解いた。
「ここには『影』と通じて来たの」
「影…だと?」
「うん。姫だけが使える裏技。悪用する気は無いけどね」
このままではアレだと思ったライザーは、自分もベッドから降りてから少女と対面する。
少女は相当に小柄で、だが、夜目に優れた悪魔であるライザーにはその顔がハッキリと見えた。
(眼鏡を掛けている……それに、肌と髪が異常なまでに白い…?)
自分と同じ悪魔か?
だが、影を通じて移動が出来るなんて芸当が可能な悪魔ならば、彼の耳にも聞こえている筈。
だが、ライザーは彼女の事を全く知らない。
「こんな時間に、あなたの部屋に入って本当にゴメンなさい」
「謝るぐらいなら最初からするな」
「そうだよね。姫もそう思う。けど、どうしてもあなたに伝えたいことがあったから」
「俺と話したいことがあるならば、普通に昼間に来ればいいだろう。何故に、こんな時間帯に来る?」
「時間が無いから。出来るだけ早くにお話がしたかったの」
「なんだと……?」
淡々とした口調ではあるが、同時に焦りの様なものも感じる。
時間が無いとはどういう意味なのか。
「ライザーさんは、彼女の…リアスさんの婚約者なんだよね?」
「その通りだ。どうしてそれを知っているかは……言わないんだろうな」
「ごめんなさい」
「ならば、これだけは教えろ。お前はリアスの知り合いか?」
「元…同級生…かな」
「同級生…駒王学園の生徒か」
成る程。それならば彼女が自分の事を知っていても不思議じゃない。
もしかしたら、彼女もまた『こちら側』に足を突っ込んでいるのかもしれない。
「お願いします。どうか彼女を…リアス・グレモリーを幸せにしてあげてください」
「なに……?」
見ず知らずの、初対面の少女から頭を下げての懇願。
しかも、自分の婚約者を幸せにしろと頼まれる。
流石のライザーも、これには驚きを隠せなかった。
「少し我儘な所はあるけど、でも優しい子なんです。だから……」
「お前……」
ここでライザーはある事に気が付き、徐に彼女に近づいていく。
「おい。まさか……」
「え?」
少女の腕を掴んで引っ張ると、その顔が淡い光の元に晒される。
その両目からは、一筋の涙が流れていた。
「……泣いているのか?」
「泣いてる……姫が…?」
自分の頬に手を当てると、そこには泥ではない透明な涙があった。
「まだ…姫に流せる涙なんてあったんだ……。でも、姫に涙を流す資格なんて……」
「涙を流すのに資格なんていらないだろう」
「そう…かな……」
掴まれている腕を振りほどこうとすると、それ以上の力で引っ張られ、ライザーと視線が合った。
「見縊るなよ」
「ふぇ…?」
「この俺が、ライザー・フェニックスが、目の前で泣いている女を見て何も思わないような男だと思っているのか?」
少しだけ険しい顔になると、ライザーは彼女の頬に手を当ててそっと撫でた。
「どうして、お前がここまで来て『リアスを幸せにしてほしい』と懇願するのかは分からないが、これだけは分かる。お前は…一人で何か大きなことをしようと思っているな?」
「…そんなに大層な事じゃないよ。姫はただ…『彼』の代わりをしているだけ……」
『彼』
それを言った途端、先程以上に涙が溢れる。
ライザーに支えられていなければ、今にも崩れ落ちているだろう。
「お前が何を成そうとしているのかが分からない以上、俺がお前に出来る事など何もないだろう。だが、そんな俺でも……」
頬に添えていた手を目の所まで移動させ、人差し指で少女の涙を拭った。
「お前の涙を拭うことぐらいは出来る」
「ライザー…さん……」
余りにもいきなりの事で、少女は本気で呆けてしまう。
もしも、これが普通の状態での出会いだったなら、間違いなく彼女はライザーに惚れていただろう。
「心配するな。フェニックスの名に懸けて、俺は必ずリアスを幸せにしてみせるさ。だから、お前はお前がするべき事をしろ」
「うん……」
やっぱり、彼は話せばわかる人だった。
ハーレムを作ったりして、女たらしな部分はあるけど、それでも……。
(彼の身内に向ける『愛』だけは本物だって信じたから……)
心から安心した。
これで、心置きなく『役目』に集中できる。
「そして、全てが終わったら、その時は俺の所までまた来い。お前を俺のハーレムに加えてから…お前の事も幸せにしてやる。必ずな」
「ハーレムの一員に加えるって言われて、姫はどんな反応をすればいいのよ…。でも…そーゆーのって……」
ライザーの力が緩んだ隙に掴まれていた腕を振りほどき、少女は数歩だけ後ろに下がって影の中に隠れた。
「なんか……ズルいなぁ……。生きていたいって……生き延びたいって…思っちゃうじゃん……本当に……ズルいよ……」
影に中に入り込んでから、この場を去ろうとする少女。
そんな彼女に、ライザーは最後の質問をした。
「お前……名前は?」
「聞いても意味ないと思うけどなぁ……」
「いいから聞かせろ。未来のハーレム候補の名前を覚えておくのも、王としての立派な役目だ」
「………刑部姫子」
「姫子…か。いい名だ」
「今日は話を聞いてくれて、本当にありがとう。それじゃあ…おやすみなさい」
その言葉を最後に、姫子は影の中に消え、音も無く去っていった。
「刑部姫子……か」
彼女の涙を拭った右手を見つめながら、暫くの間、ライザーはその場にずっと立っていた。
次回は、姫と出逢ったライザーのその後と、後は…未定です。
暗い話ばかり書いてると、自分のメンタルがガリガリと削られていくますね……。
別作品の更新でもして、少し休んだ方が良いのかな…?
これからの展開に関する質問です。
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逆ハーレム!
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百合ハーレム!
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どっちもありのドタバタ系ラブコメ