世界にゾンビが蔓延してる中、私はマザーらしい。 作:Htemelog / 応答個体
エルリアフ-たったそれだけで
ゾンビは如実にその数を減らしている。
"マルケル"ゾンビの発生はゾンビ側にとっても不測の事態であったようで、彼に感染し、彼となったゾンビは数知れず、しかしその地域一帯で必ずと言っていい程争い合い殺し合うため、今までの様な増加傾向をたどることが無くなったのだ。一地域で生き残る事の出来る"マルケル"ゾンビは一体か二体程。勿論生き残った個体は多分に漏れず強い個体であるのだが、感染源としての強みであった多大が消えた以上、人間への感染もまたその数を減らしているのである。
人類に追い風が吹いている。そう感じるのも無理のない事だった。
ジョゼフとミザリーは、各地を放浪している。
生まれ育った故郷は"マルケル"の巣窟になってしまった。もっとも今帰郷したのなら、殺し合った"マルケル"によってゾンビさえいない廃墟になっているのかもしれない。だが、人間もいないだろう。動植物だけが蔓延る街を故郷と呼べるほど、ジョゼフの心は強くなかった。
そう──ジョゼフの精神は、決して強くはないのだ。
彼の肉体は強靭だ。人間に許されぬ範囲まで強化に強化を重ねられたその肉体はまさに"英雄"と呼ぶに相応しい。彼の皮膚は切れ味の悪い刃物であれば傷一つ付ける事も適わないし、彼自身は飲まず食わずで一週間以上を活動できる。
少なくとも体の渇きが天敵で、一週間水分を蓄えないという状況に耐えきれぬゾンビよりも人を外れた存在になっていると言えるだろう。それも、大きく、だ。
それでも彼は、弱い。
すぐに不安になるし、悪夢にうなされる。過去の失敗への重責は彼の心を刺して離さない。割り切るという行為が出来ないのだ。それは優しいとも取れるし、悲観的とも取れるだろう。もし彼の傍にミザリーがいなければ、とっくのとうに彼は折れていた。かつての仲間を斬る事。子供の姿をした者を斬る事。傷付いた人間を、見捨てていくこと。
各地を周って、ようやくこの災いが終息に傾いてきたと感じても、それが覆る事は無い。
ミザリーに励まされて、慰められて、ようやく前を向くことが出来る──その程度のメンタルしか残っていないのだ。
少し前に出会ったゾンビの二人も彼の心を圧迫する要因だった。
意思の疎通が可能なゾンビ。人間並みの知性を持ち、多少は友好的で──気の良い、と表現出来てしまうあの二人。
その存在が一層、その後に相対したゾンビへの躊躇と繋がった。"マルケル"ゾンビはその名の通りマルケルの性格で、その誰もが、ジョゼフを見つけると嬉しそうに声を掛けてくる。友好的なのだ。友人のように、旧知の仲のように──あの時、自身が彼を殺したことを、何とも思っていないような顔で。
見た目は知らぬ者だ。老人。子供。若い男女。ジョゼフと同じくらいの軍人らしき男。ジョゼフの記憶にある母親のような見た目の女。
それが──全員、マルケルで。
確実な知性と、記憶と、快活さを持っていて。
それを、殺さなければならない重圧。
限界だった。
心を鬼にする。冷たい気持ちで対処する。
そんなことを何も感じぬままに出来るなら、あるいはジョゼフはゾンビの根絶に成功していたかもしれない。けど出来なかった。出来ないのだ。もう。もう。
「……ミザリー」
「ジョー」
もう──殺せない。
スクラップの剣を持つ手が震えている。相棒とまで呼んだ友人を、一体幾人殺しただろうか。ジョゼフが初めて殺した"マルケル"を始めとして──もう百人以上、ともすれば二百人以上の"マルケル"を殺している。相棒だ。親友なのだ。酒を酌み交わしたし、何度も二人で馬鹿をやった。くだらない話をした。時には背中を預け合い、時にはぶつかって取っ組み合い、そうして、けど、間違いなく仲が良いと言える関係だった。
その彼を。
あと何度殺せばいいのか。あと何度、あの顔に悪態を吐かれ──
「……くそ」
もし、マルケルがもっと悪い奴だったら。
小心者でねちっこく、陰湿で悪辣で、世界中の人間の不幸を願うような奴だったら、もう少しくらい気持ちは軽かったかもしれない。そんな奴と相棒になる可能性は見えないけれど、そういう奴だったら良かったと、そう思う。
マルケルは、良い奴だった。
ジョゼフに対し悪態を吐き、怒りを向け、その命を狙う。
けれどその死の直前には、ジョゼフの無事を願う。呪い殺すとか地獄に落ちろとか言っておきながら、死ぬなよ、とか、ミザリーちゃんを守れよ、とか。
殺してきたすべての"マルケル"が──自身の死を悲嘆するよりも先に、ジョゼフの幸福を想うのだ。
「くそ!」
つい先ほど、ジョゼフが殺した"マルケル"もそうだった。
垢抜けた青年の姿のゾンビ。中華系の顔で、勿論素性の知らぬ男だったが、ソイツも"マルケル"だった。今までの"マルケル"と同じようなことを言って、同じような反応をして──殺されるその直前に、ジョゼフを慈しむ。自身の死だ。脳に剣を突き立てられるという死を前に、どうしてその加害者の幸せを願える。
どうして、そんな──託す、みたいな瞳を、ジョゼフに向けられる。
手が震える。青年の脳に突き立てられ、そのまま地に突き刺さっているスクラップの剣。ジョゼフの愛剣は夥しい程の腐肉を啜って尚折れない。バスの板バネを改造して作られた剣だ。愛剣と呼ぶには余りにもお粗末なソレが、しかし赤黒く錆びて墓標のように見えた。
十字架を背負う。その行為は、ジョゼフの精神には余りにも重い。
「ァア──ッ!」
ミザリーを守る。それだけのために生きている。生きてきた。
けれどこれでは、このままでは先に、ジョゼフの心が壊れてしまう。
「ジョー」
「……ぁ、はぁっ、……あぁ、う、いや、い、いや。大丈夫……大丈夫だ。大丈夫だ。俺は大丈夫だから、大丈夫なんだ……大丈夫」
言い聞かせても、手の震えは止まらない。ずっと保ってきた感情の蓄積は決壊寸前だった。既に罅の入ったダムから零れ落ちているソレを、なんとか、なんとか繋ぎ止める。
繋ぎ止める。お願いだから、保ってくれと。
「大丈夫……大丈夫。大丈夫、なんだ」
「いやぁ大丈夫そうには見えねえけど」
「大丈夫……、っ!」
ミザリーを抱いて大きく離れた。愛剣を手放してしまった事が痛いが、ミザリーの安全が優先だ。
そうして顔を上げた──そこに。
つい先日出会った、少女の姿があった。
Э
「ワイニーが行方不明?」
「んー。ほら、この前言ってたゾンビの本拠地。行ってきたんだがよ、まぁそこに原因はなかった。ダメ元だったからそれは良いとして、ワイニーの奴がどっかいっちまったのがなぁ。アイツ、見た目通り子供だからよ、自分の身を守れねえはずなんだ。アイツもそれを理解しているから、一人で行動するようなことはないはずなんだが……お前ら何か知らねえ?」
「……俺達が知るわけがないだろう。にしてもお前、あれだけキザに別れておいて、戻ってくるとはどういう了見だ」
「うわっ、それ蒸し返すのかよ! ジョー、お前めちゃくちゃ辛気臭い奴になったな……。しょうがねぇだろー、絶対あると思ってた手掛かりはなかったし、昔の仲間に聞いたらそいつらも困っていると来た。というか本拠地のゾンビはほぼ全滅で、ワイニーまでいなくなっちまうと来た。傷心中なんだよ分かれよ馬鹿」
「ワイニー、大丈夫かな」
「んんんミザリーちゃんなんで今の流れでワイニーの心配なんだよ! 俺を慰めてくれよ~!」
少女の姿をした"マルケル"──先日出会い、何やら最終決戦に向かう、とでもいうような風体だったにもかかわらず、何の手掛かりも無く帰ってきたらしい。そんなんだからいつまで経っても昇格できなかったんだ、という言葉を何とか飲み込んだ。
けれど、気付く。そんな軽口を叩いてしまおうと思えるくらいには、心が軽い。今の今まで苦しんでいたにも拘らず、苦痛の要因と全く同じ"マルケル"ゾンビたる少女が、けれど安らぎになっている。
近くの岩に胡坐をかいて座り、快活に笑うその少女を改めて見た。認めた。
「……お前、右腕、どうしたんだ」
「お、気付くか。流石だなジョー。いやぁ島にいたゾンビにまた俺の偽物が居てよ、ソイツが強い強い。昔の仲間を乗っ取ったのか知らねえけど、めちゃくちゃ強くてさ、右腕全部持っていかれちまった。最後には俺が勝ったけどな! で、まぁ知っての通り俺はゾンビなワケだ。痛みとか無いから、千切れた腕集めて縫って、ほれ元通り」
「神経や筋肉はどうなって、」
「んなもん関係ねえよ、ゾンビだぜゾンビ。全身パッチワークのゾンビなんて珍しかねぇだろ、なぁ?」
「……適当だな、お前。本当に」
本当に。
……やっぱりコイツも、マルケルなのだ。あの時二人で一人のマルケルとしたけれど、やっぱり、コイツも。
「それで、どうするんだ。ワイニーを探すのか」
「まぁなー。一度面倒見るって決めたガキだ、いなくなったからそのまま放置、ってのは流石に寝覚めがわりぃ。まぁ寝ないんだけどな! ははは!」
「心当たりがあるの?」
「ない! どうしたらいいと思う?」
適当で、真面目。本当に。
──嫌になる程、突きつけられる。彼女も、彼らも。本当にマルケルなんだと。
「……一緒に行く?」
「なっ、おいミザリー!」
「いやぁ流石にそれは危ねぇよ、ミザリーちゃん。俺はゾンビでアンタは人間だ。感染の危険性は捨てきれねえ。昔の俺ならいざ知らず、今の俺に人間をゾンビにしたい、って欲求はないのさ。今の俺はまぁ、適当に、ずっと生きてられりゃそれでいい。飽きたら渇いて死ねばいいんだからな。アンタら人間は、短い寿命で勝手に死んでくれ。俺は散々悲しむからよ! 勿論墓も盛大に飾ってやるぜ」
スッと、何かが抜けるような感覚がした。
散々悲しむから、死んでいい。
「悲しみたいの?」
「んー、そういうワケじゃねえけどよ、嬉しい事だけあったら、味気ねぇだろ? ずっと楽しかったら、多分楽しくないぜ。危ねぇ事とか、ヤバイ事とか、悲しい事とか辛い事とか、いっぱいあって、色々あるから楽しいのが楽しいんだ。俺は嬉しい事や楽しい事に飽きたくねえ。から、アンタらが死んだらめいっぱい悲しむことにしたんだ。で、墓前で昔でも語ってやる。あの時ゾンビにしておけば良かった、とか散々悔やんで、仕方のない事だって割り切って、けど割り切れなくて、物に当たって誰かに当たって──なんだ、ジョーの馬鹿話とか思い出して、そうやって生きる。死にたくなるまで生きる。羨ましいだろ、もうやらんぞ」
「……悲しいのは、怖くないの?」
「怖いさ。嫌だよ、俺だって。身近な誰かが死ぬのは嫌だ。出来る事なら守りてぇし、障害を除去できるのならその手段に走りたい。が、それでいい。
ニッ、と笑う少女──マルケル。
思わず笑ってしまった。鼻で、馬鹿にしたように。
「お、なんだなんだジョー! やるか?」
「相変わらず馬鹿だな、お前。なぁマルケル、知ってるか。今、世界中に蔓延っているゾンビは、」
「ほとんど俺、って話か?」
「……ああ、そうだ。お前の偽物が沢山いるんだ。お前含めてな」
「
笑う。嗤う。
そうだろう。コイツは馬鹿だし、阿呆だし、頭が悪いが──頭が良い。
決して、何も考えない奴じゃない。
「でも、俺が本物だよ。俺が一番強ぇし、俺が一番、俺を俺だと思ってる。なんならあの街で死んだ俺より、俺の方が俺だ。お前よりも、ミザリーちゃんよりも、そこら中にいるどんな奴らよりも、俺は俺だ。──勿論、ワイニーよりも、な」
凄惨な笑みだ。認めよう。思い始めているとか、影を見た、とかじゃなくて。
こいつはマルケルだ。それも──あの時より、もっと成長した……相棒だ。
「ジョー。俺の相棒を名乗るなら、お前ももっと成長しやがれ。いつまでもミザリーちゃんにおんぶ抱っこじゃ見てられねえ。体だけ強くなって"英雄"気取りか、だらしねぇ。そんなんだからいつまで経っても昇格できなかったんだぜ」
「うるせえ、お前に言われたかねえよ」
「ミザリーちゃん、この馬鹿をよろしく頼むぜ……ミザリーちゃん?」
馬鹿のその態度に、ようやくミザリーの異変に気が付いた。
自身の肩を掻き抱いて、震えている。震えて蹲っている。
「ミザリー!?」
「……あ」
「お、おいおい、俺は何もしてねえぞ!? ワイニーから教わった近づいちゃやべぇ距離は取るようにしてたし、唾とかそういうのは出ねぇはずだ!」
「ミザリー、おい、ミザリー!」
マルケルの弁明はハナから聞いていない。どうでもいい。これは感染の症状とは違う。どちらかといえば、ワイニーがあの時に放ったリザという名を聞いた時のような反応だ。
けれどその時よりは──明らかに。
「悲しい、悲しみ、悲しく、悲しむ。悲しむ。悲しいのは怖い。悲しいのは嫌。悲しいのはダメ。ダメ、なのに。ダメなはずなのに。悲しいのは、怖い。悲しいのは、悲しくてはいけない。悲しいのは、悲しいのは……嫌な、はず、なのに」
狼狽している。呟く言葉に筋道はない。ただ、拒否するように、拒絶する様に──理解できない事を、無理矢理飲み込もうとしているかのように。
震えて、けれど。
けれど。
「ジョー」
「……ミザリー」
「ジョー。私は、ジョーが死んだら、悲しい。嫌だよ」
「ああ」
「でも──どうしてだろう。ゾンビになってほしくない。ああ、それは
とりとめのない言葉だった。
俺も同じだ、と言おうとした。
けれど、言えなかった。
「っ、ミザ、リー……?」
「おい……なんだ、それ……」
肩を掻き抱くミザリー。その震えは止まらず──何かがさらりと、零れ落ちた。
食い込む爪痕から。髪から。地に着いた足先、膝……そして、瞳から。
サラサラ、サラサラと。
落ちている。零れ落ちている。
水ではない。
「私は、役割。それを抱くはずはない。抱くのはもっと先のはず。その入力は、今後
砂だ。
砂が、ミザリーの全身から零れ落ちている。溢れ出している。
それはまるで、ミザリー自身が砂で出来ているかのような光景。
「ジョー。ジョー。ジョゼフ。私が──私が貴方を愛しているのは、おかしい」
「おかしくない。何を言っているんだ、ミザリー。おかしいなんてことはない。俺もお前を愛している。どうしたんだミザリー。ミザリー!」
「おかしい。おかしいの。貴方は"英雄"とされた存在。私は貴方を"英雄"とする存在。そこに愛情など発生しない。事実今の今まで、発生していなかった。感情の一片すら存在しなかった。けど、どうして? どうして、今、今、私は──悲しい?」
「ミザリー……?」
「どうして? ただ話を聞いただけ。感染者の一人の思想を聞いただけ。それなのに、今、私は感情を抱いてしまった。特別な感情。何故? おかしい。これはエラー。これはバグ。いいえ、おかしかったのは、おかしくなったのは、今じゃない。あの時。あの時──リザの名を、聞いた時」
とりとめのない話──と割り切るには、無理があった。
何か、とんでもない事を話している。何か悲しい事実と、認めたくない現実を話している。
その上で、今。
ミザリーは苦しんでいる。
「エラー。ERRORです。おかしい。このフィードバックは全体に共有してはいけない。なれば、今ここで」
嫌な予感がした。
咄嗟にミザリーを抱きしめる。
けれど、それが対処になることはなく。
「──自壊します。"英雄"の作成は現時点を以て終了とし──個体名ミザリーは停止します」
その言葉と共に、腕の中にいたミザリーが砕けた。
すべての色を失い、砂色だけを残して──砂山に。
「──」
「──」
言葉が出ない。
意味が分からない。理解が出来ない。何が起こったのか、認識できない。
それは勿論、マルケルも同じようで。
ただ、物言わぬ砂山が、荒野の風に吹かれていて。
無駄だと叫ぶ理性を捩じ伏せ、彼女だった砂を必死で掻き集めた。
言葉は出なかった。
Φ
ぱちぱちと燃える炎の横に、二人はいた。
ジョゼフとマルケル。彼らの横には元々食料を入れていた麻袋が置かれている。中身は、すべて砂だ。
無言の時間は、一日続いた。
耐えきれなくなったのは、マルケルだった。
「……すまねえ」
「……」
「多分、俺の……せいなんだろう。俺が、変な事言わなきゃ」
その自責は、けれど躊躇いがあった。それはそうだろう。感染させてしまったのならいざ知らず、自身の思想を受けて相手が自壊するなど──どうして考えられようか。
「すまねえ」
「……」
「殺してくれて、いい」
火が燃える。
火を焚いたのはマルケルだ。他、放心状態で座ったままだった彼を他のゾンビから守ったのも、マルケルだった。ジョー。ジョゼフは今、心がここに無い。
「……ジョー。お前が……何もしねえなら、俺は、もう、行く」
「……」
「すまねえと思うし、悲しいとも思う。だが、俺はワイニーの奴を探さなきゃならねえ。アイツは自分じゃ身を守れねえから、助けてやらねえと」
「ワイニー」
そこで初めて反応があった。
ワイニー。その言葉に、ジョゼフが反応を示す。
「あ、あぁ。ワイニーを探しに、」
「ワイニー。ワイニーだ」
「っ、何が……」
「ミザリーが言っていた。自分がおかしくなったのは、リザの名前を聞いた時だと。リザの名を彼女に聞かせたのは──ワイニーだ」
ゾンビの本拠地で消えたワイニー。
あの島で何があったのか。そもそも、それ以前に──ワイニーが何者なのか。
マルケルにとって、ワイニーはもう相棒の域にまで達している存在だ。その正体も恐らくそうだろう、というアタリがついている。
けれど、マルケルとワイニーの道中にリザという名前は聞かなかったし、ワイニーが
ならばいつ、彼がその名を知ったのか。
なれば何故、彼はその名を口にしたのか。
「ワイニーを探すぞ、マルケル」
「そりゃ願ったり叶ったりだが……お前」
「ワイニーを探すぞ。アイツが──全てを知っている」
「……わかった。わかったよ、ジョー。……世話の焼ける奴だな」
焚火が消える。砂の入った麻袋を担ぎ、墓標たる愛剣を携えるジョゼフ。
少女マルケルは、その姿に溜息を吐いた。
重症だ。けれど、マルケルとて真実は気になる。
ワイニーを探すという当初の目的に加え──彼から話を聞く、というのも視野に入れて。
あと、ワイニーを見つけたジョゼフが彼を殺さない様に見張る、というのも、考えながら。
「待っていろ、ミザリー……必ず」
「……なんだかね」
それじゃあ、俺達と同じだって、わかってんのかね。
なんて思いながら。
ジョゼフとマルケルは、歩を踏み出した。