世界にゾンビが蔓延してる中、私はマザーらしい。 作:Htemelog / 応答個体
少しだけわかったことがあった。研究が進んだ、と言えば聞こえはいいが、気付けていて然るべきだったともいえる。先入観が邪魔をして蓋をしていた。研究者にあるまじき失態だ。
それは
この島へ入り、秘された通路へと入り込んですぐ。彼は徐に口元へ手をやって、その手を見つめてから、なにもなかったかのようにまた歩き出したのだ。
偶然ではない。何度も検証し、エインにも問い質して、確信を得た。
アレは煙草を吸わんとする行為であり──ゾンビになってから得たものではない、生前の習慣から来た手癖であると。
エインは最初に知性を獲得したゾンビであり、元はこの島にあったホテルの経営者。ゾンビ化したホテルの従業員とホテルの客による蟲毒を勝ち抜いた上位個体であるが、言葉を解して尚生前の彼らしい行動をする事は無かった。VIIまでの今に至るゾンビと何ら変わらない、ゾンビとなってから獲得した知性と人格で動いていた。
それがどうだ。突然、何の前触れもなく、彼の身体は喫煙する事を思い出した。経営者であった頃の彼はまさにヘビースモーカーで、客の前に出ない限りは四六時中吸っているような男……だった。だったはず。
それで、これ。
これが生前の記憶でなくてなんというのか。
私はすぐさまエインの身体を調べにかかった。ゾンビは睡眠を必要としない故人間用の睡眠薬なんかは効かないが、菌そのものを不活性化すれば簡単に停止する。そうやって繋いだ検査機からデータを……主に脳に関するデータを取ってみれば、なんとなんと。
なんと、脳に僅かな活性が見られたのだ。
ゾンビである。死体である。既に生命活動は停止しており、この肉体を我が物にした菌によって動かされているに過ぎない身体の、その脳が。
あり得ない。
なんてことは、ない。
それは実に簡単な話だった。
ゾンビ化細菌が脳へと達し、生命活動を停止させ、その後再活性した細菌。この状態における細菌はいわばヤドカリのようなもので、人間の肉体を着ているゾンビ化細菌、という見方になる。そこから肉体を効率的に動かせるよう脳の掌握をして行って、それによって走ったり攻撃したり、果ては喋ったりと出来る事が増えていくのだ。
つまり生前の行動を無意識的に再現した、というのは、菌の脳掌握率が記憶域まで……ほぼ最大限にまで達した、という事。
となると、ここからエインは時間をかけて人格や記憶を取り戻していくのだろうか?
その場合現在のエインの人格や記憶はどうなる? 生前の記憶とのスイッチは何時になる? 今のゾンビ達への仲間意識は? それとも、記憶や人格はただの知識として、エインはエインのままになる?
今のゾンビが生前を覚えていないのは当たり前だ。脳の主導権とでもいうべきものが菌に移っていて、記憶や知識といった不要なものを後回しに、生存能力だけを高めた結果が現在のナンバーゾンビ。私の研究であるところの死者蘇生はほぼほぼ完成していて、足りなかったのは時間だと……その可能性が出てきた。
それがそのまま、失態に繋がる。
今現在、ゾンビは大陸中にいる。ナンバーゾンビも同じで、時たま帰ってくる事はあるものの、基本は自由だ。
それじゃあいけない。
それじゃあ、危ない。
先日映像記録で見たゾンビをいとも容易く屠る人間。彼だけでない、世界中にゾンビを殺し得る──活動停止へと追い込み得る人間がいくらか存在している。それらのすぐ近くにナンバーゾンビがいる。私が記録の出来る状態で殺せ、なんて言ったから。
今必要なのはサンプル数だ。
七体しかいない。七つしかケースが存在しない。そんな恐ろしい事があるだろうか。
「ぅ……マザー……?」
「おはよう、エイン」
「俺……私は、何故横に……」
「ヴィィまでの全員を呼び戻したいんだけど、出来る?」
「状況が……掴めませんが、マザーの御心のままに……」
菌の再活性を促したエインに対し、
立ち上がり、ふらふらと歩いていくエインを尻目に、もう一つの考え事を進めていく。
エインとイヴの違いについて、だ。
ゾンビ化した時期が二か月ほど違うこの二体。エインはほとんど島外……世界中を旅していて、逆にイヴは九割方島内にいる。
あと二か月でイヴがエインと同じように生前の行動をするようになるのなら何も問題は無い……が、ならないのなら、必要なものが自ずと見えてきてしまう。
島外での経験。あるいは昨日と違う今日、か。
人間の脳機能を考えれば、変わらない毎日と激動の毎日では体感時間が恐ろしい程違ってくるもので。それがそのまま……俗っぽく言うのなら"経験値"のようなものとして蓄積するのであれば、島内で手厚く保護するのはむしろ悪手。
危険な外の世界での放し飼いが適切、ということになってしまう。
貴重なサンプルを管理できない場所に放っておかなければいけない、というのは恐ろしく、しかしそうでなければサンプルとしての意味が無いというのならそうするしかない。一応二か月、様子を見て、それで。
もしそれで、放し飼いが適切であると判断することになったのなら。
……色々考えておかなければならないだろう。あるいは、私の日常の切り崩しも。
Г
「
「っ……申し訳ございません! イースは帰還の拒否を、ウィニは行方さえわからず……」
「そっか。うん。とりあえずみんな、私が良いって言うまでこの島を出ないでね」
「承知いたしました」
恐れていた事態だ。現行の知性ゾンビに価値は無いと思い込んでいたから、発信機なんかを付けることがなかった。その結果がコレ。
三番目と六番目が戻らない。行方が分からない六番目も気がかりだが、何より帰還を拒否した三番目が手元にないのが焦燥を生む。
だってそれ、確実に生前の記憶取り戻してるじゃん。
イースは少年ゾンビだ。イヴと同年代くらいの少年で、知性ゾンビにしては珍しく身体部位に特異さや肥大が見られない。ただし知性の吸収能力の高さは全ゾンビ最高で、機械の使用や絵画、音楽といった芸術への理解、更には電子機器の使用までも熟す程。
それが少し見ない間に記憶を取り戻し、帰還を拒否するにまで至ったとなれば、次に見えてくるのは一つしかない。
即ち、
私は単なる一研究者である。であるにも関わらず、ゾンビ全体への命令権を持っている。けれどそれは偏にゾンビ側が私を仰ぎ見ているからであって、私にそういう指揮能力が備わっているわけではない。
死者蘇生の研究者として、生前の記憶を取り戻し、私へ反旗を翻すにまで至った事は非常に喜ばしい事だ。しかし彼自身が手元にいない。それが惜しくて惜しくてたまらない。彼の状態を、彼にある菌と脳のサンプルを取る事さえ出来れば、あるいは時間をかけずとも、経験を積ませずとも死んだ直後に記憶を引き継げるゾンビを生み出せるかもしれないというのに。
……それに、アイズも心配だ。
彼にはあのジョーという人間を殺すよう命令をしていた。完璧な記録が出来る状態で、というのは彼にとってハンデに成り得る。記録が出来ない状態では逃げなければいけないだろうし、それを妥協する、という考えは思いつかないだろう。
あるいは、エインとイースが記憶を取り戻しつつあるのだから……アイズも、なのかもしれない。
行方のわからないウィニに関しては気を揉む意味が無いので考えないようにして……どうするべきか、という所。
逡巡は一瞬だった。
「研究者たる者、現地に赴かないでなんとする……みたいな」
行こうか、アイズとイースを探しに。
Р
砂の舞う廃街──元々治安のよい場所ではなかったけれど、少なくともあちらこちらに黒い影が揺らめき立つような、魑魅魍魎に塗れた街ではなかった。そう、彼は憶えている。
名も知らぬビルの屋上に立って見下ろす砂の街に無事な場所は一つもない。奴らの発生からそんなに長い時間は経っていないのに、その有様は何十もの年月を経たように感じられた。
「……変わったな、この街も……」
彼がそう、芝居がかった口調で呟くのは、それを言葉にしたのは、彼の背後にその言葉を聞く存在があるからだ。
バスの板バネを用いて作った剣を肩に担ぎなおして、ゆっくりとソレに向き直る。
屋上の縁に腰かける長身の男。肌の色に明るい所はなく、薄く、白く、灰緑色のそれが覗くばかり。何やら思いつめたような顔でしきりに手を握ったり開いたりを繰り返した後、男は彼の言葉に対して小さく「あぁ……」と返事をした。
「……ジョー。ジョゼフ。……お前は、誰だ。何故俺は……お前は憶えている?」
「俺は初めて見た時から気付いていたぜ、マルケル。久しぶりだな、でいいのか?」
「マルケル……? 俺の名前は……アイズだ。アイズ。マザーに頂いた名前……」
時折顔を顰め、頭を抱え、苦しむ様に嗚咽を漏らす。
全く以て人間らしいその行為にジョーは苦笑を返すしかなかった。
ゾンビだ。見た目は勿論、一日前までは他のゾンビ達と共にジョーや生存者たちを襲ってきていたゾンビの幹部格。罠や武器というものを理解するゾンビよりも更に上位存在だろう言葉を話すゾンビは、昨日までは最大の脅威と言っても過言ではなかった。
それがどうだ。
今朝になって尾行けられている事を確認し、誘い出したこの屋上で──しかし襲い掛かってくる気配がない。
まるで今起きた、とでもいうかのように。
まるで今何かを取り戻した、とでもいうかのように。
言葉を話すゾンビは……アイズと名乗った、ジョーの記憶にある限りはマルケルだったはずのゾンビは。
「……貴様を殺してこいと言われた。マザーの御心のままに……」
「なぁ、さっきから話してるマザーってのは誰なんだ。
「マザーは……俺達を生み出してくれた御方だ。あの方無ければ俺達は無い……」
「へぇ。ソイツはどこにいるんだ?」
「……」
「ソイツがお前の行動を縛ってるっていうんなら、俺がソイツをぶっ殺して──」
次に鳴ったのは、鉄と鉄がぶつかり合う音だった。
知覚できた人間の数は限られるだろう。音が鳴ってから鳥が飛びだったくらいには、速かった。
いつの間にかジョーの目の前にアイズがいて、彼らの間で板バネの剣の腹と金属の入った靴底が拮抗している。上半身よりも強くしなやかに進化しているらしいその脚部から放たれた蹴り。それは、コンクリートの壁程度であれば容易に砕き崩せるほどの威力があった。
少なくともそんな、錆びた鉄くずでは受けきれないほどの威力が。
「っ……重いな、今までの奴らとは比べものになんねぇ! しかし、ひでェじゃねえか。今の今まで楽しく談笑してたってのによ!」
「マザーを害さんとする者に容赦をするはずもないだろう……悩むのは後だ。今ここで、死んでもらうぞジョゼフ」
「相変わらず頭の固いヤローだな! それで死んだことも忘れちまったか!」
ジョーの太い腕から振り下ろされるスクラップ。アイズが避けるたび、それはコンクリートの屋上へ深い穴をあけていく。どれほどの力が込められているかなど、考える迄もない。何より今まで見てきたアイズの同胞……言葉を解さぬゾンビ達の死骸を見れば一目瞭然というものだろう。
即ち、
「この街も、世界も変わったが──お前は変わらないな、ジョゼフ!」
「ははは! 人間がそう簡単に変わるかよ! そんで、そりゃお前も同じだぜ、マルケル!」
口が勝手に動くのをアイズは感じていた。発さんとした言葉を遮って、
剣と蹴り。武器を使う事を覚えたゾンビよりも上位の存在であるはずなのに、そこまで肉体性能に拘る理由は何か。銃ではなく近接武器を持ったのはなぜか。ジョーとアイズは、互いにその理由がわかっている。
「実感するか! 生を!」
「死んでいる奴に言うセリフじゃないが……ああ、と答えておこう」
打ち合う度に体が軋む。久しく忘れていた感覚がアイズを襲う。
ずっと熱に浮かされているようだった。体の感覚がない──何の匂いも感じないし、何の音も聞こえない時間が長らく続いた。少し経ってから音が聞こえるようになって、匂いがわかるようになって……今。今。今、痛みを感じている。
痛いのだ。ジョーと打ち合う足が。否、全身が。全身が痛みを訴えている。
生きていると叫んでいる。
ガン、と強く、互いを弾いて距離を取った。
「よぉゾンビ野郎。今悩んでるか?」
「俺がうだうだ悩むような奴に見えるのか? 見えるのなら、目が腐り落ちていないか確認する事を推奨するよ」
「じゃあ聞くがよ、お前、誰だよ」
「マルケルだ。辛気臭い……ゾンビのアイズ、なんて奴じゃねえ。ジョゼフ。お前に殺されかけたマルケルだよ」
ジョーは、ふぅ、と大きく溜息を吐いた。
武器を降ろす。そして。
「ぐっ……?」
眩暈を感じた。突然だ。唐突だった。
頭を持ち上げる事も出来ず、膝を突き、コンクリートの屋上に倒れる。意識が上手く保てない。瞼が閉じようとする。
それを、なんとか、なんとか繋ぎ止める。
「ま……マザー!? どうしてここに……」
「良かった。殺されてなくて」
「お、私を心配して……?」
音は聞こえている。けれど身体は動かない。
マザーなる存在がジョーを昏倒させた下手人だろうことはわかる。だから、一目でも、彼の存在を視認しようと顔を動かす。
「マザー……この男を、どうなさるおつもりですか」
「うん? 殺すんじゃないの?」
「……マザー、私は……」
足元が見えた。女性の足だ。その上は白衣……研究者か。
素足は晒されていない。ゾンビなのか人間なのかはわからない。自我を取り戻したマルケルがすぐに襲い掛からないのは、何か武装をしているからか、ゾンビを引き連れているからか。
「アイズもしかして、記憶が戻ってる?」
「ッ……流石はマザーです。そのご慧眼……」
「うん。ラッキーだね。じゃあ、行こうかアイズ。これ感染させたら、すぐに島へ帰ろう」
「マザー……」
島、と言った。島。それが敵の本拠地か。
手の感覚。愛剣の硬さを確認する。握れる。握る事が出来る。痺れた感覚を取り戻していく。暗闇に落ちかけた視界を掬うように、少しずつ、少しずつ。
ジョーの耳は彼らの会話を捉え続ける。
「アイズ?」
「……申し訳ございません、マザー。私は……俺は、もう貴女の元へ帰る事はありません。そして、この男を……いえ、人間を殺す事も、もう無いでしょう」
「え」
「貴女に蘇らせていただいた恩は忘れません。故に、貴女に危害を加えるつもりはない。出来得るのなら、即刻この場を立ち去っていただきたい。島の皆に別れを言えないのは悲しいですが……私はもう、アイズではない。無くなってしまった。否、取り戻してしまった」
笑う。ジョーは、その言葉に嗤う。
もうマルケルは正気を取り戻した。ゾンビを人間に戻す事が出来る、など。どれほど甘美な情報か。どれほど希望に満ちた事実か。
マザーと呼ばれた親玉の動揺が伝わってくる。世界は救う事が出来るのだと言っているようなものだ。
「私は、俺は、マルケルです。マザー……世界を未曽有の危機に晒した大犯罪者。どうか、今すぐに俺の前から消えて欲しい」
「へえー……生前の方の人格が勝るんだ。なるほど、なるほど。じゃあアイズは消えたのかな。アイズとしてやってきた事は憶えていないの?」
「マザー! 俺は貴女を蹴りたくはない……どうか、消えてくれ! どうか!」
「覚えていて且つ生前の常識が勝ったって感じかな。うんうん、とてもいい具合だね。その状態のサンプルを取りたいから……一旦停止してもらおっか」
不穏な言葉が聞こえたタイミングで、ジョーはスクラップの剣を思い切り振り抜いた。手応えは無い。
ジョーはそのまま、剣を杖として、ゆっくり立ち上がる。荒い呼吸を繰り返しながらも……しっかりとその両足で立つ。
そして改めて両目を開いた。
少し離れたところに、こちらを驚いた顔で見つめている女性。整った顔立ちは人種を眩ませ、薄い白金色の髪が浮世離れした感覚さえ覚えさせる。
こいつがゾンビの親玉。世界をこんなことにした原因。
「結構強い神経毒だったんだけど……ホントに人間?」
「昔から……丈夫さが、取り柄でな。よぉ、アンタが……マザーか。ゾンビ共の親玉。アンタを殺せば、少なくとも新しいゾンビは生まれなくなる。そうだな?」
「うーん、どうだろう。新しい種類のゾンビは生まれなくなるかもしれないけど、私が死んだ瞬間にゾンビが全て死滅する、ってわけじゃないから、あんまり現状は変わらないと思うよ」
「今いるゾンビを全滅させりゃ良い話だ、それは。アンタさえいなくなりゃ、この世界を壊してえって思うヤツがいなくなりゃ、この世界にも未来が見えてくる」
「私は死んだ人を生き返らせたいだけで、世界を壊したいわけじゃないんだけどね」
死者蘇生。そんな、子供でも無理だとわかるものを掲げて、世界を滅茶苦茶にしたというのか。
悪びれる気配のないその女に──ジョーは突然、斬りかかった。
「わっ」
「……!」
「っ、おいマルケル! なんで守るんだ!」
それを防いだのはマルケルで。彼は自身の蹴りで、ジョーのスクラップソードの軌道を逸らした。その顔に浮かぶのは明らかな動揺。
「ジョー、頼む見逃してくれ! マザーは……恩人なんだ。マザーだけは──」
「おやすみ、アイズ」
倒れる。倒れた。
マルケルは突然電源の切れた玩具のように四肢をだらんと垂れ下げ、マザーと呼ばれる女性の腕にしな垂れかかる。マザーの片手には注射器のようなものが握られており、その針はマルケルの首筋へと突き刺さっていた。
「みんな、それ、もう要らないから……いいよ」
彼女を守らんとしたマルケルへの仕打ちに怒り狂うジョーへ向けて、"マザー"が許可を出す。
途端、ビルの外壁を無数の影がよじ登ってくるのがわかった。老若男女様々な──屍。紛う方なきゾンビ。ゾンビの群れ。あの女がゾンビの親玉である事を決定付ける光景。
それを前に、ジョーはすべての加減を止め、女に斬りかかる。その腕に抱かれたマルケルをも巻き込むコースで放たれた斬撃は──しかし、そこへ身を躍らせたゾンビの群れに阻まれた。ただのゾンビではない、肉厚の身体を持つゾンビ。腹部肥大と呼ばれる上位ゾンビが揃いも揃って"マザー"を守っている。
背後から駆ける足音。横合いから空気を裂く音。周囲から水音、衝撃音、そして何よりも──普段ゾンビから感じることの無い、明確な殺意。感染させるためでなく、マザーを害す者を殺さんとするその意思がそこにはあった。
「逃がしたか。……ふん、随分と慕われていやがる。マルケルみてぇに戻せる可能性が見えた以上無闇に殺すのは気が引けるが……襲ってくるなら、仕方ない」
既に女の姿は見えなくなっている。ビルの屋上だ。どこへ逃げたというのか。
ただ、それを考えるのも調べるのも後だと独り言ちるジョー。
目の前に、周囲に広がる敵を殲滅せんと──板バネの剣を強く握りしめた。