「熱が……あります、ね」
「えぇ、マジで?」
なんか頭がボヤァってすんなぁ、とは思ってたけど熱か。昨日ちょっとの距離からいいかと思って雨の中走ったのがよくなかったな。
心配そうにしている玲さんに、俺はすぐさまベットへ戻される。『心配』が先にあると距離が結構近くてもバグんないのか。そんなに過保護にならなくていいと思うんだけど。
「食欲はありますか?」
「んー、そんなにない、かな」
「では朝食にはリンゴでも剥きましょうか」
キッチンへとかけていく背中をぼんやりと見つめる。わざわざ剥いてもらうのはちょっと申し訳ないな、と立ち上がろうとして、ふらりと身体がベッドに戻ったことで、自分の体調が思っていたよりも悪いことを悟る。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
じー、と見られながらだと少々食べにくい。俺を心配そうに窺っている玲さんに顔を向け、少し考えて玲さんを見て顔を傾ける。
「あーんとかしてくれないの?」
「へぇあっ、え、あ?」
「ははっ、じょーだん」
慌てる玲さんをニヤニヤ眺めながら、綺麗に切られたリンゴを口に運ぶ。
あ、という言葉を連呼して動揺していた玲さんは、自分が面白がって見られてることに気づき、頬を膨らませた。
「ごちそーさま」
「はい、お粗末様です」
「ん、ありがと」
お皿を引き取られ、枕元には飲料水などが用意されていく。
「あ、そうだ。楽郎君、ゲームはしちゃダメですからね」
「え」
「ゲームは、ダメです」
「いや、でも」
「ダメです」
「あ、ハイ」
威圧感を発している玲さんにたじろいで頷く。
「楽郎君のお母様にも聞いてますよ。ご実家ではちゃんと病気の時は療養していたんですよね?」
「ハイ」
「でしたらきちんと寝てください」
「ハイ」
ゲームは絶対しちゃダメですよ、と念押しされ、大人しくベッドに潜る。
信用が無ぇ。いやでも確かに言われなかったらこの体調でも変わらずログインしただろう。心配かけてるな。少しむず痒い。
大人しく瞼を閉じると、思っていたよりもすぐに眠気が襲ってきた。
「楽郎君? 眠ってしまいましたか」
瞼は開けられないけど、玲さんが近寄ってきたのはわかった。
「好きですよ、楽郎君」
頭を優しく撫でられる感触。
「はやくよくなってくださいね」
柔らかな笑みがふってくる。ふわふわと微睡みに包まれ、俺は完全に眠りに落ちた。
……
…………
………………
「あ、楽郎君起きましたか?」
「ん、はよ」
「はい、おはようございます」
起き抜けだからか、ぼーとする頭で返答する。
「あ、あのっ、おかゆ……食べれ、ますか?」
「うん」
頷くと、キッチンから玲さんが器を運んでくる。
「えと、ですね……」
「うん?」
布団の側に座り、躊躇いがちにこちらを見ていた玲さんは、意を決したようにそれを掴んだ。
「あ、……あ、あーん」
目をつぶりながら、こちらに向けられたぷるぷると揺れるスプーンに一瞬動きが止まる。真っ赤になりながら先ほどできなかった事を頑張っている玲さんに、可愛いな、と思いながら俺は口を開いた。さて、どれだけこぼさず食べれるかね。
共に時間を重ねれば、玲さんは楽郎くんに注意する事ができるようになると思っている。