「らくろ……君?」
普段は完璧を崩さない人が今日は抜けていて。いつも顔が赤いからか、玲さんは熱でもそんなに変わらない色をしている。
「えと、ゆめ……ですか?」
ぽわりとした、焦点が合っていないような目で俺を見ていた玲さんは、ふと俺の手に顔を擦り寄せ、ふにゃりと笑った。
「あー、」
普段は触れるだけでバグり散らすのに、そんなことをするからに、この人は。
玲さんと付き合い始めて少し。デート、逢い引き、まあ名称はなんでもいいが二人で出かけ、次の日。玲さんが熱を出したとの連絡が斎賀家からもたらされた。
お見舞いを、と斎賀城に来た訳だが、寝ていた玲さんは俺が来た物音で起きてしまったらしい。
すぐそばにあった俺の手を取ってその熱い顔に当て、まだ寝起きではっきりとしていない雰囲気で、玲さんは俺から手を離さない。
ふと、閉じられていた目が開いて俺を見た。
「わたし、らくろくんのことが、すき……なんです」
いきなりの不意討ちに、ぐ、と一瞬言葉が詰まる。
「……うん、知ってる」
勘弁して欲しい。熱でバグる回路が死んでるのか?
───普段はそんなこと、バグって言えない癖に。
「ほんと、ですか?」
「うん」
付き合い始めた時に知った玲さんの気持ちは、知っていれば非常にわかりやすく、毎日のように好意を実感させられる。赤くなる頬も、不審になる挙動も、詰まる言葉も、バグっているのも。いちいち俺に好意を示す。
だけど、玲さんはそれを口には出さない。正しくは
そんな俺の内心を知ってか知らずか、いやたぶん知らないんだろうけど。玲さんはなにかを懐かしむように遠くを見た。
「ずっと、ずっと前から、らくろくんのことが、すき、で」
「わたしのせかいを、あざやかにしてくれて」
「……うん」
「こういうことを、つたえられればいいのですが」
「起きてるときは、いつも勇気がでなくて、いえないん、です」
好意を言葉にできない事を気にしてるのだ、といった事を、ぽつぽつと熱によってか拙い口調で言う。
「つたえられたらいいなぁ、って、いつも」
そこで言葉を切った玲さんは、遠くを眺めていた目線をこちらを向けた。
「らくろ、君」
「…………なに?」
ぽやぽやしながら俺の目にはひたりと視線を合わせる。
「らくろ君のこと、すきだっていえるまでがんばるので、」
切実さを滲ませ、ぐっ、と俺の手を強く握った。
「……まってて、くれますか?」
その言葉に、色んなものを飲み込んで、意志がこもる瞳に応えるようしっかりと目を合わせる。
「……うん」
─────待ってる。
俺がそう言うと、玲さんはふわりと笑い、すーすー、と寝息をたて始めた。その安らかな顔を見てドっと脱力感が襲ってくる。離されていない手とは反対の手で、俺は自分の髪をグシャリと握った。
「伝わってるんだよなぁ」
吐いた息は、言葉にならず消えた。
……
…………
「えっと楽郎君が出てくる、夢を、見ました」
「あーうん。はいはい。そういう処理なのね」
「え?」
「いや、なんでもない。そうなんだ」
目が覚めて「なんで楽郎君がここに!?」などとバグった玲さんは、眠ったからかいつもの顔色……、いや、この赤さは熱なのかバグってるからか判断がつかない。しかし、先の夢の中にいるようなほわほわとした雰囲気は消えていた。
「えと、」
「ん?」
なにかを覚悟をしたように、布団の端を握り、俺を見る。
「楽郎君に、伝えたい事が、あるんです」
「うん」
「まだ勇気がでないので……もう少しだけ、待っててくださいますか?」
不安そうに俺を見上げるので、頬杖をついて安心させるように笑う。
「……うん。俺はいくらでも待つし、玲さんのペースでいいからね」
俺が今どんな気持ちかわかってないのが少し癪で、俺は手を伸ばして玲さんの頭を撫でる。一瞬なにされてるのかわからなかったのかフリーズしたあと、玲さんはいつもみたいにバグった。