「ふふ、それでは、今日はどこへ行きましょうか」
帰り道。『また、ゲームでも、すぐ会えるのですが……もう少しだけ、えっと、いい、ですか?』なんて言われて、毎日のように道が別れる手前にある公園で話すようになったのは、付き合ってから、わりとすぐの事だ。
こちらに笑いかける玲さんは、もうすっかり、とは流石に言えないが、かなり俺に慣れたようで、バグることも少なくなり、穏やかで、あー、……可愛らしい、顔をして、いる。
「あのさ、」
「はい」
俺が言い淀むと、あ、今日はシャンフロじゃなくて別のゲームをしますか? と玲さんが朗らかに返してくる。その声色にもまた、申し訳なさがつのった。
「いや、そうじゃなくて」
「へ?」
ええい、ままよ。
「……無理、させてない? こんな……ゲームばっかでさ」
俺が生粋のゲーム中毒なのは、もう仕方のない事だが。ゲームばかりやっていて、二人っきりで出かけるのも、普通の恋人よりはずっと少ない。昨日、玲さんとは毎日のようにゲームをしてる、と瑠美に話した時に言われた『え、それ玲さんに無理させてんじゃない?』という言葉が脳にリフレインする。
玲さんは廃人なれど、ごく普通な女の子な訳で。滅多にデートにも連れていかず、自分の趣味に付き合わせ続け、アフターケアも不完全。そんなんだから、『お兄ちゃん、玲さんに甘えすぎ』という耳に痛い忠言には、非常に心当たりしかなかった。
そんなんだから、愛想つかされても仕方ない、とよぎった疑念は、彼女がいくら俺のことを『好きだ』と言ってくれていても、否定するには心もとなく。
「…………なんかじゃ、ない、です」
頭で考えていたのもあって、ぼそり、とつぶやかれた小さな声を聞き逃してしまい、「ごめん、今なんて?」と聞き返す。なぜかいつもよりいっそう赤い顔をした玲さんは、俺を見ながら口をハクハクとさせ、それからこぶしをぎゅっと握りしめた。
「……ですから、無理なんかじゃ、ない、です」
「……え?」
疑問の声を上げた俺に、焦るように玲さんは手をバタバタ振る。
「えっと、ゲームでも……どこでも。楽郎君と過ごせるなら、私は楽しい……です、よ?」
ぴしり、と自分が固まった音がした気がした。俺が言葉を返さないからか、玲さんはそのままあせあせと言葉を続ける。
「えっと、あの、そ、それに……前にも言いましたが」
「私は、楽郎君が楽しそうにしてるのを見て、目で追いかけ始めて、」
「……だ、だから、その、楽しそうにゲームしてる楽郎君が、す、……
「つ、つまりっ! そんな、楽しそうにしてる楽郎君の隣にいられるなんて、本当にただそれだけで、私は幸せだなぁって」
あ、でも楽郎君が好きな難しいゲームはちょっとやるのは大変ですけどね、なんて冗談めいた声で言われて、もう無理だった。べしんっと叩く位の勢いで、俺は自分の顔を覆った。
───あー、くそ。一番最初に言われた言葉だけでもダメだったのに、さらに追撃してくるとか、オーバーキルだろ。
カッと顔に集まった熱で、そこら中真っ赤になってる自覚がある。心臓も耳から鳴ってるんじゃないかってくらいうるさい。
「楽郎君!? えと、あの、私、なにかおかしな事を言ってしまいましたか……?」
指の隙間からのぞく玲さんが、俺を心配そうにのぞいてて、ああ、俺はこの人にきっと今後も勝てないんだろうな、なんて悟ってしまった。玲さんは、本当にズルい。当たり前のようにそんなことを言うのだから、もう堪らない。
そんな玲さんに手も足も出ない俺は、まだ手を自分の顔から引き剥がせないまま、ただ「大丈夫、……なんでもない。なんでもないから」だなんて返すことしかできなかった。
(惚れた方が負け、とはよく言ったもので。俺は、この人に勝てないのだ)
50000000000000回言ってますが、楽玲はお互いがお互いに『自分の方が振り回されてる』って思ってて欲しいです。
付き合ったばっかだと思います。まだ認識のすり合わせの最中。