本番は飛ばしたけど、R前後の話です。
本日二話目
◇
「あのっっ」
「ん? 玲さんどうしたの?」
なぜか少し意地悪気な顔で笑う楽郎に、玲はありったけの勇気を込めて話しかける。
今日こそは、と楽郎に対し夜のお誘いをしようと試みて現在三日目。前回誘おうとしたときは楽郎が自ら来てくれたが、毎回そうにもいかないだろう。受け身じゃなにも変わらないことを、玲はすでに知っているのだ。
「えと、ですね……」
いざ誘おうとなると、先程までの勢いが萎んでしまい、玲は俯くことしかできない。自ら誘おうとすることのハードルの高さを実感し、諦めの感情が襲ってくる。
「うん」
優しげに頷いた声にそろりと顔を上げる。その顔に促されるように、玲は楽郎の裾を握った。
「あのっ……しっ、しっっしまっ……しま、せん……か……?」
さもすれば聞き取れないのでは、という程の小声で、されど彼女は言いきった。
楽郎は笑いながら、玲をのぞきこむ。
「なにを?」
「なっっえっと……」
玲は衝撃を受けた。無理だった。これ以上は言えない。無理である。『しませんか?』と聞くだけで勇気ゲージを使いきっていた。回復するには時間が必要だ。
「えっと、あの……………………しゃ、シャンフロを……」
がくりと肩を落とす。したいと口に出すことのなんと勇気のいることか。玲はもうキャパシティーオーバーだ。
真っ赤に熟れ、落ち込む様子の玲を見て、楽郎は喉で笑う。
「そこでシャンフロって言っちゃうあたり玲さんだよなぁ」
ね、玲さんと呼びかけられたので彼の顔を見ると、たいそう意地が悪く、そして色気を孕んだ表情を浮かべ笑っていた。
「ねぇ本当にシャンフロでいいの?」
「いや、あの、」
「……俺はさすがにもうお預けを貰うのは無理かな」
その言葉で、わかって聞いていたんだと悟る。
「ねぇ玲さん」
言って、と。耳元で囁かれ、息がかかった。
玲は楽郎に懇願されたら断れないのに。彼が玲を見るその目の色が、欲望を確かに伝えてきていて。頭がくらくらする。熱が身体中に灯り、視界は滲んで、もうダメで。どうにでもなってしまえ、と。
「~~っ楽郎君と……え、えっちが、したい……です」
「……ッヤっバ、思ってたよりも攻撃力が高い」
楽郎がなにかをつぶやくが、玲の耳には届かない。
「ぇ、あのっ」
「いいよ、しようか」
楽郎に誘われるまま、玲はベッドに押し倒された。
……
…………
………………
◆
一昨日から、玲さんが俺を誘おうとしていたのはわかっていた。それでも俺から誘おうとしなかったのは、玲さんから誘って欲しかったからである。
玲さんが俺を誘おうとしていた、と知ったのはつい先日のことで。それを知っていればすぐにわかるほど、なんでこんなに露骨なフラグに気づかなかったのか、というレベルで玲さんのお誘いモーションは分かりやすかった。これを気づかず俺はゲームにログインしてたわけだ。朴念人という評価はあながち間違いじゃないのかもしれない。
清楚、才色兼備、高嶺の花。それを地で行く彼女が、俺を求めているという事実が、俺の思考回路を溶かすのだ。
昨日の事を思い出す。
まだ玲さんは言い出せなさそうだったので「先にログインしてるから」と言ってログインしたふりをして、残った玲さんを観察して遊ぼうかと。
薄目を開けると、業務用VRに入った俺を見る玲さんが視界に入る。
「楽郎、君」
玲さんが露出した手に触れ、ゾクリとした感覚が走った。
ログインしてないことがバレないため、動かないようにする事にとてつもなく神経を使う。
「今日も、誘えませんでした」
色気を孕んだ息が俺を誘う。絡めてきた指が、彼女の熱を伝えてくる。
衝動で押し倒そうか迷った。ここまで我慢してきたけど、もういいんじゃないか? 玲さんが自分から俺を誘おうとしてんだから押し倒したってなにも問題は、
「楽郎君が待ってるでしょうし、私も早くログインしないと」
玲さんの言葉で我にかえる。名残惜しそうに離れていく指先が、スルリと手を撫で、その感触に背筋が震えた。
(あーーーーーーーーーー、くそっ)
まだ身体に熱が灯ったまま、天をあおぐ。業務用VRの中だから視界はほとんど変わらないが。
玲さんより先に待ってないといけないので、玲さんが離れて行ったのを確認し、俺もシャンフロにログインした。
余裕があるふりをして、いつも俺も玲さんと同じくらい余裕がない。カッコつけて取り繕い、そんなところはなるべく見せないようにはしてるけど。
昨日もそうだが今日だって、玲さんが勇気を出さなくて、俺を誘う言葉が吐けなかったとしても、押し倒してた自信がある。色々限界だった。
誰だよ、セルフ放置プレイみたいなことしようとか考えたやつ。俺だわ!
もうあんな焦らされるような真似は、絶対に無理だ。何度押し倒そうと思ったか。
玲さんが誘おうとしているのだから、我慢する必要は本当にあるのか、という疑問が幾度も頭を掠め、それでも玲さん自身の口から「したい」の言葉を引き出す為に細い理性で衝動を抑え続けた。
「もう二度とこんなことやんねぇ……」
現実でもクソゲ味を自ら求めるような変態じゃねぇんだよ、俺は。最終目標は達成したが、その間の行程は二度と繰り返したくない。
そう誓い、俺は隣で眠っている玲さんの髪をもてあそぶのだった。
玲さんが誘おうとしたことを知ったら、からかう為に自ら誘ってくるのを待つ楽郎くんはいるし、でも楽郎くんって本質的には結構一般人だから別に余裕な訳でもなんでもねぇんだろうな、の話