十年後のお見合い
本日二話目
中学のある時から高校で進路が分かれてしまうまで、ずっと目で追い続けていた人がいた。
なぜあんな風に楽しそうに帰って行くのだろうと、疑問を頭に占めながら、玲はその人のことをただ見続けていた。クラスが同じになったこともあったが、特に話すこともなく。
それでもずっと、眩しさと共に脳に住み着いていて、中学を卒業して十年経った今でも、ふとした瞬間、彼を思い出す。
「この愚妹には男っ気もなく」
「うちの息子も趣味一辺倒で女っ気がないですねぇ」
25歳になり、もうそろそろ結婚を考えろということで、祖父の友人の息子の方とお見合いを組まれ。
そして玲の目の前に、今でも覚えているその人、陽務楽郎が、いた。
「あとはごゆっくり」
「はぁ」
気の抜けた返事を返した彼を見る。
変わってしまったな、と思う。大人になって、顔つきも、身体つきも変わっている。今の気だるげな雰囲気を見るに、あの楽しげな笑顔は大人になるにつれて無くなってしまったのかもしれない。
だけど、そこに中学生の頃の面影があった。
「えっと……俺、無理矢理連れて来られてよくわかんねぇ状況なんすけど」
これ、お見合いってことでいいんですよね? と聞かれたので、肯定を返す。
玲が彼の事を覚えていようとも、玲が一方的に見ていただけの関係でしかなかったから、きっと彼は玲の事を覚えていない。この感じを見るにお見合いも、玲に興味があったわけではなく、父親に言われて来たのだろう。
それでも玲は、この人にはまだあの時の笑顔が少しでも残っているのだろうか、と気になった。
「えと、あのっご趣味は……!」
あ、なんかお見合いっぽい。と彼はぼそりとつぶやき、そして彼の瞳の奥に、あの楽しげなが煌めきがよぎった。
「えっと、VRって分かりますか?」
「はい、姉……先程の方ではなく、下の姉がVRゲームのしゃんふろ? というやつに傾倒してました」
「なるほど、でしたら話ははやい」
彼に熱が灯った気がした。その瞳に自分が映ってることに夢心地さえ感じた。きっと彼の本質は変わっていない。あの時楽しそうに走って行った彼は、今もここにいる。
滑らかに先程までとは違って少し楽しげに話し始めた彼に、中学生だったあの日の情景がピタリと重なった。
「えっと、私もVRゲームとやらを、やってみたいのですが」
「へ?」
彼がなぜあれほど楽しそうだったのか、何が彼を楽しませていたのか、そして今に続くそれが何なのか、玲は知りたいと、そう思った。
「えと、教えてくださいますか?」
「はぁ、いや、別にいい、ですけど……」
───そして彼女は、楽郎に勧められたゲームショップへ赴き、その女主人に彼へと向ける感情の名前を教わる。
無自覚にそこに存在している感情の名前を、玲さんは知らない。わからない。
プロゲーマー時空です。