───『恋』を、している。
中学生だったあの雨の日、あの笑顔に憧れた時からずっと、目で追いかける事しかできなかった時も、ゲームで共に戦っていた時も、玲は楽郎に恋し続けている。
それは、結婚した今でも変わらない。
時がたてばこの想いが風化してしまうのかもしれないと思った日もあった。だけど、今でも玲は楽郎に想いを抱え続けており、近くに彼がいるだけで心臓が跳ねる。話してるだけで多幸感に包まれ、彼と隣に並ぶだけで嬉しくなる。視界に入るだけで喜び、想いを受けると脳が溶ける。
だけど、追いかけて、動揺して、心が忙しなくて。そんな恋だけだったのに、共にいると安心感を得るようになったのはいつだったか。今も動揺だってしてしまうし、恋もしているけど、毎日のように愛しさも積み重なっていく。時間を共に経て一番変わったのは、この想いの捉え方なのかもしれない。
薬指に嵌まっている指輪を、そっと撫でる。
結婚したことで、法的にも隣で歩いていく権利を得た。ただ目で追いかける事しかできなかった時から願い続けた事が今、現実となっているのだ。
「玲さん」
いきなり話しかけられたため、肩を少しビクリとさせ、振り返る。
「はい、なんですか? 楽郎君」
楽郎に少しずつ慣れて、玲はどもらず返答できるようになった。
「次の試合の事なんだけど」
玲の隣に楽郎が座る。プロゲーマーとして活動するようになった楽郎をサポートするため、玲は試合に毎回ついていく。そのため、予定の擦り合わせをして、計画をたてる。
(夫の仕事を支えるのも、つ、妻のつとめ、なので……)
ゲームの練習相手をしたりもする。そんなに勝てる訳ではないが、少しでも楽郎のためになれる事に、玲は嬉しく思う。
「昔は話しかけるだけでバグってたよね」
「そう、ですね」
仕事の話が一段落して、楽郎がそう言った。
プロポーズされたときには衝撃やら嬉しさやら幸せやらで、楽郎の言うところの『バグ』とやらをしまくってしまったが、最近の玲は楽郎と落ち着いて話せている。まだ時々どもってしまったりすることもあるものの、先ほどもどもらず返答できたし、非常に成長を感じる。
「玲さん」
「へっ」
横に並んで座っていた楽郎がいきなり玲の首に顔をうずめた。
「びぇっっ」
「はは、バグった」
楽しげに跳ねた声で笑う楽郎の息が、玲の首筋にかかる。
「ら、らくろう、君っっ」
ただ話しかけるだけで動揺することは少なくなったものの、毎日心が忙しないのは、楽郎がからかってくるからでもある。玲の反応を面白がって、なにかと仕掛けてくるのは、非常に心臓に悪い。
「あー、面白」
「からかわないでくださいっ」
「それは確約できないなぁ」
玲さんの反応が面白いのが悪い、とそのまま玲の膝に頭を落とし膝枕の体勢になった楽郎の頭を、玲は軽くこずいた。
高校生現在の玲さんは純然たる『恋』という感情を抱えており、それが結婚するまでには愛も内包するようにになっていくんだろうな、の話。