クラスで嫌われている男子いるじゃん? あれ、『俺』なんです〜逆行転生したらなぜか別人になっていた話〜 作:わとお
人なんてものは結局、物事の表面で多くを判断する。内面など二の次で、無いに等しく扱われる。
私は常々思う。容姿端麗であればこの"錯覚で構成される世界"で生きていくことは容易なことであると。
「ゆうりっちー、こっちの生活には慣れた?」
放課後の教室。帰り支度をしていると前の席のクラスメイトが話しかけてきた。
私の名前は
約一ヶ月前に父の仕事の都合で遠くの町からこの地に移り住むことになり、それと同時にこの中学校に入学することになった。
中学一年の春。誰もが夢や青春を待ち望む中、私は一人、長いツインテールを揺らし、セーラー服に袖を通し転入した。
初めは世界の違う人として扱われる。突然現れたクラスメイト。一体どんな声で、どんな性格で、どんな趣味を持っているのか。得意科目は何なのか。部活は何をするのか。
一ヶ月も過ぎれば周囲の関心も薄れ、やっとこの世界に溶け込むことができる。
だが、私は今でもこの世界で浮いた存在のままだ。
理由は明白、私がどこの誰よりも可愛いからである!!
可愛すぎて超絶美少女の私が身近な存在だとは未だに受け入れ難いのだろう。
「うん、慣れたよ。 みんな優しいから」
そんなクラスメイトらを見て、私は心の中でひっそりと笑っていた。
彼ら彼女らが私と交友を深めたいとか、不純な理由でお近付きになりたいとか……笑えないはずがない。
なぜなら、私はクラスメイト全員を昔から知っている。数十年も前から。
私は前世の記憶を持ち、再び同じ時代に生まれた。容姿端麗という武器を得て。
「あ、でも男子には気をつけなよ?」
「どうして?」
「うーん、ゆうりっちにはまだ早いか」
「えー、教えてよー」
彼女の名前は
今の私と良い勝負の可愛さを持つショートカットが似合う女の子。
中学一年の割には発育が良いのか、すでに盛り上がるところはしっかりと盛り上がっている。
彼女と話した前世の記憶はまったくと言っていいほどなかった。
仕方がない、前世の私は……
「あ!」
安達の甲高い声が私から思考をバッサリと引き剥がしてしまう。
「ごめん引き止めちゃって! ホームルーム長くなったから急がないと部活遅れちゃうよね! また明日、ゆうりっち!」
明るくて友好的で可愛く嵐のような安達美幸。そんな彼女は、
「って、あと五分しかない」
嵐には敵わないながらも突風並みの速度で私は部活に向かった。
中学一年生の部活動といえば、大体身体作りをメインに行われる。
軽い準備運動をした後、学校の外周を三周走り込みを行う。所属している女子テニス部はあまり走らない方だが、意外と辛い。
二本のしっぽを揺らしながら走り込みを始めて二周目の中間あたりを過ぎた頃、視界の端にある男子が映り込む。
「……」
ラストの三周目でも同じ場所にいたその男子を、私は走る速度を落としてまじまじと見る。
学校の隣に位置する神社の生垣に少しだけ出来た隙間。そこに隠れるように腰を下ろしている。
意識をしていなければ見つからず、走り込みをサボるには丁度良い場所だ。
あるのかないのかわからない体力は男子テニス部の外周五周という練習メニューにはついていけるはずもなく、ああしてサボっている。
あれが前世の私、つまりは俺だ。
私と俺、この世界には自分が二人いる。
俺は島田優吏という絶世の美少女に会ったことはない。私が転生、または憑依したことで少しだけ運命が変わってしまった並行世界なのだろう。
止まることなく走っていたのでいつしか俺の姿が視界から外れていた。
頭が悪い。運動音痴。努力して変わろうとしない怠惰でクズな俺。
「……バーカ」
無意識にそう溢してしまっていた。
翌日、体育を終えて制服に着替えていると安達が抱きついてきた。
「えっ!?」
唐突すぎる出来事に教室中に私の声が響き渡る。
「あー、まじ天使ー。 ゆうりっち可愛いー」
「ひっ!?」
下着姿で露わになっていた背に彼女は頬を擦り付けてきて声を出さずにはいられなかった。
……あと少しだけ柔らかい何かが当たっている。
私は彼女を振り払ってすぐに着替えを済ませた。
「もう、美幸ちゃん!」
「ごめんごめん。 でも可愛いのが悪いんだよ」
彼女に可愛い女の子を愛でる一面があったとは知らなかった。
かなり頻繁にスキンシップを取ってくるので、少々心が騒つく。
俺の初恋の人にそんなことされたらね、仕方がない。
飛びついて来ようとしている安達を警戒していると横槍が突然入る。
「美幸、やりすぎ。 島田さん困ってるじゃん」
背の高い学級委員の
彼女と安達は幼馴染みの関係だが犬猿の仲だった。いつもピリピリとしていて、水原はいつも安達を睨みつけている。
「は、何なの? 私と優吏の邪魔しないで」
それに対していつも安達は軽く笑いながらあしらう。
怖いな、この感じ。私が嫌いな空間だ。
どうして人にそんなに強く当たれるのか。どうしてこれから先も会うことがある人にそんな言い方ができるのか。
コミュ障ぼっちだった私にはできない。
「やめようよ……ね?」
重い空気感の中、私は声を振り絞って仲裁に入った。心臓がバクバクと鳴っている。今すぐにここから逃げ出したい気分だ。
向かい合っていた二人はそのままの表情で私を見てくる。
高身長の水原の睨む目つきに異様な圧力を感じてしまっている私がいた。
足が少しだけ震えている気がする。目尻がすごく熱い。
あ、やばい泣けてきた。
「ごめんなさい。悪ふざけがすぎたわ」
「……え?」
あと少しで涙が流れてしまいそうだったが、眉を潜めた水原とやってしまったと言わんばかりに舌を出して苦笑いをしている安達を見て、止まった。
「少しだけゆうりっちを困らせたらどんな反応するかなって、気になって。まさか、泣きそうになるなんて思わなくて」
頭の上で手を合わせて謝る安達と頭を下げて謝る水原。
なんだ、そういうことだったのか。二人とも演技が上手いな。
だが、やられたらやり返す。演技なら私だって負けてはいられない。伊達に女の子やってきてないんだよ。
「良かった。私のせいで……二人の仲を悪くさせたんじゃないかって思って……」
止めた流れる寸前だった涙をわざと流して泣いた。
さあ困った君達は一体どうするのか。じっくりと拝見しようではないか。
「やっべー、ひかりんどうするよ」
手で目元を隠して泣き続ける。手の隙間から覗くとまじで困ってる安達。
少しだけ考え込んだ水原は何かを思いついたようで。
「えっと、わーい美幸大好きー」
「あ、あははー、私もー」
お互い抱きつきあって仲良しなフリを始めた。嫌々やっているようにも見えるがどうにも犬猿の仲とは思えない。
確かに人を困らせるのは面白いな。でも、やられる方は辛い。
「ふふふ、冗談」
笑いを堪えきれずにネタバレをして二人の輪に飛びつき抱きついた。
涙で赤くなった顔を二人に埋めて最後の涙を流す。
「もうこんなことしないでね? するならもっと楽しくて面白いことがいい。 辛いから……」
みんな仲良く平和に過ごしていく、それが一番だ。
時は流れ、再び放課後の閑散とした教室。またまた安達に話かけられていた。数人の女子を含めて。
「私は……三組の浅野くんかな」
「まじで!? 意外ー」
私を中心にしてなぜか恋話が始まっていた。それにしてもみんなポロポロと好きな人を口にしていくな。
「最後! ゆうりっち!」
「え!? わ、私!?」
そろそろ来る頃だとは思ったが最後に私とは……
満面の笑みの安達……もしかして楽しくて面白いこと?仕掛けてくるの早すぎない!?
「いないよ、まだ全然男の子のこと知らないし」
「えー、気になる人とかいないの? 顔がタイプとか」
「いないってー」
本当にいないんだよな。前世では知り合い以上友達以下だった野郎どもしかいない訳だし。
小学生の頃も好きになれそうな男子はいなかったし。
……うっ、何十回と告白されたのを思い出してしまった。あれ、断るのが精神的に辛いからやめてほしいんだよな。
「あ、でもさ」
否定を繰り返していると一人の女子が思い出したように口元に人差し指を当ててながら口を開いた。
「走り込みの時、いつも坂上のこと見てるよね」
彼女は同じ女子テニス部の
「坂上?」
「うん。 島田さんいつも急にペース落としてどこかを見てるから気になって探してみたら、神社の生垣の所で坂上がサボってた」
「あ、あれは目についちゃったから気になって」
私は被せるように否定する。あれは俺だ。自分を好きになるなんてあり得ない。
「だよねー、坂上はないよねー」
「ないない。 あいつはない」
みんなは私の否定を今までとは違い素直に受け取った。
そして、その否定に乗っかるように次々と口を開く。
「あいつってさ、何であんなにキモいの? 部活サボるとか」
「ほんと、話しかけても無言だし、授業中いつも絵描いたりラノベ読んでるし」
「えー、坂上ってそんなことしてたの?ウケる」
「…………」
右から左、今もなお続く俺への罵倒。止まることのない女子らのマシンガントークに耳を塞ぎたくなる。
本当に笑える。私という存在がいない前世でもこうやって陰口をたたかれていたのだろう。
「そうだよね。 坂上くんはないよね……」
誰に振られたのかは知らないが気付いたら私はそう答えていた。
でも、見ている方向からして安達だった。
俺という存在に陰口をたたいても、彼女の中では楽しくて面白いことに分類されるのだろう。
「私、そろそろ行くね?」
逃げるように女子らの間をするりと抜けて部活に向かう。
「あ、逃げられた! もう、坂上なんてどうだっていいじゃん! くそー」
教室から聞こえてきた安達の声を皮切りに膨れ上がった笑い声が背中に突き刺さる。
俺は私だ。同じ存在だ。
私に優しくするなら、俺にもそうしてよ。
私は走るペースを落として、俺を見ていた。
昨日と何も変わらず、同じ場所でサボる怠惰でクズな坂上平太。
今さっきまで陰口をたたかれていたなんて考えてもいないのだろう。
「……バカが」
変わってくれ、変わろうとしてくれ。私が受け入れてもらえたんだから、俺だって。だから、内面を誰かに知ってもらえ。
……誰か俺の内面を知ってくれよ。
自分で行動を起こせよ。
部活が終わり住んでいるマンションに帰宅した。
「ただいまー」
「ゆうちゃん、おかえりー」
靴を脱いでリビングに向かうとダイニングから出てきたおたまを持った母と軽くぶつかった。
「どうしたの? ちゃんと前見て歩かないと」
考え事をしていると周りが見えなくなる悪い癖が出てしまっていたようだ。
「それはお母さんも一緒」
考えていたのはもちろん俺のこと。
このままだと俺はきっとぼっち人生まっしぐらだ。私はそれを経験して知っている。ひとりでに変わってくれるなら私はここにいない。
ならば、どうすれば変わってくれるのか。
「あれってどこにあったっけ?」
自分で行動を起こせ。そう、自分で。
翌日の放課後、また安達に捕まりそうになったが振り払い逃げて、誰も寄り付かない校舎裏に向かっていた。
「……果たして奴は来るのか」
「あ……」
そう言いながら校舎裏に出ると、すでにそこには俺がいた。
左手で頭を抑えながら右手に手紙を持って。
「ちゃんときてくれたんだ」
「……」
今朝、下駄箱に忍ばせた私による俺宛の手紙だ。俺をここに呼び出すためだけの。
「坂上くん」
「……」
初めて横に並んだ気がするが中学一年ということもあって今は私よりも背が低い。
「さ、坂上くん?」
「……ぁ」
緊張しているのか顔を真っ赤にして口を震わせていた。
いや、それにしても緊張しすぎじゃないか?あれ、中学一年の時の俺ってこんなに酷いコミュ障だったっけ?
あ、私が美少女すぎるのが悪いのか。あと女の子と話すことなんてロクになかったからな。
コミュ障の度合いに驚いてしまったが、俺をここに呼び出した目的を無理矢理にでも果たしてやる。
「ねえ坂上くん、私と友達になってくれないかな?」
「……と、とも……え?友達?」
やっと口が開いた。そして、今の反応を見るにただの呼び出しの手紙をラブレターかなんかと勘違いしていたのだろう。仕方ないことだとは思うが。
「……えっと」
昨日、思った。俺を誰にも馬鹿にして欲しくない。俺にはもっと輝いて欲しいと。
他人に頼らず、自分で行動を起こせ。内面を知ってもらえば馬鹿にされることなんてない。
でも俺は行動するわけがない。だから誰も内面を知ってはくれない。
であれば、私が行動をすればいいだけだ。私は俺で、自分なのだから。
神も俺を更生させるために私を転生または憑依をさせて、この地に引っ越させたのだろう。
まったくとんだお節介焼きの神もいたものだ。
「私、まだ男の子の友達いないんだよね」
「でも……なんで俺な……の」
状況が状況だけに困惑している俺。きっと頭の中では新手のいじめなのではないか?とか考えているのだろう。
確かに美少女である女の子がぼっちと無条件に友達になりたいと思うはずがない。
「坂上くんって、安達さんのこと……好きだよね?」
「……!?」
条件なんて幾らでも作れる。私は俺のことを何でも知っているのだから。
手札なら沢山ある。
「いつもチラチラ見てるし」
「……え、……ぁ」
「まあ、安達さんは君のことよく思っていないみたいだけど」
「……へぇ」
私として違う角度から見たこの世界という手札も。俺を変えるために使える。
「私の友達になれば、安達さんともお近づきになれるかもよ?」
「……」
フリーズ。俺は何を言えばいいかわからなく困った時に完全に頭の中が真っ白になり、時間が解決してくれるのを待つ。こうなってしまったら何時間経とうが俺からは何も発しない。
「大丈夫だよ。私は君をそんなに悪くは思ってないし、何を言っても悪く思わないし怒らないから」
「……え」
こうなった時、俺がどうして欲しいのかも知っている。
「間違っててもいいから、君の思っていることを教えて?」
寄り添って優しく怒らず笑わずに俺の出した答えが間違っていても聞いて欲しいと。
「……」
「君は変わりたいんだよね。私が変えてあげる。変わったら安達さんとも仲良くなれるよ」
私は俺がして欲しいことを演じてしてあげた。
「どうして……俺なんかを……」
だから、俺は涙を流している。
「似てるからかな、小学校の時の同級生に。彼女はとても心優しい子だった。真面目な子、そこは君とは違うかな」
「そうだね」
私は冗談混じりに少しだけ笑うと、俺も微かにだが表情を緩ませていた。
「でも、ずっと一人だった。そして、いじめられるようになった」
「……いじめ」
「私はそれをただ見ていたの。いじめが発覚して彼女は転校しちゃって」
私は俺から顔を背けて辛そうな演技をする。
「その後が嫌だった」
「……」
「皆んな、いなくなった彼女の悪口ばっかり言うんだ。私もその一人……」
昨日の出来事を思い出しながら私は下唇を軽く噛んだ。
「うん、変わりたいのは私なのかも知れない」
もちろん、いじめられ転校してしまった同級生なんていない。全て俺を変えるための計画だ。
「だからお願い。私のために友達になって一緒に変わろ?」
私は俺の両手を取ってそう頼み込んだ。
これが私の昨日考えた計画の全てだ。私にもメリットがあると思わせれば俺はなんの疑問も持たずに友達になってくれる。
「……は、はい」
「やった!」
俺からの返事に俺の両手ごと万歳をして喜びを表す。これが演技なのかは正直わからない。
「じゃあ、まず部活頑張ろう!見てるからね!サボったら駄目だよ!」
俺の手を離し回れ右をしてそう言うと走ってその場から去る。
これで変わってくれればいいんだけど。俺のことだから長くなりそうだな。
私による俺更生物語は!!