クラスで嫌われている男子いるじゃん? あれ、『俺』なんです〜逆行転生したらなぜか別人になっていた話〜   作:わとお

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2話

 私は絶望していた。

 

「……なぜなんだ。どうして俺がいないんだ」

 

 部活が始まり、走り込みや練習を男子テニス部の近くで行っているにも関わらず、一度たりともその姿を確認することができない現状。

 

「どうかしたの?島田さん」

「え?ううん、何でもないよ河合さん」

 

 ラケットを持たずにボールに慣れるために河合さんとキャッチボールをしていると、ボールは私の後ろに転がってしまっていた。

 

「ごめん、取ってくるね」

 

 どうして、俺は部活に来ていない。もしかして超絶美少女の私と友達になることに衝撃を受けすぎて、部活を忘れて帰ってしまったのか。サボったら駄目って言わなかったっけ?

 

「……明日からとことんその性根を捻じ曲げてやろう。いくよー河合さーん」

 

 ボールを拾いながら一瞬ニヤリ、としてから切り替えたキラキラ笑顔で河合さんに思い切り投げた。

 

「す、すごいね島田さん」

 

 私が今までよりも数倍は離れた距離をワンバウンドしたものの投げれたからだろうか、河合さんは衝撃を受けているようだった。

 

「え?そうかなぁー?故郷だとみんなこれ以上投げてたよー」

 

 まったくの嘘であった。体力が無いために、初めの一歩が中々踏み出せないだけで私は運動が好きだった。

 だから、小学生の頃に体を少しだけ鍛えていた。前世のようにはなりたくないとどこかで思っていたのだろう。

 

「皆んな集合ー!」

 

 それから河合さんとキャッチボールを続けていると顧問の先生が練習メニューを変更した。今度はラケットを使って簡単なラリーだ。

 

「うああ!?ご、ごめんなさい島田さん」

「大丈夫だよ」

「って、あ!!ごめんなさーい!」

「うん、大丈夫だよ」

 

 前世で高校までテニスをやっていた私は難なく出来たが、河合さんは上手く出来ずに焦っていた。

 

 ラケットを使っての練習はここ最近始まったばかりでなので、初心者にはボールの扱いが難しくて当たり前だ。

 前世で上達するまでに半年はかかったからね。

 

「うぅ、ごめんね」

「大丈夫だって」

 

 部活が終わり、片付けをしていると河合さんが申し訳なさそうに言ってきた。

 

「経験者の数が奇数だからって理由で島田さんは私と練習してるわけだし」

「河合さん……」

 

 女子テニス部一年生は全員で十六人。そのうちの経験者は限られていて、誰か一人が初心者とペアを組むことになった。もちろんダブルスではなく練習相手として。

 

「私が自分で河合さんと組みたいって先生に言ったんだよ」

「え?そうだったの?」

「うん、皆んなの前だと中々言い出せなくって」

「でもどうして私なんかと? 私、テニスなんて全然やったことなかったし」

 

 私は河合さんの持っていたボールの入った籠を奪い取るように持って、微笑みながら口を動かした。

 

「どうしてって、同じクラスだったし。河合さん優しい人って知ってたから」

「島田さん……」

 

 ポカンとしてしまった河合さん。私が籠を片付けてから戻ってきても同じ場所でポカンとしたままだった。

 

「河合さん片付け終わったよ、帰ろ?」

「……えっ!?あっ、でもまだ私この籠を片付けない……と?あれれ!?」

 

 可愛いな河合さん。私、こんな風になること言ったっけな?

 

 実際、彼女と組んだのには別の理由がある。確かに同じクラスで馴染みやすいというのもあるが、彼女が誰よりも上手くなること私は知っているからだ。

 

 今のうちに仲良くしておけば、ダブルスでペアを組むこと間違いなし。そうすれば大会でも勝ち進むことができる。

 

 他人任せだって?

 

 それで良い。私は俺とは違い容姿端麗という武器を持っているのだから。他人任せでも世界はキラキラと輝いてくれる。

 

 

「……あ」

 

 ここで何となくだが私は頭の片隅でその可能性を考えてしまった。

 

 河合さんですら私の微笑みに正気を保っていられなかったのだ。だとしたら、私に優しくされてしまった俺は……まさかね。

 

「河合さん、先に帰るね」

「え? うん」

 

 更衣室で着替えを済ませ河合さんに別れを告げると、少しだけ急いで校舎裏に向かった。

 

 

 

 

 

「……マジかー」

 

 校舎裏を覗き込んだ私は頭を抱えながら失笑してしまった。

 

 そこには立ち尽くしていた俺の姿があったのだ。

 

 部活を行っていた二時間あまり、ずっとそうしていたのだろう。一種の精神トレーニングか何かだろうか。立っているだけって意外ときついし。

 

 冗談はこれくらいにして、声をかけないとまずいよな。

 

「……さ、坂上くん、ぶふっ」

「し、島田さん!?」

 

 しまった。私が目の前に現れた時の驚き様に我ながら吹き出してしまった。

 どうやら俺は話しかけられたことに動揺していて気づいていないようなのでセーフ。

 

「何してるの? もう帰らないと先生に怒られちゃうよ?」

 

 演技だ演技。と自分に言い聞かせて何とか笑いを堪える。

 

「え、そんな時間……なんだ」

 

 手で頭をかくふりをして腕を相手と自分の間に挟むことで目を合わせずに済むテクニックを見せてくる俺。照れてるの側から見るとバレバレなんだな。

 

 果てさて、どうしたものか。この男をどうにかして帰路に着かせないと。

 

 多分俺のことだから、私が帰るまでは帰ろうとしないだろうし。とはいえ、先に帰ってしまうとまた一人立ち尽くして日が昇るのを待つかもしれない。

 

 こうなったら選択肢はひとつしかない……よな。

 

 未だに周りが私と俺が友達と認知していない中で、一緒に帰っているところを見られでもしたら付き合ってるんじゃないかと面倒な噂を立てられる可能性がある。

 

「一緒にかえ———」

「あ!ゆうりっちー!!」

 

 それを承知で口を開くも、聞き慣れた声が遮ってきた。

 

「こんな所で何してるの?私も部活終わったからさ、一緒に帰ろー」

「美幸ちゃん……」

 

 どこからともなく現れたランダムエンカウント安達はテクテクと陽気に近づいてくる。

 

 突然の登場に数秒頭が機能を停止するも、動き出した瞬間にこれは良い機会だと回転速度を上げた。

 

「へぇー、坂上くんはどうする?」

「え!?」

「あ、坂上いたんだ」

 

 今の俺がどれだけのコミュ力を持っているのか。そして、安達が俺のことをどう思っているのか。しっかりと把握しておきたかった。

 

「ところでゆうりっちと坂上はどうしてここに?」

「え? あ、えーっと?」

 

 できれば触れて欲しくなかったことを安達が笑顔で触れてくるから若干焦る。いや、かなり焦っている。

 

 部活終わりに校舎裏で二人っきりとか。付き合ってんのかよ。

 

 校舎裏なんてまず来る用事がないから適当な言い訳も思いつかない。

 

「あ、もしかして……」

「……」

 

 安達は嫌味のような満面の笑みをこちらに向けてくる。おい俺、可愛いからって顔赤くしてるんじゃないよ。

 

 これは完全に付き合っていると誤解されている。面倒なことになったな……

 

「ゆうりっちも(ワル)だなぁ」

「わ、わる?」

 

 坂上平太と付き合うのは世間的に見て悪いことなんですか?初耳なんですが!?

 

 次に安達から発せられる言葉に対する返事が見当たらない。悪ってなんなんだろう、まじで。

 

「やっぱり抜け道使っちゃうよね!」

「……!?」

 

 無駄に構えていた私に、気が付けば安達が抱きついていた。

 

 あー、だめだ。いつしか頭のギアがトップからローに切り替わっていて状況判断が追いつかない。

 

「体育館からだと校門まで行くより、こっちの方が近いんだよね」

 

 泣く泣くといった表情で私から離れた安達は、校舎裏横の網目状の柵を押した。

 すると、あらビックリ。簡単に外に出られるだけの隙間が現れてしまっているではないですか。

 

 この学校の防犯レベル、低すぎない?

 

「そうそう! 私って悪だよね! 先生に見つかったら怒られちゃうよね!」

「それで、坂上はその為の盾と……ゆうりっちってまじで悪だな……」

「違う違うよ!? そんなに引かないでぇ!!」

 

 なるほど、安達の俺に対する扱いは十分にわかった。勘違いはしていないことも。変な勘違いはされているようだけど。

 

「美幸、また島田さんを困らせてるの? その内、土下座しても許してくれなくなるよ」

「お、ひかりん。今日は早いじゃん。走ってきた?」

 

 安達が抜け道から校外に出ると丁度そこに水原がやってきた。流石は委員長、ちゃんと校門から来たのだろう。

 

「走ってない」

「嘘だぁー。前に私がひかりんを置いて先に帰っちゃったのが寂しかったんでしょ?」

「違うわよ!誰が美幸なんか!」

「は? ……あっそ、ならもうトス上げてやんない」

「いいわよ、私だってブロックもクイックも飛んであげないから」

「それ、先生に怒られちゃうよー。私には真ん中が使えなくても、右と左、さらにはバックって選択肢もあるわけで」

「……この……バカ美幸め……」

「はっはっは!私の勝ちー」

 

 やっと終わりを迎えた安達と水原の言い合い。この前の演技と対して変わりないぐらいピリピリしていたけど、全部冗談なんだろう。

 

「あ! ……ごめん、ゆうりっち」

「ごめんなさい、島田さんを困らせるつもりはなくて……」

 

 二人はまた申し訳なさそうに謝ってきた。それを見て私も申し訳なく思ってしまう。

 

 前世では二人は犬猿の仲で相容れない関係なのだと思っていた。

 

 でも実際は、酷いくらいの冗談を吐き合えて、何があってもその仲は完全には切れない、心を許し合っている親友。

 

「うんん、大丈夫」

 

 誰も俺の内面を見てくれないように、心を許そうと思える存在がいなかった俺には見えてなかった。

 

 だから横にいる俺は少しだけ水原に嫌な目を向けていた。好きな安達を悪く言っている彼女が嫌いだ、と。

 

「二人は本当に仲が良いよね。羨ましい」

 

 その認識を変えてあげるために私はそう言った。

 

「帰ろっか」

 

 

 

 

 

 数分間()()で楽しく話しながら帰っていた。

 

「へぇー、美幸ちゃんと水原さんは三年前からバレーやってるんだ」

 

 色々と話していたがあまり詳しくないので、同じバレー部で二人のポジションはセッターとセンターということぐらいしか分からなかった。

 

「持ったらダメで落としてもダメ。それで三回しか触れないんでしょ?バレーって難しそう」

「難しいから楽しい! な、ひかりん」

「うん。美幸はコントロール下手だから合わせるの難しい」

「な!?誰がコントロール下手だと!?」

 

 私は団体競技は全くと言っていいほどやったことがなかった。チームに馴染める自信がなく、迷惑をかけてしまう。バレーなんてやりたいとは思えなかった。

 

「でも、上手く合って打てた時は嬉しい」

 

 そんなバレーで、水原は手を見つめながら軽く微笑んだ。

 

「美幸と……」

「私と?え、何何?私がどうしたの?え?」

 

 口を滑らせたのか赤らめた顔を軽く手で隠した水原に安達は猛攻を仕掛ける。

 

「……美幸と息があって……ものすごく嬉しい」

 

 いつもなら怒るだろう場面で水原は、顔を覆っていた手を少しだけ外して小さく呟いた。

 

「……へー」

 

 いつもなら冗談で攻めまくる安達もポカーンとしてしまう。

 

 なんだよこの二人。めちゃめちゃラブラブじゃん。付き合ってるじゃん。尊いかよ。

 

 誰だよ犬猿の仲とか言った奴、一発殴らせろ。

 

「あ、私ここを曲がるんだけど」

 

 もう少しだけ見ていたかった気持ちもあったが、()()()の方向的にここで別れなければいけなかった。

 

「そうなんだ。 今度、ゆうりっちの家に遊びに行っていい?」

「うん、マンションだけど。 それじゃあね!」

「バイバーイゆうりっち!」

「さようなら島田さん」

 

 二人に別れを告げて道を曲がった。

 

 同じ時代、同じ場所だというのに前世とは世界が違って見える。見慣れたこの道は何も変わらないというのに。

 

 

 本当にこの世界は錯覚で構成されている。

 

 

「……」

 

 ところで幻覚でしょうか?私の後ろに一人の男がいるように見えるのは。

 

 安達とエンカウントしてから俺は「え!?」の一言しか発していない。これは想定以上の重度のコミュ障と判断せざるを得ない。

 

 何より水原は完全に空気として扱っていた。

 

「……はぁ」

 

 中学、高校、大学、社会人と経験をしてきた私は、なんとか人と話すことは出来るようになっていた。特に意識していなかったので、昔からこれぐらいのコミュ障だったよな、と勘違いしていたようだ。

 

 とはいえ、坂上平太として少しは変われていたということだ。

 

 美少女の私と話していけば、直ぐにコミュ障という弊害は簡単に取り除けるだろう。

 

「坂上くん、家どこなの?」

 

 私は、俺と歩調を合わせて分かりきった質問をする。五十メートル先に見える一戸建てが俺の家だ。

 

「……そこです」

 

 小さな動作で家を指差す俺。

 

「そうなんだ。 兄弟はいるの?」

「……弟が」

 

 なるほど、二つ下の小学五年生のやんちゃでサッカー好きの弟がいるんだね。名前は平次くんって言うんだ。親御さん適当に名前つけてないかな?

 

「いいなぁ。 私、一人っ子だから」

「……へぇ」

「兄弟ってどんな感じ? 仲良いの?」

「……あんまり」

 

 そんなこんなで家の前に着いてしまった。特に会話が盛り上がることはなく。

 

「また明日」

「……はい」

 

 初日としては……中々喋れてるんじゃないかな?

 

「あ、そういえばもうすぐ中間テストだから今度一緒に勉強しようね!じゃあね!」

「え? うん…………え?」

 

 勉強会の予定を勝手に組み込んで俺と別れると、遠回りしたせいで距離のあるマンションへの帰路に着く。

 

 俺は押しに弱いのでどんどんと押し倒して更生していかないと。

 

 小学校までのテストとは訳が違う中学校の定期テスト。順位は公表されないがどの道、盗み見されるので順位が良いか悪いかでかなり周りからの目が変わる。

 

 前世の順位は一学年三百人近くいる中で確か二百後半程度だった。

 

「……みっちりと仕込んで、二桁代には乗せてやろう」

 

 一人になった私はニヤリと笑いながら、坂上対中間テスト学習計画を練り始めた。

 

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