クラスで嫌われている男子いるじゃん? あれ、『俺』なんです〜逆行転生したらなぜか別人になっていた話〜   作:わとお

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3話

 俺にサヨナラをしてから時間は流れ、日はすっかりと沈んでしまっていた。

 

 机の上に広げられていた宿題を一纏めにしてカバンに突っ込み、ベッドに横になる。

 その動作で二つの輪っかから解き放たれていた長い髪の毛が大いに乱れる。

 

 それを気にも留めず、二つ折りのゲーム機に私の手は伸びていた。

 

 大半の人が遊んだことのあるであろうモンスターと共に冒険するゲームを起動する。ドットで表現されるモンスター達は、とても懐かしい。

 

「……このカラーリングもかっこいいな」

 

 画面に映し出された一匹のモンスター。その黒色を基調とした姿に私は違和感を覚えていた。

 

 なぜなら、前世では少し明るめのライトグレーを基調としていたからだ。

 

 このモンスターだけではない。

 

「このデザインも、この鳴き声も」

 

 一つのゲームに前世と異なる点は多く存在し、探せば探すほど無数にあるのではないかと思えてしまう。

 

 小さな嘘がいつしか取り返しのつかない事態に発展してしまうように、(ズレ)の存在が世界を大きく変えてしまっているのだろう。

 

 同じ時代に生まれ変わるとはそういうことだ。

 

 特にこれから先はそれを強く実感する事になるはず。前世で暮らしていた町で、さらに俺を変えようとしているのだから。

 

「ゆうちゃーん! 手伝ってー!」

 

 それがどうした? と答えがあるのか分からない思考を頭の何処かに投げ捨てて、SOS信号を発している母の元に向かった。

 

 

 

 

 

 コンクリートに強く打ち付ける大量の雨による轟音を掻き消すように、大きな鐘の音が校内中を包み込む。

 

「ふぁー……」

 

 一限目の五分前の予鈴とともに片手で覆いながらデカデカとあくびをしてしまう。

 

 昨日、母と共に黒くて素早い強大な敵と二時間にわたって激闘を繰り広げたおかげで就寝する時間が押してしまったから眠くて仕方がない。

 

 結局は父が強大な敵を仕留めたので、私と母の二時間は無駄だった。

 

「カシャ、カシャ! うん、いいよーゆうりっち! もう一回!」

 

 眠気と雨音や湿度のバランスも相まって寝ようとすればすぐにでも夢の世界に行けそうな中、エアカメラを持った安達のいつもに増して高いテンションが襲いかかってきた。

 

 短い髪の毛に付いた水をサッサッと切るように素早くカメラワークを変えて最高の一枚を撮ろうとしている安達にもう一度はないと断り会話を始める。

 

「朝から元気だね、美幸ちゃん」

「あたりまえじゃん。 ゆうりっちのあくびを拝めたんだから」

「そう……なのかな?」

 

 まるで私のあくびに凄い成分が含まれているような言い方に苦笑いしてしまう。

 

「天使のあくびにそこらの男子は……おっと何でもない」

「え? 男の子たちがどうかしたの?」

 

 エアカメラで撮れた画を脳内で確認していた安達は私の肩に手を乗せニッコリとして、

 

「うん、ゆうりっちにはまだ早いか」

 

 いつもと同じセリフを口にした。

 

 安達は、立ち振る舞いのせいなのだろうが私を物凄く子供扱いをしてくる。身長は私の方が少しだけ高いんだけどな……あ、膨らみを感じさせない直線的なシルエットのせいかな? 

 

 全てとは言わないが大半が演技によるものなので、安達が何を言いたいのかは普通に理解出来ている。

 

 私のあくびよりも椅子に跨って後ろを向いて背もたれに大きな膨らみを押し付けている安達の方が……何でもない。

 

「またそれ? いい加減教えてよー」

 

 そんな思考とは違って、何も分かっていない純粋な少女を演じる。

 

「どうしようかなー」

 

 私をいじるのがとても大好きで、幸せそうな顔をしている安達を見ているとそれ以外の選択肢はないように思えた。

 

 彼女は俺を変えるためのキーマン。

 

 私が安達を上手く操れるようになれば、俺との関係も少しは改善するはず。

 

 まあ、さすがに坂上平太と安達美幸が付き合うなんて未来は見えないんだけど友達の関係ぐらいにはしてあげたい。

 

「……っと、一限は数学だったよね」

 

 教室の扉が開かれ教師が入ってくるのを確認して、私は机の中から教材とノートを探し始めた。

 

 とはいえ女子友達はまだ早いか、男子友達ですらロクにいないんだから。

 

 辺りを見渡す。

 

 私の席は中央のやや後方辺りでほとんどの席を視界に入れることが出来る。廊下側にいる河合さんやベランダ側にいる水原と俺といった感じ。

 

 見渡している間に多くの男子と目が合ったが気のせいだろう。というかそんな事はどうでも良くて、それ以上に水原と目が合っている今現在。

 

「あはは……」

 

 少しだけ私を睨んでいるように見えた表情の水原は、私の気まずそうな顔を見て慌てて前を向いてしまう。私と目が合っていることに気づいていなかったのか。

 

 それにしても、何かいけない事でもしてしまったのだろうか? 宿題もちゃんと出したし、水原に睨まれるようなことをした覚えはないのだが。

 

 と、話が逸れた。

 

 教師が教卓に立つも未だワイワイとしている教室。その中で俺はライトノベル片手に顔を腕に埋めて寝ていた。

 

 このクラスは男子十六人の女子十八人の計三十四人が在籍している。俺にとって女子は言わずもがな、男子十五人とは話したことすらない関係だった。

 

 ぼっちな俺にも流石に友達の一人や二人はいるが、残念なことにその希少性からこのクラスには存在していなかった。

 

 テスト勉強も大事だが、それだけではいけない。

 

 俺更生物語の第一歩目標として、まずは男友達を作らせることにしよう。

 

「さて、どうしたものか」

 

 一限開始のチャイムと共に私はそう溢して考え始めた。

 

 

 

 

 

 四限の授業が終わり、複数の食器に盛られた給食を乗せたトレイを机に置く。

 

 芳ばしい香りを漂わせるカレーライスについ喉を鳴らしてしまう。カレーと言ったらやはり給食の甘口に限る。とろみ加減も具の大きさも。

 

 母は辛いのが好きらしく家で出てくるのは当然辛口カレー。更に辛味を足す母に呆れながら、口の中をヒリヒリさせて食べるカレーをカレーとは呼べない。

 

「早く食したい」

 

 再び溢れ出そうな唾を飲み込んで喉を鳴らすも、目の前にあるカレーを口にすることは許されない。これが給食の恐ろしさである。

 

「ゆうりっち、ほんとにカレー好きだよね」

 

 無意識の内に肩が震えていたようで机を横にくっつけていた安達が苦笑いしていた。

 

「美幸ちゃんは好きじゃないの? 逆にカレー嫌いな人なんていないよね?」

「好きだよ、ゆうりっちの次の次ぐらいに好き」

「そうなんだ。 私は美幸ちゃんよりも好き」

「ゆうりっちぃ!? 嘘だよね!?」

 

 早くいただきますの儀式が行われないか手を合わせながら待っている間、安達と何か話していたような気がするが何だっただろうか。

 

「いただきます!」

 

 そんな思い出せそうで思い出せない会話を口に含んだカレーが綺麗さっぱり浄化してしまう。

 

 うん、最高だ。

 

 誰よりも早く食べて沢山おかわりしよう。今日はあいにくの雨で部活は中止だろうから、お腹いっぱい食べても問題はない。

 

 

 

 

 

 問題しかなかった。

 

 今日の五限はあいにくの体育だった。カレーで頭がいっぱいで完全に時間割りを忘れてしまっていた。

 

 問題はそれだけではなく、よりによって三半規管だかを滅茶苦茶にしてくれるマット運動。前転や後転、開脚前転など回転しかしない。

 

「……うっ」

 

 激しい動きと酔いによって気持ち悪さが限界まで襲いかかってきた。

 

 うん、最悪だ。

 

「先生、島田さんの気分が良くないみたいなのですが」

 

 口とお腹を押さえて少しだけ気を落ち着かせていると、体育教師に水原がそう訴えてくれていた。

 

「そうか。 島田、無理するな! 安達、島田を保健室に連れて行ってやれ!」

 

 遠く離れていた教師は体育館のどこにいても聞こえるぐらい大きな声でそう言った。

 

 私は条件反射で軽く会釈をすると安達と共に体育館を出る。

 

「ごめん、ゆうりっち。 気がつかなくて」

「ううん、気づかれないようにしてたから」

 

 安達が付き添ってくれているのは、仲が良いのを体育教師が知っている訳ではなく単に体育委員だからだ。

 

「寝不足のせい?」

「それもあるけど……」

 

 心配そうにしてくれている安達に私は申し訳なさそうに頬をかきながら大降りの雨のお陰で視界の悪くなっていた遠くを見る。

 

「あー、カレーのせいか」

「……誰にも言わないでね、恥ずかしいから」

 

 気づいてしまった安達の発言に、どうしようもなく恥ずかしくなり目を細めて周りからの視線をシャットアウト。安達以外誰もいないけど。それぐらい恥ずかしい。

 

「失礼しまーす」

 

 保健室に着いて安達が保健室の先生に事情を説明してくれたが、すぐに体育館へと戻って行ってしまった。

 

「とりあえず、ベッドに横になる?」

「はい」

「熱ありそう?」

「ないと思います」

 

 安達が扉を閉じたことにより、白い世界に二人きりになり少しだけ気まずさを感じる。

 

 体育館シューズを脱いでベッドにゆっくりと横になる。

 

 保健室のベッドに初めて入ったが、眠気があるせいか永眠したいと思ってしまうぐらい心地が良い。

 

「じゃ、大丈夫そうになったら声かけて」

「あ、は……」

 

 保健室の先生は言いたいことだけ言って私の返事を聞く前に白いカーテンを閉めてしまった。

 

 授業はまだ半分ぐらい時間を残している。流石に体育は続行不可だが、六限には戻るようにしよう。

 

 なのでそれまで夢の中に。と言いたいところだが眠りについてしまったら起きられる気がしない。が、横になってしまうと眠気なんて可愛く思えていたそれが睡魔となって私に襲いかかってくる。

 

「……そういえば」

 

 睡魔から逃れるため何か考え事をしようと思考を巡らせていると、あることが気になった。

 

 私は体育館の隅で安達と他二人の子とマット運動を行っていた。そして、体育教師に私のことを訴えてくれていた水原は全く別の場所で行っていたはずだ。

 

 だというのに、どうして私の気分が良くないことに気づいたのか。

 

 今朝の一件もそうだ。目と目が合ってしまった睨んでいるように見えた水原。

 

 これではまるで私を監視しているみたいだ。

 

「…………」

 

 果たして水原に私を監視する理由なんてものがあるのだろうか。

 

 色々と考えている内に睡魔は何処かへと消え去っていた。

 

 しかし、生まれてしまった疑問の種がどんどんと成長してしまい時間が過ぎるのを忘れて考え込む。こういったときの時間の進み方はエグいもので五限が終わるチャイムがすぐに鼓膜を振動させた。

 

 結論から言うと何も分からなかった。

 

 少しは楽になった体をベッドから無理矢理起こして、レールに沿って白いカーテンを開いた。

 

「あのー」

「ん、気分はどう?」

「すっかり良くなりました」

 

 保健室の先生の元まで接近すると、細く鋭い目つきで用紙に何かを記入していたかと思うとそれを私に手渡す。

 

「今、五限目が終わったところよ」

「わかりました」

 

 素っ気なく言葉数の少ない人だ。保健室は前世では利用したことがなかったので、この人との関わりもこれが最初で最後になるかもしれない。

 

 関係が一度きりならば、わざわざ愛想良くする必要はない。という考えなのだろうか。

 

「ありがとうございました、西木先生」

「ん」

 

 私は島田優吏として愛想良く用紙に書かれていた先生の名前を口にするが、また素っ気ない返事が戻ってきた。

 

 近い将来、その名前を忘れてしまっていることだろう。

 

 

 

 

 

 教室に戻ると担任教師が教壇に立っていたので保健室で休んでいた事を証明する用紙を手渡した。

 

「心配したが大丈夫そうだな島田」

「はい、心配かけてすみませんでした」

 

 大いに笑って「謝ることなんてないぞー」と明るく言う担任。この人はこの人で明る過ぎるんだよな。その明るさの喧しさによってクラスメイトの視線を全て集めてしまう。

 

 もう少し抑えて欲しい。と内心つくづく思いながら担任の元から自分の席に素早く移動する。

 

「おかえりー」

「ただいま」

 

 体調不良の原因を知っている安達はサイレントで机叩きを披露しながらお腹を思いっきり押さえて下品に大笑いしていた。

 

「薔薇にもトゲがあるように、美味しいものも時には牙を剥くんだよね」

 

 笑いながら滅茶苦茶小声でよく分からないことを言っている安達につい冷たい目を向けてしまう。

 

 このままだと、いつか吹き出して大声で体調不良の原因を暴露しかねない。

 

「……美幸ちゃん」

「な、何? あへはふぅ……ふふ、あははは」

 

 安達なりに笑いを抑え込もうとしているのだろうが、それが余計に笑いを誘ってしまって無限ループに突入していた。

 

 これを止めるには少しだけ純粋な少女をやめるしかない。

 

 

「美しいものにはね……トゲがあるんだよ……安達美幸さん?」

 

 

 椅子から立ち上がり机に乗り上げて、安達の耳を掻っ攫うとそう囁いた。体勢を戻して一度咳をして見せてから満面の笑みで安達を見つめた。

 

「……あは……あははー、ゆうりっちって冗談言うんだね」

 

 顔面蒼白となってしまった安達は何を思ったか、私の満面の笑みをエアカメラで再び撮影し始めた。

 

「やっぱり、ゆうりっちは美しい天使だよね」

 

 転んでもただでは起きない。と言わんばかりの行動に、安達を上手く操れる自信が消失してしまった。

 

 安達カメラマンの撮影は六限が始まるまで続いた。

 

 

 

 

 

「おーし、そんじゃあロングホームルーム始めるぞー」

 

 今日の六限は丸々一時間何かをして過ごす。

 

「来週からテスト期間だ。 初めてのテストで分からないことも多いと思うが、この時間に出来るだけ俺が教えてやる」

 

 その名目は再来週の月曜日から始まる中間テストの説明だ。

 

「今からテストの出題範囲一覧を配る。 とりあえずこれに沿って勉強すれば普通に点は取れる」

 

 

 

 それからダラダラと説明は進んだものの。

 

「明日から部活も休みだ。 土日だからって勉強を怠るなよ」

 

 六限終了時刻までかなりの時間を残して終わってしまった。

 生徒陣からの質問が全くなかったというのもあるが担任も簡潔にしか説明してなかったように聞こえた。

 

「先生ー、時間まだあるけど、何するの?」

 

 すると安達が、何かを言おうとしていた担任に気づかずそう発言した。

 

「いい質問だ安達! 先生は思った。初めてのテスト! そして勉強勉強、息抜きに部活も出来ずに勉強!」

 

 さっきまでの妙に真面目だった担任は何処へやら。堰を切り氾濫を起こしてまった本来の担任の勢いは止まるを知らない。

 

「お前ら! 辛いよな!」

 

 若干名引いている様子を見届けながら私も引く。

 

「何か楽しみがないと頑張れねぇなぁ!!」

 

 生徒の気持ちを代弁しているのだろうが、二、三個隣の教室まで届く大声で叫ぶ必要は果たしてあるのだろうか。

 

「テストの次の週! 何がある!!」

 

 そんなテンションで振られてもついていける特殊な訓練を受けた人間はこのクラスに存在しない。

 

「宿泊学習だ!!」

 

 いや、一人いた。

 

「そうだ安達!! 宿泊学習の内容は!!」

「一泊二日でクラスのみんなとゆうりっちの大好きなカレー作ったりキャンプファイヤーしたり!!」

「そうだ安達!! 親睦を深めるんだ!! ものすごく楽しい宿泊学習がテスト明けに待っている!!」

「そうだそうだー!!」

 

 担任とテンションの高さで張り合えるたった一人の逸材かは知らんが安達。このクラスに安達がいなかったら担任はある意味地獄を見てしまっていたのかもしれない。

 

 この光景を見るのは二度目だ。

 

 次に巻き起こる事態は教室の前後の扉が同時に開いて、

 

「うるさいですよ! 森島先生!」

 

 二人の教師が担任を叱り付けるというものだった。担任はああ見えて学年主任を務めるぐらいには古参教師なのだが。

 

 二人の教師が呆れながら去っていった後、かなりしゅんとしてしまった担任は廊下を気にしながら声を小さくして言う。

 

「男子二人女子二人の四人班を作ってください……あとは学級委員の指示に従ってください。先生は大人しくしてます」

 

 教壇から重い足取りで担任用の椅子に縮こまって座ってしまった担任だが、全て生徒に面白く思ってもらうための演技なのだろう。

 

「それでは、まずは男女にわかれて二人ペアを作って、黒板に書いていってね」

 

 立ち上がった水原を筆頭にみんながみんな席を立ち、教室の南北で男子と女子に分かれて話し合いが始まった。

 

「私はもちろんゆうりっちと同じ班がいいな」

 

 すぐに始まったペア取り合戦で一早く私の両腕をガッチリと掴み取った安達から逃げる術はなく仕方なく答えてあげようと思ったが、安達の後ろにいた人を見て声が枯れる。

 

 安達に声を掛けようとしていたかなり虚しそうにしている水原だった。

 

「……本当に私でいいの? 水原さんとの方が……」

 

 私はどうしてもそれを無視することが出来ず、安達にそう答えた。すると安達は水原の方を見て冗談混じりの口を開く。

 

「ひかりんとはいつもいるし、宿泊学習ぐらい離れたいなぁって。ひかりんもそう思うでしょ?」

 

 その言葉にたじろぐ水原だったがいつものように安達を睨みつけた。

 

「別に美幸と組みたいとか無いし。美幸こそ島田さんといつも一緒にいるんだから、宿泊学習ぐらい他の人と組んだ方がいいんじゃない? 私が島田さんとペアになるから」

 

 それからは口早に言葉を並べながら安達に近づいた。鼻と鼻が触れてしまいそうな距離の二人は火花を散らした。

 

 始まってしまった二人の言い合いを見届けていると肩を軽く叩かれたので振り向く。すると頬に人差し指が当たった。

 

 これ何度も見たことはあったけどやられるのは初めてだった。

 

「島田さん、私とペアになろうよ」

「河合さん……」

 

 それがテニスのダブルスのペアというのならば即答で頭を下げてでも受け入れるところだったが、今の状況的に返事をすることが出来なかった。

 

「大丈夫だよ。あの二人は多分あのままペアになっちゃうから」

「え、ええ!?」

 

 二人を心配そうに見ていた私の手を強引に引っ張って河合さんは黒板の前に私を立たせた。

 

 河合

 

 私の目の前でそう黒板に記したあとチョークを私の手に乗せてくる。

 

 ここまでされたら、もう書くしかないか。あの二人は喧嘩っ早いが仲が良いのは確認済みだし問題はないよね。

 

 私は黒板に苗字を記しチョークを置いてから、再び黒板に視線を向けた。

 

 河合

 島田

 安達

 水原

 

「…………?」

 

 殴り書きの汚い字の安達と今書き終えた綺麗な字の水原が書き込まれていた。

 

「二人とも、ちょっと書くところ近すぎない?」

 

 二人がペアを組むことを決めたのには感銘を受けたのだが、どうしてだろうか、これでは私達四人ですでに班が完成しているように見える。

 

「先生、問題ないですよね?」

 

 すると水原が担任を睨みながら肯定を要求した。

 

「な、何がだ?」

 

 演技で落ち込んでいた担任は話について行けておらず、要求に要求を返した。

 

「このクラスは女子が二人多いです。なので女子の四人班が一つあっても問題はないですよね?」

 

 水原は持っていたチョークを腕力と黒板とで板挟みにして、最終的にへし折った。

 

 それに驚いた担任は話を理解する前に首を縦に振ってしまう。

 

 あの担任、演技とかじゃなくて本当に落ち込んでいるのかな? 怒られると予想もしずにあれだけ叫んでいたのかな? 馬鹿なのかな? 

 

「で、でも、そうすると男の子が二人余っちゃうんじゃ?」

 

 使えない担任に変わって私が水原に思ったことを伝えた。

 

「大丈夫よ。女子が二人余るか男子が二人余るか。そこに大した差はないでしょ?」

 

 別にこの四人班が嫌というわけではないのでこれ以上否定することはないし、水原の言っていることに間違いはない。

 

「というわけで男子、そっち二人余るから三人を二つ作ってね」

 

 水原の発言にすでにペア決めが終わりを迎えていたのだろう男子達から不満の声が続出するも、水原の睨みを効かせた目によって黙り込んだ。

 

 

 

 それから男女別々のペアを組んでいき、班決めは終盤に差し掛かっていた。

 

 そんな時だった。

 

「いい加減にしろよ!」

 

 男子学級委員の田中が怒りの声を上げた。

 

 誰もがその声に反応して視線を向けたあと、田中が見ていたその先に全ての視線が移された。

 

 そこにはただ一人、班に属せず路頭に迷っていた俺の姿があった。

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