アビス・カラー・デイズ   作:たこ輔

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情報屋のファニーはある日、恋人を殺した犯人を捜してほしいという依頼を受ける。
なんでも頭が半分つぶれてしまうという凄惨なもの。しかし警察は事故として終わらせてしまったらしい。
その猟奇的な死に、ファニーは『アビス』が関係していると考えた。
そこに幼い少女、クルーエルも加わって調査に向かうと……


愉快の少女と残酷の少女:終

「で、どうなったんだ?」

「適当に嘘の情報流して隠蔽しましたよ」

 

 数日後、いつもの喫茶店、いつものカウンター席でマスターの質問にファニーは答える。

 あの後ファニーは警察だけ呼んでその場を後にした。きっと警察の方は大混乱になっただろうが、ファニーが流した嘘の情報も合わさって上手く世間には誤魔化してくれたようだ。

 騒ぎになったという話は聞こえてこないのが何よりの証拠。

 

「お前が出会ったのは結局何だったんだ?」

「さあ? あたしもよく分かりません。知っている人からの情報によりますと、人の脳に寄生して成長するタイプみたいですね。高度な知能を備えていて、人の身体から脱皮を繰り返すみたいです」

 

 ファニーたちが最初にあった肉塊は被害者男性から脱皮したものが成長した結果らしい。だから顔が似ていたという。

 あんなに膨れ上がっていたのは更なる脱皮の前兆というのが、知り合いの『アビス』に詳しい人の見解であった。

 

 そしてあの胎児が何をしようとしていたのかはわからない。何か恐ろしいものを呼び出そうとしていたことは察しが付くが、今となってはどうでもいい。

 

「そんなものと被害者にどんな繋がりが……」

「知りませんよ。どこで寄生されたのか。それとも被害者が発端だったのかはあたしの知るところではありません」

 

 本当に興味がなさそうに答えるファニー。彼女にとってあの『アビス』は終ったもの。それに被害者の男性がどのように関わっていたのかはどうでもいいことだった。

 マスターもそれをわかってか、『アビス』関してはそれ以上聞いてこなかった。

 

「依頼者にはなんて?」

「ありのまま伝えましたよ。見つけましたが既に死亡と」

「それで納得したのか?」

「さあ? そこまでは知りません」

 

 ファニーは依頼主との女性のやり取りを思い出す。

 女性の表情は悔しさや悲しさ、やるせなさの感情が入り混じっていた。しかし同時にどこか安心したような……解放されたような感情が伝わってきた。

 ただやはり、ファニーにとってはどうでもいいことだった。

 彼女はココアを飲み、一息つく。それからぼんやりと天井を眺めながら言葉を続けた。

 

「なんにしても、これで解決ですよ。クルーエルさんのおかげで」

「あの子のおかげで解決か……」

 

 解決したというのに、マスターは渋い表情をしている。クルーエルを『アビス』に巻き込みたくないマスターからすれば、当然の反応だろう。

 

「あの子は特別なんでしょうね。だから面白いんです」

 

 ニヤリと、意地の悪そうな笑みを浮かべるファニー。

 

「なんの話してるの?」

 

 噂をすれば、いつの間にかクルーエルがファニーの隣の席に座っていた。彼女はファニーたちの様子を不思議そうな表情で首を傾げて見ている。

 

「クルーエルさん。頑張ったクルーエルさんにマスターがクレープおごってくれるそうですよ」

「あ、おまえ! ……まあ、いいけどな」

 

 肩をすくめながら、マスターは後方の冷蔵庫を開ける。いくつかの材料を取り出し、クレープを焼き始めた。

 焼いた生地を皿に置き、その上に生クリームを塗っていく。その上に焼いた生地を重ねて……彼は手際よくそれを繰り返した。

 

「ほらよ」

 

 そうしてできあがったクレープはまるで山のよう。間に挟まる生クリームもたっぷり、甘いミルクとバニラの香りを漂わせている。

 

「相変わらず繊細さの欠片もない、豪快なお菓子作りですこと。しかも死ぬほど甘いですからね、これ」

「うるさい、ほっとけ」

 

 言いたい放題なファニーに、マスターは不機嫌に唇を尖らせた。

 彼はクルーエルの前に山のようなクレープがのった皿を置く。

 

 ファニー曰く死ぬほど甘いと言われるクレープを、クルーエルは黙々と食べ始めた。

 相変わらず何を考えているのかわからない、ぼんやりとした表情の彼女であったが、心なしか幸せそうに見えた。

                                    終

 

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