【熊本ネタ】熊本が好きすぎた結果地元愛を拗らせた西住まほ   作:Mamama

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世界の中心(熊本)で地元愛を叫ぶ

 逸見エリカの趣味はネットサーフィンである。オフの日や自由時間は良く携帯端末を使って情報収集を行っていることは周知の事実だ。内容としては芸能界のニュースやコスメ情報といった女子高生らしいものを始めとして、お菓子や戦車道の情報など多岐に渡る。

しかし、最近その趣味にとある変化が訪れた。

ずばり、地元熊本の情報収集である。

 

地元の事なんて地元民が知っていて当然と思いがちではあるが、意外と抜けが多い。灯台下暗しということなのか、身近だからこそ詳しく知らないことも多いのだ。

それに逸見家は熊本の中でも名士として知られた家系であり、故にこそ地元熊本の事を知り、熊本が如何に優れた場所であるか啓蒙活動を行うことは至極当然のことと言えよう。多分違うが、少なくともエリカ自身はそう思っていた。

 

「劇場版世界の中心で〇を叫ぶの監督である行〇勲の出身地が熊本である以上、世界の中心が熊本であることは自明の理。なのに何故愚かな民衆はそれを信じようとしないのかしら?」

 

 某隊長の良くない影響を受けまくったエリカの脳内は大分愉快な事になっていた。

突っ込み役に回るみほはいない。飛躍に飛躍を重ねた上で破綻した理論ともよべない何かを展開するエリカを止められる者は何処にもいない。

ベッドに寝転がった姿勢で、手元だけ異様に素早い動作で携帯端末を操作していくエリカ。

 

今閲覧しているのは某匿名掲示板だ。今現在『クソスレ立てんな』、『自演乙』、『じゃ〇んnetの観光名所ランキングの上位に熊本市電が食い込んでるクソ田舎がなんだって?』などの煽りを受けているがエリカは焦らない。民衆とは根本的に愚かな生き物であり、だからこそ選ばれた熊本の民である自分が導かなければいけないのだという使命感を帯びたエリカに死角はない。

 

「……ん?」

 

 ふと反応を示すエリカ。熊本出身の有名人について投稿されていたスレッド内で張られたとあるリンクだ。少し遡ってみると熊本を代表するお笑い芸人であるくりぃ〇しちゅーの話題であるようだ。

それまではくりぃ〇しちゅーに対して好意的な意見が目立っていたが、そのリンクを境にして『信じていたのに』、『おいおいこれマジか……』等の意見が見られるようになる。

 

「……」

 

 気になったエリカはそのリンクにアクセスした。今更ブラクラなんて恐れるエリカではない。

リンクをタップし、数秒で画面が切り替わる。そこにあったのは一枚の画像だ。

 

「こ、これは……!」

 

 

 

 

 

「個別で呼び出しなんて、一体どんな用事なんだろう……」

 

 少しばかり緊張の色を滲ませてみほは作戦室に向かっていた。放課後に一人で作戦室に来るように、とまほから呼び出しを受けたのだ。

心あたり、と呼べるものはない。単純な作戦会議であればエリカや車長達も呼ぶだろうし、自分一人だけ呼ばれる理由は分からない。あるとしたら何か失態をして叱責されるということだろうか。ただ、最近目立ったミスもしていないつもりだ。

 

「し、失礼します」

 

 おっかなびっくりな態度で作戦室に入るとテーブルに一人だけまほが座っていた。両肘を机に立てて、口付近を覆っている。普段から表情の薄いまほであるが、今日は輪に掛けて表情が読めない。ただどこか硬質さを感じる態度にみほは反射的に背筋を伸ばした。

 

「―――来たか。ああ、座ってくれ」

「う、うん……」

 

 おずおずとみほの向かい側に座る。

 

「えっと、何かあった……んでしょうか?」

 

 まほはみほの姉である同時に黒森峰の隊長だ。プライベート時なら砕ける口調だが、ヒリついた雰囲気に敬語が混じる。

 

「何も聞かずにこれを見て欲しい。それで私が何を言いたいか分かるだろう」

 

 まほは手元にあったノートパソコンを操作し、画面をみほの方に向ける。

そこに映し出されたのは一枚の画像だ。上〇さんの収入、というタイトルが記載されたそれには一つの円グラフがあり、闇の仕事の割合が53,4%という衝撃的な数字が並んでいる。

シルシル〇シルで流された捏造グラフだ。本人のワイプもしっかり映っている。

 

「……」

「みほ、これを見て私が何を言いたいのか分かってくれたことだろう」

「ごめんお姉ちゃん、欠片も分からないよ」

 

 みほは率直な感想をまほにぶつけた。

 

「お姉ちゃん。これはね、本当のことじゃなくてただの番組の演出だから。有〇さんは別に白いガウンを普段着にしてるわけでもないし、白い粉の王でもないからね」

「それぐらい私にも分かる」

 

 おや、とみほは意外に思った。熊本の事になると思考回路が爆発する姉の事だからてっきりこのグラフを信じ込んでいるのかと思ったが、そういう風ではなさそうだ。

 

「ええと、このグラフが嘘っていうことは分かってるんだよね?」

「当たり前だ。有〇が不動産業を営んでいる事実はないし、脱税を収入元としてカウントしているなど、このグラフは作りが杜撰だからすぐに気づいた」

「そこで気づいたんだ!?」

「この情報を持ってきたエリカは信じ切ってしまっていたようだが……まだまだ甘いな」

「エリカさんは信じちゃったんだ……それで、お姉ちゃんは何が言いたいの? 私にはさっぱりなんだけど」

 

 結局なぜ自分は呼ばれたんだろう、とみほは疑問に思う。

 

「ああ、その事だが―――」

 

 まほは自分の方にノートパソコンを直し、

 

「有〇の扱いが、悪すぎるとは思わないか?」

 

 そんな事を真顔で言い出した。

 

「くりぃ〇しちゅーは熊本を代表する芸人だ。長らくバラエティー番組の最前線で活躍しているのだから、間違いない」

「うん、まぁ。熊本出身の知名度がある有名人ではあると思うけど……」

 

 そこに関してはみほも同意する。普通に全国区の芸人だ。くりぃ〇しちゅーを知らない人は余程テレビを見ないごく一部の人くらいだろう。

 

「トーク力は高いし、ゲストに対して気を配れるからMCとしての実力は疑いようがない。制作会社からの評判だって悪くないし、目立った悪評があるわけでもない。新番組をスタートするにしてもその知名度から着火剤に出来るし、既存の番組であってもオールマイティに振る舞える程の実力がある」

「お姉ちゃんはいつからテレビ局のディレクターになったの?」

「それに結婚相手も熊本県出身の一般女性で、決して他県に媚びない一貫した姿勢にも好感が持てる」

 

 聞いちゃいない。

 

その後も延々とくりぃ〇しちゅーがどれだけ素晴らしいコンビであるか熱く語るまほ。バカ〇ンのパパは意外とはまり役だったとか、上〇ちゃんネルの差し歯が飛翔したエピソードとか、これまで数えきれないほど聞かされた話をまくし立てられて、みほは開始数分でダウン寸前まで持っていかれた。

こうなると手が付けられなくなるのは経験上分かっているので、みほは今日の夕食に思いを馳せながら時折まほの話に相槌を打つだけの機械になった。

 

「つまり、私が何を言いたいかというと―――」

 

 まほは立ち上がり、備品のホワイトボードにデカデカとした字で『熊本県出身の芸能人の扱いが悪すぎる問題』と書いた。ばぁん!とホワイトボードを叩くがみほの感情はまったく動かなくなった。

 

「うん、そうだね」

 

 最早何も考えてない状態で頷いたみほにまほは満足そうな顔だった。

 

「そこで今日は熊本県出身者の芸能人を取り巻く状況について考えていきたいと思う」

「前置きが長すぎるよ……」

 

 壁掛け時計に目をやるともう三十分が経過していた。しかもこれからが本番だと考えるとげんなりする。

 

「別に熊本出身の芸能人の扱いが悪いとか、そういう事はないと思うよ。有〇さんだってその番組で偶々弄られただけだし」

 

 面倒事は回避するに限る。やんわりと矛先を収めようとするが、まほは毅然とした態度で反論する。

 

「コロッ〇や水前〇清子だって知名度はあるのにテレビにはあまり出ていないじゃないか。これはテレビ局の謀略に違いない」

「コロッ〇は地方営業が多いし、水前〇清子は歌手でバラエティにあんまりでないだけでしょ? 女優の橋〇愛とか夏〇結衣なんてドラマや映画で良く起用されてるよね? 芸人だったらウッチャン〇ンチャンの内〇さんだって活躍してるから、別に熊本出身の芸能人が蔑ろにされているわけじゃないと思うな」

「……みほ、もっと前の段階の話なんだ。今みほが名を挙げた彼らは抜きんでた才覚によって地位を築いたのだろう。しかし、そもそも熊本出身の芸能人が少なすぎると思わないか?」

 

 それは熊本が田舎で人口が少ないからじゃないかな、とみほは思ったが間違いなく見えてる地雷なので何も言わずに黙っておいた。西住流に逃げるという道がなくても地雷があれば迂回ぐらいする。西住流でありながらも柔軟な対応が出来るみほなら猶更だ。

 

「タレント名鑑に掲載されることなく、諦めた者も多くいることだろう。東京のテレビ局の策略によって熊本は馬鹿にされている。ゴ〇けんほどの猛者がローカルタレントに甘んじているんだ。間違いない」

「そ、それはあまりにも強引すぎるような……」

 

 ずい、とみほに顔を寄せて力強く断言するまほ。姉妹故に変な気持ちなんてものは出てこないが、

整った顔が顔面すれすれまで来ているから普通に威圧感がある。

 

「よく考えるんだ。大ブレイクしたヒ〇シが、襤褸雑巾のように捨てられたのは何故だ?」

「い、いや、ヒ〇シ以外で消えた一発屋なんてそれこそいくらでもいるし……。それにほら、今本人はYoutuberになって頑張ってるでしょ」

「そこだ。ヒ〇シはYoutuberとして確かに再ブレイクしている。だが素人のキャンプ動画に何故人気

が出る?」

「そ、それは……」

 

 みほも偶に見ているレベルの軽いファンだが、あの魅力を説明しようとすると難しい。

口数の少ない中年男が只管キャンプしているだけの動画なのだが、不思議と見入ってしまうのだ。

 

「テレビ局という悪意を持つ第三者の介在がないからだ。そうでなければ今なおヒ〇シは最前線で活躍していたに違いない」

 

 そもそもヒ〇シがテレビに出なくなったのは本人の性格やメンタルが大きい原因なのだが、そこには触れないまほ。そして一見筋が通っているように見えなくもない理論を受けて、『もしかして私が間違っているのかな?』と思い始めてきたみほ。

 

「いや、でも……」

「間違いない。みほが好きなガリッ〇チュウの福〇がいまいち売れ切れていないのはその為だ」

「ふ、福〇さんを引き合いに出すのは止めてよ!」

 

 聞き捨てならない言葉にみほは反論した。

 

「おかしいと思わないのか? 今や同じような芸風になったロ〇ートの秋〇は人気者だというのに、福〇は微妙だ。船越〇一郎のモノマネでネットニュースにはなったが、現実の人気にはそこまで火が点かなかった……」

「そんなことないよ! ネプ〇ーグにもめざ〇しテレビにも出てたし、沖縄ローカルでレギュラーだって持ってる! ゲームなら竜が〇くにも出たしパチンコ桃〇郎電鉄のCMだってやってた! 福〇さんの知名度は微妙なんかじゃない!」

「―――でも冠番組はない。秋〇にはあるのに」

「いやぁ!」

 

 残酷な現実を突きつけられてみほは叫んだ。

 

「……ち、違うよ。ロ〇ートははね〇のトびらが放映されてる時から人気があったし、これはしょうがない事なんだよ……。動きのあるモノマネが売りの秋〇さんの方がテレビ映えするだけで……」

「もしもそれが卑劣な連中が仕組んだ罠だとしたら?」

 

 それはまるで悪魔の囁きのようだった。

 

「ガリッ〇チュウの才能に嫉妬した一部の愚か者が彼らの足を引っ張っているんだ。だからいまいち売り切れない。一ファンとして、そんな不正が見逃せるのか?」

「あ、あああ……!」

 

 黒森峰女学院を率いる隊長としてのカリスマまで持ち出され、みほは抵抗が難しくなってきた。

まほはそれまでの厳しい顔を崩し、ふっと笑う。

 

「西住流とはいえど、テレビ局にまでは影響力もない。今直ぐにこの状況を打破することは出来ないだろう」

 

 そこでまほは一度言葉を切って、みほの瞳を真っすぐ見た。

 

「だが、それを仕方がないで諦めて良いのか? 一人のファンとして出来ることを探すべきだろう。本当の、真のファンならば」

「……そうだよね。諦めたら戦車道だって勝てないもんね。頑張ってる芸人さん達を応援して、どうやったらもっと売れるのか考えるのもファンの役目だよね」

 

 握手するように伸ばされた手を、みほは握ってしまった。

黒森峰女学院きっての良心が陥落した瞬間である。 

 

 

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