【熊本ネタ】熊本が好きすぎた結果地元愛を拗らせた西住まほ   作:Mamama

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放課後黒森峰日誌

 全国の頂点を目指し切磋琢磨する高校戦車道の世界において最も警戒されているのがどこかと言われれば、それは間違いなく黒森峰女学院だ。

何せ前人未踏の九連覇を成し遂げ、二桁にリーチが掛かった状況だ。他校のマークが厳しくなるのも致し方ない。練習試合を積極的に組んで動向を伺ったり情報戦を仕掛けたり、勝負は戦いの前から始まっている。

 

そんな他校の動きに対して黒森峰とて悠然と構えているだけではない。絶対的な王者である黒森峰は、王者だからこそ弱者を相手にしても一分の油断もない。身一つで行うスポーツとは違い、戦車道では何が起こっても不思議ではない。極端な話、流れ弾を食らってフラッグ車が墜ちるということもありえるのだ。故に黒森峰は人事を尽くす。

それが破竹の勢いで九連覇を成し遂げた、一つの大きな要因でもある。

 

マークが多いということはそれだけ相手側から積極的に仕掛けてくるということであり、それを逆手に取ったカウンターの要領で黒森峰も情報収集に当たっていた。

 

「……全員揃ったか」

 

 まほの言葉にはい、と円卓テーブルについた黒森峰女学院の生徒達が返事をする。まほを始めとして副隊長のみほ、チームの主軸になるエリカに小梅、そして車長達だ。副隊長のみほは今日のところは書記という役割についている。

 

まほはちらりと時計に目をやり、軽く頷く。

 

「時間も押している。早速始めよう」

 

 まほを見て、みほはこっそり安堵のため息をつく。今日のところは変な発言はしないだろう、という謎の安心感だ。まほは戦車道においては極めて真面目に取り組む性格であるが、平時がアレなので最近は目が離せなくなってきた。

 

「―――はい。西住隊長、報告よろしいでしょうか」

「ああ」

 

 挙手し、はきはきとした口調で一人の女子生徒が立ち上がる。

 

「君達は……確か青師団高校を探らせていたグループか」

 

 青師団高校。和歌山に本拠地を構え、スペインの流れを汲む高校だ。

みほとしては数回練習試合の機会があったくらいで殆ど縁のない高校ではあるが、あの胸元を大きく開けた制服のインパクトは一度見れば十分だ。みほとしては絶対に入学したくない高校の筆頭だ。羞恥心の限界という意味で。

 

「はい。……やはり今年度は我々黒森峰の十連覇が掛かっている事もあり、他校ではチームワークを強固にするための新たな取り組みをしている学校が多く見受けられます。青師団高校もその一つです」

 

 戦車の種類が戦術を決める。だが戦車なんてものは簡単にぽんぽんと買えるようなものではない。そして用いる戦車が変化しないということは戦術も大きな変化はありえないという意味でもある。

 

勿論大局的な戦略という部分においては隊長が交代した以上は色の変化があるだろうし新たな戦術を身につけることもあるだろうが、戦車の基礎性能を活かすとなると既存の戦術を捨て去ることは出来ない。

よって、よりよい戦績を残すためには一人一人の練度とチームワークの向上は不可欠なものになる。その為に新たなシステムを取り入れる高校が増えてきたのだという。

 

「青師団ではどのようなものを?」

「はい。青師団高校はスペインの流れを汲むということもあり、殺戮能力の高い順に数字を与えるという取り組みをしているようです。これによって競争意識を高めているのだとか」

「青師団の生徒は破面の集団なのか?」

 

 お姉ちゃんが突っ込みに回るなんて珍しい、とみほは思った。

 

「ご安心ください。響転は使えませんし鋼皮もないようです」

「虚閃は打てますみたいな曖昧な報告は止めろ」

 

 戦車道に殺戮能力はまったく関係ないし、寧ろ青師団の生徒達は戦車に乗ることによって弱体化しているんじゃなかろうか。

 

「申し訳ありません。求められるのは正確な情報の伝達。そのことを踏まえ、改めて報告いたします」

「ああ」

「虚閃は打てます」

「打てるのか!?」

 

 驚愕する姉というのも中々レアだ。いや、誰でも驚くだろうけども。騒めきに包まれる会議室はまほ一喝で瞬時に静かにさせる。

 

その後も報告は続き、帰刃やら崩玉やら到底戦車道とは思えない言葉がぽんぽんと出てくる。みほはノートパソコンのキーボードに手を滑らせながら、私は今何を打っているんだろうと自問自答した。

 

「……ああ、分かった。では次」

 

 早くも疲れたように蟀谷を押しもむまほ。また別の生徒が挙手をし、報告を始める。

 

「我々のチームは先日練習試合を行ったBC自由学園を探っていました」

「ああ、あそこか」

 

 元々はBC高校と自由学園は別々の高校である。両艦の老朽化にあたり合併された、というのは有名な話。現在はエスカレーター組と外部生組の仲がすこぶる悪いという事で有名だ。それは戦車道の試合中にも遺憾なく発揮され、先の練習試合では包囲するまでもなく互いに砲撃し合って自滅するという世にも珍しい記録を残し、みほの記憶にも新しい。勝利の喜びや安堵よりも困惑が勝ってしまった試合はBC自由学園が最初できっと最後になるだろう。

 

試合後も罵詈雑言のぶつけ合いをする相手高校の面子を見つつ、なんでこの人達は味方で争っているんだろう、と思っていたものだ。向こうの隊長は優雅にケーキを食べてるし。

かつては全国大会でもベスト4に輝いた実績があるというが、失礼な話、あの体たらくを見ていると黒森峰の脅威になるとは到底思えない。

 

「BC自由学園の連携は、稚拙と言わざるを得ない」

 

 それは恐らく、みほだけではなく他の隊員達もそうだったのだろう。僅かに弛緩した空気をまほの冷たい言葉が切り裂く。

 

「だからこそ、結束した時には脅威になるだろう」

 

 黒森峰の隊長のカリスマが為せる技か、まほの言葉は大きくなくとも会議室に浸透し、多くの者が背筋を伸ばした。

 

高校の戦車道においては長らくBIG4と呼ばれる高校が上位を独占している。プラウダやサンダース、聖グロリアーナ、そして黒森峰。恐らく今回の大会もその四校で優勝を争うことになるだろう。

だが、遠くを見過ぎると足元が疎かになるとも言う。かねてよりまほが危険視しているのはその部分だ。

 

「……遮って悪かった。報告の続きを」

「はい。BC自由学園も先ほどの青師団と同じように新たな取り組みを行っている高校になります。その具体的な取り組みですが、エスカレーター組を一科生、外部生組をニ科生とする枠組みが発足しております」

「……」

「これも競争意識を高めるためのものとされていますが、現状としては寧ろ互いの差別意識を高めるものとなりつつあります」

 

 ですよね、とみほは思った。多分みほ以外の全員が同じ感想を抱いたことだろう。

しかしBC自由学園は文字通り自由だ。まさしく未来に生きているといってもいいかもしれない。

魔法があるなら私も使ってみたいよ、と文句を垂れつつも報告通りに文字をタイピングしていく。

 

BC自由学園はフランス戦車の流れを汲む高校だ。だからこそ、本来の意味とは違うがみほは『会議は踊る、されど会議は進まず』という言葉を思い出した。

いや、今開かれているのは本当に会議なのだろうか、という良くない思考まで飛び出してきたのでみほはそれ以上考えることを止めた。

 

その後も会議と称した何かは続く。やれ聖グロリアーナではヘルシング機関が発足したとか、やれアンツィオ高校では社会福祉公社が幅を利かせてきているとか、常軌を逸した内容をみほは心を無にしてタイピングしていく。

 

そうして出来上がっていくのは会議の議事録を称した小説のプロットだ。日本はいつからこんなに魔境になったんだろう、と思わなくもない。

こんな存在達が跋扈する日本で九連勝もしてきたことが奇跡のように感じてきた。寧ろなんで他校は黒森峰に負けてるんだろうか。

 

「……エリカ」

 

 一通りの報告を聞き終えて、まほは疲れたような声で言った。

 

「はい。なんでしょうか」

「冷蔵庫にあるまるごとし〇りストレートを持ってきてくれないか。デコポンのやつ」

「ヒ〇リ工房のソーセージはどうしますか? 最近お気に入りの」

「……じゃあそれも」

 

ジュースどころかドイツの食肉コンテストで金賞を取ったソーセージを所望するまほを見て、ああもう限界なんだ、とキーボードを叩いていたみほは思った。ただみほとしても限界が近かったので、このタイミングでのブレイクタイムは有難かった。

 

 

 

 

 

「―――まずは敵情視察の件、感謝する。我々の優勝も盤石なものになるだろう」

 

 みほには本当かよ、という皆の心の声が聞こえた気がした。先ほどまでソーセージを頬張っていたせいで頬が少し汚れているが、それがまた絶妙な間抜けさを演出している。

察したエリカがハンカチを差し出し、拭っていく。なんだか出番を取られたような悔しい感覚をみほは味わった。その役割は妹の私じゃないのか、と自然にキーボードを叩く音が大きくなる。

 

「むぷっ……。まあ、情報の精査は行う必要があるだろうが……」

 

 慌てて付け加えるまほに既に隊長としての威厳はない。熊本キチを拗らせた、ボケた姿の姉がいるだけだ。

まあ、これはこれでいいのかもとみほは思う。戦車道から一歩外れたら熊本愛しか語らないポンコツな姉だ。年を追うごとに戦車道の方にもプライベートの姿が侵食されていっているが、それだけ肩肘を張らなくなったということでもある。普段は頑張って冷徹な隊長を演じているが、それがボロボロの仮面だということはみほどころか黒森峰の隊員なら誰でも知っている。そしてそれを生暖かい視線で見守っている上級生と、姉に影響されたのか矢鱈と地元愛を語るようになった下級生。

それが果たして良い方向に転がっているのかみほには分からないが、個人的には軍隊然としていた以前よりは今の方が程よく力が抜けてありがたかったりする。

 

「我々もやるべき事はやっておくべきだと思う。どんなに小さな事であろうとも」

 

 まほは一度席を立ち、ホワイトボードにマーカーで書き込んでいく。そこには『熊本県民の対立問題』とデカデカと文字が躍っている。

あー、と諦観にも似た声がそこかしこで漏れる。最近問題になってきている隊員の熊本愛問題だ。

 

熊本は日本の都道府県の中では十五番の面積と大きい方で、四十五の市区町村に分けられている。世界第二位のカルデラがあるなど雄大な自然がある一方で熊本市は政令指定都市に指定されており、都会と自然が奇跡的に融和した場所なのだ。

 

住む場所が違えば文化が違う。互いの認識や価値観の相違が生まれるのは当然といえよう。

やはり皆が皆、自身が生まれる場所に誇りを持つもので、そこからちょっとした諍いが起こることもあるのだ。即ち、『私の地元が一番凄い』問題である。

 

「幸いな事に他県出身者に問題は起きていないが……」

 

 黒森峰は戦車道の名門故に県外から進学する生徒も存在する。しかしそのあたりについてはまほ自身が厳しく取り締まりを行っていた事が功を奏し、現状では大きな問題にはなっていない。

まほが一番地元愛を語らせたら凄いのだが、それはそれだ。流石に隊長として一線は引いている。

 

「……この間食べたリンガー〇ットのちゃんぽん、美味しかったよね」

「は? あんなものより太平燕の方が美味しんだが?」

 

 ぼそっとみほが呟くと耳ざとく反応してくるまほ。喜んで餃子に半チャーハンまで注文した癖に酷い言いようだ。恐らく条件反射で言ってしまったのだろうが。

次の瞬間にははっとした顔になり、まほは一つ咳払いをした。

 

「……熊本の素晴らしさ故にこうして問題が起こっている。大きな不和が無い事は私も知っているが、万全を期すべきだと思う」

 

 一理ある、とみほは思った。副隊長として知っているが、本当に最近ではその『私の地元が最高』も馬鹿にならなくなってきているのだ。無論、感情に任せて暴力を振るったり苛めに発展するケースはないが、口論の種になることがある。それはそれで一つのコミュニケーションとして成立しているのだが、黒森峰の不安要素を挙げるとしたらその部分になるだろう。

 

協議の結果、一度各々の出身者を纏めて集合させ、討論の場を設けることになった。公の場所で、オブザーバーとしてまほやみほが参加する討論会である。

 

後腐れなく意見をぶつけ合う。それはきっと問題を解決するための一助となることは間違いない。

ただ―――

 

「荒れるだろうなぁ……」

 

 誰にも聞こえない程度の音量でみほは呟いた。

 

 

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