ブラック・ブレット『漆黒の剣』   作:炎狼

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第三十話

「それにしたっていきなり結婚宣言はどうかと思うんだけど兄貴」

 

 ため息混じりに言う弓月は目の前で正座する自身の兄を呆れた様子の視線を送っていた。長身の玉樹が背の小さい弓月に怒られていると言うのはなんとも妙な光景だ。

 

 玉樹から零子へ送られた突然の「結婚してください」宣言の後、それを見かねた弓月が零子から玉樹を引っぺがして現在に至るのだが、テント内の零子以外の全員がそれに苦笑を浮かべていた。

 

 当の零子は何か可愛らしいものを見るような優しい微笑で玉樹を見やっていたが、残念ながら玉樹はそちらを向いていないためそれを確認する事は出来ていなかった。

 

 まぁ出来ていたらいたでまた面倒なことになりそうなのだが。

 

「いや、聞いてくれ弓月。確かにな、木更の姐さんもすっげぇ魅力的だけどよ。あの黒崎社長は別格なんだよ。なんつーんだその、そう! 大人の女の色気ってやつがすげーのよ」

 

「うっさい! ったく、少しはあたしの身にもなってよ! 恥ずかしいったらないわ!」

 

 玉樹の真剣な反論を顔を真っ赤に染めながら一蹴した弓月は玉樹の首根っこを引っ掴むとそのままずるずるとテントの端へ運んでいった。

 

 その途中、玉樹はすごくいい笑顔を浮かべて零子に問うた。

 

「黒崎社長! アンタのこと名前で呼んでいいか!? または木更の姐さんと同じように姐さんって呼んだ方がいいか!? というかもう呼ばせてくれ!!」

 

 玉樹はずるずると引きずられながらも零子を見つめながら叫ぶ。

 

「好きに呼んでいいわよ玉樹くん。アナタの呼びやすい呼び名で呼びなさいな」

 

 その言葉を聞いた玉樹は「っしゃあ!」とガッツポーズをすると、おとなしく引きずられていった。

 

「かわいいわねぇ」

 

「零子さん、年下の男子を誘惑しないでください」

 

「あら、誘惑なんてしてないわ。魅了しているのよ」

 

「社長、それでは同じ意味です」

 

 夏世に冷静なツッコミを入れられ、零子は「ちょっとしたお遊びなのにー」と言うとプクッと膨れた。

 

 なんとも大人げがない人である。

 

「さて……とりあえず改めて自己紹介を始めようぜ。最初は俺達からするからその次に凛さん達頼んだ。みんなもそれでいいな?」

 

 蓮太郎の言葉に皆が頷くと、まず最初に立ち上がったのは片桐兄妹だった。

 

 まず最初に玉樹が自身の名前を言い終えると、自慢の武器である小型化の動力ユニットを積んだ手甲とブーツにしくまれたチェーンソーを回転させた。

 

 しかし、残念なことに仲間内には不評だったようで、「うるさい!」という木更の一喝で玉樹はチェーンソーの回転を止めて今度は腰につってるマテバ拳銃を抜くと「これが俺様のビィィィィッグ・マグナァァァム!」と叫んだが、今度は女性陣から石を投げられると言うなんとも残念な自己紹介に終わった。

 

 男性陣はそれに「やれやれ」と首を振る者に、ゲラゲラと腹を抑えて笑っている者がいた。

 

 すると兄の醜態に顔を真っ赤にしながらも自己紹介をした弓月はそのまま皆を外に連れ出した。

 

 彼女は二本のブナの木に自身が作り出したクモの糸を橋の様に渡すと、その上を綱渡りをするように伝っていく。

 

 兄とは打って変って周囲が歓声を上げると、弓月は自慢げに胸を張ると地面に着地して「まっ、あたしにかかればこんなもんよね!」と声高らかに言った。

 

 その後、木更が天童式抜刀術で十メートル先にある大木を斬って見せ、ティナはシェンフィールドを駆使して凡そ二キロ先にある標的を見事に射抜き、周囲を驚嘆させた。

 

 蓮太郎はそこまで言うこともなかったのか、自信の義眼と義肢のことを軽く話した後延珠にバトンタッチした。

 

 延珠はスクッと立ち上がると五百メートルほど先にある木まであっという間に駆けて戻ってきた。

 

 そして蓮太郎たちのアジュバント最後の組である彰磨は細身の木を天童式戦闘術で見事に粉砕してみせ、彼のイニシエーターである布施翠は自己紹介の途中、噛んでしまっていたがなんとか自己紹介を終えると自身の武器でもある爪を伸縮させてみた。

 

 おー、と皆の声が上がるが翠はそれが恥ずかしかったのかすぐに帽子のつばを持って深く被りなおした。

 

 凛はそんな彼女の行動を見ていた僅かながら違和感を覚えた。

 

 ……随分と帽子の位置を気にしてるなぁ。なにかあるのかな?

 

 そんなことを考えていると、彰磨が翠を優しく見つめながら告げた。

 

「翠、これから仲間になる皆に隠し事はするな」

 

 その言葉に翠は一瞬悩んだように見えたが、小さくなずくととんがり帽子をとって頭を露にした。

 

 彼女の頭をみた瞬間、場の全員が一瞬息を飲むような音が聞こえた。すると、凛の隣にいた摩那が疑問を投げかけた。

 

「ねぇねぇ凛。こんなことってあるの?」

 

「まぁそうだね。体内のガストレア因子の作用の具合だと思うけど、僕も見るのは初めてかな」

 

 凛の答えに摩那は「ふーん」と頷くと美冬の下まで行って彼女の歯を見始めた。

 

「なんですの?」

 

「んー? いや、翠に猫耳が付いてたから美冬はコウモリの因子があるんだから牙とかないのかなーって思って」

 

「あぁそういうことですの。残念ながらわたくしはありませんわよ」

 

 美冬の簡単な答えに摩那は「なんだー」と残念そうに肩を落とす。だが彼女はすぐに立ち直ると、翠ににじり寄って彼女の前で小さく手を合わせた。

 

「ねぇ翠。あとでその耳障らせてもらってもいい?」

 

「ふぇ!? ……べ、べつに大丈夫ですけど……」

 

「そっか! じゃあ後でね」

 

 摩那はそれだけ言うと翠の下を離れ、凛の隣に戻ってきた。凛はそれに小さくため息をつくと彰磨と翠に謝罪もこめて軽く会釈をした。

 

 二人はそれを「気にしていない」と言うように首を振る。

 

「さて、それじゃあ蓮太郎君たちの自己紹介も終わったことだし、今度は私達がやりましょうか」

 

 零子の声に凛達は頷くとまず最初に立ち上がったのは杏夏と美冬だった。

 

「序列七八九位、春咲杏夏、歳は十八です。武器は主にこのグロックを使いますけど、他の拳銃も扱えます」

 

 彼女は軽く一礼をすると、その辺りに転がっていた空き缶を拾い上げると少し離れたところに缶をおいて、また始めの位置に戻るとグロックを抜き放ち引き金を絞る。

 

 弾丸がぶち当たり、缶が大きく弾かれて中空を舞うが杏夏はそれをお構い無しに次々に缶に弾丸を当てていく。

 

 十発ほど撃った所で彼女が銃撃をやめて地面に落ちた缶を拾うと、それを片手に皆の下に戻ってきた。

 

 連続で打たれたのだから缶は蜂の巣だろうと誰もが思ってそれを覗き込むと、次の瞬間皆が絶句した。

 

 缶には二つしか穴が開いていなかったのだ。しかもそれは弾丸が入った弾痕と貫通した弾痕であり、それから導き出せる答えは……。

 

「まさかこの一点だけを狙って全弾当てたのか!?」

 

 玉樹が驚きで素っ頓狂な声を上げるが、杏夏はそれに静かに頷いた。それを見ていた皆は今まで見たことがなかった杏夏の能力にただ驚いていた。

 

 拳銃を使ってでの超高精度の射撃技術は皆の度肝を抜くのにぴったりだったようだ。

 

「ではわたくしの番ですわ。杏夏のイニシエーター、秋空美冬ですわ。モデルはバット、武器は主にナイフ投擲などが主ですが銃も扱えますわ。あと特技というと……」

 

 美冬はそこまで言うと一度目を閉じて、皆に適当な位置にバラけるように告げる。そして皆がバラけ終わると同時に大きく息を吸い込み、以前聖天子暗殺事件の際に発揮した超音波を発した。

 

 発した超音波の跳ね返りを耳で聞くと、美冬は目を閉じたまま何処に誰がいるかを的確に当てていった。

 

「凄まじい索敵能力だな。地中にも有効なのか?」

 

「そうですわね。空気中や地中、水中にも通らせる事は出来ますわ。ただ水中とかだとかってが違うので手間取ることもありますが」

 

 彰磨の言葉に丁寧に答えた美冬は、次に控えていた澄刃たちにバトンを渡す。

 

「あー、えっと。黒霧澄刃だ、歳は十六で一応そこの里見と同じ勾田高校に通ってて、司馬重工の民警部門で働いてる。序列は五百位だよろしく頼む」

 

「え? マジか? お前俺と同じ高校だったのかよ!?」

 

「あぁ、けど最近は学校に行ってなかったしお前も学校じゃあんま人と接しねぇだろ? だから知らねぇのも無理はねぇさ」

 

 肩をすくめた澄刃はそのあと適当に自分が扱う剣術のことを話して、そのまま先ほど木更が斬った大木を綺麗に両断して見せた。

 

「では次はウチですなぁ。名前は天月香夜と申します、モデルはイーグル。以後よろしゅうお願いしますわ。武器はアサルトライフル二丁と、このバラニウム刀一本です」

 

 香夜はクスクスと笑った後軽く一礼をし、自分の能力の説明をした後摩那と凛に代わる。

 

「序列六六六位、断風凛。武器は今のところはこのバラニウム刀肆式を使ってるよ。使う剣術は断風流。よろしくね」

 

「それじゃあ次は私だねん。名前は天寺摩那、モデルはチーターで武器はこのクローだよ」

 

 凛と摩那は互いの武器を見せた後、先ほど木更と澄刃が斬った大木を摩那が軽々と持ち上げる。一行はそれに「何が始まるんだ?」という顔を見せる。

 

 すると摩那は「いくよー」と軽く言って大木を凛に向かって放り投げる。それに玉樹と弓月が「ちょっ!?」と驚いた声を上げるが、次の瞬間その大木に斬れこみが入りあっという間に板状にに切りそろえられてその場に綺麗に積み上がった。

 

 その光景に蓮太郎たちだけではなく、周囲のテントからその状況を眺めていた民警達も驚嘆をあらわにして大きな拍手が起きた。

 

 軽くそれに会釈で答えた凛は刀を収める。すると、摩那が先ほど延珠がやったように自分のスピードを表したいのか、ティナが狙撃した二キロ先にある目標を取ってくるとだけ言うと凄まじいスピードでその場から消える。

 

 誰もがその後ろ姿を追おうとするが、その姿を確認できたのはシェンフィールドを扱うティナと、鷲の因子を持つ香夜だけだ。

 

 そして数秒も経たないうちに摩那は「ただいまー」と軽い様子で言うと、ティナが狙撃した目標を手に持って帰ってきた。

 

 延珠を超える超絶なまでの速さに皆があんぐりと口をあけるが、摩那と同じネコ科の動物の因子を持つ翠と同じくスピード特化型の延珠は「……私たちよりもずっと速い……」と悔しげに呟いていた。

 

 いよいよ長かった自己紹介も最後の一組を残すこととなり、その最後の一組である零子と夏世が互いに立ち上がる。玉樹が待ちわびていたように目を爛々と輝かせてはいたが、もう皆反応する気も失せたようだ。

 

「では大取りを務めさせていただく黒崎民間警備会社社長、黒崎零子。序列はこの中で一番低い六万三千九十一位。武器は主にこのデザートイーグルね」

 

 ホルスターから愛銃である漆黒のデザートイーグルを二丁取り出して見せたあとそれらをホルスターに収める。

 

 零子はそのまま夏世に視線を送ると自己紹介をするように促した。

 

「千寿夏世です。モデルはドルフィンで、武器は基本的に銃火器全般です。能力はあまり戦闘向きではありませんがIQがそれなりに高いです」

 

 皆にお辞儀をした夏世に対し、皆がうなずいたのを確認した蓮太郎は最後に皆に共闘の時の注意事項を話そうとするが、ふと零子がそれを制する。

 

「ちょっとばかし時間をもらえるかしら?」

 

「あぁいいぜ。どうしたんだ黒崎社長」

 

 蓮太郎が言うと零子はそれに頷き語り始めた。

 

「さっきの彰磨くんの言葉を借りるとすれば仲間に隠し事はできないものね。凛くん達にも初めて見せるけど、これは蓮太郎くんが一番よくわかるんじゃないかしらね」

 

 言い終えると同時に彼女の右目から眼帯がするりと落ちた。眼帯の下には僅かながら傷があったものの、そこまで大きなものではない。

 

 零子は皆のほうを見ながらゆっくりと右目を開ける。

 

 彼女の右目が完全に開かれた瞬間、その場にいた全員が大きく息をのんだ。そして、蓮太郎だけがつぶやいた。

 

「それは……俺と同じ二十一式義眼!? まさか黒崎社長アンタも新人類創造計画の被験者なのか!?」

 

「うーん、そうとも言えるしそうとも言えないっていうのが本当かな。この目は私がある事件の時に負傷してね。ずっと何も見えなかったのよ。けれどちょうどそのころ新人類創造計画を進めていた菫が試作的に作ったのを移植したのがこれ。

 まぁ試作型の後蓮太郎くんのヤツで完成したから後でそれを移植しないかって言われたんだけど、どうにもこっちのほうがしっくり来ちゃってね。

 あぁでも能力的には蓮太郎くんの義眼とほぼ代わりはないから」

 

 いたって軽々と言う零子であるが、凛も含めてその場にいた全員が口をあんぐりとあけて驚いていた。

 

 しばしの沈黙が皆に流れるがそこでその沈黙を破るように、いかにも文官気質と言った様子の自衛官が「失礼」と短く告げて割って入った。

 

「作戦に参加する民警全員は一九三○時に前線司令部に来るようにと我堂長正団長から招集がかかりましたのでお急ぎを」

 

 それだけ告げると自衛官は別のアジュバントに召集の連絡をしにいったのか姿を消した。

 

「……とりあえず驚くのは後にしていくか。共闘にあたっての注意点はまた後で話そう」

 

 蓮太郎の言葉に皆頷き、彼らは前線司令部へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどまで出ていた夕日もすっかり西の空に沈み、周囲は闇に包まれていた。

 

 司令部前には既に多くの民警たちが集まり、その周りには闇夜を照らすために置かれた篝火がぼうぼうと燃えていた。

 

 周囲を見回した凛はふと零子がいないことに気がついた。

 

「摩那、ちょっと零子さん探してくるから蓮太郎くん達とはぐれない様にいてね」

 

「わかったー」

 

 返事を聞いた凛は人を掻き分けながら零子を探す。

 

 程なくして零子は見つかったが、彼女は珍しく外でタバコを吸っており背中を近場の木の幹に預けていた。

 

 篝火によって夜の闇に浮かび上がる彼女は、妖しげな色香があった。一瞬それにドキリとしてしまった凛であるが、小さく息をつくと彼女に声をかけた。

 

「零子さん」

 

 その声に零子は顔を上げるとフッと小さく笑みを浮かべてタバコを指の間に挟んで口から離した。

 

「どうした? 私がいなくて寂しくなってしまったか?」

 

「そんな事はないですけど、ちょっとだけ気になったんで来てみたんです。……タバコ、外でも吸うんですね」

 

「ん、あぁ。たまに……な。さっきの事は済まなかったな、君達に隠すつもりはなかった。だが、いつか言おうとは思っていたんだが如何せん話しづらくてね」

 

 肩を竦めてクッと笑う零子は先ほどの自分が皆に見せた義眼のことを謝罪した。

 

 しかし、凛はそれに首を振ると優しく告げる。

 

「別に気にしていませんよ。それに蓮太郎くんたちもあんまり気にしてなさそうですし」

 

「そうか……優しさに甘えてしまっている気もするが、すまないな」

 

 もう一度小さく謝罪した零子に凛は頷くと彼女の隣に立って目の前で我堂の登場を待っている民警たちを見据える。

 

「零子さん、我堂長正さんってどんな人でしたっけ?」

 

「序列二百七十五位、我堂長正。今年で五十四歳らしいがまだまだ現役であるらしい。直接会った事はないがかなり武人気質だと聞いたな。

 そして彼のイニシエーターは壬生朝霞。モデルまではわからんが、その実力は序列に決して引けを取らないほどだそうだ。

 因みに行っておくと、我堂はこう呼ばれているらしい――『知勇兼備の英傑』とな」

 

 零子がそこまで言ったところで民警たちが沸いた。

 

 凛がそちらに視線を送ると、ちょうどその我堂と朝霞が登壇しているところだった。

 

「ほう……鎧タイプの外骨格か。随分と高いものを持っているものだな。それに隣の壬生朝霞も同じものをつけているとはねぇ」

 

 零子は面白そうにくつくつと笑う。確かに我堂と朝霞はそれぞれ赤と水色の鎧武者型の外骨格に身を包んでいた。

 

「外骨格って確かパワードスーツの強化版って解釈でよかったでしたっけ?」

 

「そうだ。昔はやたら重いわ量産に向かないわ……さらにその他もろもろの事情もあって全くと言っていいほど表舞台に出てくる事はなかった。しかし、近年の科学技術の発展、例えばそうだな、カーボンナノチューブや私達が使っているバラニウム合金などの便利なものが出てきてから、ああいった動きやすくてしかも軽いものが作られるようになったんだ。

 まぁあんなもの君には必要ないだろうがね。むしろ断風流の神速剣術には邪魔だろうさ」

 

「因みにお幾らだったり?」

 

「ウチでも買えない事はないが、あっても無駄なだけだ。聞いても意味はないよ」

 

 零子は手をひらひらと振ってかぶりを振った。

 

 

 

「よくぞ集ってくれた勇者諸君ッ!」

 

 突然始まった大喝に凛と零子は一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐに我堂が挨拶を始めたのだとわかる。

 

「声でか。まぁ血の気の多いほかの民警連中を纏め上げるにはアレぐらいの大喝のほうが効果はあるのかもな」

 

「そうですねぇ。というか僕達こんな後ろに下がっていていいんですかね?」

 

「別にいいだろう。ここも司令部前には変わりはないし、なにより今動くと帰って目立つからここにいた方がマシだ」

 

 零子は紫煙を燻らせながら我堂の演説に耳を傾ける。

 

「諸君らも知ってのとおり、今、この東京エリアは未曾有の危機へと陥っている。しかし! それを防ぐことが出来るのは我等以外にいないッ!! いいか諸君! ――奴らを、ガストレアを殺せ!!

 我等の父母、祖父母、兄や弟、姉や妹。親友に恋人を殺した憎きガストレアどもを殺しつくすのだ!! 勝者のみが歴史に名を残すことの出来る創造者だ」

 

 拳を握り締めて力強く言い放つ我堂はさらに続ける。

 

「勝つぞ諸君! 我々が歴史の創造主となるのだ! そして後世へと語り継いで行こうではないか! 我等は押し寄せるガストレアの軍団に引けを取ることもなく圧倒し、彼奴等を葬ったと!! 勝利した暁には誇ろう、自らの子孫や国民に、この国を守るために獅子奮迅の戦いを繰り広げた英霊達に!! 今一度言う! 奴らを殺すぞッ!!」

 

 その豪快極まる演説に民警達は大地を震わすほどの歓声で答えた。

 

 確かに我堂の演説には相当の力がこめられており、凛や零子であってもそれに思わず頷いてしまったほどだ。

 

「すごいですね。さすが『知勇兼備の英傑』って言われてるだけはある」

 

「ああ、今ので殆どの民警の心をわしづかみにしているからな。まぁあの男が民警軍団の指揮を執るのなら変なことにはならないだろうが……おっとぉ? アレは蓮太郎くんじゃないか?」

 

「みたいですね」

 

 二人の視線を追うと、確かに蓮太郎と思しき人物が我堂に対して意見を述べていた。

 

 恐らく自衛隊と民警たちの距離が離れすぎているとでも質問を投げかけているのだろう。

 

「彼もまぁよく懲りずに突っかかっていくものだ。確かに離れすぎているとは思うが、今聞かなくてもいいだろうに」

 

「だけど、そうやってすぐに自分の思ったことを聞くのが彼のいいところだと思いますよ」

 

 凛が笑顔で言うと、零子は「そうなんだがね」と言い小さく肩を竦めた。

 

 その後、我堂は蓮太郎の問いに答えることなく翌日の予定だけを説明して降壇してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーにしてもおもしれーもん見せてもらったわ」

 

 テントまで戻ってきた一行だが、その中で澄刃は腹を抱えてゲラゲラと蓮太郎のほうを見て笑っていた。

 

「普通あそこであんなこと聞くか? 完全に空気やばかったじゃねーか」

 

「俺は気になったことを聞いただけだ。つーか黒霧、お前だって違和感ぐらい感じてただろ」

 

「……まぁな。明らかに自衛隊との距離が離れすぎだし、ありゃあ自衛隊が俺達を出させないようにしてると考えていいんじゃねーか?」

 

 澄刃はそう告げると肩を竦める。

 

 それを見ていた凛、彰磨、玉樹だが、玉樹が大きくため息をついた。

 

「澄刃がいってんのもわかるけどよー。実際自衛隊だけで片付いちまったら面白みもねぇよな」

 

「まぁまぁ、それならそれで被害も抑えられていいとは思うよ」

 

「そうだな。凛の言うことももっともだ、余計な犠牲が出ないだけマシだ。まぁ明らかに我堂団長の様子はおかしかったがな」

 

「オレッちも別にガストレアと戦いたくてうずうずしてるわけじゃねぇから別に構いやしねぇんだがどうにもなぁ」

 

 頭をガリガリと掻きながら玉樹はもう一度大きくため息をついた。

 

 すると、話し込む男子連中を木更が呼んだ。

 

「ねぇ皆! せっかくだから現担ぎでもやらない? ほら、自分達を鼓舞する意味もこめて」

 

 木更が焚き火を指差して言うと、男五人はそれに一瞬「やれやれ」と言った表情を浮かべると互いに頷きあい、焚き火の近くまで足を運ぶ。

 

 赤々と燃える炎を囲った十六人は互いの肩が触れ合うぐらいまで密着するとそれぞれ自分達の武器を焚き火に掲げるように突き出す。

 

「音頭とりはやっぱり蓮太郎くんじゃない?」

 

「はぁ!? なんでだよ! こういうのは片桐兄の仕事だろ!!」

 

 凛の言葉に動揺した蓮太郎は玉樹に話を振るが、

 

「おいおいボーイ。オレッち達の中で一番序列がたけぇのはお前だろうがよ。ここはお前がやれよ」

 

「そうだな、片桐と凛の言うとおりだ。お前がやれ里見」

 

「彰磨兄ぃまで……」

 

 蓮太郎は苦い顔をしながら小さくため息をつくと皆のほうを見やる。それに延珠、木更、ティナ、玉樹、弓月、彰磨、翠、零子、夏世、杏夏、美冬、澄刃、香夜、そして凛と摩那が頷く。

 

 すると蓮太郎もいよいよ覚悟を決めたのか大きく深呼吸をすると意を決したように告げる。

 

「よし、それじゃあ皆絶対に一人も欠けることなく戦い抜くぞ!」

 

「ああ!」

 

「ちょっと気負いしすぎじゃない里見くん?」

 

「それがお兄さんのいいところでもありますよ」

 

「蓮太郎よぉ、オレッち達が力貸してやるんだおろそかに済んじゃねぇぞ!」

 

「ホントーよ、変なことばっか気にしてたら承知しないわよこの変態!」

 

「俺や凛も付いている。負ける事はないだろうさ」

 

「そ、そうですよね! 里見リーダーもしっかりしてましゅし! 彰磨さんや凛さんもつよいです!!」

 

「若い子にはまだまだ負けてられないわねぇ」

 

「零子さん、そんなことを言うと一気に婆臭くなってしまいますよ?」

 

「私達もがんばるよ、美冬!」

 

「ですわね。皆をサポートできるようにがんばりますわ」

 

「どんなガストレアだろうが、俺がいりゃあぜってーにぶっ潰せるぜ」

 

「さすが澄刃やなぁ、期待し取るよ」

 

「大丈夫、皆で力を合わせれば不可能はないはずだよ」

 

「だね。絶対にあきらめないで最後まで戦うよ!!」

 

 皆が口々に言うと、蓮太郎は深く頷いて一際大きく声を張り上げた。

 

「んじゃ、皆、一緒にがんばっていくぞ!! えい、えい――!!!!」

 

 蓮太郎はその瞬間確信を持っていた。この仲間達がいれば絶対に勝てると。

 

 目的としていたアジュバントの人数には足りなかったが、こちらには凛やその仲間達がいる。

 

 当初蓮太郎が想定していたよりも凄まじい戦力だ。

 

 内心でこの二組のアジュバントが全民警で最強なのではないかと思ってしまうほどだった。

 

 思うことや、気になる事はあれど、蓮太郎は今はそれを振り払った。

 

 そして、総勢十六人のスクラムの中心が凹み、次の瞬間、全員の武器が天に向かって掲げられた。

 

「「「「「「「「「「「「「「「「オーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 遥か高みまで漆黒に染まる果てし無い夜天に十六人の雄たけびが木霊し、ここに二組のアジュバントが協力する関係が結成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆で現担ぎを終えた後、大まかな戦闘方法の確認を行った一行はそのほかのコンビネーションの確認を明日としてそれぞれのテントへと戻って休息を取ることとなった。

 

 そして深夜。

 

 草木も眠る丑三つ時、凛は十キロ先にある白化が始まった三十二号モノリスを見据える。

 

「……絶対に勝つ、そして……過去とも向き合わないと」




はい、これで二組のアジュバントが共闘することになりました。

零子さんの眼帯の下は義眼でしたというオチですが、一応は二話あたりでフラグは立てておきました。
そのほか最後のほう何せ十五人もいたもので台詞だらけになってしまいました。申し訳ない。
ここまでかなり原作沿いでしたが、次はオリジナルがかければと思います。

では感想などアレばよろしくお願いします。

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