ブラック・ブレット『漆黒の剣』   作:炎狼

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第三十六話

 自分と瓜二つの容姿をした青年、『りん』と対峙する凛は真っ直ぐに彼を見据える。

 

 見れば見るほど『りん』と「凛」は瓜二つだった。顔の形から目の形、眉毛や睫毛、細部に至るまで彼らは同じ容姿だった。

 

 しかし、唯一つ違うところがあった。それは髪だ。『りん』が黒髪なのに対し、「凛」は白髪なのだ。

 

『その白髪似合ってねぇな』

 

「かもね、だけどこれは君を封じた代償だから」

 

『代償……ねぇ。そう言えば聞こえはいいが実際のところはお前は俺から逃げただけだろうがよ』

 

「……そうだね。僕は君から逃げてしまった。いいや違うね……僕自身から逃げたんだ」

 

 凛は伏目がちに言うが、そこで『りん』は口角を吊り上げて笑みを浮かべた。

 

『そう、俺はお前だ。そしてお前は俺だ。なぁ凛よ、俺がどんな存在かは……時江のばーさんから聞いてんだろ?』

 

「うん。君は断風家で『りん』と言う名を受け継いだ者に継承される存在……そして君の本質は――狂気的なまでの破壊衝動と殺人衝動」

 

 すると彼は凛の言葉を遮るように首を傾けながら嘲笑した。しかし、彼がそんな態度を取っていても、凛は眉一つ動かさなかった。

 

『よく勉強してるな。そう、俺はお前の破壊衝動そのものってわけだ。まぁ俺はお前だけに存在してきたわけじゃない。さっきお前が言ったように断風家には何代かに一度『りん』という名を受け継ぐ者が現れる。

 では、その『りん』という名を受け継ぐに値する子供を見分ける方法は何だ?』

 

「……胸にある卍の紋様」

 

『そうだ。但しこれは齢十五になると消える。同時に、十五になると俺と言う存在が現れるってわけだ。

 俺が現れたその日に本来であれば儀式的にそいつが気絶させられて、今のお前みたいに精神世界で戦ってどちらか勝ったほうが外に出られるってわけだ。

 まぁ昔話はこの辺にしてそろそろ本題に入るか。今回お前がここに来たってことは力を取り戻しに来たってことでいいんだろ?』

 

 『りん』の問いに凛は静かに頷いた。すると彼はくつくつと笑い出した。

 

『たくよぉ。テメェほど自分勝手なヤツも見たことねぇぜ。だが……そういうのは嫌いじゃねぇ。力づくとかそういうのは俺が一番得意なことだからな。

 そんじゃ凛、いっちょやっか。俺が勝ったらお前の体は俺がもらう。お前が勝ったら力を戻してやるし、俺も消えてやるよ』

 

 『りん』は何処からか刀を出して凛に放った。凛はそれを受け取ると、『りん』と間合いをあけて態勢を低くした。

 

『んじゃあ、おっぱじめるとするか。負けても後悔すんじゃねぇぞ』

 

「うん、わかってる。僕は君に勝つ、そして力を元に戻して皆を救いに行くよ」

 

『ハン、できるもんなら……やってみろやぁッ!!!!』

 

 彼は吠えながら凛に向かって駆け出した。それに呼応するように凛も刀を抜き放って二人は激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凛が眠っている部屋では菫が生態情報モニタを見やりながらメモをとっていた。

 

「……心拍数、呼吸、脈拍、全てにおいて異常はなし。となると考えられるのは過去の自分との決別か……はたまた別の自分との決闘か……。どちらにせよまだ彼は目覚めそうにもないな」

 

 凛が眠りについて既に半日近くが経過しようとしていた。相変わらず外はモノリス灰によって薄暗く、気分を陰鬱とさせることこの上ない。

 

 しかし、凛の隣でぴんと背筋を伸ばして彼を見守っている聖天子の瞳にはあきらめの光はこれっぽっちも見えなかった。

 

 菫はそれに「やれやれ」と言うように肩を竦めると、着ていた白衣を彼女にかけた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「なぁに気にするな。医者が近くにいたというのに国家元首が風邪を引いたなどと知れればことだからね。というか、少し眠ったらどうだい聖天子様」

 

「いいえ。凛さんが目覚めるまで私は彼を待ちます」

 

 聖天子は凛の手を握って強く告げた。

 

 菫はその行動を止めはしなかったが、眠っている凛の顔を一瞥して心の中で呟いた。

 

 ……こんなに思われているんだ。帰ってきたまえよ、凛くん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレヤデス討伐のために未踏査領域へ入り込んだ蓮太郎と、凛に頼まれて彼の護衛と協力をになっている影胤と小比奈の三人はガストレア軍団の近くまでやってきていた。

 

 だが足を運んでいる中で不可解なことを三人は発見した。

 

 ガストレア達の近くでコカインの原料となる植物である、コカの葉が食いちぎられていたのだ。

 

 その際影胤はなぜコカの葉が食われているのか疑問を浮かべていたが、一回目の戦闘を経験した蓮太郎には思い当たる節があった。

 

 民警本部を出る前に木更達や凛達が言っていたことを統合すると、ガストレア達は何か極度の興奮状態にあったという。無論これは蓮太郎も感じていたが、最初はアルデバランのフェロモンの中に独特の洗脳作用があるのではとも考えていたのだ。

 

 しかし、コカの葉が齧られている事からガストレア達が自ら自分達を興奮状態にしたということがわかる。まぁもっともガストレア達が自分で選択をしたのかはわからないが。

 

「里見くん、見たまえ」

 

 考えながら進んでいた蓮太郎に前方を行く影胤が見るように促した。

 

 茂みからゆっくりと顔を出す蓮太郎だが、次の瞬間瞳に飛び込んできた光景に顔をしかめた。

 

 そこには様々な動物をモデルとしたガストレアがひしめき合っていた。

 

 また、ガストレア達から吐き出される呼気からは腐臭のようなものが漂っているため、鼻をつまみたくなりたくなった蓮太郎だが、何とかそれに耐えた。

 

 けれどガストレア達も全てが全て満足な状態ではないらしく、手足がもげて再生しきっていないものや、目が白濁しているものなど、様々な個体がいた。

 

「里見くん、プレヤデスというのはあれじゃないかな?」

 

 影胤が指を差す方向に蓮太郎が目をやると、確かに他のガストレアとは形が明らかに違う個体がいた。

 

 大きさは目算で縦横十メートル。ティナの『シェンフィールド』からの情報と、美冬の超音波からの情報のとおりの大きさだった。

 

 その体躯は我堂達からの情報どおり口は漏斗状にとがっていた。そして一番目が行くのはパンパンに膨れ上がった腹部だった。

 

 今にも破裂しそうな腹部には恐らくであるが、例の『光の槍』もとい水銀がたんまりと入っているのだろう。

 

 しかし、そこで影胤が顎に手を当てて考え込んだ。

 

「妙だね。あの体躯では歩く事はおろか、自身で食事をすることも困難のように見えるが……」

 

 確かにそうだ。と蓮太郎も思った。確かに圧縮した水銀は打ち出せたとしても、プレヤデスが生きるための食料は一体どうやって摂取しているのだろう。

 

 すると、そんな疑問に答えるように一匹のガストレアがプレヤデスの腹の上に乗って肩を震わせたかと思うと、その口から川からとってきたのか魚をプレヤデスの口に流し込んだ。

 

「なるほど、そういうことか。どうやらあのプレヤデスとか言うやつは固定砲台だけの役割をになっているようだね。そのために生き長らえさせられているということだ」

 

「……敵ながら嫌な生き方だな」

 

「そうだね。道具として利用されるなど反吐が出るよ」

 

 影胤が言い終えると、蓮太郎の腰を小比奈が小突く。彼女はジト目でおり、「行くなら早くしろ」といっているように見える。

 

 蓮太郎はそれに小さくため息をつくと、林を大きく迂回しながらプレヤデスまで接近した。

 

 途中何回もガストレア達が蓮太郎達に気付きそうになったが、何とかやり過ごし、ついに三人はプレヤデスに手を伸ばせば届く距離まで接近することに成功した。

 

「本来であればここで爆弾を使って消滅させるつもりだったんだろうが、君の荷物は流されてしまったと言うわけだ」

 

「……あぁそうだよ。だからやる事は一つだ」

 

 蓮太郎は言うとバラニウムの義肢を構える。しかし、そこで影胤が手を出して制した。

 

「けが人は引っ込んでいたまえ。ここは私がやろう。こういうヤツの相手もしてみたいからね」

 

「残念ながらテメェの斥力フィールドじゃ力不足だ。俺に任せろ」

 

 二人が声を潜めながら言い合いをしている中、小比奈は適当な大きさの岩に腰掛けてつまらなそうに小さくあくびをしていた。

 

 だが、いくら声が小さいと言えど二人の声はプレヤデスに届いていたようで、プレヤデスの片目が二人を捕らえた。

 

 けれどプレヤデスの瞳にはまるで生気がなく、完全に諦め切っているようだった。それもそうだろう、破壊にだけ特化し続けた末路がただの固定砲台として生かされているだけの存在なのだ。自身で満足に食事も取れないその様は、植物状態の人間と同じだ。

 

「このまま言い合っていても埒が明かない。二人で仕留めるとしよう」

 

「ああ」

 

 二人が茂みから出ると周囲のガストレア達がやかましく鳴き始めたが、二人はそれを気にせずにプレヤデスに近寄って構えを取った。

 

 そして数瞬の沈黙が流れた後、二人は叫んだ。

 

「天童式戦闘術一の型三番――」

 

「エンドレス――」

 

 影胤の手には青白い燐光が収束し、やがて巨大な槍を形成。蓮太郎の腕からも薬莢が三発吐き出された。

 

「轆轤鹿伏鬼・三点撃ッ!!!!」

 

「スクリィィィィムッ!!!!」

 

 漆黒の拳がプレヤデスの腹に叩き込まれ、青き魔槍がプレヤデスの腹を貫いた。その衝撃波で周囲の地面が凹み大きな皹が生まれた。

 

 大きく膨れ上がったプレヤデスの腹が波打ったかと思うと、次の瞬間、プレヤデスは叫び声すら上げずにこの世から四散し、消滅した。

 

 プレヤデスの死にガストレア達は驚愕の声を上げるが、蓮太郎はそれどころではなかった。

 

 すぐにこの場を離れなければならないからだ。

 

 だが、先ほどの技の影響でウルフのガストレアにやられた傷が開いたのか、腹部に激痛が走った。

 

 しかし、不意に誰かに持ち上げられる感覚がして蓮太郎が視線を向けると、小比奈がむすっとした顔で蓮太郎を小脇に抱えていた。

 

「お前、なんで……」

 

「うるさい。パパとの約束だから仕方なくだよ。ホントだったら斬ってる」

 

「小比奈。今は逃げることが先決だ、急ぐとしよう」

 

 影胤はシルクハットを被りなおして駆け出す。それを追う様に小比奈も駆け出すが、蓮太郎のことなど全くもって意識していない乱暴な運び方であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓮太郎達がプレヤデスを狩って三十分が経過したころ、民警本部に残っていた民警たちにアルデバランが動き出したと言うことが知らされた。

 

 到着は一時間も先だとのことだが、前もって準備をしておくようにとの通達だった。

 

 無論それは零子達にも知らされており、彼らは各々で準備を始めた。

 

「蓮太郎、大丈夫でしょうか……」

 

「どうかしらね。けれど彼はちょっとやそっとのことでは死なないわよ。ねぇ延珠ちゃん」

 

「うむ。妾のふぃあんせである蓮太郎がそう簡単に死ぬわがないのだ! ……そう、絶対に」

 

 付け加えるように最後の方を言っていたが延珠だが、その場にいた皆がそれに頷いた。

 

 そして皆の準備が完了したのを見計らい、二つのアジュバントの指揮を執ることとなった零子が皆の前に立って告げた。

 

「この中で一番序列が低い私が皆に何か言うのも変かもしれないけど……これだけは言わせてね。皆、生きて帰りなさい。決して刺し違えようとか考えてはダメ。無理だと思ったら逃げるか、誰かと協力しなさい」

 

 零子の言葉に皆が頷く中、玉樹が親指をぐっと立てながらニヤッと笑った。

 

「安心してください零子さん。貴女は絶対に俺が守ります! もちろん姐さんも含めて!」

 

「あーはいはい、少し黙っててバカ兄貴」

 

 玉樹は弓月に首根っこを掴まれてずるずると運ばれていったが、彼の行動で張り詰めていた空気が僅かに和んだ。

 

「んじゃ、そろそろ行こうぜ。準備も整ったことだしよ」

 

 話の区切りを見つけて壁に背を預けていた澄刃から外へと出て行く、それぞれが生き残ると言う覚悟を胸に抱いて。

 

 戦場となる平野までやってきた零子達の耳には遠くガストレア達が進撃してくる地響きが聞こえ、その中に混じってとてつもなく大きな咆哮が聞こえた。恐らくアルデバランだろう。

 

「摩那ちゃん。さっき菫から連絡があったんだけど、凛くんはまだ目ざめてないみたい。それでもいける?」

 

「ふふん、ぐもんだね社長。私は凛なしでも大丈夫だよ。それに、凛なら絶対に帰ってくるからね」

 

「そうですね。まだまだ新米の私から見ても凛さんは約束を破る人ではありませんし」

 

 するとその話を聞いていた杏夏達も答える。

 

「そうですよ零子さん。凛先輩は絶対に帰ってきます。だから私たちも生き残らないと」

 

「ですわね。わたくし達があきらめては凛さんに合わせる顔がありませんもの」

 

「そうね……。うん、そうだった」

 

 四人の言葉に零子は頷く。

 

 そん彼女らのやり取りを眺めていた翠は少しだけ鼻をスンスンと動かして彼女らの匂いをかいだ。これは翠の特技でもある『匂い占い』と言うやつである。

 

 ……なんて暖かくて安心する匂い……。本当にこの人たちの絆は強い。

 

 思わず頬を綻ばせる翠を見た彰磨も零子達を見て僅かに口角を上げた。

 

「……まったく、早く帰って来い。凛」

 

 彰磨の呟きは誰にも聞こえることがなく虚空に消えた。

 

 

 

 

 そして民警達が二回目の戦闘のために集まり終えてから三十分ほどたち、アルデバランと二千を超えるガストレア軍団が姿を現した。

 

 

 

「行くぞ諸君!! 奴らを、叩き潰せぇッ!!!!」

 

 団長である我堂の雄たけびに呼応するように民警達も各々の武器を掲げて迫り来るガストレア軍団を迎え撃つ。

 

 ガストレアの布陣は先日とほぼ同じであったためか、我堂率いるアジュバントはガストレアの軍勢を掻い潜ってアルデバランまで走っていった。

 

 そんな我堂たちの姿を遠目で見やりながら、零子達は自分達へと迫り来るガストレアを次々になぎ払っていく。

 

 だが、零子は義眼の力を解放しながらガストレアを駆逐しつつ、空を気にしていた。

 

 普通であればもうそろそろプレヤデスの攻撃があってもいいころだからだ。

 

 しかし、待てども待てどもプレヤデスの攻撃は飛来しない。そしてそれから答えに導き出すのは実に簡単であった。

 

「里見のヤツ、やったみてーッスね」

 

「そうね。さすがというべきかなんと言うか……」

 

 澄刃の言葉に肩をすくめながら答えた零子は犬型のガストレアの口にデザートイーグルの銃口を押し当てて、三発弾丸をぶち込んだ。

 

 すると彼女の死角を突いてもう一体のガストレアが飛びかかろうとするが、

 

「零子さんはやらせません」

 

 即座に反応した夏世がショットガンをリロードし、銃身をガストレアの喉奥に押し込んでから引き金を引く。

 

 バラニウム入りの散弾がガストレアの脳髄を吹き飛ばし、再生することなくガストレアは絶命した。

 

「さすがね」

 

「ありがとうございます。でも零子さん、油断しないようにしてくださいね?」

 

「ええ、わかってるわ」

 

 零子は義眼ではない方の目でウインクする。夏世もそれに笑いかけるが、そこで杏夏と共に戦っていた美冬が悲痛な声を上げた。

 

「翠ッ! そちらに行ってはいけませんわ!!」

 

 その声に全員がそちらを見た。彼らの視線の先には彰磨からはなれた翠が、走っており、さらにその先では戦場でプロモーターと逸れて両足を失っているイニシエーターの姿があった。

 

 恐らく翠はそれを助けようとしているのだろうが、なぜ美冬がそこまで声を上げるのだろうか。

 

「どうしたってのよ美冬? 確かに危ないけど周りにガストレアの姿はないじゃん」

 

 弓月が首をかしげながら問うが、美冬はそれを大きくかぶりを振って否定した。

 

「いいえ、あの足を失っている少女の真下に大きな空洞があるんですの! モグラの穴ではなく、アレは……アリジゴクだと思われます」

 

 美冬のその言葉にその場にいた全員が顔を強張らせて翠のほうを見やる。彼女はまだ少女の元まで到達はしていないが、このままでは危険なことこの上ない。

 

 瞬間、摩那達イニシエーターの瞳が真紅に染まる。それを零子は彼女らに告げた。

 

「行きなさい皆。だけど、絶対に皆で帰ってくるのよ」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

 彼女らは全員で頷く。そしてまず最初に先陣を切ったのは美冬と香夜だった。

 

「私らで道を作る。その隙にあんた等が行きんさい!」

 

「頼みましたわよ!」

 

 二人は頷き合うと、延珠とティナ、摩那と弓月、夏世が駆け抜けられるように周囲に集まりかけていたガストレアを殲滅しに行った。

 

 その間に翠が少女の下まで辿り着いてしまい、一瞬彼女の姿が消失しかけた。だが、それとほぼ同時にスピード特化の二人が同時に地面を蹴った。

 

 ドガッ!! という轟音が響いたかと思うと、ティナを延珠が夏世を摩那が背負って駆け出していた。

 

「はああああああッ!!!!」

 

「とりゃああああああッ!!!!」

 

 雄たけびを上げながら加速する二人の背中に乗るティナと夏世は互いに頷き合うと、それぞれ摩那と延珠の背中から飛び上がって翠が落ちそうになった穴の真上へ躍り出た。

 

 穴は漏斗状になっており、まさにアリジゴクの巣そのものだった。しかし、真ん中で獲物を待ち構えているガストレアは進化が進んでいるためか、明確にアリジゴクということまではわからなかった。

 

 けれど、その残虐さ極まる口元はみるだけで相手を恐怖させるものだ。だが、ティナと夏世にそんな事は通用せずに二人はそれぞれの武器、ティナは対戦車ライフルを、夏世はショットガンから背負っていたG36アサルトライフルを構えてガストレアに照準を合わせた。

 

「私達の友人を罠に嵌めようとしたこと――」

 

「――存分に後悔させて差し上げます」

 

 二人が言うと同時に、それぞれの銃から火焔が吐かれた。

 

 ティナの対戦車ライフルの弾丸はガストレアの顎を砕き、夏世のG36の弾丸がガストレアの脳漿を蜂の巣に変える。

 

 続けざまにティナの第二射が放たれ、ガストレアを完全に死滅させた。

 

 二人はそのまま重力に従って落ちるが、その瞬間、彼女等を狙ってか鳥型のガストレアが二人に襲い掛かった。しかし、

 

「やらせるか!」

 

「遅いんだよ!」

 

 そんな声が聞こえたかと思うと、ティナを狙ったガストレアが頭から切り裂かれ、夏世を狙ったガストレアは頭に踵落としを喰らい、そのまま地面に叩きつけられていった。

 

 ガストレアを倒したのは摩那と延珠だったのだ。彼女等はそのままティナたちと地上に降りる。

 

 それと同時に先ほどアリジゴクの巣に落ちかけていた翠と両足を失ったイニシエーターの少女が弓月の糸で引っ張り上げられた。

 

「いよっと。大丈夫翠? どっか怪我してたりウイルス注入されたりしてない?」

 

「は、はい。皆さん助けていただいてありがとうございました……。それと、勝手に行動してすみませんでした」

 

 翠は尻餅をついた状態でありながらもみ皆に頭を下げた。だが、皆それを叱責する事はなく、優しく告げた。

 

「気にしなくていいよ、翠。仲間なんだから助け合うのは当たり前だもんね?」

 

「ああ。もちろんだ!」

 

 摩那の言葉に延珠はニッと笑いながら言い、後から合流した香夜と美冬もそれに頷いた。

 

「では皆さん、行きましょう。零子さん達のサポートに行かなければなりません」

 

「せやなぁ、けどこの子どーする?」

 

「さすがにこのまま置いていくわけには行かないよね」

 

 香夜と弓月が両足を失った少女を見やると、そこで摩那が手を挙げた。

 

「だったら私が安全なところまで運ぶよ。皆は先に戻ってて」

 

「大丈夫ですか、摩那さん」

 

「へーきへーき! ホラ、みんな早く行って」

 

 夏世の問いに摩那は笑顔で頷く。延珠たちもそれを確認すると少しだけ気がかりそうな顔をしつつも零子達の下へ戻っていった。

 

 彼女等を見送ったあと、摩那は少女を背負って民警たちの本部があるところまで駆ける。

 

「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけどいい?」

 

 摩那が問うと、少女はそれに頷いた。

 

「ガストレアに足を切られたっぽいけどウイルスを注入されたり、体液を入れられたりしてないよね?」

 

「うん。それは大丈夫、斬られただけだから……でもこれじゃあもう戦えない」

 

「でも命があってよかったね。足がないだけなら生きてはいけるよ」

 

 摩那の言葉に少女は少しだけ悔しげな表情になる。恐らくこれからどうやって生きていくべきか悩んでしまっているのだろう。

 

「戦うだけが世界じゃないよ。だから絶対にその命を自分で投げ捨てるような事はしないでね? いい?」

 

「……わかった」

 

 少女はそれだけ言うとそのまま黙ってしまった。摩那もそれ以上は口に出さずに民警本部へ駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 摩那が少女を届け終わり、彼女も戦線に復帰するために戦場へ戻ろうとしたとき、彼女の頭上を戦闘機や対艦ミサイルが通り過ぎていった。

 

 轟音と共に駆け抜けた現代兵器が戦場から離れた場所からでも視認できる、小山のようなガストレア、アルデバランの頭部に着弾して業炎が吹き上がった。

 

 衝撃波がびりびりと摩那に届いた。通常であれば頭部を破壊されたガストレアはそのまま絶命するはずだ。

 

 ミサイル攻撃によって誰もがアルデバランの死を確信しただろう。

 

 しかし、頭部を破壊されたアルデバランは倒れる事はなく、そのままゆっくりと体を反転させて未踏査領域へと帰っていったではないか。

 

 さすがの摩那もそれに顔をしかめたが、すぐに雑念を払うように頭を振ると零子達の下へ戻っていった。

 

 零子たちの元へ戻ると、誰も欠けることなく皆がいた。その中にはプレヤデス討伐から無事に帰ってきた蓮太郎の姿もあり、彼は延珠に抱きつかれて肩口の辺りをがぶりと噛まれていた。

 

 その様子に摩那もつい笑顔になりつつ零子の下へ向かう。

 

「零子さん。ただいま戻りましたー」

 

「ん、お帰り摩那ちゃん。女の子は大丈夫だった?」

 

「うん、足斬られてたけどガストレアウイルスは注入されてないみたい」

 

「そう。ならよかったわ……けれどこちらはちょっとそうでもないのよねぇ」

 

 零子は深くため息をつく。摩那がそれに首をかしげていると、夏世が彼女の肩を叩いて告げた。

 

「実は団長である我堂長正さんが戦死されたようなんです。それで次の団長として選ばれたのが、里見さんなんです」

 

「なるほどねぇ……けどなんでそれに零子さんは微妙な顔をしてるわけ?」

 

「それは里見さんが団長を勤めるには若すぎるからだと思います。零子さん自身は特に問題はないでしょうが、他の民警たちがどう出るか……」

 

 夏世も眉間に皺を寄せつつ難しい顔をすると、摩那も納得したように頷いた。

 

 すると彼女は未だ来ない凛を呼ぶように聖居の方を見やった。

 

「……まずいよ、凛」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあッ!!」

 

 そんな苦しげな声が凛の口から吐き出された。

 

 彼の体には刀で斬られた傷が刻まれており、傷口からは止め処なく血が溢れている。

 

『どうしたよ、凛。そんなもんか? あぁ?』

 

 そう声をかけるのは『りん』だったが、彼にも頬に傷が刻まれていた。しかし、凛と比べれば傷は少ない方だった。

 

 すると凛は血を流しながらもゆっくりと立ち上がって『りん』を見据えた。

 

『ハハッ、いい目だ凛。ホレかかって来いよ』

 

 『りん』はケタケタと笑うと刀の峰を肩にとんとんと当てながらもう一方の指で凛を誘った。

 

 凛はそれに対して眉を動かすことなく、額から流れてきた血を拭って刀を構える。

 

「行くよ、りん」

 

『そうこなくっちゃなぁ!!』

 

 二人は同時に駆け出して刀と刀をぶつけ合う。

 

 刃と刃がぶつかり合って火花が散るが、二人はそれぞれ一歩も引かずに剣戟をぶつけ合った。




はい、今回はプレヤデス討伐とアルデバラン二回目撃退ですね。

翠は生きてますからご安心をw
ちゃんとこの後、翠の処遇をどうするかも決めてあるのでそれは逃亡犯編で明らかにします。

凛くんピーンチ!!
果たしてこのまま『りん』に負けて取り込まれてしまうのか!?

次はアルデバラン討伐に突入して、いよいよ凛が覚醒ってとこまでですかねー
その次に決着と言った所でしょうか。
凛の再登場は猛烈にかっこよくしたいと思っております。
まぁどこかでみたような登場になってしまうかも知れませんが……w

では感想などありましたらよろしくお願いします。
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