ブラック・ブレット『漆黒の剣』   作:炎狼

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第三十八話

 『りん』が背後で倒れるのを感じ取った凛は血が溢れ続ける傷口を押さえてその場に肩膝をついた。

 

 しかし、彼はそのままゆっくりと立ち上がると四肢を切断された『りん』の下まで歩み寄った。

 

『……また勝てなかったぜ、嫌になるな』

 

 四肢を切断され、胸には十字の傷があると言うのに彼はあっけからんとした様子で呟いた。

 

 凛は傷の痛みも忘れて目を見開きそうになったが、静かに彼に問うた。

 

「痛みとかはないわけはないよね?」

 

『ったりめぇだろうが。超いてぇよ。けどな、昔にもこんなことがあってよ。慣れちまったわ』

 

「慣れたって……」

 

 そこまで言ったところで凛は自分の体に起こった異常を感知した。そのまま自分の体に視線を落とすと、先ほど『りん』に斬りつけられた傷が見る見るうちに回復していたのだ。

 

 同時に、『りん』の体も切断された四肢が体にくっつき、傷が治癒していった。

 

 その光景に凛がポカンとしていると、完全に傷が修復した『りん』が「いよっ」と言いながら跳ね起きた。

 

「どうなって……?」

 

『あん? あぁ、まぁこれは俺がお前に負けたって認めたからっつーか、なんつーかそんなもんだ』

 

「けど、僕も一度は負けたって思ったけど?」

 

『そりゃああれだろ、お前の理性では負けたって思ってたんだろうが、本能が負けたくないって思ってたから直らなかったんじゃねぇの?』

 

「そういうシステムなの?」

 

『さぁ? 俺もそこまで詳しくねぇし。つーか、んなことはどうでもいい。お前、最後俺に喰らわしたあの技なんだ? 見たことねぇが』

 

 肩をすくめて問う『りん』に凛は静かに頷いて語りだす。

 

「アレは僕が考えたんだ。最初の一撃で横真一文字に切り裂いたあと、縦に切り払って鞘に収めると、四肢へ衝撃が端って爆散って感じなんだけど」

 

『エグイなおい。……まぁその辺はさすがというかなんと言うか。しかも戦ってる中で即興で作るとは恐れ入るぜ。っと、こんなこと話してる場合じゃねぇか』

 

 彼はそういうと、パチンと指を鳴らした。同時に彼等の背後にこれまた真っ白な扉が現れた。

 

『いけよ、摩那達が待ちくたびれてるんだろ? あぁそうだ、力のほうは目が覚めれば戻ってると思うぜ』

 

 薄く笑みを見せながら彼は顎をしゃくって扉を指した。その体は段々とだが手足の末端から薄くなってきていた。

 

「『りん』君は……消えてしまうのかい?」

 

『そりゃな。でもまぁまた新しい『りん』が生まれれば俺はまた生まれるさ。俺はそういう存在なんだからな。ほれ! くだらねぇこと話してないでさっさと行け。この甘ちゃんが』

 

 彼は凛を突き放すように彼の肩を押した。凛は一瞬それに戸惑ったように見えたが、彼は深く頷くとそのまま扉へ向かって歩き始めた。

 

 やがて凛の手がドアノブにかかった時、『りん』が背後から声をかけた。

 

『凛! そのまま振り向かずに聞け。……お前はきっとこれからとんでもない戦いに巻き込まれる。その時、人を殺さなくちゃいけない時もあるだろう。だがな、絶対に迷うな。お前が信じた道を行け、お前の正義を貫けよ』

 

 その言葉に背を押されながら凛はドアノブを回し、扉を開け放った。完全に扉が閉まりきる前に凛は背後の『りん』に見えるように手を高く挙げた。

 

 それを確認した『りん』は僅かに笑みを浮かべて凛を見送った。

 

 扉が完全に閉まり、一人白い空間に残された『りん』は大きくため息をつきながら誰かを呼ぶように声を張った。

 

『いい加減出て来いよ。「(りん)!!」』

 

 その声にこたえるように『りん』の目の前に透き通るようなサラサラとした長髪の女性が姿を現した。

 

 彼女は煌びやかな着物に身を包んでおり、その佇まいからは大人びた雰囲気が醸し出されていた。しかし、表情は悪戯が成功した童女のように笑みを浮かべている。

 

『ったく、いくら子孫の凛が気になるからって口添えまでしてやる気出させんなよ初代断風さんよ』

 

 初代断風――。そうよばれた彼女は口元に手を当ててクスッと笑う。

 

 そう、この人物こそ先の戦いで凛の心を回帰させた人物であり、断風流初代当主、そして初代りんである。

 

 彼女は笑みを浮かべたまま『りん』を見ると静かに告げた。

 

『それは悪いことをしたな。しかし、現断風家当主である凛は我の子も同然。子を助けてやるぐらい大目に見ろ』

 

『あーそうかい。まぁアンタのわがままも今に始まったことじゃねぇから何もいわねぇけどよ。……初代断風であるアンタから見て凛はどうだった?』

 

『強いな。まぁ精神的なものはこれからまだ成長の余地はあるとして……戦闘能力は全盛期の我を超えるだろう』

 

『マジか? 確かに強いとは思うが……本当にそこまで行くかね?』

 

 若干の疑念を抱きつつ彼女に問うと、麟は誇らしげに胸を張ると力強く言い放った。

 

『我の目に狂いなどない。凛は今までの断風の中で最強になるだろう。しかし、それになるにはもう少し時間が必要だろうがな』

 

『へぇそうかい。……おっと、俺もそろそろリミットか』

 

『む? そのようだな』

 

 『りん』が自身の体を見ると、既に胸の近くまで透明になって来ていた。それに対し、彼は口角を上げると、

 

『んじゃ、俺はまたしばらく眠るわ。またいつかな』

 

『ああ、またな』

 

 彼女が返すと同時に、凛の姿は白い世界に溶け込むようにスッと消えていった。それを見送った麟は子孫である凛を思い浮かべながら静かに呟いた。

 

『頑張れよ、凛』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓮太郎は焦っていた。

 

 今、彼等民警が展開しているのは当初の本部から離れた『回帰の炎』まで下がっていた。

 

 未織が到着して新たに立案された計画は、アルデバランの中である爆弾を起爆させることだった。

 

 その爆弾の名は『エキピロティック・ボム』略称で『EP爆弾』という。これは司馬重工の技術者達が開発した特殊爆弾だ。

 

 破壊力は未織お墨付きであり、自衛隊がアルデバランに落とした五百ポンド爆弾の二十倍の破壊力があると言う。

 

 しかして、それだけでアルデバランは倒せないと言うのが未織の見解である。結果導き出された作戦は、アルデバランの体内に直接『EP爆弾』を叩き込み、体内で爆破してアルデバランを塵も残さず消滅させると言うのが今回の作戦『レイピア・スラスト』であった。

 

 そして、EP爆弾をアルデバランに叩き込むのは他でもない蓮太郎なのだ。未織が言うには「凛さんが追ったら二人で協力してで来たんやけど……」と非常に悔しげな表情を浮かべていた。

 

 だけれど、蓮太郎の焦燥――いや、蓮太郎達民警の焦燥には別の理由もあった。

 

 この『レイピア・スラスト』が行われるのはアルデバランが進行してくる時間、つまり夜だ。未だ厚いモノリス灰の生で月明かりや星明りは期待できないため、大量のサーチライトを使いアルデバランを補足するのが当初の予定であったのだが、そのサーチライトを動かすためのバッテリーが未だ到着していないのだ。

 

「クソッ! なんでバッテリーが届かないんだ!!」

 

 歯を食い縛って苛立ちを露にする蓮太郎だが、表情には苛立ち以外にも不安の色が写っていた。

 

 しかし、それは皆同じなようでざわめきの声も多く聞こえた。傍らの延珠もまた不安げな顔をしている。

 

「もしこのままバッテリーが到着しなかったらどうするつもりだ? 里見よ」

 

「黒霧……」

 

「まぁ団長はお前だ。俺はお前に従うさ、この状態でも一応は戦えるしな」

 

「確かにウチらなら平気やけど……他の連中は結構キツイんちゃうの?」

 

 澄刃を見上げつつ言う香夜は笑みを浮かべているものの、僅かながらその表情の中には皆を心配している色が見える。

 

「なぁ黒霧。……凛さんはくると思うか?」

 

「断定はできねぇ……が。アイツは約束は何が何でも守るヤツだよ。特に仲間のこととなると人一倍な」

 

「じゃあ」

 

「ああ、くると思うぜ? んじゃ、まだ時間はありそうだからいろいろ調整しとくわ。香夜、行くぞ」

 

 澄刃はくるりと踵を返して玉樹たちの下へ帰っていった。そのあとにトテトテと香夜も続く。

 

 確かに、アルデバランの襲撃まであと三十分近くあった。先ほどティナに確認したところ、まだ目視圏内には入っていないらしい。

 

 しかし、時折彼方から聞こえてくるガストレア達の咆哮は生き残った民警たちを脅しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 零子は未織と並びながら話をしていた。

 

「未織ちゃん。単刀直入に聞くけれど、凛くんの新武装は完成したのかしら」

 

 内心、零子は少しだけ不安が残っていたのだ。もし凛が目を覚まして戻ってきたとしても果たして彼の力に耐えうるだけの武器があるのかと。

 

 すると未織はそんな不安を消すように悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「もちろんや。凛さんの新武装はもう出来上がっとるよ。全てにおいて司馬重工最強の刀になっとる。

 それ以外にも、色々凛さんに新しい兵器と言うかオプションもつけといたで」

 

「オプション?」

 

「まぁそれは見てからのお楽しみやな。因みに武装は聖居に送ってあるから心配あらへんよ」

 

 未織の説明に零子は静かに頷くと聖居の方を見やりながら呟いた。

 

「帰ってきなさい。凛くん」

 

 そんな零子の近くでは、摩那と朝霞が肩を並べており、摩那は真剣な面持ちで零子と同じように聖居を見やっていた。

 

 その時、彼女の肩を隣にいた朝霞が軽く叩いた。

 

「心配なのか?」

 

「……少しだけね。大丈夫だって言う事はわかってるんだけどどうしても心配しちゃうよ」

 

「摩那。私はあの男、断風凛とは一度しか会っていないから深いことまではわからない。しかし、ただひとつわかることがある。

 あの男は武人だ。長正様とはまた違うタイプではあるが、彼も芯がしっかりとしている感じがした。

 だから、心配する必要はないと思う。それに、お前を見ていれば彼とお前が固い絆で結ばれているのもわかる。きっと戻ってくる、その時彼を笑顔で迎えられるように生き残るべきだろう」

 

「朝霞……」

 

 我堂の横に並んでいたときには決して見せなかった優しげな表情に、摩那も思わず笑みを綻ばせると力強く頷いた。

 

「うん! そうだね。いやー、私としたことがナイーブになってたよー」

 

 後頭部をぽりぽりと掻きながら笑う摩那につられて朝霞も僅かながら笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから二十分たっても、結局バッテリーは届くことがなく、ガストレア達の赤い瞳が目に見えてくる距離に迫ってきていた。

 

 蓮太郎は止む終えず総員突撃命令を下そうとするが、そこで摩那が「あっ」と声を上げた。

 

 その声に全員が摩那の視線の先を追うと、そこにはオレンジ色の暖かな光がぼうっと東京エリアの空に浮かんでいた。

 

 それも一つ二つではない。数百、数千をゆうに超えているであろう光が空高く上がっていた。

 

 蓮太郎をはじめ、誰もが「なんだろう」と首を傾げかけた。だが、そこで零子が声を漏らす。

 

「幻庵祭の熱気球……。なるほど、聖天子様の考えかしらね」

 

 その声を蓮太郎が聞き終わったとき、自身のスマホが鳴動したことを感じ、蓮太郎は画面をタップする。

 

『里見さん、私です』

 

「聖天子様。アンタの計らいか?」

 

『はい。ただいま東京エリアの国民を集めて皆に熱気球を上げてもらっています。これだけの光が集まれば照らせるのではないでしょうか』

 

「……見えてるよ。ガストレアの姿も、しっかりと見えてる」

 

『それはよかったです……。里見さん、あの光の一つ一つは東京エリア全員の願いです。この戦いで敗北すれば、東京エリアは壊滅し人々は蹂躙され、殺されてしまいます。そうならないために、貴方方に全てを託します。

 凛さんがいないこの状況でも貴方ならきっとやり遂げると、私は信じています。だから勝って下さいッ』

 

「ああ、わかった。俺が――いや、俺達が東京エリアを救ってみせる」

 

 蓮太郎は聖天子に告げると、通話を斬ってスマホをポケットに押し込んだあと、ガストレア達に視線を向ける。

 

 オレンジ色の光に照らされたガストレアは外周区の町付近まで迫っている。

 

「里見くん!」

 

「お兄さん!」

 

「蓮太郎!」

 

 木更とティナ、そして延珠の声が聞こえ、蓮太郎は皆に号令をかけた。

 

「行くぞッ!! 総員、攻撃開始ッ!!!!」

 

 その言葉を待っていたというように、街中に配置されていた銃火器が火を噴いて前列のガストレア達を吹き飛ばしていく。

 

 最終決戦の火蓋が落とされたのだ。

 

 巻き上がる砂煙。

 

 燃え盛る火焔。

 

 耳を貫く爆音。

 

 それらが蓮太郎に届いたころ、彼は拳を強く握り締めて言い放った。

 

「行くぞ、アルデバラン。人間を舐めるなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓮太郎との会話を終えた聖天子は覚束無い足取りながらもゆっくりと凛が眠る部屋へと向かっていた。

 

 扉の前に立つと、彼女は震える唇をキュッとつぐんでドアノブを回した。

 

 内心で凛が起きていて欲しいと彼女は願っていた。

 

 ……お願いします、凛さんッ!

 

 まさに神に祈るような心持で部屋に入って凛が眠るベッドを見やる。

 

 が、そこに彼の姿はなかった。

 

 一瞬、彼女は何が起きているのかわからなかった。確かに、先ほどまで眠っていた彼の姿がなくなっているのだ。驚くのも無理はない。

 

 すぐに彼女は被りを振ると、部屋を見回した。

 

 そして、彼を見つけた。

 

 外から差し込むオレンジ色の光に身を照らされ、下半身は黒のカーゴパンツにブーツ。さらに腰にはベルトで固定された腰マント。

 

 上半身はファスナーがついたニット素材のタンクトップ。その上には黒のジャケットを羽織った、いつもの白髪ではなく、黒髪の凛の姿がそこにあった。

 

「……凛さん?」

 

 思わず出た言葉は疑問系だった。すると、彼女の言葉を聴いた凛は振り向いて優しく笑みを浮かべた。

 

「お待たせして申し訳ありません。断風凛、ただいま帰還しました」

 

 その声を聞いた瞬間、聖天子は目に大粒の涙を溜めながら彼に走りより、彼の胸を駄々っ子が叩くように叩いた。

 

「……遅すぎますよ……! 私が、どれだけ……どれだけ心配したと思っているんですか……!!」

 

「……すみません」

 

 聖天子の震えた声に凛は笑みを消して神妙な面持ちになると、彼女を軽くであるが、宥めるように抱きしめた。

 

「本当に……ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 

 凛が謝罪をすると、聖天子は涙を乱暴に拭ってきりっとした眼光で彼を見据えて言い放った。

 

「では、その気持ちを行動で示してください。断風凛、貴方にはこれからアルデバラン討伐作戦へ戻っていただきます」

 

「御意に」

 

 凛は聖天子からはなれ、彼女の前で方膝をついて頭を垂れた。

 

 聖天子はそれに頷くと「ついて来てください」とだけ告げると扉の方へ歩み寄った。

 

 しかし、その途中彼女は思わず態勢を崩してしまって転びそうになってしまう。

 

 するとそんな彼女の背を優しく持った凛が彼女を抱えて部屋から飛び出した。

 

「な、なにを」

 

「少々荒っぽいですが、今は時間がありません。聖天子様、通路を案内してください。そこに僕の新武装があるんでしょう?」

 

「はい、では次の角を左です」

 

 凛はそれに頷くと、聖天子に言われたとおりの道順を進んでいった。

 

 時間にして凡そ一分ほど経っただろうか。それだけ走ると、凛と聖天子の前には暗証番号でロックされた堅牢な扉があった。

 

 聖天子は凛から降りると、横に設置された端末を操作してロックを外す。

 

 ガチャンと言う音がして扉がゆっくりと開き、自動的に中の様子が照明によって照らされた。

 

「入ってください」

 

 聖天子に促され、凛が中に入ると、そこには黒塗りの大型バイクが鎮座していた。鈍く光る黒いボディはバラニウムだろうか。大きさは普通の大型バイクよりもさらに大きめであり、前輪とハンドルまでの長さが妙に長くなっていた。

 

「これは……」

 

「本日早朝。司馬重工の司馬未織さんが運びこんだ、戦闘用バイクだそうです。大本はV-MAXというバイクだそうで、そこに未織さんなりのチューニングを施し、最高時速は200km。さらにニトロブースターによって加速も絶大だそうです。あと、バックギアもつけているとのことです。

 そしてもう一つの機構が、これです」

 

 聖天子はバイクのハンドル部分に取り付けられたあるスイッチを押した。それに呼応するように前輪とハンドルまでの間の装甲が展開し、その中には左右で計六本のバラニウム刀が差し込まれていた。

 

 そして、バイクの全容をみた凛はただ一言。

 

「FF○AC?」

 

「はい?」

 

「あ、いえ。何でもありません」

 

 聖天子が小首をかしげたことに凛は口をつぐんでもう一度バイクを見つめると、未織のことを思い浮かべながらなんとも微妙な顔を浮かべた。

 

 ……すごく未織ちゃんの趣味と言うかなんと言うか……まぁ作ってくれたから文句はないんだけどね。

 

 そんなことを凛が思っていると、聖天子はバイクの近くにあったデスクまで行くと、刀を両手でしっかりと持って凛にそれを手渡した。

 

「これを。未織さんが造った最高の刀だそうです」

 

 彼女が渡した刀は濃い藍色の鞘に収まっており、鍔はバラニウムで出来ているのか、黒く輝いていた。柄巻は鞘と同じく濃い藍色だ。

 

 だが、一番目を引くのは刀身の長さだった。普通、日本刀の刀身の長さと言うのは凡そ七十センチのものが多いと言う。

 

 しかし、この刀の刀身はゆうに一メートルを超えていた。大体で言えば一メートル二十センチほどだろうか。

 

 凛はこの刀の形状にもどうしても某有名ゲームを連想してしまうのか一瞬顔をしかめたが聖天子から刀を受け取ると、どこか懐かしい感じがした。

 

「……本当に冥光と上手く融合させたんだね」

 

 小さく言った凛は刀をゆっくりと抜き放った。刀はバラニウム製の黒い刀身であったが、刀身の所々には僅かに蒼く輝く部位があった。同時に、刀は鳴いているかのようにヒィンという音を小さく放っていた。

 

「この刀もあのバイクの車体のあたりに格納できるとのことです。……では凛さん」

 

「わかりました」

 

 凛は刀を納めつつ頷くと、こなれた様子でバイクに跨った。聖天子から受け取った新しい刀を車体近くにある格納場所に差し込む。

 

 そうして凛がいよいよバイクのハンドルに手をかけると、バイクに埋め込まれたモニタに『登録完了』の文字が浮かび上がった。

 

「これでこのバイクは凛さんのみにしか扱えなくなりました。凛さん、起きてすぐに申し訳ないと思いますが、東京エリアをお願いします」

 

「申し訳ないなんて思わないでください。これは僕の責任ですから。では、行って来ます」

 

 凛はそういうとバイクのエンジンをかけた。同時に室内後方にあるハッチが開き、バイクを留めていた留め具が外された。

 

 そのまま凛はバックギアにギアを変換すると、室内からバックで出るとギアを直してアクセルを回して聖居から戦場へと向かった。

 

 ……今からいくよ、皆。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場はまさに混沌と化していた。

 

 しかし、当初の目的のとおり、蓮太郎を送り出すため皆が協力してガストレアを狩っていた。

 

 蓮太郎を先頭に走る中、彼等の目の前にステージⅢと思われるガストレアが立ちはだかる。

 

「チッ! こんな時に!」

 

「任せて!」

 

 蓮太郎が舌打ちをするが、そこで後ろにいた摩那が地を強く蹴って飛び上がるとガストレアの頭を吹き飛ばした。

 

 すると、そのガストレアの影に隠れるようにして佇んでいたガストレアが大口を開けて彼女を丸呑みにしようとしていた。

 

 けれど、次の瞬間その口は上から飛来した少女、朝霞によって強制的に閉じられた。

 

「さっすが朝霞。コンビネーションバッチリだね」

 

「あまり出すぎるなよ、摩那。お前が強いのは知っているが万が一と言うのもあるからな」

 

「はいはーい」

 

 あっけからんとした様子で返事をする摩那に朝霞は小さくため息をつく。しかし、蓮太郎は彼女たちの戦いぶりを見て自分達よりも強いのではないかと思ってしまった。

 

 すると、そんな彼の後ろでガストレアが切り裂かれた。途端、空中から飛来したガストレアもショットガンの弾丸によって撃墜させられた。

 

 見ると、澄刃がガストレアを叩き斬り、夏世が銃殺したようだった。

 

「蓮太郎くん、行きなさい。ここは私達が食い止めるわ」

 

 そういう零子も脇からやってきた小型のガストレアを二丁の銃で掃討する。

 

「速くアルデバランを倒してきて、蓮太郎!」

 

 そんな彼女と背中合わせでガストレアをなぎ倒していく杏夏も蓮太郎を促した。彼もそれに頷くと、延珠や木更たちと共にアルデバランに接敵するために一気に駆け出した。

 

 彼の後姿を見送った零子達はそれぞれ視線を交錯させる。

 

「さて、んじゃあいつ等のとこにあんましいかねぇように俺達も頑張りますかね」

 

「そうね。でも皆無理はしないように」

 

「了解です」

 

 口々に言うと、皆自分たちの前に現れたガストレアを倒すために視線を戻した。

 

 それから数分後、零子たちの前には多くのガストレアの屍骸が転がっていたが、杏夏と美冬の姿が見えなかった。

 

 途端、零子たちの顔に不安がよぎる。

 

 そんな時だった。

 

「零子さーん。すみません、ちょっとガストレアを追っているうちに深追いしすぎちゃいました」

 

 零子たちの視界の端から杏夏と美冬が駆けてきていた。距離的には200メートルあるかないかくらいだろう。

 

 杏夏達が帰ってきたことに皆安堵の表情を浮かべるが、次の瞬間その表情は一気に絶望のそれに変わった。

 

 その視線を辿ると、なんと杏夏達の背後、と斜め背後からトラ型やと思われるガストレアが音も無く現れ、二人に飛び掛らんとしていた。

 

「杏夏ちゃん! 伏せなさい!!」

 

「え?」

 

 零子のただならぬ声に杏夏も何が起きているのか振り向いて確認しようとした。しかし、それが拙かった。

 

 背後から迫るガストレアに杏夏も応戦しようと銃を抜こうとしたが、焦っていたためか取りこぼして銃を落としてしまった。

 

 それを見た摩那が駆け出そうとし、零子が銃を構えたがもう間に合わなかった。

 

 ガストレアの手は杏夏と美冬に届くところまで来ており、摩那が走ったとしてもどちらかが犠牲になる事は必然だった。

 

 同時にいくら義眼を装備しているからといっても、零子の銃を撃つ早さが速くなるわけでもない。

 

 澄刃もまた刀で斬撃を飛ばそうとするが如何せん距離が長すぎる。

 

 そこからは世界がまるでスローモーションのようだった。

 

 杏夏と美冬の眼前に迫ったガストレアはその猟奇的な牙を光らせ、彼女等に襲い掛かる。

 

 彼女達はそれに成す術もなくかみ殺され、喰いちぎられる――はずであった。

 

 突如、零子達の耳元で何かが空を切り裂くようなヒュン!! という音が鳴ったかと思うと、杏夏たちにガストレアの爪と牙が届く瞬間、ガストレアの頭部に黒刃の刃が深々と突き刺さったのだ。

 

 ガストレア達はそのまま音を立ててその場に倒れ付す。

 

 突然起こったその光景にその場にいた誰もが呆然としていると、彼女等の横を一台のバイクが駆け抜けた。

 

 バイクは零子たちと杏夏と美冬の間に止まる。

 

 すると、そのバイクに乗っていた人物に驚いた様子で「あっ」と夏世が声を上げた。

 

 その声に反応するように、バイクに乗っていた黒髪の青年が笑みを浮かべた。

 

 彼の笑みに誰もが嬉しげな顔を浮かべる。

 

「お待たせしました。断風凛、ただいま戦線に復帰しました」

 

 恐らく、この戦場で最強の青年はそう言い放った。




凛、完全復帰!

いやー……長かった気がする……。
とりあえず次回で東京会戦は終了という感じですかね。

途中で出てきたバイクは……まぁ……はい……。
F○7ACでクラウ○が乗っていたフェ○リルが元です。
後は刀とかもセ○ィロスのあれです……。

……まぁこれぐらいいいよね!!
かっこいいし! バイクぐらい乗らないと凛くん見せ場なさそうだしこれから!

というかブラブレ自体既刊のなかで菫先生が「ラピュタパン」とか「ぐりとぐらのパンケーキ」とか言ってますし、それに蓮太郎も「マトリックス」って言ってるからこれぐらいいいかなーなーんて思ってみたり……。

はい、とりあえず言い訳はこれぐらいにして、本編補足というべきか……
凛の精神世界で登場したのは初代断風当主である「断風麟」でした。
彼女は断風家直系に当たる、者全員の精神の中にいます。
まぁ本来は知覚なんて出来ないんですが、りんの名を告いだものの中にはまれに知覚できる人物も生まれてきています。

では感想などありましたらお願いします。

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