ブラック・ブレット『漆黒の剣』   作:炎狼

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第四十話

 第三次関東会戦から数日後のある日の夕刻。

 

 モノリス灰もなくなった東京エリアには、夏らしい太陽が赤々と照っており、外気は纏わりつく様にねっとりとしていた。

 

 そんな中、廃墟と化した天童流の道場に凛の姿があった。

 

 いや、凛だけではなく、彼の隣には蓮太郎と延珠、そしてティナの姿もあった。

 

 そしてそんな彼等の視線の先には『殺人刀・雪影』を携えた木更が悠然と佇んでいた。

 

 しかし、彼女からはピリピリとした威圧感が放たれており、蓮太郎や延珠たちは不安げにしていた。

 

 すると、道場内の静寂を破るように一人の男性と、女性がやってきた。

 

 男性の方はアルマーニのスーツに身を包み、ネクタイもきっちりと締めているパッと見であれば仕事のできる男といった風な男性で、女性の方は男性に付き従う秘書というべきだろうか。

 

「お待ちしておりました、和光お兄様。いいえ、国土交通省副大臣様とお呼びしたほうがよろしかったですか?」

 

「木更……」

 

 和光と呼ばれた男性は、木更のことを憎憎しげな瞳でにらみつけた。

 

 そう、この人物こそ木更の本当の兄である、天童和光その人だ。

 

 和光は木更を一瞥したあと、壁際に控えている蓮太郎の方を見て冷やかすように言った。

 

「なんだ、そちらは子連れか? 蓮太郎」

 

 しかし、蓮太郎は答えずにだんまりを決め込んだままだった。和光はそれに対して驚くこともしなかったが、彼の視線が蓮太郎の隣にいる凛を見た瞬間、彼は舌打ちをした。

 

「……凛」

 

「こんばんは、和光さん。お会いするのは随分と久々ですね、またお偉くなったものだ」

 

「フン、貴様の笑みは相変わらずいけ好かないな。それと、その敬語もだ」

 

「おやおや、それは失礼いたしました。なにぶん、敬語は昔からなものでして。それにこの笑顔もね」

 

 ニコリと笑顔を浮かべながら言う凛だが、和光はその行動が気に食わないのか再度舌打ちをした。

 

 凛はそれに肩を竦めたが、そこで木更が和光に話を持ちかけた。

 

 どうやら話は和光が手がけたと言う三十二号モノリスの話のようだ。

 

「貴方はモノリスに混ぜ物をして安く作り、その浮いたお金を懐に入れるのは感心しませんよ。和光お兄様」

 

「ッ!」

 

「まぁ当然そんな混ぜ物をしたモノリスでは、バラニウム磁場がが落ちてしまいます。弱いガストレアならば露知らず、今回のような強力なガストレアならば、そこを突いてこれますものね」

 

「理論上はあれでも問題は無かったんだ! 事実、ここ十年三十二号モノリスは破られていなかっただろうッ!!」

 

「けれども、それはアルデバランには通用しなかったのは事実ですよね」

 

 そこで声をかけたのは凛だった。和光は眉間に皺を寄せて凛を睨むが、凛はそれを何処吹く風と言うようにさらっと視線を逸らした。

 

「ガストレア、アルデバランを呼び込み、第三次関東会戦の引き金を引いたのは他の誰でもない……貴方です和光お兄様」

 

 和光は拳に血が滲むほど握り締めると。

 

 そんな二人のやり取りをみていたティナが凛の袖を引っ張った。

 

「ん?」

 

「断風さん……この戦いはどうしてもしなくてはならないんですか?」

 

「……そうだね、これは木更ちゃんの復讐だ。僕が同じ天童だったらまだしも、今の僕は完全に部外者だからね」

 

「ですが、貴方は天童社長の義兄のようなものなんでしょう? だったら止めることだって……!!」

 

 そこまで彼女が行ったところで、凛はティナの頭を優しく撫でる。

 

「ティナちゃん、やっぱり君は優しいね。だから君や延珠ちゃんはこの戦いを見ないほうがいいのかもしれない。

 けれど、これからも木更ちゃんと組んでいくなら君は知っておかないといけない。彼女の闇を」

 

 凛が言い切り、ティナは服を掴む力を少しだけ強めた。

 

「では、双方立会人を前に」

 

 木更が凛とした声音で言うと、まず最初に出たのは和光に着いて来た女性だ。

 

「私、椎名かずみはこの場の決闘の立会人として存在し、例えこの場で片方が殺されたとしても、警察その他の司法機関に訴えでないことを誓います」

 

 彼女が手を挙げて告げたあと、蓮太郎も苦い顔をしつつゆっくりと手を挙げて宣言しようとしたが、ふとそれをやめて向かい合う二人に言った。

 

「二人とも、最後に聞かせてくれ。この戦い、本当にやらなくちゃいけないのか!? 天童流の免許皆伝者同士の戦いには俺も興味がある。だけど、それは真剣じゃなくて木剣や竹刀を使ってやるべきじゃないのか!?」

 

 しかし、そういったところで凛が蓮太郎の肩を掴んだ。蓮太郎は凛の方を見やると彼は首を横に振っていた。

 

「蓮太郎。凛が表しているとおりだ、この戦いは止められん。いや、止めてはならんのだ。ここでこの女を殺しておかねばコイツはべらべら真相をしゃべりだすからな!」

 

「でも! 和光義兄さん……」

 

「私を義兄などと呼ぶな! いい機会だから言ってやるぞ蓮太郎、そして凛も聞け。この女は化物だぞ! お前達はこの女の妖花にだまされているんだ! 目を覚ませッ」

 

「里見くん。お父様とお母様の仇の一人をやっと追い詰めたの。この男との戦いは宿命なのよ」

 

 二人の言葉に蓮太郎は顔を伏せるが、ゆっくりと手を挙げて先ほどかずみがやったのと同じように宣言した。

 

 それから蓮太郎は壁際まで下がり、道場内は木更と和光二人のみの闘技場へと変化した。

 

 和光は槍袋から愛槍を取り出して整然と構えを取った。天童式神槍術『八面玲瓏の構え』だ。

 

 それに対し、木更もまた天童式抜刀術『涅槃妙心の構え』をとった。

 

 途端に道場内には刺々しい威圧感が張り詰め、蓮太郎達を気圧した。

 

 道場内に広がる感覚が嫌なのか、延珠やティナは不安げに木更たちを見るが、彼女等の前に凛がゆっくりと立った。

 

「苦しいなら僕の後ろに下がっていた方がいいよ」

 

 凛が言うと、蓮太郎も頷いて延珠を凛の後ろに下がらせた。また、ティナも二人の決闘が見える位置に立つが、やはりそこも凛の後ろだった。

 

 二人が凛の後ろに立つと、延珠は直感的に先ほどまで感じていた嫌な感覚が少しだけ改善されたように感じた。

 

 ……凛がいるからなのか?

 

 小首をかしげる彼女だが、その瞬間、視界の先で和光が怒号を上げた。

 

「木更、貴様なんだその構えは!」

 

「あぁ、知らないのも無理はありませんよね。これは天童式抜刀術『龍虎双撃の構え』といいます。全ての天童を屠るために私が開発しました」

 

「型を……開発したというのか? ふざけるなよ貴様!! 助喜与師範の技に独自のアレンジを咥えるなど……!!」

 

「あら? お兄様は何か勘違いをなされていませんか? 免許皆伝者には技の創出と伝授の権利が与えられます。

 凛兄様ももちろん知っておられますよね?」

 

 木更は視線を和光に向けたまま凛に問う。

 

「うん、僕も結構アレンジを加えている技もあるし、そんなに不思議なことじゃあありませんよ。和光さん」

 

「貴様等揃いも揃って……」

 

 和光の手が怒りに震えていた。

 

 すると、彼は「椎名!」と呼び、秘書であるかずみはその手に持っていた槍袋を放った。

 

 それをキャッチした和光はゆっくりとそれを構える。

 

 和光が構えたそれは所謂『混天截』という槍であり、先端には四つの刻み目のある刃、更にそれを囲むように四方へ広がる月牙がある。そして、月牙には鎖でつながれた分銅が延びている。

 

 これこそ、和光の宝槍であり、刺突、切断、殴打を可能にした重量級の槍だ。

 

 しかし、木更はそれにただ眼を細めただけであり、それを見ていた凛も目を伏せて小さくため息をついた。

 

 和光は『八面玲瓏の構え』から『麟鳳亀竜の構え』に変えた。

 

 そのまま和光は息を落ち着かせる。

 

 二人はそのまま睨みあいを続け、それぞれが互いの腹の中を探るように体重移動をしていく。

 

 そして、二人が動きを止めた瞬間、和光が気合の声を上げて凄まじい刺突を放った。

 

 木更はそれに一コンマ遅れて反応し、槍を弾くが、和光は更に追撃を加えようとする。同時に、彼は自身が勝った事を確信する。

 

 が、そこで凛の声がスッと耳に入った。

 

「……無理ですよ……」

 

 瞬間、もう一歩踏み込もうとした和光の重心がぐらりと緩み、彼は前につんのめるようにして転んだ。

 

 和光は一体何が起こったのか理解できなかった。

 

 踏み込もうとした足がまるで空を踏んだかのようにすっぽ抜けたのだ。

 

 こんな失敗などするはずはないと何度も反復するのだがどうしても、自分が失敗したことがわからなかった。

 

「私は……負けたというのか?」

 

「そんなことまで理解できていないなんて、まぁ仕方ないですよね。ではお兄様、貴方の足をご覧ください」

 

 木更に促され、和光は恐る恐る自分の足を見た。

 

 そこには、自分の足が無かった。そして、一瞬送れて足から鮮血が噴出し、痛みが襲った。

 

 和光は痛みと恐怖、そしていつの間に足を切られたのかという意味不明な状況で混乱していたが、そこで凛が静かに声をかけた。

 

「混乱しているようなので教えて差し上げます。さっき和光さんは『天子玄明窩』を放って木更ちゃんがそれを弾いたところまでは見えたのでしょう。しかし、次に貴方が奥義を放とうとした瞬間、すでに貴方の足は斬り飛ばされていました」

 

「技名は天童式抜刀術零の型三番――『阿魏悪双頭剣』といいます。そして、この技の二撃目は音速を超えます」

 

 和光はそれに驚愕していたが、木更は容赦することなく雪影の柄に手をかける。

 

「天童式抜刀術零の型一番――」

 

 その声と同時に蓮太郎たちが木更を止めようと名を呼ぶが、遅かった。

 

「螺旋卍斬花」

 

 ヒンという小さな音がしたと思うと、雪影は鞘に収まっており和光の足から流れ出ていた血が止まった。

 

「血止めを施しました。まだ貴方には聞きたいことがあるので」

 

 その言葉を聴いて少しだけ安心したのか蓮太郎は胸を撫で下ろすが、凛だけは険しい表情をしたままだった。

 

 蓮太郎はそれが気になったのか、凛に声をかけた。

 

「どうしたんだ? 凛さん」

 

「……いや、なんでもないよ」

 

 静かに言い放った凛の瞳には哀れむような光があった。蓮太郎はそれに疑問を持ちながらも木更と和光に視線を戻した。

 

 今は木更が和光に父と母を殺した計画に携わったであろう人物を聞き出しているところだった。

 

 和光はそれに震えながらも語りだした。

 

「け、計画に加担していたのは……私と、天童日向、天童玄琢、天童燳敏、そして天童菊之丞の五人だ」

 

「五人ですか……思いのほか少ないのですね。ではどうしてあなた方はお父様を殺したのです?」

 

「そ、それは……親父殿が天童の闇を告発しようとしたからだ。天童は財政界にも重鎮を置く家だ。無論のし上るために汚いことにだって手を染めた。

 それを親父殿は突然告発すると言い出したんだぞ!? だから、殺すしかなかった」

 

「仮にもあなた方の父親なのによくも殺せたものですね」

 

「俺達が真に忠誠を誓うのはお祖父様(菊之丞)だけだ。それに、あの男は母上が死んだというのにすぐに妾腹と結婚してお前を――」

 

 しまったと言うように和光は押し黙るが、木更は表情を変えずに言い放った。

 

「どのように呼ばれるのも構いません。では次の質問です。どうして私や里見くんまで襲わせたの?」

 

「お前達はまだ子供で説明したとてわかるはずもない……。だからせめて一緒に――」

 

「せめて一緒に葬ってさびしくないようにしてやろう、と? 随分とお優しいことで」

 

 木更の瞳の置くには相当な憎悪があり、蓮太郎はそれを見て震え上がった。すると、そこで黙っていた凛が静かに告げた。

 

「木更ちゃん。もう十分情報は聞き出せたんじゃないかい?」

 

「……そうですね。では、お兄様貴方を助けて差し上げます」

 

 その言葉に和光は先ほどまで恐怖におののいていた顔を呆けたような顔にして驚いた後、ハッとしたように木更に頭を下げた。

 

「あ、ありがとう! 本当に、ありがとう……!」

 

 その様子を木更は不快そうに一瞥したあと、スタスタと同情の出口まで歩いていった。

 

「里見くん、延珠ちゃん、ティナちゃん、凛兄様帰りましょう」

 

 蓮太郎達はそれに頷くと木更に感謝し続ける和光を少しだけ見たあと、木更の元へかけていく。

 

 凛もそれについていくが、道場をでて障子戸を閉める瞬間、彼は道場内でかずみに寄り添われる和光を見ながら誰にも聞こえない声でただ一言呟いた。

 

「……さようなら、和光さん」

 

 言いながら凛が障子を閉めると、前方を行く木更に蓮太郎が声をかけた。

 

「一時はどうなるかと思ったけど、よく耐えたな木更さん」

 

 しかし、木更は答えない。

 

 けれどそんな彼女の変わりと言う様に凛が静かに言った。

 

「蓮太郎くん。言っておくけど、抜刀術に血止め技なんて無いんだよ」

 

「え?」

 

 蓮太郎がそう疑問符を浮かべた瞬間、木更はゆっくりと手を挙げて指を鳴らしながら静かに告げた。

 

 

 

「天童式抜刀術零の型一番――『螺旋卍斬花(らせんまんざんか)開花(オープン)。復讐するは我にあり』

 

 

 

 瞬間、道場内で爆裂音が響き、世界が静寂に包まれた。

 

 同時に障子戸に赤いものが飛び散った。

 

 蓮太郎はいても立ってもいられずに障子に手をかけようとしたが、凛がそれを制した。

 

「やめたほうがいい」

 

 凛の瞳は真剣そのものであり、道場内に広がっているであろう惨状を蓮太郎に見せまいとしているのは歴然だった。

 

 すると凛は静かに木更の下まで行くと彼女に問うた。

 

「最後の技、アレは君の任意で相手を爆散させることが出来る技だね? だから開花ってことか」

 

「そうですよ。さすが凛兄様!! やっぱり私が憧れる人です! それで、どうでした? 私、仇の一人を殺すことが出来たんです!!」

 

 まるで童女が「ほめてほめて」というように木更はぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜びを露にしていた。

 

 延珠やティナはそれが恐ろしかったのか息を呑んでいた。

 

「勝てますよね! これなら私全ての仇を倒せますよね!」

 

 凛に抱きとめられながら問う彼女に凛は目を細めながら静かに言い放った。

 

「そうだね、確かに君なら天童を殺せるかもしれない」

 

「ほらね! ね、里見くん。これで仇の一人を打ち倒せたのよ! 私達の復讐が一人果たせたの」

 

 凛からはなれて蓮太郎に飛びつく木更だが、蓮太郎は拳を震わせながら言ってしまった。

 

「違う、ちげぇよ木更さん! これはアンタの処刑だ!! アンタ、和光兄さんが自分には勝てないってわかってたんだろ!! それなのになんであんな惨い殺し方をしたんだ!! 確かに、親の仇ってのはわかる。でも……それにしたって……!!

 それに、アンタ俺にいつも言ってんだろ! 正義を遂げろって!! アレのどこに正義がある! アレは一方的な蹂躙じゃねぇか!!」

 

 蓮太郎は肩で息をしながら木更に言い放った。

 

 しかし、木更はそんな風に言われることを理解していたようにくるりと体を反転させると、笑みを浮かべながら言った。

 

「ねぇ里見くん、どうして私が天童和光を裁くことが出来たかわかる?」

 

「……」

 

 蓮太郎は答えない。

 

 否、答えることが出来なかった。

 

「それはね、私が絶対悪だからよ。悪を殺せる悪、それが絶対悪。里見くんは正義だから悪である蛭子影胤も殺しきれなかったし、斉武宗玄も殺せなかった。けれど、私は私の中の憎悪をかき集めて悪を悪として裁くことが出来るの。私にはその力があるのよ!」

 

 声高々に宣言する木更だが、そこで凛が静かな横槍をいれた。

 

「本当にそうかな?」

 

「え?」

 

「君は本当に絶対悪なのかなって思ったんだよ木更」

 

 いつものような『ちゃん』付けではなく呼び捨ての凛に、木更は少しだけ背筋が強張ったのを感じた。

 

「君はただ単に絶対悪を演じているだけじゃないのかな? そうでもしないと自分の精神が持たないから」

 

「そんなことはありません。私は自分で望んで悪の道へと」

 

「それじゃあ、悪の道とはなんだろうね。人を殺すこと、物を盗むこと、女性を犯すこと、道端にゴミを捨てること、人の陰口を叩くこと……まぁ他にも例を挙げればきりがないけど、君は何を持って悪を悪と決め付けているのかな?」

 

「それは……」

 

 木更はそこで押し黙ってしまった。

 

 しかし、凛はそこに畳み掛けるように言葉を繋いでいく。

 

「悪を殺せるのはそれを上回る悪……とはよく言ったものだね。けどね、残念ながら君は悪に染まりきれていないと僕は思う。

 まぁ君がこれから先そのまま修羅の道を進んでいくとしても、僕は君を見守り続けるんだけどね。それが、君が天童を抜けるときに僕と交わした契約だから」

 

「凛兄様……」

 

「でも、もし君が仇である天童以外にもその矛先を向けるというのであれば……そのときは容赦せずに切り捨てるよ」

 

 凛は最後にそう言うと光の灯っていない冷徹な絶対零度の眼差しで木更を見た後、「それじゃあね」と笑顔を作ってバイクに跨ってそのまま姿を消した。

 

 凛の姿が見えなり、少しすると、木更はポツリと呟くように三人に告げた。

 

「先に戻ってるわ」

 

 ふらふらとした足取りで木更は事務所までの道のりを歩いていった。

 

 蓮太郎はそんな彼女の後姿が見えなくなると、延珠とティナに告げた。

 

「二人とも……場合によっては俺は木更さんの敵になるかもしれない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、蓮太郎のところに凛から電話があった。

 

『こんばんは、蓮太郎くん。今日はいろいろ大変だったね』

 

「あぁ……。なぁ凛さん、アンタは木更さんを止められるのか?」

 

『僕が木更ちゃんを止めるときは……彼女を殺すよ』

 

 その言葉に蓮太郎は歯噛みして、思わず怒号を飛ばしてしまった。

 

「なんでだ! アンタなら木更さんを無傷で無力化することぐらいできるだろ!! どうして殺さなくちゃならないんだよ!! アンタ、あの人の最後の支えだろ!?」

 

『……いいや、彼女はたとえ両腕を飛ばしても、足を切り落としても、命ある限り復讐をあきらめないよ。だから彼女を復讐から解き放つには殺すぐらいしかないかな』

 

「そんなの……残酷すぎるだろ」

 

 蓮太郎は血が滲むほど拳を握り締めるが、そこで凛が「だけど」と続けた。

 

『もし、彼女を救う手が他にあるとするならば……そのキーパーソンとなるのは君だよ、蓮太郎くん』

 

「俺?」

 

『うん、君は僕よりも彼女と接していた時間が長い。だからこそ、彼女を深く理解して上げられるはずだ。僕ではどうにも力不足なところが多くてね。

 だけど、君ならきっと彼女を変えられると思ってるよ。君は君の正義を貫いていけばいいんだ。他の誰に何を言われたとしても、君は自分の信念を持って生きていけばいいんだよ。っともうこんな時間だね。ごめん、それじゃあまた今度』

 

 凛はそういうと通話を切ってしまった。

 

 しかし、蓮太郎はスマホを放り出して満天の星が輝く夜空を仰ぎながら、決意したように頷いた。

 

「……俺は俺の正義を貫く……か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 和光の一件から数日後、凛はバイクに乗って関東会戦でアルデバランが爆死した場所へやってきていた。また、彼の腰には翠が掴まっていた。

 

 やがて、アルデバランがEP爆弾によって消滅した場所に出来た巨大なクレーターまでやってきた二人はそれぞれバイクから降りて、献花の花を供えてから静かに手を合わせた。

 

「断風さん、いいんですか? 叙勲式をすっぽかして」

 

「うん、摩那に頼んであるから大丈夫だよ。それより、翠ちゃんのほうも大丈夫? まだ精神的にもきついんじゃ」

 

「いいえ、彰磨さんが亡くなったのは悲しいですけど……いつまでも悲しんでいられませんから」

 

 翠は柔らかな笑顔を見せた。

 

 はかなげで今にも消えてしまいそうな笑顔であったが、それでも、彼女が前に進もうとしていることが伝わってきた。

 

 凛もそれに答えるように笑みを浮かべようとしたが、ふと、視界の端に妙な光がみえた。

 

 それはクレーターの中腹辺りにあり、凛は危険防止として張られたテープを飛び越えた。

 

「断風さん?」

 

「ごめん、翠ちゃん。ちょっとそこで待っていてくれる?」

 

 凛は翠を待たせ、何かが光った場所まで下っていく。

 

 光が見えたところまで降りた凛はその光の正体に思わず息を呑んだ。

 

「これは……彰磨くんのバイザー……」

 

 そう、凛が目にした光は彰磨がつけていたバイザーが太陽の光を反射していた光だったのだ。

 

 ……これが残っているって事は、彼は生きている? でも、これだけじゃ判断できない。

 

 凛はもう一度周囲を凝視してみると、凛から一メートルほど離れたところに、妙なくぼみがあることを発見した。

 

 それは人の形をしているようであり、その周りには何人かの人がそれを運んだような形跡が見て取れた。

 

 しかし、パッと見では調査をしに来た職員の足跡と何ら変わらないようにも見える。

 

 だが、凛にはそれが明らかに人為的に何者かが工作されたものだとわかった。

 

 ……まさか、誰かが彰磨くんを回収した? でも何のために?

 

「でも……これで、彼の生死はわからなくなったってことか……」

 

 凛は透き通るような蒼穹を仰ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ暗な空間で薙沢彰磨は目を覚ました。

 

「俺……は……?」

 

「おう、目を覚ましたか小僧」

 

 自分の呟きに答えたのは、相手を威圧するような低い男の声だった。同時に彼の視界が一瞬真っ白になった。

 

 何だと思いながらも目を開けるが、そこでその白い光がハロゲンランプの光だということがわかった。

 

 するとそのハロゲンランプの前にライオンのような髭を携えた男が現れた。 

 

「アンタは?」

 

「俺を知らないと来たか、まぁいい。それより、貴様こそ自分の名は思い出せるか?」

 

「俺は、薙沢……彰磨」

 

「ほぉ、随分とタフだなぁ。あの爆心地から貴様を回収したときは意識回復さえ絶望的だったと思ったが……なかなか面白い男よ」

 

 男はククと短く笑うと、彰磨に向かって言った。

 

「貴様の事は色々調べさせてもらった。あの憎き天童の技を極めたらしいじゃないか。五体満足ならよかったものの、今のままでは惜しいものだな」

 

「何を……言っている? 俺は……どうなって」

 

「おっと、自分の体を見ないほうが懸命だぞ小僧。何せお前の体は四肢が吹き飛び、片目が潰れて髪が解けて、さらには全身の七十パーセントが火傷を負っているんだからな」

 

 男の言葉に彰磨は絶句したが、そこでさらに四人の人物が彰磨を覗き込むように現れた。全員逆光で顔立ちまではわからない。

 

「この男がグリューネワルト翁のお眼鏡にかなったと? 信じられませんなぁ」

 

「ハッ、どうとでも言え。しかし、俺はこの小僧が気に入った。俺はコイツが欲しくなったぞ」

 

 ライオン髭の男はこちらからでは見えないもののニヤリと笑っているのがわかった。

 

「お前たち、は……一体、なんなんだ?」

 

「我々は『五翔会』。まぁ今の貴様にはそれ以外を知る必要はない」

 

「五翔、会?」

 

 彰磨が疑問を浮かべると、ライオン髭の男は再びニッと笑う。

 

「貴様はこのまま放置すれば遅かれ早かれいずれ死ぬ。しかしな、あることをすれば助かるぞ? そこでだ……一つ俺の話に乗ってみないか、小僧」 




はい、これで本当に四巻の内容は終了って感じですね。
まぁ原作沿いなので大して変わり栄えしなくて面白くなかったかもしれませんが……
その場合は申し訳ない。

あと、昨日ミスってなのはの方をこちらで投稿してしまいました……
読者の皆様には多大なご迷惑をおかけしたこと、ここに深くお詫び申し上げます。

では、次回予告的なものを。
次回はこれまでの話とは打って変ってほんわかとした和み回が出来ればと思います。木更さんと凛の仲が若干不安ですが、まぁ何とかなるでしょうw

あぁあともう二つお知らせ的なものがございます。
この度、友人に相談したらこの小説の登場人物、まぁオリキャラたちをですね、絵として描いてくれることになりました。イエー!!
お披露目はいつになるはわかりませんが、友人は出来次第送ってくださるとのことですw
以下私と友人とのやり取り。

私「これの登場人物の絵描いてくんね?」
友人「ええよ」
私「ファッ!?」

とまぁ、かるーく頼んでみたら割と簡単にOKしてくれたので私自身が思わず驚いてしまいましたw

では二つ目のお知らせというかまぁ出来たらいいなーって感じなヤツですが……
「アカメが斬る!」の二次創作を書くやもしれません。
まぁまだ完結していない状態でなに言ってんだって感じもするんですが……なんとも書きたくなってしまいましてw
元々原作は全巻揃ってたんで何時かは書こうと思っていたんですがアニメ化もしたんでいいかなーなんて思ってみたり。

まぁそんな感じです。
以上、あとがきが長くなってしまいましたが、これからもよろしくお願いいたします。

では感想などありましたらよろしくお願いします。

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