ブラック・ブレット『漆黒の剣』   作:炎狼

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第四十八話

 蓮太郎は取調室で怒りを募らせ、同時に自分の無力さを痛感していた。

 

 彼は今、殺人の容疑をかけられているのだ。

 

 今日の深夜、蓮太郎は小学生時代の友人の水原鬼八と約束があったため、彼がしていた建設途中の勾田市役所の新ビルに足を運んだ。

 

 しかし、その途中彼は自分の愛銃である『XD拳銃』がないことに気がついていた。どこかで落としたのかと思いながらも、約束を優先させたのだが蓮太郎が待ち合わせ場所に到着すると、水原は後頭部、右胸部、脇腹、太腿の計四箇所を何者かに打ち抜かれて既に事切れていた。

 

 だが、ここまでは蓮太郎がやったと言う明確な証拠がない。けれど、現場には彼を犯人としてしまう物があった。それは彼が「なくした」と思っていた愛銃だった。

 

 そして蓮太郎はやってはいけないことだと頭で理解しながらも、それが本当に自分の銃なのか確かめるためそれを手に取ってしまった。

 

 ほぼ同時に警察官が突入し、蓮太郎は水原の殺害容疑をかけられてそのまま拘束されてしまったのだ。

 

 彼は必死に無実を主張したが、状況証拠が完全に揃ってしまっている以上、警察の誰も彼の言葉に耳を貸すものはいなかった。それは蓮太郎と面識がある多田島茂徳も同じだった。

 

 ……ちくしょうッ! 一体誰が水原を……ッ!!

 

 蓮太郎はパイプ椅子に座りながら膝の上できつく拳を握り締めた。しかし、そこで取調室の扉が開いた。

 

「よう、ちょっといいか?」

 

 先ほどの多田島とは全く違う優しげな声に思わず蓮太郎も顔を上げた。

 

 同時に取調室で記録をとっていた警官が立ち上がって背筋を伸ばす。

 

「か、金本警部!? 取調べであれば先ほど多田島警部が終わりにしましたが……」

 

「ああ、知ってるよ。でもさ、俺も少しこの子と話してみたくてね。お前さんはちっと席外してくれるかい? なぁに、安心しろ記録はちゃんととっといてやるから」

 

 金本警部と呼ばれた男は人のよさげな笑みを浮かべると、記録係の警察官を半ば強引に取調室の外へ追い出した。

 

「さてっと、俺の事は覚えてるかな。里見くん」

 

「え?」

 

「ほら、君んとこの社長さんと今組んでる……なんて言ったっけ……。そう! ティナちゃんだ! 彼女が起こした事件の時に一度現場検証のときに話したんだけど、まぁあの時は君も心ここに在らずって感じだったから覚えてないのも無理はないか」

 

 ハッハッハと軽く笑って見せた金本は蓮太郎に手を差し出した。

 

「では改めて自己紹介と行こう。俺は金本明隆、殺人課の警部だ。さっき君を取調べした多田島とは同期だ。とりあえず、よろしく」

 

「あ、あぁ……よろしく」

 

 蓮太郎も金本の握手に答えた。握手を終えると二人は座って金本は記録を眺めた。彼は記録を読みながら考え込むように無精髭を撫でた。

 

「ふむ……確かに状況証拠だけだと君が犯人だと疑われるのは間違いないか。それにその様子だと多田島にえらく絞られたみたいだ」

 

 金本は肩を竦めて言うと、記録されているファイルをパタンと閉じて鋭い眼光で彼に問うた。

 

「率直に聞こう、里見くん。君は未完成の勾田市役所の新ビルで水原鬼八くんを殺したのかい?」

 

「いいや、俺はやってない。俺はあの日水原と約束があってそれを果たすために行ったんだ。だけど……」

 

「待ち合わせ場所に着いたら水原君が既に殺害されていて、彼の遺体の傍らには君の銃が転がっていたと……」

 

 彼が聞くと蓮太郎は静かに頷いた。金本もそれに頷き返すともう一度ジッと彼の瞳を見る。

 

 その気迫は先ほどの多田島以上のものであり、蓮太郎は一瞬気圧されたが目を逸らさなかった。

 

 すると、金本は僅かに口角を上げて笑みを零した。

 

「なるほどね、どうやら君の言ってる事は本当のようだ」

 

「し、信じてくれるのか!?」

 

「ああ、俺は信じよう。ただ、君はまだ何か隠している節があるな」

 

「ッ!」

 

 瞬間、蓮太郎はほんの少しだけ動揺した。しかし、それを隠そうとはせずに、彼は金本を見据えた。

 

「……言えない、か。うん、まぁいいだろう。だがこのままだと状況証拠で君は被疑者から被告人への階段を駆け上がることになるぞ?」

 

「それは……」

 

 蓮太郎はまたしても口をつぐんだ。

 

 ……このまま水原の言っていた『新世界創造計画』と『ブラックスワン・プロジェクト』。この二つをこの人に言えば、多分凛さん達にもその話しは行く。けど、それだとあの人たちに迷惑がかかっちまう。

 

 蓮太郎はギリッときつく歯をかみ締めると、そこで金本が軽く咳払いをしながら胸元から手帳を出し、ボールペンをページに向けてトントンと叩いた。

 

 彼は一瞬なんのサインなのかわからなかったが、ページを見た瞬間目を見開いた。

 

 そのページにはただ一言こう書かれていた。

 

『凛くんに知らせる』と。

 

 同時に蓮太郎は金本を真っ直ぐと見据えると小さな声で問うた。

 

「……アンタを信用していいんだな?」

 

 彼の言葉に金本は静かに頷く。蓮太郎もそれを確認すると、ボールペンを取ってメモ帳に『新世界創造計画』と『ブラックスワン・プロジェクト』と書き込んだ。

 

 そのまま蓮太郎はメモ帳を閉じて金本に手渡した。金本もそれを頷きながら受け取ると蓮太郎を真っ直ぐ見据えて告げた。

 

「大丈夫、必ず届けるよ。それと里見くん、君はこれからもっと辛いことに遭うかもしれない。そのときもし俺の力が足りなくなったら誰でもいいから頼るんだ。決して一人で抱え込んではならない。自分の心が崩壊しないようにね」

 

 金本はそれだけ告げると取調室のドアノブを握った。しかし、金本は「おっと」と言いながら振り返った。

 

「多田島の事は悪く思わないでやってくれ。何せ人を疑うのが俺達の仕事だからな。アイツはその職務を真っ当しただけなんだ」

 

「アンタはいいのかよ」

 

「俺は人を疑うの好きじゃないの」

 

「警察に向いてねぇだろ……」

 

 蓮太郎は苦笑しながら言うと、金本も頭をガリガリと掻きながら肩をすくめた。

 

「それはよく言われる。上司にも後輩にも、勿論多田島にもな。だけど、簡単に人を疑うのはどうにもね。それじゃあ俺は行くけど……いいかい里見くん、この後どんな聴取をされても『自分はやっていない』を貫き通すんだ。そうすれば多少の時間は稼げるはずだ」

 

 金本はそれだけ告げると取調室を出て行った。それを確認した蓮太郎はパイプ椅子の背もたれに身体を預けた。

 

 スポンジの少ない背もたれは背を預けるには頼りなかったが、蓮太郎の心は多田島や他の警官に絞られた時よりは随分と軽くなった。

 

「……待ってろよ、みんな」

 

 コンクリで固められた取調室に蓮太郎の言葉が小さく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 取調室を出てそのまま零子達に先ほどのメモの内容を知らせようとしたとき、彼は後ろから荒い声をかけられた。

 

「金本」

 

 名前を呼ばれて振り返ると、エラが張ったごつい顔に、眉間にきつく皺を寄せた男、多田島茂徳が金本を睨んでいた。

 

「どうした多田島? 随分と不機嫌そうじゃあないか」

 

「不機嫌そうに見えなかったらテメェの目は節穴だな」

 

「おいおい随分とひどい言われようだな」

 

 金本はやれやれと肩を竦めるが、次の瞬間、多田島が彼の胸倉を掴み挙げた。

 

「テメェ、あのガキから何か聞きだしやがったな?」

 

「だったら?」

 

「今すぐその情報を渡せ!」

 

 多田島の表情には鬼気迫るものがあり、普通の人間が見てもヤクザ者が見ても震え上がることに変わりはないだろう。

 

 しかし、金本は落ち着き払った状態で彼に問う。

 

「それは警部、多田島茂徳としての言葉か? それとも多田島茂徳個人としての言葉か?」

 

「何ッ?」

 

「もしそれが警察としてのお前の意見なら情報は渡せない。……なぁ多田島、お前も気がついているんだろ? 里見くんは犯人じゃあない、あの子が殺人なんてできない事はわかってるはずだ」

 

「ふざけるな! 前々から思っていたが、お前は人を簡単に信じすぎだ!! もしあのガキが本当に殺人を犯しでもしていたら、お前は犯人を取り逃がすことになるんだぞ!?」

 

 多田島は鬼の形相で金本に怒鳴り散らす。同時に胸倉を掴み挙げる彼の手にも力が入る。だがそこでつかみ挙げていた腕を金本が掴んだ。

 

 彼の力は凄まじいものであり、多田島はすぐに彼から手を離した。いいや、離さざるを得なかった。

 

「いいか多田島、確かに状況証拠を並べればほぼ百パーセント里見くんがやったと思うだろう。けどな、残った僅かな可能性から本当の真実が見出せるかもしれないだろ。

 それに彼はまだ子供だ。俺たち大人とは違う、まだまだ心も弱い。そんな彼をこれ以上追い詰めて真実が見出せるのか?」

 

 金本は大きくため息をつきながら多田島の腕を払った。多田島はつかまれていた腕を押さえながら金本を見据えるが、金本は静かに言い放った。

 

「俺は俺自身の心に従って行動する。それが警察組織に刃向かうことになってもな」

 

 金本はそれだけ告げると踵を返して自分の車に向かった。彼の後姿を見送りながら多田島は壁を思い切り殴りつけた。

 

「クソッタレが……!!」

 

 壁を殴った拳の痛みは、まるで多田島自身を抉るようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒崎民間警備会社には社員全員が出勤していた。そして皆一様に難しい表情をしていた。

 

「蓮太郎くんが殺人……ねぇ」

 

「どう思いますか?」

 

「どうもこうもなぁ、彼が人を殺すとは到底思えない。そりゃあ蛭子影胤辺りなら殺せるかもしれないが……今回殺されたのは彼の昔の友人だろう?

 私は無理だと思うがね」

 

 肩を竦めながら凛の問いに答えた零子はタバコに火をつけて紫煙を燻らせる。すると彼女の隣に座っていた夏世が零子に紙の束を見せた。

 

「零子さん、出来ました」

 

「ん、ご苦労さん。それじゃあ皆に配ってくれるかな」

 

「はい」

 

 夏世はそれに頷くとホチキスで束ねられた紙を杏夏、凛、焔の順に配った。

 

「これは?」

 

 杏夏が首をかしげると、零子も夏世から紙を受け取って説明を始める。

 

「実はな先日菫と会ってある三件の殺人事件の話を聞いたんだ。これはその三人の資料だよ」

 

「なるほど……でもどうしてこれを私達に?」

 

 焔もなぜこの資料を配るのかわからなかったのか首をかしげる。すると零子は真剣な眼差しで皆を見てから指を軽く組んだ。

 

「君達に話しておくべきことがあってな。凛くん、それに杏夏ちゃんは蓮太郎くんや影胤のような存在を生み出した『新人類創造計画』は知っていると思うが、焔ちゃんは知らないからここで多少復習をしておくぞ。

 まず『新人類創造計画』とは人体の一部に、スーパー繊維にしたり代替臓器にしたり、バラニウム製の義肢をつけたり等、身体のごく一部を機械化して驚異的な戦闘力を引き出すものだ」

 

 零子の説明に『新人類創造計画』の名を知らなかった焔も納得したようにうなずき、凛と杏夏も再確認するように頷いた。

 

「しかし、その『新人類創造計画』は次の段階があったんだ。その名も『新世界創造計画』これは菫が恋人を失ったことの憎しみによって生み出したものでな。『新人類創造計画』と違うところは身体の一部ではなく、身体の半分以上、そしてゆくゆくは脳以外の全身全てを機械化するという計画だったんだ。

 だが結局資金的な面や、夏世ちゃんや摩那ちゃんたちのようなイニシエーターの存在によって頓挫したんだよ」

 

「でもどうして今その『新世界創造計画』のことを僕達に話そうと?」

 

「簡単だ。配った資料に書かれている三人は、恐らく『新世界創造計画』の何かを知って殺された可能性があるからだ。それにもしかしたら私も狙われるかもしれないからな、一応知っておいたほうがいいと思ったのさ」

 

 零子は軽く言ってのけるが、隣に座る夏世は彼女を心配そうに見上げていた。それに気がついたのか、零子はクールな笑みを浮かべると彼女の頭を撫でる。

 

「心配するな、私は簡単には殺されないよ。それよりも今は蓮太郎くんの心配をするべきだな」

 

 彼女がそういったところで、彼女のスマホが鳴った。

 

 零子はそれにいつものように外で扱う柔和な声音に受け答えた。

 

 凛達は彼女の行動は見慣れているので突っ込みをいれなかったが、彼女のこの行動を始めて見た焔は口を半開きにして驚いていた。

 

「え? 零子さんなんで急に?」

 

「アレは外で話をするときの零子さん。さっきまで私達に話をしていたのは事務所にいるときの零子さん。特に気にしなくても大丈夫だよ」

 

「は、はぁ……」

 

 凛が言うものの焔はいまだに驚いていた。すると通話を終えた零子がスマホをしまって皆に告げた。

 

「少し出てくる。お昼には戻ってくるから適当なものを買ってくるよ。夏世ちゃんもついて来い」

 

 零子はそれだけ告げると、夏世と共に事務所から出て行き一階から愛車で出て行った。

 

「用ってなんでしょうね?」

 

「うーん、わからないけど心配する事はないんじゃないかな。おっと、僕も少し木更ちゃんのところに行ってくるね。摩那行くよ」

 

「はーい」

 

 凛は摩那と共に天童民間警備会社へ足を運んだ。

 

 事務所に残された杏夏と焔、そして美冬、翠が残された。

 

 すると、おもむろに杏夏が立ち上がり、焔に向かって問う。

 

「焔、貴女は凛先輩のことがすきなんだよね?」

 

「もちろんです。と言うかむしろ愛してます」

 

 焔はとてもイイ笑顔を浮かべて杏夏に向かって宣言した。それに杏夏は一瞬眉をひくつかせるが、一度大きく深呼吸をして焔に言い放った。

 

「それじゃあ私も言っておくね。貴女が先輩を好きなのは十分わかってる。だけどね、私も先輩のことが好きなの。これだけは絶対に譲れない」

 

 杏夏の真剣な宣言を聞いた焔は一瞬ポカンとした顔をし、彼女の宣言を聞いていた美冬は静かに頷き、翠はこういった色恋沙汰になれていないのか少々顔を赤くしていた。

 

「なるほど……杏夏先輩は兄さんのことが好きだと」

 

「うん」

 

「それは別に構いませんが、最後に勝つのは私ですよ?」

 

「へぇ……随分と強気だね」

 

 杏夏は鋭い眼光を焔に向け、焔もそれに答えるように視線を杏夏に向ける。

 

 そんな二人をソファ越しに眺めていた翠と美冬には、二人の視線が交差するところにバチバチを火花が散っているように見えた。

 

 同時に杏夏の後ろには虎が、焔の後ろには龍が互いににらみ合っているようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事務所を出て木更がいる天童民間警備会社にバイクを走らせていた。しかし、いつもよりもスピードが出ているようで、先ほども交差点をドリフトするように曲がってきたばかりだ。

 

「凛! なんでそんなに急いでんの?」

 

 凛の腰に掴まっている摩那の問いに凛は前を向いたまま答える。

 

「いいかい、摩那。もしこのまま蓮太郎くんが警察に捕まったまま殺人容疑が晴れなければ、彼は民警をやめることになる。もしそうなったとき、彼と組んでいた延珠ちゃんはどうなる?」

 

「まさかコンビを……?」

 

「そう、コンビを解消することになる。そしてもっと拙いのはティナちゃんだ。さっき零子さんに配られた資料の中に、約二キロ離れた所から新幹線に乗っている人物を狙撃した犯人がいた。

 僕達の知り合いの中でそれが出来るのはティナちゃんただ一人だ。当然彼女はそれをやっていないだろうけど、蓮太郎くんが捕まった事で恐らく彼女にも捜査が及ぶと思う。そして最悪の場合、彼女はその狙撃事件の犯人にされてしまう可能性がある。もしそうなったら天童民間警備会社は崩壊する」

 

 凛が言い放った言葉に摩那はゴクリを生唾を飲み込んだが、同時に今彼がしようとしていることが理解できた。

 

「凛もしかして……」

 

「うん、そのもしかしてだよ。僕はこれから三人のところに言って延珠ちゃんとティナちゃんを保護する。同時に木更ちゃんもね」

 

「でもそんなことしたら凛も危なくなるんじゃないの?」

 

「だろうね。けど、一緒に戦った仲間達を見捨てるなんて事は僕には出来ないよ。蓮太郎くんは絶対に殺人はしていないだろうし、木更ちゃんをこれ以上苦しませはしない」

 

 その言葉には相応の重みがあり、凛がそれだけ本気なのだと摩那にも理解できた。すると、摩那はヘルメットを彼の背中に押し当ててわかるように頷いた。

 

「そうだね、凛。仲間を守ろう」

 

 彼女の言葉に凛も頷くと更にはやくバイクを走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凛が木更の元に向かっている中、零子は事務所からある程度はなれた所にある喫茶店に入り、電話の相手が来るのを待っていた。

 

 窓際の席で夏世と向かい合いながら座る零子に夏世が問うた。

 

「零子さん、今から誰が来るんですか?」

 

「私に情報を流してくれたりする警察官。蓮太郎くんのことで渡したい情報があるんだってさ」

 

 零子がいうと、ちょうど喫茶店の扉が開いた。そして店内に無精髭を生やした焦げ茶色の髪の男が入ってきた。

 

 男は店内を一度見回すと、零子の後姿を見つけ彼女の背後の席に座った。同時にスタッフが男の下にお冷を持ってきた。男はそのままスタッフに注文をすると、スタッフは奥に消えていった。

 

 店内にはスタッフを除いて零子たち三人しかいなくなった。しばらくすると、零子のほうが後ろの男に声をかけた。

 

「呼び出しとは珍しいじゃない、金本警部」

 

「申し訳ない。しかし、貴女にどうしても伝えなくちゃいけないことがありましてね」

 

「蓮太郎くんの件だっけ?」

 

 金本警部と呼ばれた男はそれに小さく頷いた。そして彼は背後に座る零子に一枚の紙を手渡した。

 

「そこに彼が我々警察に言えないことが書いてあります。俺は表立って動く事が出来ないのでなるべく彼のフォローに回ります。黒崎さん達はそちらを調べてもらっても構いませんか?」

 

「いいわ、こちらもこの事件の真相には興味があるからね」

 

 零子はそれだけいうと残っていたアイスティーを飲み終えた。夏世もそれを見るとオレンジジュースを飲み干し、彼女と共に店を後にした。

 

 喫茶店を後にして車に乗り込むと、先ほど金本から受け取った紙を零子が広げた。

 

「『新世界創造計画』……この名前って確か」

 

「ええ、さっき私がみんなに話したものね。なるほど……蓮太郎くんの友達もこれについて知ってはいけない何かを知ったのでしょうね。でももう一つのこれ……『ブラックスワン・プロジェクト』……これは一体……」

 

「ブラックスワンと言う事は『ブラックスワン理論』が関係しているんじゃないでしょうか?」

 

 零子の疑問に答えるように夏世が持ってきたノートパソコンで調べ始めた。

 

「ブラックスワン理論ってアレだったかしら? 確率論や従来からの認識や経験からでは予想することができない現象ってやつ」

 

「そうです。さっき見た資料の三人は新世界創造計画の何かを知って殺された。そして里見さんの友人はこの二つを知って何者かに殺された……。だとすればこの二つには少なからずの関係があると見ていいでしょう」

 

 夏世はノートパソコンを閉じながら零子を見た。

 

「零子さん、この事件。裏で大きな組織が暗躍していると考えたほうがいいかもしれません」

 

「そうね、それは確実でしょう。でも今は事務所に戻って皆にもこのことを話しましょう」

 

 零子は小さく息をつくとシートベルトを締めて愛車を発進させた。彼女は眼帯に覆われた右目を抑えつつ静かに思った。

 

 ……『二千分の一秒の向こう側(ターミナル・ホライズン)』を使う覚悟をしておいたほうがよさそうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天童民間警備会社の前まで来た凛と摩那はバイクから飛び降りると事務所まで一気に駆け上がった。

 

「木更ちゃん! ティナちゃんと延珠ちゃんは!?」

 

「凛兄様……」

 

 凛が事務所の扉を乱暴に開け放って中に入ると、木更がつかれきった表情でデスクについていた。

 

 彼女のほかにも室内には陰鬱とした様子のティナと延珠がソファに座っていた。

 

 凛と摩那は三人がとりあえず無事なことにほっと胸を撫で下ろすと、木更の下まで言って彼女の肩を掴んで告げた。

 

「木更ちゃん、今すぐここを離れよう」

 

「え?」

 

 木更は一瞬わけがわからないという表情をしたが、凛はそんな彼女の手を引いた。

 

「延珠ちゃん、ティナちゃんもついて来て。話しはうちの事務所でするから」

 

「ま、まつのだ凛! ここからいなくなったら蓮太郎が帰ってきたとき誰もいなくて蓮太郎が寂しがるぞ!」

 

「そうですよ、凛さん! お兄さんが帰ってきたときにここに誰もいなかったら……」

 

「わかってる、でも今はお願いだから僕についてきて欲しいんだ。君達をばらばらにさせるわけには行かないから」

 

 凛は木更の手を離して延珠とティナの目線の高さまでかがむと真剣な眼差しで彼女に告げた。延珠とティナは一瞬それに困惑していたが、互いに顔を見合わせるとコクンと頷いて凛に従った。

 

「ありがとう、二人とも。それじゃあ木更ちゃんは僕のバイクに、ティナちゃんは摩那におぶってもらって、延珠ちゃんは摩那についてきて。あと二人は街中じゃなくてビルの屋上を走って来て」

 

「りょうかい、他に何か守ることとかある?」

 

「僕の半径五十メートルからは絶対に離れないこと。それ以上いくと僕がフォローし切れないからね」

 

 凛はそう告げると木更の手をとって階下へ走り、そのままの勢いでバイクに乗り込んだ。

 

 延珠やティナも摩那と共に屋上に上がると、下にいる凛に手を振った。凛もそれを確認するとバイクを走らせる。

 

 それに呼応するように摩那はティナを背負い、延珠と共に黒崎民間警備会社へ駆け出した。




はい、では今回は蓮太郎が捕まってから一日過ぎた感じです。

金本さん……消されるフラグがビンビンだぜ……

とまぁ途中で杏夏の宣戦布告とかありましたが、まぁそれはさておき、金本のおかげでいずれ凛達にもブラックスワン・プロジェクトが話されますし、蓮太郎のほうも多少は精神面的に楽になるでしょう。

櫃間の計画は早くも崩れかかっていますが……そんな事はしーらない♪
木更さんのお胸を揉もうとした事は万死に値するのだ……!!
せいぜい上に見放されないように頑張りたまえよフハハ

あ、友人に頼んだイラストですがまだかかりそうなのでもうチョイお持ちください。

そしてついにお気に入りが千件突破!!
本当にこのような作品を読んでくださりありがとうございます!!
ここまで続けられたのも皆様の暖かい応援のおかげでございます。
これからはもっと読者様がお楽しみなれるように頑張っていただきたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。

では感想などあればよろしくおねがいします。

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