ブラック・ブレット『漆黒の剣』   作:炎狼

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第五十二話

 翌日の夕刻、凛は摩那とともに蓮太郎が護送されるルートの近くにやって来た。

 

 すると、摩那が小首をかしげながら凛に問う。

 

「ねぇ凛、ここって蓮太郎が聖居に行った後に通る道だよね? どっちかって言うと民警ライセンスを返還する前に蓮太郎助け出しちゃったほうがよくない?」

 

「それもあるんだけど、聖居への道は人通りも多いし夕方だから人目にもつきやすい。こっちの道なら夜になればあまり人は通らないし、例え見られたとしても暗いから顔を見られる確立も少なくなる。まぁ一応念のために零子さんが用意したこのお面被ってやるよ」

 

 言いながら凛はバイクの収納から二枚のお面を出した。そのお面は摩那も大好きなアニメ『天誅ガールズ』のものだ。

 

「天誅ガールズのお面じゃん! じゃあ私はブラックにしよー」

 

 凛の手からひったくるように一方のお面を掴み取ると、早速お面を被って視界がよいかどうか確認を始めた。

 

「おー、わりと見えるもんだねー」

 

 きょろきょろと周囲を見回しながら呟く摩那を見やりながら、凛は聖居の方を見据えた。

 

 ……できれば聖天子様の慈悲があればいいんだけど……。

 

「そうもいかないかなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鮮やかな橙色の太陽が西の空に沈み、空に星が浮かび始め、周囲が暗くなった頃、凛は近場の路地裏に、摩那は街路樹の上で護送車がくるのを待っていた。

 

「摩那、暗視スコープは大丈夫?」

 

『おっけおっけー、よく見えるよん。つまみを回せばズームが出来るんだっけ?』

 

「うん、あぁでも、直接街灯とかを見ないようにね。目がくらむから」

 

『りょーかい』

 

 トランシーバーで話をし終えると、凛も路地裏から目立たないように道路を見やる。

 

 やはりここの道は夜になると利用する人間が少ないのか、人通りはまばらだし、車も大して通ってはいなかった。

 

 ……時間通りならそろそろのはずだけど。

 

 スマホの時計を見ながら凛が車道を確認すると、遠くに車のヘッドライトが見えた。それと同時に摩那から連絡が入る。

 

『来たっぽいよー。多分アレだと思う』

 

「了解、じゃあ摩那、手はずどおりに」

 

『あいあいー……ッ!? 凛!!』

 

 返答を聞いてトランシーバーをしまおうとした瞬間、摩那の焦った声が聞こえ、更に車道のほうから凄まじい音が聞こえた。

 

「なに!?」

 

『護送車が横転した! 私達よりも前に誰かが護送車の前に誰かが割って入ったみたい』

 

「わかった、摩那、木から降りて現場に行くよ」

 

 凛は言いながら路地裏から飛び出し、護送車が横転した現場へ向かう。彼に続くように摩那が木から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓮太郎は突然起こった護送車の横転事故に顔をしかめていた。

 

 聖居で聖天子に民警ライセンスを返還し、強い憤りを覚えたままでいた最中に起きた横転事故。

 

 何とか護送官三人を横転した車内から引きずり出し、爆発炎上から救ったのも束の間、彼は延珠と同じくらいの少女に銃を突きつけられた。

 

 少女は蓮太郎を見据えてただ告げた。

 

『鬼八さんを殺したのはあなたね』と。

 

 蓮太郎はそれを断固として否定したが、少女は銃を突きつけ今にも引き金を引きそうな剣幕だった。

 

 同時に、蓮太郎は彼女が水原のイニシエーターだと直感することも出来た。鬼八さんなどと漏らすのは彼に尤も近しいものしかいないからだ。

 

 けれど彼女はいっこうに引き金を引かなかった。恐らくずっと蓮太郎が水原を殺したと思っていたのに、その殺人犯が護送官三人を救うなどと思っていなかったのだろう。

 

 やがて警察車両のサイレンが聞こえ、少女は軽い舌打ちの後林の中に消えていった。

 

 あとに残された蓮太郎は打たれなかったことにほんの一瞬安堵したものの、着実に近づいてくるパトカーのほうに目をやった。

 

 ……このままここにいればまた拘置所に逆戻りか……。

 

 もしそうなれば、蓮太郎は逃亡を誰かに幇助させたとして、更に罪が重くなるかもしれない。そして、民警ライセンスがない今、延珠とは一緒にいられないのだ。

 

「……凛さんの話じゃ何とかかくまってくれてるみたいだけど、いずれそれもばれちまう」

 

 逡巡した蓮太郎は、静かに目をまぶたをあげると護送官の腰についている鍵を拝借して手錠を外し、腰の縄もほどいた。

 

 すでにパトカーのサイレンは先程よりもかなり近くなっている。

 

 深く深呼吸をして呼吸を整えた蓮太郎は、そのまま先ほどの少女と同じように林の中へ消えていった。

 

 林を駆けながら彼は静かに言った。

 

「……わりぃな凛さん、自分の無実は自分で晴らす」

 

 里見蓮太郎は、夜の闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凛と摩那が現場に駆けつけると、そこには炎上した護送車と意識のない護送官三人がいた。

 

「蓮太郎いないよ!?」

 

「多分逃げたんだ。ホラ」

 

 歩道に落ちていた鍵の外された手錠をつま先で軽く小突いた凛は摩那を呼び、踵を返した。

 

「摩那、ここを離れよう。もう警察が目と鼻の先に来てる。このままここにいたら怪しまれる」

 

「う、うん。わかったけど……どうして蓮太郎は逃げたの?」

 

「きっと彼なりに今回の事件を解決したいんだよ。亡くなった水原君や、一人残してしまっている木更ちゃんのためにもね」

 

 もと来た道を小走りに走りながら二人は現場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現場から離れて街中をバイクで疾走していると、凛の元に連絡が入った。ヘルメットに内蔵されているヘッドセットの電話に出るため、バイクの液晶画面をタップすると、聞き覚えのある声が飛び込んできた。

 

『凛さん、私です』

 

「こんばんは、聖天子様。随分とあせっているようですが何かありましたか?」

 

『……里見さんが捕まった事はもう知っていますか?』

 

「ええ、なにやら殺人の容疑をかけられているようで」

 

 いつもの凛とした透明感のある彼女の声はいくらか不安な色が出ていた。全てを話さずに、ただ蓮太郎がそういう状況にあるとだけ知っている風を装うと、聖天子は話を続けた。

 

『先ほど聖居の職員の方から報告を受けたのですが……里見さんが護送中に逃亡したそうです』

 

「おやおや」

 

『既に捜査は始まっているようで、先ほど私と菊之丞さんの所に警視総監の櫃間正氏がやってきました。里見さんの捜索は彼のご子息である櫃間篤郎氏が指揮を取るそうです』

 

 櫃間の名を聞いた瞬間、凛の眉間に小さく皺がよった。どうやら櫃間は徹底的に蓮太郎を潰す気の様だ。

 

 軽い苛立ちを覚えながら凛がいると、聖天子は震える声で凛に問うた。

 

『凛さん……、私は今日里見さんの民警ライセンスを取り上げてしまいました。彼はずっと無実を主張していたのに……私は国家元首と言う立場から彼を擁護することが出来なかった……。教えてください凛さん、貴方なら里見さんが無実だと知っているのでしょう?』

 

 恐らく電話の向こうでは彼女は大粒の涙を流していることだろう。その様子から、凛は聖天子が少なからず蓮太郎に好意を寄せているのかもしれないと推測した。

 

 あながち間違ってはいないだろう。彼女は蓮太郎に多大な信頼を寄せていたし、蓮太郎はそれを全て完遂してきた。更には彼女の命を救っても見せたのだから。

 

 凛は一度小さく息をつくと静かに告げた。

 

「……聖天子様、彼は確実に無実です。これは僕達が調べてわかったことです。けれど、彼をどうしても罪人に仕立て上げ抹殺しようとしている組織が裏で暗躍しています」

 

『組織?』

 

「はい、その組織の名前は五翔会。まだ彼等がどのようなことをしているのかはハッキリしていませんが、今回殺害された水原鬼八くんは彼等の何かしらをしって、五翔会の手のものによって殺されたとみて間違いはないかと」

 

『ではその事実を公表して里見さんをッ!』

 

「ダメです。今のままでは情報が少なすぎます。今言ったとしても五翔会は一時的に手を引くのみで根本的な解決にはつながりませんし、彼等が何をしているのかも隠されてしまいます。

 だから、蓮太郎くんには悪いですが、このまま公表せずに捜査を続けます。でも、聖天子様、彼を心配してくださるのなら貴女は彼を信じてあげてください。自分を信じてくれる人がいるのはそれだけでも大きな支えになります。それでは」

 

 凛はこちらから連絡を断った。

 

「誰から?」

 

「聖天子様。結構心配してたみたいだよ。やっぱりあの人はやさしいね」

 

「まぁそうだよね。って、また電話来てるよ?」

 

 摩那が言ったとおり、バイクの液晶画面には『CALLING』の文字が出ていた。

 

 液晶をタップして連絡に出ると、木更からだった。

 

『兄様! 今何処にいますか!?』

 

「今事務所に戻るところだけど……」

 

 どうしたの? と聞こうとした所で、その問いを遮るように彼女が凛に告げた。

 

『さっき里見くんから連絡があって、今夜八時半に勾田プラザホテルのロビーに着て欲しいって言われたんです! 凛兄様、何がどうなっているんですか? 里見くんは兄様が救出したんじゃ――』

 

「ごめん、蓮太郎くんは僕と摩那が動く前に横転した護送車からどこかへ逃亡してしまったんだ。だから今は一緒じゃない」

 

『そんな……』

 

 呆然と言った声を漏らす木更だが、凛は至って冷静に切り替えした。

 

「いいかい木更ちゃん、一回落ち着くんだ。蓮太郎くんのところには僕が向かうから、君はそのまま事務所で零子さん達と一緒にいて。もし誰かが君のところに訪ねて来て蓮太郎くんのことを聞いたとしても知らぬ存ぜぬを通すんだ」

 

『わ、わかりました』

 

「あぁそうだ、あと焔ちゃんと翠ちゃんもそこにいる? だったら二人にも来る様に言ってくれるかな」

 

『はい。……兄様、里見くんをお願いします』

 

「了解」

 

 返答し通話を切ると、凛は若干乱暴に反対車線へ割り込んで勾田プラザホテルへ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凛と木更が話したほんの数秒後、まるで図ったかのように櫃間篤郎が黒崎民間警備会社に現れた。

 

 それに零子はいぶかしむ様な視線を送ったが、特に口は出さずにいた。

 

 蓮太郎が彼女に電話をしたのだと確信があるような口ぶりで、木更にあまく問いかける櫃間だが、焔、夏世、翠はそれに心底呆れきっていた。

 

 けれど櫃間はそれにも気がつかずに木更に問うていくが、彼女は毅然とした表情のまま櫃間に告げた。

 

「里見くんから連絡はありません」

 

 一瞬、櫃間の眉根がヒクつき、あからさまに不快な表情を浮かべたが、木更はそれに気がつかなかった。

 

 しかし、彼女以外の全員は彼の表情の動きを見逃す事はなかった。

 

「……失礼しました」

 

 櫃間はそれ以外何も聞かずに出て行ったが、彼が外に出て誰かに連絡を取るのを零子は見逃さず冷笑を浮かべた。

 

「まったく……もういろいろバレているのに、おめでたい男だ」

 

「まぁしばらくは泳がせておいて良いでしょう。兄さんが相応の報いを受けさせるでしょうし」

 

「だな、それよりもよく耐えたな木更ちゃん」

 

 肩を竦めながら問うと、木更はコクッと首を縦に振った後、ソファに腰を下ろした。

 

「でもすごく気持ち悪かったのは確かです。もしあの人の正体を聞かされていなかったと思ったらゾッとします」

 

「だろうな、アレはキスまで迫りそうな勢いだったしなぁ」

 

「子供の私から見てもアレはないです」

 

「私も生理的に無理です」

 

 零子の言葉に夏世と翠も同意した。それに笑みを浮かべる一同だが、焔は翠に声をかけた。

 

「翠、私達は勾田プラザホテルに行こう」

 

 コクリと頷いた翠を連れて焔は屋上から屋根伝いに勾田プラザホテルへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 黒崎民間警備会社から出た櫃間はすぐさま携帯をリダイヤルした。

 

 ワンコールの後に相手が出ると、櫃間は若干イラついた声音で問う。

 

「天童木更の携帯に仕掛けた盗聴器の具合は?」

 

『良好ですね。それよりも、随分と苛立っているご様子ですが?』

 

「……天童木更は口を割らなかったんだ。大方あの断風に言うなと言われたんだろう。まったく忌々しいガキだ」

 

『おやおや、やはり『リジェネレーター』を使うべきなのでは?』

 

「……かもしれん」

 

 櫃間は小さく息をついて、苛立ちを抑える。

 

「ところで、メモリーカードと紅露火垂の消息はわかったか?」

 

『残念ながらどちらもまだですね』

 

 舌打ちをしそうになったが、櫃間はそれを押さえて話を切り替える。

 

「警察には後三十分遅れて知らせる。『ネスト』その間に里見蓮太郎の始末に『ダークストーカー』を、保険として『リジェネレーター』を送れ」

 

『承知しました。ですが消してもよろしいので?』

 

「無論だ。水原が里見蓮太郎に何処まで話したのかは知らんが、やつが生きていると我々にも都合が悪い。出来ればあの断風も潰しておけ、ある意味里見蓮太郎以上に邪魔で警戒人物だからな」

 

 

 

 

 

 

 櫃間との会話を終えたネストは携帯で最初にダークストーカーに連絡を取った。

 

「ダークストーカー、仕事だ。午後八時半までに勾田プラザホテルに向かい、里見蓮太郎、断風凛を始末しろ」

 

『了解しました』

 

 短い返答の後にネストは通話を切り、もう一方のッ人物、リジェネレーターにかけた。

 

『やっと出番か?』

 

「ああ、お前に仕事だ。今すぐに勾田プラザホテルへ向かえ。だが、お前は保険だ。本気で戦おうとするな」

 

『へいへい。あぁそうだネスト、悪いんだけどまた何人かぶっ殺しちまったから事後処理よろしく頼むわ』

 

「ッ! 貴様はなぜそれほど聞き分けがないのだ!? 目立つ行動は控えろといったはずだぞ!」

 

『別に誰にも見られてねぇよ。ただ死体の処理が面倒だからさ、そんじゃよろしく』

 

 謝罪のかけらもない言葉にネストは苛立ったが、大きなため息をついてリジェネレーターが殺害した者達の処理へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勾田プラザホテルのロビーで蓮太郎は俯き、まるで仕事で失敗したサラリーマンが自棄酒をするような勢いで、コーヒーを煽っていた。

 

 勢いで木更に連絡を取ってしまったものの、なんて浅はかだったのだろうと蓮太郎は自分の行動を後悔していた。

 

 ……流石にここは人目が多すぎだ。木更さんが来たらとりあえず場所を変えて……。

 

 そんなことを考えていると、不意に声をかけられた。

 

「お一人ですか?」

 

 顔を上げてそちらを見やると、いかにも人のよさげな少年が柔らかな笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 

 歳は自分と同じくらいだろう。また、彼が身につけている紺色の詰襟の制服は確か額狩高校のものだったか。その笑顔はいつもムスッとしている蓮太郎から見ればかなり陽気なものを発している笑顔だった。身近な人物で例えれば凛が最適だろうか。

 

「お一人なら、ブラック・ジャックでも楽しみませんか?」

 

「あ、いや……俺は……」

 

 蓮太郎は断ろうとしたが、少年は向かいの席に座り、トランプをシャッフルし始めていた。

 

 仕方ないから一度だけ付き合うかと蓮太郎が覚悟を決めると、そこでまたしても声をかけられた。

 

 しかしそれは蓮太郎にかけられたものではなく、どちらかというと蓮太郎と目の前の少年にかけられたような声だった。

 

「僕も入れてくれるかな?」

 

 言いながら蓮太郎の隣の席に腰掛けたのは黒のカーゴパンツに黒のシャツ、黒のジャケットを着た天誅ガールズのお面をつけた男だった。

 

 蓮太郎はおろか、向かいの席に座る少年も驚きの顔を浮かべる中、男はお面の下から若干くぐもった声を漏らした。

 

「さぁカードを」

 

 蓮太郎はその声を聞いた瞬間、顔には出さなかったがハッとした。男の声は蓮太郎が良く知る人物で、本来の序列が十三位などという存在。

 

 断風凛だったのだ。

 

 けれど蓮太郎はそれを顔には出さずに、目の前の少年を見やる。少年はクスッと笑うと、凛と蓮太郎二人分のカードを配った。

 

 蓮太郎がカードをめくり、続いて凛がめくろうとした所で、凛が静かに問うた。

 

「ところで……君は誰なのかな?」

 

「あぁ申し訳ありません。僕の名前は巳継悠河(みつぎゆうが)といいます。額狩高校の生徒で――」

 

「――そうじゃなくてさ。君は『ダークストーカー』『ハミングバード』『ソードテール』『リジェネレーター』この内の一体誰なのかな?」

 

「ッ!?」

 

 途端、先ほどまで笑みを浮かべていた悠河の顔が強張った。同時に、凛がカードをめくると凛の手はスペードのキングとスペードのエースという最強の名手だった。

 

「……まさかそこまで知っているとは……。何者ですか?」

 

「さぁね。けれど、君が所属している組織の名前は知っているよ? 確か五翔会だったかな? 巳継悠河くん」

 

「正解です。ここまでくればもう隠す必要もなさそうですね」

 

 配ったトランプを回収し纏めると、悠河は静かに告げた。

 

「残念ながら里見くん。天童木更はこないと思いますよ?」

 

「……」

 

 挑発とも取れる言葉に蓮太郎は少しだけ睨みをきかせるが、彼はそれを軽くいなしながら笑顔を浮かべたままだ。

 

「一応改めて名乗っておきましょう。僕のコードネームはダークストーカー。『新世界創造計画』巳継悠河です、里見くんから見れば僕は後輩になります」

 

「お前が……だが、新世界創造計画は頓挫したはずだぞ」

 

「表向きはね。でも、そんなこと機密にしていればばれない事なんですよ。あぁ一応聞けという命令なので聞きますけど……水原から受け取ったメモリーカードは何処ですか?」

 

 メモリカード? と蓮太郎は疑問を浮かべた。水原からはそんなもは受け取っていないからだ。だが言葉には出さずに蓮太郎は隠したまま悠河に問う。

 

「それを渡せばどうなるっていうんだ?」

 

「少なくともこの場はすごく穏便に方がつきます。あとは貴方が檻に入っておとなしく裁きを受ければいいだけだ」

 

「仮初の裁きを?」

 

 凛が言うと、悠河は否定することもせずに頷いた。

 

「その仮初の裁きを彼に受けさせて、君は――いや、君達は目的を達成するということか。ティナ・スプラウト処刑し、藍原延珠をIISOに送還、新たなプロモーターと組ませて人知れずに殺害……またはガストレア化。そして残った天童木更を篭絡して骨抜きに、最終的には天童を潰す捨て駒として利用というのがシナリオかな?」

 

「御明察です。凄まじい洞察力と推理力だ。探偵さんかなにかで?」

 

「どうだろうね。けれど、これらのことを知っている僕を君たちは生かしてはおかないんだろう?」

 

「ええ、貴方も確実に消します。でも今は彼が先だ、それで里見くん? 交渉は決裂ということで?」

 

「最初っから俺とテメェの間に交渉なんざねぇ」

 

 眉間に皺を寄せて言い切ると、悠河は肩を竦めて残念そうに呟く。けれど、その口元は僅かに笑っていた。

 

「バカな人ですね。命までは取らないと言っているのに、そのチャンスを自ら捨てるなんて」

 

 悠河と蓮太郎の視線が交錯し、間に見えることのない火花が散る。

 

 二人の発する尋常ではない空気に近場にいた客も席を立ったり、そそくさと立ち去るものもいた。

 

「それじゃあここではなんですし、場所を移しましょうか。あぁ無論貴方もついて来てください、彼を始末した後には貴方を――」

 

 悠河が凛のほうを見やった瞬間、蓮太郎はテーブルを蹴り上げて悠河の隙を突いた。

 

 このような行動に出るとは思っていなかったのか、流石の悠河も驚愕の表情を浮かべる。しかしそれもテーブルですぐに見えなくなった。

 

 これで悠河の視界は遮られるが、蓮太郎は片足で床を踏みしめてテーブルの中心に蹴りを叩き込む。

 

 自分の行動のほうが一瞬早かったため、恐らく悠河はそれに反応が出来ないと蓮太郎は踏んだ。

 

 だが、そんな蓮太郎の読みをあざ笑うかのように悠河は平然とテーブルを越えてきた。

 

 そのまま蓮太郎に向けてとび蹴りを放つ悠河に蓮太郎はすぐさま臨戦態勢に入る。だが、そんな二人の間に割って入るようにホテルの窓を割って一本の長刀が飛び込んできた。

 

 それに驚いたのは蓮太郎、悠河の二人だった。

 

 二人の脇にいた凛は投げ込まれた長刀を受け取り、鞘から抜き放つと、悠河のとび蹴りを刀の腹ではらうように弾いた。

 

 大きく後ろに弾かれた悠河は空中で一回天してそのまま絨毯の敷かれた床に着地すると、二人を見据えた。

 

「蓮太郎くん、今は逃げるんだ。彼の相手は僕がしよう」

 

「……わかった、頼む!」

 

 凛の言葉に蓮太郎は頷いてエレベーターまで駆ける。

 

 それに反応して悠河も床を蹴って追撃しようとしたが、その間に凛が立ちふさがった。

 

「君の相手はこの僕だ。彼を殺したいならまずは僕を殺すんだね」

 

 漆黒の長刀『黒詠』の切先を悠河に突きつけながら、天誅ガールズのお面を被った凛は言い放った。




あい、今回は蓮太郎の本格的な逃亡編ですね。
櫃間……君はもうとっくにばれているんだよ? 何を必死こいて隠そうとしているんだい?
木更さんにもキモイといわれ、翠や夏世にまでキモイといわれる貴方はもう死ぬしかないね。
最後、なんだかすげーシリアスですが悠河や蓮太郎が話している中凛はずっと天誅ガールズのお面を被っていましたとさ……ハイここ笑うとこですよー。(キラキラ)
まぁ警察が来るまで凛は天誅ガールズのお面を被って戦うのでしょうねぇ……超シュールじゃん……

次回は蓮太郎が打たれてしまうところですが、悠河は凛に抑えられていますから、さてはてどうなることやら。

では感想などあればよろしくおねがいします。

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