イナズマイレブン テミスの正義   作:暁月の太陽

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第一話 天使に会ってしまった少年

 今思えば、この日から…今日という、この日から、運命という歯車は回っていたのかもしれない。

 私にとっては、全てを失ってしまった今日でも、それは、ちゃんと新たな未来になって、還ってくる。

 未来は、私が思ってた以上に、無限大だったから。

 そう…

 今が、そのときだった。

 

 ***

 

 FF(フットボールフロンティア)の開催、FFI(フットボールフロンティアインターナショナル)日本優勝といった、サッカー少年少女達にとっての波乱の夏は、終わりを迎えた。今はその疲れを羽休めさせるかの如く、夏の暑さを和らげる、秋がやってきた。

「あっつ~!」

 といっても、まだ残暑なのだが。

「これじゃあ夏の時と変わりませんね剛陣先輩」

「うん…でも、明日は涼しくなるって!」

 本州から離れた離島、伊那国島にある、木造で出来た中学校の階段に座っているのは、部活の休憩中であろう少年たちが居た。

 手汗で滲んだ右手を団扇のようにして扇ぐ剛陣鉄之助。

 同じくして、自らの被っている帽子を使って顔に風を送っている万作雄一郎。

 その二人とは違い、キンキンに冷えたスポーツドリンクを飲んでは、残暑の暑さを楽しんでいる稲森明日人。

 実は彼ら、あの夏にFFIで日本を優勝に導かせた選手の一人でもあった。

「…万作…あれからもう、二か月なんだね。FFI」

「そうだな…世界に挑戦。と思いきや、オリオン財団との戦いになるとはな」

 一年前…日本はその海の向こう側にある世界、そしてその世界の強さを、見せつけられた。

 それに対抗すべく、一年前のFF優勝校「雷門中」の部員たちは、日本のサッカー選手の実力を高めるべく、「強化委員」として日本中の中学サッカー部に派遣された。

 そして、それによって高められた少年達が集まったのが、ちょうど二か月前にFFIで優勝したチーム、「イナズマジャパン」だった。

 オリオンの使徒、もう一人の人狼と、多少の凹凸はあったものの、最終的にはチーム一丸となって戦い、優勝した。

 世界に…勝ったのだ。

 そして、本来ならば貧しい国を支援するオリオン財団を根城にして、世界を意のままに操ろうとした魔女を倒した。

 世界が魔女によって作り変えられそうになった時期。それが、二か月前のFFIに起きたのだ。

 今となっては、ありえないことだった。

 馬鹿げている。

 だがFFでの優勝、そしてFFI日本優勝のお陰で、廃部となっていた伊那国島サッカー部はその功績が認められ、再び部として活動を再開することが出来た。そして、その一か月前に開催された、FFオータムシーズンに出場、準優勝の成績を収めた。

 やはり、当時サッカー界の全盛期でもあった雷門に、勝つことは難しかったのだろう。

 FF当時の伊那国島サッカー部、その決勝戦の舞台に立ったのは、あの雷門中だったからだ。

 神の様に現れてはすぐに消え、そしてまた戻ってきた。

 雷の如く。

 

 

 

「豪炎寺、あれからもう二か月なんだな。俺達…本当に世界一になっちゃったな」

 その頃、円堂、豪炎寺は、雷門中のグラウンドにあるベンチで、練習合間の休憩をしていた。

「…そうだな。まるでFFI優勝が、昨日の様に思えてくるな」

 満足そうな円堂に、豪炎寺が答える。

「あぁ、廃部寸前だった頃から、俺達はこんなに成長したんだな。豪炎寺がここに転校してきて、帝国学園が練習試合を申し込んできて、豪炎寺が一点を奪ったその日から、始まったんだよな。色んな奴とサッカーして、俺…すごく楽しかった」

 当初の雷門サッカー部は、部員が七人しかなく、今にも廃部寸前だった。

 だが、そこに豪炎寺が雷門中に転校し、当時FF四十年間優勝の帝国学園との練習試合から、部員たちを集めるための勧誘をし、当日豪炎寺が一点をもぎ取ったその日から、円堂達の伝説が始まった。

 そして__今は世界一だ。

「円堂、豪炎寺。こんなところに居たのか」

「探したぞ」

 向こうから当時帝国学園に居た鬼道と、円堂の勧誘によってサッカー部に入部することになった風丸が来る。

「鬼道! 風丸!」

「何かあったのか?」

「いや、FFIからちょうど二か月だからな。少しくらい想いを馳せようと思ってな」

「俺も同じだ。FFI優勝が、夢のように思えてくるな」

「そっか、鬼道も風丸も同じなんだな、俺達も今、その話してたぜ!」

 円堂は、鬼道と風丸が座れるようにと少しずれると、鬼道は「ありがとう」と言い、風丸もそれに同調するように「サンキュ、円堂」と言い、円堂の隣に座る。

「そういえば…灰崎とは最近どうか? ほら、鬼道はよく灰崎の隣に居たし、何より、FFIの時の仲間だったから、どうしているのかなってさ、あと風丸、不動ともどうだ?」

 風丸は、不動の事を聞かれ、はにかんだ。

「今も、佐久間を困らせてるってさ」

 そして鬼道は、灰崎のことを聞かれ、口元を少し歪ませる。

「灰崎か…今は、宮野と遊園地に居る」

 

 

 

「へっくしゅ!」

「凌兵? 風邪引いたの?」

「いや、今誰かが俺の噂を…」

「そうなんだ…でも、あまり油断しちゃだめだよ。ほら、秋は体調を崩しやすいらしいから!」

 またその頃、灰崎は、幼馴染みの宮野茜と共に、制服での遊園地デートに着ていた。

 茜曰く、「凌兵がFFIで優勝してからもう二か月だから、その記念日に」とのことらしい。

「茜、次は何に乗りたいんだ?」

 サッカー部とでの態度が全くと言っていいほどに違うのだが。

「えっと…じゃあ、あのジェットコースターに乗りたい!」

「(え?)」

 灰崎は、ジェットコースターなどの、絶叫系は、苦手なのである。

 

 

 

 その時、どういうわけか、ヒロトの顔に笑みがこぼれる。

「どうしたんだ? そんなににやけて」

「いや…どういうわけか灰崎がジェットコースターで…」

「本当にどういうわけだ」

 その頃ヒロトたちは、学校で下校の準備をしていた。

 ヒロトの制服は、かなり着崩してはいるものの、ちゃんと通ってはいるようだ。

 それでもなお、たまに授業をさぼったりはするが。

「それにしても、もう二か月か」

「…そうだね、砂木沼さん」

「あー、もうそんな時期か…」

 

 

 

「それでそれで!? 吹雪はどうしたんやっぺ!?」

「ふふふ、話はまだこれからだよ。姫」

 吹雪は、同じ白恋中サッカー部の部員でもあり、白恋中サッカー部を支えている「しろうさぎ本舗」の社長令嬢でもある白兎屋なえに、当時起きたFFIの事を話していた。

「それで、僕はスパイとなって、オリオン財団の証拠を集めていたんだ」

「それで、兄貴はよかったのかよ」

 すると、吹雪士郎の弟、吹雪アツヤが話に割り込む。

「ん? どういうこと?」

「わざわざそんなことしなくてもよ、そんなこと大人たちにまかせておけば…」

「何度も言っているだろう。僕はこれでよかった。たとえそれが、アツヤに嫌われるようなことでもね」

 吹雪の見せる真剣な眼つきに、アツヤは狼狽え、軽く謝罪をする。

「……なんか悪かったな」

「でも、そう思っててくれて、僕は嬉しいな

 

 

「……しかし、もうそんな日か」

 アフロディ、本名は、亜風炉照美。

 アフロディは、FFが開催する前に、自分の犯した過ちに対する悩みを抱かえていた時に、自分を元気づけてくれたお婆さんの居る公園へと来ていた。

 あの時と似たような事をすれば、また会えるのだろうかと思い、アフロディは先日出版されたサッカー雑誌をさっきのコンビニで購入してきていた。、

 しかし、いくら待っても、あの時のお婆さんがまた自分に現れることはなかった。

「…ここからは、自分の道で歩いて欲しい。ってことなのかな__おばあちゃん」

 

 

 

「今日は、僕達がFFIで優勝した日が、二か月を迎えたということで、レストラン側から凄い物をプレゼントしてくれたみたいだ。じゃあ、早速食べよっか。西蔭、一星くん」

 西蔭と一星の前には、巨大なアイスクリーム。そのアイスは、ブルーのアイスにオレンジ色のラムネ、そして緑の星柄トッピングが施されていた。

 イベント品にしては高度なデザインだ。

 と、一星は固唾を飲む。

 

 ***

 

「うおっ!」

 秋を告げる強い風が、万作の帽子を攫っていった。

「あの方向はてっぺん崖の方か…海に落ちたかもしれな…」

「俺取ってくるよ! だってあれ、とても大事にしてたじゃん!」

「あ、明日人!」

 明日人は学校の門を越え、風に飛ばされた万作の帽子を追いかけた。

 てっぺん崖への方角へと。

 てっぺん崖まで走る。

 その光景を、前にも見たことがある。

 それは、まさに今と同じようになっていた。

 母を病気で亡くした明日人が、悲しみのあまり、てっぺん崖まで走った時のと同じ。丁度空も、もうすぐで日が沈みそうだった。

 だけど、もう今の顔は、涙に濡れていなかった。

 今は、明日に向かって走り続けている。

 今も、そしてこれからも…

 学校からてっぺん崖まで走り、そして辿りついた明日人。

 だがそこには、万作の帽子は無かった。

 海に、落ちちゃったのかなと、思ったその時。てっぺん崖に誰かが居るのが見えた。

 ちょうどその子は、万作の帽子を持っている。

 見かけない子だな…と思い、明日人は話しかけた。

「あ、あの、その帽子…」

 明日人の声に反応したのか、帽子を持ったその子は、明日人に振り向く。

 すると、明日人は声が出なくなった。

 その子…いや、少女の姿が、美しすぎて。

 美しいといわれた輝夜姫も、その美しさには劣るんじゃないかと思うくらいに、少女は綺麗だった。

 目は仮面で隠されてはいるが、降り積もった雪のように白い肌。それに対比するような藍色のグラデーションのかかった、セミロングの黒い髪。白のノースリーブワンピースから露出する肌もまた白く、無駄な肉がついてなかった。

 まるで天使だ。

 と、声にも出ない声を、明日人は漏らした。

 もし今日が夏だったら、夏の暑さでおかしくなって、その白い肩掛けすらも、天使の翼の様に思えてくるのだろうか。

 硬直した明日人に、少女は帽子を渡す。

 それにやっと意識が戻ったのか、明日人は目を覚ます。

「あ、ありがと…」

 その声を聞うと、少女は明日人から目を反らし、夕日で照らされた海を見つめる。

 その瞬間、風が吹いた。

 それは、驚くほど優しいそよ風で、少女の髪を揺らしていた。

 ただ、髪が風に靡いているだけなのに、また明日人は、それに見惚れていた。

 少女が海に向かって走った、その瞬間まで。

「えっ!? ちょっと__」

 待ってと言いながら、明日人は手を伸ばした。

 だが、その瞬間、少女から光が放った。

 そして、明日人が思った通りに…少女の背中に、天使の「翼」が、生えた。

 人はショックを受けると声が出なくなる。

 まさにその通りだった。また、声が出なくなっていた。おまけに、貰った帽子も落としそうだ。

 ちなみにこれは、ショックなのではない。

 明日人はまた、少女の美しさに見惚れていたのだ。

 少女は、そんな明日人を気にも止めず、夕焼けで赤く染まった空へと消えて行ってしまった。

 人が天使に会う。

 そんな事例、神話にもおとぎ話にも存在しない。

 それなのに、出会ってしまった。

「ん…? 明日人、そっちはどうだ?」

 明日人に説得され、同じ方角の違う場所で帽子を探していた万作は、崖の近くで突っ立っている明日人を見つけ、声をかける。

「……会っちゃった…」

「何がだ?」

「…天使に…」

 

 ***

 

「とにかく! その子凄く綺麗だったんだよ! だから俺は思わず声が出なくなるくらいに見惚れてて…」

「まぁ、明日人はその子に惚れたって感じか。まぁそういうのよくあるからな」

「よくあるからなってなんだよ」

 学校に戻る間、明日人は途中で出会った天使の事を話していた。

 明日人は、本当のことだって主張しているが、あまり信じて貰えてないようだ。

「明日人ー! 万作ー!」

 するとその時、水色の髪が特徴で二人の幼馴染でもある氷浦が、学校側から二人に向かってやってくる。

「どうしたんだ? 氷浦」

「二人が離れてる間、サッカー部に朗報が入ったんだ。実は、明日花伽羅中と練習試合をすることになったんだ」

 花伽羅中。

 聞いたことも無い中学校名に、二人は顔を合わせる。

 ここの所、練習試合の申し込みも増えてきたが、そんな名前の中学校は、見たことも、聞いたことも無かった。

「花伽羅…なんだか、全てを炎で燃やし尽くしそうな名前だな…」

「…? 炎じゃなく、花なんだが…」

 そこじゃない。と、万作は突っ込む。

「じゃあ、俺達でその花伽羅中のこと調べないか!? そしたら、なにかわかるかもしれないし!」

 明日人が、その花伽羅中の事を調べないかと、提案をする。

「確かに、何も知らないで試合をするよりはマシかもしれないな…」

 

 ***

 

「あったぞ、万作、明日人」

 早速学校のコンピューター室で、花伽羅中の事を調べていた三人は、とあるホームページを見つける。

 どうやらその花伽羅中がある、花伽羅村の公式ホームページらしい。

「日本一の田舎町だが、蛍の名所、桜の名所と、知る人ぞ知る観光地としても有名らしいが…」

 ここよりも田舎な村ってあったのかと、万作は日本一の田舎町の単語を聞いて呟く。

「有名だけど…?」

 明日人が、氷浦の返答を待つ。

「そこに行くまでの道が、かなり困難らしいんだ。逆に、楽して通れる道なんてないといわれるくらいに…」

「なんか…そこまで行くと、その花伽羅中サッカー部のことが怪しく思えてくるな…」

 呪いでもあるんじゃないか…? と万作は疑心暗鬼になっている。

 それを見て、明日人は苦笑いをする。

「万作、別に行ったら呪われるとかはないみたいだ。ただ、街からかなり遠く離れた場所ににあるから、進んでいる途中で大きな落石が降ってきて車が潰れたとか、巨木が倒れて車での移動が困難になってしまったり、とな…」

 最初の落石はなんだ。

 と万作と明日人は思ったが、これ以上触れないことにした。

「氷浦、花伽羅中のサッカー部はどんなんだ?」

 明日人の素朴な疑問に、氷浦は答える。

「…それが、全くと言っていいほどに情報がないんだ。試しに花伽羅中のホームページも調べてみたんだが…部活欄にサッカー部があるだけで、他に情報が無い。だけど、一つだけ確実な情報は手に入れたよ」

「確実な情報?」

 それがなんなのかと、明日人の好奇心は増大する。

「確実な情報というのは、「夜舞月夜」という選手…高度なディフェンス能力でボールを奪い、さらに点を取るリベロであり、キャプテンでもあり、別名、『月光の魔女』と言われているんだ」

 月光の魔女。

 今まで出会ってきた異名の中でも、綺麗な部類に入るのだろうか。

 文字だけでも、「戦術の皇帝」の異名を持つ選手と同等の実力を持ってそうだ。

 他にもないのかなと、氷浦に問おうとした瞬間。

「それだけだ」

 という氷浦の声が響く。

「…氷浦、それだけって…もしかして、情報のこと?」

「あぁ。容姿も、経歴も、何一つ乗ってないんだ。でも、まだ何かあるかもしれないから、俺はもうちょっと花伽羅中の事を調べてみるよ。ばぁちゃんの名にかけてね」

 ここで、氷浦の探偵気質が滲み出る。

「氷浦だけに調べさせるわけにはいかない。俺も花伽羅中についてまだ調べてみる。明日人、お前はどうする?」

 万作は、氷浦と共に花伽中について調べるらしい。

「俺、父ちゃんに聞いてみるよ。父ちゃんは、サッカー協会の会長らしいから」

「そうか、その手もあったな」

 そう言い、明日人は一度コンピューター室から出て、自分の父親に電話をかけてみる。

 忙しいから出られないかも。

 と、父親の事を考えながら、スマホから出る発信音を耳の片隅で聞く。

「稲森琢磨だ」

 つながった…!

 と、明日人は喜びの表情を出す。

 父親と繋がれるのは、電話しかないから。

「あ、父ちゃん? 実はお願いがあるんだけど…」

「明日人か。どうしたんだ? サッカー部の部費が無いのか?」

「父ちゃん、サッカー部の部費は足りてるよ…ってそうじゃない!」

 久しぶりに自分の父親の声を聞き、思わず長話をしそうになったが、ここはぐっと堪える。

「あのさ父ちゃん、花伽羅中って、知ってる?」

「花伽羅中…?」

「うん、父ちゃんサッカー協会の会長だから、何か知ってるのかな~って」

「そうか、その花伽羅中と練習試合をするんだな」

「うんそうだよ…って! なんでわかったの!?」

「俺の息子だからな。言われなくてもわかる」

 息子。

 そう言われ、明日人は微笑む。

 嬉しかったのだ。

 今まで会えなかった父親が、今こうやって話せているのだから。

「…ねぇ父ちゃん…」

 だからこそ、こうして、甘えてみたくなるのだろうか。

「どうした? 明日人」

「今度の練習試合、絶対に来てね…俺、頑張るから…」

 明日人の今にも消えそうな声に、琢磨は受け入れる。

「…わかった。絶対に見に来るよ。じゃあ、調べてみるから、何かがわかったら、また電話するよ」

「うん、おやすみ、父ちゃん」

 そう言い、明日人は通話終了のアイコンを押す。

「ただいま、今父ちゃんが調べてるって。そっちはどう?」

「あぁ明日人。実は、あまり有効な情報が無くてな…」

「これ以上調べても何もなかったら、今日は終わりにしよう。明日、試合があるからな」 と、氷浦が、窓を眺める。それにつられて、明日人も窓を見る。窓の外には、夏の風物詩である天の川の隅が、空を覆っていた。

 

 

 

 その頃。別の場所では、明日人達と同じように、星を眺めていた者が居た。

 それは、夕方に明日人と会った、天使だった。

 その天使もまた、天の川を眺めており、首には白い石で出来たペンダントを下げている。

 すると天使は、何かを歌うように口を動かした。

 その時、明日人が見た白い光が現れ、「彼女」の背中に、また天使の翼が生える。

 そして彼女は、天の川の空へと消えてった。

 

 

 

「おはよ! 万作! 氷浦!」

 大地を照りつける太陽。しかし今日は、明日人の言っていた通り一段と涼しい。

 暑さには弱い人間にとっては、天使が味方してくれたようなものだ。

「あぁ明日人。そういえばお前の父さんは、あれからどうなった?」

「それが、見事に情報が無いって」

「まさに無名のチームだな」

 情報が一切ないから、無名のチーム。とでも言いたいのだろうか。

「そういえば、今疑問に思ったんだが、なんでその花伽羅中は、俺達に試合を申し込んだんだろうな」

 確かに、と明日人は思う。

「多分、俺達とサッカーがしたいからじゃないかな?」

「それなら、沢山相手はいるんじゃないのか?」

「う~ん、じゃあなんだろう…」

 花伽羅中についてを話している間に、三人は通学路で通る市役所の入り口付近を通ろうとしていた。

 普段なら、学校へと市役所を通り過ぎるのだが、今日は何か違う。

「あれ…? あそこに見えるのは、キャプテンじゃないですか」

 市役所前の人混みの隙間から見える長い黒髪の少年は、見覚えがある。

 伊那国島サッカー部のキャプテンだ。

 以外にも、明日人がキャプテンではないのだ。

 三人は、なぜそこにキャプテンである道成達也がそこにいるのかが気になり、明日人達は市役所まで行くことにした。

 人混みをかき分け、三人は道成の所まで辿りつく。

「キャプテン! どうしたんですか?」

 明日人がキャプテンに問う。

「稲森…実はな」

「言われなくてもわかるだろう」

 道成の言葉は、何者かの声によって掻き消される。

 ここに居る全員が、その声の発生場所を見つめる。

 その発生場所は、選挙に使われる車の上に乗った、少年少女たちからだった。

 しかもそこ横には、市長と思わしき人物も居る。

「これよりサッカーは、人々に害を成すものとして、それに関する物の活動、または行動を、「禁止」するものとする」

 中心にいる少年の言葉。

 その声は、まるで機械的だ。

 まるで、サッカーを悪質な物として見ている。

「…嘘…だろ…!?」

「なんで…サッカーが禁止なんだ…」

 すると、さっきまで太陽のように笑っていた明日人の顔が、目の前に起きた絶望に染まった。

 明日人は、サッカーを失う悲しみを知っている。

 大好きな物を奪われる悲しみという感情、そして心を、酷く心に刻んでいる。

 明日人は、目の前の現実に耐えられなかった。

 サッカーが、出来ない。

 最初は興味本位でやっていたサッカー。

 そして、いつの間にか、心を共にしていた。

 やっていると、楽しかった。

 心が晴れ晴れした。

 サッカーがあったから、ここまでこれた。

 なのに。

 サッカーが、出来ない。

 胸と同時に心が苦しくなる中、人混みからの抗議の声が次々に上がるのは耳に入る。

「なんでなんだ」

「サッカーが出来なくなるってどういうこと?」

「お前達はなんだ! 子供の癖に!」

「どうして禁止にする必要があるのよ」

「悪戯で許されると思ってるのか!」

 と、上がる声に、少年はうろたえることは無かった。

 むしろ、以前よりも機械的になったような。

「これは全て国が決めたことだ。「反論にデモを起こすようなことがあれば、真っ先にお前達国民を処刑する」とな」

「な…何があったっていうんだ…」

 氷浦が困惑する中、明日人の精神はとうに限界を迎えていた。

 後ろから殴られたみたく意識を失い、明日人は地面に倒れる。

「明日人!?」

「明日人!!」

 氷浦に万作、道成が明日人の異変に気づく。

「堕落した人々を救う。それが、我ら「天使」に架せられた使命だ」

 天使。その言葉に意識を取り戻しそうになったが、明日人はその使命がなんなのかを理解する間もなく、また目を閉じた。

 

 

 

 

 

 この日、少年は「天使」に出遭ってしまった。

 

 

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