ついに、この時が来た。
やれるだけの特訓はしてきた。
あとは、それをこの『聖戦』で出し尽くすだけだ。
しかし、この日は秋雨前線の為か、空は曇天に包まれ、花伽羅村を覆い尽くしている。
「天気予報では晴れるって言っていたのに、残念ですね」
大谷の言う通り、こんな日こそ眩い太陽の元で戦いたかったのだが、今は曇りだ。仕方ない。
「夜舞お姉ちゃん、おうちにかくれててって、どういうこと?」
夜舞の家には、花伽羅村に居る全員の子供達が避難していた。そして大人たちは、神社に避難している。ユースティティアの天使からの魔の手から免れるためと、村長の孫でもある夜舞が提案したものだ。
「いい? これからここに怖いのがくるから、絶対外に出ちゃだめだよ。何かあったら、おばあちゃんとおじいちゃんがいるからね」
優しい声で、夜舞は子供達全員にやっこの御守りを渡し、子供達を中に入れさせると、
夜舞はすぐに家の扉を外側を閉めた。
「蛍くんたち。もし危険になったら、絶対私の家に入ってね。合いカギは蛍くんに渡しているから」
真面目な表情で、夜舞は外で子供たちを守っている自分の家の門番の役割を補っている蛍たちに事項を伝える。
「じゃあ、私はもう行かなきゃ。気を付けてね!」
『任せてください!』
蛍たちの姿を時折振り向きながら走り、ユースティティアが来る前にと夜舞は花伽羅村のグラウンドまで急いだ。
「遅くなりました!」
「夜舞、遅いぞ!」
「すみません風丸先輩!」
どうにかユースティティアの天使が来る前には到着出来たが、風丸には叱られてしまった。
「(…絶対、大丈夫だ…)」
明日人がそう思ったその時、空から光が降り注ぎ、その光の中からユースティティアの天使が舞い降りた。
背中の純白の翼は、他の人から見れば天使にしか見えないが、明日人たちからしたら、悪魔の翼のようにも見えた。
「またお前達か…」
呆れた表情で、レンは明日人たちに言い放った。
「今度はお前達の好きにはさせない! サッカーは絶対に取り戻す!」
「……そうか…」
レンはため息をつきながら、サッカーを取り戻すと言う明日人、そして円堂たちを見つめた。
「いいか、人はいつか間違いを犯す。そして何かを失ったあとにやっとそれに気づく。今回は、それを教えてやろう」
空からサッカーボールが落ちてくるが、レンはそれを難なくキャッチし、センターサークルの中心に置いた。
「空から見ていたが、お前達も大分強くなったみたいだな。だが、今回はハンデはやらん。それと、もし私達が勝ったら…」
右手からお札が重なったものを、レンが投げる。それはなんと、ひも状となって明日人の左腕に絡みつく。
「_!?」
「明日人くん!」
「大丈夫!?」
夜舞と一星が取り外そうと奮闘する。しかし、レンの引っ張る力は強く、明日人も思わず前に倒れてしまいそうだった。
「てめぇ…明日人に何を…」
「この人間をもらい受けよう。拒否権はない」
「そんな拒否権、無いに決まっているね」
「……始めるぞ」
野坂の軽い返しにレンは少し黙ると、すぐに明日人の左手に絡まったお札を取り、ポジションへと着いた。
今度こそ本気だ_! と確信した明日人は、ここで勝たなければと決意した。
ラストプロテクターのスタメンは以下の通りとなった。
GK 円堂守(キャプテン)
DF 吹雪士郎 風丸一朗太 夜舞月夜(NEW!)
MF 鬼道有人 野坂悠馬 一星光 稲森明日人
FW 吉良ヒロト 豪炎寺修也 フロイ・ギリカナン
レンたちに就いていた神父が審判役となり、試合開始のホイッスルが鳴らされた。
レン曰く「あの者は正当な裁きを求める。私たちが有利になるような審理はしない」とのことらしい。
「ハンデはやらないと言ったが、ボールは君たちにあげよう」
ボールを蹴り、豪炎寺にボールを上げた。
「またか…舐めてんのかよ」
「人間を舐めると舌が穢れる」
「(なんだこいつ…)」
ヒロトが愚痴ると、レンがそれに見合った返しをする。しかしそれは、ヒロトの言葉を真に受けているかのような返しであり、ヒロトは怒る気を失くしてしまった。
「皆! 特訓の成果を見せてやるんだ! 努力は種族をも超えるってな!」
円堂がギャラリーの居ない実況しかいないグラウンドに響くくらいの大声でラストプロテクターの闘気を鼓舞する。
『さぁ始まりました! ラストプロテクター・アースVSユースティティア! 前回は散々な敗北をしてしまったが、今回は挽回できるか!? 試合開始です!』
ラストプロテクターのキックオフで試合が始まり、フロイにボールが渡る。
「(ユースティティアとこうやって戦うのは始めてだ…だけど、この試合、負けるわけにはいかない…アストの為にも…)」
試合中でも、明日人のことを考えているフロイ。狙われている_からというのもあるが、本質はそこでないような気がする。
とその時、三人のディフェンスが来る。
しかしそれをフロイは、相手の動きを見定めた上で避け、ヒロトに渡した。
「凄い! 一気に三人を抜いちゃうなんて!」
夜舞がフロイを褒めているが、夜舞も以前は三人を一気に抜けていた気もするのだが…
「ヒロト! 気をつけろ!」
「わかってらぁ!」
と豪炎寺に返事したその直後に、レンが立ち塞がった。以前ならここでボールを奪われ、ゴールに入れられていただろう。しかし、今は違う。
「甘いなァ!」
レンが立ち塞がったのを視界に入れたすぐに、ヒロトは右にボールを体を動かし、レンを突破したのである。
「明日人!」
「野坂!」
ヒロトは明日人にパスを回す。明日人は取り囲まれてはいたが、夜舞の特訓の一つの瞑想が入っていたため、明日人は相手の動きをその目で見極め、回避した上で野坂にパスした。
野坂も以前は恐ろしい程のスピードだった相手のタックルを反復横跳びの応用で軽々と避け、豪炎寺にパスをする。
「豪炎寺さん!」
「ああ! そのパス、無駄にはしない!」
パスを貰った豪炎寺は、爆熱スクリューの体制に入った。GKのカデンツァは、余裕そうに右手を伸ばした。
「爆熱スクリュー!!」
炎のシュートがユースティティアのゴールに向かっていく。しかし、ここにくるシュートチェインで、カデンツァの表情が変わった。
「いけ! ヒロト!」
「任せろ! スーパーノヴァ・エクスプロージョン!!」
まさかのシュートチェインを予測していなかったカデンツァは、そのままボールと一緒にゴールに入れられた。
「よっしゃあああああああ!!!」
ラストプロテクター初の一点に、ヒロトは大いに喜び、豪炎寺も明日人たちも体が服得る程の喜びがこみ上げていた。
「やったぁやったぁ!」
マネージャーたちはお互いに抱き合い、マリクもルースもハイタッチで喜びあっていた。
「よくやるじゃねぇか…」
ベンチに座っていた灰崎は、ヒロトの活躍を見て、何やら感心しているようにも見えた。
「ヒロトくん凄いよ! ユースティティアから一点をもぎ取るなんて!」
夜舞の目がいつもより輝きを増している。
「そうだろ? なんせ俺は、ゴッドストライ『予測済みだ。セレナーデ、シンフォニア、士気が乱れているぞ』
「も、申し訳ございません…」
レンは点が取られた時でも冷静に物事を判断し、やる気が落ちている仲間を叱咤する。
試合が再開し、ユースティティアのドリブルで前線に運ばれ、ついにシンフォニアが初めて技を出した。
『ジャッジメント・シンフォニア…』
ボールが手のひらサイズのオーブとなり、シンフォニアがそれを手に取る。そしてそれを投げ、シンフォニアが投げる時に上げていた右手を前に倒すと、オーブから無数のレーザーが飛び出し、最後にボールもレーザーのようにゴールに向かった。
「正義の…鉄拳!」
円堂の覚えたての新必殺技の威力は、さすがといえるほどで、レーザーもボールも弾き返した。それもそうだろう。なぜなら円堂が読んだ裏ノートの詳細には、正義の鉄拳は最終奥義とまで言われていたのだから。
「全く…私がやるしかないな」
弾き返されたボールを本来行く筈の鬼道からカットしたレンは、ゴール前で円堂と対峙する。
円堂が構える中、レンは右腕を横に伸ばし、右手から白いお札を数十枚取り出し、自分の周りに展開させた。
『
レンが出したその技は、雷門中の時に見た必殺技だ。自分の周りに展開されたお札を足元にあるボールを中心とした集まらせ、陰と陽の巨大な陰陽玉へと変化させ、レンがそれを赤と青の札で陰陽玉に貼りだすと、陰陽玉は破裂し、中から大量の札が出てくるという必殺技だった。
「正義の鉄拳!」
巨大な金色の拳は、円堂から大量の札を防ぎ、中心のボールを弾こうとしていた。
しかし、ボールは非常に強力で、拳が壊れてしまった。
「なっ!」
「正義の鉄拳が、破られた…!?」
なんと、新しく覚えたての新必殺技、円堂の『正義の鉄拳』が、レンの必殺シュートによって破られ、ゴールを許してしまったのだ。
「舞い上がるな人間。天使は負けぬ」
***
あっという間に前半戦は終わってしまい、ハーフタイムとなったが、ラストプロテクターの体力は想像以上に消耗していた。
「う~ん。これは交代せざるを得ませんね~」
「そうですね。僕の気功マッサージも、一回しか使えませんしね」
しかし、交代を続けていると、いつかは体力のあるメンバーが居なくなって最悪な事になってしまうので、しっかり見極めてほしいところだ。
「円堂さん、疲れているのでしたら、俺が…」
「大丈夫だ! 必殺技は破られちゃったけど、きっとなんとかなる!」
「そういうもんか?」
円堂のなんとかなる作戦に、不動が思わず突っ込んだ。
「ん? あれは…」
休憩をしていると、夜舞はベンチの影に何者かが居るのが目に見えた。
思わず覗きに見ると、そこには大人三人と子供一人。
その大人三人は黒いローブをしており、いかにもな感じがした。
「夜舞さん?」
「しっ」
夜舞を追いかけて坂野上も一緒に覗きに来た為、夜舞は静かにと口に指をあてた。
「坂野上くん、あれ、なんだと思う?」
「なんだと思うって…なんですか?」
「これは私の推測だけど…もしかしてユースティティアの天使の部下かもしれない。さっき子供が見えたから、きっと子供を攫おうとしているに決まってるよ!」
小声で言ったかと思えば、急に青ざめる夜舞。
漫画みたいにコロコロと変わる夜舞の表情を見て、坂野上は思わず笑ってしまった。
「私、このことを電話で大人たちに知らせるから、坂野上くんは…」
坂野上に耳打ちで内容を伝えると、坂野上はわかりましたと小声で言い、夜舞が電話に出ている間の時間稼ぎを行うことにした。
「作戦では、人間側が負けてレン様が稲森明日人を連れ去ったその瞬間に、灰崎凌兵を連れ去る。だったな」
「あぁ、しかし、この女もバカだよな。後ろに俺達が居たのに気づかないでよ」
神父三人が取り囲んでいるのは、黒い髪を二つに結い、星章学園の藍色の制服が特徴の宮野茜だった。目を隠され、口も覆われている。そのため、茜が何を言おうと、それは言葉にならなかった。
「ははっ、あとはレン様にまかせ…」
神父が何かを言おうとしたその時、後ろで雪崩のような音がするのが聞こえた。怪しんだ神父が振り向くと、そこには夜舞の祖父を筆頭に花伽羅村の大人たちがクワや棒を持って神父たちに向かって襲いかかってきたのだ!
「こりゃー!! 子供を離さんかぁー!!」
「な、なんだこいつらは!」
「だ、大神父様! これでは…」
『かかれー!!』
いつの間にか取り囲まれていた神父たちが逃げようとするも、村の人達の圧力は凄く、すぐに神父三人は捕まってしまった。
「ま、待ってください! 私達は宗教の者で…」
「宗教勧誘の人は、ここに来ません」
神父が自分の身分を隠そうと口先八兆で受け答えしようとしたその時、グラウンドから夜舞が出てきた。
「み、道に迷って」
「道に迷っていたなら、確実にあそこで飢え死にしていました。それより、子供を返してください!」
夜舞が指を指したのは、地面に転がっている少女。
「夜舞? どうしたんだ?」
夜舞の大声で、明日人たちが様子を見に来る。その中で明日人たちを押しのけて先に進んだのは、灰崎だった。
「茜!」
縛られている茜を抱え上げ、すぐさま自分のところに持ってきた灰崎。すぐに目隠しと口に貼りついているガムテープを剥がすと、そこには見覚えのある幼馴染みの姿があった。
「り、りょうへー?」
「茜…」
茜を助けられたことに、灰崎は心の底から湧き出る歓喜に思わず泣いてしまいそうだったが、すぐに涙を堪え、茜を縛っている縄を外す。
「凌兵! 怖かったよ~!」
縄を外されたその直後、自由になった腕で茜は灰崎に抱きついた。
やはり、攫われていたのもあるため、幼馴染みに会えた感動は凄まじいものだろう。
「くそ…人質を取られたか…」
「まぁいいですよ。どうせ貴方達はレン様に勝てません」
捨て台詞を吐きながら、神父たちは消えていってしまった。ここで逃がしてしまうことにはなったが、茜を取り戻せた為、結果オーライとはいえるだろう。これも夜舞のお陰だ。
「灰崎! よかったな! 茜さんが戻ってきて!!」
茜が助かったことに舞い上がった明日人は、思わず灰崎と自分だけに秘密にしていたことをそこに居る皆にバラしてしまう。
「ん? それはどういうことだ? 稲森」
「あ、えっと、鬼道さん?」
にっこりと笑いながら、鬼道は稲森に近づいている。
「まさかとは思うが…病院の時抜け出した時に、灰崎と何かしていたのか?」
「か、風丸さん…そ、その…夜舞~…」
思わず夜舞に助けを求めた明日人。しかし。
「明日人くん。灰崎くんのことを教えてよ。知らないままなんて私嫌だよ」
「夜舞まで…」
助けを求めた夜舞にまでそう言われてしまった為、結局明日人は、全員に事情を説明することとなってしまった。
「チッ…結局こうなんのかよ…」
「ご、ごめん灰崎~」
他の人には話さないと約束したのにも関わらず、明日人が口を滑らしてしまい、そのせいで灰崎の機嫌を悪くしてしまう。
「ま…茜が助かったから今回は許してやる」
「え?」
まさか灰崎が許してくれるとは思わず、明日人は下げていた顔を上げた。
「灰崎く~ん、宜しくお願いしますよ~」
趙金雲の声で、灰崎はジャージを脱いで、中に着ていたユニホーム姿となった。
「リョウヘイ、あとは頼んだよ」
「わかってらぁ」
フロイと交代し、改めてイナズマジャパンのFWが集まった。
***
「りょうへー! 頑張ってねー!」
茜の件はこのまま返したらまた攫われるかもしれないという危険性があった為、ひとまずラストプロテクターが保護するということとなり、茜はそのままラストプロテクターのマネージャーとなった。
「お、おう…」
皆の前で茜に応援され、少し照れ臭くなっている灰崎。その光景にラストプロテクターの雰囲気が和んだ。
『ラストプロテクターは、ハーフタイム中に何かがありましたが、監督からは特に以上ないとの事! さぁ後半戦開始です!』
後半戦もラストプロテクターからのボールで始まり、ボールはフィールドに立ったばかりの灰崎に渡った。
走る灰崎の体は、皆が見るよりも速く動いており、以前雷門中で試合した時よりも鋭くなっていた。
「シャーク・ザ・ディープ! イービル!」
あっという間にゴール前まで辿りついた灰崎は、もはや代名詞ともなっているシャーク・ザ・ディープを繰り出した。しかし、海というフィールドには、青紫色の鮫だけかと思いきや、パーフェクトペンギンの金色のペンギンまでもが海を泳いでいた。
「パワーアップしてる!?」
「まさか、隠れて修行していたのか!?」
「でもすごいよ灰崎!」
いや、これまでの特訓のお陰かもしれないが、何よりも…
「凌兵頑張ってー!」
幼馴染みからの応援があるからではないのか?
しかしそれでもシュートの威力は上がっており、カデンツァは鮫とペンギンに反応しきれず、ゴールを許してしまった。
とにもかくにも、これで1-2だ。勝てる見込みはあるかもしれない。
「おい一星」
「なんですか?」
しかしゴール直後、灰崎が一星に話しかけてきた。何やら真剣そうだ。
「ちょっとツラ貸せ」
「え!?」
試合中だというのに灰崎から二人きりで話がしたい(ツラ貸せの意味)という誘いが、一星の顔を強張らせた。
「凌兵どうしたの? 試合中だよ?」
「すぐに終わらァ」
茜からの心配の声も、灰崎は聞かない。
ベンチよりも離れた場所での話し合いが始まる。安心しろとは言われたものの、やはり心配だった円堂と明日人、野坂と夜舞は陰からそれを覗いていた。
「一星、お前二重人格だろ」
灰崎が単刀直入に聞いてきた質問に、『欠』は答えた。
「…そうだと言ったら?」
眼つきは鋭くなり、髪の感じも変わっている。どこか充を思わせる外見だ。
「俺は一星がずっとお前を出さねぇようにしていたの見てたからな。たまにだが、胸を抑える時があった」
「そうか、で、それがどうした?」
「…フロイから聞いた。お前がオリオンに復讐しようとしていることも、フロイを何度も何度も殺そうとして、出来なかったってんのも聞いた。今のお前は、昔の俺と同じだ」
明日人たちは、一星がフロイを何度も殺そうとしていたというのを今知り、静かに心の底で驚いた。
「まぁ、大事な人を奪われて悲しまねぇ奴なんていねぇしよ」
灰崎は、わかっていたのだ。復讐を決意した日のことも、復讐をしていた日々のことも、全てわかっているのだ。
だから、一星の気持ちもわからなくなかったのだ。
「いいか、俺が言いてぇのはこれだ。お前、本当はわかってんじゃねぇのか? フロイの奴は何も関係ねぇってことを」
その瞬間、一星の視界が眩い光に包まれた。
そして、一星の眼つきも髪の感じも光に戻っていっている。
「灰崎くん…」
「オラ、とっとと戻るぞ」
***
試合が再開され、一星はポジションについていた。
前方には灰崎凌兵が見える。
その背中にどんな過去を背負っているのかは一星はわからなかったが、どこかたくましく思えた。
口調こそは荒いものの、芯は真っすぐとしていて固い。
もしかしたら、自分は間違っていたのではないかと思ったその瞬間、傍で試合を見ていた蠍が一星に向かって飛びだし、そのまま一星の体内に入った___。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああああああああああああ!!!!』
一星の周りに現れた赤と黒のオーラが一星の体全体に纏わりつき、それによる激痛、心を抉られる感覚に、一星は今にも意識を無くしかける。
「一星!」
「一星くん!」
明日人と野坂、フロイの声も聴けず、只々一星は目の前の苦痛に耐えるしか出来なかった。
「うっ……っ、く、る、し……」
『幸せだった過去に縋るか、先の見えない未来を生きるか?』
「!?」
体内から響いた声に耳を傾けたその瞬間、自分を苦しめていた筈のオーラと激痛が消え、自分はどこかの黒い空間に飛ばされていた。
「君、は?」
そこに居る光の球に話しかける。
『私は蠍だ。赤い蠍だ。一星光。お前はお前自身の大切な者を奪った、オリオンが憎いか? それとも、復讐をしたくないと思っているのか?』
自分の思っていることを突かれ、一星は蠍に動揺する。
「憎んでない…と言えば、嘘になるかもしれない。でも、俺が憎んでないにしても、オリオンは、俺の大切で俺の尊敬する兄ちゃんを奪ったことには変わりない」
サッカーが上手くて、この世界の誰よりもかっこよくて、尊敬する兄を、オリオンは奪った。
でも、違ったのだ。
「でも、だからって、自分が作ってしまった人格だとしても、フロイを傷つける必要はなかった。灰崎くんから言われて、改めて気がついたけど、無関係なんだ。でも、無関係なことに、俺は許せなかったんだ。親友に向かってこんなことを考えるなんて、最低だ。なのに俺は、フロイにあの事故をなんで防がなかったんだって思ってしまうんだ…」
当時のフロイには、そんなこと出来なかったかもしれない。それでも、甘えてしまっていたのだ。親友なら、あの事故を事前に防げたんじゃないかって、一星は思ってしまっていたのだ。
「最低だよね…だって俺は、戻れない過去に縋って、当時親友でも何でもなかった他人のフロイに無理難題をおしつけて…酷いよね…」
口では笑っているものの、一星の心は泣いていた。
『一星光よ、お前に、選択がある。一つは、未来を切り離し、過去に縋るか。二つは、過去と別ち、未来を生きるかだ』
一星に架せられた選択。
一星は考えた。
これまでのことを振り返ったのだ。
まず、自分がなぜオリオン財団に復讐したいと思ったのか。
兄の充がオリオン財団によって殺された。
それが信じられなかった。
だけど、いつしかそれは、大きな復讐心となって、炎のように揺らめていた。
だから、復讐したかった。フロイを殺して。
だけど、間違っていた。灰崎に言われて、改めて気づいた。
もともとフロイは無関係だったじゃないか。悪いのはあのオリオンの魔女イリーナだ。
しかしイリーナは今ロシアの刑務所に居る。とても自分には手の届かなかったから、フロイに手を出したのではないだろうか。
だったら、自分はとても酷い事をしてしまった。
フロイという充と光の親友を殺そうとしてしまうなんて。
正直、これからフロイとはどうやっていいかはわからない。
だけど、逃げるわけにはいかなかった。
もう過去には縋りたくないという気持ちがあったからだ。
選択は一つだけで、二つ同時には選べない。
だとしても、一星はもう誰かに決めて貰うことをやめた。
これからは、自分自身で、生きるんだ。
「俺は…この辛くて悲しい未来を…『生きる』!」
一星が光の球を右手で下から包むように持つと、光の球は小さな粒となって一星の胸の中に入り、先ほどまで真っ暗だった空間が砕け散った。
「一星!」
目覚めた一星は、姿形が変わっていた。短かった後ろ髪は伸び、長い三つ編みに纏まっており、色はオリオン座の赤いベテルギウスのような赤に染まっていた。そして、目も赤くなっている。
一星は自分の姿が変わっていることに驚いた様子をみせたが、そんな驚きに時間をかけている暇はないと感じたのか、すぐに前方を向いた。
「__行くよ。サソリ」
一星が走り出すと、後ろから突風が吹き荒れた。明日人たちはその突風に思わず顔を腕で覆った。
足の踏み込みが強すぎて、走る度に風が吹いているのだ。
おまけにその足の踏みこみもあってか、足も速くなっており、ユースティティアの天使のディフェンスを持ち前の分析能力で軽々と避けていく。
そして、味方へのパスもちゃんと通っている。コツを掴み始めたそうだ。
『アンタレス・エトワール!!』
ゴール前に辿りついた一星は、まずボールをトラップしてからボールを宙に上げ、自分も空を飛んだ。
その瞬間、背景は蠍座の星座がきらめいた夜空となり、アンタレスという蠍座の一等星の中心で、一星がボールを蹴りだすと、一星の後ろから赤い光の細いビームたちが一斉にゴールへとボールを連れて行く。
「エンジェルラ―ダー・カデンツァ!!」
天使が舞い降りるような光の壁が空から満ち、自分とボールとの間にバリアを作る。
しかし、星の光はそれをいともたやすく貫いた。
『ゴール! ラストプロテクター、一点を取り返した!このまま突き放せるかぁー!?』
1-3。その直後、一星の変身は解け、ふぅ~と息を吐きながら元のポジションに戻った。
「一星…それって…」
明日人が一星の赤くなっていた髪の毛に質問する。
「これですか? …蠍の化物との統合…と考えるべきでしょうか」
変身した一星にもよくわかっていないらしく、明日人に質問された一星は仕方なく自分の中に入った蠍の化物との統合だと答えた。
「ほーっほっほっほ! ならば、名前を付ければいいじゃありませんかぁ」
「名前?」
「そう…その名も、『スペクトルフォーメーション』と名づけましょう~!」
スペクトルは本来複雑な情報や信号をその成分に分解し、成分ごとの大小に従って配列したもののことなのだが、趙金雲のネーミングセンスはいかがなものか。
「スペクトルフォーメーション、ですか…!」
胸の中にある蠍を思い描きながら、一星は感心する。
「よし皆! このまま勝ち越そう!」
勝利の光が見え始めたその時だった。
「スペクトルフォーメーションか…だが、そんなもので天使を越えられると思うなッ!!」
首元に下げていた白い十字架のペンダントを外し、右手に持ったレン。その瞬間、レンの周りでは紫色のオーラが漂い、髪の毛と服を浮かす。
「ハァッ! 『‘‘クロスハート‘‘ッ、解放!!』」
右手拳を左手に合わせ、紫色に光りだしたペンダントを前に突き出す。すると、ペンダントから紫色の光が溢れだし、それはレンに纏わりつく。
そして光が弾けると、そこには先ほどのユニホームとはまた違った服装になっており、ペンダントの十字架は胸に、周りには人形代が浮いている。
「____」
息を吐き、その直後にレンはフィールドを走り抜ける。
それは先ほどのスピードよりも速く、あっという間に十人が抜かされてしまった。
「これはっ!」
「あの十字架で、パワーアップしているというのかい!?」
野坂がそう仮定するも、レンの進撃は止まる気配を見せず、円堂が身構える。
『神珠・陰陽玉!』
「正義の、鉄拳!」
今度は負けはしない_と、円堂はもう一度正義の鉄拳を繰り出した。
しかし、先ほどの十字架で基礎能力を上げているせいなのか、今度は円堂の踏ん張りもなくゴールを許してしまった。
『ゴール! ユースティティア、謎の変身で円堂からゴールを奪いました! これは、ユースティティアのスペクトルフォーメーションかぁー!?』
レンが変身を解き、またペンダントを首から下げた。
「これが、天界の技術で作りあげた神聖なる十字架_『エンジェルクロス』だ」
エンジェルクロス_一見はただの十字架のペンダントにしか見えないが、天使からすれば先ほどの変身が出来る優れものなのだろう。
「我が天使に楯突いたこと、後悔するべきだったな」
そのレンの言葉は、どこか恐怖を感じていた。
その後、ラストプロテクターからのボールで試合は再開されたが、ユースティティアの快進撃で試合は進んでしまった。先ほどのレンの変身の影響か、ユースティティアのステータスが底上げされているような感覚を明日人たちは覚えた。
「まさか、さっきの変身でこいつらのステータスが上昇しているのか!?」
「だとしたら…長引くともっと不利になるね…」
構える風丸と吹雪。
「稲森と野坂は守備に、そして一星は隙があればスペクトルフォーメーションを!」
鬼道が指示を出し、稲森と野坂は後衛に下がった。
「野坂さん。また俺が、スペクトルフォーメーションをします!」
「あぁ、任せたよ」
まだ何があるのかは解明されていないが、勝つには必要だと考えた野坂は、スぺクトルフォーメーションを使うことを承諾した。
「(どうやって使うかはわかりませんが…やってみます!)」
しかし、どうやって呼び出すのかをわかっていなかった一星は、とりあえず足を踏み込み、左手で構え、右手を大きく空に掲げ、思いついた呪文を叫ぶ。
『スペクトルフォーメーション! リライズ!』
その瞬間、曇天の空から雷の音が続いたあと、一星に向かって赤い雷が落ちてきた!
その光景は遠くでも視認され、夜舞の家に避難している子供たちは勿論、東京にいる人たち、テレビ局の人達もその雷を確認できた。
時々痛みが発生したが、一星はそれに耐え、見事に雷が弾けると同時にスペクトルフォーメ―ションに成功した。
「ハァ!」
稲妻のような速さで相手からボールを取った一星は、その長い三つ編みを揺らしながら相手をドリブルやフェイントでかわしていく。
その頃ベンチでは一星の快進撃に驚きと喜びが混じった歓声が沸いていた。
「一星くん、順調ですね!」
「そうだね…でも、まだわかってないことがあるよ。大谷」
「それって、なんですか? ルースくん」
他の人にはわかってないことを見抜いたルース。それを大谷が気になったのか、聞きにくる。
「一星は、蠍の化物との統合…と言ったよね。でも、俺達はその蠍の化物が何なのかをわかっていない」
「あ…確かにあの蠍の化物が何なのかを教えて貰ってません!」
一星が初めてスペクトルフォーメーションを成功した喜びが大きくて、皆は大事なことを忘れてしまっていたのだ。
「そして、あれほどのパワー…相当の負荷がかかると思うよ」
ルースが呟いたその一言_それは最悪にも当たってしまった。
「うっ!」
ドリブルをしている途中で、一星の胸が痛み、足が止まってしまったのだ。
その隙にシンフォニアとセレナーデがボールを奪おうとする為、一星は胸の痛みを我慢しつつ二人を避けながら前に進む。
しかし、FWのレンが前に立ち塞がり、レンはボールを見切ったあと紫色のお札を四枚出し、それを一星を囲む四角形に投げる。
『神錠結界!』
お札に立ち止まった一星の周りに、それぞれのお札から一本の蔓が現れ、それは一星の体に巻きついて離さない。その隙に零れたボールを拾い、レンがまたエンジェルクロスを発動する。
「クロスハート・解放!」
レンがまた変身してしまった。
明日人たちが何とか止めようとするも、その勢いはグリッドオメガの時の風なみで、立ち向っても吹き飛ばされてしまった。
「させないよ! アイスグランド!」
「スピニングフェンス!」
「ライトチェーン・ダークロープ!」
三人を代表とするディフェンス技を使っても、レンは氷の上を吹雪のようにスケートしながら通り抜け、風を避け、そして鎖も縄も避けてしまった。
「円堂先輩!」
夜舞の言葉に、円堂は改めて構える。
その後、レンは目の前に出した札数枚のバリアから、ボールを紫と白の陰陽玉として三つ作りだし、その中の一つを左に回して自身を中心に回らせる。逆時計周りに回っている陰陽玉はレンの周りをいつまでも回っており、そのままレンは翼を出して空を飛んだ。
『邪念ありし人形代の陰陽玉!!』
両手に持てるだけのお札を投げ、さらに陰陽玉の外側で右回りに回らせると、お札と陰陽玉は光りだし、陰陽玉から大量の黒と白の人形代が噴き出す。その直後にお札を一直線に発射し、最後にレンは陰陽玉全てを蹴りだした。
「正義の…鉄拳!!」
金色の大きな拳は大量の人形代を防ぐ。バサバサと紙が擦れる音がする中で、次のショットであるお札が飛んでくるが、それも全て弾いた。
「なっ…どわぁ!」
が、三つの陰陽玉が同時にぶつかったその瞬間、拳が砕け散ってしまい、ボールがゴールの中に入って__「まだまだぁ!!!」
「一星!?」
ゴールに入りそうな陰陽玉を足で受け止めたのは、一星だった。一度は陰陽玉三つを弾き返したが、陰陽玉はまるで意志を持っているのか、一斉に一星に襲い掛かる。
「せいっ! はぁ!」
二つの陰陽玉を、まるでPKように弾く。が、最後の陰陽玉は一星の鳩尾に直撃し、一星は陰陽玉共々ゴールに入ってしまう。
「一星!」
「一星くん!」
幸いゴールネットがクッションとなった為、大きなけがはなかった。
明日人たちが駆け寄ると、一星はゴールネットの糸を支えに、なんとか立ち上がった。口からは血が零れており、スペクトルフォーメーションも、先ほどのシュートで解けてしまった。しかしそれでも一星は、前へと進んだ。
が、ここでホイッスル。試合がおわってしまったのだ。
『ここで試合終了ー! 得点は、同点です!』
惜しくも同点で終わってしまい、ラストプロテクターは勝てなかったという喪失感に苛まれる。
「…引き分けか」
「レン様、引き分けの際はあの者のことはどうしましょう」
レンたちは引き分けのことで、明日人のことを話しだした為、それに気づいた円堂たちが盾になる。
「引き分けは引き分けだ。しばらくは見逃そう」
しかし、レンたちは明日人を放って天へと帰ってしまった。
「…いってしまいました」
「そうだな…だが、今回はあのユースティティアと引き分けにまで持ち越せた。次はもっと特訓して、絶対に勝つぞ!!」
『おおー!』
引き分けとなり、沈んだ気持ちのラストプロテクターの士気を鼓舞したのは、円堂だった。早速特訓だーと言わんばかりに、円堂は早速ベンチで特訓の準備をしており、それは他の人も同じだった。
「…一星?」
明日人も同じように皆についていくも、一星がまだグラウンドに居るのを見かける。
「一星、もう行く…」
明日人が一星の肩を押したその直後、一星が咳き込んだときに口を押えた手にはなんと、真っ赤な血がついていたのだ。
「ゴホッ! ゴホゴホ!」
風邪以上の咳き込みを見せる一星。その度に血が吹き出る。
「い、一星!? だいじょ…」
明日人が一星を心配する声を上げると、その瞬間に一星はうつぶせで倒れてしまった!
「一星? 一星!?」
明日人が声をかけても、一星は咳き込んで血を出すだけだった。
「野坂! 一星が…!」
「な…一星くん!」
自分ではどうしていいかわからず、明日人は野坂に助けを求めた。
「どうしたんだ!?」
ベンチにいた円堂たちが駆け寄る。
「まずいな…夜舞! ここに病院は?」
「診療所ならありますよ豪炎寺先輩! 今案内します!」
こうして、一星は花伽羅村の診療所に運ばれた。
あと、もう一つだけ欠けている物があるんじゃない?
続く
キャラ説明
レン・ナオビ
『地上の秩序を正す直毘神の力を持っており、その受け売りが札。あとちなみに、天使だがあまり人に情はない。』
年齢 不詳
性別 男
一人称 私
二人称 呼び捨て 君
ポジション FW
二つ名は現在募集中。
(あと妄想CV.は河西健吾さんだよ!)
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