「そうか…そんなことがあったのか…」
試合が終わったその直後。フロイはベルナルドと電話で会話していた。
一星の交通事故のこと、一星の怪異のこと、ハーツアンロックのこと等を、フロイはベルナルドに話す。
「一星に申し訳ないな。私がもう少ししっかりしていれば…」
「そのことなんだけど、ヒカルはもう気にしていないって。俺は、今をちゃんと生きる! ってさ」
「…そうか。よかった」
ベルナルドが安心したような表情をしているのが、電話越しからもわかる。
「そういえばフロイ、最近無理してないか?」
「そうかな? 兄さんの気のせいだと思うよ?」
「そうか…? まぁ、お前が言うのならそうなのだろう。またな」
そう言って、名残惜しさにベルナルドが通話を切った。
「兄さん…変わったな…」
昔だったら、自分のせいだって、思っていたのに。と、兄の成長を喜ぶフロイ。
***
とその頃、明日人たちはバス内で驚いていた。なんと、国からの祝いとして、国のパーティに招待されたのだ。
「ええー!? パーティ!?」
「そうです♪ 今夜の国際海上で開かれる予定なので、今日は皆さん楽しみましょうね~」
そう趙金雲が呑気にいうが、明日人たちにとっては、国からのパーティというのはとても素晴らしい事なのだ。
「ルース! ルース! 僕たちもついにパーティに呼ばれたんだね!」
貧しい環境で育ったことのあるマリクは、パーティの参加にとても喜んでいた。
「そうだね、マリク」
***
皆が楽しみだな~としている間に、もう夜になり、明日人たちはバスでパーティ会場まで行くことになった。
会場には豪華なシャンデリア、豪華な食事と赤い絨毯が床に敷かれており、このようなパーティは二か月以来だと、明日人たちは胸を躍らせていた。
「今回はお祝いのパーティですので、タキシードも自由に着ていいですよ~♪」
更衣室に案内された明日人たちを待っていたのは、色とりどりのタキシードと、マントや仮面や帽子や手袋がかけられたハンガーラックたちだった。種類も豊富で、美的センスが試されるところだ。
「えっと、何でも着ていいの?」
「はい! 自分が気に入ったものを着るんですよ!」
その頃女子達は、更衣室で沢山のドレスを眺めていた。杏奈と茜は嬉しそうにお化粧したり、ドレスを選んだりと、どんなのにしようかと沢山悩んでいる。その頃夜舞は大谷に言われた通りに、ハンガーラックに掛けられた大量のドレスをさっと見る。
赤くてキラキラしたドレス。…は、見たことがなさ過ぎて逆に引ける。
フィッシュテールの施された水色と白のドレス。…は、何となく夜舞の目には留まらなかった。
それよりも夜舞の目を引いたのは、数多くあるハンガーラックの一番隅の、一番右側に掛けられた、黒無地の、質素なイブニングドレスだった。それ以外になんも装飾も無い。ドレスというより、ワンピースに近い。
「…これでいっか!」
早速それを手に取り、更衣室に向かおうとすると、大谷に声をかけられた。
「…夜舞ちゃん、それ着るの?」
「え? そうだけど」
「駄目ですよ! 女の子なら、もっと可愛くしなきゃ!」
「え? 着られればなんでもいいじゃん」
「男の子ですか!」
だって、実際夜舞はそうなのだ。カジュアルとか、フォーマルとか、全然知らないのだ。それも、昔絶対合わないであろう色の服を着て学校に通ったこともあるのだから。
「し、仕方ないよ! 私だって学校行く時に袴着るけど、それ全部で三着で、日に日に入れ替えながら来ているからね!?」
大谷は夜舞が袴を着て学校を行っていることを知り、少し羨ましそうになったが、すぐに意識を夜舞に移す。
「とにかく! 私達が手伝いますから、ちゃんとしたのに着替えましょう!」
「ちょ、ちょっとー!!」
夜舞の抗議も効かずに、大谷と杏奈、茜は夜舞をドレスアップしていく。
***
「夜舞たち遅いな~」
明日人はいつものタキシードをしていた。それ以外になんの装飾も無い。明日人らしいっちゃ明日人らしいが…
「仕方ないよ、女の子はおしゃれするのが大好きなんだからね」
黒いタキシード、黒いマント、黒い帽子に仮面と、野坂のそれはもはや怪盗のようだった。
「つーか、お前のそのセンスはなんだよ…まるで怪盗みてぇじゃねぇか…」
灰崎がそう言うと、遠くで西蔭が睨んだ気がした。
「そういう灰崎くんこそ、茜ちゃんにいいとこ見せたくてそんな衣装にしたのかな?」
野坂の言う通り、なんと灰崎は褐色の肌に不揃いな白いタキシード、それにマントと帽子、おまけにモノクルまでしていた。こっちの方がよっぽど怪盗っぽくみえるが…
「う、うるせぇ! 仕方なくこういう服になっただけだ!」
「そういうけど、もっと他にいいものはあったよ?」
「うるせぇ!」
その反応だと、茜にいいところを見せたかったのだろう。野坂にはバレバレだ。
『おまたせしました~!』
とその時、二階へ通じる階段から降りてきたのは、ドレスに着替えた大谷たちだ。
大谷は水色のスレンダーラインのドレス。茜は金色のティアラにワンショルダーの赤色のプリンセスラインのドレス。神門はオレンジ色のマーメイドドレスに黄色いブーケと、誰もが目を引くデザインのを着ていた。
しかし、明日人は大谷たちの近くに、夜舞が居ないことに気づいた。
「あれ? 夜舞は?」
「夜舞ちゃんですか? 夜舞ちゃんなら…」
と大谷が夜舞の居所を教えようとしたその時、今にもこけそうな夜舞の声が響いた。
「ごめんごめん! この靴踵が長いから歩き辛くて…っとととと! ほぎゃ!」
紫色のオフショルダーのAラインドレス、金色のヴェール、来る前よりも整ったさらさらの黒髪と、見た目は完璧だったのだが、夜舞がハイヒールとドレスに慣れないまま走ったせいで赤いカーペットへと転んでしまい、整ったドレスが形崩れてしまう。
「あいったたた…あ! 遅くなってごめん!」
すぐに立ち上がり、明日人たちの元へと走る。
「夜舞、大丈夫?」
「こっちは大丈夫だけど…タキシード姿の明日人くんって、なんだか新鮮だなぁ」
普段みないような夜舞の表情と衣装に、明日人は胸がドキドキした。
「え、そ、そうかな…夜舞も結構素敵だと思うよ?」
「誰と話しているんだ?」
明日人がなんとか言葉を紡いで話すも、そこに居たのは豪炎寺で、夜舞は居なかった。
明日人が慌てて周りを見てみると、そこにはワゴンの料理にがっついている夜舞の姿があった。
「や、夜舞~……」
思わず萎えてしまう明日人。青春とはこういうものである。
「お! クラリオじゃないか!」
円堂の声に明日人たちが振り向くと、そこには二か月前にスペイン代表のキャプテンだったクラリオ・オーヴァンがいたのだ。
「久しぶりだな。円堂」
「お前も呼ばれていたんだな!」
「お前達がユースティティアに買ったという報告があってな。祝いにきた」
「それは嬉しいな!」
俺達の勝利を祝ってくれるなんて! と円堂が笑う。
「あぁー! 貴方はあのスペイン代表の「無敵のジャイアント」のキャプテン、クラリオ・オーヴァンさん!? すごい! テレビで見た時よりも大きい!」
夜舞が大きいクラリオの周りを回りながら感激している。
「夜舞!」
「わっ! 何するの明日人くん!」
明日人にクラリオに失礼でしょと引っ張られ、夜舞は明日人に抗議する。
「夜舞、クラリオに失礼だよ!」
「だって目の前にFFIの選手が居たら誰だって気になるじゃん!」
俺もそうだけどー! と明日人は夜舞と言い争い(という名のじゃれあい)をしていた。
「円堂、その子は?」
夜舞の勢いに押されそうになったクラリオが、円堂にその子は誰かと夜舞を指さす。
「あぁ、夜舞っていうんだ。新しく入った仲間だ!」
夜舞か…とクラリオが夜舞を見る。
「あ! クラリオさん! サインください!」
クラリオが自分を見ていたことに気づいた夜舞が、どこからか紙とペンを取り出すと、クラリオにサインを書いて欲しいとお願いした。
「サインか…別にいいが…」
クラリオがペンを紙に滑らす。
「ありがとうございます! あとこれを二十枚下さい!」
***
「夜舞…」
明日人が夜舞に話しかける。
「なに? 明日人くん」
「さすがにサイン二十枚は失礼だとは思うよ…」
「う~ん、子供達が欲しがるかな~とは思ったんだけど…」
そう言われると確かにそうかも、と思った夜舞。
「じゃあ、謝らないと!」
明日人を連れてクラリオのところへ向かう夜舞。
一直線だが、悪いと感じたらすぐに謝りに行くところは、夜舞の長所だ。
「あのクラリオさん! さっきはごめんなさ」
「構わない。サインをもらったのは久しぶりだからな」
そういってクラリオはサイン二十枚分を渡して去って行ってしまった。
二人は顔を見合わせる。
「ええ!? クラリオさんってあんなふうなの!?」
「ちょっと意外だね…!」
「ん? クラリオはちょっと怖いだけでいつもはこんなふうだぞ?」
そう円堂がオレンジジュースを飲みながら言うも、明日人たちにはとても信じがたかった。
「でも、クラリオさんとお会い出来てよかったなー! 今度勝負したいくらい!」
「夜舞ー、いくらなんでもそれは欲ば…」
「構わないぞ?」
クラリオと勝負したいという夜舞に、明日人が欲張りだよーとからかおうとしたその時、クラリオが勝負してもいいと言ってきたのだ。
「ええ!? いいんですか!?」
夜舞が驚く。勝負したいって言ったのはそっちなのに。
「あぁ、まずはユニホームに着替えてくるといい。場所は会場の地下駐車場だ」
駐車場で勝負していいのかと明日人たちは思ったが、せっかく勝負が出来るんだしと、明日人たちは仕方なくドレスとタキシードからユニホームに着替え、こっそり地下駐車場に行くことにした。そこには既にジャージに着替えたクラリオがいた。
「私からボールを取れたら、お前達の勝ちだ。そして、お前達の後ろにあるゴールにボールを入れられたら、私の勝ちだ。必殺技はお互いになしだ」
明日人たちのゴールは、カン、ペットボトルと書かれたゴミ箱だ。
「いくぞ!」
「うおおおおおおおおおおおお!!」
早速明日人が先陣を切って走る。まずはスライディングをボールを取ろうとしたが、それはかわされてしまう。もう一度と前に進むも、フェイントで一気に追い抜かれてしまった。
「強い! 二か月前とは全然違う!」
「私も日々鍛えているのでな!」
ついに夜舞の番になった。
「行きますよ!」
夜舞が突っ込み、ディフェンス力を見せる。
「なるほど…中々ディフェンス力はいい方だな…」
思わず足が疲れてしまいそうだ。と言いながら、クラリオはそれを空中に上げる。
『今だ!』
明日人たちも同時に空を飛ぶ。
しかし、空高いボールには明日人も夜舞も届かず、クラリオだけがボールに触り、そのまま明日人たちのゴールにボールを入れた。
「くっそ~! 負けた~!」
「こ、これが海外…」
明日人たちはその場に座って疲れている。
「まだまだ修行が足りないようだな。ラストプロテクターよ」
「む~次は絶対に勝つんだから!」
悔しそうにクラリオに夜舞が言う。
「ははは、さて、腹ごしらえでもしようではないか」
「え?」
明日人たちがパーティ会場に戻ると、テーブルには沢山の料理がビィッフェ式で並んでいた。
「おお…」
「おお~!!」
明日人が驚いている中、夜舞は目を輝かせている。
「さて、ここらで大食い勝負でもしようではないか」
クラリオが椅子に座り、係員に食べ物を持ってこさせる。
明日人たちは顔を見合わせたあと、『やる!』と同時に宣言した。
「それでは、大食い対決スタート!」
事情を知り、ノリノリで実況は任せてくださいと言った大谷のホイッスルで、大食い対決がスタートした。
「明日人くんは普段いっぱい食べているからいいものの、夜舞ちゃんはどうでしょうか!」
「夜舞さんは、あまり大食いってイメージがないですね…」
大谷と杏奈が大食い対決の実況と解説をしている中、円堂達はいつの間にかその観客になっていた。
「最初の料理はカレーです!」
「カレーは明日人くんの好物ですから、得意そうですね」
確かにカレーは明日人の大好物であり、最初はガッツガッツと十皿くらい食べていたものの…
「おっとぉ! ここで明日人くんリタイアか!? さすがにカレー五十皿はきつかったか!?」
「ご、五十皿!?」
さすがに五十皿は明日人でも無理だろう。
「頑張れー! 明日人ー!!」
「負けないで下さーい!!」
円堂達が明日人を応援するも、さすがに無理だった。
しかし夜舞の方は…
「夜舞ちゃん速い速い! まるでカレーを飲み物の如く! そしてクラリオさんと同着で完食しました!」
クラリオと夜舞はまだまだ入りそうな顔だったが、明日人はもう無理そうだ。
「お次はラーメン三十皿! おーっと! 夜舞ちゃん! ラーメンもまるで飲み物をすするかのようにどんどん口に入っていきます! 夜舞ちゃんにとっては、カレーもラーメンも飲み物かー!?」
実況大谷の声が響く中、夜舞たちは大食いに熱心していた。
「中々やるな…」
「貴方こそ!」
同時に完食した。
「お次は鶏肉一式! からあげに焼き鳥にローストビーフまでそろってます!! おっとおっとぉ! 夜舞ちゃんもクラリオさんも、肉にがっついて食べるその姿は、まるで熊だ
ーー!!」
その大食い対決に、円堂だけでなく、世界中のお偉いさんが夢中になっていた。
「な、なんと…両者、全くの同点です! 引き分けです!」
「中々やるな」
「そっちこそ!」
(大食い)で二人の間に友情が生まれるが、まだまだ二人は食べられそうだ。
「三人ともよく頑張ったな!」
「も、もう…食べられません…」
明日人はもうとっくにへばってしまっている。
「じゃあ、あとは皆でサッカーするか!」
『賛成ー!!!』
マントや帽子、上着などを脱いで、明日人たちはクラリオと沢山サッカーをした。
***
「じゃあ、ここでお別れだな」
パーティから翌日。夜舞を花伽羅村まで迎え、明日人たちは別れの挨拶を交わしていた。
「短い間だったけど、またいつでも来てね!」
「じゃあな! 夜舞!」
そう手を振りあい、明日人たちが村を出ようとしたその時、天から矢が降ってきた!
「わわっ! 何!?」
夜舞がびっくりする。それもそうだろう、これから別れるという時に。明日人が矢を拾い、紙を見てみると。
『私達はまだ終わっていない。天に逆らったお前達には、いつしか天罰が下るだろう。フォルセティ』
そこには正義の神フォルセティからの手紙が入ってあった。
「ええ!? フォルセティから!?」
「終わってないって、どういうことなんだろう…」
「だがこれではっきりした。この戦いは、まだ終わらない」
鬼道の言う通り、まだ戦いは終わらないのだ。
つまり、夜舞はまだまだこれからもラストプロテクターの一員として戦うことになったのだ。
しかし、急に花伽羅村と別れるというのも村の人達には申し訳が立たず、翌日までに村の人達と話してから別れることにした。
「じゃあ、行ってきます!」
その翌朝、夜舞は財布や貴重品などを纏め、村から東京に出発する所だった。
「夜舞、これを持っていきな」
魚屋のおっちゃんが夜舞に渡したのは、カメラだった。それも、今ではあまり使わない大きいデジタルカメラに、SDカードがいっぱい入っている。
「外の世界の写真、いっぱい取ってこいよ!」
「はい!」
夜舞はカメラを首に下げ、いつでも写真が撮れるようにした。
「おねーちゃん! 外でも元気でねー!」
「うん! いい子にしてるんだよー!」
そう子供たちに言うと、夜舞は村の方に手を振りながらトンネルの中に入った。
トンネルを越え、森の中に入る。
「おまたせ!」
「おう! じゃあ出発だ!」
明日人たちと合流し、やっと夜舞は正式にラストプロテクターの一員となった。
早速どこかの練習所に行き、練習したいところだった___が。
「今日は平和なので観光しましょー!」
趙金雲の命令により、今日はオフになってしまった。
***
「おおー! ここが浅草寺か~…」
オフになり、東京を観光していた夜舞は、近くで浅草寺を見ると一直線に本堂の方に走り、その光景をカメラに収める。
「凄いすごーい!」
カシャカシャと取っていると、係員に声をかけられた。
「すみません、そこフラッシュ禁止なんですよ」
「あ、すみません!」
フラッシュを切るの忘れてたよ…と夜舞はカメラを操作してフラッシュを解除した。
その後はお参りし、人形焼きとたい焼き、その他お土産に狐の面を買うと、意気揚々に次の場所に向かおうとしたのだが…
「…どうしよう…道に迷っちゃった…」
しかしここは人の多い浅草寺。参道は人がごった返しており、おまけに道も多い。そのため夜舞は浅草の屋台が並ぶ参道で、駅はどこかと迷ってしまっていた。
「せっかく美味しいものをいっぱい買ったのに…これじゃ冷めちゃう…わっ!」
前に進もうとしたその時、修学旅行生と観光客であろう大勢の対向者たちに思わず腕が当たってしまい、人形焼きとたい焼きとお土産が入った袋は中身が飛び散り、あと片手に持っていたグルメ本も落としてしまう。大綱の対向者たちに謝り、落としたものを拾おうとするも、夜舞は参拝者たちの人混みに巻き込まれ、落としたものから遠さがってしまう。
「(わわっ! どうしよう…)」
なんとか人混みから抜けられたはいいが、長い事流された為に、落とした場所までは遠い。おまけに人混みはまだ続いている。
「よ、よぉし…」
「ちょっといいかな?」
落とした物達を拾うため、夜舞が意を決して人混みの中に入ろうとしたその時、後ろから声をかけられた。振り向くと、そこにはオレンジ色の表紙に「夜舞月夜」と夜舞の名前が書かれたグルメホント、人形焼きとたい焼きとお土産の袋を持った二十歳くらいの男性が居た男性は細身なのかスタイルも良く、中袖のワイシャツと黒いズボンを履いているが、黒くて長い髪は癖毛でいっぱいで、おまけにサングラスをしている。
「これ、落ちていたよ」
「あ、ありがとうございます! よかったら、人形焼きを…」
「構わないよ、私が好きでやったことだ」
自分のグルメホント袋を見て、すぐにその人が自分のものを拾ってくれた人だと夜舞は察し、お礼に男性に人形焼きを渡そうとするも、男性はそれを優しく断り、拾ったものを夜舞に差し出した。
「そういえば…そのジャージを見る限りだと、あのユースティティアと戦っているラストプロテクターだね」
「は、はい! 私はそのラストプロテクターの、夜舞」
「月夜というんだね」
「え!?」
夜舞が驚くと、男性はすぐに訂正した。
「あぁ、君の持っているグルメ本に書いてあったからね」
「あ…そうでした…」
立ち話もなんだし、と男性は夜舞を長椅子へと誘うと、夜舞は不知火から見て右隣の席に座る。
「ところで、貴方の名前ってなんていうんですか?」
「あぁ、言ってなかったね。私は不知火一誠。蜃気楼の「不知火」に、「一」つの「誠」と書いて、不知火一誠なんだ」
「不知火さん…素敵な名前なんですね!!」
夜舞が不知火に笑顔を見せる。
「あと、これは蛇足かもしれないが…実は私は、『ミラージュ社団法人』という非営利団体の会長をしているんだ」
「え…? ミラージュ社団法人?」
「え…知らないのかい?」
夜舞は花伽羅村から来た為、ミラージュ社団法人という団体は知らない。
「すみません不知火さん、私田舎から来たもので、知らないんです」
「そうか、田舎なら仕方ないよ。ミラージュ社団法人というのは、いわゆるカウンセリング・孤児院を運営している社団法人なんだ。スローガンは「世界中の人々に、幸せという救いの手を」というのを掲げていてな、そこで私はそのスローガンの通りに恵まれない子供達を保護したり、社会復帰がしたくても出来ない大人たちにチャンスを与えているんだ。私は、純粋な子供達が大好きでね、私はその子供達に未来を見させたいんだ。希望という未来を…」
「は、はい…」
「あぁ、長くなってしまったね。すまない、話すと長くなってしまうのは私の癖でな…そのせいでいつも部下からは注意されているんだ」
「構いませんよ! 話すのは大好きですし、私も子供たちが大好きなんです!」
どうやら不知火と夜舞は気が合うらしい。
「そうなんだ。優しいんだね、君は」
「そうですか…?」
「その優しさを、いつまでも大事にするといい」
そう不知火が言ったその直後、遠くから明日人の声が聞こえた。
「明日人くん!」
「夜舞! こんなところに居たんだな!」
「明日人くんこそ、ここで何をしているの?」
「実は、一星と観光していたんだ! もうすぐ来るとは思うけど…」
そう明日人が言うと、本当に明日人の後ろで一星が走ってくると同時に、声が聞こえた。
「明日人くん! 勝手に動いたら駄目じゃないですか!」
一星が明日人を叱っている。明日人は今でもユースティティアに狙われている身でもある為、気を引き締めなければすぐに捕まってしまうだろう。
「ごめん一星、目の前に夜舞が居たからさ…」
「理由になりませんよ! 全く…ところで夜舞さんは、ここで何をしていたんですか?」
「私? 私なら今不知火さんと話してたよ。紹介するね…」
夜舞が不知火を二人に紹介しようと不知火の方を向くも、そこに不知火の姿はなく、空席のベンチだけが夜舞の目に写る。
「あれ? 不知火さん?」
「夜舞さん? 最初から貴方だけでしたけど…?」
そうでしたよね? と明日人にも確認をすると、明日人も夜舞だけだったと言っていた。一瞬夜舞は今まで幽霊と話していたのかと思ったが、そんなことはないよねと心の中で秘めた。
「あ、そうだ! 写真見る? いっぱい取ったんだー!」
「本当ですね!」
***
「茜? ここに呼び出してなんだ?」
灰崎は東京のこじんまりとした公園で、茜に呼び出されていた。呼び出した茜は何か緊張しているようだが、それに灰崎は気づかない。
「あのね凌兵。これあげる!」
茜が灰崎に差し出したのは、赤色の手編みマフラーだ。
「私のことを助けようとしてくれたでしょ? だからこれはそのお礼!」
これから寒くなるしね! と茜は言う。正確には夜舞が異変に気づいて、それを対処したのだが、それでも灰崎が助けたということになっている。夜舞が恐らく気を遣って口を合わせたのだろう。
一方灰崎は、茜が自分の為にと時間を作って編んでくれたのかと、心底喜んでいた。
「茜、ありがとな」
マフラーをすぐに首に巻き、手で首とマフラーとの間に隙間を作ると、体が温まる感覚がした。
「えへへ~……へっくち!」
茜がマフラーを撒く灰崎を見ていると、突然冷たい風が二人を通りぬけ、その寒さに茜がくしゃみをしたのを、灰崎は見逃さなかった。
「ごめん凌兵、ちょっと寒くて…凌兵?」
茜が顔を上げたその直後、茜の制服の肩にちょっと大きいジャージがかけられた。
「これ着とけ、茜」
「でも凌兵、これじゃ凌兵が風邪引いちゃうよ?」
「俺はいい。これを貰ったからな」
マフラーを指さしながら、茜にジャージを着せる。
しかしそんな青春の一ページを隠れて見ていた者が…
「おー!」
明日人たちだ。
夜舞と一星は口を開けておーと言っているのに対し、明日人は何やらにやにやして灰崎たちを見ていた。
その光景を、夜舞は写真にこっそり収めるも、その時のシャッター音で気づかれてしまった。
「あっ! てめぇら!」
「やば!」
「む~せっかくの写真が…」
「撮んな夜舞」
夜舞が灰崎に先ほど取った写真を消されてしょげている中、明日人と一星は頭にたんこぶを作らされていた。なお、今明日人たちは、稲妻総合病院に向かって歩いていた。夜舞を紹介する為だ。
「そういえば灰崎くん、そのマフラー茜さんが編んだんですよね。凄く上手ですね」
「そうなんだー、大谷さんに教えてもらって作ったの!」
大谷がこんなに上手い編み方を知っていたということを知り、明日人たちは驚く。あんな元気はつらつガールがそんな細かくて女の子らしいことを…と。
「ちょっと意外…」
「そうですね…」
「何か言いました?」
明日人と一星が呟くと、横から大谷が話しかけてきた。
「わぁ! 大谷さん!?」
「私だってこれくらい出来ますよ!」
そういうも、隣に居た杏奈は、本当は本で覚えたんですよね…と思った。
「お? 早速灰崎くんに渡したんですね~いや~お似合いですこと♪」
大谷が灰崎の巻いているマフラーを見てそう茜を茶化す。
「ち、違いますよ! これはその…お礼ですから!」
「またまた~♪」
取り残されている夜舞たちは、楽しそうだな…と思った。
「ところで大谷さんたちはここで何を?」
「あ、忘れてました! ここで円堂くんたちと合流するんでした!」
「忘れないでください」
一星の問いに、大谷は本来の目的を思い出す。
「合流? 別行動でもしているの?」
「はい! 買い出しをしていたんです! 私達は、日用品。円堂くんたちは食料などと!」
「確かに向こうにスーパーがあるね」
明日人が訪ねると、大谷は買い出しをしていたと言った。それを聞いて灰崎は確かにスーパーがここにあんな、と近くのスーパーを見た。
「おーい! 大谷ー!」
「あ、円堂くん!」
スーパーから出てきたのは、円堂の他に豪炎寺、鬼道、吹雪で、両手には紙袋にレジ袋が両手で担いでいた。
「円堂さん! 俺持ちますよ!?」
「あぁ大丈夫さ、これくらい! どんな状況もトレーニングになるからな!」
明日人が大量に物を持っている円堂たちを見て、自分達も持つと言うが、円堂はそれを断り、どんなところもトレーニングになると明日人にアドバイスした。
「だが円堂、それは持ち過ぎだ。稲森に持って貰え」
確かに円堂は両手に紙袋三つ、肘裏にはビニール袋と、どう考えても持ち過ぎである。
「灰崎くんたちも少し持たないかい? 僕たちだけじゃ少し重くて…」
「わかりました吹雪先輩!」
それぞれが一つずつ袋を持つことになり、明日人たちは稲妻総合病院へと足を進める。「あ、ヒロト! タツヤ! 砂木沼さん!」
向こうで紙袋を持ったヒロトたちを見かけた為、明日人が声をかける。
「あぁ明日人くん」
「つーか大人数すぎるだろ…」
ヒロトが明日人たちを見てそう呟く。ヒロトにはこう大人数で動くのは慣れていないためだからだろうか。
「ヒロトくんたちも何か買い物ですか?」
「いや、俺らはこいつらに連れられてきた」
「お日さま園に挨拶をしにきたんだ」
「そしたらこんなに貰ってしまってな」
砂木沼が紙袋を見せると、そこにはお菓子や園の子たちが作ったであろう工作物が大量に入っていた。一方でヒロトは何も持っていない。彼はお日さま園の子ではないからだ。
「タツヤたちも一緒に行こうぜ! これから稲妻総合病院に行くんだ!」
「じゃあ、ご一緒するね」
タツヤたちと合流し、もはや大賑わいとなっていた。
途中で東京観光していた不動や坂野上とも合流したが、しかしその中で、野坂と西蔭には一切会えていない。
「おかしいね…もう合流時間は過ぎているのに…」
そうタツヤが呟くと、病院内から野坂たちが出てきた。
「どうしたんだい? 皆こんなところで」
「野坂!?」
「どこに行っていたんですか野坂さん!」
円堂と一星が問い詰めると、野坂はこう言った。
「東京で見る物は見終わったので、西蔭と病院の食堂で食事していたんです」
ほら、と病院の陰で気持ち悪そうにしている西蔭が。
とにかく、これでラストプロテクター全員が揃った。
「ええー!?」
アフロディたちが居る病室に入るなり、夜舞が驚いた。
「豪炎寺先輩に、御兄弟っていたんですね!!」
それは小僧丸のことだろうか。しかし彼は豪炎寺の兄弟ではない。
「いや、彼は小僧丸サスケで、俺の兄弟じゃない」
妹はいるけどな。と豪炎寺が小僧丸の紹介をしながらそういう。
「そ、そうなんですか…」
夜舞がそう驚く。確かにそっくりだ。
「おおー! アフロディお前、怪我治ったんだな!」
「うん、まだサッカーは出来ないけど、歩けるようにはなったよ」
これからは情報係として、チームの皆を支えていくからね。とアフロディは自分の役割を明確にする。
「おっと、紹介してなかったな。この子は夜舞月夜だ! 皆よろしくな!」
「初めまして、私は夜舞月夜! よろしくね!」
夜舞が自己紹介を終えると、病院内に拍手が巻き起こった。
「チームの第三者として、よろしくおねがいします!」
「だ、第三者!?」
剛陣が驚く。それもそうだろう、第三者の件は明日人たちにしか知らないのだから。
「あれ…君は知らなかったの? てっきりイナズマジャパン全員に知れ渡っているのかと…」
趙金雲は明日人たちにしか話していないのだ。第三者のことは。
「お、お前俺達のことを知っているのか?」
「うん! イナズマジャパンのことは知ってるよ! 確か君は…剛陣鉄之助先輩ですね! ファイアレモネード・ライジングの! あれ村の子供達が真似してますよー!」
剛陣は夜舞に先輩と呼ばれたことと、また子供達が自分の技の真似っ子をしているのを聞いて、少し顔を赤らめている。
「そ、そうか…? そうだよな! 俺がその剛陣鉄之助だ!」
「おおー!」
剛陣が大胆にポーズを決め、それを夜舞が一人拍手をする。明日人たちはその光景に苦笑いをしている。
「おやぁ? 皆さんもう集まっていますね」
病室内に趙金雲が現れる。
「じゃあ少し時間をあげるので、病院内の皆さんとお話ししていてくださーい!」
そう趙金雲は言うと、すぐに病室名から出る。その直後、病室内は話声で包まれた。
「灰崎」
「なんだよ水神矢」
「そのマフラー、宮野さんのか?」
すぐにマフラーを作った人を言われ、灰崎は驚きつつ顔を少し赤らめた。
「な、なんでわかったんだよ…」
「宮野さんとお前は幼馴染みだろ?」
「だからってそれがこのマフラーを茜が編んだという理由にはならねぇだろ」
「そうかな」
水神矢は楽しそうだ。
***
「みなさ~ん、ここが、今日から私達が使うスポーツセンタでーす!」
バスの窓から見えるのは、最近建てられた浅草寺前スポーツセンターだ。寺からは百Mくらい離れてはいるものの、仏のご加護がありそうだ。
早速バスから降りて中を確認してみると、中は最近建てられたというのもあって結構綺麗だった。サッカーは国が正式に禁止としている為、グラウンドは内室にあり、特訓に必要な器具も全て揃っていた。おまけに選手たちが使う個室のベッドもキッチンも全てが新しく、明日人たちは楽しんいた。
やはりユースティティアの天使との戦いの最中であっても、やはり彼らはまだ中学生。目新しい事には目を輝かせている。
一通り見終え、明日人たちはミーティングルームに集まった。大谷たちマネージャーは、先にグラウンドで特訓の準備をしているとのこと。
「皆さーん! これから寒くなるので、新しいユニホームを作りましたよー!」
李子分がシーツを取ると、そこにはいつもの青いユニホームの下に黒いヒートテック、そしてタイツが備わったユニホームがあった。早速明日人たちは着替えると、体が温まる感覚がした。
しかし、ズボンの丈が以前より短い気もするが。
「今後の予定の前に、稲森くんのお父さんからお話がありまーす」
自分の父親から話があるという報告を趙金雲からされ、明日人はなんだろうとその胸を高鳴らせていた。
「実はオリオン財団の技術力で、一星くんのスペクトルフォーメーション、そしてハーツアンロックの性質を調べたんだが、実はこの二つには『人間が次の段階に進むための第一歩』だったことが判明したんだ」
「人が、次の段階に進むための一歩…」
明日人が琢磨からの話を真剣に聞く。確か理科の授業で人は猿から人間に進化したと書かれていた。その次の進化が、一星のスペクトルフォーメーションとハーツアンロックなのだろうか。
「これはユースティティアの天使と対等に戦える手段だと知ったベルナルド様…いや、理事長は、あるものを作ったんだ」
それがこれだ。と琢磨がアシスタントのマリクに大の上にあるシーツを取るように促すと、マリクはそのシーツを取った。そこには、スマホとほぼ同じ形状をしている端末が置かれていた。
もっと近くで見てみたいと、明日人たちが駆け寄った。
「『スペクトルハーツスカウター』。世界に一つしかないスカウターだ。まずは…一星くんに試してもらおうかな」
「はい!」
一星が最初にやることとなり、一星はドキドキしながらも返事すると、端末の近くにある椅子に深く腰掛ける。そして琢磨が一星をスカウターの画面越しに撮ると。スカウターの画面には緑の画面が写り、そこには適合率や怪異、ハーツアンロックなどの詳細が描かれていた。
「『70%』…これって、なんのパーセントなんですか? 明日人のお父さん」
「それは適合率の数値だな。他にも怪異、ハーツアンロックの系統などもあるよ」
例えば、一星くんの怪異は蠍で、ハーツアンロックの系統は速攻。モデルはギリシャ神話の英雄『ポリュデウケース』だ。と、琢磨は言う。
「ハーツアンロックで適合率が上がっている、って私のおばあちゃんが言っていたように、本当に適合率が上がっているんだね…」
さすがオリオン財団。と夜舞は思う。
「一度、全員取ってみようか」
と、明日人たちはスカウターで全員取ることになった。
「円堂さん凄いですね! 適合率60%だなんて!」
「ははは、でも特訓しなきゃ適合率あげられないって夜舞のおばあちゃんが言ってたぞ。それに、坂野上の適合率も中々じゃないか」
「西蔭は…少し低めだね」
「野坂さんは、普通くらいですね」
全員がスカウターで取った時に印刷した統計を見ながら、それぞれ感想を言っている。
「灰崎、お前はどうだ」
そう鬼道が灰崎の統計を横から見ると、鬼道は心の中で驚いた。
「鬼道…テメェはいいよな…俺、適合率1%だぞ!?」
「それは…残念だね。灰崎くん」
なんと灰崎は適合率1%で、対して鬼道は普通くらいだ。その灰崎の適合率は他にも類を見ないらしく、夜舞が残念だというしかなかった。
「明日人くんは、どうだった?」
一星が明日人の統計を確認する。
「あぁ一星、実は俺、中に怪異が居てさ…」
『ええ!?』
一星が驚くと、円堂たちが一斉に一星の方を向いた。
「『狼』だって。なんで怪異が俺の中に…」
そう明日人が言うと、ヒロトが思い出す。明日人の中に白い何かが胸の中に入っていったのを。
「おい明日人。それってもしかして、お前がエレンっていう奴に金縛りにあったときにお前を解放した怪異じゃねぇのか? おいどうなんだよ夜舞」
「私に言われてもそんな簡単にはわからないけど、一理はあるかも。怪異が中に入ったことで色んなことが解決したって書いてあったし」
ヒロトが明日人に確認をしたあとに、夜舞に怪異のことを聞くと、夜舞は一理あるとヒロトに返す。
「大変です! 大変ですー!!」
するとその時、グラウンドで練習の準備をしていた大谷が、切羽詰まった表情でミーティングルームの中に入る。
「どうしたんだ大谷!」
「円堂くん! 実は、実はグラウンドに、大量の猫が!」
「猫!?」
犬ならまだしも、猫だって!? と明日人たちは大谷たちの言う非常事態に仰天する。
このままでは練習が出来ないと、明日人たちはグラウンドに走る。
『ああー!!』
室内グラウンドには、そこには大量の猫達がグラウンドの器具などで遊んでおり、その数はざっと数えて数十匹くらい居そうだ。
「こ、こんなにたくさんの猫は始めて見たな…」」
「可愛いし、このままにしてもいいけど、僕たちが困るから猫達には出てってもらわないとね!」
吹雪が一匹の猫に向かって走ると、その猫は吹雪の速さに逃げ遅れ。吹雪に抱きかかえられてしまう。
「ほら、皆も猫を捕まえて! 練習が始められなくていいのかい!?」
吹雪の大声に、明日人たちは猫の可愛さから我に返り、急いで猫達を捕まえにいく。
「捕まえ…いたぁ!」
明日人が猫を抱きかかえるも、猫に顔を引っ掛かれ、その隙に猫が逃げてしまう。
「怖くないからな…って待て!」
風丸がしゃがみながら猫に近づくも、猫は逃げてしまい、風丸は急いで立って追いかける。
「いってぇ…って野坂ァ! 餌で釣ってんじゃねぇ!」
灰崎がやっと一匹の猫を大人しくしたものの、野坂は餌で数匹の猫を捕まえていた為、灰崎はそれを見て何してんだと怒る。
「な、なんとか片付いたね…」
「うん…だけどこっちは傷だらけだよ…」
夜舞が片付いたというも、明日人たちは引っ掛かれた傷でいっぱいだった。
「まずは消毒だね」
と、誰よりも一番傷の少ない吹雪が皆に言う。
その頃夜舞は、皆が猫に必死になっているところを写真に収めればよかったな…と思っていた。
***
妖精のような桃色の翼を背中から生やした天使が、切羽詰まった表情で教会の中廊下を走っていた。
「レンお兄様!」
レンは移動式ベットに横になっており、今は天界の治療室に運ばれている。
天使がレンを追いかけるも、レンはそのまま治療室に運ばれ、治療中のランプが赤く光る。
「レンお兄様…」
天使はレンの妹か弟なのだろうか。レンのことを心配している。
すると、ペンダントが光る。エレンからの電話だ。
「『メリー』? お父様が呼んでいるわ。忘れないうちに行ってきてね」
「はーい! エレンお姉さま!」
天使が本堂まで走り、本堂に居るフォルセティに会いに行った。
「お父様、今日はどんな用事なの?」
「メリーか、今日は忘れずに来たんだな」
「えへへ~メリーえらい?」
「あぁ、偉いぞ」
メリーという天使は忘れやすいのだろうか。
「話を戻そう、メリー。お前はレンの代わりにラストプロテクターという人間側対抗軍と戦うのだ」
「えっとつまり、私がそのレンお兄様の代わりってこと?」
お兄様ったら適合率が低いのに、いっつも無理するんだから~と、メリーはフォルセティに言う。
「あぁ、お前の為のチームも用意した」
教会内に、十人の天使たちが現れる。名はそれぞれ花の名前を表している。
「人々を良き方向へと導く為、頼んだぞ」
「はーい! お父様!」
***
夕日の赤い空が街中を包んでいく中、夜舞は街の本屋近くのショーケースの前で待っていた。
「明日人くん、早く帰らないと皆が心配するよ」
自身のお菓子やお土産を詰めたマイバックをかけ、明日人を待つ。
「ごめん夜舞、もう少し待って!」
明日人の右手に持っているのは、サッカー関連の雑誌と、大人の女性の表紙が書かれた雑誌。サッカー雑誌は明日人が欲していたものなのだろうが、大人の女性の本を持っているのはなぜか。
「監督の奴、欲しい物があれば自分で買ってこいよ…」
「あはは、でもヒロト、俺の探し物手伝ってくれてありがとう」
夜舞が気晴らしにと明日人を買い出しに誘ったその時に、趙金雲がついでにと自分がほしいものまで行ってきたその時に偶然ヒロトがちょうど本屋に用事があるということで、ヒロトと夜舞とで買い出しに行くことになり、その後に本屋に寄っているのであった。
「おい明日人、これも買っとけ」
「ん? 何それ…って、『子供の為の誘拐時の対処法~大人も呼んでね~』? 何これ」
ヒロトが近くの本棚から明日人に差し出したのは、いかにも幼児でも大人でも読めるような万人向けに作られた誘拐の本だった。
「一応狙われてるってことなら、誘拐もありえるだろ?」
とヒロトが明日人を茶化す。
「ム、確かに俺は狙われているけど、誘拐のことなら俺も知ってるよ!」
「あいつらのことだし、何かしてくるだろ。それにお前、騙され易そうな顔してるしな」「な、なんだよそれ~!」
頬を膨らませながらヒロトに抗議するも跳ね返され、先ほどの本を持たされてしまった。
「どうかしたの? 明日人くん」
中で声がしたため、何があったのかと心配しに来た夜舞が本屋の中に入ってくる。
「夜舞! 実はヒロトがこういう本を渡してきて、「お前って騙され易そうな顔してるよな」って言ってきたんだよ!」
「そ、それは気の毒…だけど、本当に誘拐には気を付けた方がいいよ? 明日人くん」
「や、夜舞まで…」
明日人は夜舞動揺、誘拐されたことはないとはいえ、誘拐は怖い物だ。だからこの時の為に、誘拐のことを学んだ方がいいのだろう。
「あ、それはそうと明日人くん…」
何かを思い出したかのように、夜舞は明日人の右手に持っている大人の女性が書かれた本を指さす。
「それ、エロ本だよ?」
***
「酷いよ監督! って言いたいよ今すぐ!」
「あはは…帰ってからね」
危うく未成年なのにエロ本を買ってしまいそうだったよ! と明日人は怒りながら夜舞に言う。
「ヒロトくん?」
いきなりしょうめんを 見据えたヒロトに、夜舞と明日人は首をかしげ、ヒロトと同じように正面を見ると、そこには黒服の男たちが三人居た。
まさかユースティティア…!? と夜舞と明日人は身構えたが、予想だにしていたなかった返答に二人は出鼻をくじかれる。
「吉良ヒロトだな」
「え…?」
その瞬間、夜舞と明日人はヒロトに腕を掴まれ、男たちがいつ道の反対側を走らされる。
「え!? ヒロト!?」
「ヒロトくん!?」
曲がり角があれば曲がり、狭い道があれば広い道へと、ヒロトは走っていく。
「ヒロトくん! あの大人たち何!?」
「……」
自分達より前に走るヒロトに、あの人たちは何と夜舞は聞くも、一言も帰ってこない。
まるで、何かに追われているかのように。そんなヒロトがやっと立ち止まったのは、宿所のロビーで、二人はその場に膝着いた。
「ヒロト…あの人誰?」
「…俺を誘拐しようとしてきたんだよ」
「え!?」
旅は続くよ
どこまでも。
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明日人とエレン
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不知火と月夜
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エレンとレン
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エレンとメリー
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エレンとミラ
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不知火とベルナルド
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明日人と月夜