「ヒロトくん、あの人たちは誰なの? なんだか…ヒロトくんのこと狙っていたみたいだけど…」
夜舞がヒロトに、あの黒服の男たちは何なのかと問い詰める。
「お前には関係ねぇよ」
「関係なくなんかないよ」
「いいか夜舞、世の中には知っちゃいけねぇことが…」
「でも知った方がいいとは思う」
ヒロトは夜舞を跳ね返すも、中々引き下がらない夜舞にヒロトは嫌そうに舌打ちすると、あの男たちのことを明日人たちに話し出す。
「俺を誘拐しようとしてきたんだよ、多分身代金目当てだとは思うが、俺なんかの為に出す金なんぞ親父にはねぇのになぁ」
ヒロトの自虐を耳にしたことがない夜舞は、家族は自分を助けたりなんかしない(夜舞の解釈だが)というヒロトに、そんなことないよと言った。
「そうかァ? こんなバカ息子、さっさと捨てちまいてぇだろ?」
ま、愛されているお前には解んねぇだろうな。と夜舞に言い捨て、ヒロトは自分の荷物を持って自室へと戻っていってしまった。
「ねぇ明日人くん、ヒロトくんのアレ…どういう意味なの?」
ヒロトの自虐に疑問を持った夜舞が、明日人に問いかける。
「俺にも良く分からなくて…タツヤに聞いてみようよ」
明日人がそう言い、明日人たちはタツヤのところまで行くことにした。
タツヤは部屋で課題に取り組んでおり、課題中にも関わらず明日人たちの話を聞いてくれた。
「そうか…ヒロトにそういうことが…」
タツヤに先ほどのことを話すと、タツヤはすぐに納得した顔をした。
「夜舞さん。実はヒロトは、吉良財閥の御曹司…って言ってもわからないよね、まぁ、夜舞さんみたいなお金持ちの息子だと考えてくれ。そのせいか、さっきのことみたいに誘拐や事件に巻き込まれることも多いんだ」
ヒロトはあんなこと言ってたけど、誘拐されるのは嫌だから勿論逃げているけど…とタツヤはヒロトの発言に何かしら付け加えた。
「ねぇ、タツヤくん。ヒロトくんって…家族に愛されていないの? もし答えたくないなら…」
そう言わなくてもいいと夜舞が言うも、タツヤは「これは言った方がいいだろう」と言った為、タツヤはヒロトの家庭事情についてを話すことになった。
「ヒロトの家は、お金持ちの家なんだけど、それ故に孤独だったんだ。ヒロトの父親は会長で忙しいのと同時に、俺たちみたいな孤児を預ける孤児院も運営しているから、ヒロトは自分なんかよりも俺たちの方に関心があるように思われていたみたいで…ヒロトは、自分の父親に愛されていないって思っているけど、実は父さんもヒロトのことを愛しているんだ」
ヒロトも、それには気づいているんだけど……
「子供たちは皆可愛いけど、だからって自分の子供の世話をおろそかにしていたら、それこそ本末転倒だよ!」
保護者としてみっともない! と子供を育てたことのある夜舞がそういう。
「なんでなのかな…自分の子供なのに…」
明日人もヒロトの過去は初めて知ったものの、家族に愛されない気持ちは痛いほどわかる。彼は父親に会うまで、独りぼっちだったのだから。
「家庭の事情は僕たち子供には難しいからね…」
だから今は、ユースティティアの天使達を倒すことに専念しよう。とタツヤは二人に言う。
その夜、ヒロトは自室のベッドに寝転がっていた。同室の灰崎はまだトレーニングルームで折谷と話していた為、しばらくは帰ってこなさそうだ。と、ヒロトはしばらくここを自分の部屋だと思って隙に使うことにした。スマホのイヤホンを抜いて大音量で音楽を聴く。あとは、サッカー雑誌を読みふける。
さすがにこの曲にも飽きてきたな、とヒロトがスマホを触り、音楽を止めて少し目を瞑ることにした。ヒロトの寝息が目立ち始めた頃、締めていた筈の窓が開かれ、外から白い蛇が入ってくる。夜に音楽を流すと蛇が来るよという逸話があるが、勿論ヒロトは先ほど音楽を止め、スマホをスリープにした。
白蛇がしばらくヒロトを見たかと思えば、その体をヒロトの真っ白な首筋に巻きつける。
「___!?」
ヒロトが気づいたのは、蛇が自分の首を絞め始めたその時だった。目が覚めたヒロトは、しばらくの間首を絞め続ける蛇と格闘し、なんとか首から蛇を引き剥がそうとした。ヒロトがいい加減にしやがれと蛇の体に爪を立てると、蛇はその体を緩める。
が、蛇が突然口から睡眠ガスを噴き出した為、ヒロトはそのガスの甘さに耐えきれず、眠ってしまった。
その数十分後、灰崎がタオルでシャワー後の髪をタオルで拭きながら部屋に入ってくる。
「あ~疲れた。ったく折谷の奴、色々と言い過ぎなんだよ…」
過保護にもほどがあるだろ、と愚痴りながら部屋の中に入る。
「ヒロト? 寝てんのか?」
灰崎の目に写るのは、電気をつけっぱでベッドに体を横にしているヒロトの姿。寝てんなら仕方ねぇな。と、灰崎は部屋の電気を消し、消灯時間までの時間を食堂で過ごすことにした。
***
空に浮かぶ天界の教会の部屋の一つに、治療を終わったレンが眠っていた。白いケープは脱がされており、隣の棚に畳んで置かれていた。レンが眠っている部屋の自動ドアが開き、廊下から部屋の中に入ってきたのは、エレンだった。
「無理するからよ…」
持っていた白いバラを、一本棚の花瓶に生ける。
「貴方は少し他の大天使と比べて、エンジェルクロスの適合率が低い。だけど、その分高い威力が期待できる。地上を救いたいって気持ちは私も同じだけど、無理をし過ぎてはだめ」
そうエレンが言うと、レンがわかっているというように身じろいだのを見て、エレンは嬉しそうに微笑む。
「ほら、早く起きて。あの子を止めることが出来るのは、「今の所」私と貴方としかしないんだから」
レンの額にキスをし、エレンは部屋を後にし、天界から離れ地上へと飛んだ。
***
「『新約聖書の「福音の書」で、イエス・キリストはエルサレム神殿を頂点とするユダヤ教体制を批判したため、ローマ帝国の反逆者として言い渡され、公開処刑の死刑の一つである十字架に磔になって処刑された。』__だよ。だからここの問題の答えは『十字架の磔によるもの』と書けばOKだよ」
その昼、ラストプロテクターの昼休みに、夜舞は坂野上に出された課題の問題の答え方を教えていた。彼らは天使と戦っているにしろ、まだ義務教育(しかも円堂たちは受験生)の生徒為、それぞれの学校から課題を出されるのだ。
なお、今夜舞が坂野上の隣の席で読んでいるのは、坂野上の教科書だ。海外の歴史の中で書かれた新約聖書の所を読んでいる。
「夜舞さんって本当になんでも知ってらっしゃるんですね……」
坂野上が問題の回答欄に、夜舞の言ったことをそのまま紙にシャーぺンを滑らす。
「そんなことないよ。これでも結構努力してるんだから」
花伽羅村に居た頃は、サッカーをしながら勉強も頑張っていたんだから。と夜舞は言う。
「夜舞さんはいいですよね…課題が無くて」
課題の量に疲れたのか、坂野上がテーブルに顔を突っ伏す。
「私は羨ましいよ?」
花伽羅村はまだ外の世界への配達技術がまだない為、本来なら夜舞はこの時間、趙金雲から自主練を言い渡されていた。しかし、人助けが好きな夜舞は、こっそり坂野上の勉強を坂野上の部屋で行っていた。
「夜舞さんが頭がいいからですよ~」
この頭は努力で積み重ねたものなんだけど…と、夜舞は思った。
「さ、次の問題だよ! 『キリストの処刑三日後、女たちが墓をたずねていくと、墓が空になっており、キリストの復活を若君が伝えた。さて、この若君は誰…』」
「みなさーん! 監督が大至急ミーティングルームにと!」
夜舞が坂野上を元気づけ、次の問題文を読み上げようとしたその時、大谷が坂野上の部屋の扉を開け、ミーティングルームにと用事を伝えてきたのだ。それは茜、杏奈を使ってまでもしらせなければならないことだった為、夜舞たちは急いでミーティングルームに駆け込むと、そこには同じようにして集められた明日人たちが居た。
「皆さん、集まりましたね。実は、ユースティティアから手紙が来ました」
趙金雲が取り出したのは、ピンク色の封筒に包まれた便箋だった。一見女の子が書きそうな封筒に、明日人たちは困惑した。
「読みますね。
『ラストプロテクターさんへ
今日の昼、テレビを見てね』だそうです」
え? これだけ? と思ったその矢先、ミーティングルームのモニターが、砂嵐からとある人物の顔が映し出された。
「皆、見てる? そっか、見てるんだ! こんにちは、地上の皆さん!」
モニターに移された映像は全国、そして全世界テレビや端末を通して生中継されていた。モニターに映し出された人物は、赤色からオレンジ色ののグラデーションがかかったロングヘアをしており、可愛らしい眼と日本のアホ毛をしていた。しかし、ユースティティアのユニホームを着ており、明日人たちはモニターの人物がユースティティアの天使であることがわかった。
「私達は、貴方達人間を…あれ? 何を言うんだっけ? ……あ、思い出した! 救いに来たの! だから安心して!」
しかし、映像の中では時々次の台詞を忘れ、頬に指をあてる天使の姿があった。忘れんぼの天使なんて聞いたことがないが、明日人たちは映像を真剣に聞いていた。
「これを見ているラストプロテクター・アースのみなさーん! 一週間後、アメリカで沢山の人を救助する予定だから、止めたかったらスタジアムに絶対に来てねー!」
それだけを言い、天使はモニターの電源を消した。
「アメリカ…一之瀬と土門がいるところじゃないか!」
円堂が慌てた様子で話す。
「円堂、すぐにアメリカに行こう」
「あぁ!」
円堂と豪炎寺はすでに意を固めている様子だ。
明日人たちは急にアメリカに発つこととなり、まだ意を固めていなかったが、とりあえずアメリカに行くための荷物を纏め、飛行機でアメリカに行くことになった。
***
「お勉強しているの?」
教会の部屋の一つの、天使にそれぞれ振り分けられた部屋の一つに、エレンは瞬間移動で課題に取り組んでいる天使の後ろに立つ。
「うん! 沢山お勉強して、忘れんぼがなくなるようになりたいんだー!」
そうペンを滑らす天使は、地上で全世界に映像を流した天使だった。
「そう、偉いわね」
「うん! メリー偉い?」
「ええ、偉いわ」
そうエレンは、天使の頭をなでる。
本来ならエレンは、目の前の『大天使』を撫でることは許されていない。
なぜなら彼女は、天使のくらいの中でも最上位の、『熾天使』なのだから。
***
明日人たちがアメリカに着くと、アメリカではとっくに夜になっており、空港では一之瀬と土門が待っていた。
「一之瀬! 土門! 無事か!?」
「こっちは無事だ! とにかく、今は俺達の宿所に!」
一之瀬が切羽詰まった様子で円堂たちをバスでアメリカの宿所へと運ぶ。アメリカの宿所は赤と青と白で構成されており、いかにもアメリカな雰囲気が漂っていた。
アメリカも、どうやらユースティティアに対抗するチームであるらしいというよりも、FFIに出場したチーム全員がユースティティアに対抗する人物らしい。
「円堂、テレビを見たか?」
「あぁ、見たぞ。土門」
「本格的にユースティティアの天使が動き出したな……今国家と国民は大騒ぎだ。この世の終わりだとかって暴れ回る人とかも居るし……円堂も気を付けろよ。あと、ここにある特訓器具は好きに使っていいからな」
一之瀬は今アメリカで起きていることを伝えたのちに、明日人たちに自由に練習器具を使っていいと言った。
翌日に明日人たちはここにある練習器具で特訓を進めることにした。さすがアメリカの実力ともいえる程に、練習器具の難易度は、日本がノーマルとするならこっちはハードだった。しかし、その分効果は期待できそうだ。
「うっ…」
しかしその中でヒロトは、ランニング中に頭痛がしてしまい、その足を止めてしまった。同じようにランニングしていた夜舞が足を止め、ヒロトに駆け寄るも、ヒロトが夜舞を突き放した為、夜舞はいやいやながらもランニングを続けた。しばらくすると、ヒロトが足を動かしてまた走り出した為、夜舞とそれを見ていた明日人たちは胸を撫でおろした。
「(もしかして一星くんのときのような怪異の仕業…? ううん、気のせいだよね)」
夜舞は一星の時のような怪異の仕業かと思ったが、たまたまだよねとその日は特訓に集中した。
と明日人たちが特訓に励んでいたその時、二人の少年の声がした。
「ヘイユー! 久しぶりだね!」
「久しぶりだな、イナズマジャパン」
同じアメリカ代表のマークとデュランだ。
「あ、貴方はアメリカ代表のマークさんとデュランさん!?」
夜舞が二人を見て驚いている。
「あの子が最近入った夜舞月夜って子かい?」
マークが円堂に尋ねると、円堂は本当に無意識に夜舞をほめた。
「あぁ! 俺達と同じくらい強いんだぜ!」
「円堂先輩~そんなに褒めないでくださいよ~」
先輩の円堂に褒められ、恥ずかしそうに顔を赤らめて笑う夜舞。だが一見嬉しそうにも見えた。
「そうなんだ…これはぜひとも戦ってみたいな」
「そうだ! 俺達とサッカーでバトルしないか!?」
円堂の宣言で、マークたちと五対五のサッカーバトルをすることとなった。
スタメンは以下の通りになった。
GK 円堂守
DF 夜舞月夜
MF 稲森明日人 野坂悠馬
FW 灰崎凌兵
向こうは一之瀬に土門、マークにデュランも居る。手ごわそうだ。
「いくぞ! 円堂!」
一之瀬はドリブルで前線に駆けあがってくる。しかしそこに、灰崎が一之瀬のボールをスライディングでカットする。
「へっ! たいしたことねぇな!」
「そうかな?」
「何!?」
デュランのスライディングでも、灰崎もボールを奪われる。
「マーク!」
「あぁ!」
マークとデュランが力を合わせると、それはユニコーンのシュートとなる。
『ユニコーンブースト!』
二人の必殺技が、円堂を襲う。
「ここは任せてください! 『ライトチェーン・ダークロープ!』」
しかし間に夜舞が入り、ディフェンス技でマークたちのシュートを止める。それと同時に夜舞が上がり、デュランとの読みあいになる。
「ヘイユー! 君がヤマイツクヨかい?」
「YES! アイム 夜舞月夜!」
試合中に英語で自己紹介した夜舞。すぐに明日人へとパスを送る。
「彼女、中々やるね」
「俺もギンギンしてきたよ!」
試合が終わり、明日人たちは互いに握手を交わした。
「強くなったね、君たち」
「俺たちも、ユースティティアの天使からサッカーを取り戻す為に戦っているからな!」
と、自信満々でマークに返事をする円堂だった。
数日後、明日人たちはアメリカのサッカースタジアムに来ていた。観客席には沢山のアメリカ人と、好奇心で来てしまった外国の人などが座っており、ユースティティアの天使が来るのを緊張して待っていた。
「もうすぐだな…」
円堂が言ったその直後、少女の声がした。
「そこまでよ!」
と、自分達が何か悪いことでもしているかのように言っている女の子のような声に、明日人たちはスタジアム全体を見渡した。すると、スタジアムの屋根部分に当たる屋根の上で。一人の少女が立っていた。ユースティティアのユニホームを着て。
「「あれは…ユースティティア!?」」
そう明日人たちが言ったその直後、少女はピンク色の妖精の羽のような翼を出すと、ゆっくりとフィールドに降り立った。すると、右手を明日人たちに突き出す。
「この世の悪と闇は、全てこのマジカル☆メリーがやっつけてあげるわ!」
その瞬間、スタジアムは沈黙に包まれた。
なぜならこれまでのユースティティアの天使とのギャップが激しい上に、マジカル☆メリーと言ったそれは、天使というよりかは魔法少女に近かった。一応…ユースティティアの天使なんだよな…と疑う者もいた。
「お父様から話は聞いたわ! 私達天使に楯突く悪い人たちって!」
「メリー様、目的を忘れてはいけませんよ」
「目的? なんだっけ?」
配下の天使がメリーの猛攻を止める。しかし肝心のメリーは、ここに来た目的を忘れているようだった。本当に大丈夫なのだろうか。と、明日人は出鼻をくじかれたような音がした。
「そこにいる人間達とサッカーで戦い勝つことですよ」
「あ、そうだったわ!」
忘れんぼなのだろうか、目的を忘れていたメリーはぽんと左のてのひらを右手の握りこぶしで叩くという思い出したような素振りを見せた。
「じゃあ、勝負しましょう!」
***
試合が準備され、両者ともいつでも開始できる状態になっていた。
「ルールを決めましょ! レンお兄様によれば、十点差を付けて勝つっていうハンデだったから、こっちは4点先取したら勝ちでいい?」
メリーがルールを提示すると、それはレンの時よりもお互い大きい差がないルールだった。その方がいいだろう。そうすれば無駄な時間を使わなくても済みそうだと、明日人たちは承諾した。
「よーし、いっくよー!」
メリーのキックオフで試合が開始される。しかし、メリーはまるで花畑で遊び回っているかのようなスキップでボールを運んでおり、明日人たちはまるで遊んでいるかのようなメリーに困惑する。
「え…? スキップでドルブルしてる…」
「なんだ? アイツ」
鼻歌まじりでドリブルするメリーは、まるでユースティティアの天使とは思えなかった。
「舐めたまねしやがッ__!?」
「ふんふふふーん♪」
ヒロトがボールを取ろうとするも、メリーはボールをまるで自分の体の一部みたいに扱い、突っ込んでくるヒロトを避けて転ばせた。
「いかせない! うおおおおおおおおおおお!!」
明日人がイナビカリ・ダッシュを使おうとした瞬間、メリーは明日人をジャンプで避ける。
「え!?」
「もっとあそぼ!」
実力は高いのかそれとも単純に運がいいだけなのか、明日人たちを通り抜けていく。
「えい!」
そしてついにはメリーが円堂のゴールに向けてボールを蹴った!
円堂が身構える。しかしボールは、ゴールの中どころか外に飛んで行ってしまった。
「あ~失敗しちゃった」
頭をかき、メリーは眉を下げる。
「なんですかこの子……」
「なんだか不思議だね、坂野上くん」
夜舞と坂野上がメリーを不思議ちゃんだと解釈している。
「なんだか、こっちまでおかしくなりそうだよね」
吹雪の言う通り、メリーの能天気な気質と忘れっぽい雰囲気のせいで、明日人たちはどうしてもその雰囲気に狂わされてしまう。レンとのギャップもあるせいか、どうしても胸の中に違和感が募る。
ユースティティアの天使の一人、ローズがコーナーキックをしたところを夜舞にカットされ、明日人たちのボールとなる。
「鬼道先輩!」
「豪炎寺!」
MFのポジションまで上がった夜舞が、前線の鬼道にパスすると、鬼道はドリブルで二人の天使を抜けたあとに、豪炎寺にパスする。
「わっ! スゴい!」
メリーが敵に拍手を送る為、豪炎寺はこれまでの天使との違和感を感じていた。
「ヒロト!」
「いくぜ? スーパーノヴァ・エクスプロージョン!!」
豪炎寺のパスとヒロトのシュートが、GKのキンギョソウのゴールに突き刺さる。
「よっしゃ!」
ヒロトが豪炎寺とハイタッチを交わす。
始めて一点を取り、なんだか楽そうだと明日人たちが思ったその時だった。
「…あれ?」
メリーは、突然その場に立ち止まった。
「人間達の点数が一点…私達がゼロ点…」
メリーは生まれたての子供みたいにあたりを見渡す。
「何をしていたんだっけ…」
あれだけ目的を忘れぬよう言われたものの、メリーは忘れてしまったのだ。そのため、メリーは今の状況を整理するため、周りを見渡したのだ。
「……まぁいっか! とりあえず、倒しちゃえ!」
と、電光掲示板に書かれた点数を目にした瞬間、メリーは豹変した。
ハイライトのあった瞳は光を失くしており、それはまるで無邪気に遊ぶ子供のようになった。
「クロスハート! 解放!」
メリーがペンダントを掲げると、ペンダントからピンク色のオーラが噴き出し、それはユニホームからピンクと白のゴスロリ風潮の服に変わると同時に、天から可愛らしい装飾がされたメリーの背丈くらいある巨大なハサミが、メリーの近くに刺さった。
「目的をお忘れですか!」
「目的? 忘れちゃったものは仕方ないわ! ふふふっ!」
今のメリーはもはや魔法少女というより天使というよりも、狂った少女(切り裂きジャック)になってしまっていた。
「さぁ、遊びましょ!」
『うわあっ!』
クロスハートをしたメリーがボールを持って走り出した為、FW陣はメリーのクロスハートによる風で吹き飛ばされる。
「いかせない!」
「通させないよ!」
「あはは! 邪魔だよー!」
明日人と野坂が立ち塞ぐも、メリーがどこからか取り出したのは、可愛らしい装飾が施された、メリーの背丈くらいはある巨大なハサミの片割れで、それをまるで刀のように振るった。
『ジャック・アタック!』
刀のように振り回しているハサミでクタリを同時に切ると、二人は電池が切れたオモチャみたいにグラウンドに倒れる。
「野坂さん! 明日人くん!」
一星が二人の心配し、メリーの猛攻を防ごうと防戦に入ろうとするも、もう間に合わ無かった。
「ふふふっ、あはは!」
メリーは今、DF三人を前にしてシュートをしようとしていた。
『クリスタル☆ブラッティ☆シャワー!』
ボールを赤色のクリスタルにすると、メリーはそれに向けて魔法陣を描く。そして技名と共にクリスタルのボールを蹴ると、クリスタルのボールは砕けちり、その破片がゴールへと突き刺さろうとしている。
夜舞たちが防ごうとするも、シュートの勢いは凄まじく、吹き飛ばされてしまう。
「ダイヤモンド・ハンド!」
そっちがクリスタルなら、こっちはダイヤモンドだ。と言わんばかりに、円堂はダイヤモンドハンドを繰り出す。
しかしクリスタルの強度のせいで一点を集中攻撃されたダイヤモンドは砕け散り、ゴールにクリスタルが突き刺さった。
『ゴール! ラストプロテクター、ゴールを奪われました!』
「やったぁやったぁ! 一点取ったよ!」
メリーが嬉しそうに喜ぶ。しかしその後ろでは、メリーのハサミとタックルによって明日人たちが倒れているのだが。
「そんな…」
「あの子…強敵です!」
大谷と杏奈は、メリーの強さを知らないままに勝てると判断してしまっていた。そのため、予想以上に消耗した明日人たちの治療に手を焼いていた。
「…大丈夫?」
「茜、俺は大丈夫だ。だが…」
ここで負けたら、明日人が捕まっちまうと、灰崎は明日人を見ながらそう茜に言う。
それにしても、ヒロトの呼吸が荒いと、灰崎は試合中に感じていた。メリーの強さもあるが、それでもこれまでの試合とは違うような呼吸を感じていた。
「ザ・ジェネラ…」
「そうはさせないよー! 『ジャック・アタック!』」
ザ・ジェネラルをしようとした野坂と一星を、メリーは必殺技で無理やり止めた。
「必殺タクティクス中に攻撃するなんて!」
夜舞がそう思うも、今のメリーにこの手の話は通じないと判断した夜舞は、DFとしてメリーの猛攻を止めようとする。
「ライトチェーン・ダークロー___!?」
夜舞が鎖と縄を出そうとしたが、メリーが振り上げたハサミの魔法陣から現れたナイフたちに、夜舞は危機を感じて顔を腕で抑えたが、その時に夜舞は必殺技を出すのをやめてしまっていた。
「しまった!」
「クリスタル☆ブラッティ☆シャワー!」
「正義の鉄拳…うわっ!」
最終奥義でもある正義の鉄拳をもってしても、メリーに対抗できなかった。
「くっそ…」
このままじゃ負けてしまう、と円堂は悔しがる。円堂の身ならず、明日人たちの強化されつくした体力も瞬発力も今ではなくし、パスもドリブルも鈍くなっていた。そんな状態で戦った為、あっという間に3-1となってしまった。
そんな明日人たちを見かね、つまんないと思ったメリーは、トドメを刺そうと必殺シュートの体制に入ろうとした。
しかし、今日は気分のいいメリーは、トドメを刺す前にいいことを教えてあげると明日人たちに向かって笑う。
「いいことを教えてあげよっか。お父様は、貴方達人間を救うために、『テミス改革』っていう地上の革命を起こそうとしているの」
テミス改革は、人類が犯してしまった罪の種を消し去ることで、お父様自身が世界を支配する為の準備を整え、天使と神が人を支配する世界にする革命なの。と、メリーは続けて言う。
「それはいつしか、地上に導きの光をもたらす。この地上が、永遠の『[[rb:エデンの園 > 理想郷]]』になる為の光」
「テミス…改革…」
それはつまり、人を作った神自身が人を支配するというものであり、明日人たちは危機を感じた。
「あ、これ以上は話せないよ。じゃあね~バイバイ♪」
と、メリーが再びボールを蹴ろうとしたその瞬間。
「そうはさせません!」
一人だけ体力のあった一星が、スペクトルフォーメーションをした状態でメリーからボールを奪ったのである。その時の衝撃と振動で、メリーはハサミを落とす。
「すごいすごい! それが怪異の力なのね!」
ボールを奪われたというのに拍手をするメリーに気味悪さを感じた一星は、思わず身じろいだ。
「お姉さまたち以外で私からボールを取ったのは貴方が初めてよ! ねぇ、名前はなんていうの? 教えて!」
他にも天使が居るのかと一星は考えたが、今ハンズそれに関する情報をメリーから聞くのが先決と考えた一星は、とりあえずメリーに名前を言う。
「一星…光! ふふふ………あはははは……あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははあはははははははははははははは!!!」
するとメリーは、一星の名前を聞いた途端に三段階に笑い出し、その笑い声はスタジアムに響き、より一層気味悪さと狂気を加速させていた。
「私、ヒカルと遊ぶ! 貴方が私から一点を入れられたら、貴方たちの勝ちでいいよ!」
めちゃくちゃなことを宣言され、他の天使たちがやめようとメリーを止めようとするも払いのけられ、メリーは一直線に一星に向かって突進してくる。それに対して取られぬよう構える一星であったが、メリーが持っていたのは先ほどの巨大なハサミで、それを開いた状態でメリーは横に振るった。
「_ッ!!」
間一髪で避けるものの、左肘には一本の赤い線がクレヨンのように引かれている。もう少し遅ければ、首か体が切られていただろう。
「すごい! 避けた避けた! でもまだ終わらないよ!」
一星のことをオモチャのように扱う。
『サウザント・ナイフ!』
メリーがハサミをステッキの様に掲げると、天高い空に桃色の魔法陣が浮かび上がり、そこからおよそ千本ともいえるナイフが降り注いだ。それは一星だけでなく、味方の天使すらも巻き込んでフィールド全体をナイフで覆い尽くした。
「危ない! 風神雷神ゴースト!」
円堂が思わず明日人たちに必殺技でナイフから守る中、一星はマシンガンのように降ってくるナイフを、ドリブルしながら避けていた。しかしそれもギリギリで、何度か髪がナイフに切っ先によって斬られ、一星が避け切ったころには赤い三つ編みはゴムを失くしてただの長い後ろ髪となった。
「(これで決める_!)ハーツアンロック! リライズ!」
そろそろ決めないとまずいと思った一星は、ハーツアンロックでスピードと攻撃力を高めた。
「わぁ! それがハーツアンロックなんだ! わっ!」
メリーが凄い凄いと感想を言っているあいだに、一星は一気に自陣から敵陣へと走り抜け、誰も居ないゴールに向かってシュートを撃ちだす。
「スターライト・ミルキーウェイ!」
数多のレーザーに、メリーは止められない。
「させないよ?」
しかし、メリーはボールが自分の前を通り過ぎた瞬間に、ボールよりも早くゴール前で待ち伏せていたのだ。
そしてメリーが自分の足元に魔法陣を展開し、その前方に虹色の壁を創りだす。
「ミラー★フォース!」
壁がボールを塞いだ瞬間、竜巻並みの風圧程の衝撃が発生した。それは遠くに居た一星も、それよりも遠くにいた明日人たちをも吹き飛ばす。
「皆! 風神雷神ゴースト!」
円堂が皆を受け止める為、風神と雷神で十人全員を受け止めたが、ゴーストだけの魔人では自分のゴールにまで飛んできたボールを止めることが出来ず、実質メリーによってゴールを奪われてしまった。そのため、ルールに言われていた4点先取をユースティティアがしてしまい、ラストプロテクターの勝ちとなってしまった。
「一星! 大丈夫か!」
皆を降ろし、一星を寝そべる。しかし、今の一星はスペクトルフォーメーションもハーツアンロックも解除された状態で気絶していた。
「そんな…」
その瞬間、明日人たちが絶望した。 ハーツアンロックと怪異の力を使っても、天使には勝てないのかと。
「あれ? もうおしまいなの? つまんない、終わりにしてあげる」
ゴールからゴールまでの距離は百メートルもあるというのに、メリーは翼を使って浮遊することで、数秒で辿りつく。
メリーの右手には、先ほどのハサミを持っている。
もうダメ…と杏奈が思った瞬間、杏奈が持っていた杏奈が持っていたスカウターが反応する。
その音に明日人たちは反応し、何事かとグラウンドを確認する。
「反応の先は?」
「ヒロトくんです!」
折谷が反応の確認をすると、反応の出所はヒロトとなっていた。
なんとスカウターは、ヒロトにある、『ハーツアンロックのオーラ』を感じたのだ。
「まさか、こんな時にハーツアンロック!?」
力を振り絞って立ち上がろうとするヒロトの中のハーツアンロックが、今まさに発動しようとしようとしたその時____
「そこまでだ。メリー」
ヒロトの背中に張られた『札』が、ヒロトの中にあるハーツアンロックのオーラを吸い取ったのだ。そのせいでヒロトは立つための力を失い、そのままうつ伏せに倒れる。
「レンお兄様? もう大丈夫なの?」
メリーが振り向くと、そこには天界の治療室で治療されていた筈のレンがいたのだ。
「目的を忘れるな。私達の目的はなんだったのか」
レンの復活で、試合序盤の面影を取り戻したメリーは、目的を思い出した。
「あ! サッカーで人間達に勝つのよね。でも、もう私勝ったよ?」
「なら、稲森明日人を天界に連れていけ」
「はーい!」
メリーがハサミをしまい、明日人に近づく。
「怖くないよ~救助すればきっと貴方は救われ…」
メリーが何か言いながら明日人に近づくと、その瞬間、明日人の胸の中から白い何かが現れた。
「あ」
それは白い狼で、メリーに向かって噛みつこうとしていた。しかしメリーはそれに反応しきれず、頭を喰われそうになる。
「メリー!」
だがそこにレンがメリーを後ろに引っ張った為、狼からの噛みつきからは免れる。
しかし狼は今もメリーを狙って唸っている。
「……あれが…俺の、怪異…?」
明日人が始めて、己の怪異を視認する。
それは明日人だけではなく、円堂も豪炎寺たちも、それを見ていた。
「レンお兄様、これじゃ近づけないよ…」
メリーがそういうと、レンは静かに狼に近づきながら、札を取り出す。
「怪異か。悪いが、大人しく……!?」
レンが札を投げようとした瞬間、狼から光が溢れだした。それはまるで炸裂弾以上の光で、レンとメリーはその光の眩さに顔を腕で抑える。
「今のうちだ!」
狼が光を放ち続けているうちに、と円堂が皆をスタジアムの外に逃げるように促すと、明日人たちは気絶している一星を抱えてその場から逃げ出した。
レンたちを足止めしている光が無くなると、レンの目の前には目的の明日人もあの狼も居なかった。
「レンお兄様! 逃げられちゃった!」
「………」
「レンお兄様?」
メリーがレンを訪ねるも、レンは無言で虚空を見つめる。
「太陽か…あの狼は」
「え?」
「太陽は地上に光をもたらすと同時に、地上の全てを燃やし尽くす。扱いが難しいな」
「レンお兄様、それってどういう意味?」
メリーがレンの独り言にどういう意味なのを尋ねる。
しかしレンはなんでもないというように、背中から白い翼を出した。
「レンお兄様? もう帰るの?」
「あぁ、帰るぞ」
「はーい!」
魔法少女はその気になれば、
人を救うことも世界を壊すことも出来る、
最凶の女の子なのだ。
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