「雲の中から…オリオン財団日本支部、滋賀県自衛隊…」
明日人たちがヒロトの家に行っている間、フロイは宿所のコンピュータールームでパソコンを触っていた。
メディアなどの目撃情報から、ユースティティアの天使の居所をメモ帳で記録し、推理する。しかし、数多のメディアの中から目撃情報を探すのはとても難しく、フロイがパソコンをスリープにして休憩をしようとしたその時、コンピュータールームの扉が開かれる。
「フロイ」
「あぁルース。どうしたんだい? お茶を持ってきたわけじゃなさそうだけど…」
ルースの手元には何も持っていないことから、フロイはルースが自分の疲れを労(ねぎら)いに来たわけではなさそうだと推測する。
「フロイ、少し無理をし過ぎているんじゃないのか」
「ルースの言葉に、フロイはあぁ、と納得する。
「少し働き過ぎだってことかな? 大丈夫さ。ちょうど休憩しようと思っていたところ…」
「違う、俺が言いたいのは、君が明日人を守ろうと必死になっているところ」
自分ではなく、「自分が明日人を守ろうと必死になっている所」が無理していると言いたいルースに、フロイはまず驚いた。
「僕が、明日人を守ろうと必死になっている? 明日人を守ら仲や行けないのは、ルースもでしょ?」
「そうだね。俺もアストのことは守らなきゃいけないって思っている。だけど、フロイは俺からみれば過剰にyつーすティティアを敵対しているようにも見える」
フロイは明らかに動揺していた。しかし、それをルースに見せぬよう、平常で『お気楽な』フロイを演じた。
「そうかな? 僕がユースティティアに対して過剰になっていると思う?」
ルースが黙りこくる。よし、とフロイがしめた顔をする。
「…これは俺の推測かもしれないけど、もしかしてフロイは、あの時明日人を自分の母が誘拐したこと、悔やんでいるの?」
しかし、自分がなぜ明日人を守ろうとする動機を探られた挙句、暴かれてしまった。ルース・カシムに。
まさか…と、フロイは動揺した。いや、これは自分自身が償わなきゃいけない。僕の母が明日人にやってしまったことは、僕自身が償わなきゃいけなと、フロイは脳内で連呼する。
「一星を見て見てよ。彼は、仲間と共にあることで、自分の罪を償おうとしている。何も、これは君一人で抱えていい問題じゃない。自分でも、わかっているんだろ?」
「……」
フロイは、何も言えなかった。
それと同時に、目の前のルースが、明日人のように見えてしまったから。
***
「ここが瞳子姉さんの言っていた遊園地か…」
タツヤが遊園地の入り口付近で、あたりを見渡した。色とりどりのビビットな乗り物たち、それぞれのテーマにあった建物たち、ピエロやキャラクターなど子供達を愉快な気持ちにさせる着ぐるみたち。
この遊園地を見れば、すぐに瞼の裏にその光景が浮かび上がってくるだろう、しかししれすらも、ヒロトは忘れてしまったのだ。記憶と共に。
「なんだよ…明日ユースティティアとの試合だってんのに…」
タツヤたちに誘われたヒロトは、少し機嫌が悪そうだ。それもそうだろう。明日は試合なのだから。
「おまたせー! ヒロトくんいるー?」
肝心の夜舞の声が聞こえてくる。その時の容姿はいつものジャージ姿とは全く異なるものだった。長い髪を二つの三つ編みにし、赤いだて眼鏡をしており、穴あきジーンズに黒いシャツの上に着せられたオフショルダーのシャツをしていた。なお、シャツの絵は英語で『食欲』と書いてあった。
「わー!」
「すごーい!」
嫌がるヒロトをなだめ、何とか遊園地に入ったものの、田舎育ちの明日人よ夜舞は目の前の目新しい光景に心奪われており、本来の目的を忘れてしまいそうだった。
「あの乗り物にのろうよ!」
「うん!」
二人が目についたものに走りだそうとするところを、タツヤと灰崎が止める。
「明日人待て」
「夜舞さん待って」
目的を忘れるなと、二人に目的を思い出させる。
「くだらねぇ…俺は帰らせてもらうぜ」
ヒロトが宿所に帰ろうとする所を、明日人と夜舞が止める。
「だめだよ! まだ何も見てないんだから!」
「そうだよ! あの車みたいな乗り物にのろうよ」
そう明日人が指さしたのは、ヒロトが苦手とするジェットコースターだった。
「え、ええ?」
ヒロトは、ジェットコースターと聞いて絶句し、顔が青ざめる。
「あれ? ヒロトくん、体調悪いの?」
夜舞がヒロトの様態に気づく。本当は怖いからという理由なのだが。
「明日人くん、ヒロトくん体調が悪くて、ジェットコースターには乗れないみたい」
「そうなんだ…灰崎、ヒロトの様子見てくれないか?」
一瞬灰崎はなんで俺がと思ったが、ジェットコースターに乗れないなら別にいいかと、承諾する。
「別にいいぜ」
「じゃあ、ヒロトを頼んだよ」
そう言って、明日人たちは参院でジェットコースターを乗りに言っている中、ヒロトはベンチで遊園地の光景をボーと眺めていた。
地面が埋まるほどに混雑とした中、必死に親の手を繋いで歩く親子。その光景に、ヒロトは幼い頃の自分と瞳子、そして星次郎をいつの間にか重ねていた。それに気づくと、ヒロトは首をめいいっぱいに振って、親父が俺を遊園地に連れて行く筈がねぇと目の前の光景に目を瞑った。
「おい、ヒロト」
灰崎の声がして、ヒロトは目を開けると、目の前にはポップコーンの袋と水があった。
「おら、ポップコーンと水だ。食べとけ」
味付けは塩でいいかわかんなかったけどな、と灰崎はヒロトにポップコーンと水を私、ヒロトの隣に座る。
灰崎はタピオカのカフェモカを飲んでいるが、容器を持っている片手にはクマゾウのキーホルダーが。
「なぁ灰崎」
「なんだよ」
珍しく弱弱しいヒロトを見て、灰崎はからかってやろうかなと思ったが、ヒロトの話したげな様子を見てやめた。
「ここ、初めて来たはずだってのに…すげー懐かしいんだ」
初めてなのに懐かしいのか? と灰崎は飲みながら聞いたが、瞳子の話を思い出して、もしかしてここが例の遊園地か? と思い、ヒロトに話し出す。
「おいヒロト、もしかして、昔ここに来たことがあんじゃねぇのか?」
「うっそだろおい。親父が俺を遊園地に連れて行くわけねぇだろ」
記憶はまだ戻ってないらしい。
「俺は親父に認めて貰うために、兄の「吉良ヒロト」がやっていたサッカーと勉強もやってんだよ。永世に来ねぇのも独学の為だよ」
「まじかよ…お前不良じゃなかったのかよ」
「お前俺をなんだと思ってんだよ。まぁポップコーンに免じて許してやるよ」
「なんか偉そうだな…」
しかし、俺が話した時と話す前とは違って元気になったな、と灰崎は心の中で思う。
「おまたせー! ジャットコースター楽しかったな!」
「うんうん!」
「髪の毛はぼさぼさになっちゃったけどね…」
確かに明日人、夜舞、タツヤの髪がぼさぼさになっている。しかし三人はジェットコースターに乗って楽しんだそうだ。
「あ、ポップコーン! どこで売ってたの灰崎くん!」
夜舞はヒロトのポップコーンを見て、どこで買ったのかと灰崎に聞く。
「売店だよ。そこの」
と指さすと、夜舞は一目散に売店へと行ってしまった。
「相変わらず一直線だな…」
そうヒロトが言うと、一同は全員苦笑いした。
「買ってきたよー!」
夜舞が両手抱えて持ってきたのは、明日人の分とタツヤの分と自分の分。夜舞がポップコーンを明日人たちに分けるのを見て、ヒロトはまた自分と自分の家族とその光景を重ねてしまっていた。
「じゃあ、次にいこー!」
早めに食べ終えた夜舞が、次の乗り物に乗ろうと先を急ぐ。
***
「ねぇ夜舞…本当にここに行くの…?」
「うん!」
明日人たちの目の前には、ホーンデットハウスといういかにもな雰囲気をしたお化け屋敷だ。今これに入ろうとしている。
「んだよ明日人、びびってんのかよ」
ヒロトが楽し気に明日人をからかう。
「びびってないけど…怖いんでしょ!?」
明日人はすっかり灰崎の後ろに隠れてしまっている。
「大丈夫だよ明日人くん! 私なんか生霊や魂を何度も何度もこの目で見ているから大丈夫だよ!」
と笑顔で言う夜舞に、明日人たちは背筋に冷や汗を感じた。
「本当なら稲森くんには待っててもらいたいけど…君はユースティティアに狙われている身でもあるから、難しいな…」
「大丈夫大丈夫! おばけ屋敷くらい皆で入れば怖くないよー!」
「明日人、お化け屋敷のお化けはほとんどが作り物だからな」
と灰崎が言った瞬間、明日人は元気そうに行こうよと言ってきた。
「よーし! 皆で入ろうよ!」
そう明日人の発言に、夜舞たちは単純だなぁ…と思ったのであった。
しかし、明日人はこのお化け屋敷の怖さがどれくらいのものかを知っていなかった。なにせここは、『日本一怖いお化け屋敷』としても有名なのだから。
『バァー!!』
「わああああ!!!」
目の前に飛び出してきた幽霊に、明日人は一目散に灰崎の後ろに隠れた。
「言わんこっちゃねぇな…」
「俺達は全然怖くないんだけどね…」
全く恐れを感じないタツヤたちに、明日人は怖いのは俺だけ!!? と思った。
***
「あー怖かったー……」
なんとかお化け屋敷を出た明日人は、お化け屋敷の怖さに足ががたつき、膝をついてしまっている。
「俺、コーヒーカップに乗りてぇ…」
ヒロトが小さく呟いたのを、明日人と夜舞は聞き逃さなかった。
「コーヒーカップ? うんいいよ! 一緒に乗ろう!」
「灰崎くんもタツヤくんもいい?」
明日人がヒロトをコーヒーカップまで連れていきながら、夜舞は灰崎とタツヤに承諾を求める。二人はヒロトがいいならとOKを出した。前の客がおり、明日人たちはコーヒーカップの一番大きい席に座ると、ミュージックが流れ、カップが動き出す。
「ヒロト、やってみたらどうだ?」
「ん? あぁ、回すのか?」
テーブルみたいな丸い何かを、タツヤはヒロトに回すよう促す。
「やってやらぁ!」
ヒロトが勢いよく回すと、カップが回る勢いがどんどん強くなり、明日人たちはカップが回る時の風に驚いた。その後、双方の髪は再び乱れ、明日人たちはトイレの鏡で髪を整えることになってしまったのは言うまでもない。
「あ~楽しかった!」
明日人が手に握っているは、円堂達に配る予定のお菓子が入った袋だ。袋にはこの遊園地のキャラクターが書かれている。
「ヒロト、体調は大丈夫か?」
「あ? あーよくなったみたいだな」
「ね! 遊園地行ってよかったでしょ?」
体調がすっかり良くなったヒロトに、夜舞は喜ぶ。
「そういえばヒロト、お前この遊園地に行って懐かしいと思ってなかったか? それ、思い出せたか?」
灰崎が、ジェットコースターで明日人たちを待っていた時にヒロトが言っていたことを突く。
「いきなりなんだよ灰崎。懐かしいとは思ったけど、別に行った記憶もねーよ」
それを聞いて、明日人たちはやっぱり記憶は戻ってなかったのかと落胆する。しかし、楽し気なヒロトを見て、その気持ちが少し吹き飛んだ。
「やっぱり、楽しかったんだ」
夜舞がそう微笑ながら明日人に言う。
「そうだね」
記憶は、戻らなかったけど。と、明日人は言う。
「まぁ、記憶はまたいつか取り戻そうよ。時間はまだいくらでもあるし」
と、夜舞は言う。
こうして仲良く宿所に帰ろうとしていた時のことだった。突然、明日人たちが歩いている道路に黒い車が止まったのだ。明日人と夜舞は話しててそれに気づかない。
「ヒロト!」
「あ? なんだ……____!!」
タツヤがヒロトの名を呼んだ瞬間、車のドアから手が伸び、それはヒロトの腕を掴んで車の中に引き釣り込んだ。
「え、ヒロトくん!」
タツヤの声でヒロトが誘拐されたことに気がついた明日人たちは、急いで車を追いかけるも、車は段々とスピードを上げ、やがて明日人たちには見えなくなってしまった。
「どうしよう…ヒロトが…」
これには明日人はどうすればいいのかわからず、おろおろとしていた。
「落ち着いて、とりあえず監督に報告しよう」
そうタツヤが言ったのを区切りに、明日人たちは一斉に宿所へと駆けだした。タツヤはスマホで監督に電話しようとしている。
『もしもし? タツヤくんですか?』
「はい、実はヒロトが誘拐されて!」
『それは大変ですね。まずは宿所に戻って下さい』
***
「はなせ! 離せよ!」
腕を後ろに縛られ、車で運ばれるヒロトが、必死に車の中で大声を出している。
「おい、大人しくさせろ」
助手席に座った黒幕らしき人間が、ヒロトと一緒に後部座席に座っている部下に指示を出す。
「へい! ……おいお前、大人しくしねぇと足の健切るぞ」
小型ナイフを首に見せつけられる。足が切られたら、サッカーが出来なくなる。それだけは避けたいと、ヒロトは大人しくなった。
「へっ、大人しくなったな」
「最初からそうしていればいいものを」
部下がヒロトに口枷と目隠しをつけていると、黒幕が笑った。
しばらく車が走っていると、人気のない道路に出た。しかし運転手は目の前に人が居るのを見て、急ブレーキをかけた。
「あぶね!」
危うく人には当たらなかったが、もう少し遅ければ轢いてしまっていただろう。
「おいテメェ! あぶねーじゃねぇか!」
運転手が窓から顔を出して目の前の人間に怒鳴る。しかしその人間は人間でも、翼を背中から生やした天使だった。
「危ないことをしているのは、貴方たちじゃなくて?」
エレンだ。日傘を刺して余裕そうに誘拐犯に笑う。
「テメェ…女だからって容赦しねぇぞ!」
運転手の誘拐犯が車から降り、ナイフを片手にエレンに突っ込んでくる。しかしエレンは、それを避けて足を引っかけて転ばせる。そして日傘の先を転んだ誘拐犯の背中につけると、先端から白いビームが出て誘拐犯を焼いた。
「なっ…こいつ!」
ヒロトには何が起きているのかがわからなかった。ただ、車の外で女性が誘拐犯たちを圧倒しているのはわかる。
「私は平和の天使。貴方達のような平和を乱す人間には、罰を与えるの」
「ふざけやがって!」
二人の誘拐犯たちがまとめてかかるも、エレンは傘の先を向けてそこから二又に分かれたビームを出す。それは二人の誘拐犯に直接向けられ、二人の誘拐犯は焼き死んでしまった。それに気にも留めず、エレンは車の後ろのドアを開ける。
「大丈夫?」
目隠しを外されるも、ヒロトはエレンの姿を見た瞬間急いで車の中から出た。
「そんなに怯えなくてもいいのに」
「お前何考えてんのかわかんねぇんだよ」
「まぁ、そうね。私はよく胡散臭いって言われるの」
そうやって自分で自分のことを胡散臭いと言う方が余計に胡散臭いとは思うのだが。と、ヒロトは思った。
「さ、帰りましょう」
「どこにだよ」
「貴方の宿所」
***
その瞬間、ヒロトは目をぱちくりさせながらエレンを見た。なぜなら、ヒロトが瞬きしてもう一度目を明けた頃には、もう目の前は宿所だったのだ。
「は?は?」
「驚いた?」
驚く以上の問題である。どうやってヒロトを移動させたのか。それがわからず、ヒロトはエレンをただ胡散臭いと思った。ヒロト自身胡散臭い人間は苦手な為(何を考えているのかわからないから)、エレンとの接し方でいつも苦労するのは人間の方だ。
「いや…どうやったんだよ」
「女の秘密よ」
くっそ。とヒロトは心の底で吐き捨てた。自分の質問を軽々と避けるエレンのその姿がどこか忌々しく、そしてどこか「羨ましく」もあった。しかし、こうしてなんとか宿所には戻れた為、せめてお礼くらいは言おうとしたが、すでにヒロトの目の前には居なかった。
「ほんとに胡散くせぇ奴だな…」
そう吐き捨てればエレンが来るかとは思ったが、来ない為、仕方なく宿所に戻ることにした。しかしその時、三日前の練習で起きたのと同じ、いやそれ以上の胸の痛みがしたのだ。
気持ち悪さと不快感が加速する中、ヒロトは思い出した。
自分が五歳の頃、誘拐されて、犯人たちに体中を触られるなどの酷い目にあったことを。
「あ、あぁ…」
トラウマと思ってもいい程の不快感がヒロトの体を支配し、悲しくも無いのに涙が出た。体は震え、動かない。バタンと、倒れる音がした。自分が倒れた音だ。しかし、立ち上がれない。動かそうとしても動けない。ヒロトの体力もいつの間にか無くなっており、ヒロトはそのまま目を瞑った。
***
「ん、ここは…」
目覚めた先は、ラストプロテクターの宿所内にある医務室だ。そこのベッドにヒロトは横になっていた。ヒロトが上半身を起こすと、そこにはラストプロテクターのメンバー十六人がそこに居た。何やら話し合っているようだ。
「まさか、誘拐犯から逃げてきたとか?」
「いや、車に乗せられた状態で逃げるなんて到底無理だろう」
「じゃあ、誰が…」
上から夜舞、鬼道、明日人の順で話していた。ヒロトがなぜ宿所の前で倒れていたのかと。
「お、まえら」
ヒロトが声を出すと、明日人たちはそれに気づく。
「ヒロトくん!」
「ヒロト!」
心配したんだからなの声が次々に聞こえる。
「ヒロト! 目覚めたんだな!」
キャプテンの円堂が嬉しそうに駆け寄り、ヒロトの肩に触れようとした。しかし。
「__!!!」
ヒロトは思わず円堂の手を振り払ったのだ。それを見て円堂は驚きの表情を見せる。
「あ、わりぃ円堂さん」
そう謝るも、体の震えが止まらない。
「どうしたんだ? ヒロ…」
「触るな!」
タツヤが触れようとするも、同じように払いのけられる。しかも、怯えながら。
「俺、思い出しちまったんだよ…俺は、五歳の時に誘拐されて、体中を触られて…」
いつものヒロトに似つかわしくない怯えた声で、思い出してしまったことを明日人たちに語る。一部はヒロトの過去に驚いていたが、明日人たちは嫌な方を思い出させてしまったと責任を感じていた。するとヒロトは、突然声を荒げながら、錯乱状態となる。
「うわあああああ!」
「ヒロト!」
タツヤがヒロトを落ち着かせようとするも、ヒロトからすればタツヤの手は誘拐犯の小汚い手のように認識してしまい、さらに錯乱してしまった。
「タツヤ、ここは折谷さんに任せよう。お前達もいったんここから出よう」
「あ、はい…鬼道さん」
いやいなながらも、タツヤたちは医務室から出ると、折谷さんが交代するように入ってきた。次第に、ヒロトの声が小さくなるのがわかる。
この状況を見て、看過できなくなり、責任を感じた明日人は、皆にヒロトのことを話すことにした。
「皆、聞いて欲しいんだ。実は…」
ヒロトは子供の頃、家族とは仲が良かったこと。遊園地に行ったこと。誘拐されたこと。学校も何も出来なくなったこと。記憶を消してもらったこと。遊園地のことも誘拐のことも消えてしまったことを、全て円堂達に話した。
「明日人、お前は…」
「わかってます。ヒロトには、酷い事をしてしまいました。俺達は、ヒロトに遊園地のことを思い出してもらおうとしました。ですが、この結果になってしまいました。すみません」
明日人が頭を下げる。
「わ、私こそ、ごめんなさい!」
「俺も…」
夜舞とタツヤも明日人と一緒に頭を下げる。
円堂達は、それを見ている。
すると、一星が明日人の前に近づく。
「ありがとうございます」
「え?」
一星の突然のお礼に明日人は困惑し、頭を上げると、おでこに痛みが生じた。
「正直に言ってくれて!」
舌を出しながら笑う一星。一星の右手にはデコピンしたあとが。
「一星くんの言う通り、僕からも正直に言ってくれてありがとう。君が言ってくれなかったら、僕たちはずっとヒロトくんの過去を知らないままだった」
「夜舞も、タツヤも、正直に謝ってくれてありがとな!」
円堂達が笑っている。正直に言ってくれたことに、感謝しているのだろう。
「皆さん…!」
明日人が感激する。
「は~いみなさ~ん。ここで速報がありまーす!」
突然の趙金雲の乱入に、せっかくの感動シーンが台無しとなった為、明日人たちはずっこける。
「なんですか!」
明日人が趙金雲に言う。本当に勘弁してほしい。
「ユースティティアから手紙が届きました~。なんと、明後日FFスタジアムで、試合しようとのことでーす!」
***
『大丈夫ですか?』
白蛇、もとい叶え蛇が、医務室のベッドで横になっているヒロトの腹の上に乗る。
「大丈夫じゃねぇよ…」
『……そうですよね』
気に触るような発言をしてしまい、すみませんでしたと言うように、蛇は言った。
「あんなこと、知らなきゃよかった。こんなんじゃサッカーも出来ねぇし、何も出来ねぇ。消えちまいたい」
『……叶えますか? その願い』
「あぁ、もう未練もねぇよ」
そうヒロトが返事すると、蛇は自分から光を放ち始めた。だがその瞬間、医務室のドアが開かれ、叶え蛇は人間にばれない様にと急いで窓から外に逃げた。
「(あ、おい…居なくなっちまった…)」
入ってきた人に聞こえぬよう、ヒロトは心の中で叶え蛇を呼ぶ。
「ヒロト、もうおちついたみたいだね」
「あぁ…」
折谷の右手がヒロトの額に触れた。
「明日人から聞いたよ。誘拐のこと。トラウマは、これから少しずつ治していこう。急ぐ必要はないよ」
そう言われ、ヒロトはどこか安心したような気持ちになった。
その後、ヒロトは自室に戻り、宿所内の無線インターネットを使ってスマホでテレビを見た。そこには、ユースティティアの記載がされていた。
『ユースティティアの天使という謎の天使によって、多くの人が救助されています。救助された人はどうやってどこに救助されたのかは定かではありませんが、インタビューによれば、「心の棘がなくなったみたいだ」と供述しております。また、事故による死亡数、虐待による子供の死亡数は減少傾向にあり、そしてなんと戦争を止めたという目撃情報もあります。次のニュースで…』
ヒロトはユースティティアの天使のニュースに嫌気がさし、テレビの電源を切った。
その時、スマホの着信音が鳴った。灰崎が起きぬよう画面を急いでみると、そこには姉の瞳子の名前が。
『ヒロト、こんな夜中にごめんなさい。でも、少し話しておきたいことがあるの。ヒロト、次のユースティティアの試合はいつかしら?』
そういえば、折谷がそんなことを言ってたな。と、ヒロトは思い出す。
「明後日だよ。明後日FFスタジアムだってさ」
『そう…本格的になってきたわね。ヒロトも気をつけるのよ』
わかってらぁ、とヒロトは受話器越しの瞳子に言う。
『あとヒロト。明後日の試合、永世の子達を連れて応援に行くからね』
そうかよ。と言って、ヒロトは電話を切った。
正直、どうでもいいとは思った。瞳子が応援に行く。別に構わないことだった。運動会で親が応援に行くのを、子供がためらうみたいな感情などヒロトには無かった。
ましてや、ヒロトの運動会に星二郎と瞳子が応援に行ったこと等ないのだから。
神はいつだって、誰かに愛されたいと願っている。
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