イナズマイレブン テミスの正義   作:暁月の太陽

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第十七話 子供の神様 神様の子供

 FFスタジアムで試合をするというユースティティアの天使の情報を趙金雲から手に入れた(どうやって手に入れたかは知らないが、国から手に入れたことにしておこう)明日人たちは、急いでそのFFスタジアムに向かっていた。スタジアムには大勢の観客が詰め寄っており、スタジアムの中心でもあるサッカーコートの中心には、ユースティティアの天使の現キャプテンであるメリー・エウノミアーがいた。

「あ、ヒカルー!」

 明日人達の中の一星を見つけると、メリーは一星に向けて手を大きく振る。

 しかもメリーの服も、以前はレンと同じユニホームだったのに対し、今度は天使の象徴である白いケープは勿論として白いYシャツに黒いベスト。膝丈十センチの黒いスカートからパンツが見えないように履かれた黒いタイツにいつものブーツを履いた姿をしていた。

「今日はヒカルの為に、特別に注文したんだ~!」

 一星に近づき、ニコニコと笑いながらくるんとメリーがその場で一回転すると、黒いスカートがふわりと広がる。

「メリー…」

 一星がメリーの強引さにたじたじになる。

「メリー様、目的を忘れてはいけませんよ…」

 ローズがメリーを叱る。確かに今日は一星に新しい服を見せに来たのではない。試合をしに来たのだ。

「あ、そっか。サッカーしに来たんだった! それで、この国の国民たち全員を救済するかしないかの勝負をするのね!」

 そんな内容だったっけ? と明日人たちはメリーの曖昧な記憶に思わず苦笑いする。

「まぁ…間違ってはいませんね」

 ローズが曖昧ながらも「そうだ」というと、明日人たちは急にこの試合がこの日本の全国民をかけた戦いになってしまったことに、こんなのってありなのかと落胆しながら驚いた。その頃メリーはローズにでしょでしょー? と可愛らしく笑うメリー。しかし、一星を見た途端リーは眉を下げた。

「ごめんねヒカル。私、忘れっぽいから…」

「いや、それはいいんですけど…」

 試合することを忘れて、以前のような狂った感じにはなってほしくはないと、一星は思った。

「今度こそ、サッカーを取りもどす!」

 明日人が意を決して言うと、メリーはなんで? と言いたそうな無垢な表情をした。

「え? サッカーを取り戻す? だめだめ~! あれはテミス改革の一部なんだから~!」

 そうメリーは駄目だよと言いたそうな手の仕草をする。メリーが口を滑らしたおかげで、明日人たちは日本がサッカー禁止になったのは、テミス改革のせいなんだと確信する。

「つまり、テミス改革を阻止すれば、俺たちにサッカーが取り戻せるってことですね。メリー」

 そう一星が仮説を立てると、メリーは当たり! と言いたそうな顔をしながら人差し指と中指を立て、ピースサインをする。

「そうだよ、ヒカル。でも、テミス改革は実行すべきだって他の神様たちも天使たちも言っているよ?」

「…は?」

 灰崎が困惑の表情で、開いた口から言葉が出る。他の神様たちも、天使たちも、テミス改革の実行には賛同している? それはつまり、ユースティティアの天使を敵に回しただけでなく、他の神や天使達を敵に回したと言ってもおかしくはなかった。

「それに、私達ユースティティアの天使には、人間さんの信仰者がいるの。それはまるでお花みたいにどんどん増えていってる。それに、人間さんの信仰者たちが、私達のテミス改革を『天からの救い』だって賛成して、私達天使の仕事を楽にするためのお手伝いをしているよ?」

 無垢な表情で言う割には、明日人たちが思わず世界に絶望してしまうようなことをあっさりと吐いた。

 メリーが言うには、天使の手を汚さずに自分達人間の手で天使たちの邪魔者を排除するというものだった。そのターゲットは主に悪人。悪人なら、子供にも容赦しないのだという。それを聞いて円堂たちは、『狂っている』としか思えなかった。正義に。

「え…?」

 ユースティティアの天使を、信仰している人間が居る。それは、同じ種族で今まで天使の力を借りずに生きてきたはずの人間の一部が、自分達ラストプロテクターの敵に回ってしまったことを強く示唆していた。その事実は、サッカーを取り戻そうとする明日人の心に強く響き、その場に固まった。

「テミス改革は人を救う。だから」

 明日人たちの周りを歩きながら話すメリー。するとメリーは明日人に近づいてきた。人間の信仰者のことで固まっていた明日人は、それに対して逃げるという選択肢が出来ず、メリーのその華奢な手に捕まる。明日人がメリーの手を首から離そうと抵抗するものの、自分の足は後ろに歩くメリーの足に続いてしまい、円堂達から離れてしまった。

「この子は救済された方がいいの♪」

 まるで人質だ。と取り残された円堂達は思った。おまけにメリー自身は単に人質だと思ってはいるが、力加減の出来ないメリーの手は明日人の首にどんどん絞まり、メリーはそれに気づかない。

「う、うぐっ…」

「明日人!」

「明日人くん!」

 円堂と野坂と一星が、危機の迫った明日人を呼ぶ。本当は助けたかったが、今の明日人はまさに人質状態だ。下手に動けば明日人が危ないだろうと、ここにいる全員が思った。だが、それでも助けられないことに奥歯を噛みしめる。

「アストを離せ!」

 耐えきれなくなったフロイが、明日人を助けようとメリーに走り出す。

「フロイさん!」

 マリクが手を伸ばすも、フロイは止まることを知らなかった。

「だーめ♪」

 その瞬間、メリーとフロイとの間にミラーフォースによく酷似した壁が、メリーの魔法(?)によって建てられる。

「この子を天界に連れていけってお父様が言うの。だから邪魔しないで」

 フロイに明日人を取り返されそうになって、メリーは少し機嫌を悪くしていた。

 しかしメリーは、「試合に勝ってから明日人を救済する」ということを忘れてしまっている為、こうなればいつ明日人をフロイ達の前で救済するかわからない。おまけにテミス改革に賛同している人間や天使や神の数も知れないことから、明日人たちは目の前の敵に絶望を感じていた。相手はこっちと同じ十人だというのに。

 

「だめよメリー。その子を救済するには、まず人間と試合してから。と言ったでしょう?」

 

 何者かが指を鳴らす。その瞬間、メリーとフロイとの間にある壁が塵となって消える。今だ、と考えたフロイは瞬時にメリーに走り出し、明日人の首を絞めているメリーの手を引き剥がそうとした。だが、それはフロイとメリーとの間に降臨したエレンに阻まれる。

 その時エレンのちょうど後ろにいた明日人は、伊那国島で見たあの時のエレンの美しさと光景を重ねていた。

「エレンお姉さま!」

「エレン!? 何しに来た!」

 円堂がエレンに大声で問い詰めると、エレンは虚空からたい焼きを取り出して言った。

「今回は特に何もしないわ。ただ、メリーは目的を忘れていたから、それを伝えただけ。明日人を取って食べたりなんてしないわ」

 そう言っていたが、本気になればやりかねないと、円堂達は密かに思った。

「エレンお姉さま、ごめんなさい」

「いいの。次に気を付ければいいんだから」

 目的を忘れてしまっていたことに罪悪感を覚えたメリーは、エレンに頭を下げる。しかしエレンはメリーの行動を咎めることなく、メリーの頭を撫でた。文字からすれば仲のいい姉妹に見えるが、実際メリーは未だに明日人の首を無意識に絞め続けており、明日人はもう顔が青ざめている。

「ん…? あら、明日人じゃない。久しぶりね。本当ならここで食べ…いや天界に連れて行きたいところだけど、そうしたら人間達が許さないでしょうし、ここはサッカーで決めましょう」

「はーい!」

 その瞬間、メリーは最初から明日人など居なかったように明日人を解放した。しかし、長い事絞められていた為、明日人はその場で咳き込む。

「げほっ、ゲホッ…」

「明日人くん、大丈夫?」

「あ、ありがとう。一星」

 一星が声をかけ、明日人に肩を貸すと、明日人はゆっくりながらも立ち上がる。それを確認したエレンは再び翼をはためかせ、宙に浮く。

「じゃあ私はいつものようにご当地食べ物を巡りにいくから、ここはお願いね」

「はーい! お姉さま、行ってらっしゃーい!」

 メリーが手を振る中、エレンはスタジアムを後にして空の彼方へと消えていく。

 天使の統率者がこんなんでいいのかと疑問に思ったが、神の一人娘なのでそこらへんは見逃してもらえるのだろう。

「あ、ルールを決めないとね! …でも、今回は貴方達で決めていいよ!」

 ほら、ハンデもなしに戦っても面白くないでしょう? ってお姉さまが教えてくれたんだ! と、メリーは声高らかに言う。

「じゃあ、いつものルールで行こう」

「うん、わかった!」

 円堂がいつものルールでしようとメリーに言うと、メリーは声高らかに承諾する。本当にわかっているのかわからないが。

 その頃エレンは、スタジアムの屋根の上で、あんこの入ったたい焼きを頭から食べながら試合を見ていた。

 

「さぁ、この国を救うのは、一体誰なのかしら」

 

 

 ***

 

「スタメンは、この通りでいいね」

 野坂が提示した、スターティングメンバーは、以下の通りになった。

 GK 円堂守

 DF 坂野上昇 風丸一朗太 吹雪士郎

 MF 一星光 野坂悠馬 基山タツヤ 稲森明日人

 FW 灰崎凌兵 豪炎寺修也 フロイ・ギリカナン

「夜舞さんをスタメンにしないんですか?」

「夜舞ちゃんには、僕たちのプレーとユースティティアの天使の動きをよく見て、そこから勝利に導かせるための戦術を組み立てる手伝いをしてもらうんだ」

 坂野上が夜舞を出さないのかと野坂に問うと、野坂は夜舞をベンチにした理由を話す。夜舞もこれには承諾しており、円堂達もそれでいいだろうということになった。

「ヒロトには、体の調子がまだ安定していないから、代わりにフロイに出て貰うことにしたんだ」

 折谷の隣には、ヒロトが座っている。ヒロトは今フィールドに出られなくてイライラしている。

「はぁ」

 ヒロトの隣に座った夜舞は、折谷にそういうしかなかった。

「夜舞さん、お願いしますね」

「任せてよ! 茜ちゃん!」

 腕を曲げ、大丈夫のジェスチャーを夜舞は茜に送る。

『それでは試合開始です!』

 実況の声が響く中、メリーがキックオフでゲームを開始する。ローズがそれを受け取り、前線に進む。その後にメリーがローズに手を振り、メリーにボールが渡る。

「よーし、行っちゃうよー!」

 スカートで試合しているのにも関わらず、メリーはいつも以上の速さで試合を進めた。

「何!? スカートでサッカーしているというのに…」

「足が速い!」

「しかも速くなってるよ!」

 スカートを履いてサッカーすれば、必ずしもスカートの裾がキックの時に邪魔になってしまうのかと思いきや、メリーはそれを履いていたとしても以前の試合と同じ速さ、いやそれよりも速いスピードで進んでいたことに、ベンチの砂木沼たちは驚く。

 しかし、それをフロイはボールキープで奪う。

「あれ?」

「よそみは禁物さ!」

 しばらくは前を走っていたフロイだったが、前方に居るユリの存在にフロイは気づかない。

「よそみをしているのは誰かしら?」

「なに!?」

 フロイの前に居たユリが、フロイの前で同じことを吐いた。

 ユリの声にフロイが前を見ると、前方には黒い百合の花が通常の花より数倍大きく配置されていた。

「リリー・シューティング!」

 ユリが人差し指を前に向けると、百合の花から黒いビームが現れ、それはフロイに直撃する。倒れたフロイに見向きもしないままに、ユリはボールをメリーに渡す為に運んでいく。

「いかせない!」

 しかし一星と明日人がそれを阻止するようにユリの道筋を絶ち塞ぐ。だが、ユリは誰かにパスをするような足の動きはせず、シュートの体制に入ろうとしていた。

『復讐のクロユリ!』

 なんとユリは、二人の近くでシュートを放ったのだ。そのため、二人は驚いてボールを避けてしまう。

「わっ!」

「ボールが!」

 黒い百合をフィールドに咲かせながら、ボールは一直線に進んでいく。しかし円堂は、それに怖気もつかない。

「正義の鉄拳!」

 正義の鉄拳を繰り出した円堂は、その花びらを潰すように黄色の拳を回しながら、ボールを弾き返す。しかしその零れたボールの向こうには、ローズが待ち構えていた。

『ブラック・デスローズ!』

 零れたボールを黒いバラに変え、それを蹴ることで花びらをゴールに突き刺そうとしているローズのシュート。だが、円堂は先ほど正義の鉄拳を出した時の反動のせいで、反応しきれないと思ったその時_

「俺に任せてください!」

 坂野上の声が聞こえた。円堂の代わりにシュートを止めようとしているのだ。必殺技でもない限り無理すぎる。しかし、坂野上には必殺技があった。自分だけの。

『旋風のトルネード!』

 坂野上の周りに大量の木の葉が風邪と共に竜巻を作りあげると、シュートはそのまま竜巻に直撃し、木の葉によるパワーの削減でシュートの勢いは弱まっていく。それ坂野上は見極め、右手を上にあげると、竜巻はボールを巻きこみながら空彼方へと消えていく。今坂野上の足元には、空から落ちたサッカーボールが残っていた。

『坂野上、円堂をフォローするように、新たな必殺技でローズのシュートを止めました!』

「ありがとな、坂野上」

「これくらい、俺にもできますよ!」

 花伽羅村で特訓したことがやっと役に立ちました! と、坂野上は言う。

「坂野上くん…花伽羅村で特訓したことが役に立ったんだね…♪」

 夜舞がベンチで坂野上の新必殺技に気持ちが燃え上がっている。

「ツクヨさん、一体ノボルは何をしたの?」

 気になったマリクが、夜舞に話しかけると、夜舞は坂野上が行った特訓をまるで思い出語りのように話す。

「んー? 実は坂野上くん、花伽羅村のおじいちゃんおばあちゃんが周りを走り回って発生させる、『風傷拳』という竜巻に突っ込めって私のおばあちゃんが坂野上くんに言ってたぽくて…」

 あれには坂野上くんもさすがの私も勝てないよー、と夜舞はまるで昔の出来事のように呟くが、鬼道たちは一体花伽羅村のおばあちゃんおじいちゃんは何者なんだと困惑していた。

「夜舞ちゃんのおじいちゃんおばあちゃん、まるでアクション漫画並みの戦闘力ですね…」

「戦闘力1307はありそうですよね…」

 杏奈と大谷が戦闘力の話をしている中、試合は進んでいた。

『さぁ! 坂野上のパスが次々に味方に渡っていきます!』

 試合が再開され、坂野上がタツヤにパスすると、そこから野坂、明日人、灰崎へとボールが回る。それを見てメリーは、強くなっていることに興奮する。

「あはは! ヒカル達、強くなってる! クロスハート! 解放!」

 クロスハートを解放したメリー。その瞬間、ラストプロテクターのゴール近くに居たメリーは、一気に灰崎の目の前に翼を使って立ち塞がる。

『ジャック・アタック!』

 灰崎をハサミで切り、明日人たちもメリーのハサミで切って突破していく。メリーの猛攻に、明日人たちは止められない。

「させません! ブルー・スターダスト!」

 一星は、ドリブル技のブルー・スターダストをあえてディンフェンス技にすることで、メリーを青い星の光で目くらましをする予定だったが…

「そんな弾幕、私には効かないわ!」

 なんとメリーはハサミで星の光のレーザーを弾き返すとともに、ジャック・アタックで一星を突破してしまったのだ。

「クリスタル☆ブラッティ☆シャワー!」

『させるかぁ!』

 メリーの必殺シュートが決まってしまい、ゴールが決まってしまわれるかと思ったその瞬間、なんと円堂の前で風丸坂野上吹雪といった、体を張ったサンドによって、メリーのシュートは勢いを無くし、地面に転がった。

「あれ? 止められちゃった」

 メリーはボールを見て困惑とした表情をしている。

「サンキュ! 吹雪、風丸、坂野上!」

「構わない、DFもシュートの勢いを弱めるのが仕事だからな」

 試合は前半終了間近となっていた。このまま押し切れば、後半には希望が見えてくるはずだ。

 

 

 

「早く早く! 試合が終わっちまうぜ!」

「焦るな晴矢、まだ前半戦だ」

 その頃、観客席へと続く廊下で、南雲たち永世学園のサッカー部の選手たちが歩いていた。南雲は、早く試合が見たそうに先を歩いている。

「ヒロト、頑張ってるかしら」

「大丈夫だと思うよ。案ずるよりも産むがやすしっていうだろ? ね、瞳子姉さん!」

 緑川の後ろでは、保護者の役割を担っている瞳子が居た。

「そうね、見た方が早いわね」

 そう緑川に話す瞳子の後ろでは、吉良星二郎が居た。

「お、もうすぐ着くぞ!」

 南雲たちがフィールドの景色を見る。そこには___

『なんということだー! 一瞬のうちにして、メリーは2点をもぎ取ったー!!』

 南雲たちが観客席に着いた頃には、なんとメリーがとっくに2点を取っていた頃だったんのだ。明日人たちはメリーによって体力を消耗しており、肩で息をしていた。

「嘘だろ…」

「さっきまでお互い無点だったのに…」

『ここで前半終了! ラストプロテクター、ピンチに追い込まれました!』

 南雲たちがその光景を観客席から見ていた中、明日人たちはベンチで与えられたハーフタイムを体を休めるのに使っていた。

「円堂、何かわかったか?」

「あぁ、以前よりもメリー中心の陣形になっている」

 円堂は前半で感じていたことを、ベンチの鬼道に伝える。すると鬼道は皆にメリーに用心するよう伝えた。

「攻撃が厳しくなってきたな…夜舞、頼めるか?」

「はい! 任せてください風丸先輩!」

 そろそろ夜舞を投下しようかという考えになり、趙金雲に申し出ようとしたその時だった。折谷の隣に居たヒロトが立ちあがったのだ。

「ヒロト? まさか、ピッチに立つつもりかい?」

 折谷に図星を突かれるも、ヒロトが身じろぎもしない。なんと言おうが絶対にフィールドに立つという思いが背中からプンプンする。

「……その様子だと、僕がなんと言っても行くつもりだね。わかったよ。でも、無理はしないようにね」

 そう忠告だけをヒロトにし、ヒロトを見送る。

「おい監督」

「なんですかぁ~? ヒロトくん」

 私いま「西方ラストワールド」のイベントの周回で忙しいんですよと、趙金雲は話しかけてきたヒロトに言う。しかしヒロトはそれに対して呆れることもなく、真剣な表情で趙金雲に申し出た。

「俺を出せ」

「ほぉ?」

 体がまだ安定していないのにも関わらず、フィールドに立たせてほしいというヒロトに、趙金雲は口角を上げる。

「どうしても、ですか?」

「どうしても、と言ったらどうするよ」

 返すのが上手くなりましたね…と趙金雲は、額に汗を流す。

「わかりましたよ―…」

 嫌そうにする趙金雲。よほどヒロトを出したくないのだろう。

「フロイくんに変わって、ヒロトくんにがフィールドに出まーす!」

 ヒロトのポジショニングに、明日人たちはヒロトの体を心配していた。ヒロトは、試合前に何度も何度も体調不良を訴えては、すぐにベンチで休んでいたからだ。

「ヒロト、大丈夫なのかい?」

「どおってことねぇよ」

 フロイの静止を振り切り、ヒロトはフロイのいたポジションに立つ。

「ねぇ、あの子誰?」

「もう何度も言ったはずですよ。吉良ヒロトです。ハッ…まさか、気になっているのですか!? あれほどヒカルヒカルと仰っていたというのに…」

「ううん、ただ気になっただけ。あ、ヒカルは本命だよ?」

「(本命なのですか…)」

 恋心というのはわかりませんね。とローズは思った。

『フロイに変わって、ヒロトがポジションに立ちました! ヒロトには試合前から体調不良を訴えていたそうですが、大丈夫なのでしょうか!』

 後半が始まり、ヒロトは灰崎からパスを貰い、幼少期家で鍛えたドリブル技術とフェイントで相手を交わしていく。しかしここで問題が発生した。

「(なんだよこの心臓の鼓動は…ずっと高鳴って止まんねぇ…)」

 高鳴る胸を抑えながら、ヒロトは前に進んでいく。するとその時、観客席から聞き覚えのある声が聞こえた。

「ヒロトー! いけー!!」

「頑張れー! ヒロトー!」

 ヒロトが観客席の一番前の方を見ると、そこにはヒロトやタツヤ、砂木沼などの永世学園の同じチームである南雲晴矢に涼野風介などといった、緑川や玲名などのメンバーたちが、ヒロトを応援しにきたのだ。

「お前ら…____!?」

 しかし、その隣に居た人物二人を目にして、ヒロトは固唾を飲む。なぜなら、観客席に、星二郎と瞳子が居たからだ。

「なん___で」

 いるんだよ。

「ヒロトー!! 頑張れー!!」

「天使なんかに負けるなー!!」

 南雲たちの応援が木霊する中、瞳子と星次郎はヒロトを見ている。

「なんで、なんで」

 体の震えが止まらない。予想外の出来事に、体と心が追いついてない。まず、親父が俺の試合を見に行く筈がない、と。

「あれ? 貴方、『愛されている』の?」

 メリーが、ヒロトに後ろから言葉を口に出す。

「違う…俺は、俺は…」

 それは、ヒロトが『自分は愛されていない』という自虐する為のネタをもっと強めるための言い方に聞こえた。次第に周りの声が耳に触るようになり、自分の両手を耳に当てようとしたその時だった。

「ヒロト! 頑張りなさい! 貴方には、守る人がいるんでしょう!?」

 瞳子の声が聞こえた。そのお陰で両手を元の位置に戻したヒロトの耳に、星二郎の声が入ってくる。

 

「行きなさい、ヒロト」

 

 星二郎の言葉は、まるで子供を叱るようで、悲しんでいる子供の頭を撫でている時のような、優しさがあった。その声に思わず心惹かれたヒロトは、顔を上げ、観客席の二人を見つめる。

「親父…姉貴…」

 星二郎と瞳子は、懸命にヒロトを応援していた。

 その瞬間、思い出した。自分は、『愛されていた』。この、二人に。

 自分が生まれて、すぐに二人に会って、一緒に遊んで、一緒に学校に行って、一緒にお祭りに行ったり、一緒にサッカーの試合を見に行ったり、一緒にご飯を食べて、一緒に喧嘩して。

 そして。

 一緒に、遊園地に行った。

 ヒロトの頬に涙が流れる。それは、ヒロトが記憶を無くした以来から、全く流していなかった。

「なんだよ…なんだよ…俺、愛されていたのかよ…」

 ヒロトの涙がフィールドの芝生に零れる。その瞬間、胸に白い光が眩いた。

 

 ***

 

 ヒロトが目覚めたのは、沢山の色の光がある空間だった。

 そこには、姉の瞳子と喧嘩した日のこと、仲直りした日のこと、そして、遊園地に行った日のことも、光としてそこにあった。星二郎との思い出もしっかり残されており、ヒロトはその中の一つに耳を当てる。

「吉良、ヒロトだ」

 その記憶は、吉良ヒロトが生まれた日のことだった。星二郎の腕には小さなヒロトが抱えられており、その中で眠っている。

「吉良ヒロト? お父さん、吉良ヒロトはもう…」

「いや、違うんだよ。瞳子」

「え? じゃあなんでそんな名前をつけたの?」

 瞳子が聞くと、星二郎は口を開いた。

「この子は、私達の光だ」

「光?」

「いいかい瞳子、「ヒロ」という読み方には、「光」も入っているんだよ。そして「ト」は人、名前的には光の人ともいえるだろう。私達は、いつかヒロトが周りに光を与えるようなそんな人に育ってほしくて、この名前にしたんだよ」

 光の人。光といえば、神を思い浮かべるだろう。つまり自分は、神の人。人の神。人を守る為に生まれた人間(守護神)

「そして、兄の吉良ヒロトの分まで、誰かに手を差し伸べてほしい。そう思って名づけたんだよ」

 ヒロトは、その記憶をずっと眺めていた。そして、自分の右手を胸に当てて考えた。

 自分は、誰かに光を与え、誰かに手を差し伸べる為に生まれた子供だということを知った。今まで自分は、吉良ヒロトの名前を嫌悪していた。吉良ヒロトは、兄の名前だ。それと同じ名前をつけるなんて、まるで代わりとして生まれてきたのと同じじゃないか。そう思ってきた。

 だが、違っていたのだ。自分は、代わりとして生まれたのではない。

 自分は、あの星二郎の子供だったのだ。代わりなんかじゃない。たった一人の吉良ヒロトだったのだ。

『あの吉良ヒロトの代わりじゃ、ありませんでしたね』

 気がつけば自分の隣に叶え蛇がいた。ヒロトは目の前の記憶から叶え蛇の方に視線を移すと、話し始める。

「……お前、叶え蛇ってんのか」

『はい』

 目の前の神に、ヒロトは意を決して言い放つ。

「なぁ叶え蛇、俺、消えるのやめるわ。なんかあいつら、俺のことを愛してるってさ」

『………』

 蛇はヒロトを見ながら、黙り続ける。

『そうですか、よかったですね。愛されていたことに気づけて』

「なんだよ。お前知ってたのかよ。俺が愛されていることに気づいてねぇって」

『知ってますよ、私は『神様』ですよ? なんでも知ってます』

 にしては回りくどいなと、ヒロトは思わず鼻で笑った。

「なりそこないのな」

『言わないでください』

 声からして怒っているようだが、逆に微笑んでいるようにも見えた。天の神のように表情には出ていないが。

「ま、俺が本当に心から消えちまいてぇって思ったら、そん時は宜しくな」

『そんな日、来るわけないって思っているでしょうに』

「そうだな。んじゃあ、一仕事行くか!」

『はい』

 

 ***

 

 そうヒロトが言った瞬間、ヒロトの中に叶え蛇が入る。完全に入り切ったその瞬間、心臓の音とともに、さっきまであった思い出は光の粒となってヒロトの髪と姿を変えていく。

「……ヒロト…!」

 白き光の中から再誕したのは、ハーツアンロックをしたヒロトだった。地毛とメッシュが逆転した髪形に、ツッパリのような改造制服のようなものを着ていたが、どこか神々しさを感じた。

「凄い! あれがヒロトくんのハーツアンロックなんですね!」

 杏奈の持っているスペクトルハーツカウンターに、ヒロトの姿をかざすと、そこには『odin(オーディン)』と『蛇』の文字が浮かび上がる。

「ちょっと待ってください。なんか、様子が変じゃありませんか?」

「どうしてなんだろ…ハーツアンロックには成功したのに…」

 杏奈がヒロトを指さす。ヒロトが、急に無口になったのだ。後ろから見ている為、顔は見えないが。茜もそう思っているようで、ヒロトのことを心配していた。

「ヒロト…?」

 タツヤに対して何も反応を返さないヒロトに、タツヤは顔を青ざめた。

「もしかして…記憶は戻ったけど、脳がキャパオーバーしているんじゃないのか…!?」

 その事実を明日人たちに伝えると、明日人たちはヒロトを見ながら驚愕する。

「そんな…ヒロトが…」

「今は、様子を見るしかないよ。稲森くん」

 タツヤが、ヒロトを信じているかのようにボールをパスすると、ヒロトはそれを受け取り、前に走る。

「……」

「いかせないよ! サウザントナイフ!」

 何も言わないままドリブルを続けていると、メリーの必殺技によって空から千本程のナイフが落ちてくる。しかしヒロトは、それをボールをドリブルしながら避ける。その姿に、タツヤはFFオータムシーズン前の練習の時に見た光景を思い出す。

「あれは…ヒロトが行っていた特訓の姿と同じだ!」

 メイドに沢山のボールを上に投げてもらい、その下でボールが体に当たらぬようにドリブルしながら避け続ける。その特訓を、タツヤは見ていたのだ。

「それってなんだよ」

 灰崎が訪ねると、タツヤが概要を話す。

「ヒロトが行っていた特訓の一つに物を避けながらドリブルをするという特訓があったんだよ。まさか、ここで発揮されるなんて…」

 と、タツヤはナイフを避けながらドリブルをするヒロトを見ている。

「凄い凄い! 避けてる避けて___」

 メリーがはやしたてる中、ヒロトは何も言わずにメリーを追い抜く。それも、MFやDF達を一人で追い抜いていく。

「一人で追い抜いている!?」

「さながら、臨機応変のハーツアンロックといったところだな」

 夜舞が驚いている中、鬼道がヒロトのハーツアンロックの特徴を説明する。

「……いくぜ? 叶え蛇!」

 その瞬間、ゴール前まで辿りついたヒロトは、必殺シュートを出す構えに入る。さぁ…お待ちかねのヒロトの新必殺技! かと思いきや…

『ザ・エクスプロージョン!』

 なんとヒロトは、既存の(それもスーパーノヴァじゃない方の)必殺シュートを出したのだ! それも、そこから派生版が生まれるわけでもなく、ただ元のザ・エクスプロージョンのようにボールを何度も何度も空中で蹴りだす。

「無茶だ!」

 タツヤがヒロトに無謀だと声を上げる。しかしヒロトは、タツヤに向けて、

『ここからが本番だぜ?』

 と言った。それはどういうことかと、タツヤたちはヒロトを見つめる。その瞬間。ボールからスタジアムを呑み込むほどの黒い爆発が起こった。これにはタツヤたちも防御の構えを取るしかなく、ただ必殺技が過ぎるのを待った。すると、黒い爆発は次第に白い爆風となり、その爆発より上に居たヒロトは、念を込めて作られた白い蛇が絡みついた大剣を右手に持つ。その瞬間、端末に新たな文字が展開された。

device(デバイス)…!? つくしさん! これ!」

 杏奈が端末を見せると、大谷は驚愕する。

「え!? デバイスなんて、そんなの無かったよね!?」

 なんとそこには、spectrum(スペクトル)という文字の下に『グングニル』という文字が加筆されていたのだ。

「まさか…ヒロトさんの持っているあの剣が、デバイスなんじゃ…」

 茜の言う通り、あれオーディンのデバイス、グングニルだった。

「宇宙を創りだす…これが、本物のザ・エクスプロージョンだッ!!」

 ヒロトが白き爆発にグングニルを刺すと、白き爆発はまるでビックバンのように破裂し、グングニルの切っ先の方向、いわゆるユースティティアのゴールへと大きな爆発を起こしながらゴールに向かう。

『骸のキンギョソウ!』

 キンギョソウの近くに現れた骸骨たちが、ボールとゴールとの間に炎の壁を創りだす。枯れたキンギョソウの花は、骸骨の見た目をしているからだ。

 一時は炎の壁に抑え込まれていたが、グングニルは軍勢に必ず勝利をもたらす槍だ。そう簡単にヒロトの勝利の炎がその程度の壁で揺らぐことなどなく、キンギョソウはゴールを許してしまった。

『ゴール! ヒロトの新必殺技で、ラストプロテクターに点を許した―!!』

「凄いです!」

「ビックバン・エクスプロージョンと名づけましょう!」

 宇宙誕生の起源となった大爆発の名で、大谷はヒロトの新必殺技の名前を決めた。

「ヒロト! 凄いじゃないか!」

「あれだけの爆発を起こすとはな…」

 円堂と風丸がハーツアンロックしたヒロトに近づき、賞賛の声をヒロトに渡す。

「これなら、絶対に勝てますよ!」

 と、坂野上もそう感じているようだ。

「皆さん見て下さい。スペクトルハーツカウンターに、デバイスという文字が追加されまして…」

 ベンチから明日人たちのところに走る杏奈が、明日人たちにスペクトルハーツカウンターの加筆された部分を明日人たちに見せる。

「グングニル…それが、ヒロトくんのデバイスなのかい?」

 英語をすらすらと呼んだ野坂は、杏奈に確認をする。

「はい、そうだと思いますが…ヒロトくん、あの剣、どこから来たんですか?」

「ん? あぁ、いつの間にか作ってたんだよ。まぁ勝利の炎が作った剣と思えばいいと思うぜ?」

 ヒロトに似つかわしくない表現の良さに、明日人たちはデバイスのことよりも、ヒロトの語彙力に驚いていた。

「むー。まさか吉良ヒロトがハーツアンロックに成功しちゃうなんて…」

 一方メリーは、ヒロトのハーツアンロックに納得をしていない表情だった。

「でも、ヒカルくらいに好きかも!」

 メリーの気持ちの移り変わりの良さに、ローズたちはずっこける。

「一星!」

 明日人が一星にパスを渡す。一星は、もしかしたら自分もヒロトのように出来るのではないかと、内心期待していた。その為、ハーツアンロックをしようと思っていたのだ。

「はい! ハーツアンロック・スペクトルフォーメーション、リライズ!」

 失敗せず、一星の考え通りにハーツアンロックを見にまとうと、一星は走り出す。すると使用率が上がって体の感覚も掴んできたのか、一星のスピードは以前より比べて速くなっている。そのスピードを利用して、一気にゴール前まで走った。

「スターライト・ミルキーウェイ!」

 ヒロトが念じてデバイスを出したのと同じように、自分も必殺技を出した時に念じてはみた。がしかし、星のレーザーはヒロトのような剣に変わることはなく、レーザーのままゴールへと向かった。

「骸のキンギョソウ!」

 しかし、デバイスなどなくてもキンギョソウはボールを受け止めきることが出来ず、ゴールに入っていった。

『ゴール! 一星の必殺技で、ラストプロテクターの点数は2点となりました! これで同点です!』

 一星が体に負荷をかけないうちにとハーツアンロックを解き、スペクトルフォーメーションだけにする。

「やったじゃん一星!」

 明日人が一星の肩に腕を回して喜ぶ。

「一星くん、デバイスは使えたかい?」

「いえ…ですが、念じることでシュートの威力は上がっていった為、何かを念じれば強くなることはわかりました」

 しかし、シュートの時点で攻撃力は高まっていた為、やはり何か念じれば強くなるのだろうかと一星は己の分析能力で仮説を野坂に立ててみる。

「俺にはよくわからないけど、これで同点だな! 一星!」

 明日人たちが喜びあっている中、観客席の南雲たちもヒロトのハーツアンロック成功に大いに喜んでいた。

「よっしゃああ!! ヒロト、ハーツアンロック成功だ!」

「まだ試合終わってないけどやったー!!」

 喜び合うのは試合が終わったあとでも出来るのだが、たった今喜んでいるということは、それだけヒロトのことを思っているからであろう。

「瞳子。記憶は、あるからこそ人は成長する。かもしれないな…」

「そうですね…父さん。哀しい記憶も、トラウマも、一緒にあるからこそ、人は人に優しくなれる。そうですよね」

 目の前の試合に、胸に火の塊のようなものがこみ上げているヒロトを見ながら、瞳子と星二郎は話し合う。

「これで決めよう! ヒロト!」

 試合は高騰に包まれ、明日人たちは胸の高鳴りと勝利への希望を抱えたまま走っていた。ヒロトのハーツアンロックにも成功し、まさに光が見えたその時だった。

「あぁ! ビックバン…」

 

 

「ミラーフォース♪」

 

 タツヤの声かけに応じ、ヒロトはもう一度シュートを決めようとした。だがその時、メリーのミラーフォースが発動し、ヒロトのシュートがミラーフォースを壊すような形になってしまった。だがヒロトは、ミラーフォース諸共シュートを決めようと足の力を強める。

「ばーん!」

 だがその時、メリーがハサミをミラーフォースに投げ、ヒビを作ったのだ。そのヒビは徐々に大きくなり、やがて壊れたミラーフォースの破片と共にヒロトは吹き飛ばされる。

「ぐあっ!」

 突然の爆破に、ヒロトは受け身を取れず、フィールドのゴールからゴールへと受け身も取れないまま転がる。

「ヒロト!」

「う、ぐ…」

 円堂のゴール前でやっと止まったものの、転がっている最中で傷ついた体に、ヒロトは体をふらつかせながら立ち上がった。だが、すぐに立膝をついてしまう。

「ヒカルも好きだけど、貴方も好きかな~♪」

 メリーの身長が足らない為、メリーは翼を出して身長をカバーすると、ヒロトの顎を掴んで無理やり自分と目を合わせてくる。

「ハーツアンロック…っていうのがあっても、私達ユースティティアの天使には勝てない。それに、神様たちはいつでも私たちに味方してくれる。貴方たちに勝ち目なんてないの」

 試合前に言った、テミス改革を神たちは賛同しているという証言。それが本当なら、この地上は絶望的だろう。しかし、ヒロトは調子に乗っているメリーを見て、ニヤリとその口角を上げる。

「はっ、さてはお前馬鹿だな?」

「んー?」

 メリーがそうかな? の表情でヒロトを見つめる。

「自分が誰かに愛されている瞬間こそ、自分が誰かに愛されていることに気づかねぇもんだぜ?」

「それが、どうしたの?」

「俺は、自分が愛されていることに気づけたんだよ、やっとな。そして俺は…」

 その瞬間、ヒロトから発せられた衝撃波でメリーは吹き飛ばされるも、翼によってなんとか空中で受け身を取る。

「人間から『神』になったんだよ。『ユースティティアの天使共を倒す神』にな。ハーツアンロック・スペクトルフォーメーション! リライズ!」

 なんとヒロトは、スペクトルフォーメーションと、ハーツアンロックの二つの変身を同時にしたのだ。

「一星くんのように同時に!?」

 ヒロトの髪色が変わると同時に、ヒロトの服装もハーツアンロックの服装に変わる。

「いくぞタツヤ!」

「あぁ!」

 タツヤは、ハーツアンロックしたヒロトに追いつく為、限界を越えたスピードでヒロトの隣を走り、ゴール前まで一気に辿りつく。

『コズミックブラスター! グラム!』

 ザ・エクスプロージョンと流星ブレードのオーバーライド技であるコズミックブラスターを、さらに強化したコズミックブラスター・グラムでシュートを決める。そのボールの威力はもはやビックバンそのものであり、ボールの風圧にタツヤが吹き飛ばされそうになるが、ヒロトがタツヤの手を握ったことで食い止める。

「骸のキンギョソウ!」

 キンギョソウが必殺技でなんとか止めようとするも、ビッグバン並みのシュートにキンギョソウはその爆発に巻き込まれてしまう。その間にもボールはゴールの中に入ってしまった。

『ゴール! 3-2、ラストプロテクターの勝利で試合終了です!』

 明日人たちが勝利を喜びあっている中、タツヤとヒロトは拳合わせで自分達の勝利を分かち合う。

「あーあ、負けちゃった。しばらくはこの地の救済は出来なさそうだなー」

 つまんないなー。そう言いながら、メリーは昇降口からスタジアムを出てしまった。

 

 ***

 

「…ということがあって、キリストは神の右座についたんだよ」

 試合後、明日人たち二年生は、皆で集まって課題に取り組んでいた。隣の人が答えを教えたり、先生役の夜舞が居てくれるおかげで、なんとか終わりそうだった。なお、今夜舞が読んでいるのは、図書館で借りた新約聖書の一部だ。

「キリストは、神になったの?」

「ううん、キリストは「神の子供」ともいえるし、『言葉』ともいえる。神になったかどうかはわからないよ」

 夜舞が本を閉じると、今度は歴史の本を読んだ。

「でも。わからない、知らないことがあるから、人は真実を知りたくなるのかな」

 野坂が詩人のようにつぶやくと、西蔭の少し輝いているのを基山は見ていた。

「まぁ、真実は時に残酷ともいえるよな」

「その真実をどう受け止められるか、どう未来に受け継ぐのかを考えるのが、過去を知る一歩なのかもね」

 そうだよね! と明日人が基山の言ったことに便乗する。その時、ロビーのインターホンが鳴り響いた。だいたいは監督の趙金雲が出てくれるため、明日人たちは無視して課題に取り組んでいた。

「ヒロト、いるかしら」

「…は?」

 ヒロトにとって酷く聞いた誰かの声がロビーに響き、ヒロトはすぐにロビーへと走った。それを追いかけて明日人たちもいく。

「親父! 姉貴!?」

 ロビーにはなんと瞳子と星二郎が来ており、それにヒロトは思わず親が来たことに赤面した。

「これからもヒロトが世話になると思って、お土産を持ってきたの。どうぞ」

 そう言って瞳子は明日人たちに大量のプレゼントを渡す。それはとても重く、西蔭にも手伝って貰わないと無理そうだ。

「そうだ、ヒロトの昔話でもどうかな」

「ヒロトの昔!? 知りたい知りたい!」

 明日人がヒロトの昔話を聞きたいと星二郎にせがむ。

「あれはな、ヒロトが一歳の頃、初めてヒロトが…」

 

「やめろおおおおお!!」

 

 昔のことを話される恥ずかしさに、ヒロトは思わず星次郎を蹴り飛ばした。

「あー! 駄目だよヒロトくん! お父さん蹴り飛ばしちゃ!」

「ヒロト! 謝りなさい!」

「うるせー! 昔の話はされたくねー!」

 

 

 

 

 

 

 数多の生と死を乗り越え、彼はやっと『人間』になれた。

 

 

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