「この世界は、よりよい道に進むべきなの。だけど、人間はもうそんなことをする知恵と勇気を失ってしまった。だから秩序の天使である私が、この世界を導いていく」
メリー・エウノミアー。負傷し倒れたレンの次のユースティティアのキャプテンであり、狂気的で忘れんぼで無邪気な性格の天使で、ラストプロテクターの一星とヒロトを好いていた。しかし、いま目の前に居るメリーは、以前の可愛らしいメリーなどではなく、感情を失った天使として君臨してしまった。魔法少女という彼女の夢を消してまでも、彼女はこの[[rb:仮初 > かりそめ]]の平和で満たされた世界を嫌ったのだろう。
「ボールは貴方達からでいいよ。『公平』の天使のレンお兄様がそうしていたから」
すっかり天使の風格になってしまったメリーを見て、明日人たちは緊迫とした空気になりながらもメリーに差し出されたボールを見ていた。きっと、前のようにはいかないだろう。しかし、レンのドイツ国会襲撃の件を任せてくれたクラリオたちの為にも、この試合には勝たなくてはならない。
「あれ? 監督は?」
今か今かと試合の始まりを待っている明日人たちを見守る中、ベンチの違和感に気づいた大谷が、趙金雲の不在に気づく。さっきまでここでスマホゲームをしていたというのに。一体どこに行ってしまったのだろう。
「子分くん、監督がどこにいったかわかる?」
「親分なら、ドイツに行きましたよ?」
「ええ!?」
趙金雲の隣にいつもいる李子分に、趙金雲がそこに言ったかを大谷が訪ねると、李子分は無垢な表情(仮面を被っている為、見えないが)で、趙金雲の不在の理由を話す。するとマネージャーの三人は、趙金雲の不在の理由に、脱力感と共に驚いた。
「こんな緊急時に何をしているの!?」
「宮野さん、親分はそういう人でして…」
茜はこのチームに入ってまだそこまで日も深くないので、趙金雲の突拍子もない行動を見るのはこれが初だ。そのため、大谷と杏奈なら額に汗をかくだけな行動を茜は真面目に突っ込んだ。その突っ込みに、李子分はおろおろするしかなかった。
「…ベルナルド。監督、頼んだよ」
「あぁ」
趙金雲が居ないことをマネージャーの話から聞き耳し、折谷はベルナルドに代わりを務めるように言い渡す。するとベルナルドは、あっさりと承諾した。監督の経験があるかもしれないが、もしかしたらその瞳にはオリオン財団を壊されたことへの憎悪の念が含まれているのかもしれない。
「これが、ユースティティアの天使? なんだかメディアで見た時のとは印象が違うような…」
随分印象の変わったメリーを見て、何かが違うとユリカは感じたようだった。しかも、マリクはそれと同時に何かオーラを感じていた。
「なんだか、レンの時とは違うオーラを感じるよ…」
「レンは「公平」の天使、メリーは「秩序」の天使だから…オーラが違うのも納得がいくよ」
そうなの? とマリクはルースに尋ねると、ルースが自分で言ったんじゃないの? と言い返す。
『さぁ! ロシアの全国民をかけた、聖戦が始まろうとしています!』
実況の声がスタジアムに響く中、観客席はラストプロテクターへの期待の声でいっぱいだった。
ラストプロテクターのスタメンが、ベルナルドによって決まった。
GK 円堂
DF 夜舞 吹雪 坂野上
MF 明日人 野坂 灰崎 フロイ
FW 一星 豪炎寺 ヒロト
いつもの円堂を筆頭に、ハーツアンロック所持者のヒロトと一星を筆頭にした、攻撃型のフォーメーションとなった。そして、自らスタメンになることを希望した、フロイを合わせたフォーメーションで挑むことになった。
「野坂さん」
「ん? 何かな」
FWをやることとなり、少し不安を持っている一星が、野坂に声をかける。一星の言いたい事を察した野坂は、参謀からの相談を聞くことにした。
「俺、FWとしてちゃんとやれるでしょうか…」
確かに、一星はFWになることに対してプレッシャーを抱えていた。しかし、このスタメンは趙金雲の代わりとして監督になったベルナルドが提示したフォーメーションであり、一星は自分がFWをやることに緊張しているようだ。
「ヒカル、今は兄さんを信じるんだ。きっと、何か策があるのかもしれないよ」
「あぁ、とりあえずやってみよう。フォーメーションのチェンジは、ベルナルドさんに言えばいい」
一星から野坂への相談だというのに、フロイが割り込んできたことに対して野坂は少し眉がピクッと動きながらも、平然とした顔で一星の不安を晴天のように晴らす。
「一星! 攻撃、任せたよ!」
「明日人くん…はい!」
かつて自分を救ってくれた明日人の励ましが、一星の不安を晴らしたのか、一星は元気よく答えた。
「(ハーツアンロックの新機能を使うためにも、このフォーメーションが大事だ…)」
ベルナルドは、ベンチで膝を組みながら、ハーツアンロックンの新機能のことを考えていた。
キックオフはラストプロテクターからとなり、まずは豪炎寺から一星にボールが渡った。勿論敵がボールを奪おうと襲いかかってくる。しかし一星は、ここでスペクトルフォーメーションを発動した。
「スペクトルフォーメーション! リライズ!」
一星の戦法はこうだ。まず蠍のスペクトルフォーメーションで走力を上げ、ボールを一気に前に運ぶ。そして敵が自分の走力に追いついていない間に、強力なシュート技を持つFWにボールを渡すというものだった。
そのFWとは、ヒロトだった。
「ヒロトさん!」
一星からのパスを、すぐにヒロトはトラップで受け取る。
「(そういうことか!)ハーツアンロック! リライズ!」
一星の意図を理解したヒロトは、ハーツアンロックで自身のステータスの強化とデバイスの選択を増やした。そして、ローラースケートに変わった靴でフィールドを滑りながらドリブルすると、ヒロトはシュートの体制に入った。
『ビッグバン・エクスプロージョン!』
スタジアムを包み込むほどの爆発をしているというのに、狙ったところには逃がさないというスタイルはまさにヒロトに似合っており、一点集中型のシュートでユースティティアのゴールにシュートする。
「骸のキンギョソウ! 改!」
以前よりも強化された、キンギョソウのキーパー技。しかし、強化されたとしても、強力な必殺技+ハーツアンロックの力には、強化された必殺技など無駄だった。
『ゴール! 先に先制点を奪ったのは、ヒロトだぁ!』
ヒロトと一星がハイタッチを交わしている中、ベンチに居た選手らは高く空に打ち上げられるような興奮と共に、点を取ったことによって活気が増していた。
「なるほど、一星の意向を見抜いたうえでのシュート。シンプルそうで実は難しい戦法だな」
鬼道は二人の連係プレーの解説をしながらも、興奮しているようだ。
「なるほど、ベルナルドさんがこのフォーメーションにしたのは、この為だったからなんですね!」
タツヤはヒロトとの一星の連携プレーから、ベルナルドがなぜ一星をFWにしたのかの意図を見抜いた。
「やるじゃねぇか」
不動は趙金雲の代わりとして就いたベルナルドはちゃんと出来るかどうか疑っていたが、どうやらその心配はなさそうだ。
「おおー! 今日の二人には驚かされることばかりだよ!」
その頃グラウンドでは、二人の息の入った連係プレーに夜舞は目を輝かせていた。
「凄いじゃん一星! ヒロト!」
「そ、そうですか…? 明日人くん」
明日人に褒められ、一星は照れた表情を見せる。
「あの子たち、まだ真の力を秘めていたのね」
ハーツアンロックは、人間が次の段階に進む為の第一歩となる存在。まだ見ぬ進化を秘めているのは確かであろう。しかし、メリーはそれが気にくわなかった。
「(人間が天使に適うはずがない。その秩序は、守らなければいけないの)」
ボールがユースティティアのものとなり、メリーがボールをパスして再開する。そして、メリーにボールが渡ったその時、ハーツアンロックをした一星がメリーに詰め寄ったのだ。
「ブルースターダスト!」
一星の背中から現れる無数の星の光に、メリーは包まれる。しかしメリーが目を瞑っている間に、一星はメリーを突破していた。
「今度は俺が! スターライト・ミルキーウェイ!」
必殺シュートを出す際に、一星は強い力で念じた。
右手に何か柄のような細長い長方形のようなオーラの塊が作られるのを感じる。
しかし、その塊は実体化することなく、オーラのまま一星の右手に滞在したままで、デバイスとなることはなかった。
『ゴール! ラストプロテクター! またしても点を取りました!』
またしても点を取り、明日人たちは闘気に満ち溢れていた。しかし、一星はデバイスが出せなかったことに悔しい感情をいだいていた。
『ここで前半終了です!』
***
ハーフタイムで、明日人たちがベンチで休憩していると、大谷と茜は先ほどのプレーに対して、感想を述べていた。
「さっきの凄かったですよね! 茜ちゃん!」
「うん!」
「まるで以心伝心しているみたいでした!」
大谷と茜は先ほどのプレーに今も目を輝かせており、二人でで喜び合っていた。
確かに、一星の速さに敵が追いついていないというのもあったが、確かに一星のドリブル技術は上がっていたし、何よりヒロトの一星の意図に気づくという点でも、十分評価できるポイントだった。
「あれ、もしかして、このフォーメーションにしたのは、こういうことだったんですか? ベルナルドさん」
もしかして、と茜がベルナルドがこのフォーメーションにした理由を尋ねてみる。
「あぁ。ハーツアンロックの新たな特徴が、アンナの持っているスペクトルハーツから解析できた。だから、このフォーメーションにしたんだ。それよりも、この新しい機能の説明したいから、皆を呼んできてくれないか?」
ベルナルドが解説をする前に、皆を呼んで話を聞かせようとした。。
「……集まったみたいだな。まずヒロトがハーツアンロックを解放した際に、私はヒロトのハーツアンロックのステータスがいつもより上昇していることに気づいた。そのデータを元に、私たちはこれまでアンナが取ってきたデータの中から共通点を見つけると共に、ハーツアンロックの新たな機能についてを調べた。そして、あることがわかった。それが『U-Z レゾナンス・ソウル・トランセンド』だ」
「U-Z レゾナンス・ソウル・トランセンド…」
「うーん…まるで、週刊少年チョップに出てくる漫画の必殺技みたいだな…」
明日人がその単語を復唱したその時、剛陣が週刊少年チョップの漫画のことを思い出し、それに出てくる必殺技みたいだと零した。案外真剣に話すものだから、明日人たちはずっこけるしかなかった。
「今それとは関係ないですよね!?」
「いや~どうしても思い出しちまってよ~。あ、そうだ。あとで週刊少年チョップの金貸してくれよ。今ちょっと金が足りなくてな…」
「いくら剛陣先輩が給与金貰ってないからって貸しませんよ!」
それで酷い目にあったんですからね! という明日人に、円堂達は何があったんだ…と心の中で思った。
「だが、主戦力になるのは間違いないだろうな」
「お金の貸し借りは駄目だとしても、本当にすごい機能だよね。ハーツアンロックって…」
風丸と夜舞が、ハーツアンロックの奥深さに改めて実感を感じていた。
「そもそもハーツアンロックは今だにわかっていないことが多い。仮定として『細胞構築型変身説』を私たちは提唱した。それはハーツアンロック所持者の細胞が、怪異という概念によって活性化し、それがハーツアンロックに繋がっているのではないかと考えた。この説が正しければ、U-Z レゾナンス・ソウル・トランセンドはヒロトの細胞とヒカルの細胞とのシンクロによって…」
「あ、あの、難しくて理解できません…」
ハーツアンロックの新しい機能がU-Z レゾナンス・ソウル・トランセンドだということはわかったが、ハーツアンロックがなぜ起きるかという説をベルナルドは説明し始めてしまった為、鬼道などの頭のいい人以外の大谷たちは単語の難しさに思わず根を上げた。
「そうか? なら、アンナから聞くといい」
「はい。皆さん、ベルナルドさんが言いたいのは、恐らくヒロトくんのハーツアンロックと一星くんのハーツアンロックとの共鳴によって生じる現象のことを言いたいんじゃないでしょうか」
「現象か…もしかしたら、ハーツアンロックによって会う合わないがあるんじゃないのか?」
「確かに水神矢くんの言う通り、無理にレゾナンス・ソウル・トランセンドをしたら、適合率のこともあるだろうし、お互いが傷ついちゃうんじゃないのかい?」
水神矢とアフロディが、個人的に思ったことをベルナルドに質問した。
「そこらのことは、ハーツアンロックの系統とモデル、適合率に怪異との相性、そしてデバイスなどの調子を見てこれから決める予定だ。しかし、今は実験対象があまりにも少なすぎる。こういうのもアレだが、もう一人ハーツアンロック所持者が欲しいところだな…」
出来れば系統の違うもので。とベルナルドは愚痴をこぼした。
「あの、今思ったんですけど、U-Z レゾナンス・ソウル・トランセンドって長くありませんか?」
ベルナルドの愚痴を苦笑いで聞いていると、大谷がハーツアンロックの新しい機能の名前が長すぎると言ってきた。
「…確かに長いとは思ったが、名前を変える候補はあるのか?」
「ありますよ! 力を合わせるという意味で、『ユニゾン』です!」
大谷の決定力の高さとネーミングセンスに、明日人たちは思わず度肝を抜いた。
「凄いよ大谷先輩…! こんなにも腑に落ちる改名案を出しちゃうなんて…!」
「そうだ! いっそのこと大谷に名前を決めてもらおうぜ!」
ヒロトのビックバン・エクスプロージョンの時も、凄くかっこいいって思ったもんな! と、円堂はこれから大谷に必殺技の名前や長い名前の改名をしてもらおうと考えた。
***
試合が後半戦となり、攻撃がユースティティアの番になっても、一星はボールを前に運んでいく。
「もう一度行きましょう! ヒロトさん!」
もはやこの二人に勝てる物等いない。そう思い、明日人たちの士気はどんどん上がっていった。
しかしその時、メリーが二人の前に立ちはだかる。
「人が天使を越えるなんて、あってはならないことなの」
その瞬間、メリーのハサミは白いランタンの中に長い棒を通し、横には十字架のような太い木材の長方形が取りつけられた、まさに天使のような杖に変わっていた。
「そんなもんで俺達を…!?」
ヒロトがメリーを突破しようと前に進もうとしたが、ヒロトの中にある感が「これ以上は行ってはいけない」と指示しており、すぐにその指示を一星にも伝えようとしたが、もう遅かった。
『ホーリーマジック・ブレードアタック!』」
メリーの持っているロッドの先が、ガチャンガチャンと機械のように変形していき、それは大きな薙刀のようになった。その薙刀でメリーは、空間を切りながらヒロトたちを突破した。一見何もないように見えたが、その直後にメリーが切ったであろう残像による刃が、一気に一星の体を傷つけた。
「一星!」
ヒロトは己の感で刃には当たらなかったが、一星は先ほどの刃によって、していた筈のハーツアンロックもスペクトルフォーメーションも解除され、その場に倒れてしまった。
『おっとぉ! ここで一星が倒れてしまいました! これから担架によって運ばれる模様です!』
「一星! 大丈夫か!?」
明日人が急いで駆けつけ、一星を呼ぶ。しかし、一星の呼吸は荒く、そして青色の痣が全身に出来ていた。
「酷い傷…」
担架によってベンチに運ばれ、大谷たちの手によって手当しようとする。だが、茜が一星の体に触れたその時、茜に弱い電流が体の中に走り、茜は思わず一星の体に触れた手を抑えながら一星の体からその手を離した。
「茜?」
灰崎が茜の方にしゃがみ、様子を聞くと、茜は話し出した。
「凌兵、なんだか一星くんの体に触れようとしたら、右手に電流が走って…」
茜が右手の指先を左手で抑えていると、杏奈が折谷に異常を伝えた。
「折谷さん! これを…!」
「なっ、これは…」
「それに、一星くんのハーツアンロック、そしてスペクトルフォーメーションの欄が、謎の鎖によってバツの字で拘束されています!」
「なんだって!」
一星の異常に明日人たちが気づく。
「杏奈さん、それは本当かい?」
「うん。野坂くんこれを見て」
杏奈はスペクトルハーツのカメラアプリを起動し、一星を映したのを野坂に見せる。すると野坂は、目を見開いた。そこには、スペクトルハーツによってでしか見えない鎖によって体を縛られた、一星の姿があった。
「野坂、何が____一星!」
明日人が野坂の様子を見て、自分もスペクトルハーツの画面を見た。その画面を見て、明日人は一星の体に触れようとしたが、明日人も一星の体から発する電流によって右手を抑えた。
「大変なんだ! 一星が謎の鎖によって縛られてて…」
円堂達は、最初は明日人のいうことが理解できなかったが、杏奈が見せた画像によって、明日人のいうことが本当であることを理解した。
「っあ…ン…!!」
一星は見えていないが謎の鎖によって体を絞めつけられており、その苦痛は上手く声に出せない程であろう。
「まさか、メリーの技に何かされたからか…?」
豪炎寺が、一星になぜ異変が起きたのかの予測を立てる。だとしたら、あのメリーの技に触れてしまったら、一星みたいになるのだろう。
「(まずいな…)」
その頃ベルナルドは、自分の戦法が簡単に破られたことに心が揺らぎながらも、すぐに次の戦術を考えていた。
「とにかく、一星はこれ以上試合続行は無理そうだな…代わりは…」
風丸が一星との交代相手を要請する。
「よし! ここは俺が…」
剛陣が意気揚々に名乗りを上げたその瞬間、手を挙げた者がいた。
『私が行くよ!』
夜舞だった。
「いいのか? お前DF…」
しかし、夜舞はディフェンダー。勝ちたいという気持ちは一緒でも、ディフェンダーがフォワードをするのは大丈夫なのかと明日人たちは不安になっていた。
「大丈夫だよ! 明日人くん! 私こう見えてFWもMFもGKもやったことがあるから!」
しかし夜舞は自分の経験を話し、大丈夫だということを皆に伝える。後ろで剛陣がちくしょー! と嘆いていながら。
『負傷した一星の代わりに、夜舞がFWに、そして夜舞の代わりに水神矢が入りました!』
「夜舞、出来るか?」
「はい!」
ぴょんぴょんとフォワードのフォームに切り替えているところに、豪炎寺が話しかける。それに夜舞は、自信満々に答える。
試合停止した場合のドロップキックで、試合が再開される。
「明日人くん。僕たちが突破口を開く。だから灰崎くんとで時間を稼いでくれ」
「わかった、、野坂」
「無理しないでね!」
第三者の夜舞と戦術の皇帝の野坂に状況を見てもらうことによって、なんとかこの状況を切り抜けようと考えた明日人は、パスを回し続けた。
『おっとぉ! ここでラストプロテクター、パスを回し続けます!』
パスを回して時間を稼いで居る中、野坂と夜舞はその目で状況を見渡した。
「(…どうやらユースティティアは、メリーを主とした陣形で進んでいるみたいだね…)」
「(このままじゃまずいかも…そうだ!)」
一言にまずいと感じた夜舞は、すぐに明日人の方へ向かった。
「明日人くん! 実はね…」
小声で、夜舞は明日人に事情を伝える。
「そうか! これなら! 野坂!」
明日人が急いで野坂の元へと走り出す。
「野坂! 今すぐザ・ジェネラルを使うんだ!」
明日人が一星のいないザ・ジェネラルを使うと言い出し、野坂は困惑した。
「だけど明日人くん、ザ・ジェネラルは一星くんが居ないと…」
「違うよ野坂くん! 皆の記憶を使ってザ・ジェネラルをするの!」
ここで夜舞の機転の良さが技を磨いた。
「…わかったよ。『必殺タクティクス、ザ・ジェネラル!』」
野坂の指から、螺旋状の赤いビームが四方八方に現れ、それは明日人たちの中に入る。そして野坂の元に帰ってきた青いビームを全選手に共有するというものだった。
しかしその中で一つだけ憎悪に満ち溢れたものがあった。
「これは…フロイくんの記憶…?」
「そんなもの、無駄だよ」
しかしメリーは、ザ・ジェネラルの力によって機転がよくなった明日人たちの前でさえ、天使の実力を見せつけてきた。
「ザ・ジェネラルでなんとかなったんじゃねぇのかよ!?」
「今のは皆の記憶を頼りにしたザ・ジェネラルだ。不完全なのも無理はないよ…」
確かに一星が抜けたロスは大きい。なぜなら明日人たちは、今まで一星の分析能力を頼りに動いてきたからだ。
「どんなに強いチームでも、弱点を突けば必ずボロが出る。それが今の貴方たちなの」
メリーがそう明日人たちに言い放ちながら、メリーは桃色の翼を、白色にして輝かせた。
『博愛、希望、知恵、正義、忍耐、節制、信仰という、人間にあるべくしてある七つの秩序。今日ここから、人々は私の秩序に従ってもらうの』
メリーの杖を天に掲げると、雲の切れ間から巨大な神の手が現れる。しかしそれは人間への救いの手ではなく、天使への救いの手であった。それを証明するように、メリーたちが追った傷はたちまち回復し、明日人たちには金縛りの状態異常を与えた。
『ホーリーマジック・ゴッドオブライト!』
神の指先から、ゴール諸共消し飛ばすほどの白いビームが現れる。そのビームを避けようとしたが、メリーの金縛りの魔法によって避けることが出来ず、明日人たちはそのまま、ゴール前まで飛ばされた。
「(焦るな…ぜってぇ、止める!)」
明日人たちが吹き飛ばされていくのを見た円堂は、なんとか精神を統一させ、はあっ! という大声と共に金縛りを解いた。そして、メリーのシュートを止めようと、円堂の右手が黄色く染まった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお! 正義の鉄・拳!!!」
メリーの魔法兼神の攻撃を、己の正義で防ごうとする円堂。
しかし…
「無駄なの。それに、正義の鉄拳を下すのは、私なの」
そうメリーが眉を寄せたその時、メリーの必殺技の勢いが強まったのだ。
「ぐっ、うわぁ!!」
ゴールネットに跳ね飛ばされる瞬間、円堂は見た。
人類に滅亡の光を与える絶望の光を。
***
『な、なんということだー! メリーの必殺技によって、ゴールがただの炭になってしまったー!!!』
実況の声が、倒れた明日人たちの耳に響く。明日人たちは、あのビームに全身を包まれ、意識が戻ったときは、仰向けで倒れてしまっていたのだ。そして全員が、火傷を負ってしまっている。
「…これは、試合続行不可能だな…」
ベルナルドも、これには試合続行不可能だと判断し、宣言する。
『ここで、ラストプロテクター側から、試合続行不可能の宣言がありました! これは、ユースティティアの勝利となります!』
試合続行不可能、つまり、負け。ユースティティアから一点をもぎ取ってるというのに、前半で試合は終わってしまった。
「っ、うう…?」
試合続行不可能とラストプロテクター側が宣言したその時、一星を縛り付けていた鎖はほどけ、一星は立ち上がることが出来た。
しかし、そこで一星は見たのは、全員がグラウンドに倒れている姿だった。
「皆!」
「大丈夫ですか!?」
ベンチに居た全員が、倒れた明日人たちの元に駆けつける中、メリーは明日人たちに近づきながら、一枚の紙を突き付けた。そこには、『天界六法第17372条、天使反逆罪』と書かれた文字の隣に、赤いメリーのハンコが押されていた。
「私、気づいたの。世界を救うには、魔法少女としてじゃなくて、天使としてじゃなきゃダメなんだって。子供たちの声が国の偉い人たちに届かないのと同じで、力が無きゃ駄目なんだって」
明日人は、なんとか芝生の草を握りながら、立ち上がろうとしたが、その寸前に力が抜けてしまい、元の姿勢になってしまった。
「そして貴方達は、私の持つ秩序に記されている、『人間は天使に逆らうべからず』の法を破った。その罪の刑は、死刑に値する」
罪状と罰則の書かれた紙を突きつけながら、メリーはロッドから白い刃を取り出した。そして、それを明日人たちに向けて振りかざした!
「___ッ!!」
明日人たちが思わず目を瞑ると、自分達の頭に何かの液体が降りかかった。その感覚に気づき、明日人が目を開けると、自分の頭にはなんと赤い血が顔に垂れていた。その血が自分のものなのかと戦慄した明日人だったが、自分の目の前に膝をついた人型の物体を見て、この地が自分では無い事を察する。
その後ろ姿には、六枚の翼を生やしていた。
「……相変わらず、攻撃力だけは一人前ね…」
エレンだ。
なぜ、エレンが助けに来たのだろうかと、明日人たちは戸惑った。
エレンの行動から予測するに、バリアを張ったそうだったが、メリーの刃によってバリアは壊され、攻撃が届いてしまったのだろう。そのせいか、左わき腹からは血が流れている。
「エレン…!」
明日人が思わずその名を呟くと、エレンは明日人の方を振り向いた。そして、明日人にだけ微笑んだ。しかし、すぐにいつもの余裕そうな表情に切り替え、メリーの前に立った。
「メリー。いくらなんでも、人を殺すのはいけないわ」
傘の先でメリーの罪状に穴を空けながら、エレンはメリーの前に立ちはだかった。
「何よ、人間は人間を沢山殺しているの。今ここにいる十九人が減ったところで、何も変わらないよ。それに私の秩序に邪魔だてするなら、いくらエレンお姉さまでも殺すよ?」
確かにメリーのいうことは正論だ。間違いではない。しかし、それはエレンからすれば少しわがままのような気もしていた。そして、すっかり変わってしまったメリーを見て、エレンはため息をついた。彼女の過去はエレンもよくわかっているが、熾天使として大天使の勝手な行動を許すわけにはいかないと、エレンは口を動かした。
「そんなことしていいの? 私を殺せば貴方は熾天使を殺した堕天使だと見なされて、お父様に見放されることになるわよ」
エンジェルクロスに念を込めると、たちまちエレンに出来た傷は、止血から完全治癒までされた。
エンジェルクロスに念を込めながら、エレンは考え出した。これからどうするべきかと。
明日人たちを逃がせば、恐らくメリーは明日人を救済するという目的を忘れて、彼らを無残に殺してしまうだろう。それだけは避けなければいけない。平和の天使として、地上への被害は常に最小限にしなくてはいけない。それに、今のメリーを放っておいては危険だ。いつ人間達を皆殺しにするかわからない。まぁどっちにしろ、メリーと戦うことは決定事項のようなものなのだけれど。と、エレンはため息をもう一度ついた。
「早く逃げなさい。ここは私が食い止めるわ」
「あ、あぁ!」
返事をした円堂に続いて、他の人達もスタジアムから離れようとする。
「でもエレンは!?」
しかしエレンのことが心配な明日人は、走るのやめてエレンの方に振り向いてしまう。
「何を言っているの? 私は熾天使。大天使の問題児を叱るのには慣れているわ」
と、エレンは明日人を突き放すも、明日人は逃げようとする気配はない。
「明日人くん! 行くよ!」
明日人が来ていないことに気づいた夜舞が、明日人の腕を引っ張ってスタジアムの昇降口へと走る。それを見届けると、エレンは再びメリーに顔を向けた。
「変わってしまったわね…私の知っているメリーは、忘れんぼで無邪気で可愛いメリーよ。私は貴方をそんな風に育てた覚えなんて、[[rb:ないわ > ・・・]]」
育てた覚えなんてない。その言葉が、メリーの頭にぐわんぐわんと鳴り響く。
見捨てられた。
いや、エレンお姉さまは自分を見捨ててなんかいない。
だとしても。だとしてもメリーは、それを許すことなど出来なかった。
明日人が一星のハーツアンロックによる乗り物に乗ろうとした明日人は、向こうから地震のような振動と大きな爆発音が聞こえて、思わずエレンの居た方向に振り向いた。だが、そこにエレンなどおらず、明日人の目に写るのは暗い雲の微妙な光によって照らされた建物と、土煙だけだった。
***
『■■国会からの中継です。現在、兵器を持参していることが判明した■■国会の前では、大勢の国民が国会に対してデマを行っています』
ひとまず日本に帰国した明日人たちだったが、メリーの告白によって、世界は大混乱に包まれていた。国が兵器を持参しているということは、ネット上の特定班によって暴かれ、
今現在SNSは国の兵器持参に付いてのことで燃え上がってしまっていた。
その惨劇を、明日人たちはミーティングルームのディスプレイで見る。
明日人たちは、天使のいうことなんて皆信じないと思っていた。しかし、レンの言う通り、天使には自分の言ったことが本当だと思わせるように出来ているのだろう。誰もかれもが、メリーのいうことを信じていた。第一、国が兵器を持っているなんていう証拠はないし、仮に無かったとしてもここまでの大騒動にはならなかっただろう。
しかし、どちらにしても、明日人たちが勝っても負けても世界がこうなるのは、レンも、エレンも、わかっていたのだろう。
『次のニュースです。ロシア全土が、ユースティティアの天使の手に落ちてしまうかと思われましたが、なんとメリー・エウノミアーは、ロシア国会を自分の根城にし、ロシア大統領を従えて己の意志のままに国を変えています』
テレビキャスターの画面から、生中継の風景に変わる。見た所変わったところはなかった。
『カザニからの中継です。たった今入ったニュースによりますと、ロシア大統領は、国民に秘密で軍事兵器を持参していたことが判明し、メリーに殺されました!!』
まさかロシアの大統領がメリーに殺されたのを知って、フロイは奥歯をかみしめた。
「メリーは、一体ロシアをどこまで侵せば気が済むんだ!」
「フロイ、落ち着いて」
怒りを露わにするフロイを、ユリカがなんとか鎮める。
「あれ、明日人さんは?」
「そういえば、見かけないな…」
明日人がミーティンググルームに居ないと言い出したのは、茜だった。それに続いて、灰崎たちも一斉に明日人が居ないと大騒ぎし始めた。
なお、明日人がミーティングルームを抜け出して何をしているかというと、宿所の外に出て居ていた。勿論これはいけないことだし、あとで各方面から怒られるかもしれない。だが、それでも明日人は外に出てみたかった。
明日人が街をぶらぶら歩いていると、公園に着いた。その公園はとても広く、遊具も充実していた。なにより、花畑のある高台で、そこから街の風景を見渡すことが出来た。とりあえず明日人は、高台のベンチに座って、街をぼーと眺めていた。
今、明日人がこうしてぼーとしている間にも、海の向こうでは大混乱に陥っている。それを許したのは誰なのだろうか。否。自分たちだ。いや、自分たちが勝っても、負けても、世界は必ずこうなっていただろう。だが、これは本当にメリーの言っていた秩序、なのだろうか。
「……あ」
ベンチの隣を見ると、そこにはエレンがいた。しかし、服が変わっていた。基本的な色は変わらずとして、巫女服のような振袖に、前が短くて後ろが足まであるインナーミニロングの恰好をしていた。相変わらず胸元にはケープをしていたが、それは桜色の物に変わっていた。衣替えの時期もあるだろうが、明日人は今エレンが着ている服も綺麗だと思っていた。これが、惚れた弱みなのだろうか。
「え、えっと、綺麗。だね」
「ふふっ、そう?」
綺麗だね、と明日人が言うと、エレンは恥ずかしがることなく返事をした。それに、明日人は少し戸惑った。
「あのさ、エレン。メリーとは、大丈夫だったの?」
「平気よ。だって私はこれまで何人もの天使と勝負してきたのよ? それに、メリーと戦うことなんていくらでもあるわよ。でも、攻撃力が厄介なのがちょっとね…」
「…そうなんだ」
「そのせいでロシアの建物が一部破壊しちゃったわ」
まぁ、半分はこの傘から出るビームのせいなんだけどね…と、エレンは傘の先で円を書くように振る。エレンの言葉からすると、一応勝てたということらしい。
「なぁ。エレンはさ、今の世界どう思う?」
話をするにしても、天使にすることかと思われるような質問をしてしまったが、エレンはそれでも答えてくれた。
「なんだか、SNSとかが大炎上しているっていうアレね。それにしても、メリーも派手なことをやらかしてくれたわねぇ…まぁ、あの子は独裁的なことはしないでしょうね」
まぁ、忘れんぼなのは仕方ないとして。と、エレンは返してくれた。
「エレンはさ、レンくんとか、メリーとかを止めたりしないの?」
「………」
嫌な質問をしちゃったかな、と明日人は沈黙するエレンを見て思った。
「…止めたくないわ。だって、彼らの自由を阻害してしまうことになるから」
「自由?」
すると、エレンは話し出した。天界の熾天使のことを。
「熾天使も、結構苦労するのよ? お前は熾天使だからって仲間のレンたちと一緒にご飯は食べられないし、それにずっと部屋に幽閉されてばっかいたのよ。何か面白いことが起きても、この件は貴方が出る幕じゃないってね。今はこうして自由で要られるけど、いつかは元通りの生活を送らなきゃいけない。そう思うと、自由な皆を尊重したくなるのよ」
束縛されるなんて、誰だって嫌でしょう? と、エレンは言った。
「……エレンはさ、自由でいいよな」
「…貴方も、十分自由でなくて?」
「俺は…昔…」
明日人が、昔のことを話しだそうとする。しかし、涙が零れそうになる。彼は、昔に_____。
「……辛いなら、無理に話さなくていいのよ。時間は、いつだって待っててくれるわ」
その時、エレンが明日人の頭を撫でた。顔は見えないが、恐らく明日人が泣いているのを見て、少し気を遣ったのだろう。
明日人がエレンの方へ向いた時には、エレンの居た席は一つの羽根を残して行ってしまった。
「(自由…かぁ)」
「アスト」
明日人が自由についてを考えていると、後ろから声をかけられた。そこにはベルナルドがおり、腕にはヘルメットを抱えていた。
「こんなところで何をしているんだ」
「あ、ベルナルドさん…」
皆に黙って出て行ったことに焦りを感じながら、明日人はベルナルドを下からその顔を眺める。皆心配しているぞ、と言われるかと思いきや、意外にもベルナルドは明日人の隣に腰を下ろした。
「え…?」
「世界のこと、気になっているのか?」
「……はい…」
明日人が返事すると、ベルナルドはため息をついた。しかしそれは明日人が勝手に宿所から抜け出したことのため息ではなく、ベルナルドの母親に対してのため息だった。
「マーマは、こんな世界をみて、失望したんだろうな」
マーマというのは、イリーナのことだ。ベルナルドとフロイは、イリーナの息子だったのだ。しかし、今は刑務所に居る。
「国のことはこれからも続く問題になるだろう。だが今は、自分達がやらなくてはならないことを集中しよう。それに、お前がそんな顔をしていては、周りが心配する」
帰りに何かお土産にでも買って行こうか。と、ベルナルドは明日人用のヘルマットを被せ、バイクに乗せた。ベルナルドが前、明日人がその後ろに乗ると、バイクにエンジンがかかって、進みだした。
秩序の天使が人類を滅亡させるとは、なんて皮肉なのだろう。
続く
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明日人とエレン
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不知火と月夜
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エレンとレン
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エレンとメリー
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エレンとミラ
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不知火とベルナルド
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明日人と月夜