イナズマイレブン テミスの正義   作:暁月の太陽

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今回はタイトルの意味を意味深にしてみたのと、エレンさんの秘密がわかる話となります。

もう一年も終わりますね。あと二か月くらいですね。
ちまたでは正月休みが結構増えると言いますが…皆さんはどうですか?


第二十四話 戦う者と守る者

 食堂。ミーティングルーム。自室。それぞれの部屋から、カリカリ、ごしごし、パラパラという、シャーペンと消しゴムを滑らす音と紙をめくる音が聞こえる。それを、二年生担当の杏奈は、お茶を人数分入れながら遠くで聞いていた。

 夜舞さんは、もう終わったのだろう。彼女の声を聞いて、杏奈は察する。

「春咲ちゃんの受け売りだけど、まず四角形のAB=AD、BC=DCを仮定とすれば、∠ABC=∠ADCという結論が出来る。まずは仮定と結論を求めた方がいいんだって」

「だとしても、俺夜舞とその春咲みたいにそんな頭良くないよー…」

「じゃあ、一緒に頑張ろう! 明日人くん!」

 今、夜舞は明日人に勉強を教えている。それも、全員にだ。教えているといっても、それぞれの学校で出された課題をやっているだけだが。なぜ皆がこんなに苦悩しているのかというと、彼らが陽花戸中に行き、そこで円堂の祖父円堂大介と別れ、そして花伽羅村の子供達と別れている間に、課題が溜まってしまっていたからだ。そのため、チームの全員が学校からの課題に苦しんでいることになっている。

「…前々から思っていたし、そのことを聞くのもなんだかなって思っていたけど…日本にはそうやって課題をしなきゃいけないものなのかい?」

 このチームの中で唯一課題を出されていない(ルースとマリクもだが)フロイが、食堂に居る明日人たちに課題のことを聞いた。

「まぁ、課題はしなきゃいけないからな」

「ユースティティアのことで勉強が遅れてしまうのは、ちょっとね…」

 杏奈から出された麦茶とクッキーを手にしながら、水神矢とタツヤは答えた。

「…なんだか、羨ましいよ」

 マリクとルースは、マネージャーのように一年生三年生と二年生と分かれて選手たちのケアをしているのだが、自分は選手の一人として数えられてしまっている為、マリクたちのお手伝いは出来ないのだ。おまけに明日人たちのように課題もないため、明日人たちが課題に取り組んでいる間は、暇で仕方なかったのだ。しかし、だからといって自分だけ自由にするわけにもいかなかった為、こうして明日人たちの居る食堂に座っているのだ。

「そうかァ? 俺は嫌だけどな。学校の課題なんて、てきとうにやればいいんだよ」

『にしては、ちゃんと解いているじゃありませんか』

 誤字脱字が無いかをヒロトの怪異の叶え蛇に任せてはいるもいのの、ちゃんと解いているということに明日人たちは相変わらず素直じゃないなぁと言いたそうな顔をする。本人は本当のことを言われ嫌そうな顔をしているが。

「ははは…でも、本当に羨ましいと思っているんだよ? 僕の場合、課題なんてなかったからさ」

 課題がない?

 そのことに、明日人たちは疑問を抱いた。

 明日人はフロイの家が家庭教師制のものだったからとか、もしくは学校に行けなかったからと考えていたが、野坂は何か理由があるのかと思い、フロイに問いただしてみた。

「課題がないって、どういうことだい?」

「僕も、ちゃんと学校には通っていたはずなんだよ。だけど、僕だけ皆とは違って学校から課題を貰っていなかったんだ…」

 学校に通っていた筈なのに課題を貰っていないということに、明日人たちはさらに疑問を深めた。

「へぇ…不思議だね…」

「学校に忘れていたんじゃないのかい?」

「学校に忘れていくはずがないよ。それに僕はちゃんとファイルにしまっておいたはずなんだ。それが気づいたときには無くなっているんだよ」

「まるで、お化けみたいだな…」

 お化けという水神矢に、明日人がおばけなんて居るはずがないと訴える中、ヒロトと野坂、夜舞とタツヤは本当は怖いくせにと心の中で思った。

「皆さん、昼食が終われば練習ですので、早めに課題を終わらせてくださいね」

 杏奈の報告に、明日人たちはそうだったと、急いで課題に取り組んだ。その間、食堂の厨房では昼ごはんの作る音が聞こえていた。

 

 

 

 グラウンドでは、急いで今日中の課題を終わらせた、ラストプロテクターのチームが集まっていた。

 新しくキャプテンとなった明日人は、今日も仲間に指示を出している。しかし、まだ見習いの為、皆にフォローしてもらってやっとキャプテンでいる感じだが、それでも無理せずやってきている。

「稲森、今日は無理せずに頑張っているな」

「あぁ、陽花戸中に居た時は無理して倒れていたからな」

 鬼道と豪炎寺が、無理していないかと明日人を心配していたが、今のところ大丈夫そうだ。

「あー疲れたー!」

 休憩に入った瞬間、明日人は室内グラウンドの芝生に寝転がった。人工芝とはいえ、汗で揺れたユニホームに芝生のみずみずしさが染みて、とても気持ちよかった。

「明日人さん、練習お疲れさま」

 すると、茜が明日人専用のスポーツドリンクを持ってきた。

「お、ありがとう!」

 それを受け取り、蓋を開けてすぐに飲み干した。

「これからの予定としては、今から五分後に国からの給付金。そしてその三十五分後に氷浦さんたちがいる稲妻病院に行く予定です!」

「うん、わかった! あと、敬語じゃなくてもいいよ。なんか敬語って、ムズムズするからさ」

「え、そうなの? じゃあ…明日人くん! でどうかな?」

 自分を明日人くんと呼ぶのに少し時間がかかった一星とは違い、茜はすぐに受け入れてくれたようだ。

「うん! それでいいよ!」

 明日人も、茜が自分の名を呼んでくれたことを嬉しく思っているようだ。

 

 ***

 

 日傘を刺しながら散歩していたエレンは、宿所の傍でぽつんと咲いている、小さな花を見ていた。その花の名前はシロツメクサで、人が幼い頃にはこの花を摘んで花束にしてみたり、この花で花冠を作ったりしていただろう。

「ふふっ…」

 エレンは花の茎を、まるで猫を撫でるかのように触る。それも、花が傷つかぬように。

「……エレン?」

 しばらくエレンが花を見ていると、給付金を受け取り、たまたま近くを通りかかった明日人がエレンに声をかけたのだ。その声に、エレンは花から手を放し、明日人の方を向きながら立ち上がる。

「あら、なんの用かしら」

「いや、ここで何をしているのかなって」

「ふふっ、花を見ていただけよ」

 エレンの近くに咲いている花を見て、明日人は花を見ていたことは本当なんだと察した。それを知り、エレンは花が好きなのかと明日人は考える。

「そうなんだ…エレンは、花が好きなんだね」

「……」

 まるでエレンを、人間のように接する明日人を見て、エレンは不思議だと感じざるを得なかった。別に天使を崇拝しろとは言わない(むしろ信仰者とかどうでもいい)が、まるで自分が天使ではないかのように話をする明日人を見て、エレンは何かがモヤモヤする感覚がした。

「………貴方はどう?」

「俺? 俺は、なんというか、どちらかといえば、百合の花が好き。なんかさ、母ちゃんの名前が『百合子』だからさ。馴染みがあるのかな」

「…そう」

 ()()()。その名前を聞いて、エレンは一瞬体を強張らせた。しかし、それは偶然だと、エレンは自分で解釈をし、明日人と話を続けた。

 明日人からすれば、自分は天使の統率者。その統率者が目の前にいるとなって、彼は周りに助けを呼ばないのか、逃げないのかと、エレンは公園で会ったときからそう思っていた。

「それにしても、今日は寒いね。中に入ろうよ。お茶用意するからさ」

「ありがとう。貴方は優しいのね」

 自分の動揺を隠すようにエレンは微笑み、それと同時に彼のことを『おかしい』と感じ始めていた。

 だが、自然に体は彼に着いていく。

 

 

 

「それにしても、私を部屋に入れるなんて、正直驚いたわ」

「へーエレンでも驚くことってあるんだな」

 緑茶を二人分入れた明日人は、お茶をエレンに渡す。

「ふふふ、私でも驚くことはあるわよ」

 と、エレンは口を隠しながら笑った。それを見て、明日人は本当に綺麗な人(?)だなと思った。

「それにしても…一人部屋になったのね。広々としてていい感じだわ」

「そうかな…俺は、二人部屋の方がよかったかな。だって、一人は寂しいからさ…」

 エレンは、初耳だった。明日人は、いつも仲間に囲まれているから、てっきり寂しいと考えたことがないのかと思っていた。しかし、それは間違いだった。

 かつて自分も、周りから熾天使だともてはやされて、部下のレンたちに中々会うことも出来なかった。そして、いつも一人の部屋でたい焼きを食べていた。

 その過去もあってか、エレンは明日人に情を感じていた。

「…貴方って、私と同じなのね。私も、一人は少し寂しいわ」

「…え! 意外…」

 エレンはきっと皆から愛されて、寂しいと思ったことがないんじゃないかと、明日人は思っていた。しかし、意外にも、彼女も明日人と同じ一人は寂しいと思っていたようだった。

「意外もなにも、私だって寂しいと思ったことはあるわ」

「そうなんだ…エレンのことだから、寂しいって思ったことは無いのかなって思ってた…」

「あら、私だって貴方が寂しいって聞いて、少し意外だなって感じていたわよ。……まぁ、だから私はこうして旅をしているのだと思うけど」

 旅と聞いて、明日人はエレンが何かを探しているのではないのかと感じていた。

「エレン、君は何かを探す為に旅をしているの?」

「そう、私はね、()()を探しているの。気がつけば私は、フォルセティと名の神に保護されたわ。でも、その時の私の年齢は、人間でいえば十二歳。天使は人間と同じ、赤ん坊から生まれて、大人になっていくはずなのに、私だけ十二歳のままなの。これって、おかしいとは思わない?」

 おかしいもなにも、天使も人と同じように生まれるんだと知って、明日人は驚きを隠せないでいたが。

「だから私は、自分がどこに生まれて、何をする為に生きているのかを探しているの。この前伊那国島に来た時も、そうだったわ」

「そう…なんだ。だから、エレンは俺の故郷の伊那国島に来たんだね…」

「それで、私に惚れたのね」

「ほ、惚れてなんかないよ! …あっ」

 エレンは、明日人が自分に惚れていることを知っていた為、言葉による誘導で明日人が自分に惚れているという認識を改めてさせる為に、こうして誘導したのだ。そのため、エレンは何か優越感を感じていた。

 一方で明日人は、エレンのことを他のユースティティアの天使とは何かが違う、別の天使だと思っていた。それが恋なのかは、明日人にはわからなかった。そもそも、あのてっぺん崖で会ったときから、自分はエレンに惚れてしまっていたかもしれない。花伽羅村の時でも、自然と彼女の顔を探していたし。しかし、それをエレンに伝える勇気はなかった。

 だが、こうして今、エレンに惚れていることが本人にバレてしまったが。

「……うん。実はあの時会った時から、俺、ずっとエレンに惚れていた。花伽羅村でも、君が入ってくるのを見たっていう話を聞いて、ずっと君に会えないかなって思っていた。でも、君はユースティティアの天使の統率者で、俺達の敵だってわかった時、胸が苦しくなった。でも、今は苦しくない。むしろ、エレンと話せてうれしいんだ」

 そうなのね。と、エレンは話を聞いてそう思った。そして、自分も今、明日人と話せて嬉しいと思っている。

 しかし、自分は他のユースティティアの天使とは違う。それだけは伝えようと思っていた。

「…話の途中で悪いけれど、私は貴方を救済するつもりなんてないわ」

「え、なんで? ユースティティアの天使でしょ?」

 すると、明日人は一瞬目を見開き、自分を救済しないことに驚いているようだった。

「じゃあ、その天使をなんで、部屋に入れているの?」

「……それは、エレンのことを、信じているから」

 明日人が細々とした声を出しながらの回答に、エレンは思わず笑いだした。

「あははははは! 貴方って随分面白い答えを出すのね!」

「な、なんだよー!」

 明日人が頬を膨らませる。それにエレンがまた笑い出す。

「信じるって結構難しいのに、貴方は私を信じて、部屋に入れているのね」

「そ、そりゃあ、だって、エレンは他の天使とは違って俺を無理やり攫おうとしないし…」

「そりゃそうよ。だって、私はそんなに手荒な真似はしないわ。それに、私は貴方のことを大事だと思っているのよ? なんというか、()()()()()()()という思いが先行しているのかしら」

「だ、大事……でも、なんで救済したくないの?」

 大事だと言われ、明日人は頬を染めた。それって、自分のことを好きだと言っているようなものではないかと。

「私は平和の天使。人と天使との関係を悪くするようなことはしたくないわ。何度もいうのだけれど、私は人と戦いたくないの。だって、人と戦ったって、何も得られないわよ。せいぜい、死者が出るだけよ」

 エレンが平和の天使である理由を話しているうちに、明日人は自然と奥歯を噛みしめていた。しかし、これはサッカーが奪われたことや、自分を救済しようとする天使への憎しみの感情ではなく、もっと別の感情があった。

「…じゃあ、俺達とユースティティアの戦いを止めることはできないのかよ…! ユースティティアの天使との闘いで既に、俺たち人間と天使の関係は乱れてる。サッカー禁止令の件も、オリオン財団の件でも、俺たち人間は、エレンたち天使のことを『悪』だと認識されている。一部は違うかもしれないけど…でも、母ちゃんが言ってたんだ。「天使はいつでも、辛い人間に寄り添って助ける」んだって。……エレンは、天使たちの統率者で、熾天使なんだよな。だったら、エレンの言っているフォルセティに頼んで、この戦いを止めさせようよ!」

 つい、強い口調で言ってしまった。それに気づいたときには遅く、エレンはお茶を床に置くと______明日人を抱きしめたのだ。

「………」

「え、エレン?」

 突然女の子に抱きしめられ、明日人の頬は少しだけピンク色に染まっていた。

「…ごめんなさい。私もなんとか、言っているつもりよ。こんなことは間違っているって」

 明日人は、その震えた声で察した。エレンは、『泣いている』のだ。

 明日人だけに。

「あ…ごめん」

「謝らなくていいの。私もなんとか、お父様に言っているわ。でも、仲間はそのことを知らないし、それにお父様は聞き入ってくれないの。世界を変えるのはテミス改革だって、取り合ってくれないのよ」

 エレンが、他の天使とは違う理由。それが今わかった気がした。

 エレンは、テミス改革を否定しているのだ。

「それに、私は全ての戦いを見守る役目があるの。だから、そこで見ていたとしても戦いを止められるわけじゃないの…」

 エレンは、一人で戦っていた。いつか起こる人と天使との戦争と止めようと、全ての父であるフォルセティに一人で立ち向かっていた。

「でも、いつかはお父様もわかってくれる。人と天使はわかりあえるって」

「…そうなんだ」

「だから、貴方も、私の意見がお父様の通るまで、絶対に救済なんかされちゃだめ。それと、私に会ったことは、皆に教えちゃだめよ。約束しましょ」

 なぜ、自分が救済されてはいけないのか。

 それも、一緒に聞きたかったが、これ以上エレンを悲しませたくないと思ったのか、聞くことが出来なかった。

「…うん。あとエレン、約束するときは、指切りげんまんをするんだよ」

「あぁ、約束するときの指切りげんまんね。わかったわ」

 小指を交わらせると、彼らは二人だけの秘密を作った。

 

 

 

「…レンお兄様、今日お父様にいい加減稲森明日人を救済しろって怒られちゃった…」

 一方で、エレンのことをあまり知らないレンとメリーは、稲森明日人についてのことを話していた。

「そうか…私自身、手荒な真似はしたくないんだがな…」

「ふーん。レンお兄様は、なるべく稲森明日人を傷つけずに救済したいんだね」

「まぁ、そうフォルセティさまから言われているからな」

 メリーはそれを聞いて、レンお兄様がいつまでも稲森明日人を救済しようとしないのは、そういう理由があるからなんだと察した。

「でも、あの稲森明日人の中に入っている怪異、厄介だよねー」

 明日人の怪異、狼の怪異は、これまで何度も明日人の救済を邪魔してきた。そのため、今でも明日人を救済出来ていないわけだ。

「しかし、そろそろやらなければいけないな。まだこれは術式が完成していないものだが、あの怪異に邪魔はされないだろう」

 と、レンは怪異払いの墨と自身の血で書いた札を見ながら、メリーと話し続ける。

 しかし、それを聞いたある一人の天使は、それだけでは明日人を救済できないと、近くで二人の会話を盗み聞きしていた。そして、天使はもう少しテコ入れが必要だと、彼らに近づいた。

 

 ***

 

「おまたせー!!」

 ラストプロテクターがバス内で明日人を待っていると、宿所から急いできた明日人が、灰崎の隣に座った。

「遅いぞ明日人!」

 それに、剛陣が明日人の遅刻を叱る。

「すみません!」

 明日人は、エレンと話している間にバスが出てしまう時間に気づき、エレンに別れを行ってから急いでここに来たのだ。

「それじゃあ、出発しようか」

 折谷がエンジンをかけ、バスは病院へと進んだ。

「……なんか、明日人の奴、妙にぼーとしてねぇか?」

 バスが病院へと進んでいる間、彼らは雑談をした菓子を食べたりとしていたのにも関わらず、明日人はぼーと窓の外を見つめるだけだった。

「明日人さん…もしかして恋をしているんじゃないんでしょうか…」

『恋!?』

 坂野上が、明日人は恋しているという発言に、大谷と剛陣が反応する。

 明日人は一瞬なんの話だ? と思って後ろを振り向いたがすぐに顔を戻した。

「恋って…あいつ、恋するようなタイプか?」

「いや、ありえるかも! だって、明日人くんはこのバスに乗り遅れてきたじゃないですか!」

 剛陣と大谷が、小声で明日人についてを話す。

「でも、確かに大谷さんの言う通りだと思います。俺も恋をした時、ぼーっとしてましたから」

「じゃあ、恋していますよ! 明日人くんに聞いてみましょう!」

「よし、それなら俺がいくぜ!」

 剛陣が立候補すると、自分のすぐ隣にいる明日人に話しかけた。

「なぁ明日人、お前って好きな人居んのか?」

「ん? 剛陣さん?」

 明日人はまるで眠そうな表情で剛陣の声に反応した。その反応の仕方に、大谷と坂野上は本当に恋しているんだと察する。

「いやさ、お前ってなんか恋してそうな反応だったからよ、少し気になっちまったんだよな」

「恋、ですか…」

 明日人の脳裏に、エレンの泣いた顔が写った。確かに自分はエレンに恋をしているかもしれない。だが、エレンに会ったことは秘密にしてほしいと本人から言われた為、明日人は剛陣に嘘をつくことにした。

「う~ん…俺、恋してますか?」

「え、してねぇのか!?」

「してるもなにも、今それどころじゃないですよ」

「ま、まぁそうだよな」

 剛陣は自分達の役目をもう一度思い出すと、確かに恋をしている暇はねぇなと思った。

「わりぃ、聞きだせなかった」

「そうですか…」

 結局明日人が恋をしているのかは聞きだせず、バスは病院についてしまった。

 

 

 病室の中心には、病院服を着こんだままボールをリフティングしている___吹雪アツヤが居た。アツヤが開かれたドアの音に気づくと、明日人たちが来たことを察し、その中の吹雪士郎に声をかけた。

「兄貴!」

「アツヤ! 怪我はもういいの?」

 吹雪もアツヤの存在に気づくと、すぐさまアツヤの方に走った。

「あぁ、復帰できたのは俺だけだ。それより兄貴、さっさとそのユースティティアの天使とかいう野郎をぶちのめしに…」

「はいはい、ちょっと待っててね」

 闘志が湧いているアツヤを制し、明日人たちに少し時間を設けるよう指示した。

「…復帰できたのは、アツヤだけみたいだな…」

 風丸があたりを見渡すも、アツヤと同じように復帰した人物はいなかった。

「はい、他の人達はまだみたいですね」

 水神矢も風丸と同じように考えていた。

「えっと、君が吹雪先輩の弟さん? 私は夜舞月夜! よろしくね!」

「あぁ、お前が第三者の夜舞か」

「うんうん!」

 お兄さんの吹雪先輩から聞いたのかな? と夜舞はアツヤに名前を呼ばれることを嬉しく思っていた。

「ああーー!!」

 すると、アツヤが突然大声を上げた。それに夜舞は思わず尻餅をつき、明日人たちは一斉にアツヤを見た。

「おま、マフラーって俺とキャラ被るじゃねぇか!」

「はぁ?」

 なんとアツヤは、マフラーをした灰崎にいちゃもんをつけており、キャラが被ると言っていた。

「ほらアツヤ、落ち着いて」

「おちつけるか兄貴!」

 何もマフラーしているだけで怒らんくてもいいのに…と明日人たちは思った。

「そういえば…確かに灰崎くんは、いつもそのマフラーをしているよね。アツヤくんの真似なのかい?」

 アツヤのいちゃもんによって、再開した時に聞きそびれてしまったことを思い出したアフロディは、今ここで聞こうと灰崎に質問してみた。

「真似じゃねぇよ、茜から貰ったんだよ」

「え、そうなのかい?」

 アフロディが茜の方を向くと、茜はほんのりと赤く頬が染まっている。それを見て、なるほどとアフロディは思ったのであった。

「マジかよ! お前ら出来てたんだな!」

『出来てねぇよ!』

『出来てませんから!』

 剛陣のからかいに、灰崎と茜は同時に反対した。

 

 ***

 

「皆、今日は私の後ろにいる世界選抜と練習試合をしたいと思う」

 明日人たちが病院から戻ると、ベルナルドが後ろにクラリオたちを携えてグラウンドで待っていた。

「世界選抜って、この前ドイツ襲撃からドイツを守ったチームですよね!」

「あぁ、今日はそのチームと練習試合をする」

 ベルナルドが言った直後、バスの中からクラリオたち世界選抜の選手たちがゾロゾロと出てくる。

「クラリオ! 一之瀬! 今日はよろしくな!」

「あぁ、こちらこそ」

「久しぶりだね! アミーゴ!」

 円堂とクラリオと一之瀬が話している中、ブラジル代表の元キャプテン、アルトゥールが明日人に抱きついたかと思えば、明日人の手を取ってサンバを踊っている。

「久しぶり! アルトゥール!」

 明日人もアルトゥールのノリに慣れてきたのか、一緒にサンバを踊っている。

 そんな光景を見て、夜舞は世界選抜の選手たちに目を輝かせていた。

「凄い…これが世界中の選手たち…!!」

 パシャパシャと、どこからか持ってきたカメラで、選手たちの顔を連写していく。(ちゃんと許可を取っている)。

「ユーリ、君も世界選抜に入っていたんだね」

「あぁ、フロイばかりにいいところを見させたくはないからな」

 そんなこんなしているうちに挨拶も終わり、明日人たちは練習試合をするためにポジションについた。

 GK 西蔭政也

 DF 夜舞月夜 風丸一朗太 水神矢清龍 吹雪士郎

 MF 野坂悠馬 一星光 稲森明日人

 FW 吹雪アツヤ 灰崎凌兵 豪炎寺修也

 ちなみに海外選抜のフォーメーションはこの通りだ。

 GK アロンソ(スペイン)

 DF 土門飛鳥(アメリカ) ベッカ・レアム(サウジアラビア) ユーリ・ロディナ(ロシア) アリーチェ・ベラルディ(イタリア)

 MF クラリオ(スペイン・キャプテン) 一之瀬一哉(アメリカ) サタン・ゴール(オーストラリア)

 FW アルトゥール(ブラジル) ペトロ二オ(イタリア) ぺク・シウ(韓国)

『試合開始です!』

 ラストプロテクターからのキックオフで、試合開催される。

「オラオラァ!」

「アツヤ、飛ばし過ぎだよ!」

 ボールはアツヤに当たったものの、相手へのタックルやラフプレーギリギリのプレーに、明日人が思わず口に出す。

「熊殺し・斬!!」

 病み上がりとはいえ、アツヤのシュートは切れを増していた。その理由を察し、吹雪は頭を抱えてため息をついた。

「アツヤ…こっそり必殺技の特訓をしていたな…」

「ザ・ボヨン!」

 アロンソがザ・ボヨンを繰り出す。しかし、密かに特訓をしていたアツヤの必殺技は想像を絶しており、アロンソはゴールを許してしまった。

『アツヤ、チームに先制点を上げましたー!!」

 チームに復帰してから早々に点を挙げたアツヤは、喜びに歯を噛みしめていた。

「アツヤ、もしかして隠れて特訓していたの?」

 その喜びもつかの間、アツヤは吹雪に必殺技の件について問い詰められていた。

「あぁ、早く兄貴とサッカーしてぇのと同時に、あのユースティティアの天使をぶっ倒してぇという思いでやってきたからな」

「僕もアツヤとサッカー出来て嬉しいけど、安静にしてなきゃ駄目じゃないか」

 しかし、吹雪はアツヤの体を心配している為、アツヤが病院で大人しくせずに必殺技の特訓をしていたことを吹雪は叱る。

「ラストプロテクターも中々やるようになったな」

「俺たちも負けてられないな!」

「よし! 俺たちもここから逆転するぞ!」

 クラリオと一之瀬がラストプロテクターの強さを噛みしめている中、アルトゥールがチームの士気を上げていく。

「なんだか向こうも闘志が上がっている感じだね!」

 夜舞がそんな世界選抜の勢いを見て、またもや目を輝かせている。

「夜舞! ボールが来るぞ!」

「あ、はい!」

 風丸の声で、夜舞はブロック技の構えを取る。

「カーニバルシェイク!!」

「ライトチェーン・ダークロープ!!」

 アルトゥールのシュート技をブロック技で受け止めた夜舞は、ボールを一直線にゴールへと運んだ。俊足の速さの中で、夜舞は世界中の選手たちと戦えるという胸の高鳴りを覚えていた。

「貰ったァ!」

 しかし、そんな思いもつかの間。アツヤが夜舞からボールを足で取ったのだ。

「あ、ちょっとアツヤくん!」

 ボールを取られた夜舞は、すぐにアツヤに追いつく。

「なんだよ、これくれぇ普通だろ」

「普通じゃない!」

 試合中だというのに、アツヤと夜舞はまるでお母さんと息子のように言いあっている。

「ふ、二人共…」

 二人の言い合いを止めたい明日人だったが、自分でもどうすればいいのかわからず、ただおろおろするだけだった。

「今のうちだ!」

 言いあっている二人の元に、ボールを取ろうとするぺクが居た。その後ろにサタンもおり、今にも拮抗した取り合いが展開されようとした。

 しかし。

「ムーンライト・メテオ!!」

 なんとかアツヤからボールを取り返した夜舞が、自分のシュート技をぺクたちの前でしたのだ。そのため、ぺクたちはそれをなんとかしゃがんで避ける。 

「ザ・ボヨン!」

 しかしゴールまでの距離が遠かったのか、ボールは止められてしまった。

「クラリオ!」

「しまった! 自軍ががら空きだ!」

 アロンソがクラリオにパスするのを見て、夜舞は早く自軍に戻らなければと走る。

「夜舞! 急いで戻って! 吹雪さんたちは注意して!」

「ダイヤモンドレイ!」

 明日人がチームに指示をする中、クラリオがダイヤモンドレイを放ってしまった!

「KAMAKURAD!!」

 しかし、風丸と水神矢、そして西蔭のGK技が炸裂し、なんとか止めることが出来た。

「ほう、中々やるな」

「こっちだって、特訓しているんだ! 疾風ダッシュ!」

 風丸が疾風ダッシュでクラリオを追い抜くと、夜舞から明日人、一星へとボールが渡った。

「ハーツアンロックだ! 一星くん!」

「はい!」

 ボールを受け取ると、一星はその場に立ち止まり、自分の周りに風を感じていた。それは怪異の蠍とハーツアンロックを発動する前兆であった。

「スペクトルフォーメーション! ハーツアンロック! リライズ!」

 水色の風が一星を包むと、風がはじけたと同時にスペクトルフォーメーションとハーツアンロックが完了する。

 それと同時に、一星は走りだした。アルトゥールと一之瀬を通り抜けると、二人の間に風を感じていた。

「おお! これがハーツアンロックか!」

「さすがはラストプロテクター…こんなものまで習得していたのか!」

 一之瀬とアルトゥールが、一星の風に吹かれながらハーツアンロックの強さを改めて身に感じていた。

「はぁぁぁぁっ! スターダスト・ミルキーウェイ!」

 一星が必殺技を放つも、デバイスは現れなかった。

「(…またっ…)」

 デバイスが出せないことの苦悩から、青いはずの星々が、赤色の星に変わっていた。しかし、一星の背中で流れる星のレーザーはまるで刃物のように鋭く、アロンソのユニホームを切った。

『ゴール!! 一星が追加点を入れましたーっ!!』

 観客が喜び合う中、一星は自身のハーツアンロックを解いて、自分の手を見つめていた。

「…なぜ、俺にはデバイスが生まれないんでしょうか…」

 一星が考えている中、怪異の蠍が話しかけてきた。

『どうした、一星光。今は目の前の試合に集中しろ』

「あ…はい、そうですよね」

 蠍に少し喝を入れられ、一星は元のポジションに戻った。

「一星…調子が悪いみたいだな…」

 その調子の悪さはベンチにいる人にも感じられており、ベルナルドは一星を降ろそうかと考えていた。

「一星くん、ずっとデバイスが出ないか悩んでましたしね…」

「おいおい…明日人の次は一星が無理すんのかよ…ったく、ハーツアンロックは体力を使うっていうのによ」

 ヒロトの言う通り、確かにハーツアンロックは体力を多く使うものだ。そのため、こまめにハーツアンロックを解除しなければいけない。

「__皆さん! これを見て下さい!」

 杏奈がスペクトルハーツの異常に気付き、ベルナルドたちにそれを見せた。

「これはっ…ヒカルの適合率が、『明らかに減少している!?』」

「ええ!?」

 怪異の適合率を知っているヒロトたちは驚いていたが、アフロディなどの適合率を知らないアフロディたちは、適合率が何なのかわからないでいた。

「適合率ってなんだ?」

「適合率は、怪異とスペクトルフォーメーションをするにあたって影響される、体の耐久力…俺でもよくわかりません! 夜舞さんに聞いてください!」

「よほど難しい意味なんだね…」

 剛陣が坂野上に尋ねるも、坂野上もよく理解出来ていない様子の為、アフロディは口では理解できないものなのかと解釈する。

「簡単に言えば、適合率が一定以上下がってしまうと、最悪の場合死んでしまいます!」

「マジかよ!」

 杏奈の分かりやすい説明に、剛陣が驚く。

「なんとかして適合率を上げないといけないね…」

「でも、適合率はそう簡単に上がらないよ…」

 アフロディと茜が一星の心配をしている中、ベルナルドは仕方なしの選択をすることにした。

「…仕方ない。一星を下げよう」

『ここで一星光に変わり、基山タツヤが上がりました!』

 代わり間際に、タツヤは一星の体力が減っていっているのを目で確認する。

「明日人。さっき見たけど、一星くんの適合率が減っているみたいなんだ」

「一星が…?」

 先ほどまで一星の適合率が減っているような素振りはみられなかった為、明日人は一星の体を心配していた。

「あぁ、だから俺が代わりとして出た」

「そうなんだ…」

 明日人の目線が一星に写る。一見変わったところはなく、むしろ上がっている一方だと明日人は思っていた。

「明日人くん。一星くんの適合率が下がるのは、多分感情による反応だと思う」

「感情による反応…」

「それが、一星くんの適合率と関係しているのかい?」

「うん。おばあちゃんと別れる際、言われたんだ。一星くんの適合率は、『感情によって左右されやすい傾向にある』って」

 夜舞からのアドバイスに、明日人は一つ思いついたことがあった。

「もしかしたら、一星は…」

 しかし、ここで試合再開のホイッスルが鳴り、明日人たちは元のポジションに戻らざるを得なかった。

『世界選抜は、未だにラストプロテクターから一点を奪ってません! ここでなんとか巻き返したいところです!』

 世界選抜のボールになると、クラリオはまずぺクにボールをパスした。そのパスは一之瀬からサタン、サタンからクラリオと、ただパスを繋げていくだけだった。

『おっとここでどうしたことでしょう! 世界選抜、ただパスを回すだけです!!』

「な、なに!?」

 そのパスは次第に速くなっていき、まるでかの花伽羅村で見た明日人たちのパス回しによく似ていた。

「な、なんだか花伽羅村でやったパス回しによく似ているな…」

「もしかしたら、クラリオさんは何かを考えているのかも…」

「じゃあ、新たな必殺タクティクスか!?」

 クラリオのパスがぺクに渡った瞬間、ぺクはパスの勢いを利用し、足の甲にボールを当てて蹴った。そのボールはグラウンドの芝に火が燃え移ってしまっているシュートだが、ボール自身から炎を放っているわけでは無かった。

 ボールが、『音速を越えた速さでゴールへと突き進んでいる』からだ。

「___!?」

 それに、西蔭は反応しきれなかった。いや、円堂も砂木沼も反応しきれなかっただろう。

『ゴール!! 世界選抜、必殺タクティクスに見せかけた必殺技で、ラストプロテクターに一点を返したー!!』

「…これが必殺タクティクス、『疾風迅雷のソニックブーム』だ!」

 必殺タクティクスは戦術だというラストプロテクターの固定概念を突いたシュート技だった為、明日人たちは反応しきれなかったのだろう。

『ここで前半終了!! 世界選抜の反撃が始まります!!』

 

 

 

 

 形は違えど、同じ戦っている者同士だ。

 




 あとはもう投稿するだけとなりました。
 実はですね、二十五話と二十四話を一つに纏めたかったんですが、世界選抜との試合というネタを思いついてしまい、分割することに決めました。

 そういえば、最近坂野上くんが好きになったんですよ。
 イナSDでフォロワーさんと戦った時、坂野上くんの必殺技の一つである『大河』の妄想をしてから、坂野上くんのことが好きになりました。
 影が薄いですが、可愛いですよね。(やっぱり、坂野上くん中心の話を書いたから、愛着が湧いているのかな)

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