イナズマイレブン テミスの正義   作:暁月の太陽

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やば、pixivのほうでミラちゃんのプロフィールを入れるのを忘れた。


第二十七話 恋は盲目、狂気、破壊

『不知火さん、こっちはもうロシアに着きました』

『そっか。私も今アメリカのミラージュ社団法人にいる。どこかで会えるといいね』

『はい』

 ロシアに着くと、夜舞はすぐにスマホを立ち上げ、不知火とメールを交わした。いつか届く返信を待つ時間がとても待ち遠しく、嬉しくもあった。

「夜舞さん、不知火さんとメールをしているのでしょうか…」

「そうみたいだね…」

 大谷と杏奈はスマホを突いている夜舞を見て、不知火とメールをしているのかと予想した。

「まさか、夜舞と不知火が関わっていたとはな…」

「なんで黙っていたんだろう…」

 宿所へのバスを待っている中、円堂たちは夜舞と不知火の関係についてを話していた。

「夜舞にも、秘密にしなきゃいけないことがあったんじゃないか?」

「それはなんだ? 円堂」

「わかんないけど…ほら、実はあの二人はお友達とか」

「友達なら、夜舞はすぐに俺たちに話します」

「明日人…」

 明日人は不知火と夜舞の関係についてをとても深く知りたいと思っていた為、明日人も円堂たちの会話に入ってきたのだ。

「友達でなければ、なぜ夜舞は秘密にしていた?」

「それは多分……」

「多分?」

 砂木沼の問いに明日人が口を閉ざしていると、円堂たちは多分の詳細を知りたいがために明日人に詰め寄る。

「恋を、してるんじゃないかな。夜舞」

「えっ、」

『え?』

「えええええええええええええええぇぇええええ!?」

 明日人の声に気づいた円堂たち全員は、明日人が絶対に言うはずのないことに、全員で驚いた。

「明日人お前そんなキャラだったか!?」

「いや、俺はいつも通りですよ剛陣先輩!」

「明日人くんがそんなことを言うなんて信じられないなぁ」

「野坂まで!」

 皆からして明日人は、恋に疎いイメージがあった為、明日人が恋関係の話をするわけがなかったのだ。

「でも、わかるでしょ!? あんなに楽しそうにメールしてたら!」

「だけど、メールしてただけで恋をしているとは限らないんじゃないかな?」

 アフロディが正論を吐く。

「キャプテンも純情派なんだねぇ」

「俺って純情派なんですか!?」

 明日人の恋に疎い話をしている中、バスがやってきた。

「あ、バスが来たみたい…って皆何してるの?」

 スマホを閉じた夜舞は、明日人達が夜舞と不知火の関係を話していることには気づいていないようだった。

 

 

 

「あ、こっちです!」

 バスでロシアの宿所に着くと、そこには一星と西蔭を含めたマリクたちが出迎えてくれた。

「一星! 久しぶりだな!」

「そんなに久しぶりという程でもない気がしますが…」

「さ、中に入って」

「中を掃除しておいたよ!」

 マリクたちに諭されて中に入ってみると、そこには何ヶ月かぶりのFFIの匂いと、懐かしい風景が飛び込んできた。

「これ、マリクがやってくれたのか?」

「うん!」

「凄いな、マリク!」

 明日人に褒められ、マリクは嬉しそうに顔を赤らめる。

「じゃあ、今後の予定をミーティングルームで伝える。各自部屋について荷物を置いたら、ミーティングルームに来てくれ」

 ベルナルドは明日人達に予定を伝えると、先にミーティングルームに行ってしまう。それを見て明日人たちは不知火のことでショックを受けているんだなと察する。

「ベルナルド監督…」

「辛いですよね…自分の大切な人が、自分のことを覚えていなかったら…」

 一星は自分の大切な人に自分のことを忘れたことはないが、それでもベルナルドの気持ちは分かっていた。

「皆着いたな。では、今後の予定を伝える。まずは室内グラウンドで夕食まで練習。それで夕食を終えたら、あとは夜練など自由に行ってもいい」

 明日人たちは、ベルナルドの話を聞く。すると、ドアが勢いよく開かれた。

「では、早速だが…」

「ベルナルドさま!」

 ドアを開いたのは、オリオン財団の職員たちである黒服の男たちだった。その登場に、明日人たちは思わず席から立ち上がった。

「どうした、今はミーティング中だぞ」

「それが、フロイ様が謎の病気に!」

「なんだと…!?」

「フロイが!?」

 フロイが先にロシアに向かっているということは知っていたが、まさか病気にかかっていたことを知らず、明日人たちは一斉に目を見開く。

「フロイはどこに!」

「ベルナルド様の家です!」

 フロイの居場所を知ったベルナルドは、持っていたタブレットを教卓の上に画面が割れる程の強さで置くと、すぐにミーティングルームから離れた。

「お前たちは俺の言った予定に従ってくれ! 俺はこれからフロイのところに行く!」

「じゃあ、俺も行かせてください!」

 ベルナルドに続いて、一星もフロイのところに行こうと走る。

「一星!」

「明日人、お前も行くんだ」

「円堂さん?」

 すると、円堂が明日人の肩に腕を置いた。

「練習のことは俺に任せてくれ」

「……はい!」

 明日人は円堂にキャプテンマークを預けると、急いで一星の後に着いて行った。

「明日人くん!?」

「俺も乗せてください!」

 明日人は一星とベルナルドの乗っている車に乗り込み、シートベルトを着用する。

「稲森…わかった」

 ベルナルドは明日人の同行を許可し、車を発車させた。

「お前たち、フロイの病気のことで何かわかるか?」

『心臓の脈拍が速くなっていたり、顔が青ざめているのは分かります。ですが、肝心の病気名が分からないのです』

 ベルナルドは、ナビのビデオ通話でベルナルドの家直属の医者と通話をする。

「そうか、今行く」

 それを、一星と明日人は黙って聞いていた。

「なぁ一星、フロイが今まで病気になっていたことってあったのか?」

「あるよ、幼少期に何度かあったみたいだ」

 もしかしたら、今回のこともそれが、原因かもしれない。とか一星は明日人に話す。

「フロイは体が弱かったから、こうやって病気になるのはよくある事だったんだって」

「そうなんだ…」

「さぁ、着いたぞ」

 一星と話をしていると、車はベルナルドとフロイの家に着いていた。まさに外観は豪邸といった感じで、庭師にメイドなど、多くの従業員がこの館で働いていた。

 じっくりと見て回りたかったが、それをしている暇はないため、急いでフロイの部屋に行く。

「ベルナルド監督、フロイはどこに?」

「フロイは、病気になった時いつも自分のベットで眠っている。今回もそこだろうな」

 赤いカーペットの廊下を走り抜け、フロイの部屋に着く。

「フロイ!」

 ベルナルドが扉を開けると、部屋の中心部を占める屋根付きベッドにフロイは横たわっており、その周りには世話人の家政婦やメイド、そして医者などが周りに立っていた。

「お前たち、フロイの状況は?」

「それが、一向に良くならないのです」

 そう医者は告げる。明日人と一星がフロイの様子を見ると、フロイは確かに病気と思わせるかのように、過呼吸や顔色の悪さが目立っている。

「ゴホッ、ゲホッゴホッ」

「フロイ! 大丈夫!?」

 一星がフロイに声をかける。しかしフロイは咳をするばかりで一星の問いかけには答えなかった。

「一星、稲森。お前たちは先に戻れ」

「ベルナルド監督、それはどうしてですか!?」

「お前たちには、この世界を守るという義務がある。このまま練習を疎かにしてはいけないだろう。それに、フロイのことは私に任せて欲しい」

「ベルナルド監督…」

 明日人は、未だにそこから離れようとはしなかった。フロイのことが心配なのだ。大切な仲間なのだ。このまま放ってはいけないのだ。

「明日人くん、行こう」

「でもフロイが…」

「フロイなら大丈夫。フロイは強いから」

 しかし、このまま居座る訳にもいられなかったため、明日人たちは先に宿所に戻ることにした。

 

 *****

 

「えーと、次はティッシュだよね…うーん、英語ならまだしも、ロシア語はちょっとなぁ…」

 値札に書かれた商品名を、夜舞はスマホを通して翻訳して、それが目的のものだったら買い物かごに入れるという作業を行っていた。

 なぜ夜舞が買い出しに来ているのかというと、不知火からの返信を心待ちにしすぎて練習に集中出来ていない上に、通知が入るとすぐに返信のためにスマホのところに向かってしまうため、練習に身が入らなかったのだ。その行動のせいもあってか、夜舞は大谷たちマネージャーから練習に身が入っていないということで、罰として買い出しに行かされていたのだ。

「誰だって、返信が来たら嬉しいとは思うけどなぁ…」

 罰とは言われたが、中々腑に落ちず、夜舞は早く買い出しを終わらせようと急ぐ。

「月夜ちゃん」

 すると、後ろから声をかけられた。その声は、自分が楽しみにしていた声だった。

「不知火さん!」

「久しぶりだね。それ、袴かい?」

「はい! 中々今の服には馴れなくて…」

 不知火と久しぶりの雑談をしながら、夜舞は会計をして買い出しを終わらせる。

「あの、不知火さん。どうしてもベルナルド監督のこと、思い出せないんですか?」

 買い出しを終え、夜舞はスーパーの外のベンチに座る。

「すまないな、どうしても思い出させないみたいだ。私自身、頭を強く打ったようなことは人生で一回もなかったからな。ただ、ベルナルドというのには、この前初めて出会ったような感覚はしないんだ。まるで、どこかで出会ったような…」

 まるで小説に書いていそうなことを言う不知火。しかしそんな不知火でも、夜舞は嬉しそうに聞いていた。

「でも、どこかで出会っただけでも十分だと思いますよ! 記憶なら、これから取り戻せばいいじゃありませんか!」

「月夜ちゃん…そうだな」

 

 

 

「夜舞ちゃん、遅いです!」

 その頃、大谷は頬を膨らませていた。

「夜舞がどうかしたの? つくしさん」

「あ、明日人くんは知らないんですね。実は夜舞ちゃん、いつもその不知火さんのことを考えているんですよ!」

「え、ええ!?」

「それに、私は恋をしているんだと感じました!」

「ええ!?」

 夜舞が不知火に恋をしている関連のことは、ほんの冗談のつもりで言ったのだが、まさか自分の予想が当たり、明日人は驚いた。それは恋をしているのかといっても過言ではない。

「明日人くんの言ってた通りです! やっぱり夜舞ちゃん、不知火さんに恋をしているんです!」

「あ、あの、それは冗談というかなんというか」

「さすがです明日人くん! 鋭いですね! それでは早速、ミーティングを開きましょう!」

「さ、サッカーは!?」

 大谷を引き留めようと明日人は手を伸ばしたが、大谷はミーティングルームへと向かっていってしまった。

「つ、つくしさん…」

「予想が当たったね。キャプテン」

 後ろに吹雪の声が聞こえたような気がしたが、後ろを振り向いても、そこには弟のアツヤと話していること吹雪士郎の姿だけがあった。

「稲森くん!」

「タツヤ、どうしたの?」

「実は、玄関の外に袋が…」

 ヒロトとタツヤが明日人にやってくる。タツヤが右手に持っているのは、何かが詰まったレジ袋だった。

「えっと、食品に日用品?」

 明日人が袋の中を確認すると、そこには今日の昼食の分と、ティッシュやテーピングなどの日用品が詰まっていた。

「これは多分、夜舞さんが買い出しに行った時にメモに書かれていたのと同じ物だよ」

「そうなの!?」

「夜舞にメモを渡す時に少し見たんだよ」

「す、凄いねヒロト…」

 なんとヒロトとタツヤは夜舞に渡されたメモの内容を細かく覚えており、明日人は驚いた。

「でもなんで夜舞は玄関の外に買い物バックを?」

「それが気がかりなんだよ…」

「とにかく、野坂に相談してみようよ!」

 明日人たちは、とりあえず野坂に相談してみようと、野坂のところに走る。

「なるほどね、夜舞ちゃんは宿所の外にこれを置いたんだね」

「あぁ、タツヤが見つけてくれたんだ」

 野坂はグラウンドにおり、そこには一星と西蔭の姿もあった。

「そういえば、もうとっくに帰っててもおかしくありませんよね…もうすぐ練習試合なので…」

 そう、今日はラストプロテクターの潜在能力を引き出す為、練習試合をする事になったのだ。

「趙金雲監督が急にこのチームと練習試合をするっていうメールが来た時は驚いたよね」

「本当にハワイで何してんだよ…」

「まぁ、今夜舞ちゃんはこれを置くことしか出来ない理由があったんだろうね。それも明日人くんが言った、夜舞ちゃんは不知火一誠という男に恋しているという感じにね」

「それ、関係ある?」

 その話はやめて欲しいと言っているかのように、明日人は髪の角を下げる。

「だけど、夜舞さんはそんな簡単に約束を投げ出すかな。買い出しも、すぐに帰って欲しいって言われてたみたいだしね」

 確かに、夜舞は買い出しを任されていた。しかし、本来ならとっくに帰っている頃だろう。しかし、夜舞の姿がないということは、そこに袋を置く理由があったはずだ。

「そういえば明日人くん、メール届きませんでしたか?」

「メール? 夜舞さんからのメールですよ」

「あぁ、確かに通知が入っていたような…」

 明日人がメール受信箱を確認すると、そこには明日人宛の夜舞のメールがあった。

「…ん? 『ごめんみんな、不知火さ』ここで途切れてるけど…」

「何? そのメール」

「途中で途切れてんな」

 夜舞からのメールは、どういう訳か途中で途切れており、タツヤもヒロトも疑問に思っていた。

「と、このようなメールが届いたんですよ。それに夜舞さんと連絡先を交換したのも、最近ですし、俺たちにしか届かないんですよ」

「そういえば…夜舞と連絡先を交換したのも、最近だ…」

「これは誘拐だ!」

『えっ?』

 すると、誰かが話に割り込んできた。

「多分夜舞は、俺たちに誘拐されたことを伝えようとしたんだが、携帯をその不知火って奴に壊されて、メールが途切れてしまったんだよ!」

「いや、電池切れかも…」

「じゃあ連絡してみてくれ! 明日人!」

 なんと剛陣が話に割り込んできた。剛陣はメールの詳細を、誘拐犯に携帯を壊されたからと言っていたが、タツヤは電池が切れただけだと思っていた。しかし剛陣は自分の考えを改めようとはせず、明日人に指示を出した。

「わ、わかりました…」

 剛陣にされるがまま、明日人は夜舞に連絡する。

『おかけになった電話番号は、電波が届かないか、電源をオフになっております』

 しかし、帰ってくるのはアナウンスの声だった。

「どうだった?」

「……まずいよ…連絡出来ない…」

「本当だったな! じゃあ早速皆に伝えに行く!」

「待ってください、まだ本当かもわからないんですよ!?」

 一星が剛陣を止めようとするも、剛陣は真っ直ぐ円堂に知らせていた。それを聞いた円堂は、驚いた素振りを見せた。そしてそれは豪炎寺、鬼道、風丸から全員と、伝染していく。

「で、でもさ、本当に誘拐だったら、まずいよ…」

「ユースティティアの天使が、僕たちを押さえつけるために夜舞ちゃんを誘拐した可能性もあるしね…」

「妙に現実的なことをいわないでください!」

 しかし、誘拐は怖い。自分たちの仲間が誘拐されたことを知ったら、居てもたっでも居られないだろう。

「とにかくまずは、誘拐犯からの連絡を待つべきじゃねぇのか? 身代金目当てだったらかかってくるだろうし、もしユースティティアの天使なら矢が飛んでくるだろ」

 ヒロトが最もなことを言う。

「そ、そうだよね…とにかく、待ってみようよ!」

 明日人は仲間が誘拐されたことに恐怖を感じていたが、何とか心を落ち着かせた。

 

 ***

 

「不知火さん、私これから帰るつもりだったんですけど…何も私と一緒に居たいからって私の買い物袋を宿所前に置くことはないんですよ?」

 夜舞は、怒っていた。

「そもそも、いくら明日人くんたちの感が鋭いからといっても、メモを残さずに置くなんて、誘拐だと思われたらどうするんですか」

 イタリアンな料理を口に含みながら、夜舞は不知火を見る。

「…すまなかった。しかし、君だって私と居たかっただろう」

「それは、本当ですけど…でもまず、優先順位というものがあるはずです」

 夜舞たちは、イタリアンレストランで食事をしていた。なぜこのようになったかと言うと、まず不知火が部下を呼んで買い物袋を宿所前に置くよう指示し、部下が買い物服を持って宿所前に時速六十キロで置きにいった。連絡のメールをしようとしたが、スマホの電池が切れてメールは途切れるということがあったからだ。他にもあるが。

「はぁ…どうしよう」

 夜舞の右足に、ハンカチが巻かれている。それには、ここに来る前に足を怪我してしまい、不知火にハンカチを巻いて応急処置をされたからである。

「木に登った猫ちゃんを助けようとしたのはいいけど…まさか怪我しちゃうなんて…」

「サッカー選手は足が大事というからね。今は足をくじいて動けない程度で済んだけどね…」

「だとしても、歩いて帰れます。それに、私を食事に誘わなくてもよかったんですよ…」

「それは駄目だよ。無理に歩いたら、足を悪くしてしまう」

 不知火の言うことはご最もだ。しかし、早く帰らなければ皆が心配してしまうだろう。そう思うと、ここで食事をしている場合じゃなかった。

「…………私、そろそろ帰ります。自分の代金は払いますから」

 自分の分をテーブルに置くと、夜舞は席を立つ。

「ま、待ってくれ月夜ちゃん!」

 しかし足をくじいているのもあってか、夜舞の足は遅く、すぐに不知火に追いつかれる。それは店を出たあとも続き、ついに腕を掴まれる。

「離してください!」

 傍から見れば不審者が少女を誘拐しようとしている姿そのものなのだが、夜舞はそれでも腕を動かした。

「きゃぁあ! ひったくり!」

 すると、夜舞の後ろでひったくり犯が女性のカバンを持って逃げていた。

「___不知火さん! 少し待ってください!」

「月夜ちゃん!」

 不知火の腕を振り払うと、夜舞は足の痛みを我慢しながら、ひったくり犯のところまで走る。しかし、ひったくり犯の足は速く、追いつけない。このままでは取り逃してしまう。とその時、目の前にボールを持っている男の子達がいた。

「これ借りるね!」

 夜舞は少年からボールを借りると、それをひったくり犯に向かって蹴り飛ばした。

 そのボールは、勢いよくひったくり犯の背中に当たり、倒れる。その直後に警察の人が駆けつけ、犯人を取り押さえる。

「やっ…痛ったぁ!」

 夜舞が大喜びで飛び上がるも、着地した時の足の痛みに、夜舞は思わず足を抑えながら地面に膝を着く。

「月夜ちゃん!」

 するとそこに不知火が駆けつける。

「無理をしちゃ駄目だって言ったじゃないか…」

「えへへ…困ってる人を見ると、放っておけなくて…」

 夜舞は頭をかいてはいるが、足は抑えている。痛いのだろう。

「月夜ちゃん……まぁ、その優しさは褒めるところだね」

「ありがとうございます!」

 いつの間にか、喧嘩をしていることなど忘れ、二人は和やかな雰囲気となった。

 夜舞が不知火の手を借りて立つと、不知火は夜舞をおんぶし、宿所まで歩いた。

「不知火さんって、暖かいんですね…」

「それ、よく言われるんだ」

「不知火さんは、優しいですからね」

「それは、月夜ちゃんの方じゃないのか?」

 夜舞の言う通り、不知火は優しい人間だ。たまに人間らしく、失敗をしてしまうところはあるのだが、それでも彼の温もりに、夜舞は惹かれる。

「私は…優しくなんてありません…」

「それは、どうしてだい?」

「私は…親友を()()()()()()()()()()()

 その瞬間、不知火の足が止まる。そのサングラスの下には、目を見開いた不知火が居るだろう。

「……殺してしまったって、どういうことだ?」

「……私の言葉のせいで、私の親友、暁乃咲久羅(あけのさくら)は、交通事故で死にました…それも、咲久羅が横断歩道に飛び出したことによる事故で…」

 夜舞曰く、夜舞には暁乃咲久羅という人間がいた。彼女たちは、親友だったのだが、ある時喧嘩して、夜舞が咲久羅にきつい言葉を言ってしまったのだ。気づいた時には遅く、咲久羅はその言葉に傷ついて、走り去っていってしまった。それも、赤に変わった横断歩道に。

「…だから私は、咲久羅の分までサッカーをしているんです。そうすれば、償いになるかなって」

「………月夜ちゃん、償いってどういう意味かわかるかい?」

「えっ…それは、自分の犯した罪に対して、いいことをするという意味で?」

 夜舞の答えに、不知火は違うよと言う。

「違うよ。答えは、その咲久羅ちゃんの跡を追わないことだ」

「跡を、追わない…?」

「私にとっての償いは、生きることだ。だから、被害者の跡を追っちゃいけない。自分から死んではいけないんだよ。それをしていない時点で、君は既に償いをしている」

「そう…ですかね」

「あぁ、そうさ」

 再び不知火は歩き始める。

「私、不知火さんのことが好きです」

 すると、不知火が口を開いた。

「私もだ」

 

 ***

 

「……やっぱり、こんな時に練習試合なんてしてられないよ!」

 時刻は午後二時前。もうその練習試合相手はこの宿所に着いており、そろそろ練習試合が始まろうとしていた。

「明日人くん…」

「だって、夜舞が誘拐されたかもしれないんだよ!? こんな時に練習試合なんて…」

 明日人は、夜舞が誘拐されたかもしれないのに、練習試合をしている暇なんてないと怒っていた。

『ただいまー!』

 その瞬間、昇降口から声がした。

 全員が昇降口の前を向くと、そこには夜舞が手を振って明日人たちのところにやってきたのだ。

「夜舞! 無事だったのか!?」

「え? 無事?」

「誘拐されたんじゃないのか!?」

「え? 誘拐?」

 皆が夜舞の心配をしている中、夜舞は何がなんだかわかっていない様子だった。

「ど、どういうこと?」

「え、だってこのメール俺たちに誘拐のことを知らせようとしたのでは…」

 一星が例のメールを見せると、夜舞は手を叩いた。

「あぁそれ? 不知火さんに買い物バックを不知火さんの使いのせいで宿所前に置かれたから、その報告をしようと思っただけで…」

「じゃあ、これはただの電池切れ…」

「うん」

 その瞬間、明日人たちはその場にずっこけた。

「剛陣先輩! やっぱり誘拐なんてなかったじゃないですか!」

「いやなぁ、あのメール見たらどう見ても誘拐だと思うだろ?」

「思いませんよ!」

 明日人は剛陣に怒っており、紛らわしいと剛陣に抗議する。

「アノー、ソロソロ試合ヲ…」

 タイ代表のキャプテンが、そろそろ試合をしないかと明日人に言う。

「あ、すみません! 今やります!」

 練習試合があることを忘れていた明日人たちは、すぐに試合の準備をする。

 その後は、タイの代表と一緒に練習試合として、サッカーを行った。

『スライムウォール!』

「なっ、なんだよこれ!」

 緑色のスライムの壁が灰崎に向かって倒れ、灰崎はスライムまみれになる。

「スライムは日本の文化だからね!」

「スライムは日本の文化じゃないから!」

 なんとタイ代表は、かなりの日本好きで、スライムや触手などの、日本の文化(?)の技を大量に出してきたのだ。

「す、すごいね…」

 夜舞は足をくじいていた為、ベンチとなったが、それでもタイ代表の日本大好き魂に押されているようだった。

 

 

 

 その頃ベルナルドは、フロイの部屋のソファで、彼が起きるのを待っていた。折谷からのメールでは、夜舞が誘拐された疑惑の話もあったが、ただの想像で終わったらしい。

 ただ、不知火と夜舞が関わっていたことは、今のベルナルドには到底信じることが出来なかった。そもそも、なぜ不知火は自分のことを覚えていないのだろうか。ユースティティアの天使が何かをしたとしても、それをする理由がわからない。

「あれ…兄さん?」

 そう考えていると、フロイが上半身を起こしてベルナルドの方を向いていた。

「フロイ! 気がついたのか!?」

「うん…少しクラクラするけど…」

「そうか、少し寝ているといい」

 うん。とフロイは答え、改めてフロイはベッドに横になる。

「何があった?」

「僕、母さんの部屋から出た書類を見ていたんだけど…その時に首を何かに刺されて、いつの間にかベッドの上に…」

「首?」

 ベルナルドがフロイの髪をどかし、首筋を見る。

「____!?」

 そこにはなんと、植物の茎のような触手がフロイの首の血管に突き刺さって、チュウチュウと吸血鬼のように吸っていた。

 それをベルナルドは引きちぎると、触手はベルナルドの手の中で枯れ、フロイの首から吸われた跡が残っていた。

「兄さん?」

「いや…首にゴミがついていたようだ」

「そうなんだ…」

 フロイが目を瞑ろうとする中、ベルナルドは手の中にある枯れた触手を見ていた。しかし枯れた触手は、すぐに粉となって消えていってしまった。

「…これが書類か…」

 メイドによって机に置かれた書類を見ると、ベルナルドは目を見開いた。

「___嘘、だろ」

「兄さんも、見たんだね」

 すると、寝ているはずのフロイの声が聞こえ、ベルナルドは後ろに振り向く。

「母さんは、僕たちを裏切ったんだ。そもそも、僕達は母さんに踊らされていたんだ」

「違う! これは嘘だ! この書類は嘘な……」

 自分も、この書類に書かれていることを信じることは出来なかった。しかし、この書類が嘘だという可能性もある。それを伝えようと、ベルナルドはベッドから立ち上がったフロイを説得する。しかし、ベルナルドは見てしまった。フロイの背中に、自分が引き抜いた触手と同じ、所々に花が咲いている、茎のように細い触手が数十本も生えているフロイの姿を。

「最初から僕達は、彼らの欲望を解消するために生まれてきた存在だったんだ」

「フロイ…」

「最初から、ミラの方が正しかったんだ。それに僕は、あいつらの血を引いているだけでも忌々しい。だから____」

 その瞬間、触手の一本がフロイの部屋の壁を突き刺した。細く見えるそれは、まるで兵器のような力を持っていた。

「父さんと母さんの作ったものを、この手で壊す」

 

 

 

 

 恋は盲目、

 愛情は狂気、

 憎悪は破壊。




 ミラさんのプロフィールです
『その美しき容姿に魅了された人間は数知れないが、彼女に近づいた人間は二度と日の目を浴びることはないらしい。』

CV.早見沙織

年齢 人間で言えば十四歳
性別 女
一人称 私(わたくし
二人称 貴方・○○さん
好物 羊羹

この小説の中でどのコンビが好きですか?

  • 明日人とエレン
  • 不知火と月夜
  • エレンとレン
  • エレンとメリー
  • エレンとミラ
  • 不知火とベルナルド
  • 明日人と月夜

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