タイ代表のチームとの試合を終えた次の日。明日人たちはミーティングルームで、監督のベルナルドから話をされた。
「皆、聞いて欲しい。フロイが居なくなった」
なんと、フロイが自分の家から居なくなってしまったのだ。フロイが謎の病気に襲われたことは皆が知っていた為、明日人たちはなぜ居なくなったのかが理解できなかった。まず、病気なのに家から出れるわけが無かったからだ。それは、風邪を引いているのに家から出るのと同じだからだ。出れるわけが無い。誰もがそう思っていた。
「フロイさんに連絡はとれないんですか?」
「取れない。フロイのスマホは家にある」
坂野上がフロイに連絡は取れないのかとベルナルドに質問する。しかし、フロイのスマホは家に置いて行ってしまっている。
「フロイは病気では無かったんですか?」
「あぁ、病気だったんだが…水神矢も、心して聞いて欲しい。俺がフロイの見舞いに行ったとき、フロイの背中から植物の茎のようなものが生えたんだ」
「植物の茎…」
砂木沼も、困惑した。そんな漫画のように背中から何かが生えるなんて、おかしいからだ。
「夜舞、もしかしてこれ、怪異じゃないのか?」
「う~ん、私もそうは思ったけど、おばあちゃんから何でもかんでも怪異だとは決めつけることはできないって言われたから、まだ確信は出来ないよ」
巻物書いてあった怪異の詳細を簡略的にわかりやすくしたメモを立ち上げ、それを明日人と一緒に見る。そこには蛙の怪異やナマコの怪異、マンタや兎などもあった。そこに、背中から触手が生えるなどの現象が起きる怪異はなかった。
「一星、ヒロト。君たちのハーツアンロックで、フロイを探してはくれないか? 俺達オリオン財団も、協力する」
「はい、ベルナルド監督」
「仕方ねぇな、じゃあその家から逃げ出したおぼっちゃんを探せばいいんだな」
二人はそれに承諾する。
「他の皆も、練習に集中していてほしい」
ベルナルドはすぐにミーティングルームから退出し、ミーティングは終了した。ミーティングが終わると、明日人は灰崎に話しかける。
「フロイのこと、心配だね灰崎…」
「俺はお前が一番心配だがな」
「なんで!?」
そりゃあユースティティアの天使に狙われているからでしょ…とここにいる全員が明日人と灰崎の会話を聞いてそう思った。
「って、言われたけど、やっぱ集中できねぇよな…」
グラウンドにいる剛陣は、そう明日人たちに話しかける。
「仕方ないですよ。俺達が練習をおろそかにしていたら、勝てるものも勝てなくなりますよ」
坂野上は、一星とヒロトが必ずフロイを見つけてくれると信じており、練習を始めるためのサッカーボールを持っている。
「ねぇ、明日人くんたち。僕たちも一緒にフロイを探さないかい?」
すると、野坂が明日人たち灰崎と夜舞、坂野上に剛陣に声をかけた。
「探すって、一星とヒロトと同じように、フロイを探しにいくの?」
「うん。フロイも、僕たちと同じ発信機を付けている。多分一星くんとヒロトくんが気づけば、それを頼りに探していると思うよ」
発信機があることをすっかり忘れていた明日人は、これまで一人でエレンに会いに行っていたことがバレないかと冷や汗をかいていた。
「野坂、その発信機を見つける機械は、フロイが持ってんじゃねぇのか」
灰崎が真理を突くような言い方をすると、野坂は黙ってしまった。
「……そこまで考えていなかったんだね…」
夜舞が額に汗をかく。
「ふふっ、そういうと思って、西蔭」
「はい、野坂さん」
まさか、フロイの持っている発信機を見つける機械の代わりになるものを持っているのか!? と、明日人たちは目を輝かせる。
「はい、これ」
しかし、野坂が出したのは弁当箱だ。
「え?」
「わ~! ごはんだ!」
夜舞はごはんだと喜んでいるが、明日人たちは何のことか分からずにいた。
「これからフロイくんを見つける為に、何日も野宿することになるとは思うけど…」
「やっぱてめぇ何も考えてねぇだろ!」
灰崎がそう突っ込む中、明日人は坂野上と話をしていた。
「明日人さん、俺たちもハーツアンロックは出来ないんでしょうか…」
「どうしたの、坂野上?」
「いえ、俺と明日人さん、両方とも怪異を持っているはずなのに、スペクトルフォーメーションもハーツアンロックもしてなくて、不安だなって思いまして…」
そうすれば、ヒロトさんや一星くんみたいに空を飛んで、フロイさんを探しにいけるじゃないですかと、坂野上は思っているようだった。
「でも、もしかしたら怪異を持っているのにハーツアンロックをしないっていう可能性だってあるよ?」
しない可能性? と明日人と坂野上は首を傾げた。
「ほら、明日人くんの狼さんだって、明日人くんの事は助けるけど、スペクトルフォーメーションはしないでしょ? もしかしたら、スペクトルフォーメーションをしたくない理由がそこにあるかもしれないよ?」
「…俺は、ハーツアンロックをして、皆さんを守りたいとは思いますけどね…」
坂野上の本音に、明日人は気づき、声をかけようとする。
「みんな、そろそろ行くよ」
しかし、野坂の指示で声をかけることは出来なかった。
***
「ヒロトさん、今どこに?」
『日本の上空だ』
「そこでは何がありますか?」
『あぁ…胸糞わりぃ匂いが空に居てもしやがる』
「そうですか…」
一星はロシアのカザニの上空で、剣の形をしたスケボー上の乗り物に乗りながら、ヒロトと連絡を取る。ヒロトの話を聞いて、一星は祖国がユースティティアの乗っ取られたことによる悔しさを顔に出す。
「じゃあ、失礼します」
『あぁ』
ヒロトとの通話を切り、フロイ探しを再開する。
しばらくロシアの街を飛んでいると、裏路地で不審な動きをする少年を見つけた。
「そこで何をしているんですか」
一星が乗り物から降り、不審な動きをする少年に声をかける。
「…その声、ヒカルかい?」
一星に背中を向けていた少年が、一星の方を向く。
「フロイ!? よかった、皆探して___!」
一星がハーツアンロックを解き、フロイのところに駆け寄る。しかし、首に何かが巻きつくような感覚がしたと同時に、一星は宙に浮かせられる。
「___フロイ、何を…」
足を振るも、一星の首を巻きついているフロイの触手が外れることはない。
「…ヒカル、僕の母さんはね、父さんを殺していたんだ。そして、殺されたことがバレないように、僕と兄さんに偽物の記憶を植え付けたんだ。
まさか、と一星は戦慄する。
「だから僕は、母さんに復讐をする。かつて僕らにしたようなことを、僕がするんだ」
「やめろ! お前の母さんはそんなこと…」
「そんなこと? 母さんはね、皆に酷い事をしてきた。そんな母さんが、あの程度で許されるわけがないんだ」
一星の声に、フロイは耳を傾けない。
「だから僕は、母さんが今まで作ってきたものを壊して、復讐するんだ」
確かに、イリーナ・ギリカナンの罪はあれくらいで許されるわけがない。だが、フロイのやっていることには、何か他の目的があるように思えた。それが何なのかは、わからない。だが。
「フロイ、どこにいるんだろう…」
路地裏の外で、聞き覚えのある声が聞こえる。明日人たちだ。灰崎に、坂野上の声も聞こえる。
「ん? あれって一星__」
路地裏にいる人影に気づいた坂野上が、一星のいる路地裏の方を向く。
「__来るな! 皆!」
その瞬間、触手が伸びてきた。
夜舞たちはとっさの感で避け、灰崎も明日人と共に横に倒れた。
「な、なんですか!?」
「これは、触手…?」
野坂が獲物を捕らえることができず、そのまま止まった触手を野坂は見つめる。すると、路地裏の方から足音が聞こえた。
「…フロイ!?」
「一星くんまで!」
そこにいたフロイは、目を虚ろにさせて、背中から触手を生やしていた。その触手の一本の先には、一星がつかまっていた。
「な、なんだよそれ…」
困惑する剛陣をよそに、野坂は西蔭に皆を守るように指示し、フロイの前に立つ。
「フロイくん。一星くんを離すんだ」
「ノサカ? ヒカルとはちょっと話をしていただけさ」
そうフロイは言うが、首を絞めている時点でそうだとは考えられなかった。
「一星くんを離すんだ」
「んー? いいよ?」
案外軽く返事をしたフロイは、一星を離す。一星は受け身も取れずに地面に倒れ、息を切らしていた。
「僕も、忙しいからね」
フロイは触手を生やしている背中を向けながら、路地裏の奥へと消えようとする。
「フロイ!」
明日人がフロイの元に走ろうとする。しかしそれは灰崎の手によって遮られる。
「馬鹿! お前まで一星のようになったらどうすんだ!」
「でも灰崎、俺、フロイのことが心配だよ!」
自分の腕を掴む灰崎を振りほどこうと、明日人は掴まれている腕を動かす。しかし、灰崎は明日人を離す気配はない。
「あ、そうだ」
すると、フロイの足が止まる。
「アストの分まで、復讐してあげるからね」
それだけを言うと、フロイはまた歩き出した。
『なるほど、そういうことが…』
宿所に戻った明日人たちは、一星のスマホでベルナルドに電話でフロイのことを話した。
『弟が、迷惑をかけてすまなかったな』
「だ、大丈夫ですよ! こうして一星も無事だったんですし!」
謝罪するベルナルドに対し、明日人はベルナルドを励ます。
「あの触手…怪異かもしれないね。確か夜舞ちゃん言っていたよね。適合率が低いと、怪異に飲み込まれるか、死に至ると…」
「うん、でもスペクトルハーツで適合率を調べたときには、フロイくんそこまで低くなかったけど…」
「機械で調べた適合率と、実際の適合率が完全に合う訳がねぇだろ」
灰崎は、機械と実際の適合率は全然違うと意見を申し出る。しかし、その言い方だと、まるで自分の適合率が本当は低くあってほしくないようにも聞こえるが。
「だとしても、連絡もとれない、居場所もどこにいるかわからない。どうしようもねーな」
剛陣はもうお手上げの状態だ。
『とにかく、今のフロイは危険だ。もしかしたら、ヒロトも一星と同じになるかもしれない。だから、フロイのことは私に任せてほしい。ヒロトも呼び戻して、皆は練習をしているといい』
ベルナルドが通話を切った。恐らく、ヒロトに連絡を取っているのだろう。そして明日人たちは、ベルナルドの言う通りグラウンドで練習をすることにした。
「…さて、真実を話してほしい。趙金雲」
ロシアの公園で、ベルナルドはある人物と会う約束をしていた。それが、元監督の趙金雲だった。
「はいはーい、わかりましたよー。あ、その代わりに、私に30G分のお金を用意してくださいねー?」
と、趙金雲はスマホの画面をベルナルドに向ける。そこには、可愛らしい女の子のイラストを中心に、いろんなアイコンが散りばめられている。
「ハワイだとすぐにギガがなくなっちゃうんですよ。そのせいで、西方ラストワールドの周回が捗りませんよ」
「わかった。早く真実を話してほしい。世界のサッカーの真実を」
***
「いいぞー! もっと打ってこい!」
円堂がゴール前に立ち、両手を前に構える。剛陣は、ゴールの前に立っている円堂に向けて、シュートをした。
「次は俺だ! ファイアレモネード・ライジング!」
「正義の、鉄拳!」
剛陣が全ての力を足に籠め、シュートを放つ。しかし、それは円堂の必殺技によって難なく止められてしまった。
「惜しいな! 剛陣!」
「くっそー!」
剛陣がとぼとぼと最後尾に移動するなか、円堂はボールを先頭の明日人に渡した。
「よし明日人! もっと強く撃っていいぞ!」
「え、いいんですか?」
「あぁ!」
円堂にそう言われ、明日人はお言葉に甘えて従うことにした。まず力を入れようと、後ろに下がる。しかしそれは最後尾の剛陣よりも後ろだ。
「行きます! うおおおおおおおおおおおお!」
剛陣より前から、明日人はイナビカリ・ダッシュで勢いをつける。
「イナビカリ・ダッシュ! からのッ、サンライズ・ブリッヅ!」
「よし!」
強度は十分だと、円堂は構える。
「うおおおおおおおおおおおお! 正義の鉄拳!」
大きな拳が、太陽のボールとぶつかり合う。しかし、円堂の技を用いても、円堂はかかとに土の塊を作った。だが、もう少しでゴールに入ったと見なされる線に来る前に、ボールは止まってしまった。
「………よし! いいシュートだな! 明日人!」
「本当ですか! ありがとうございます!」
もっと力をつけるぞー! とウキウキしながら、明日人は最後尾に戻る。
「円堂、頑張っているな」
「だが…少し無理をしすぎじゃないか?」
風丸が円堂を見て、少し無理をしていると思っているようだった。しかし、円堂は元気そうだ。とてもそうには思えない。
「(ユースティティアの天使を倒すためには、まず点を取られちゃ駄目なんだ。そのためにはまず、俺が強くならないと…)」
「円堂先輩!」
「え、」
「何度も呼んでましたよ?」
円堂は、自分の力の無さに嘆く。しかし、外の声が聞こえなくなるほど考え込んでいたのか、夜舞に怒られる。
「あぁごめん! かかってこい!」
「……」
「ん? どうしたんだ夜舞」
夜舞がシュートをしないことに困惑している中、夜舞は円堂に指を指した。
「円堂先輩…顔赤いですよ?」
「え? あっ!」
野坂に手鏡を貸してもらい、自分の顔を見ると、確かに顔が赤くなっていた。自分でも気づけておらず、円堂は驚く。
「少し休んではいかがですが?」
「大丈夫! 全然平気さ!」
手鏡を渡した野坂に休むよう言われたが、円堂はこのまま練習を続ける様子だった。
「……長いことやってるけど、やっぱり心配だよね…」
円堂の顔の赤みが全く引かず、明日人たち灰崎に野坂、一星に夜舞は心配になっていた。
「うん…円堂先輩に何とか練習を止めるように言えないかな? 熱があったら大変だし」
「おい明日人。キャプテンなら、何とか説得できねぇのか」
「で、でも灰崎! 灰崎だってあの人に練習をやめてって言える!?」
「灰崎くんなら言えるかもね。でも、あの人の事だから止めるということはしないだろうけどね」
「……」
明日人達は、どうすれば円堂が練習をやめて休憩をしてくれるかを考えている中、一星は無言で空を見上げていた。しかし、その雰囲気はさながら、充のようにも見えた。
「一星?」
「あ、明日人くん」
明日人が声をかけると、一星は元の雰囲気に戻る。
「なんかぼーとしてたけど、大丈夫?」
「あ、大丈夫だよ。それよりも、なんだかこう、胸に違和感が感じるんですよ」
胸に違和感を抱く一星に、野坂は仮説を立てた。
「もしかして、適合率のことかい?」
「いや、適合率のことは夜舞さんのおばあさんもOKだって言ってくれたじゃないですか」
「はは、冗談だよ」
笑う野坂に、一星は腑に落ちない顔をしていた。
「デバイスの誕生か?」
灰崎は、デバイスの誕生かと思っているようだった。
「えっ、一星のデバイス!? 凄そう!」
「そうだといいんですか…」
灰崎の仮説に明日人が食いつくなか、一星はデバイスのことで不安に思っていた。
「やっぱり、一星と言ったら星だよな!」
「あっ、星の刀とか!?」
そんな中、明日人と夜舞は狸の皮算用ならぬデバイスの皮算用のように、一星のデバイスのことを話していた。
「完全にデバイスの話になってやがる…」
「はは、デバイスの想像をするのはいいことじゃないかな? もしかしたら、いつかは自分たちもハーツアンロックをするかもしれないしね」
「俺が適合率一パーセントだということ知ってての言い方か? 野坂さんよぉ」
まぁまぁと野坂は灰崎を落ち着かせる。(怒らせたのは野坂だが)
「大変です!」
明日人たちが楽しく会話をしていると、坂野上の声が聞こえた。
「円堂さんが倒れました!」
『ええ!?』
なんと、円堂のことで話している間に、肝心の本人が倒れてしまったのだ。
「円堂、大丈夫か!?」
豪炎寺が円堂に呼びかける。円堂の顔色は悪く、青くなっている。明日人たちも急いで円堂の元に駆け寄った。しかし、明日人たちが来てもなお、円堂は目を覚ますことはなかった。
***
円堂が目を覚ますと、そこは森の中だった。それも、不思議の国のアリスが迷い込んだような、入り組んだ道に鬱蒼した森だった。
「ここは、森…?」
周りを見渡してみるも、見たことの無い景色だ。ここがどこの国で、どこの森なのか、円堂には見当もつかなかった。
「とりあえず進んでみよう…なにか見つかるかもしれないし」
ここで待ってても、豪炎寺達が迎えに来る保証はない。それならとりあえずは進んでみようと、円堂は思ったのだ。
森の中を歩いている中、円堂は不思議なもの達に出会った。お茶会をしている兎たち。片方の翼は折れ、縋りあっている双子の蝶たち。タバコを吸っている虫。歌を歌っている花たち。ここは、まるで不思議の国のアリスのようだ。
「凄い…まるで不思議の国のアリスみたいだ…」
次はハートの女王かな。と円堂は次にどんなものが出てくるのかを期待する。
すると、森の木がここだけなくなっており、まるで王宮のような広間に出た。
そこにはなんと………
体が光り始める。それも、オレンジ色の光だ。その光は次第に強まっていき、とうとう倒れている円堂の姿も見えないほどに眩しく光っていた。あまりの眩しさに明日人達が目を瞑っていると、光が無くなっていく。目に違和感を残しながら明日人たちは目を開けると、そこには『ハーツアンロック』をした円堂が立っていた。
「お、俺どうなったんだ…?」
円堂は何が起こっているのかをわかっていないようで、キョロキョロを姿の変わった自分を見つめていた。
「凄いよ円堂くん! ハーツアンロックしてるよ!」
「そ、そうなのか?」
柔道服を改造したかのようなオレンジ色のハーツアンロック。それをしたことに大谷は嬉しく思っていたようだ。しかし、円堂のハーツアンロックは一星とヒロトとは違って、どこか装飾が少ないようにも見え、神門は少しおかしいと感じていた。
「ちょっと待ってください。円堂さんのハーツアンロック…モデルが存在しません…」
神門の思った通り、円堂のハーツアンロックにはモデルといったものが存在しなかったのだ。
「それに、見たところスペクトルフォーメーションもしてませんし…」
「ヒロトみたいにデバイスもないな」
周りの雰囲気が、円堂のハーツアンロックは『未完成』という空気になっていると、円堂が手を叩いた。
「まぁまぁ、デバイスとスペクトルフォーメーションは、これから習得していけばいいさ!」
さぁ練習練習! と円堂は、ハーツアンロックをしたままゴール前に戻った。
「……ハーツアンロックは、怪異とのスペクトルフォーメーションによって起きるものって思ってたけど、違ってたのかな」
「私もそう思ってたよ。でも、円堂先輩からは適合率の減少は見られないし、何しろ怪異がないのにハーツアンロックをしているのは少し意外だね。野坂くん」
野坂と夜舞は、円堂のハーツアンロックについてを話しており、少しおかしいと思っているようだった。
「でも、僕が心配しているのは__」
野坂が、折谷に言われたことを思い出す。
『悠馬。光の適合率が減少方向に入っているようなんだよ。もし異変を感じたら、僕に伝えてくれないかな』
***
夕食を終え、各自で予定の消化を宿所内で行っている中、一星はグラウンドに出ていた。その中心で、一星はスペクトルフォーメーションをするための呪文を唱える。
「…スペクトルフォーメーション、リライズ」
すると、一星の青い髪が赤色に染まり、後ろから長い三つ編みが現れる。蠍の象徴だ。
「さて…」
『一星、適合率のことで悩んでいるのか?』
一星がボールを出そうと動いたその瞬間、胸の中から声が聞こえた。
「誰!?」
『失礼、私だ。蠍だ』
「あ…あの時の…」
自身の頭の中に蠍の声が直接響き、一星は初めて蠍と話した時のことを思い出す。
『自己紹介をしよう。私は
「はい…」
自分の適合率が減少していることを指摘され、一星は頭を下げる。
「確か、夜舞月夜という人間の祖母が言っていたな。適合率はそう簡単に上げられるものではないと。しかし、私はこの目で見て思った。お前の適合率は、世界選抜と戦った時から減少している。何があるのだ? フロイ・ギリカナンのことか?」
悟蠍が、仮説を立て始める。すると、一星が口を開いた。
「…フロイがあんな風になったのは、俺のせいかもしれません」
『なに?』
「フロイは、自分の母親が俺の家族を殺したことに罪悪感を感じているんだと思います。そして、明日人くんのお父さんの件も…だから、フロイは自分の母親に復讐をしようとしているんだと思います」
悟蠍に、人の過去の話はわからなかったが、それでもフロイがどれだけその罪悪感に苦しんでいるのかを、想像ではあるが悟ることできた。
「ハッ! セイヤッ!」
その頃円堂は、修練場で特訓をしていた。飛んでくるボールを、ハーツアンロックで受け止めるという特訓だ。
しかし、円堂にはまだ真のハーツアンロックを掴めていなかった。本当のハーツアンロックは、もっと凄いのだと円堂は感じていたのだ。
「(一星とヒロトのハーツアンロックは凄い…あんな力を使いこなせるなんて…)」
俺も負けていられないな。と円堂は特訓に身を重ねた。
「___!?」
その瞬間、体が引っ張られる感覚がした。それも、引き伸ばされた体の行く末はなんと、自分がハーツアンロックをする前に来た世界だ。
「まただ…」
この世界に入った途端、円堂は思い出した。ここで、誰かにハーツアンロックを解放してもらったことを。
『よく来たな。円堂守』
声が聞こえた。
しかしここで、夢の世界は終わってしまった。現実の世界へと戻る。
「……なんなんだ…一体…」
何度も夢を見ているかのような感覚に、円堂は感覚がおかしくなりそうになる。
***
「うーん、やっぱり特訓かな?…」
宿所のコンピュータルームで、円堂はハーツアンロックについてを調べていた。しかし、外の世界でもハーツアンロックによる情報は、無力なものばかり。イナペディアを見ても、全然ダメだった。
「ん? 円堂、お前がパソコンを使うなんて珍しいな」
円堂がドアを閉め忘れたのか、朝練の帰りでコンピュータルームを通りかかった風丸が、円堂に声をかける。突然声をかけられた円堂は、パソコンの画面を隠すようにして風丸に振り向いた。
「あぁ風丸。朝練終わりか?」
「あぁ、一星とヒロトもだが、他の皆もだいぶ力をつけているみたいだからな。俺も負けてられないよ」
「そっか! 風丸も頑張れよ!」
「円堂だって、昨日みたいに倒れるなよ?」
風丸にそう告げられ、円堂は笑いながら頭をかいた。
「ははは…」
「じゃあ、もうすぐ朝食だからな。お前も切りがついたら食堂に行くんだぞ」
円堂が返事すると、風丸はコンピュータルーム向こうにある食堂まで行ってしまった。
「…困ったなぁ…」
円堂は焦っていた。一星とヒロトはハーツアンロックを解放してすぐに使いこなせている中、自分だけが未完成で、使いこなせていない。ネットならなにか情報が見つかるだろうなと思っていたのだ。
「そうだ、ハーツアンロックをした本人に聞けばなにかわかるかも!」
そうと決まればと、円堂はワクワクとウキウキからパソコンのシャットダウンを忘れ、食堂に急いだ。
しかし、食堂に行く曲がり角で、円堂は誰かとぶつかってしまった。走っていたのと相まって、円堂は尻もちをついた。
「いった…あ、ごめん夜舞!」
「円堂先輩? 廊下は走っちゃダメって言われたような…」
「あ、あぁー」
夜舞の言葉でやっと、廊下を走っては行けないということを思い出し、円堂は自分のした事に驚いた。
「とにかくごめん夜舞!」
「いやいいんですよ! あ、私これから不知火さんとお出かけするので、それじゃあ!」
よく見たら夜舞はいつもの無地の袴姿とは違って、可愛らしい花模様の袴をしていた。不知火と夜舞の関係はよく分からないが、吹雪士郎からは「夜舞は不知火に恋をしている」(明日人より)ということは聞いていたが…
「夜舞…最近不知火に会ってるよなぁ…」
今度は走らないようにと、円堂は歩いて食堂に向かった。
食堂に入ると、皆がのんびりと話しながら朝食を食べていた。夜舞はその中でも一番に食べ終わったのか、皆は皿の二分の一も食べていなかった。
「あ、ヒロト!」
早速ヒロトを見つけた円堂は、ヒロトにハーツアンロックの解放についてを聞くことにした。
「ちょ、円堂さん…いきなりなんスか」
「実はな、ヒロトにハーツアンロックのことを聞きたくてさー」
「ハーツアンロック?」
ヒロトは突然ハーツアンロックのことを聞かれ、少し戸惑っている様子だった。
「ハーツアンロックは俺にもわかんねぇよ。ただ、凄く力が湧くって感じはするな。ま、それは俺がゴッド」
「大変です!」
円堂がヒロトからハーツアンロックのことを聞いている中、大谷と茜が食堂にやってくる。
「実は、サッカー協会の建物が壊されたんです!」
大谷が大声で報告する中、茜がリモコンで食堂のテレビをつける。
『現在、アメリカサッカー協会の建物が、破壊されています!』
テレビには、爆発を続けるサッカー協会を背景に、ヘリコプターでライブ中継を続けるリポーターと、テレビの中では大騒ぎになっていた。
***
「…なるほど、貴族たちは、サッカーを使ったギャンブルをしていたのか…」
「はい。私がハワイに行っている間に手に入れたものです♪」
ベルナルドと趙金雲は、オリオン財団本部の跡地に来ていた。そこでベルナルドは、趙金雲からの話を聞く。趙金雲の話によると、世界中の貴族はサッカーを使ったギャンブルをしているということなのだ。
「ですが、それを最初に始めたのは、オリオン財団だったのです。恐らく、貴族に金を出させることで、金もうけをしていたんでしょうね」
「…そうか」
もしや、ユースティティアの天使がオリオン財団を壊したのは、サッカーギャンブルによるものなのかと、ベルナルドは予想する。しかし、これではユースティティアの天使がなぜオリオン財団を壊したかの決定的な理由にはならない。
「…どうしてサッカーが熱狂的になったのか、わかるかしら?」
空中から声が聞こえた。それも、深みのある声だ。
「エレン!」
「おやや~?」
ベルナルドより少し上で飛んでいる天使を見つけ、ベルナルドたちは身構える。
「なぜオリオン財団が壊されたのか___それは、オリオン財団が全ての根源だったからよ」
「…わかっている。オリオン財団は、世界経済を操ろうと、サッカーを____」
顔を下げるベルナルドに、エレンは笑う。
「うふふ…違うわ。そもそも、サッカーはスポーツなのよ? それを商売に使うなんて、おこがましいにもほどがありますわ」
「そろそろ、訳を話してくれませんかねぇ?」
「あらごめんなさい。少し話がそれてしまったわ。いい? そもそもオリオン財団もだけど、サッカー協会も廃れているのよ。まず、事の発端はヴァレンティン・ギリカナンが趣味でサッカーギャンブルをしたところから」
そして、エレンは話し始めた。
まず、ベルナルドの父であるヴァレンティンは、友人たちとサッカーの勝敗を決める遊びをしていた。それも、小規模に。しかし、当時オリオン財団で副業をしていたサッカー協会の一員がサッカーギャンブルに目をつけ、世界中の貴族たちにサッカーギャンブルの詳細を話してしまったのだ。
それで、何年も前からサッカーは商業化していた。貴族たちは勝つと思ったチームに金を出し、勝敗を懸けるようになった。そして、その勝ったお金で、戦争の為の資金を手に入れていく。
しかし、これはただの序章に過ぎなかった。
それは、一年前の雷門中FF優勝のことだ。予想もつかない勝利に、他の学校に金を出していた貴族は一気に暴落。そして、貴族からのクレームが来た。このままではとサッカー協会は思ったのだろうか。自分達に金をくれる機会を逃さない為に、サッカー協会は雷門中を伝説の中学校と仕立て上げ、さらにサッカーギャンブルの為の金を稼ぐために、スポンサードという制度を作ったのだ。
「全く、いつ思っても業が過ぎると思うわ。サッカー協会がサッカーギャンブルのことを貴族たちに話して、そのギャンブルで勝ったお金で戦争のための資金をあつめる。そして、サッカー協会はさらにお金を稼ぐために、スポンサードというのを作ったのよ。まさに、悪のスパイラルだわ。サッカー協会が儲かれば企業が儲かる。企業が儲かれば貴族が儲かる、貴族が儲かればサッカー協会も儲かる。
そう、このサッカー界はもう、昔のような輝きなどないのだ。
すでにこのサッカーは、によって支配されてしまった。
強欲、それはお金。
お金。それはギャンブル。
ギャンブル。それはサッカー。
この小説の中でどのコンビが好きですか?
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明日人とエレン
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不知火と月夜
-
エレンとレン
-
エレンとメリー
-
エレンとミラ
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不知火とベルナルド
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明日人と月夜