あと、いつも見てくれてありがとうございます。
「はい、はい…うん、わかった」
ロシアのショッピングモールのフードコートの席で、夜舞は電話先の相手と話す。その隣には不知火がおり、彼は一応夜舞の父親の友人ということになっている。しかし、その彼はベルナルド・ギリカナンの元師匠だった。その彼となぜいるのか。それは、夜舞自身がその人と居たいからであり、そこに理由はない。
「すみません不知火さん、緊急ミーティングで戻らなくてはいけなくなりました」
「そうか…仕方ないな」
テーブルには紙コップとガラス容器が空の状態で並べられており、さっきまでデザートを食べていたことがわかる。不知火が腕時計を確認し、今後の予定がないことを知ると、夜舞に声をかけた。
「そうだ、二日後にまた会わないか?」
「二日後ですか? 特に予定はありませんし、わかりました!」
また二日後、不知火に会えるということに夜舞はウキウキしながらショッピングモールを出る。ロシアの人混みの中を歩きながら、夜舞は宿所方面のバス停に向かう。
だが、人混みのせいでよくはわからなかったが、すれ違いざまに見覚えのある容姿が目に入ったような気がした。それも、全体的に白く、そして髪の色は黒から青といったグラデーションと、夜舞が見逃すわけが無かった。
「__今のは」
エレンだ。と夜舞は察した。ここで何をしているのだろう。何をするつもりなのだろうか。
しかし、自分は早く宿所に戻らなくてはならない。エレンのことは後で皆に話すとして、今は宿所に戻ることにした。
***
「はっはっはっ、最高だな! まさか日本が支配されると思わなかったが、これで儂の罪も無かったことになったようなものだろう」
アメリカの病室で、老人は高笑いをする。
「儂は上級国民だからな! ほとんどの罪は権力で消してきた! 最近病院の入口でデマが起きているようだが、そんなこと知らん! この国もいつかは儂の力を___」
日本の上級国民の老人が笑う中、肉が刃物によって貫かれる。それも、あまりに急なことに老人は痛みも感じなかった。
「___は?」
「……貴方は罪を犯しました。人を車で数十人も引いて、それでもなお逮捕されない…」
少年の右手には、老人の心臓に刺さったナイフが握られていた。
「貴方のような下衆に、ミラ様の手を汚す訳にはいきません」
少年のペンダントが光った瞬間、周りの景色がスローモーションになる。しかし、しばらくすると、完全に止まってしまった。その間に少年は右手のナイフを抜き取ると、左手のハンドガンで、老人の顔や体全体に銃弾を大量に放つ。
「終わりです」
少年が病室を去り、病院を出ると、周辺に止まっていた時間は動き出した___。
「よくやりました」
「ありがたきお言葉です」
帰還した少年は、魔界を支配する天使、ミラの座る玉座の前で膝まづいている。しかし、少年の果たした任務の遂行内容に、ミラは不満を思っているようだった。それも、極悪人相手に地獄も見せずに殺したことだ。
「ですが、私としてはもう少し地獄を楽しんでからお亡くなりになられて欲しかったのですが……」
「あのような下衆に、ミラ様の手を汚す訳にはいきません」
「そうですの」
少年の持っていたハンドガンをいじりながら、ミラは少年の顔を覗き込む。
「ミラ様。これから僕は、ラストプロテクターの抹殺に図ります」
そう少年が言った瞬間、ミラの眉がピクっと動いた。
「…なんと言ったのです?」
「ですから、僕はこれからラストプロテクターの抹殺に…」
「そのようなこと、しなくてもよろしいですわ」
ミラからの命令に、少年は目を見開いた。
「…お言葉ですが、それはどうしてですか。邪魔者は、早めに消してしまえばよいものを…」
「…貴方って、つまらない人ですわね。私は、あくまでこの戦いを余興だと思っていらしてよ?」
「そうですか…」
ミラの考えに、従者である少年にはわからなかった。
***
「…監督、遅いね…」
不知火と話をつけて帰ってきた夜舞は、監督の到着を待っていた。元監督の趙金雲は、ハワイで色んな情報を手に入れたらしく、今日はそれを聞くためにミーティングルームに来ていた。
「ベルナルド監督から聞いたけど、ハワイで色んなことを調べてきたからね、少し到着が遅れているのかもね…」
アフロディはテーブルの上で手を組みながら、ベルナルド監督と趙金雲の到着を待っていた。
その頃夜舞は少しお腹が空き、備蓄していたお菓子のバグリチュウをほおばりながらスマホを見ていた。そこでは、上級国民の○○容疑者が搬送先の病院で謎の死を遂げたというニュースが。
「みなさーん! お久しぶりですねー!!」
明日人たちのいるミーティングルームにくるなり、趙金雲はまるでバレリーナのように飛んだかと思えば、すぐに着地してその場をくるくる回ったのだ。明日人たちが額に汗をかいているのに気づかないまま。
「趙金雲さん、お久しぶりです」
笑いというなの呆れを抑えながら、野坂は元監督の趙金雲に挨拶をする。
「はーい! 皆元気そうでなによりですねー!」
「…お前もな」
と、明日人の隣に居る灰崎が呟く。それに明日人は苦笑いで返す。
「さて、皆もわかっていると思うが、これを見てほしい」
ベルナルドがミーティングルームの大型テレビの電源をつける。そこには、先ほどまで明日人たちが見たニュースの映像だった。しかし、とある場面でベルナルドはリモコンを操作して、一時停止をする。
「これが、どうしたというんですか?」
キャプテンの明日人がベルナルドに、この映像がなんなのかと問いかける。
「これを拡大しよう」
ベルナルドが明日人に言うと、今度はパソコンを操作して、一時停止となった画面を拡大させた。
画面の画像には砂埃と火の粉が舞い上がっており、ただの事故の映像のようだった。しかし、明日人たちは砂埃の間にある黒い影を目にし、目を見開いた。
「_フロイ!?」
明日人たちが驚く中、さらにベルナルドはテレビの画面を切り替えた。今度は、SNS上で投稿された写真だ。そこにも、サッカー協会が壊されている画像だ。そしてそこにも、ぶれてはいるがフロイが写っている。
「なぜフロイが…」と、豪炎寺。
しかも、フロイの背中には謎の茎が生えていた。
「豪炎寺、今フロイの背中に植物の茎のようなものが生えていなかったか?」
砂木沼の意見に、明日人たちはもう一度フロイの影を見る。砂木沼の言う通り、フロイの背中に細い触手が生えていた。
「まさかっ!」
「そんな、本当だったのか!?」
この前ベルナルドが言っていたとおり、確かにフロイの背中に触手が生えていたのだ。
『
低い男の声がしたと同時に、一星が机に突っ伏した。明日人達が驚く中、一星はむく…と体を起こし、真っ赤な瞳で明日人達に話しかけた。
「えっと、貴方は…」
『私は一星光の怪異、悟蠍だ』
大谷が声をかけると、一星に憑依した悟蠍は、軽く自己紹介をした。
『さて、本題に入ろうか。根憎蔓は、そのフロイ・ギリカナンに取り付いた怪異だ』
怪異の仕業だということに、明日人と夜舞は顔を見合わせた。しかし、夜舞が見せてくれたメモに、根憎蔓の記事はない。
「でも、その根憎蔓の怪異は、巻物のどこにもなかったよ?」
『それはだな。あの怪異は
悟蠍はそう明日人達に言った。
世界の原生生物とも言える怪異は、全て自然に生まれるものだと考えていた彼らは、自分の感情によっても生まれてしまうということに体をビクッと動かした。
『怪異には原生型と誕生型があるんです。根憎蔓は誕生型なので、悟蠍が根憎蔓と名前をつけたのですよ』
すると、今度はヒロトが叶え蛇に憑依され、肘を机につきながら話している。
『映像を見ただけだが、どうやら根憎蔓はサッカー協会の建物を破壊することによる、達成感を味わっているようにも見えたな』
『いいえ、だとしたらフロイ・ギリカナンに取り付く必要がありません』
『それもそうか、』
しばらくして、悟蠍と叶え蛇とのなっがーい会話が続いた。
「あ、あのっ! 結局その根憎蔓ってなんですか?」
いよいよ我慢出来なくなり、明日人は会話をやめてほしいかのように、悟蠍と叶え蛇の会話に入った。
『まぁ、一言で表すのなら…あいつは危険だということだ』
それだけを明日人に言うと、悟蠍の憑依が終わったかのように、一星の目が元の色に戻った。
「………えっ、俺、何をしていたんでしょう…」
「一星くん、大丈夫かい?」
「はい…」
野坂の一言に、一星は大丈夫だと答える。
「さて、そろそろ本題に入りましょう」
「え? フロイの話が本題じゃなかったんですか?」
趙金雲の本題という言葉に、明日人たちは一斉に趙金雲の方を向いた。
「これは、私の過去とともに話しましょう。私は昔、サッカー協会の委員として働いていました。オリオン財団に地位を奪われる前までね。そして私は、こんな身なりですが、サッカーを愛していました」
「怪しいな…」
「まぁまぁヒロトくん、ここからが本題なんですよ。サッカー協会は、オリオン財団を始点に、サッカーギャンブルをしていたのでーす! 勝敗を予想して、お金をかけるギャンブルをね…」
これだけを聞くと、なんも害はなさそうに見えた(ギャンブルは悪い事だが)。しかし、実際は明日人たちの考えとは別のものになっていた。それを、ベルナルドが説明する。
「サッカー協会は、世界中の首相や貴族たちを巻きこんでいた。そして、サッカーギャンブルに勝った首相や貴族たちは、戦争や自分の欲の為の資金にしていたんだ」
「えっ、それって本当なんですか!?」
ちょうど学校からの課題で戦争のことを取り扱っていた坂野上が、サッカーギャンブルによる金がどこに行くのかということに驚く。
「あぁ」
それに、ベルナルドはただ頷くだけだ。
「もしかして、ユースティティアの天使がオリオン財団を壊したのって」
「サッカーギャンブルをやめさせるためだったのか…」
アフロディと鬼道が、ユースティティアの行動の意図を読み取ろうとする。あれはギリカナン家を苦しめるものでも、フロイを苦しめるものでもなく、サッカー協会によるサッカーギャンブルをやめさせるものだったのだ。
確証はできないが。
「オリオン財団がそんなことを…」
「…フロイさん…」
マリクは、フロイのことを心配していた。彼は、オリオン財団が招いた罪に対して酷く罪悪感を感じており、明日人のことだってもそうだった。そのオリオン財団がサッカーギャンブルをしていたということに、フロイは何を思うのだろうかと。
「…なぁ、これって実質ユースティティアが正しいってことになんじゃねぇのか?」
剛陣の一言に、明日人たちは一斉に剛陣の方を向く。
「そ、そんなわけないよ! ユースティティアは、俺達からサッカーを奪ったんだよ!?」
同様のあまり、年上に対して敬語を使うことを忘れてしまっている明日人が必死に抗議をする。
「稲森の言う通り、確かにユースティティアが正しいとは考えにくいな」
「なぁ…どういうことなんだ?」
円堂が剛陣に問いかける。すると剛陣は、皆に問い詰められて焦っているような顔をしながら言った。
「いやな、確かにユースティティアは俺達からサッカーを奪ったぞ? だけど、もしそれがサッカー協会による戦争を止めさせるものだったら、取り戻そうとする俺達の方が悪ってことになんじゃねぇのか?」
確かに剛陣の言うことは正しい。だが、必ずしもそれが正しいというわけではない。それでも、明日人たちは苦い顔をしていた。
「ま、まぁまぁ! そういう難しい事は、ベルナルド監督に任せて、私たちはサッカーしていようよ! ね?」
夜舞は剛陣と皆の間に入り、皆を鎮める。こうして、ミーティングは終了した。
***
「どうしたんだ皆、なんだか変だぞ!」
円堂が、彼らを見て大声をあげる。明日人たちは地面を見つめており、円堂の言葉に耳を傾けていなかった。
時は、グラウンドに出て練習をしようとした時である。
明日人たちは、練習メニューを見ながら練習していたのだが、それが中々上手くいかなかったのだ。練習メニューが上手くいってないのではない。彼らのプレーに問題があったのだ。
パスをしようにも、繋がらない。
ドリブルも、すぐにディフェンダーに邪魔される。
ブロックも、ミッドフィールダーのドリブルによって突破されてしまうのだ。
それを見て、円堂は我慢できなくなり、こうして明日人たちに喝を入れに来たのだ。
「…円堂さんは、何も感じないんですか」
「えっ…」
しかし、明日人が自分に言った事に円堂は目を見開いた。
「サッカーが戦争に使われたなんて、嫌じゃないんですか!?」
「お、俺だって嫌だけどさ…」
「じゃあ、なんでそんなに楽しそうにサッカーをしているんですか!」
現キャプテンと元キャプテンとの言い合い(明日人が一方的に言っている)に、坂野上と一星はオロオロする。
「あ、明日人くん落ち着いてよ!」
夜舞が止めに入るも、明日人はやめる気配は無い。
「サッカーギャンブルの事実を知って、俺たちはまともにサッカーが出来なくなりました。それなのに…それなのになんで、貴方はそんなに楽しそうなんですか! 俺たちが取り戻そうとするサッカーがこんなんだったら、こんなの…」
明日人が涙を流す。それに円堂は手を伸ばそうとしたが、跳ね除けられる。
「サッカーじゃない!!」
そう言うと、明日人はグラウンドの昇降口へと走っていってしまった。
「あ、明日人くん!」
「夜舞…ここは俺に任せてくれないか」
「円堂先輩…」
自分の行動に負い目を感じた円堂は、夜舞の代わりに明日人を追いかけることにした。
「みんな! 俺がいない間、練習頼んだぞ!」
円堂は明日人を追いかけ、グラウンドを出る。
「親分、やはりサッカーギャンブルのことは伝えない方が良かったのでは…」
「これでいいのです」
李子分が明日人の発言を聞いて、趙金雲にサッカーギャンブルのことを話す。しかし、趙金雲はこれでいいと言った。
「いいですか。人が一番恐ろしくなるのは、悪に染った時ではありません。自分らのしていることが正義だと慢心してしまうことです。そして、ラストプロテクターというチームと、ユースティティアの天使は、どちらも正義と言えることです。彼らには、正義とは何なのかを知らなくてはいけませんからね」
「確かにそうだな…」
かつての自分の母は、世界を救うためだという正義に溺れた愚者のようなものだった。趙金雲の言っていることは本当だと、ベルナルドは思っていたのだ。
「確かに、稲森の言う通りかもしれないな…」
円堂と明日人の帰りを待つ為に、上手くいかない練習をしている中、休憩に入った風丸がベンチで呟いた。
「稲森くん、サッカーのことに熱心的だったからね…」
大谷もまた、明日人のことはよく知っており、FFの決勝戦でラフプレーギリギリのサッカーをしていた灰崎と野坂に対して怒ったという記憶もあった。
「…クソっ!」
苛立ちながら撃った灰崎のボールは、誰もいないゴールに突き刺さる。
「俺は明日人を探しに行くぞ」
「ま、待ってよ灰崎くん! 円堂さんが言ってたでしょ!? 俺がいない間、練習を頼んだって!」
居てもたってもいられず、明日人を探しに行こうとする灰崎を止めようとする坂野上。
「…坂野上くん。灰崎くんの言う通りだよ」
「一星くん…」
「明日人くんが狙われているのに、一人にしちゃおけないよ」
『その通り。横着している場合?』
誰かが置いたサッカーボールの上に、天使が足を揃えて立つ。
「エレン!」
「こんにちは」
フォルセティの娘、エレンが来たことに、その場にいる人達が身構えた。他に仲間がいるのではないか。明日人を救済しに来たのか。
「そんなに身構えなくてもいいのよ。私は忠告をしに来ただけだから」
身構える灰崎たちを見かねたのか、エレンはその場にいる人たちを安心させるように言う。しかし、灰崎たちにそれは伝わらなかったようだ。
「これを見てちょうだい」
エレンが六枚の翼を出して空を飛ぶと、傘の先から出るレーザーで、テレビの画面のようなものを作る。砂嵐の後、画面には見慣れた風景が写った。
そう、日本だ。
インタビューのようにマイクが写っており、その傍には日本から逃げる時に逃げ遅れた人達だろうか、人が写っている。
しかし、灰崎達が予想していたものより、かの日本は
『日本が乗っ取られたって聞いて、驚きましたけど、私たちのような貧乏人にも食料やお金を渡してくれるので、ミラ総理大臣は素晴らしいです』
『正直、こんなに素晴らしい国は見たことがないよ』
『やっぱり、天使に世界を統一させたほうがいいんじゃ…』
なんと、逃げ遅れた人達は、ミラに支配された日本を理想郷だと発言していたのだ。しかもそれだけではない。
「これもよ」
また映像が変わる。今度は会議室のような質素な部屋に、何十人の人が集まっている動画だ。
『ラストプロテクターがもしもユースティティアの天使を倒してくれたなら、私達の勝利ですね』
『世界中のサッカー選手は、自分達のしていることが戦争をしているのと同じだと気づいていないからな』
『国も悪ですよね。ラストプロテクターにだけ給付金を渡すなんて。まぁ、ユースティティアの天使を速く倒してもらって、早くサッカーによる経済活動をしたいですからね』
『ラストプロテクターも馬鹿ですよね。結局は私達に踊らされているんですよ』
サッカー協会の委員たちだ。誰もかれもが不敵な笑みを浮かべて笑っており、灰崎たちは自分達のしていることに絶望した。
そう、自分達はサッカー協会、いや全ての大人たちに踊らされていたのだ。
自分達の欲の為に、世界の為に戦う自分達を利用したのだ。
「…あ、あぁ」
坂野上が、絶望のあまり地面に膝をつく。
「これが現状よ。これでわかったでしょう? 戦うだけ、この世界の人間たちを甘やかすだけだって」
傘の先から現れる光が消え、エレンは背中を向ける。
「じゃあね。あとは貴方達で考えること__」
エレンが背中を向けた瞬間、何者かのシュートがエレンに突き刺さろうとしていた。
「__エレン、危ない!」
夜舞が思わず叫ぶ。
しかし、夜舞に言われなくとも、エレンは自身にバリアを張ると、シュートは勢いを無くし、地面に落ちる。
「…だぁれ?」
自身のみに危害が及びそうになってもなお、エレンは余裕そうな表情でシュートを放った相手を探す。
「夜舞! なぜ敵を庇うようなことを!」
「でも風丸先輩! 怪我したら大変じゃないですか!」
「外したか!」
「剛陣! 何をしているんだ!」
「豪炎寺さん! こいつの言っていることは嘘っぱちだ! きっと、俺達を嵌めるためにこんな動画を作ったんだ!」
剛陣はあの映像を信じていないようだ。しかし、これまで世界の為に戦ってきた彼らにとっては、ショックが大きい。
「…剛陣。俺達は、踊らされていたんだ。最初から、俺達はサッカー協会に嵌められていたんだ」
風丸の目は前髪によって隠され、その素顔は見えない。
「お、大谷さん…」
茜は、顔を地面に向けている大谷に恐る恐る声をかける。
「…茜ちゃん。明日人くんと円堂くんを連れてきて」
「でも、大谷さんは…」
本当は、泣きたかった。しかし、先輩として、後輩を安心させたかった大谷は、無理やり笑顔を作った。
「私は、だいじょうぶだから。お願い」
「…はい」
大谷に言われたとおりに、茜は明日人と円堂を呼びに宿所を出る。
「…俺、もう戦いたくない…」
「何言ってんだタツヤ! サッカーを取り戻さねぇと、お前の夢だったFF優勝が出来なくなっちまってもいいのかよ! 俺はお前の夢のすけ…」
「そんなの、こんな事実を知ってしまったら、叶うわけないだろ!」
サッカー協会に利用されていたこと、自分達の夢が叶わないというぐちゃぐちゃな感情に押しつぶされ、タツヤは情緒不安定なままヒロトに怒りをぶつける。
「ッ…」
鬼道がエレンを睨む。あの映像が真実か、嘘かはわからない。しかし、鬼道は自分達の役目を理解していた。
「お前達しっかりしろ! 俺達には、俺達の役目がある! ここで絶望してどうするんだ!」
気が沈んでいる者たちに喝を入れると、鬼道はエレンに振り向いた。
「…エレン、お前だけは許さない…」
エレンには、わかっていた。強気な態度で睨んではいるが、そのゴーグルの下では瞳が揺れているということに。
「…いい? 私は貴方達と戦いたくないの。天使と人間の共存を目指す以上、こんな真似はしたくはなかったけど…。でも、貴方達には一度、この世界の真実を知るべきなのよ。戦うだけ、意味のないことだって。そして、世界はいつだって貴方達のような英雄を求めているわ」
すると、エレンの持つ傘が白と薄緑の槍に変わり、翼も薄緑に染まる。
「自分たちの不都合な事実を覆い隠してくれるような捨て駒をね!」
***
勢い余って宿所から飛び出した明日人は、ユニホーム姿のままロシアの街の公園のベンチに座っていた。運動して体が暖まっていない上に、ジャージも着ていないため、ロシアの街は寒かった。
「そういえば、もう十一月だもんな…」
両手で肩を擦って体を暖めていると、誰かが隣に座ってきた。エレン? と明日人は思った。しかし、隣に座ったのは、フロイだった。
「…フロイ?」
「………」
無言のまま、フロイはベンチの先にある、サッカーをしている子供たちを見つめる。
「明日人―!! どこにいるんだー!」
ロシアの街を走りながら、円堂は明日人の名を呼ぶ。
「(どうするんだ…スマホは鞄の中だから連絡できないし…)」
ロシアの公衆電話はあるが、かといって明日人が携帯を持っている可能性も低い。せめて、どこにいるかわかれば…と思いながら歩いていると、公園が目に入った。
「(…明日人!? それにフロイも!)」
なんと公園のベンチには、フロイと明日人がいたのだ。今の所フロイに触手は生えていない。しかし、危険に誓いのは確かだ。
「明日人―! フロイー!」
「円堂さん!?」
円堂が大声で二人の名を呼ぶ。明日人は驚いた様子を見せるも、フロイは無言のまま円堂を見つめる。
「フロイ、お前も探したんだぞ!? さ、一緒にかえ…」
「残念だけど、それは出来ない」
すると、フロイは自分の胸に手を当てた。
「僕は、ラストプロテクターも、オリオン財団も、ユースティティアの天使の協力もなしに、サッカー協会をこの世から消し去るという目的があるんだ」
「なっ、そんなことしたら、ユースティティアの天使を倒してもサッカーが!」
「出来なくなる? そんなの僕の手でまた復活させるさ。今の醜くてに満ち溢れたサッカーよりも、新しくしてやり直した、清々しいサッカーの方がいいだろ?」
ついこの前まで、サッカーを取り戻そうと奮闘していたフロイが、たった数日でこうなってしまったころに、円堂は驚きを隠せない。しかし、フロイがこうなってしまった理由を、円堂は知っていた。
「…フロイ…お前がサッカー協会を壊そうとするのって、サッカーギャンブルがあるからか?」
「あぁ、オリオン財団の機密情報に乗っていたんだ。オリオン財団とサッカー協会は、世界大戦を起こしかねないことをしていたんだ。それを起こして、大量の死者を出すよりも、今この手でサッカー協会とオリオン財団を壊した方がいい!!」
「フロイ…」
明日人がフロイの名を呟くと、フロイは突然明日人の肩を掴んできた。
「アスト。君が母さんにされたこと、僕がこの身で償うよ。そして、君のやりたいサッカーを、実現させてみせる」
「なぁ明日人…フロイとは何を話していたんだ?」
フロイが居なくなったベンチに、明日人と円堂は座る。
「…サッカーギャンブルの話です。俺、思っていたんです。戦争に繋がるサッカーなんて、やりたくないって」
「………」
明日人の意見に、円堂は口ごもる。しかし、円堂には明日人に言いたいことがあった。
「明日人…悪かった。世界をかけた戦いなのに、俺、どうしてもサッカーが大好きだからさ、つい楽しんじまうんだ。世界の危機なのにな…」
円堂は、自分がどれだけサッカーに思いを詰め込んできたのか、そして、どれだけ愛しているのかを、明日人に話した。すると、明日人は透明の雫を目から零した。
「…俺は、羨ましいですよ。俺も、そんな風に、サッカーを…」
「明日人さん! 円堂さん!」
向こうから、二人を呼ぶ声が聞こえた。茜だ。こんなところに一人で、どうしたんだろう。
「茜さん! どうしたの?」
「…実は…」
「そんな…」
「皆!!」
明日人たちは、急いでグラウンドに戻った。しかし、そこにいたのは、エレンによって傷だらけで地面に倒れた、彼らの姿があった。
「…大谷さんが、私を逃がしてくれたんです…」
確かに、エレンが必殺技を使ったのか、それはベンチにも影響が出ていた。
「とにかく、救急車を!」
明日人と茜が急いで救急車を呼んでいる中、円堂は倒れている皆を前にして、膝をついていた。
「…みんな…」
自分がもう少し早く明日人を見つけていたら。
自分がもし夜舞に明日人の捜索を頼んでいたら。
自分がもし、
ハーツアンロックを完成させていたなら。
この戦いが意味のないことだと知ったときこそ_____
人は、深く絶望する。
はい、とうとうやってしまいました。
サッカー協会の真実を知って、皆さんが絶望するというのを。
いやね、最初は普通にエレンさんに歯向かって反抗するっていうのを書いていたんですが、添削するうちに戦神特徴のちょっと鬱な描写が…無印なら『そんなの嘘っぱちだろ! 戦うぞ!』が普通なんですけどね、戦神ではそうはいかないんですよ。でも、そこが戦神の一番の十八番ともいえますねw
調子にのってすみませんでした。
キャラ崩壊させてすみませんでした。
でも鬱丸さんは捏造三期でも鬱丸さん。
この小説の中でどのコンビが好きですか?
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明日人とエレン
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不知火と月夜
-
エレンとレン
-
エレンとメリー
-
エレンとミラ
-
不知火とベルナルド
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明日人と月夜