あとフロイ編長くね…?
早く終わらせないと視聴者からいい加減にしろと言われる…
「………」
すっかり暗くなってしまったロシアの総合病院で、明日人たちは総合受付前の待合室で医者の言っていたことを脳裏に過らせる。
『全員、怪我を負っていましたが命に別状はありません。サッカーも十分できるそうですが…ご本人曰くショッキングなことが起きたというので、念のためカウンセリングを行いますね』
自分が居ない間に、何があったのだろうか。と、明日人は思いを巡らせる。大谷によって逃がされた茜の話によれば、自分が居ない間にエレンが来たというのだ。そして、灰崎達にミラが支配した日本の今、そしてサッカー協会の真実を映像として伝えてきたのだ。その後は茜も明日人たちを探しに出ていて、それ以降のことはわかってはいないらしい。
だが、明日人はこの予想が本当かは知らないが、気づいていた。エレンは、自分達を倒すためにやってきたということに。自分達が宿所に帰った時にはもう、灰崎たちは倒れていた。これはつまり、エレンによって灰崎たちは倒されたといっても過言では無かった。
しかし、それなら少し疑問が湧く。エレンは平和の天使。つまり戦いを好んでいない。なら、なぜ自分達を襲撃しにきたのだろう。
「明日人さん、明日人さん」
「え、あぁどうしたの? 茜さん」
茜に肩を優しく叩かれる明日人。さっきまで声をかけられていたこともわからないほどに考え込んでいたのだろうか。意識がやっと外に向く。
「あまり言いにくいんですけど…円堂さん、特訓しなきゃって外に出てしまいました」
「えぇ!?」
自分が考え込んでいる間に円堂が特訓をしに行ってしまったことに、明日人はいつの間にと感じた。それと同時に、なぜ円堂はこんなときに特訓をしようと思ったのかとも考えた。
「それで、なんて言って?」
「なんだか…皆を守る為にはハーツアンロックが必要なんだって言っていました」
「円堂さん…茜さん、円堂さんを探しに行こう。まだ近くにいるかもしれない」
明日人は、円堂を探そうと病院の外に出た。しかし、辺りは夜なので暗い。もしかしたら結構な時間を探す時間にあててしまうかもしれないと思ったその時だった。明日人たちが居た病院近くの公園で、円堂がタイヤを背負いながらタイヤを受け止めている姿があったのだ。
「…ドリャア!!」
あれほど大きなタイヤを受け止めている円堂に、明日人たちはその迫力に声をかけることが出来なかった。
「俺は、もっと強くならないといけないんだ…そのためには、特訓だ!」
息が荒くなっていようとも、円堂は特訓を止める気配はない。その根性と気迫に、明日人と茜は改めて円堂が伝説のゴールキーパーだとわかった。
「うぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉおおおお…」
声で力を圧縮させ、円堂はその力でタイヤを押す。そのタイヤは重力の作用でまた円堂の元に戻ってくる。
「ハッ!」
円堂が勢いよく両手を前に突き出した瞬間、明日人たちの目には完成されたようなハーツアンロックが一瞬だけ見えた。円堂の短い髪が伸び、背中からはオレンジ色の翼をマントの様にして生えていた。
しかし___
「わぁっ!」
タイヤの力があまりに強すぎたのか、円堂はタイヤに吹き飛ばされた。それを見て、明日人たちは額に汗をかいた。
「円堂さん…」
「いてて…ん? 明日人に宮野。どうしたんだ?」
仰向けに倒れていることで、後ろにいた二人に存在に円堂は気づいた。
「いや、円堂さんが特訓するっていって外に出たものだから…」
「あぁ! ちょっと特訓したかったんだ!」
と、円堂は笑った。
「いきなり特訓するって聞いた時には、心配しましたよ…」
「わるいわるい! じゃ、病院に戻るか!」
円堂は笑顔のまま、明日人たちと一緒に病院に戻る。その道中で、明日人は円堂になぜハーツアンロックを完成させたがるのかを聞いた。それに、円堂はあどけない子供のように答えた。
「すみません円堂さん、そんなにハーツアンロックを完成させたいんですか?」
「……まぁ、完成させたいって気持ちはあるな。ハーツアンロックを完成させたらさ、もっと強くなるし、皆のことを守れるかもしれないだろ?」
「皆のことを守れるかもしれない…」
明日人には、なぜ円堂がそこまでしてハーツアンロックを完成させたいのかが、よくわからなかった。元々、こうやって難しく考えるのは苦手なのだ。だが、自分の状況と円堂の状況を見たら、そうは思えなかった。
明日人と坂野上には怪異が存在している。しかし、ハーツアンロックは出来ていない。そして円堂はというと、怪異が居ない上に、ハーツアンロックが未完成だ。もしこれが明日人だったら、焦ってしまうのも無理はないだろう。
「皆さん」
明日人たちが病院に戻ると、丁度良く担当の医者が総合受付で待っていた。
「カウンセリングは終了しました。また何かあったら来てください。私どももお力になります」
「はい、ありがとうございます」
三人とも医者に頭を下げると、カウンセリング室から灰崎たちが出てきた。全員が元気そうで、円堂は嬉しそうな表情をした。
「みんな、大丈夫なのか!?」
「あぁ、なんとかな」
「三人とも、無事で何よりです…」
茜は夜舞たちが無事なことに思わず涙が溢れていた。それを、大谷が抱きしめて茜の背中をさする。
「茜ちゃん、泣かないの」
「私たちは大丈夫だから!」
と、夜舞はガッツポーズで茜を励ました。
「明日人くん」
「何? 野坂」
一人で椅子に座っていると、野坂が話しかけてきた。
「君があの時逃げ出した理由、今ならわかる気がするよ。確かに、僕たちは実質的には世界各国の紛争に協力したようなものだった。確かに、こんなのはサッカーじゃないだろう」
「野坂…ごめん」
心配をかけさせた上に、彼らに怪我を負わせてしまった。その責任は、大きいと思い、明日人は野坂に頭を下げた。
「君が謝ることではないよ。エレンの流したあの映像が、嘘である可能性もある。とにかく、今はベルナルド監督と趙監督に任せよう。サッカー協会の今後については、いずれ議論されることになる。頑張るんだよ。キャプテン」
「野坂…」
「野坂さーん!」
「わかった、今行くよ」
野坂が一星に呼ばれて去っていくその背中と、先ほどの内容を聞いて、明日人は励まされた。
「明日人?」
すると、後ろで声をかけられた。それも、長い事聞いていなかった懐かしい声だ。
「氷浦、どうしたの?」
「明日人、灰崎から聞いたぞ。サッカー協会が、サッカーギャンブルをしているって」
「うん…」
「サッカーギャンブルがなんだろうが、俺はユースティティアの天使を倒す。お前も気を付けろよ。エレンに狙われているんだからな」
「…………」
確かに自分はユースティティアの天使に狙われている。そう簡単にユースティティアの天使が悪いとは思えないし、なにせエレンを倒すのは少し気が引ける。こんなことを言ったら氷浦は怒るだろうか。と思いながらも、明日人は言わなかった。
***
『というわけで、今日から氷浦くんがチームに復帰しまーす!!』
と、趙金雲のいい加減な報告によって決まった、氷浦貴利名の復帰。期間が空いていたため、しばらくはフォローしてほしいという報告の元、明日人たちの乗るバスは宿所へと発射した。
「初めまして! 私は夜舞月夜。よろしく!」
「私は宮野茜です。マネージャーをしています」
氷浦の隣に座った夜舞と茜が、氷浦に自己紹介を済ませる。
「あぁ、よろしく夜舞、宮野」
「氷浦さんって、明日人さんのご友人なんでしたよね」
「まぁ…友人っていうよりは、幼馴染みだな」
三人が話をしている中、灰崎はバスの外を見つめていた。
灰崎は、色んな人に出遭っている中で、自分の中のサッカーを形作ってきた。しかし、いきなりサッカーがギャンブルに使われ、戦争に使われていると聞いて、灰崎は目の前が真っ暗になったのだ。色んな人との関わりもあるが、実質サッカーに救われたような灰崎はそれを信じることは出来なかった。だから、エレンの映像は嘘だと信じたかったのだ。あれは、自分達を弱らせるためのものだと。
しかし、その希望は無残にも打ち砕かれた___。
『ベルルムランケア!!』
右手を掲げたエレンは、指を擦って鳴らした。それはフィールド全体によく響き渡り、そのあとの静寂が彼らを包んでいた。しかしその静寂は刹那に終わり、代わりに空から空間の隙間のようなものが空中に細かく現れた。その隙間からは七本の黒い槍がボールの周りに突き刺さり、その槍はボールを中心に、今紫色のグラウンドを包むほどの柱を作り、天を貫いた。
「…私も、貴方達と同じ意志を持っている天使よ…」
柱が作られると同時に、薄緑色の翼で飛んだエレン。右手に持っていた槍を柱に掲げると、エレンは叫んだ。
「だけど貴方達は、自分達と同じ人間に踊らされていることを知るべきだわ! あの映像は、『本物』よ!!」
エレンが槍を投げると、それは柱の中心のボールを貫通し、ボールに光が溜まる。
『グラディウス!』
すると、柱の全域を発射台に、数えきれないほどの黒い剣が灰崎たちに向けて放たれた。その剣は彼らを貫き、体力を奪っていく。ハーツアンロックをしていたヒロトと一星も、同じように貫かれ、ハーツアンロックが解ける。その被害は大谷達マネージャーも、ベルナルドら監督たちも広がっていた。
「くそ…エレ、ン………」
各地で倒れる音が聞こえる中、灰崎だけは立ち上がっていられた。自分は、ここで諦めるわけにはいかないのだ。自分は、絶対に何があってもサッカーを取り戻すと。
「…安心なさい。全員死なないように手加減はしたわ」
すると、エレンは灰崎に向けて両手を広げた。
「………さぁ、灰崎凌兵。どちらか選びなさい。サッカー協会に
両手を広げたエレンは、灰崎に選択を強いた。しかし、灰崎はその選択の答えを返す間もなく、意識を失った。
そうエレンに言われながら気絶し、気がついた時には病院にいたのだ。そして、今は宿所に向けてバスは発進している。
エレンに選択を強いられたが、正直灰崎には、どちらを選ぶ気にもなれなかった。サッカーは取り戻したい。これは自分の為であり、誰かの為だ。しかし、あのようなことをしているサッカー協会の手助けはしたくないという思いもある。なら、諦めるか? いや、それも嫌だ。仮にだが、もしかしたらあの映像が嘘という可能性もある。だが、槍を放つ前に言ったエレンの言葉が耳に入ってくる。あの映像は、本当だと。
「(くそ…どうすればいいんだよ…)」
***
『試合終了! 得点は4-2! 世界選抜の勝利です!』
実況の声が、遠く聞こえる。明日人たちは体力の減少でFFIスタジアムの芝生に足をついており、そこから動くことも出来なかった。
「そん、な……」
無意識に放った言葉のあとに、急にキャプテンマークが重く感じた。
病院から帰った翌日、彼らは世界選抜と試合をしたのだ。しかし、最初こそ調子のよかったそれは、すぐに無くなってしまい、いつの間にか世界選抜に4点をもぎ取られていた。
「どうしたのだ。私が見た所、最初に見た時のラストプロテクターと、今のラストプロテクターとでは、全く迫力を感じられないぞ」
放心している明日人を心配してか、世界選抜のキャプテンのクラリオが明日人の前に立った。しかし、明日人はそんなクラリオに何かを言う気力も無かった。ただ、目の前の状況に絶望している。
世界各国の選手が集まる、世界選抜に勝てたのなら、ユースティティアの天使も倒せるはずだ___。と思っていた時期とは、訳が違うのだ。
試合になる前のことだが、明日人たちはあれから必死に練習してきた。たとえサッカー協会がサッカーギャンブルをしていたとしても、自分達は戦い続けるのだと。しかし、たかが子供のメンタルなど、全員が全員打たれ強くて同じというわけにもいかなかった。
まずは坂野上のような、サッカーを純粋に楽しんでいた層。その層は、すぐに練習に身が入らなくなった。そして、ボールに触ることも出来なくなっていた。
次に明日人のような、サッカーで自分を作ってきた層。その層は、最初こそあの映像は嘘だと信じながら練習をしていた。しかし、自分達が戦争に加担していたという絶望と、これからのことの葛藤で、スランプに陥ってしまった。
「で、でも俺、絶対にユースティティアの天使に勝ってみせる! 今は駄目でも…いつかは」
「勝てると思っているか!」
「えっ」
突然怒鳴ったクラリオに、明日人はどうすればいいかわからなかった。クラリオも、ユースティティアの天使を倒して、天使の侵略を止めようとしている。同じ意志を持っているからこそ、明日人に喝を入れたのだろうか。
「キャプテンは、常にチームの意志を継ぎ、その意志を行動に表す人間のことだ。そのような無責任な発言こそ、チームの士気を乱しているのではないか!?」
「クラリオさん…」
キャプテンがいかに大変だということは、これまでの経験でわかってきたことだ。しかし、キャプテンになってどうすればいいのかがわからなかった。確かにクラリオの言い分は正論だ。もしかしたら、これまでの自分も、無責任な発言をしていたのかもしれない。
『そうねぇ…ところで貴方達は、なぜラストプロテクターがこんな風になっているか、御存じ?』
エレンと思わしき声に皆がキョロキョロと周りを見回していると、槍が60度の角度で明日人の近くに突き刺さった。センターサークルに刺さった槍に明日人が思わず後ずさりすると、何者かが槍の柄に立って足を揃えた。
「エレン……」
「久しぶり、明日人」
夏でもないのに日傘を刺しているエレンを見ると、わずかに笑っていた。すると明日人は、エレンが皆をこんな風にしたのかと青ざめる。エレンのことは灰崎から聞いていたのだ。明日人の予想通り、エレンは灰崎たちを攻撃してきたのだ。それに驚いたのはついこの前だ。
「そこの世界選抜とは始めてかしら。私はエレン、平和の天使にして天使の統率者。今日ここに来たのは、貴方達に戦うのを止めてほしいのよ」
するとエレンは、両手を広げたかと思えば、明日人たちに戦いをやめるように言ってきたのだ。
「貴方達が私達と戦うことで、テミス改革は進んでいくのよ。だからやめてちょうだい」
つまり、自分達がユースティティアの天使と戦う度に、テミス改革が進んでいるのだと伝えたいのだろうか。だからエレンは、自分達と戦うのをやめてほしいが為に、ラストプロテクターを襲撃した。だが、テミス改革を阻止するならもっと別のやり方があるのではないのか。エレンのやっていることは、明日人にとっては理解できないものだった。
「……そんな勝手なこと…許されんのかよ!」
「確かに灰崎の言う通りだな。俺達を攻撃した挙句、戦いをやめろだと? 自分勝手にもほどがあるぜ」
不動も灰崎も、その他全員が、エレンの命令に異議を申した。それもそうだ。自分達は怪我をしていないが精神的にエレンに酷い目に遭わされた。そして、自分達は本調子では無くなってしまったのは、エレンのせいだとははっきり言えないが。
「構わないわ。私にとっては二つのうちの一つの選択が失われただけだから」
「えっ…」
夜舞と明日人が言葉を失う。それは、どういうことなのかと___。
「わからなくて? 平和的解決という選択が失われたの。だから私は___貴方達と戦うことにするわ」
閉じた日傘の先をこちらに向けるエレン。その目は鋭くとがっており、これから自分達はエレンと戦うことを強く示唆していた。
「明日人くん、君は今のうちに隠れているといいよ。エレンは、今確実に君を狙っている」
野坂から、隠れるようにと言われた。だが、明日人は隠れる様子はない。
「…嫌だよ」
明日人は、エレンがなぜこんなことをするのかが知りたかった。もしかしたら、何か理由があるのかもしれない、そう思ったからだ。
なぜならば、サッカーで
「俺も戦う!」
「…わかった。危険になったら、逃げるんだよ」
「ありがとう野坂…」
野坂に戦うことの許可をもらうと、明日人はエレンと見つめあう。
「エレン…なぜ君がこんなことをするのか、話してもらうよ」
***
『さぁ始まりました! ユースティティアの天使の統率者、エレンとの戦いです!』
ラストプロテクターが天使の統率者であるエレンと戦うということは、すぐにネット上に流れ、観客席は満員なっていた。それでも見たい人達も居たが。
『しかしエレンは、単騎でラストプロテクターに挑むようです! 仲間を呼ばないのでしょうか!?』
なんとエレンは、たった一人で明日人たちに挑むようだ。それに観客たちは、あのラストプロテクターなら楽勝だと思っているようだ。しかし、それに対してエレンは不敵に笑っており、その様子を観客席からではなく、空中から見ている者がいた。
「ミラ様。この戦いどう思いですか」
隣に居るミラに話しかけるのは、ロシアの病院で日本の上級国民を殺した少年だ。この少年もミラと同様宙に浮いているが、この少年に翼は
「そうですわね…私の友人であるエレンは、とても力がおありでいらっしゃりますから、この戦いはエレンの勝ちになるかもですわね」
と、ミラは自信満々に少年にいった。
「エレンお姉さま、頑張ってー!!」
さっきまでそこに居なかったメリーも、連れとしてレンを連れてエレンの応援にやってきている。また、天界でもカメラマンの天使がテレビを通して、天使達にお届けしている。
「皆、相手はユースティティアの天使の統率者、エレンだ。気を引き締めていこう!」
今だに慣れていないが、キャプテンらしく仲間を鼓舞する明日人。しかし、こんな形でエレンとサッカーをするなんて思わなかった。まぁ、遅かれ早かれ、こうなる運命だが。
「スタメンを発表だ。FWは灰崎とヒロト、アツヤ。MFはキャプテンの稲森と一星、野坂と氷浦。DFは夜舞と水神矢、吹雪。GKは円堂。以上だ」
スタメンに乗った彼らは、いつもよりも真剣な表情でベルナルドに受け答えし、ポジションに入る。
『さぁキックオフです!』
エレンからのキックオフとなり、明日人たちは身構えた。しかしエレンは___
「ふふっ」
明日人たちにボールを渡した。
「貴方達からでいいわ」
『おっとぉ! なんとエレン、ラストプロテクターにボールを渡しました! これはハンデか!?』
「エレンお姉さま、なんでだろ?」
「あれはエレンの、明日人さんたちに対する余興ですわ。ただ戦っても面白くないと思っていらっしゃるのですね」
しかし、明日人たちにはさっきのエレンの行動が余興だということに気づけず、早速出鼻をくじかれた。
「チッ、舐めた真似しやがって。いくぞ灰崎、ヒロト」
「ゴッドストライカーに指図すんな」
FWたちが言い合っている中、それをエレンは不敵に笑う。
「ふふふ…貴方達に私を倒せるかしら」
エレンの不可思議な行動に嫌な予感を感じさせながら、アツヤはフィールドに切り込んでいく。
「いくぜ、必殺クマゴロシ・斬!」
早速アツヤはエレン側のがら空きなゴールに向かって、十八番の必殺技を撃った。前よりも速くなったシュートに、エレンは反応できないだろうとアツヤが思ったその時だった。
「この程度で勝ったつもり?」
アツヤは後ろを向いている為、何が起きたかわかっていなかったが、明日人たちにはエレンが一瞬でゴール前に辿りつき、右足を出しただけでシュートを止めたのだ。
『なんと! エレン、その華奢な右足の一つで、アツヤのシュートを止めましたぁ!』
「何!?」
実況の声でやっとエレンの圧倒的な実力差に気づき、アツヤは驚く。
「はい、あげる」
エレンはボールで曲線を描くように優しく宙に向けて蹴り、円堂に渡らせた。
「__み、皆! どんどん攻めよう!」
円堂は戸惑いながらも、仲間たちにどんどん攻めるように言った。そして、円堂は夜舞にパスした。
「よし、速いのが駄目なら、攻撃力で勝負だよ!」
前にいる者たちとで、シュートの攻撃力を高めるシュートチェインをしようと、夜舞はムーンライト・メテオの構えを取る。
「ムーンライト・メテオ!!」
ムーンライト・メテオで前線までボールをつなげると、夜舞の思惑を悟った明日人は、ムーンライト・メテオの真下まで走る。
「そうこうことか! 行け! サンライズ・ブリッヅ!」
明日人のボールは、なんと宙に上げられる。
「なるほどな、スペクトルフォーメーション、ハーツアンロック・リライズ!」
明日人のシュートを追おうと飛んでいる間にハーツアンロックとスペクトルフォーメーションをしたヒロトは、空中に浮いた明日人のシュートにさらにシュートを叩き込んだ!
『ビッグバン・エクスプロージョン!!』
二回ものシュートチェインに、ゴール前に居るエレンはどうかというと、なんとヒロトのビッグバンを見ても怖気づいてなかった。
そしてなんとエレンは、シュートに向けて日傘を開いた。シュートと傘布がぶつかりあった瞬間、爆発が起きる。
「やったか…?」
エレンの爆発の中、灰崎は身構えている。爆発から煙に変わった。その中では、ボールは傘の近くで転がっていたのだ。
「いや、まだです!」
煙が晴れる中、エレンは傘を閉じ、スカートの汚れを払いながら歩いた。
「この程度__痛みも痒みもしないわね。さぁ、今度はこっちの番よ!」
傘を宙に投げたかと思えば…エレンは両手を風のままに後ろに流しながらドリブルをしてきたのだ!
「速い!」
ハーツアンロックをしたヒロトも反応できず、明日人たちもこれには反応できず、ただ強い風として顔を腕で守った。
「いくわよ!」
エレンはボールを宙にあげ、そのままノーマルシュートを繰り出した。
「(相手はエレンだ…油断しちゃだめだっ!!)」
病院で見せた特訓の成果を出すために、円堂は腰を深く下げる。
「はぁぁああああ…ハーツアンロック、リライズ…」
円堂が目を見開いた刹那。円堂の背中からオレンジと黄色の混ざったオーラが溢れだし、円堂に力を与える。
「円堂先輩!?」
「あれは、ハーツアンロックの完成か!?」
鬼道が思わずベンチから立ち、ゴーグルの先に見据えるオーラを見つめる。
「………………………」
円堂が前に右手を突き出す。すると、エレンのシュートが円堂の右手によって動きを止める。
火花は手持ちのススキ花火のように散り、円堂のユニホームを焼き、所々に穴を空けさせる。だが、それでもエレンのシュートは強いのか、円堂が歯を食いしばる。
「ッ_____!!!」
右手も疲れ、円堂の体力も尽きそうな所でボールが手からすり抜け、ゴールにシュートが入りそうになってしまう。だが、幸いにもゴールポストに当たったことで九死に一生を得た。
『エレンのシュートは、なんとゴールポストに当たった! エレンにとっては悔しい限りだが、ラストプロテクターにとっては九死に一生を得たーー!!』
「むーー! エレンお姉さまのシュートが止められるなんてー!!」
その頃、メリーはエレンのシュートが止められた悔しさに頬を膨らませていた。
「だが、あの人間のハーツアンロックはまだ未完成。たまたま完成間近に近づいただけだ」
「まぁ…レンさんったらお手厳しいですこと。下級天使の監督をやっているだけのことはありますわ」
ミラが微笑んでいる中、円堂は体力の減少でゴールポストに手を当てていた。
「ハァ、ハ、ハァ………」
「円堂くん、大丈夫かい?」
吹雪が駆け寄るのと同時に、明日人たちも一斉に円堂まで走った。
「これ以上の戦いは少し無理そうですね…」
「いや…俺はまだいけるッ!」
空いている手で、円堂は一星に見せるように拳を握る。しかし、明日人たちからすれば、休んだ方がいいのではと思っている。
「なぁ、第三者の夜舞はどう思うんだ?」
「…私としても、休んだ方はいいと思う。あのオーラを見て、ハーツアンロックの完成の予兆かなとは思ったし、完成するかもしれない。だけど、急なハーツアンロックの完成直前で体の方は少しびっくりしちゃっていると思う…。円堂先輩はこのチームの主となる守護神だし、次に控えるかもしれないユースティティアの天使との試合の為に、休ませよう」
氷浦が夜舞に聞くと、夜舞も先ほどの情報を見て休ませた方がいいと言っていることに、氷浦は鋭いなと感じた。
「(突然起きた円堂先輩のハーツアンロックの解放…これにはきっと何かがあるはず。もしかしたら、怪異が怪異を呼ぶように、ハーツアンロックがハーツアンロックを呼ぶのかもしれない。頭に入れておこうかな…)」
「(円堂守のハーツアンロックが完成間近になるなんて、面白くなってきたわね…)」
円堂のハーツアンロックが完成しそうになっても、エレンはその余裕そうな笑みを隠すことはなかった。
『ここで、円堂に代わって西蔭が出るようです! 円堂の体から出たオーラの影響でしょうか!?』
本人は大丈夫と言っておきながら、肩を借りさせてもらっている時点で限界だ。西蔭と変わらざるを得ないだろう。
「チームの守護神である円堂守が抜けたようね。さぁ、次はどうやって私と戦うおつもりかしら?」
エレンはあからさまに構えを取り、上に向けた手の平に、人差し指と中指を一緒に動かす。
「こうなったら…チーム全員でエレンと戦おう!」
明日人はエレンに勝つためには、チーム全員で戦うしかないと判断した。
「あぁ、行こう明日人くん」
「せっかく天使のリーダーが来たんだ。負けらんねぇよな」
野坂と灰崎も、明日人の意見に同調する。
「行くぞ!」
西蔭がボールを投げる。その先には前に進んでいた夜舞に。
「野坂くん!」
夜舞は野坂にボールをパスすると、すぐにディフェンスに戻る。野坂というと、MFのいる位置にいるエレンと向き合った。
「いくよ。エレン。………王者のタクト!」
野坂の滑らかな手さばきで、明日人たちにとって効果的な進路を決め、エレンを撒くという作戦だ。その作戦に乗じて、明日人はエレンの横を走った。
「エレン、君が何を思ってあんなことをしたのかはわからない。でも、俺達は君に必ず勝つ!」
と、明日人が走り去ろうとしたその瞬間。
エレンも走った。
「__!?」
なんと、エレンは明日人からボールを奪ったのだ。それに明日人は反応できなかった。あまりに瞬間的だったためだ。
走っていると、エレンの前にハーツアンロックとスペクトルフォーメーションをした一星が立ち塞がった。
「ここから先は、いかせない!」
一星のハーツアンロックの特徴である速攻を上手く扱い、一星はエレンの周りを囲うようにして、縦横無尽に走る。ハーツアンロックをした一星の速さは、普通の人間では視覚することはできない。明日人でさえも自分の姿を視野に入れることが出来なかったなら___と、一星は自分の能力を信じたのだ。
「よし、なんとかエレンを策略に嵌めることが出来たね」
実は王者のタクトはおとりであり、一星のハーツアンロックなどを行う為の時間を稼いでいたのだ。一星の風なら、ボールを奪った後は一直線にゴールに向かえる。
これが作戦だったのだ。
そして一星の残像による竜巻の中心にいるエレンは、無表情で正面を見据えていた。
一星だけではない、他のハーツアンロック者の気配を。それも、空からだ。
エレンが空を見上げた時には、ヒロトが竜巻のてっぺんから降りて来ていた! それに合わせて、一星もエレンの持っているボールに向かって走ってきていた!!
「「もらったあああああああああああああああ!!」」
***
曇天となっていた空に、光が走る。
雷の光だ。
地上では、一星とヒロトがエレンに接触する直前、いや刹那に、エレンはとっくに日傘からいつもの槍に変えていた。
「ファイナルデウス・フランマ」
その槍を、二人が自分に接触する寸前に地面に差し込む。
時は、動き出した。
フィールド全体の地面が砕けたのだ。恐らく下はコンクリートで出来ているはずだというのに、砕けた地面の隙間から溶岩が見える。足元が安定しない中で、一星とヒロトは___溶岩から飛び出した無数の炎の剣によって胸を突き刺されていた。
「___ヒロトッ! 一星ッ!!」
よろける足場の中、明日人は一星とヒロトの光景を目にした。
それと同時に背中が汗で濡れる。野坂の作戦、いや自分の指示で、仲間がこうなってしまったからだ。
それは円堂も同じだ。
また、仲間を守ることが出来なかった。
「……………エレンっ」
だが、反省をするのはあとだ。明日人は槍を日傘に戻したエレンと向き合う。
「なんで、なんでこんなことをしたんだよ!!」
明日人の目は涙で濡れているが、怒りの炎は心と体隅々まで行き渡っていた。
「………」
「なんとか言えよエレン! お前は、いくらユースティティアの天使の統率者でも、そんなことをする奴じゃないだろ!?お前のことはいつも俺が居たからわかっている! 本当はテミス改革を阻止したいことも、俺だけに見せてくれた優しさも、全部含めてお前だと思っていたっっ!!」
明日人の心からの叫びに同調するように、雷と豪雨が降り注ぐ。
「…安心なさい。殺してはいないわ」
ほら。とエレンが指を指す。そこにはハーツアンロックこそ解けてはいるものの、二人共野坂やタツヤに肩を借りてベンチへと歩いている。
「じゃあ…殺していないのか…?」
「えぇ」
だが、これでも明日人の怒りは収まらない。
エレンがラストプロテクターに攻撃を仕掛けたこと、
灰崎たちに今の日本とサッカー協会の真実を見せたこと、
灰崎たちを攻撃したことが、エレンのこれまでの優しい行動と合わさって、それがより大きい怒りに変えていた。
「エレン…あの映像は、本当なのか?」
しかし、冷静さは欠けていない。だから、これだけでも聞きたかった。たとえ、返事がこなかろうと。
「……本当よ」
返事が来た。しかし、その内容は灰崎たちに見せられた映像が、本当だということの証明。それ以上は、明日人も聞けなかった。
結果として、ラストプロテクターはエレンに負けた。
圧倒的力を見せつけられ、最後にはハーツアンロックを取得している二人がやられたことが、敗北の決定打になった。
その試合のあと、エレンは雨の中の街を日傘も刺さずに歩いていた。雨でグラデーションのかかった髪が塗れようとも、隠れて見ているであろうレンたちの気配をあえて無視して歩いていた。
「(あの子は少し無垢すぎる___。あのままじゃ、同じテミス改革を阻止する者として認められないわ)」
雨の中でも、エレンは試合中に見せた鋭い眼で真っすぐの道を見据える。
理想はなにより人を欺瞞に満ちさせる。
もう、なんていうんだろう。
自分でも何を書きたかったのかわからなくなっちゃった。
最初は文字数の関係で分割→加筆→今のような感じになっちゃった。
エレンと明日人のコンビが好きな人には申し訳ない…(居るのかどうかも怪しいけど)
最近暗い話ばっかり書いてる気がする…最初は無印になるべくテンションがよるようにしていたのに、なんでだ…?
この小説の中でどのコンビが好きですか?
-
明日人とエレン
-
不知火と月夜
-
エレンとレン
-
エレンとメリー
-
エレンとミラ
-
不知火とベルナルド
-
明日人と月夜