今年こそは健康で生きていきたいですね!
ところで、もう年が明けてから十日が経ちましたが、テミスの正義の彼らにとっては初のお正月ではないでしょうか?お正月絵もまともに書けませんでしたが、これからもよろしくお願いいたします!
あ、もう一つ。
今回は、妄想が行き過ぎているところがあります! あと、アレスの天秤をまともに見ていないとわからない人も出てきますね…それでもよろしいですか?ではどうぞ!
試合が終わってから、明日人はやけにぼんやりしているなと、灰崎は目の前に居る本人の頭を見て感じた。エレンとの戦いに負け、結局得られたのは、サッカー協会のことや戦争の真実などだけだった。当然悔しいだろうし、それは自分もだ。意気消沈のままに、監督が用意してくれたバスに乗り込もうとした時だった。明日人は今も、駐車場の方からスタジアムを見つめていた。
「オラ、明日人」
「あ、ごめん灰崎!」
「ったく、後ろがつっかえてんだよ」
灰崎が明日人の体を少し押すと、明日人は灰崎の後ろに居る先輩たちを見て、急いでバスに乗り込んだ。全員が乗り込んだことを確認して、バスは発車する。しかし、バスが発射してもなお、彼らは黙ったままバスが宿所に着くのを待っていた。それは明日人もそうだ。いや、明日人はエレンのことなのだろう。これまで自分に見せてくれたエレンと、スタジアムでのエレンとの差に、悩まされている。
「明日人…どうしたんだ?」
「あぁ、氷浦。ごめん、ちょっと考え事してた」
「大丈夫か? さっきから窓の外を見ているだけだし…まさか、エレンのことを考えていたんじゃないだろうな」
さすがは名探偵と言ったところか。明日人が考えていたことを、なんの迷いも無く言い出した。それに、明日人は口の中が渇く。当の本人が考えて言っているのか、それとも単純にまぐれなのか、明日人にとっては重要なことだ。もしかしたら、あの時エレンに向かって言っていた声が、聞かれていたのだろうか。
「べっ、別に?」
「そうだよな…エレンは敵だし、お前も気を付けるんだぞ」
今回はなんとか誤魔化せたが、いつかはエレンと居たことがバレてしまうかもしれないという事実を知り、明日人は氷浦からは見えない背中から汗を流していた。
『ごきげんよう、皆さま』
バスが進んでいくと、バスの中で申し訳程度に流れていたテレビのニュースから、ミラがパッと現れる。
『現在私たちの信仰者が増えつつある中、ラストプロテクターにご報告がありますの』
「ミラ…」
突然テレビに現れたミラ。何を報告するかは分かり切っていることだ。今日から三日後に、私の妹のメリーと勝負をしましょう。勿論負ければ…お分かりですわよね? それではまた当日に』
***
ミラの通信が来て翌日。あと二日に迫った試合に、明日人たちは緊迫とした状況に陥っていた。
「今日は、サッカー協会の職員から話がありまーす!」
そんな空気もすっ飛ばして、趙金雲が明日人たちに報告をする。どうやら、サッカー協会の人がここに来て、話をするらしい。朝食を終えた為、明日人たちはサッカー協会からの人の話をいつでも聞けるよう、姿勢を取った。サッカーでギャンブルをしていたサッカー協会。そして、それが世界中の戦争と関係があるということ。今からここに来るサッカー協会の人を前にして、そんな考えが頭を過ぎる。
エレンは、本当だと言っていた。ミラが支配したあとの日本も。だが、それでも明日人は信じたくなかった。大好きなサッカーが、こんな風になっているなんて、信じたくなかったからだ。
「会長、こちらです」
会長と呼ばれた物は、同じくしてサッカー協会の稲森琢磨に連れられてやってくる。小太りした体形。白いひげを生やした顔は、まさに会長と呼べるものだった。
「ラストプロテクターの皆さん、こんにちは。私は
そう目の前の男は挨拶した。しかし、頭を何針を縫う怪我をしている。
「今日ここにやってきたのは、君たちに話がしたいからである。私達サッカー協会としても、ラストプロテクターとしても、大事な話しだ。最近、何者かが我々サッカー協会の施設を襲撃しているというニュースを聞いたことがあるかね」
フロイのことだ。と一星はハッとする。
「そのニュースだが、君たちのチームに居るフロイ・ギリカナンが起こしたそうだが…」
と、轟会長はフロイの名を口にする。
バレていた。フロイがサッカー協会の施設を破壊しているということは、自分達で秘密にしてきたことだ。それがなぜ外部に公表されたのかはわからない。だが、フロイのことで話があるのは確かだ。
「この怪我を見てくれ」
すると轟会長は、自分の頭にある傷を指さす。
「これは、フロイ・ギリカナンが、私の元にやってきたときに負わせた傷だ。背中から細長いものが生え、それは刃物のように私の頭を傷つけたのだ。私としても、世界の為に戦ってくれているチームを、このように言いたくはない。だが、チームの一人の不始末は、監督の責任ではないのか? 否、それだけではない。このようなことをしてきた仲間をほったらかしにしていたのも、原因ではないのか?」
『………………』
何も、言い返せない。確かに自分達は、オリオン財団がフロイを探してくれるというため、お言葉に甘えて自分達は練習に集中していた。フロイがしてきたことが、どういうことなのかも考えないで。
「……一つ聞きたいことがあります。これは、ユースティティアの天使の統率者であるエレンが発した情報です。不確かですが、構いませんか」
フロイのことで、野坂が何かを思ったのだろうか。轟会長に質問する。
「どうぞ」
「……サッカー協会がサッカーを利用して、ギャンブルを行っているって、本当ですか」
「………」
すると、轟会長が無言になる。
「まさか、本当なのかよ」
不動が、轟会長の無言を怪しく思う。
「……誰が、そんなことを」
「エレンです。エレンが、僕たちにこう告げたんです」
夜舞の隣にいる不動は、見逃さなかった。あれは間違いなく何かを隠している目だと。
「私は、知らん。琢磨くんに聞いてくれ」
「いえ、私もサッカー協会がギャンブルをしていたということは、初めて聞きました」
「そうか…本題に戻ろう」
轟会長は、何事もなかったかのように話を戻した。それではますます疑いの目を向けられるだけだというのに。
「チームの一員が、このような悪事を働いたのだ。よって、連帯責任としてこのチームの
解散。その言葉が轟会長の口に出た瞬間、食堂内が唖然とした空気に包まれた。
「……えっ」
最初に口を開いたのは、明日人だった。
「待ってください! 解散って!」
次に氷浦が、口を開く。氷浦はラストプロテクターの解散を信じられないらしく、彼のクールな表情が崩れる。
「あの! 確かに俺らはフロイさんをほったらかしにしていました! ですが、それがなんで解散になるんですか!」
坂野上も、納得が出来ていない。
「フロイ・ギリカナンをこのまま放って置けば、いつしかは我々サッカー協会の他にも、多くの者が被害を追うだろう」
「それなら、フロイくんの確保だけでいいじゃないですか!」
確かに夜舞の言う通りだ。だが、それを轟会長は聞いてくれなかった。
「ともかく、次のユースティティアの試合までに成果を残すか、フロイ・ギリカナンの対処をしない限り、このチームに希望はないと思いなさい」
そう言い捨てると、轟会長は琢磨を連れて行ってしまった。
「くそっ! なんだよあのオジサンは! 解散とかふざけたことをいいやがって!」
轟会長が去ったあと、剛陣が机を勢いよく叩いた。叩いた音が食堂に響く。
「落ちつけ剛陣、ここにいる誰もが、お前と同じ思いを持っている。だが次の試合で成果を上げられなかったら、解散は免れないだろうな…」
「それに、あの人はサッカー協会の会長だ。その気になれば、俺達もただではすまない」
鬼道と豪炎寺が剛陣を制す。しかし、剛陣の怒りが収まる気配がない。それを見た明日人は、皆を落ち着かせようと声を出した。
「……み、皆! とにかく練習しようよ! ユースティティアの試合に勝てば、もしかしたら解散を免れるかもしれないし!」
明日人はなんとか言葉を選び、皆に練習するよう促した。それを聞いて、他の者達は無言でグラウンドに行くことになった。
***
「おい灰崎!」
明日人たちは、解散の危機を背負いながら、必死に練習に励んでいた。しかし、その時間も長くは続かず、フィールドの方からアツヤの怒鳴り声が聞こえた。
「さっきからなんだよ! 俺に向かってボールをぶつけてきやがって!」
「あぁ!? 俺はただお前にパスをしようとしただけだって言ってんだろ!」
灰崎とアツヤの口喧嘩は、次第にヒートアップしていく。
「ふ、二人共ストップストップ!」
「落ち着いてよ二人共!」
明日人と吹雪が間に入って止めようとするが、灰崎とアツヤは引き下がる一向を見せない。
「西蔭、さっきから技のタイミングがおかしいぞ」
「貴方が速いだけですよ」
明日人たちが灰崎とアツヤの口論を止めている中、ゴール側で西蔭と砂木沼も冷戦が繰り広げられていた。
「に、西蔭! 砂木沼! 一旦落ち着こう! な?」
ゴールの近くに居た円堂は、二人を止める。坂野上もそれには参戦しており、必死に巨体な二人を止める。
「剛陣先輩! 遠くにパスしないでくださいって言っているじゃないですか!」
「お、俺だってちゃんとやってらぁ!」
円堂と明日人の向こうでも、氷浦と剛陣の言い合いが行われている。どうやら、剛陣が氷浦の思うようパスしてくれないというのだ。
「剛陣先輩! 氷浦くん! 喧嘩は駄目だよ!」
夜舞が二人の間に入るも、剛陣の腕が夜舞の体にぶつかってしまい、その場に尻をついてしまう。
「わっ!」
「夜舞さん、大丈夫ですか?」
「うん…」
タツヤが手を差し伸べ、夜舞はそれを掴む。
その光景を、遠くから見つめる者が居た。
「ほーっほっほっほ、皆さん大騒ぎになってますねぇ」
「そうですね、このまま次の試合に影響が出ないといいんですが…」
杏奈が心配そうに、制服のスカートを握る。
「趙金雲、お前はこの騒動、どう睨む」
「どういうことですか?」
ベルナルドの深みのありそうな問いに、趙金雲は目を細めてベルナルドを見つめる。
「俺には、どうにも全員が解散のことで悩んでいるとは思えない」
「と、なると?」
「…推測だが、恐らくサッカー協会のギャンブル、そのギャンブルが戦争に関連のあるものと知って、全員が全員違う理由でこうなってしまっている」
「確かに! 理由が同じ解散のことなら、こうはならないはずですよね! …あっ、例外もありますよね」
確かにと席を立った大谷は、例外もあるということに気づいて舌を出す。
「そうですねぇ。まぁ、皆が皆、自分達が悪いことをしているんじゃないかという罪悪感に苛まれていますしね。こういうときこそ、戦いの先陣を切る者がいれば…」
相変わらず深い意味を持つ言葉しか出ない趙金雲を無視し、ベルナルドは立ち上がった。
「皆、集まってほしい」
ベルナルドの指示に、明日人たちはすぐに集まる。
「今日の練習は終わりだ。各自、家に帰るといい」
突然の練習に終わりに、明日人たちは驚愕する。もうすぐ試合なのに。
「ですがベルナルド監督、もうすぐ試合なんですよ?」
「だからこそだ、水神矢。お前達は一度、実家に帰り、体制を立て直せ。それぞれの実家の住所は、このメモに記載しておいた」
ベルナルドの右手に持っているメモを、マネージャー達に配らせる。
「それでは、解散」
それだけを言うと、ベルナルドは趙金雲と折谷を連れて、グラウンドから出て行ってしまった。
ベルナルドから、実家に帰るように伝えられた明日人だったが、実家に帰ろうとは思えなかった。ただ、何もすることがないままに外をうろうろしていた。
「あれ?」
飲み物を飲もうと鞄を漁ったときだった。入れたことのない手紙が入っていたのだ。それも、ピンク色が特徴の封筒だ。差出人は不明。
「手紙? なになに…?」
手紙の内容はこうだ。
午後六時のサッカースタジアムの前で会おう。
これしか書かれていない。可愛らしい封筒のくせに、ラブレターでは無かったようだ。
「誰からなんだろう…もしかして、エレン?」
しかし、冷静沈着で、つねに余裕そうなエレンがこんなに可愛い封筒で手紙を書くとは思えない。しかし、世の中何が起こるかわからない。とりあえず夜になるのを待って、行ってみることにした。
***
「ただいまー」
夜舞が国家が用意してくれたウッドペンションのドアを開けると、木造の懐かしい匂いが飛び込んできた。長い事帰っていない家のような匂いに、夜舞は誘われるように奥へと進む。さらにドアを開けると、花伽羅村の子供達が遊べるようなおもちゃたちと、大人たちが一斉に酒を交わせるような広さを持った和室だった。
「あ、夜舞お姉ちゃんだー!!」
「おかえりー!」
先ほどまで鬼ごっこで遊んでいた子供達は、夜舞の存在に気づいて、僕も私もと夜舞の胸に抱きついてくる。帰ってきたよ。ただいま。と言うように、夜舞は子供達の頭を撫でる。
「お、おかえり! まぁ座って!」
「今日はオフか?」
「たまには子供達にも顔を合わせてね」
そのことに大人たちは気づくと、夜舞に開いている席に座るように、身振り手振りで合図する。相変わらずな花伽羅村の人達の様子に、夜舞は安心するも、ここでラストプロテクターが解散してしまったことを話してもいいのだろうかと、夜舞が悩んでいた。
今日はオフでもないし、子供達を顔を合わせる為に帰ってきたのではない。
「ん? 月夜じゃないか。おかえり!」
すると、夜舞の祖母の夜舞緋華里と、夜舞の祖父が大量の買い物袋を持って帰ってきた。夜舞の祖父に荷物を任せると、夜舞緋華里は夜舞がなぜここに来たのかを察する。
「んで月夜、今日は何があったんだ?」
「おばあちゃん、実はここじゃ話しづらいことがあって…」
「お、そうか。皆、私はちょっと月夜と話があるからね」
酔いつぶれている大人たちの中で、夜舞緋華里だけは、なぜ夜舞がここに来たのかに気づいていた。しかし、誰もがラストプロテクターを世界の希望としているため、あのチームに何があったのかを伝え辛い。そのため、夜舞は祖母だけに話すことにしたのだ。
「で、何があったんだ? 突然帰ってきたということは、何かがあったということだね」
「うん、おばあちゃんにだけ話すね」
夜舞は、緋華里にサッカーのことを話した。そして、サッカーギャンブルのことも、各地で起こる戦争のことも、ラストプロテクターが解散しそうなことも。
「…なるほどねぇ…」
「うん、信じられないよね…でもさ、これは仕方ないと思うんだ。世界のサッカーがこんなんだったら、みんな、サッカーしたくなくなるし、そもそも…私は…」
涙を流しそうになり、その顔を祖母に見せない為に顎を引いた瞬間。夜舞緋華里は夜舞のこめかみに両握りこぶしを当てた。
「月夜」
「ん? 痛たただただ!!」
そして、夜舞緋華里は夜舞のこめかみを潰すかのように拳をぐりぐりし、見かけによらないほどの痛みに夜舞は悶絶する。
「痛い痛い! 何するの!」
「ん? これは夜舞家直伝のこめかみ割りだよ。この拳には、月夜がしっかりして欲しいという思いを込めて使ったんだよ」
「その説明はいいから!」
未だに痛むこめかみを抑えながら、夜舞は祖母に抗議する。
「ところで月夜。あんたは自分が戦争をしてしまったって思っているようだけど、違うよそれは。戦争をしているのは、貴族たちや首相たちだろ?」
「そ、それはそうだけど…」
「なら、サッカーできるじゃないか。いいか? 私は、月夜の中にある、一直線な心を信じている」
緋華里が、夜舞の胸に握りこぶしを優しく当てる。
「月夜は、どんなことがあっても、その一直線な心で、色んなピンチを乗り越えてきただろ? だから、私は私の孫の、月夜を信じる!」
「おばあちゃん…」
「頑張ってこい!」
救われた。と言えば嘘になってしまうが、確かに夜舞緋華里の言葉は夜舞に届いていた。こんなことを、している暇はない。
「ありがとう。私行ってくるね!」
「おう、行ってらっしゃい!」
夜舞は急いでペンションから出る。夜舞が突然別室から飛び出していった為、大人たちは驚いて酒をこぼす。
「つ、月夜ちゃんどうしたんだ?」
「彼らに会いに行ったよ。サッカーを取り戻す為にね」
***
「…メリー?」
サッカースタジアムに、たった一人でいたのは、メリーだった。一瞬だけエレンではないことに嫌悪感を感じたような気がした。
メリー、本名メリー・エウノミアーは、体育座りで明日人を見つめている。
「…どうして、君がここにいるの」
「……」
メリーは何も答えない。まるで拗ねた子供のように。
「じゃあ、言い方を変えるね。君は誰からの命令で、ここにきているの?」
優しく問いかけてみる。かつて自分の母がそうしてくれたように。
「…私の意志」
「そ、そうなんだ。珍しいね」
しかし、これだけではないだろう。メリーは、他に理由があってここにきているのだろう。もしなかったら、ここに来ていない。
「……稲森明日人。ううん、明日人。ラストプロテクター、やめちゃうの?」
「…うん、俺達はもう、サッカーなんて出来ないんだ」
「…私は、嫌だ。だって、明日人のサッカー、見られなくなるの、いや」
すると、メリーの瞳から涙が零れに零れ落ちる。それを手で拭っても、拭っても、涙が無くなることは無かった。
「明日人、覚えてないの? 私とレンお兄様、ミラお姉さまと、『仲良く遊んでた』でしょ。忘れちゃったの」
…口の中が渇くのを感じる。自分が、メリー達と仲良く遊んでいたなんて、信じられない。だから、今すぐにでも帰ろうと思った。だけど、それは出来ない。メリーを見ていると、どこか懐かしく感じるから。
「私、いつも見てた。明日人の試合、全部」
メリーが何を言っているのかがわからなかった。だけど、妙に本当のことだと聞こえた。
しかし、明日人の記憶に、メリーたちと遊んだ経歴はない。
『明日人くん来れる?』
すると、メッセージアプリの通知が来た。メリーに断ってから、スマホを手に取ると、夜舞からのメールだった。キーボードに指を動かして、返信をする。
「どうしたの?」
『ちょっと用事。すぐ終わるから、どこにいるの?』
「サッカースタジアムの前だよ」
『わかった』
夜舞のメッセージと共に、OKのスタンプが表示される。しかし、大谷たちとは違って、メッセージアプリが配布しているスタンプだ。えらく簡易的。
スマホをスリープ状態にすると、メリーは立ち上がっていた。
「明日人…誰かと話すんだよね。私はもう行くね」
少し青みがかかった桃色の翼を広げ、メリーは空へと消えていく。
「…俺と、レンくんたちとが友達…」
そうメリーに言われても、納得が出来ない。自分と彼は敵同士で、ユースティティアの天使とラストプロテクター。狙う者と狙われる者だった。それなのに、昔は友達なのだとメリーが言ったのだから、おかしい以外思いつかなかった。
「_________うっ!」
レンたちの顔を思い浮かべていると、明日人の脳に直接響くような、痛みが突然走った。そのあまりの痛さに明日人は立てなくなり、膝をついた。
「あれ、母ちゃん………?」
明日人の目に映るのは、巫女装束を身にまとった稲森百合子に、絞首刑のために作られたであろう台に吊るされた人たち。
自分でもわからない光景に吐き気を催し、早く終わってほしいと願いながら、明日人は次々に映る映像を見つめた。
今とは違って髪を伸ばした自分。
百合子と自分の周りに集まる人たち。
絞首刑と同じように処刑される人。
そして___________
「明日人くん! 大丈夫!?」
映像を見ているうちに、かなりの時間を費やしたようだ。夜舞が明日人の状況を見て、明日人に大声で声をかけたようだった。その衝撃にフラッシュバックは晴れ、明日人はしばらくの間放心していた。
「や、まい」
「どうしたの? 唸っているようだったから、声をかけたけど…」
夜舞はそう言っているが、自分が唸ったような記憶はない。恐らく、自分がフラッシュバックを見ているうちに、思わず唸っていたんだなと、明日人は認識する。
「とりあえず座ろ? 立てる?」
「あ、うん。立てるよ」
さっき見たのは何だったんだろうか。自分の記憶にあんなことがあった覚えがない。そういえば、自分の過去ってなんだっけ? 全然記憶にない。
「何があったの?」
スタジアム近くのベンチに座った夜舞は、明日人に何があったのかと聞く。それに、明日人は口を開いた。
「…突然頭が痛くなって、色んな光景が目に写ったんだ。それも、全然記憶にないことばかり」
それを聞くと、夜舞は思いついたかのように口にした。
「…もしかして、それってフラッシュバックじゃないの?」
「フラッシュバック?」
「図書館で見ただけだけど、トラウマとかがある時に、突然そのトラウマになった出来事を思い出しちゃう現象だよ」
夜舞の知恵によって、明日人はさっきの出来事がフラッシュバックだと知る。しかし、自分の過去にあのようなものを見たことがなかった。
じゃあ、あれは何?
自分の今の記憶は?
これ以上考えるのは嫌で、明日人は夜舞に自分を呼んだ理由を聞く。
「そうなんだ…ところで夜舞、なんで俺を呼んだの?」
「…一応、話しておこうって思って」
話しておくこと? それが何なのか、明日人にはイメージ出来なかった。しかし、次の夜舞の一言を聞いて、明日人は驚くことになるだろう。
「私、次のユースティティアとの試合、絶対に勝つ」
「えっ」
「えっって…明日人くん、サッカーを取り戻したくないの?」
「そ、そりゃあ取り戻したいよ? でも、エレンの話を聞いていると、やっぱりサッカーを取り戻しちゃいけないんじゃないかって思って…」
そう。サッカーはもう、スポーツでは無くなってしまった。今では、欲望の渦巻く戦争の引き金になってしまったからだ。それを、明日人は十分に知っている。そして、自分の思っていたサッカーが違っていたことに、明日人は絶望しているのだ。それなのに、なぜ夜舞はサッカーを取り戻そうとしているのか。それが理解できなかった。
「…だとしても、私はサッカーを取り戻したいよ! 明日人くんは辛いと思わないの!? 好きな物を奪われる悲しみを!」
「ッ、そりゃあ、俺だって辛いよ! でも、それが世界の危機に繋がるのなら、諦めるしかないじゃ___」
「夜舞家伝授、こめかみ割り!」
夜舞の握りこぶしが明日人のこめかみに当てられる。それに明日人はなんのことはわからないでいたが、それと同時にこめかみをぐりぐりとされ、明日人は痛みに悶える。
「ちょ、痛い痛い!!」
「これは我が夜舞家に代々伝わる奥義だよ」
「そうじゃなくて!」
長い事夜舞にぐりぐりをされている中、その光景を木の影から見つめていた者たちがいた。
「……何やってんだ? あいつら」
「ふむ、あれはこめかみ割りのようだな」
「呑気に解説している場合か」
灰崎、鬼道、豪炎寺の他に、ラストプロテクターの選手やマネージャーたちが揃っていた。
「…私の知っている明日人くんは、自分の好きな物に素直になれて、好きな物を捨てたりしない。私がイナズマジャパンの試合を見ていた時に見た明日人くんは、とってもサッカーを楽しんでいるって感じだった」
「夜舞…」
こめかみ割りが終わり、明日人はこめかみの痛みによって我に返る。
「……ありがとう、夜舞。俺、少し馬鹿なこと考えてた」
ヒリヒリ痛むこめかみを抑えながら、明日人は夜舞に感謝の意を伝える。
「これで、全員が同じ意見になったな」
「皆!」
明日人たちの近くに現れたのは、円堂達だった。それも、マネージャーたちも出揃っている。
「皆、家族に言われたよ。サッカーを取り戻して来いってね」
吹雪が言うには、円堂に豪炎寺、その他親が居る者には親に説得され。兄弟が居る者には兄弟に説得され。大事な人から説得されることもあったらしい。
「…やっぱり、私もサッカーを取り戻したいです。夏美さんに説得されてから、やっとその気持ちに気づけました」
杏奈は、自分が居ない間の雷門中を任せてほしいと言われた雷門夏美に説得されたらしかったのだ。そういえば、自分を生徒会長に指名したのも、夏美だった。
「…よし! 次の試合、頑張ろう!」
明日人が言うと、全員がおおーっ! と声を上げた。
***
試合前日。明日人たちは、フロイが来るであろうサッカー協会の施設に来ていた。それも、まだフロイによって立ち入り禁止になっていない施設だ。その前で、フロイを待っている。
フロイを待っている中、一星は自分の右手に持っている箱のことを思いかえす。
「あの、一星さんですか?」
昨日、宿所への帰り道に、メイドのような大人の女性が一星の目の前に現れたのだ。いきなりの登場に内心驚きながらも、明日人たちは立ち止まった。
「はい、なんですか?」
「実は、家に戻られたベルナルド様がこれを発見し、これを一星に渡して欲しいとお願いされました。そして、この中身をフロイに見せてほしいと私に伝言を任せました。それでは」
恐らく、ベルナルドの家のメイドなのだろう。それだけを言うと、一星に箱を渡してからそそくさと向こうに行ってしまった。
「なんだろう…」
明日人たちが箱の中身はなんだろうなと気になっている中、一星が箱を開ける。すると、中に入っていたのは手紙だった。それに同封されていたのかはわからないが、手紙の他にもロケットペンダントもあった。ロシアの伝統的な花模様と銀をチャームに、中には若きイリーナとベルナルド、そして赤ん坊のフロイの写真が入っていた。
「ロケットペンダントに…手紙?」
「どうしてアストたちがここにいるんだい?」
一星が思い返していると、フロイの声が不意に聞こえた。
フロイの方を向くと、触手こそ生えてはいなかったが、禍々しいオーラが漂っていた。
「これが、フロイなのか…?」
そのオーラは風丸も感じられたのか、身構える。
「そこをどいて」
「いやだ、俺はフロイと話がしたくて来たんだ」
前へ進もうとするフロイに、明日人は強気に止める。
「これを見てほしい」
すると、一星が箱の中身をフロイに見せる。
「この箱の中身は、お前の母さんからフロイに向けての手紙と、お前へのプレゼントだ」
「だからなに」
フロイはそれを聞いてもなお、意志を貫き通そうとする。
「読むね」
「フロイへ。
この手紙を読んでいるころには、私はこの世には居ない。居たとしても、ここから遠い場所にいるかもしれない。だから、この手紙を書くわ。この手紙に書かれていることが、嘘だと思っていても、これは本当に起きた出来事なのよ。でも、信じて貰えないでしょうね。だって私は、貴方を愛さなかったし、貴方の兄さんのベルナルドを虐待したものね。だけど、ここに書くわ。もう覚悟は決めたもの。
フロイ、貴方は、本当は愛されていた。というよりも、記憶を捏造されたのよ。私に愛されていないという記憶をね。その記憶を植え付けたのが、フォルセティという神。なぜあんなことをしたのかはわからない。でも、私は、貴方が生まれてきて本当にうれしかった。この子だけは、幸せにしたいって。
ベルナルドのことも、フォルセティに記憶を改変されて、このあの子の人生を、『私に虐待された』という記憶で埋め尽くしたのよ。そして、フォルセティは私にこう言ってきたわ。『記憶のすれ違いがないようにしろ』ってね。でも、私はベルナルドを虐待することなんて出来ない。だから反対したのよ。でも、フォルセティは、『従わなかったらこの世界を滅ぼす』と言ってきたの。だから私は、私は。
ごめんなさい。こうでもしないと、世界が滅んでしまうの、フォルセティは、邪神よ。正義を振りかざした、邪神。そして、やがて私の精神は病んでしまった。望まぬ虐待で、息子たちを傷つける悲しみに。世界が、戦争の為にお金を使っているのと、貴方のお父さんの方針を知って、私は何を思ったんだろう。貴方の父親を、殺し屋を雇って殺したわ。そしてその事実も、フォルセティによって病気での死に改変されてしまった。
この内容を見ても、貴方は信じてくれないと思う。
いいの。信じてくれなくても。でも、いつかはこの手紙を真実だと思う日が来るかもしれない。
その時が来るまで、私は祈っている。
手紙に同封されているペンダントは、貴方への誕生日プレゼントよ。
本当は、何度も何度もこの貴方の人生で渡したかった。それも、フォルセティによって、出来なかったわ。
本当に、ごめんなさい』
「……ハ」
手紙の内容に、フロイは空笑いした。
「それが手紙の内容? それでも僕のお父さんを殺したことには変わりないじゃないか」
「…でも、その原因もフォルセティだ。頼む。サッカー協会を破壊するのを、やめてほしい」
サッカー協会の施設を後ろに、一星はフロイにそれを壊すのをやめてほしいと言い放つ。
フロイはしばらく無言になったあと、涙ぐみながら明日人たちに大声で叫ぶ。
「……ヒカルは! 自分達の好きだったサッカーの楽しさが、偽りのものだって、信じないのかい!? 僕も、君も、戦争にサッカーが関わるなんて嫌だろ!? だけど、本当は父さんが原因だってことも知ってる! でも、僕は父さんが原因だってことも、今まで母さんがやってきたことがフォルセティに脅されてやったことも、サッカー協会が戦争に加担していたことも、信じたくないッ! 僕はもう、何も考えたくない! ただサッカーがしたいだけなんだ!」
「フロイ!」
明日人がフロイの名を呼んだその時だった。
「__!?」
フロイの右手首に、謎の赤いリングが巻きついたのだ。
「な、なに、これは」
謎の赤いリングに驚いていると、また同じようなリングがフロイの足首、左手首、腹に巻きついたのだ。
「フロイ!」
するとフロイの体が、腹に巻きついたリングを中心に浮き始めた。抵抗するフロイだったが、体がリングによって硬直されている為、大した抵抗も出来ず、そのまま勢いよく空中に浮いていた白い十字架に、フロイは貼りつけられた。それに、明日人たちは青ざめる。
「信じなくてもいいんですよ? この地上は、嘘つきだらけですから」
空中から階段を降りるようにして舞い降りたのは、ミラだった。
「ミラ!」
「ご静粛に、この子がどうなっても保証は出来なくてよ」
ミラは明日人たちを軽くあしらいながら、貼りつけられたフロイの素肌を、後ろから服の中にもぐりこんだいやらしい手つきで撫でる。
「ミ、ラ…君、か…」
いやらしく撫でるミラの手つきに、顔を赤らめながら、フロイはミラのいる後ろを目線で見つめる。
「ッ、フロイを離せ!」
「一星!」
一星がボールを取り出すと、それをミラに向けて撃つ。しかし、それはミラの出す白い銃の弾丸によって、ボールは蜂の巣にされて地面に落ちる。
「無駄ですわよ」
「くっ」
「ミラ、なんでこんなことを!」
ミラのことを、仲間だと信じていた円堂が、ミラに問い詰める。するとミラは、微笑みながら質問に答えた。
「なぜ、と問いますか。だって、フロイさんはこの世界の真実を知って、苦しんでいますの。苦しんでいる人を助けるのは、天使の仕事なのですから♪」
そう言った直後に、にっこりと笑うミラ。
「それでは、お邪魔な物は早く消えて貰いましょう♪」
右手に持っていた銃を、グレネードランチャーに変えたミラ。それを、明日人たちに向けて撃つ。
「避けるぞ!」
風丸の声で、明日人たちは初弾をなんとか避ける。しかし、そのせいか地面はグレネードによってくぼみが出来てしまっている。
「アスト! ヒカル! 皆!」
それを十字架の元でしか見ることのできないフロイは、自分を貼りつけている枷の機能を果たしているリングを外そうと、背中からこっそりと植物の茎を出す。
「逃げようとしても無駄ですわよ♪」
笑いながら、ミラはグレネードランチャーのグリップを、フロイの腹に目がけてぶつける。一瞬だけ目を見開いたあとは、フロイは目を瞑って気絶してしまった。
「フロイ!」
何かがぶつかる音がフロイの方から聞こえ、明日人たちはフロイの方を見る。するとそこには、枷に体を預けて、意識を失っているフロイの姿だった。
「それでは、また明日お会いしましょう」
と、ミラは貼りつけられたフロイを連れて空へと消える。それを、一星は見つめる事しか出来なかった。
「フロイッ―――!!」
不信の心は、もう溶けない。
あ、うん。言いたい事はわかるよ?
なんでフロイを磔にしたかってことですよね。
あれはですねぇ、フロイに箱の中身を伝える時に、第一稿の時点で思いついてしまいまして…
うん、イナイレに磔はアウトだって言いたいんでしょ? でも、そこは超次元だし、どこの子供向けアニメでも、中学生が磔になるなんてことはよくありますから…(今の子供向けアニメがどんなのかは知らない。)
この小説の中でどのコンビが好きですか?
-
明日人とエレン
-
不知火と月夜
-
エレンとレン
-
エレンとメリー
-
エレンとミラ
-
不知火とベルナルド
-
明日人と月夜