イナズマイレブン テミスの正義   作:暁月の太陽

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 もう三十三話ですよ。奥さん。
 

 さて、今回は怪異の正体と、ハーツアンロックの新たな情報が明かされます!
 明日人くんの過去にも少し触れるかも?


第三十三話 贖罪の理由

 前期の雷門マネージャー、現在のマネージャーを横に配置させ、明日人たち選手を前方に配置させると、ベルナルドは食堂でミーティング始めた。

「まず報告がある。今回の試合は、諸事情により中止ということになった。つまりは、チームの存続を懸けた戦いは次の試合になるということだ。解散を免れるためにも、練習には根気強く行ってほしい」

 ベルナルドが話をしている間、誰もが明日人の方を見ては、目線を反らしていた。明日人にはそれが不快でどうしようもなかったが、言った所で変わるかどうかなんてわからない。まずそもそも、明日人を見つめている理由としては、ミラと明日人が友人だという点にあった。これはミラが自分から言ったことであり、明日人は何も言っていない。だが、明日人は皆が敵のいうことなんて信じるわけがないと思っていたが、皆はどうやらそういうわけにもいかないようだった。それもそうだろう。自分達のキャプテンが、敵と友人関係にあったなんて、疑うほかない。

「では、ここからは夏美に怪異の説明をしてもらう。いいか?」

「構いません。チームの役に立てるのなら」

 と、夏美はベルナルドの居た場所に立ち、説明を始める。

「まず、怪異というのは妖怪の一種、その場にいるだけで人間と妖怪とのバランスを保ち続けている存在だと、夜舞さんから聞いたわ。…だけど、私の調べが正しかったらの話だけど、怪異は、()()()()()()()()()()

「どういうことだ? 夜舞のおばあちゃんから聞いたが、怪異は妖怪の一種だと言っていたぞ?」

 妖怪じゃないというところに、風丸が夏美に指摘する。それは夜舞の祖母、夜舞緋華里は怪異を妖怪の一種だと認識しており、それを明日人たちに教えていたからだ。

「えぇ……一般認識だと、そうなるわ」

「一般認識?」

「もしかして、怪異は妖怪とは別のものだと、そう言いたいわけですね」

 不動が疑問視した時に、野坂は鋭く夏美が伝えたい事を話した。それに、夏美は頷く。

「信じられないかもしれないけど、国はね、怪異の本当の姿を隠していたのよ。おそらく、怪異の本当の姿が暴かれることによる、暴動を起こしたくなかったんでしょうね」

「え、じゃあ怪異は、妖怪とは別の何かなんですか?」

「確かに妖怪なのに、原生型と生誕型があることはおかしいとは思っていたけど…」

 妖怪に対しての一般認識を持っている坂野上は、怪異の本当の種族を考えている。それに続いた吹雪は、未知の存在である妖怪にパターンがあることを疑問視していた。

「…怪異の本当の種族は、()()()。文字通り、神の遺物と呼べる概念なのよ」

「待ってください、じゃあ、俺の蠍とか、ヒロトさんの蛇さんも神様の遺物ということになるんですか?」

「それは、私が言った原生型に属する神遺物。生誕型は勿論神遺物じゃないし、だからフロイくんのように従えやすい。だけど、神遺物は本来、そんな簡単に従えることなんて出来ないの」

 それが、適合率なのかと、明日人たちは事の辻褄が合わさっていくのを感じていた。

「だから、適合率というものが生まれたわけなんですね。夏美さん」

「杏奈さんの言う通り、怪異を従わせるための、人の根本とも呼べる精神、それが適合率よ。でも、それだけじゃ怪異の本当の力を引き出すことなんてできないの」

「まさか…それがハーツアンロック!?」

 大谷は、何かに気づいたかのように、その怪異を従わせる方法がハーツアンロックだということに気づく。

「そう。だけどハーツアンロックのことは、私よりも春奈さんに説明してもらったほうが速いわね。ハーツアンロックのことは、春奈さんの方が詳しいから」

「春奈が?」

 春奈の兄である鬼道が反応する中、夏美は春奈に場所を変わる。

「こんにちは、私は音無春奈です。今日ここに来たのは、ハーツアンロックの真実を伝えるためです。夏美さんほど説明は上手くありませんが……では、説明します。単刀直入に言いますと、ハーツアンロックの存在は、前々から確認されてきたことなんです。かなり昔になりますが、一星さんと同じような事例が、昔に何度も起きていたんです。それを、国は秘匿し続けていたんです。なんでかは、わかりませんが…ですが、私は言います。ハーツアンロックは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ***

 

「円堂…あの話を聞いてどう思った」

 夕飯の後のミーティングが終わり、円堂達はいつものように風呂かシャワーに入り、就寝時間までの自由時間を過ごしていた。その間、豪炎寺と鬼道は円堂の部屋に遊びに来ていた、というよりは、お邪魔している。意味は同じだが。

「どう、か…ちょっと驚いたな。ハーツアンロックが、負の感情を力にする技だったなんて」

 床にあぐらをかいて座っている豪炎寺に言われ、円堂は右手を見ながらそう答えた。

 あの話___春奈の話のことだ。

 春奈は国がハーツアンロックの存在を秘匿しており、そしてハーツアンロックは己の負の感情を力にし、ありとあらゆる怪異などの概念を取り込み、その概念と同等のレベルに達することのできるものだということを話したのだった。

 その概念というのは円堂にはよくわからなかったが、鬼道がわかりやすく説明すると、世界中に存在する神の存在や死、そして生などの、人類ではまだ解明されていないものを自分の力にするのだと説明した。そうなれば、一星はギリシャ神話の英雄のポリュデウケース、ヒロトは北欧神話の最高神、オーディンと同等の力を会得していることになる。が、あまりよくわからない。

「確かに…ハーツアンロックすることで世界中の神と同等のレベルに達することが出来るのなら、そのハーツアンロック所得者をリーダーにして、国に反乱を起こすことが出来るからな…」

「一星とヒロトがそうしないにしても、俺達以外の人がハーツアンロックを解放するかもしれない。そうしたら、まずいことになるぞ」

「………」

 これから、サッカーを取り戻したあとに何が起こるのか、円堂は何も知らなかった。ただ、サッカーが取り戻せて、皆喜ぶというのものだと思っていた。

「…なら! 俺達でそのハーツアンロックのルールを作っちゃえばいいんだよ! サッカーのルールを作った人と同じようにさ!」

「円堂…そうだな。今からでも遅くはないか」

「まずは、草案からだな」

 円堂の提案は、なんとハーツアンロックに関するルールというものだった。まだ誰がハーツアンロックを解放するかわからないこの状況、作ってしまうのも問題はないだろう。

「俺さ、この力を、負の感情じゃなく使いたい。負の感情で世界を救ったって、それって本当に世界を救ったことになるのかなってさ。それに、じいちゃんが言ってたんだ。ハーツアンロックは、心の中の自分だって。自分に絶望しないで、信じてみれば、きっとなんとかなるよ」

 

 ***

 

 円堂達がハーツアンロックのルールを作ると決行した翌日の朝、円堂は賢そうな人たちを集めて、ルールの草案を作る為に呼ばれていた。それには、キャプテンである明日人も呼ばれていた。そのほかの人は、それぞれ個人練習に励んでおり、汗が輝いている。

 その中で、コソコソとしている者がいた。

「今のうち…今のうち…」

 練習中、マネージャーたちは明日人たちの衣類の洗濯をしているため、ここにはいない。そのため、夜舞は忍び足でスマホの方へと向かった。

「何してんだよ」

「わわっ! 不動先輩!?」

 突然不動から声をかけられた為、まさか不知火に連絡をすることがバレるんじゃないかと恐れていた。

「不知火って奴に連絡すんだろ」

「まぁ、そうですね…昨日が会う日だってことを忘れてしまいまして…その連絡に」

「まぁいいけどな」

「黙っててくださいね」

「なんでだよ」

 案外あっさり承諾してくれたが、おつかいに行って、不知火と会って、誘拐疑惑になってしまうのはもうこりごりだと、夜舞は不動に釘を刺した。

「えーっと、『せっかく誘ってくださったのに、会いに行けなくてごめんなさい』」

『構わないよ。いつでも会いに行けるからね』

「返信が早ぇ」

 あまりの返信の早さに、隣にいる不動が呟く。

『本当ですか!?』

『……というより、今ここにいるんだけどね』

「えっ?」

 不知火との会話で、不知火がここに居ると知った夜舞は、嬉しさと同時になんでここにいるのかという疑問も湧いてきた。辺りを見渡すと、昇降口には確かに不知火がいて、こちらに手を振っていた。だが、その周りには明日人達が不信そうに集まっていたが。

「不知火さん!?」

 急いで不知火の所に走ると、不知火は嬉しそうに笑う。

「やぁ月夜ちゃん。奇遇だね」

 不知火が夜舞に近づこうとしたが、それは剛陣に遮られる。

「おいおっさん。まだ要件言ってないだろ」

「あぁ、私はベルナルド監督と話がしたくて来たんだよ。だから、そこをどいてくれないかな」

「知らない人をいきなり通すわけにはいかねぇだろよおい」

「それもそうだね。じゃあ、私はこういうものなんだ」

 不知火は胸ポケットから名刺を取り出し、剛陣に手渡す。それを見たとたん、剛陣は驚きに青ざめた。

「えっ…あのミラージュ社団法人の会長なのか!?」

「あぁ」

 そう不知火が微笑んでいると、趙金雲がやってくる。

「不知火さんこんにちは。では、ベルナルドくんが呼んでいるので、こちらにどうぞ」

「わかりました。じゃあね、月夜ちゃん」

 そう不知火は、夜舞に手を振りながら応接室に案内された。

 

 ***

 

「…自己紹介が遅れてしまったね。私は不知火一誠だ。と言っても…君とは昔、知り合いだったのだろう。すまない、君のことは調べたのだが…それでも私の記憶が正しければ、君とは初対面で、会ったことがない」

 応接室に通された不知火は、そこでベルナルドとテーブルを挟んで話を始めようとしている。それを、明日人たちは壁にガラスコップを当てて聞いていた。

「それはいい。なんの用で来たんだ?」

 すると、不知火はアタッシュケースではない質素な革のカバンから、数枚の書類を取り出すと、ベルナルドはそれに目を通した。だが、そこにはミラージュ社団法人が運営している孤児院に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、それに伴う合意書だということに、ベルナルドは目を見開いた。

「実は…このチームのキャプテンの稲森明日人の件なんだが」

「それは後だ。これはどういうことだ」

 ベルナルドに口を挟まれも、不知火は続けて話す。

「落ち着いて欲しい。これは稲森明日人くんを、私の運営する孤児院に入れさせるための書類だ。もちろん、安全面と精神面に関しては私が保証する。万が一のことがあったとしても、取り消し用の契約解除通知書もある」

「…準備がいいようだな」

 落ち着いて欲しいと言われ、ベルナルドは不満そうにテーブルに置かれた紅茶をすする。

「私たちミラージュ社団法人も、ラストプロテクターのことは応援している。そのため、もしも何かお役に立てないかと、ラストプロテクターの選手情報を調べておいたんだよ」

「それで、明日人の家庭環境の情報へとたどり着いたわけか。チームのプライバシーの侵害として訴えるぞ」

「その点に関してはすまないと思ってる。だけど、君は稲森明日人くんが可哀想だとは思わないのかい? あんな故郷で過ごしたら、心も不安定になる。手遅れになる前に、うちで過ごした方がいい」

 明日人の故郷、伊那国島に、ベルナルドは眉をしかめる。以前あそこは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…あそこには俺も行ったことがあるし、お前の言いたいことはわかる。手遅れになる前に、保護したいのだろう。だが、本人の意見もなしに、俺の勝手でサインはできない」

「まぁ、そこは本人を交えて話をしたいところだ。その時間も、作って欲しい」

「わかった。スケジュールの合間を縫って、話をする機会を作る。それでいいか」

「あぁ」

 小難しい話を終え、不知火はファイルに書類を纏めて、ベルナルドに渡した。

「……ひとついいか」

「何かな」

 ベルナルドの問に不知火が微笑むと、ベルナルドはテーブルに乗り出し、不知火の顔をその目で見つめる。その揺れで紅茶は零れ、膝に染みている。

「本当は覚えてるんだろ、その話し方といい、仕草といい、難しい言葉といい…」

「…私はいつも通りに話したつもりだが」

「そうやって誤魔化すのも同じだ。答えろ、師匠」

 突然のことに頭が追いついていなかった不知火だったが、深呼吸で心を落ち着かせ、ベルナルドと向き合った。

「…ベルナルドくん。今は稲森明日人くんの話をしているよ。それに、ご本人もいるようだから、ついでに稲森明日人くんを交えて話しをしないか?」

 不知火が指を指した先は、ドアの方だ。そこに明日人が居ることに、ベルナルドは驚いた。まさか、今の話を聞かれたんじゃないだろうか。そう思うと、ベルナルドは額に汗を流した。

「………明日人、居るのか?」

 ベルナルドが不知火の方から離れ、ドアの方に体を向けると、明日人に声をかけた。

「…………」

 声をかけられた明日人は俯いており、顔が見えない。

「明日人くん…」

「今行きます」

 明日人が、応接室のドアを開け、中に入る。

「こんにちは、稲森明日人くん。突然で悪いけど…これから君の将来についてを話さなきゃいけないんだ」

「俺の将来?」

 にこにこと笑って話し出す不知火に、ベルナルドは不快感を覚える。はぐらかした。自分に記憶がないことがバレないように。

「実は、君の故郷を離れて、私の運営する孤児院に預けるかどうかの話をしていてね」

「えっ…」

 当然、明日人の顔が真っ青になる。

「だ、だめ、です。あそこからは、離れられない、いや、離れたくない、いや」

 歯切れの悪い返答に、ベルナルドはあの伊那国島がなぜあんなに気味が悪いのかを悟った。

「…わかった。少し考える時間が欲しいよね。いきなりでごめんね」

「いえ、いいです…」

 不知火はそう、気安く明日人の頭を撫でる。

 一方で、明日人が故郷を離れるということを知った円堂たちは、応接室の前で冷静さを欠いていた。

「ま、まさか明日人さん、故郷を離れちゃうんですか!?」

「不知火が、あんな故郷に居れば手遅れになると言っていたな」

「不知火さんの運営している孤児院ってことは、俺らの家のお日さま園じゃなさそうだね…」

「だとしたら、あいつ孤児なのかよタツヤ」

 心配の念を感じさせながらざわついていると、明日人が応接室から出てきた。

「明日人くん!」

 一星が声をかけるも、明日人は何も言わずにその場から立ち去ろうとする。

「待てよ」

 だが、その腕を掴まれる。

「ミラと友人だとか、お前の故郷とか、どうなってんだよ!」

「おい灰崎、」

「こうなったら洗いざらい吐いてもらわねぇと、気がすまねぇよ!」

 水神矢の静止も聞かずに、灰崎は明日人の過去を吐くようにと迫る。

「落ち着け灰崎! 今はそんなことしてる場合か!?」

 円堂が灰崎を必死に止めたのち、灰崎は舌打ちしながら部屋に戻った。それに続いて、皆も練習に戻った。

「明日人くん…私がミラと友達だったなんて、嘘だって言っておくよ。そしたら、さっきみたいな風にはならないし…」

 夜舞は、明日人の状況を見て、なんとかしてさっきみたいな空気を作らないようにしているのだろうか。そこら辺が妙にマネージャー臭い(なお、料理は出来ないし洗濯も出来ないが)のだが、明日人は遠慮することにした。

「いいよ、これは俺の問題だしさ」

「だけど…」

「夜舞もさ、練習した方がいいんじゃないのか? チームの第三者なんだしさ」

 それだけを言って、明日人はグラウンドに行って、練習を行うことにした。そして、廊下を歩いている間に思ったことがあった。

 エレンに会いたい。

 エレンなら、俺の言っていることを信じてくれて、受け止めてくれる。

 だけど、エレンは皆に酷い事をした。それは事実だ。だからなのか、会いに行くのが気まずい。

「…はぁ」

 皆のあの目が怖い。何かを探るような、そんな目が。いつもの優しく、自分のことを信じてくれるような目じゃなくて、まるで自分のことを疑っているような目が怖い。別に、人間なら誰しも、疑われることだってある。わかってる。だけど、自分の場合は、それが怖いのだ。疑われて、嫌われるのが怖いのでも、その疑われるのが怖いのでもない。何か別の、何かがあるのだ。それを、エレンに聞けば何かわかるのだろうか。でも、会えるのだろうか。だけど今は、とにかく今は、練習をするしかない。解散になったら、それこそ世界を救えなくなる。

 

 ***

 

 いつもと変わらない、自分の家の中に入ると、そこには誰もフロイ自身をを迎えてはくれなかった。あの試合で、フロイ・ギリカナンが危険だということが知れ渡ったのか、それとも単純に皆忙しいのか、おそらく前者だろうと、フロイはロビーを歩く。

「フロイおぼっちゃま…」

 後ろから声が聞こえ、フロイはその声のした方に向く。そこには、小さい頃からいつも母の代わりに自分の世話をしてくれたメイドだった。青い目は心配そうにフロイを見つめている。だが、それすらもフロイは信じられなかった。

「…なに」

「私がご用意したお届け物、どうでし…」

「なんで僕に送ったの。あんなの見ても、信じられるわけがないじゃないか」

「…………」

 自分がフロイのために送ったものが、呆気なく切り捨てられ、信じて貰えなかったことに、メイドは両手を前で組みながら目を瞑った。

「貴方もわかっているはずですよね…僕が、母さんに何をされてきたのか」

「えぇ、存じております」

「…あんなの、僕が望んだ母さんじゃないよ。どんな理由があろうと僕の父さんを殺したのは事実だし、それに、僕なんか生まれてきて欲しくなかったって思っているはずだよ」

 フロイは、まるで構ってほしそうに自分を自虐したが、メイドはそんなことないとは言わず、そうですかと言うだけだ。

「…母さんも、父さんも嫌いだ。あの人たちは、僕のサッカーを穢したんだ。そして、世界に対するサッカーの認識も変えてしまった。それは、到底許されるべき行為じゃないよ」

 そう、あの二人は、サッカーを穢した。それに対して、フロイはメイドがなんて言うのかは知っていた。そうですか。というだけだ。しかし、それはフロイの思惑どおりにはいかなかった。

「……どんな事でも信じる人というのは、純粋な子供か、神に誓うほど、その人のことを愛している人だけです。フロイおぼっちゃまは、ご父母様を愛していらっしゃらないのですか?」

「…あんな人、もう愛していないよ」

 予想外の返答に、フロイは一瞬戸惑ったが、何事もなく会話を続ける。

「そうですか。ならば、今から私が案内する部屋にいらっしゃっても、ご父母様を信じないと、仰るのですね」

「…どこに案内をするのかは知らないけど、僕の理念は変わらない」

「わかりました。こちらへ」

 と、メイドはフロイを連れて、中庭へと案内した。

「中庭に連れてきて、どうするんだい?」

「…母様は、私が死んだらフロイをそこ案内して欲しいと、私に遺言を残しました」

 中庭の街頭に隠された暗証番号を入力すると、噴水が二つに切り離され、隠し階段が現れる。

「こちらです。暗いので、足元気をつけてください」

 それからは、お互い無言のまま、階段を降り続けた。メイドはランタンで辺りを照らしながら、目的地へとフロイを案内する。すると、鉄の扉の前で止まったかと思えば、メイドが突然口を開く。

「…ここからは、フロイおぼっちゃま一人で行ってください。私どもが見ても、仕方ありませんから」

「そう」

 メイドに言われた通り、鉄の扉を開けて、中に入る。もしここでメイドにドアを閉められたらどうしようかとは思ったが、そこは壁を貫いて通り道を作るだけだ。

 鉄の扉の部屋は、質素なものだった。書斎のように本棚が並んでおり、高級そうな絨毯に壁と、その奥には上等な机が置かれていた。一体誰の趣味でこんなことをしたのかは知らないが。するとフロイは、机に置かれた、ホコリの被った本を目にした。それを手に取り、埃を払うと、『diary』と表紙に書かれていた。試しに読んでみる。(人の日記を読んじゃダメだが)

「…母さんの字だ」

 パラパラと、ページをめくる。最初は、兄のベルナルドが生まれたことを嬉しく思っていたことが書かれていた。初めて立ったこと、初めて離乳食が出来たことが、細かく。だが、それはフォルセティという神が、虐待するようにと脅されたあとから、変わっていった。苦悩する文章、精神安定剤を飲む記録、全部が綴られていた。

「………」

 最初は、信じないつもりだった。だけど、最後のページには、こう書かれていたのだ。

『フロイへ、もしこの日記を読んでいるなら、私の部屋の隠し部屋にいらっしゃい。そこなら、フロイが信じられなかったものも、信じられるようになる。私が、保証するわ』

「______!?」

 それを見たフロイは、急いで日記を持って外に出た。

「フロイおぼっちゃま!?」

 メイドが驚いていたが、気にせずに日記に書かれた場所まで走る。

 イリーナの部屋。その隠し部屋。

 部屋に入ると、フロイは急いでその隠し部屋のスイッチを探した。すると、本棚に入れられた本のひとつがスイッチとなっており、フロイは本棚の作るドアの向こうにやってきた。

 そこには____

「………母さん」

 フロイの、十四年分の誕生日プレゼント箱が、あったのだ。

 日記とも場所が一致している。

 フロイがプレゼント箱を開けると、欲しかったゲームや、本。新しい服や、アクセサリーも入っていた。

 ここでやっと、フロイは、イリーナの手紙と、日記が、本当のことだと知ったのだ。

 だが。

「………だけど、もう遅いよ…」

 隠し部屋を出て、部屋の机に日記を置くと、フロイは家を出た。

 

 もう、遅すぎた。

 信じることを恐れたフロイは、行くあてもないまま、街を歩いていた。

 あの日記を見て、フロイはやっと、自分の母がフォルセティに脅されて、自分の兄を虐待していたということを知った。そして、自分の母が、望まぬ虐待をして精神を病んでいく姿が目に浮かんだ。それなのに、何も分かって貰えない父を殺したのも、仕方ないだろう。

 そう、家族の問題は終わった。

 だが、サッカーギャンブルのことは終わってない。

 歪んだサッカーは、その形を元に戻すことなどない。半分は父親のせいだが、サッカーをギャンブルに使うことで経済を活性化させ、戦争に発展させるという発想を持ったサッカー協会を、フロイは許すことなんて出来ない。

 そうだ。元に戻そう。

 これは自分の最後の、一世一代の賭けだ。

 自分が犯罪者になってもいい。

 僕は、償いをする。

 

 ****

 

 その夜、明日人は眠れず、ミーティングルームの大型テレビで、自分が今まで行ってきた試合を視聴している。

 故郷を離れる。それは、悲しいことでもあり、望んでも叶わない願いだった。自分は、あそこから二度と出られないのだし、おそらく母と同じように、あそこで死んでいく運命なのだろう。

「明日人、くん?」

 すると、ミーティングルームから漏れる音に気づいた夜舞が、ミーティングルームのドアを開け、明日人に近づく。

「…夜舞はさ、俺の過去を知りたいって思わないのか?」

「……えっ?」

「いや…皆みたいに、俺がミラと友人だったってこととか、俺の故郷のこととか、知りたくないのか?」

 夜舞はそれでもクエスチョンマークを出している。理解してないのが、もしくは理解しているけどしていないふりをしているのか。

「……別に、かな。だって、明日人くんの過去を知ったところで、何かあるかな? まぁ、チームの絆そのものに傷が付くっていうなら話は別だけど…」

「……そっか、優しいんだな。夜舞は」

「なんて言うのかな、おばあちゃんが過去なんか気にするなーっていつも言ってるから、それの影響だと思う」

「……いいな、俺もそんな風に考えたかった」

 夜舞は、予想外の返答に心臓がはねる。明日人はいつも元気で、過去のことなんかあまり気にしていないような様子だったため。

「え、意外」

「まぁね。俺さ、故郷の伊那国島でさ、辛いことがあったんだ。まだ言えないけど、とても辛いこと。皆には、言えない過去なんだ」

「…………」

「だから、過去とかを探られるの、嫌いなんだ。一星とヒロトの過去は、探っちゃったけどね」

 そうなんだ…と夜舞は、相槌を打った。それと同時に考えた。探っちゃダメなんだろうが、考えてしまう。探って欲しくないほどの過去って、なんだろうと。

 だけど……もう考えるのはよそう。

「…でもね、私はこう思うな。過去なんかただの砂時計にしか過ぎないって。砂時計という形の明日人くんがいるなら、今流れている砂は今の時間。下に溜まっちゃった砂は、過去のこと。でも、未来という砂はまだ残ってる。未来の砂とか、過去の砂を全部含めても、明日人くん。で、いいんじゃないかな?」

「……夜舞って、結構文学的って言うのかな。なんか俺の島にいる小説家みたい」

「あはは、語彙力と想像力は、春咲ちゃんに鍛えてもらったけど」

「春咲って、そんなに凄いのか?」

「うん。テストは毎回学年一位。生徒会長も務めているんだ。あと、文武両道で、俳句も書けるんだよ」

 春咲たんぽぽのことを話すと、明日人は笑った。そんなにハイスペックな子、中々居ないよと。気がつけば、沈んでいた気持ちも無くなり、明日人たちはしばらく話したあと、部屋に戻って眠りにつくことにした。

 

 ****

 

「皆、俺の過去のことは、今は話せない。だけど、この戦いが終わったら、俺の過去のことを話すし、不知火さんが経営する孤児院に入るかも考えていくつもりだよ。だから、今は考えさせて」

 その翌日、明日人は皆が朝食を食べている中、皆に今後のことを話した。

 すると、明日人の話を聞いて、隣同士顔を合わせると、頷いた。

「まぁ、過去のことなんて、今はどうでもいいしね。今は解散を免れるためにも、練習に励まないとね」

 過去への不快感がある野坂も、明日人の過去の事については何かが思うところがあり、明日人の過去にはこれ以上触れないようにと、皆に注意した。

「野坂…」

「みんな! フロイが…!」

 すると、ユースティティアの情報を集めていた為、朝食を自分の部屋に持ってきていたユリカが、食堂のドアを勢いよく開けて入ってきた。

「サッカー協会内でサッカーギャンブルをしてきた職員を割り出して、証拠を突きつけて逮捕に漕ぎ着けたって…」

 突然のフロイのした行動に、明日人たちはドキッ、と心臓がはねるのを感じた。今までサッカー協会の破壊をしてきたフロイが、まさか内面からの破壊をしてきたのだ。

「それと同時に、サッカー協会の信用は落ちて、スポンサー制度は無くなって、今後のFFIも日本FFも、中止になるって…」

 スポンサー制度が無くなる。それに、明日人は複雑な感情があった。もしかしたら、サッカーギャンブルが無かったら__?

「まぁ…当然だよな…」

「そもそも、逮捕されなかったのがおかしかったよなぁ。戦争に関わってるってのに」

 氷浦も剛陣も、サッカー協会の職員の逮捕には、何も感じていないようだ。むしろ、当然だと思っていたようだ。

 その頃、一星は目を瞑って、フロイのことを考えていた。

「…俺、少しフロイと話をしてきます」

「い、一星!?」

 そして、何かを決心した一星は、急いで宿所を飛び出し、ハーツアンロックをして空を飛び立った。

 

 

 

「フロイ!」

 すると、ロシアの海岸でとぼとぼと歩いているフロイを見つけ、一星はハーツアンロックを解いて近づく。

「…ヒカル。あのニュースを見たんだね」

「あぁ…お前、よく出来たな…」

「ははっ、ちょっとオリオン財団の力を使って、ね?」

 いつもの笑い方に、一星は複雑な気持ちになる。元に戻って嬉しい反面、どこか苦しんでいるような表情にも見えたのだ。

「…だけど、これでサッカー協会の信用は地に落ちて、ユースティティアの天使を倒してサッカーを取り戻したとしても、前みたいに楽しいサッカーは出来なくなるかもしれない」

 そう…サッカーで経済を活性化させていた世界は、サッカー関連の経済が暴落し、多額の損害を受けることになるだろう。もしかしたら、多くのサッカー部が廃部になるかもしれないし、今までのように気軽にサッカーができなくなるかもしれない。

「お前は、それで良かったのか」

「……これでいいんだよ。ヒカル。彼らにとっては、サッカーを経済に利用しては行けないっていう教訓にも出来たわけだしね。少しは、償えたかな。ヒカルも、アストも」

 …また、あいつはいつものように笑う。

 苦しいって思わないのか。

 辛いって思わないのか。

「馬鹿野郎…俺はッ! お前に兄ちゃんの償いをして欲しくてサッカーをさせてるんじゃないッッ!! 過ぎたことはもういいだろ!? 償いとか、そういうのは本当はどうでもいいんじゃないのか!?」

「ヒカル…」

「なんで辛いって言わないんだよ! 苦しいって思わないのかよ! なんでそういつも笑ってられるんだよ!」

「…………」

 息を切らしながら、一星はフロイに言いたいことをぶつけた。それが、フロイに届いていたかは知らない。ただ、言いたいことは終わった。

「……明日、ユースティティアとの試合がある。俺は、お前と一緒に戦いたい。だけど、このまま戦わせる訳には行かない」

「それってどういう意味?」

「これだ」

 そう一星は、フロイにロケットを投げる。それをフロイは両手で受け止める。

「償うためのサッカーなんて、楽しくないだろ。もしフロイが、本当の意味でサッカーをしたくて、ユースティティアからサッカーを取り戻したいと思ったなら、これを身につけてスタジアムに来い。場所は…また連絡する」

「……わかった」

「待ってるからな」

 フロイに言いたい事は終わった。

 あとは、フロイ自身が決めることだ。

 かつての自分は、仲間に償うことをやめた。

 あの時の、富士の樹海で見た、凛と咲いた花を思い出しながら、一星は宿所へと歩く。

 

 

 どうか、贖罪の理由を。

 僕に教えてください。(彼に伝えてください。)

 

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  • 明日人と月夜
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