サッカー協会は、今までサッカーギャンブルという形で世界中の戦争をコントロールしていた。勿論例外はあるし、それが全てではないのかもしれない。だが、もしそれがなかったら、世界はどうなっていたのだろうか。皆が、みんな、楽しいサッカーをしていたのだろうか。明日人が東京に来たのも、スポンサー制度のせいで、伊那国島サッカー部が廃部になったことが理由だ。そして、スポンサー制度も、サッカー協会が考えたもの。それなら、サッカー協会のやってきたことは許せないことだ。
そして今、サッカー協会はフロイの手によって、その信用を地に落とした。その手が本当によかったのか、よくなかったのか____。
一星にはわからなかった。
だけど、これだけはわかっていることがある。
一星は、フロイに贖罪のサッカーなどやってほしくはないということだ。誰に対してなのかは、だいたい予想がついている。自分と、イリーナと、フロイの父親、そしてそれによって被害を被った世界にだ。無謀すぎる。だけど、フロイにはこれが最良の手だったのだろう。だが、一星はフロイに、償う為のサッカーなどやってほしくなかった。FFI、過去にあった出来事(充の記憶だが)では、フロイは本当にサッカーを楽しんでいるように見えた。だが、今となってはサッカーギャンブルという存在を知って、絶望し、償いの念を感じるようになってしまった。
それは、自分も同じ。最初から最後までオリオン財団に利用されていたことを知って、絶望した。皮肉にもそれが
閑話休題。かつての自分も、自分が作った充の人格がしてきたことに、償いの念を感じていた。だけどそれは、明日人だけじゃなく、多くの仲間たちに囲まれて、自分のしてきたことを許してくれて、償いなんてしなくていいと言われたような暖かさを感じたからこそ償いをやめた。だからフロイにも、かつて償いなんてしなくていいよと言われたように、償いなんてやめてほしかった。イリーナも、フロイの父親も、おそらく償いなんて求めていないはずだ。少なくとも自分は。
だけど…フロイにはきっと、知りたくもない、わかりたくもない事実なのだろう。
仲間でさえも、自分のことを裏切るんじゃないかと。
それは、確かに
いや、フロイの場合は家族すらも信じられなくて、自分よりも孤独に生きているかもしれない。そう考えると、無理に信じろなんて言えなかった。
『キャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!』
説得したって、きっとフロイは信じない。そう思って、一星は宿所に戻ろうとした。だが、海岸のすぐ隣にあるビル街から、女性の甲高い悲鳴と男性の苦しそうな叫び声が聞こえたのだ。突然のことに、一星とフロイはビル街の方を向いた。
「な、なんだ!?」
耳に響くほどの爆発音と、大勢の叫び声の混ざったビル街は、もはやまるで地獄におちた囚人たちのようだった。
「フロイ!?」
思わず息も凍るほどの光景に、フロイはビル街とその足で走っていってしまった。それを、一星は慌てて追いかける。
「やっぱり、ティティたちの仕業だったんだね」
街についたフロイの目の先には、街で暴れるティティの姿があり、ロシアの警察と軍が退治に追われていた。しかし、人の技術力に天界の兵士であるティティには効かず、歯が立たなかった。
「どうする? まさか戦うわけじゃ…」
「…このまま放っておくわけにはいかないだろ?」
フロイの存在に気づいたティティだったが、それはフロイの回し蹴りで吹き飛ばされる。それを見て一星は、しょうがないなとため息をついた。
***
一星とフロイが、二人がかりでティティの処理をしながら街の人の非難を完了させている中、その向こうではユースティティアからの突然の試合宣言があったのだ。突然の試合に、明日人たちは困惑しつつも、ロシアの首都モスクワスタジアムに着いた。
「一星! 聞こえるか!?」
『おかけになられました電話番号は、現在電源が切れているか…』
「どうだった?」
「駄目だ野坂、繋がらない」
明日人は一星に、試合が始まることを報告しようとしたが、電話は電源が切れているのか、繋がらなかった。
「一体、どこに…」
「野坂くん危ない!」
野坂が一星の今いる場所がどこなのか、心当たりがないかを考えていると、杏奈が切羽詰まった表情で野坂を押し倒したのだ。野坂が突然のことに驚いていると、その直後に桃色のビームがベンチのすぐ隣、つまり野坂が今いたところに直撃し、爆発を起こしたのだ。杏奈が野坂を押し倒していなければ、野坂は、確実にレーザーに直撃していただろう。
「野坂、杏奈、大丈夫か!?」
「はい、杏奈さんが身を挺して守ってくれたおかげで、怪我はありませんよ、円堂さん」
「杏奈さん!」
「大丈夫です、夏美さん」
杏奈の手をとりながら、野坂は立ち上がってユニホームについたほこりを払う。だが、そうなれば誰があのビームを出したのかという疑問が浮かび上がった。
「一体、誰があのレーザーを…」
突然のビームに取り乱しかけたアフロディが、皆に疑問を口にする。すると、可愛らしい少女の声で、聞き覚えのある声が聞こえた。
「あれ? 居たの?」
その声の正体はメリーで、杖の代わりに大きなハサミを持ちながら、妖精のような羽で空を飛んでいた。
「危ないじゃないか!」
「もう少しで怪我するとことだったぞ!」
「ごめんね、わかんなかったわ」
文句(当然だが)の言う風丸と剛陣をあしらうと、メリーは突然顔を曇らせて明日人に話しかける。
「…ミラお姉様から聞いたわ。一刻も早く、救済をしなきゃ、手遅れになるって…」
「メリー…」
先日、スタジアムで見たメリーの儚げで悲しそうな目に、明日人は心動かされる。泣くことなんてないと思っていたメリーが、明日人の為に泣いたあの日。確かに自分の故郷は__と明日人が口に出そうとしたが、それは遮られる。
「稲森に近づくな」
メリーの目的が明日人を救済することだと思ったのか、豪炎寺と水神矢、鬼道が明日人の前に立って、明日人を守ろうとする。
「救済がどんなものか知らないけど、そうやすやすと明日人を渡してたまるか!」
「あと、サッカーも取り戻す!」
氷浦の次に夜舞が前に立つと、メリーは焦り始めたのか、額に汗をかいた。
「……明日人」
「メリー、今はよせ。どの道あの者に稲森明日人の過去の話しても、わかってはもらえない」
怯むメリーの背中をさするレンは、明日人を守る者達を睨みつけながら言い放つ。
明日人を救済したいという思いだけで。
「いいか。稲森明日人は、この忌々しい世界に存在してはならぬ生き物だ」
「えっ」
突然、レンに己の存在を否定され、明日人は冷や汗をかく。
「望まぬ誕生、恵まれぬ待遇。それによって失われる命と尊厳。命は、我々が助けの手を差し伸べることでなんとかなるが、失われた尊厳は二度と戻らない。だからこそ、我々天使は稲森明日人のような、周囲の欲望を満たすだけの為に生まれた人間を救済しているのだ! 」
レンは怒声を張り上げたかと思えば、いきなり稲森明日人という人間の存在を否定され、明日人本人は思考が停止してしまった。
「…レン」
「明日人くん!」
突然のことに頭は正常に考えられなり、それに連鎖するように明日人は地面に膝を着いてしまった。
「気にしちゃダメだよ! 明日人くんは、私たちのキャプテンなんだから!」
「大丈夫かい、キャプテン…」
夜舞が明日人を心配していると、同じように吹雪も明日人の前にしゃがむ。
「今日は休んだ方がいいよ。試合は、僕達で何とかするから」
「でも…」
明日人に気遣い、吹雪は今回の試合は休むようにと提案する。しかし、サッカーを取り戻したいという気持ちが強い明日人は、差し伸べられたその手を握ることなどできなかった。
「今は俺たちを信じやがれ。馬鹿キャプテン」
「灰崎…」
するとそこに、灰崎が入ってきた。
「ま、いつだってこのゴッドストライカー様のハーツアンロックがあるからなぁ」
「だから、まずは休みやがれ」
灰崎、ヒロト、そして皆に励まされ、明日人は嬉しくなる。
「皆、こう言っているんだ。お前は安心しろ」
***
『皆さん、お待たせいたしました! これよりラストプロテクターの存続と、ロシアの運命を握った、ユースティティアとの一戦が開催されます!』
緊迫とした雰囲気で、試合が始まろうとしている。観客席の各地から、ラストプロテクターを応援する声が聞こえ、これが存続をかけた戦いなのだと強く意識させる。
「メリー…この試合に私達が勝てば、ラストプロテクター・アースは解散。私達が有利になる。そうなれば、世界を統治することも容易いだろう。だから、この試合には絶対に勝つぞ」
「うん…」
レンがメリーに、仮に自分達が勝ったときの予定を立てる。捕らぬ狸の皮算用だとしても、この試合に勝たなくてはならなかったのだが、メリーはいつまでも暗い顔をしている。レンは長い間メリーを見てきたが、こんな風に様子がおかしくなることなんてなかった。こういうとき、エレンが居ればこんな様子のおかしいメリーの対処の仕方を知っているのだろうが、今のエレンは、どこにいるのかでさえもわからない。明日人たちに真実を伝えてから、一切連絡がとれていないのだ。
『ユースティティア、どうやらティティを使わないようですが…おっとここで、ラストプロテクターのスタメンが決定されました!』
実況は、ラストプロテクターのスタメンを観客たちに伝える。
GKはラストプロテクターの守護神にして、今回のキャプテンの円堂守。
DFは疾風の風丸。ミラクルな坂野上。雪の王子の吹雪。
MFは今回初出場となる不動。ゲームメイカーの鬼道。どのポジションもいける夜舞。皇帝の野坂。神の名を持つアフロディ。
FWは炎のストライカー豪炎寺。そして、ゴッドストライカーのヒロトだ。
「…どうしたものか」
メリーに聞こえぬようにため息をついて、レンはメリーの手を握ってフィールドに立つ。おそらく、メリーがなぜこんな風になっているのかはわかっていた。『明日人』のことだ。明日人のことは、レンも知っている。出会ったことは
『試合開始です!』
試合開始のホイッスルがレンの耳にうるさく響く。耳障りで、考えるのを邪魔してくる。レンは、しっかりしろと言っているかのように、メリーの左手を握っていた右手を離し、ラストプロテクターの方に走る。
「皆、頑張れ!」
一方で、明日人はフィールドで活躍できない分、ベンチから応援をしている。サッカーこそ、彼にとっての光だ。明日人の過去は、知っている。メリーのことも心配なため、レンは一刻も早く終わらせたかった。
「…すぐに終わらそう」
レンが数枚人形代を持つと、天使の紫色の翼で空を飛んだ。
「必殺タクティクス、呪詛・丑ノ刻参リ!」
黒く染まった人形代を自分の周りに設置し、タクティクスの準備を進める。人形代が生贄のように消えると、レンの後ろにグラウンドを包み込むほどの大きさを持った、白い着物に頭にロウソクを三本着けた、長髪の女性が現れる。その女性は、さも愚かに戦うラストプロテクターを嘲笑いながら、センターサークルの中心に、女性の手の長さに合った五寸釘を突き刺す。
「__!?」
最初はなんのつもりかわからなかった円堂達。だが、五寸釘が刺されてすぐのこと、思わず飛び上がるほどの激しい痛みが、円堂達を襲う。
「な、なんだ!?」
「体が…」
十分に立っていられなくなるほどに痛む頭に、夜舞はぺたんと地面に膝をつける。
『これは一体どういうことでしょう! ユースティティアの天使が必殺タクティクスを発動した途端、ラストプロテクターが具合を悪そうにしています!』
「ッ…なんだよこのタクティクス…」
「気もちをしっかり持つんだ。あれは、僕たちが今まで見てきたタクティクスとは違うよ。ヒロトくん」
これまで、多くの必殺タクティクスを見てきた彼らだったが、ここまで相手に直接的なダメージを与えてくるタクティクスは見たことがなかった。なお、グリッドオメガもその例外ではない。
『しかしラストプロテクター、立ち上がりました!』
痛み頭に手を当てながら、野坂、豪炎寺、鬼道と、立ち上がる。それをみて、明日人たちは安心そうにする。
「なんとしても、この勝負には勝つ! ヒロト!」
豪炎寺はゴールへと突き進もうとするレクイエムからボールを守備し、ヒロトにパスを回す。
「いくぞ叶え蛇!」
ヒロトが蛇の怪異の名を呼ぶと、叶え蛇は大蛇としてフィールドの地面を這うと、ヒロトはその背中に乗る。
「スペクトルフォーメーション・ハーツアンロック、リライズ!」
ヒロトが叫ぶと、叶え蛇は大蛇から無数の蛇となってヒロトの周りを包み、ユニホームから姿を変えていく。
『ビックバン・エクスプロージョン!』
デバイスとしてグングニルを取り出し、ボールから一ミリの間違いもなく中心を貫く。あれから折谷からするようにと言われた剣道も、練習の合間にしてきた為、間違いなくそれによる特訓でシュートの強化もされているはずだ。決めてやる。
その時だった。
『恨ミ、聞き届ケタリ___』
レンが召喚した女性がゴールの前に現れ、その両手でシュートを挟み込んだのだ。その間に、DFとして入っていたレンが、翼で前線へと低い位置で飛行する。
「__まさか!? 戻るんだ!」
野坂はレンとあの女性の行動の意図を読みとり、皆に下がるようにと指示する。だが、野坂の判断は残酷にも遅く、女性は挟み込んでいたシュートを、ラストプロテクターのゴールへと跳ね返してきたのだ! そのシュートはそのままビッグバン・エクスプロージョンの威力のままに、そして飛空していたレンのすぐ隣に入る。
『邪念ありし人形代の陰陽玉!!』
シュートが目に入ると、レンは大量の札を持って、陰陽玉と一緒にボールを蹴りだしたのだ!
「ハーツアンロック、リラ___」
白と黒の人形代と、陰陽玉たちが円堂に襲いかかる。自分達も、あれだけ特訓をしてきたんだ。ユースティティアに勝って、倒して、サッカーを取り戻すんだって。
…あれ? サッカーは、世界の経済を操りたいとオリオン財団が思うくらいに価値のある道具だ。でも、自分は経済なんて関係なく、サッカーがしたい。でも、それが戦争に使われている? 戦争は何も残らないはずなのに、それでお金を稼いでいる人もいるし、むしろ戦争を、望んでいる人も居る。
そんな思考が、ハーツアンロックをしようとしているときに脳裏に流れた。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁああああああああああああ!!」
その時だった。負の感情を力に変えるハーツアンロックは、円堂の心の中にある、サッカーに対する失望、絶望を感じ取り、その絶望を最大限に力に変える為に、円堂の体を蝕んでいく。体が引き裂かれる。絶望という闇に心が呑み込まれそうになる。それを示唆させるように、円堂は観客席に響くくらいの大声の悲鳴をあげていた。
「円堂!」
「円堂さん!」
円堂がこれまで悲痛な叫びをすることは、これまで前代未聞の形でいたため、その場にいる明日人たちが青ざめていた。
「…やはり、絶望しているのね…」
それを観客席から聞いている世界選抜も、同じように驚いていた。外から見れば、円堂から紫色のオーラが溢れだしているのだから。それを見て、リ・ユーは己が感じていたことを口にした。
「どういうことだ?」
「皆も、エレンの話を聞いたでしょう。サッカーが、ギャンブルによって戦争に使われているって。かつて円堂守は、本当にサッカーを楽しんでいたわ。でも、それが打ち砕かれてしまったの」
隣にいたアルトゥールが、どういうことかとユーに問う。するとユーは、エレンの話と円堂守の心情から、なぜ彼が絶望しているのかを読み取った。
「円堂…お前はそんなに、サッカーに思いを…」
「円堂! 負けるな!」
一之瀬、土門は元雷門中で戦っていたことがあったため、円堂がどれだけサッカーに対する情熱があったのかは知っていた。それが、裏返しとして絶望しているのなら___。
「…ゴッド・ヴァジュラあああああああああああああああ!」
心が闇に呑み込まれそうになるのを、円堂は腹から声を出すことによって闇を逃がす。それと同時に、両手を前に出す。それで、レンのシュートを止めようとしたのだ。だが、止めてはならない。天使に全て任せればいい。と囁いてくる。そして____。
『ゴール!! 先制点はユースティティアです!』
ゴールを許してしまった。囁きによるものなのか、それとも相手のシュートの威力が強いのか、それはわからなかった。だが、円堂は地面に膝と手をつき、四つん這いになりながら細かく息を吐いた。汗が地面に染みて、消える。それを、円堂は真っ青な顔と目で見ていた。
「円堂、大丈夫か!?」
風丸が円堂の異変に真っ青な顔をしながら、円堂の背中をさする。しかし、円堂は言葉も発せられないほどに疲労困憊しており、肩で息をしていた。
一方その頃___
「ヒカル、こっちは終わったよ!」
「あぁ、こっちも終わった。だけど、長いこと待たせちゃったな…早くいかないと」
一星たちは、ティティ達の処理を終わらせていた。ティティの名残でもある灰は、風と共に消えていく。そして一星は、明日人からの不在着信、メッセージでやっと、モスクワスタジアムで試合が行われていることを知った。一星が急いでスタジアムに向かおうとすると、フロイが後ろから声をかけた。
「…ヒカルは、仲間を信じているんだね」
「え、いきなりどうしたんだよ」
「多分、ヒカルが今こうして、ティティの処理を行っていたのも、仲間を信じていたからなんだよね。皆が自分の代わりに戦ってくれてるから、自分はここにいられる。アスト達なら勝てるかもってさ」
フロイは、一星がティティの処理を行っていた理由を言葉にする。改めて思ったが、羨ましかった。こうして仲間を信じられることが。
「なぁ…フロイはさも俺が最初から皆のことを信じていたかのように話しているけど、俺だって最初は皆のことなんて信じてなかったさ」
「えっ…」
「一星充から、
「……………」
「そこまで、疑心暗鬼にならなくてもいいんじゃないかってさ。お前が、なんで皆のことを信じられなくなったのかは、詳しくは知らない。だけどさ、俺わかったんだ。信じることは、そこまで難しくないんだって」
フロイは、心底驚いたような顔をしていた。一星光が、彼らに酷いことをしてきたのは知っていた。だけど、今もなお自分を恨んでいるかもしれない相手を、どうしてそこまで信じることができるのかがわからなかった。
「でもヒカル、もしかしたら皆、ヒカルのことを恨んでいるかも」
「うん、恨まれていると思う。俺は今も、そしてこれからも、知らない誰かに恨まれる人生だよ。だけど、それを恐れちゃダメなんだよ。フロイ、きついことを言うけど、償いなんかしたって、どの道お前は誰かから恨まれる。もちろん、お前の償いによって救われる人はいるかもしれない。ならさ、誰かから恨まれることなんて、そこまで辛くないんじゃないかな?」
「…ヒカルは、強いんだね」
それに比べて、自分は弱い。信じていた母親と父親に裏切られて、いつかは皆が自分のことを裏切るかもしれないって被害妄想して、本当に情けない。
「ねぇ、ヒカルは僕の行動を、正しいと思っているのかい?」
「…さぁな。俺が決めることじゃない。おそらく、お前の行動で救われる人、恨みを感じる人で、半々だろうな。でも、お前がそれでいいってなら、いいんじゃないのか?」
「そっか…じゃあ」
「だけど、償いはもうこれっきしにしろ。誰だって、俺だって、明日人くんだって、お前にオリオン財団が犯した罪の尻拭いをして欲しいわけじゃない。今は罪の精算するためにする行動(償い)よりも、お前が本当にしたいこと(行動)をしろよ!」
「___!!」
自分の、本当にしたいこと。サッカー協会を潰したい? ユースティティアを倒したい?
いや、違う。違うんだ。
本当は、サッカーがしたい。
「ヒカル、僕は…サッカーがしたい!」
「…いえたな。よし、じゃあ行くぞ!」
一星に腕を突然引っ張られ、フロイは驚く。スタジアムへと、フロイたちは走る。
***
「(大丈夫だ…ここまでずっと、俺は頑張ってきたじゃないか! だから、絶対にいける!)」
円堂は頬を両手で叩く。円堂は、このまま今の試合において、戦うことにした。鬼道から、西蔭や砂木沼と変わった方がいいと言われたが、円堂はそれを了承しなかった。片意地に思われるかもしれなかったが、それでもよかった。なぜなら、今回の試合で、ハーツアンロックが完成しそうな雰囲気がするから。
「ゴッドノウズ・インパクト!」
「マキシマムサーカス、V3!」
円堂がゴールを守っている中、鬼道たちはまずは一点を取り返そうとした。だが、シュートを撃っても、ユースティティア側に設置されたタクティクスのせいで、威力を弱められてしまうのだ。そして、解散のプレッシャーもあった。これでは、一点を取り返すことも出来ない。
「埒があかないね…」
「なんとかしてあのタクティクスを破らねぇと…」
アフロディはフィールドの周りを見る。あのタクティクスが、スタジアムの仕掛けによって作動しているわけではない。とだけわかった。となると、何か別のものがあるのだろうか。そう確信する。
「あのタクティクス…何か臭うね…」
「そうなの? 野坂」
試合を見ていた野坂は、ユースティティアの出すタクティクスに違和感を抱いていた。ただ、ベンチにいるのがもどかしいが。
「多分、野坂はこう言いたいんだと思う。従来のタクティクスは、いわば選手たちによる戦術だ。だけど、あのタクティクスは、レンの…呪術みたいなので出来ている。そう言いたいんじゃないかな」
「うん、タツヤくんのいう通りだよ」
「けどさ、呪術っていっても、だいたいは嘘だろ」
野坂がそうだとタツヤに話すと、そこにアツヤが口をはさんでくる。確かにアツヤの言い分も確かだが、偽物かどうかの証拠も無い。
「まぁまぁミナサン、あの天使たちのタクティクスは、いわば永続トラップです。必ず、それを解除できる何かがあるはずですよ」
趙監督は、今度はスマホで遊べるカードゲームをしており、そこでデッキ構築をしていた。そこに永続魔法を入れようかどうかを迷っているところだった。ベルナルドはもはや呆れて言葉も出なかった。
しかし、その間にも試合は難航していた。ユースティティアが現状有利な状態の中、夜舞は未完成のあの技を使うことにした。
「こうなったら…!」
一星もおらず、ヒロトのハーツアンロックも鬼道たちのシュートも効かない。ならば、まだつぼみの状態でありながらも、美しく、可憐で、見るだけで惹かれてしまいそうで、『どんな技でも打ち破る秘術』を使うしかない。
「…夜に舞う血筋の秘術」
仲間からボールを貰うと、夜舞は両手を横に広げる。すると、夜舞の周りに五つの色をした、お経のような書風の呪文が書かれた六芒星の魔法陣が現れる。その魔法陣は、それぞれ赤、青、緑、黄色、紫に染まっている。
「その力の五つ…今ここで使う!」
ボールを魔法で手に触れないギリギリに保ちながら空に掲げると、ボールは五つに分離し、それぞれの魔法陣に取り込まれる。すると、魔法陣が次第に縮小して消えたかと思えば、それは、スタジアムの外側から、魔法は始まっていた。光の花びらが各地から集まり、それはフィールドを包むくらいの睡蓮となり、それはユースティティアのゴールへと、その柱頭を向けている。
『ファイブフォース・エレメンツフラワー!』
夜舞が右手を前に突き出すと、睡蓮の柱頭から光が集まり始める____と、思いきや。
「___!?」
光が失いはじめ、睡蓮は色味を無くし、それは三角形の形を作りながらガラスのように割れた。降ってくるガラスのような花びらに、全員が頭を守った。ボールもまた灰となって風に流された。しかし、その破片の一つは中心に転がり、地面に刺さっている巨大な五寸釘が一瞬だけ見えた。
『な…なんと綺麗なシュート技…で、ですが、これは未完成だとのことです! おっと、ここで前半終了です!』
試合の前半が終わり、彼らは体力の回復の為に、スポーツドリンクを飲んでいた。今の点は0-1。ユースティティアの天使の方が有利だ。あと2点。あと2点欲しいところだ。
「夜舞、あの技、なんだったんだ?」
夜舞の出した、あの技が気になり、明日人は声をかける。
「あの技? 明日人くん、あれは夜舞家に継承されし大技。同じものはなくて、それぞれ違ってて、なおかつ、かなり強い技だって聞いた。まだ完成していないけどね…。でも、ユースティティアとこれからも戦うんだったら、完成させたいなって」
夜舞は、あの技が夜舞家に伝わる大技だということを話した。
「そうなんだ…」
明日人は夜舞の大技に、相槌をうつ。
「………こんな世界のために戦って楽しいの…?」
その時、あまり試合で目立っていなかった。むしろ、らしくもなく、暗い顔をしているメリーが、明日人たちに問いかけてきたのだ。
「えっ…」
「貴方達が救おうとしている世界には、悪い人がいっぱいいる。その人たちは、私達を倒した時、少しの間だけ、貴方達に感謝の念を述べる。だけど、それもすぐに終わる。また、いつものように、悪いことをするわ」
明日人たちが困惑する隙も与えないまま、メリーは話す。
「よせ、メリー」
レンが喋ろうとするメリーを止めようとする。だが、レンの言葉にメリーは耳を傾けない。
「いい人よりも沢山いる悪い人のために、私たちと戦うの? そう…貴方たちは、悪い人に洗脳されている。ユースティティアの天使を倒せば、いつも通りの日常が送れるなんていう建前を立てて、向こうの国では悪い人たちがサッカーで戦争を起こしている。私たちを倒すということは───生まれたばかりの赤ん坊を、笑顔で首を絞めて殺すようなものよ!」
嗚咽を漏らしながら、メリーは八つ当たりなのか、明日人の首を絞める。灰崎たちが驚愕している間にも、メリーは明日人の首を絞めながら持ち上げる。
「貴方も、貴方たちも、みーんなみんな悪い人たちに利用されているのよ? それに気づかないまま踊らされて…あぁ、可哀想だわ! 世界を救う英雄が、こんなに愚かで強欲な大人たちに洗脳されているんだから!」
まともじゃないほどに口元を歪ませているメリー。それは、狂気としか言えなかった。灰崎たちは明日人の首からメリーの手を引き剥がそうとするが、メリーの手はまるで岩を握る潰すほどの握力でもあるのか、簡単に引き剥がすことは出来なかった。
「ねぇ明日人。なんで救済を受けないの? 受けた方が、楽になれるのに…愚かな大人たちに束縛されるのは、もう嫌でしょ? だったら、今すぐ試合を棄権して、私に着いてきて。大丈夫。お父様はきっと、貴方のことを思って、色んな手を尽くしてくれるわ。ねぇ…私と貴方は、お友達なんだから、ねぇ」
涙が頬を伝りながらも、メリーの口元は笑っている。
「やめろ!」
その瞬間だった。青い風が走り、メリーの手から明日人を引き剥がした。メリーは、突然のことに表情が動いていない。
「あ…れ?」
「明日人くん! 大丈夫!」
息を整えている中、何者かに名前を呼ばれ、明日人は目を開ける。そこには、ハーツアンロックをした一星で、その隣にはフロイも居る。
「一星! フロイ!?」
「よかった…無事だね、アスト」
フロイは、明日人が無事だということに、胸をなでおろした。
「……あ、すと。なんで」
それを見て、メリーはまた、表情を曇らせた。
***
『さぁ、ここで一星とフロイが到着しました! 不動とアフロディに変わり、一星とフロイが入ります!』
後半戦が始まり、一星とフロイは、フィールドに立った。
本来なら、ここでメリーはヒカルに会えたことを喜び、いつものメリーに戻る筈なのだが、今日は今日で、メリーはその表情を晴らすことはなかった。
『おっと! ここでポジションチェンジ! DFのレンとFWのメリーとが入れ替わります!』
ユースティティアも、ポジションを入れ替えたようで、円堂達は警戒する。しかし、その警戒はすぐに的中し、メリーはすぐに走り出した。
「…なんで…なんでなんで」
涙をこぼしながら、メリーはレンの静止も聞かずに走る。ボールをドリブルして、相手を突き飛ばして、走る。
「なんで貴方達は、私達に全部任せないの!? 世界を救うのは、私たちなのに!」
子供のように駄々をこねながら、メリーは首から下げていたエンジェルクロスを空に掲げる。
「変身!」
メリーの、涙を流しながらの変身は、まるで悲しき戦姫だ。エンジェルクロスは、巨大なハサミと杖と融合した、白の長い柄と頂点の涙型ダイヤに、桃色の翼が生えている杖に生まれ変わり、服装もクロスハートをしたものになる。
「全てを浄化せし暗黒の亀裂…今こそここに、この世の全ての悪を消滅せよ!」
メリーが杖を横に振ると、振るった残像から亀裂が現れ、中には宇宙のような星々が写っている。
『ピュアラーケイシャン・アナザーディメンション!』
すると、亀裂から大量の針が降り注いだ。針が刺さった地面は草が消えており、本当に浄化するつもりだと円堂は確信する。
「(ここで決めないと…確実に!)」
足を踏み込み、メリーのシュートを見据える。メリーは、自分達ラストプロテクターが、世界を救うことを望んでいない、もしくは自分達では世界を救えることはできないと言っているのだろうか。そんな感じがする。ならば____。それを、受け止めてあげなければ。
「ハーツアンロック! リライズ!」
しかし、それを実行するのは難しい。言葉を唱えた時、円堂の頭に稲妻でも降ってきたような痛みと、心が闇に飲み込まれそうになる。
「うぐぅううううううう!!!」
歯を食いしばり、足を踏み込んで、耐える。闇に飲み込まれるな。俺には、仲間がいる。
「…俺がしたいのは…みんながみんなが、楽しくできるサッカーだ…」
別に、自分達は世界を救うために戦っているわけではない。サッカーを、取り戻すためだ。
「俺は、サッカーを取り戻すためにッ! こうしてここにいる! だから…ゴールは俺が守るんだあああああああああああああああああ!!」
円堂が、己の想いを叫んだその時だ。背中から淡い虹色のグラデーションがかかったマントが現れると同時に、円堂が光に包まれた。
「…えっ…」
メリーは、目の前の光景に目を奪われた。なんと円堂は、メリーのシュートを右手一つで止めたのだ。右手には、肩まで届きそうな白い指ぬき手袋。足にはニーハイブーツ。パンプキンパンツの上に、例の柔道服を着ていた。そして、腰から黄色の馬の尾のような物が現れ、円堂の髪も茶色からオレンジに染まり、横髪と後ろ髪が伸びた。
「…メリー。俺は、ただ純粋にサッカーがしていたい。それは、この世界に居る人、皆そうだ」
両手でボールを抱えると、観客席が歓声に包まれた。
『止めましたー!! 円堂ここに来てハーツアンロックの完成と、スペクトルフォーメーションの完了です!』
円堂が、止められたことにホッとしていると、脳内に声が聞こえた。
『…ようやく見つけたな。お前の使命が』
「お前は?」
『私は颯馬。怪異の王、神威様に使える身です。この数日、貴方の行動を見守らせていただきました。貴方に見せた謎の夢も、私がここに来るということを知らせるためのものでした」
円堂は、声の主に誰なのかと尋ねる。すると、声の主は颯馬と名乗った。漢字からして、恐らく馬の怪異なのだろう。
「そっか…颯馬。俺に力を貸してくれるか?」
『はい。元々、貴方に使えるようにと、神威様から命じられていましたから』
「…よし! 反撃だ!」
颯馬と話し終えた円堂は、右手と左手を合わせ、己の士気を鼓舞した。ここからが、反撃だ。
この小説の中でどのコンビが好きですか?
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明日人とエレン
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不知火と月夜
-
エレンとレン
-
エレンとメリー
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エレンとミラ
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不知火とベルナルド
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明日人と月夜