イナズマイレブン テミスの正義   作:暁月の太陽

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実質ベルナルド編。
子供達はあんま出番ないよ。


第37話 強き人間

「ほっほっほ、おはよう」

 奏多がホテルの食堂に向かうと、そこには明日人達が集まって、食事を楽しんでいた。あれから彼らは観光を楽しんだだろうか。と考えながら、奏多はとりあえず朝のバイキング料理をトレーに乗せて、明日人たちの席に座る。

「奏多さん! おはようございます! 今日も修行頑張りましょう!」

「ほっほっほ、子供は元気でいいのぉ」

 明日人が挨拶したのに対し、奏多はほっほっほと笑う。まるで子供が好きなおじいちゃんみたいだ、と思われそうだ。いや、思わせている。奏多は、自分には何も害がないことを子供たちに示している。そうベルナルドは感じていた。

「夜舞奏多…」

 まさか、ユースティティアの天使よりも恐ろしい敵(大袈裟だが)が、こんなすぐ近くにいるとは。まるで実感が湧かない。

「ベルナルド。奏多くんの言うことには、半分本当で半分嘘を言っているかもしれない。もしかしたら、本当は敵かもしれないし、敵じゃないかもしれない。まるで嘘が服を着て歩いてるようなものだね」

 折谷はそう、主食とおかずのバランスの取れた食事を口にする。それに対して趙金雲は、肉ばかりのバランスの悪いメニューだ。少しは折谷を見習って欲しいものだ。なんて考えてみる。

「とにかく折谷。あいつには警戒した方がいいだろう。それに、あいつを見ていると、怖いんだ。体が突然裂けて、中から化け物が出て、ここにいる全員を食らうんじゃないかって」

「へぇ、怖いという感情にしては随分具体的だけど、君も怖いと思うことがあるんだね」

「……まぁ、あいつは妖怪とか、幽霊とかの形を成していないから、その分タチが悪い」

「同じ人間だけど、怖い。そうかな?」

「あぁ」

 あいつには底知れぬ恐怖と、未開拓の真実がある。ましてや、子供たちを味方につけることで、私たちが疑っても自分が不利になることはない。子どもたちが自分を庇ってくれるからだ。

「おお、何か楽しそうなことをしているのぅ」

 折谷とベルナルドが話していると、ベルナルドの耳元で囁かれた。くすぐったい声と恐怖に思わず勢いよく立ち上がってしまった。周りの視線が痛いが、気にしてない。

「…なんだ。奏多」

「何も用はないが、お主らが楽しそうに会話しとるから、なんの話しをしているのか気になっただけじゃよ? 悪いかのぅ」

 怖い。さっきまで明日人たちと喋った時の、裏表のない笑顔が嘘のようだ。扇子で口を隠し、目を細めながら見つめている。気がつけば子供たちがいない。朝食を食べて、特訓しに行ったと考えれば妥当だろうが、奏多がいるとなると、奏多がわざわざ自分たちと会話をするために、誘導したように見えて仕方ない。

 子供には聞けない、大人たちの会話をするために。

「奏多くん。君は一体何者なんですかねぇ」

「おや趙金雲。残念ながら、儂が何者であるかなんて、とっくに捨てたのじゃ。強いてあるものといえば、名前と、この体だけじゃよ」

 趙金雲がさりげなく奏多に、何者であるかを訊ねた。もし奏多がユースティティアの天使なのならば、とベルナルドは考えたが、奏多は逆に、この世を悟った人間のような返答をした。

「正義も真実も嘘も、形を持たなければただの言葉。人が魂だけでは生きられないのと同じで、死が近づくということは、持ち合わせていた体が劣化して、そこに収まることが出来なくなったからじゃよ。それは先程の三つの言葉もそう。言葉の意味、もしくは言葉こそが体であるというのに、人々はさらに言葉に体と、意味という服を着せようとしている。だから、技術が高まっても、人が概念を解明できることはないんじゃよ」

「それってつまり、僕たちがその言葉に服を着せようとしている人々、ということなのかい?」

 奏多の長文をすぐに理解し、それに見合った返答をする折谷。

「ほっほっほ、別にそんなことは言っとらんぞ。まぁ、戦争なんてみんなこんなもんじゃろ。お互い自分が正しいと思い込んどるからな」

 戦争。その言葉を聞いて、ベルナルドは昨夜奏多がやった行動のことを思い出していた。あれは、自害を意味している。

 そして、奏多は死ななかった。

 だとしても、もしこれから天使たちと人間との戦争になったらどうするのだろうか。子供たちの家族は? 子供たちが戦い続けるメンタルは?

 それに、まだ死というのを理解していない中学生たちに、死を選ばせるというのか。

 俺は。

 

 ***

 

 五色の睡蓮の花が、桜の花が木から零れ落ちるように散っていく。そして、ガラスのように砕け散っていった。幸いそこまで鋭くないのか、夜舞の体に傷がつくようなことはなかった。夜舞は手の平の人差し指と中指を揃えて伸ばし、腕を前にしていた。足を開き、もう片方の手で力を込めていた。

 夜舞はバンコクの日の光当たる森の中で一人修行をしていた。夜舞にとっては、自然のある森の方がファイブフォースを完成出来るのではないかと考えていた。自分の叔父が空間を操る力を持つのなら、自分だって、と思い始めていたが、中々上手くいかず、体力だけが減っていく。

「………疲れた。森の中ならきっと使いこなせるかなと思ったけど…」

 十一月の上旬とはいえ、そろそろインナーとタイツ無しでは寒さを乗り越えられないという時期になりかけている。しかし、技を使いすぎたのか、夜舞の額、体全体は大量に汗をかいており、下に来ていた黒いインナーとタイツを脱いで、ユニホーム一枚だけになっていた。

「仕方ない。皆のところに戻ろう…」

 脱ぎ捨てた衣類を持って、森の出入口へと向かう。公共の施設でもある森を抜けたところで、夜舞は付近を歩いていた不知火と出会った。

「不知火さん!?」

「月夜ちゃん…! ロシアぶり、かな?」

「そうですね」

 不知火は今流行りの柄の入ったマイバックを両手、いや四つほど持って歩いていたらしい。買い物帰りなのだろうか。

「ところで月夜ちゃんはこの森で何をしていたのかな?」

「あぁ、ちょっと必殺技の修行をしていたんです。森の中ならと思っていましたけど、ダメでしたね」

 森の中でのことを話しながら、夜舞は含み笑いで駄目だったということを柔らかく表現する。

「そうなんだ。努力家なんだね月夜ちゃんは」

「いえ、努力家なのはラストプロテクターの皆さんもです。皆、サッカーを取り戻そうと頑張っていますよ!」

「ははは。一時は解散の危機だって騒がれてたのに、強いんだね」

 ちょうど進行方向が同じだし、君たちの練習場所までお付き合いしようかな。と不知火は、夜舞の案内で明日人たちの練習場所まで行くことになった。

「へぇ、ここが月夜ちゃんたちがやってる練習なんだね」

 タイの人達からどうぞ使ってくださいと借りたグラウンドで、明日人たちは練習に勤しんでいるところを、不知火はグラウンドの外から見つめる。

「はい。では、私も練習に戻りますね」

「うん、頑張ってくるんだよ」

 まるで父親のように、練習に行く夜舞を見送る不知火。その不知火のサングラスで隠された瞳は、夜舞を切なげに見つめていた。

「……夜舞?」

 ウキウキと明日人たちの元に行く夜舞を見て、ベルナルドは修行に行っていたのでは無いのか? と怪しんだ。ベルナルドは何があったのだと知りたくなり、夜舞が走って行った道を戻ることにした。するとそこには、明日人たちの練習を見つめていた不知火がいた。

「…師匠?」

 不知火を見て、ベルナルドは昔の思い出が不知火の姿と共に思い出された。まだ不知火の髪が腰まで伸びておらず、まだ肩くらいにしかなかった昔のことだ。

 ある時ベルナルドは、不知火に連れられてサッカーの練習風景を見ていたのだ。その時の不知火の、切なげで儚そうな微笑みが、今も頭の中に残っている。

「あぁ、ベルナルド…だっけか。久しぶりだね」

「……あぁ」

 いつになったらこの人の記憶は戻るのだろうか。そう思いながら、ベルナルドは不知火の横に座る。

「知っているかな。サッカー協会が無くなったこと」

「…ああ。この前聞いた」

 趙金雲から、と。

「これから建て直すのはかなり厳しいと思うよ。だって、人々の中でサッカー協会は戦争を引き起こす狂人たちの集まり…なんていう噂が立っているからね。多くのサッカー部を廃部にしていったスポンサー制度は無くなったけど、その代わり、FFとFFIは延期。これは不幸か幸か…」

「……だが、サッカー協会のせいで、被害を受けた者達は沢山いる。現に、明日人もその一人だ」

 ベルナルドは、遠くからサッカーの練習をしている明日人を見つめる。その緑色の瞳の中には、どんな思いを秘めているのだろうか。緑の森が燃えるような、炎でも宿っているのだろうか。

 ……もし、明日人がサッカー協会に対する復讐心があったとしたら、俺はそれを尊重すべきだろうか?

 否定、するべきだろうか?

「……確かに、明日人くんだけじゃない、多くの人たちが、被害を受けた。悲しい目に、辛い目にあった。彼ら、ラストプロテクターの中にも、そういう人がいるかもしれない。だけど、それは本当にサッカー協会“だけ“の問題なのかな。ユースティティアが世界を支配している中、サッカー協会なんて、ただの障害のひとつに過ぎない。天使との戦いと、世界中で起こっていた戦争。どちらが今、解決すべき問題なのかな。それに、彼らは何も思ってないさ。ただ、サッカー協会という障害を乗り越えただけ。彼らに復讐心がないように、サッカー協会に対する思いも何もないと思うよ。私は」

 不知火はベルナルドにそう話す。何も思っちゃいない。だが、ベルナルドにはそうは思えなかった。きっと、誰もが心の中で炎という想いを持っている。

 現に自分も、母親が憎かった。

 閑話休題。悲しみと苦しみという水をかけられて、灯火になりかけている火も。復讐心という薪で、今にも復讐したいという山火事を起こしている焱も、彼らにはきっとある。

 思っていない。

 なんてことなんてない。

「もし君が、彼らの思いを尊重したいというなら…君は、犯罪者になるしかない。大人になるというのは、そういうことだよ」

 不知火の声が聞こえない。いつも間にか体育座りで、膝に顔を埋めていた。ただ、足音で、不知火が向こうに行ったことがわかった。

 趙金雲から無理やり監督にさせられたものの、監督として、大人として、子供たちの想いは尊重したかった。ユースティティアを倒して、サッカーを取り戻すという想いにも、暖かく受け止めてあげるつもりだった。だが、その想いをどこまで受け止めてあげればいいのだろうか。何せ子供たちの想いは強い。そして、固い。大人たちの言うことなんて聞かないで、自分勝手に行動する。それが子供だということを、趙金雲から聞いた。

 でも、それを押さえ込んでは、逆効果だ。だから、あの二人は子供たちを利用するという表向きの行動で、子供たちの思いを押し込んでいたのだろうか。まぁ、それを奏多には悟られてしまったが。

「ベルナルド?」

 考えに考えて、胸が傷んでいると、横から声が聞こえてきた。折谷だ。心配そうにベルナルドと同じようにしゃがんで、自分を見つめている。

「あ、あぁ…」

「また、無理してるんじゃないだろうね?」

 ベルナルドは、以前無理をしすぎて倒れたことがあった。慣れてなかったというのもあったが、それを折谷に話したところで、聞いてはもらえないだろう。

「…なぁ折谷。もし子供たちがサッカー協会に復讐したいと思っているのなら、私はそれを否定するか、尊重するか、どっちを選べばいいんだろうな」

 顔を上げ、折谷の方を向いて質問した。折谷は鳩が豆鉄砲を打たれたような顔をしていたが、すぐに戻し、返答する。

「…君の好きなようにすればいいとは思うよ。僕は、君という監督の元で動くしかない。だから、僕がどうこう言う筋合いはないよ。ただ、確かに難しい質問だね。そもそも子供たちが復讐したいと考えているのかすら怪しいし、それとユースティティアを倒したいという思いで、押しつぶされている子もいるかもしれない。実際に聞いてみないと、わからないことだよ」

「そうか…」

「まぁ、考えても仕方ないよ。これは子どもたちに聞いてみるしかない。ところで今ベンチでお茶会を開いているけど、君もおじゃまするかい?」

「…あぁ」

 なんでベンチでお茶会開いているのかがベルナルドにはよくわからなかったが、ちょうど子供たちも休憩の時間となっているし、ちょうどいいかとベルナルドは思った。

 

 ***

 

 ベルナルドがベンチに赴くと、折りたたみテーブルの上にタイ名物のお菓子と、タイ特有のショートケーキと紅茶が置かれてあった。趙金雲曰くタイの人達から貰ったもので、子供たちの分もあるらしい。そのため、子供たちはベンチの近くでケーキを食べている。皆辛い練習後に大好きなケーキを食べられるということで、嬉しそうに頬張っている。

「ほっほっほ。全員集合じゃな。ところでベルナルド、お茶飲むかの」

 お茶会を提案した奏多は、ベルナルドを空いている席に座らせ、お茶をマグカップに注いだ。

 奏多曰く、休憩と昼食と同時に、自分達と話がしたくて、このお茶会を開いたらしい。さすがに子供たちの前なら、突然頭を撃ったり、変なことは言わないとは思うが。

「………」

 注がれた自分の紅茶の鏡を見て、ベルナルドは決心がついた。

「…明日人。君たちは、サッカー協会に復讐したいと思っているのか?」

 ベルナルドの呼び掛けに、先程まで楽しそうに会話をしていた明日人の顔が変わった。それもそうだ、とベルナルドは思っていた。突然「復讐したいか」なんて言われても、仕方ないだろう。

「え、どうしたんですか? ベルナルド監督」

「いや、単純にお前たちは復讐したいのかと」

 キャプテンである明日人は、しもどもどろに言葉を並べると、少し落ち着いたのか、言葉を発することができた。

「……今はユースティティアの天使を倒すべき、ですし、サッカー協会のことは、今の俺達には関係がないと思っています…」

 関係がない? そんなわけはないはず。

 この前不知火から明日人を保護するという話を聞かされた際に、明日人の素性を調べてみた。島というのもあって、秘匿されていた部分も多いが、その中で、明日人はサッカー協会の作り上げたスポンサー制度で、一度サッカー部が廃部に追い込まれていたという事実を目にした。

 おそらく、彼の心の中では、きっと。

「確かに、サッカー協会は色んなことをしてきました。確かに、俺たちにも関係があるかもしれません。だけど、今は自分たちがやりたいことをしたいです」

「ハーツアンロックの能力も、天使たちを倒すために使いたいしな」

 タツヤも、ヒロトも明日人と同じように、復讐はしないと言う。

「兄さん、どうしたの? なんだか、元気がないけど…」

「フロイ、お前はどうしたい。サッカー協会に復讐したい。というのなら、俺はそれを尊重したいと思う」

「ちょ、ちょっとどうしたの兄さん! 僕は別にサッカー協会に復讐したいだなんて思ってないよ! 僕が許せなかったのは、楽しいサッカーをギャンブルに利用したサッカー協会の一部の人たちが、許せなかったわけで…」

 フロイに、復讐したいかをベルナルドが訪ねるも、フロイは驚いたような表情で復讐がしたくない、そして何があったのかと驚いているのみだった。

「……………………」

 皆がベルナルドの発言に驚いていて、ベンチはもう収集がつかなくなっていた。それを見ていた奏多は、目を細めながら静かに扇子を閉じる。

「ベルナルド」

 明日人たちの空気を切り裂くような重い声に、明日人たちはすぐに口を閉じる。そして、ベルナルドに向き合う奏多を見つめる。

「少し用がある」

「……なんだ」

 ベルナルドは、奏多を睨んだ。細い眼から、青と青のレーザーが見えそうだ。

「すぐ終わる。趙金雲よ、ベルナルドを我が仙界に連れていく。よいか」

「構いませんよ」

 趙金雲の許可も得られたところで、奏多は扇子を振り下ろし、空間と空間の間を切り裂いて、ひし形の穴を作り出す。その穴の向こうは、応接室のような質素な部屋。

「行くぞベルナルド」

 

 

 

 恐ろしくも不気味な人間に、神隠しのように仙界という空間に連れていかれたというのもあって、ベルナルドの警戒は朝食後でも途絶えることはなかった。奏多に向かい合うようにして椅子に座り、足を組んで肘をテーブルに立てる。

「少し用があるといっても、簡単なことじゃ。今のお主は、見るに耐えられん」

「どういうことだ」

「そういうところじゃよ。ベルナルド、お主何があった。突然復讐したいのかと子供たちに問いかけるわ、復讐に関して尊重するとか、何を言っておる」

 何もない。と言ったところで、[[rb:こいつ > 奏多]]にはおみとおしだろう。

「俺は、もし子供たちが復讐したいと思うのなら、俺はそれに協力する。何が悪い」

「お主、サッカー協会に特に恨みもないくせに、復讐を考えとるのか? よいか、復讐というのは、いわゆる自分以外の当事者、つまり相手に何かされたことへの仕返しじゃよ。お主、サッカー協会に何かされたか?」

「何もされてない。だが、サッカー協会は多くの人を傷つけた。明日人だけじゃない、世界中の人たちが、戦争で家族を失って、辛い目にあった」

「変な正義感のナイフをチラつかせるのぅ、お主は。もう前書きをダラダラ言うのは飽きた。単刀直入に言う!」

 奏多が突然立ち上がる。

「お前にはなんの力もない! 群れることしか己を安心できない独りよがりで己の正義と慈愛だけで仲間を誘ってそれを尊重だと主張する、ただのガキだ!」

 突然怒鳴り出す奏多に、ベルナルドの耳と頭には全然奏多の内容が入ってこなかった。むしろ、奏多にも怒ることがあるのかと感心していた。そこがガキだと言いたいのだろうかは知らないが。

「……俺はただ、子供たちを愛しているだけだ。子供たちの願いを叶えるのが、大人だ。そのためなら、犯罪者にでもなってやる」

「……はぁ。変な勘違いしているようで悪いが、お前は監督だ。子供たちを指導する立場だ。保護者ではあるが親ではない。かつてのフローンレンス・ナイチンゲールぶるのはやめろ。確かにサッカー協会のせいで親を失った子供たちは多い。だが今やるべきことはなんだ。ユースティティアの天使を倒し、世界を救うためだろう。本当に子供たちを愛しているなら、今目の前でお前の帰りを待っている子供たちを守れ! それが監督だろう!」

 奏多はそう言い終えると、息を吐きながら席に再び座った。

「……まぁ、要するに目的を失うなということじゃよ…。悪かったの、いきなり怒って。お主を観ておると、昔の自分を見ているようなんじゃよ」

「昔のお前か…?」

「あぁ、いつからこんなふうになったのかは分からないが、昔の儂は世界中を旅する人間だった。そんでの、サッカー協会が起こした戦争によって、親を大量に失った、子供たちだけの村を見つけたんじゃよ。それで、お主と同じことを考えておったわい。子供たちを引き連れて、復讐しようってな。だが、よく良く考えれば馬鹿だったわい。子供たちにはなんの力もないのに、復讐に協力させようだなんて、自分は神にでもなったのかと思ったわい。ほっほっほ」

「…その、お前のことを悪く言ってしまったな。すまなかった」

「ん? 儂はお前に何も言われておらんぞ?」

 あぁ、やはりこいつはこういう奴だと、改めてベルナルドは実感した。

 

 ***

 

 右手に持った包丁を引くと、トマトが赤い汁を溢れさせながらヘタが奏多の手によって切られる。

「そうか…お主にもそのような過去があったとはの」

「あぁ」

「そういうところが、お主の母親に似たんじゃろうな。誰かを守れて、誰かを救うことが出来るなら、自分は何度だって自分を殺せる___。その前に、お主自身が救われないといかんじゃろうがとは思うがの」

 千切りにされたトマトは、ゆであがったパスタの上にかけられた、ミートソースの上に乗せられる。

 ベルナルドと奏多たちは、先ほどの応接室とは違った内装のキッチンに居た。食材がどこから来るのかはわからないが、奏多曰く、仙人のご飯のかすみから作っているらしい。

 本当に奏多は仙人じゃないかと疑いたくなったが、ベルナルドはどうせ言っても奏多は人間じゃ人間じゃというだけだと思っており、諦めていた。

 その時だった。

 

「…いいかベルナルド。お前はもう一人ではない。私のように、孤独ではないのだ…」

 

 まるで自分にしか聞かせないように、奏多が火を消した瞬間だった。奏多は、いつもの口調とはうって変わって、寂しそうにベルナルドに呟いた。

「奏多…?」

「さ、ベルナルド。子供達に食事を届けるぞ」

 さきほどの寂しそうな表情は、幻だったのか?

 と疑いたくなるほど、奏多はすぐに表情を戻し、何事もなかったかのようにベルナルドに笑顔を向ける。

 

 

 

『『いただきまーす!!』』

 明日人たちが手を合わせて、ベルナルドと奏多が作った昼食をいただくときの挨拶をする。それを、大人たちは暖かく見守る。

「…ベルナルドよ。怪異達がなぜ子供達を選んだのかがわかったわい。怪異達は、子供達を兵士のように戦場に狩り立たせるのではなく、儂ら大人たちには持っておらぬオーラを感じて、子供達を選んだんじゃろうな…。儂らはもう、子供には戻れん。だからこそ、こうして子供達を見守らなければならないのじゃろう。未来の、ために」

「…そう、だな」

 珍しく、奏多の意見に同意することが出来た。

 それだけ。

 それだけでも。

 二人には大きな成長だろう。

 

 

 




 はい、ベルナルド編終わりです。
 これはどちらかというと、スピンオフみたいなものですね…。
 そもそも一話しかない(前回のも含めてだが)時点で、『編』とひとくくりにしていいんでしょうかね。

 正直、今回と前回の為に、書いてあった奏多さんの設定を改めて設定しなおしたんですが、なんだか仙人っぽくなってしまいました。本当なら、もうちょっと夜舞家みたいなフランクな性格だったんですが、フランク&不気味が混ざったような、人間であるからこそ、妖怪以上の化物みたいな、そんなキャラに仕上がりました。

 さて、今回と前回。
 日常回って言っていたのに、シリアス全開。
 息抜き、したいですね。(しろよ)

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  • 明日人と月夜
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