イナズマイレブン テミスの正義   作:暁月の太陽

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第三十九話 歌を唄う少女 前編

 今より昔のことだ。

『さぁ、こちらにおいでくださいまし』

 虹色の翼を四枚持つ天使は、目の前の少年に手を伸ばす。とても美しい光景だが、少年の近くには大量の人や虫などの死体やら死骸やらが転がっており、少年も血塗られた布の服を身に纏っている。

 少年は目の前の天使に向かって、能力を発動した。だけど、目の前の天使にはその能力は通じないことを知って、少年は後ずさりする。

『ご安心を、大丈夫ですわ。私は貴方を取って食べたりしませんの』

 後ずさりする少年の手の平を、優しく包み込んで、天使はにっこりとほほ笑んでみせる。少年は目の前の天使の言葉に不信感を抱きながらも、天使の手のひらを握り返した。

[newpage]

「ねぇ、二人は超能力ってほしくない?」

 病院から帰ってきた一星たち一年生は、いつものように宿所の食堂で課題をしていた。一星は必死に、提出日前に課題を終わらせようとペンを走らせている。一方で灰崎はとっくに課題を終わらせており、茜をスマホでメッセージを送りあっていた。その一方で、一星と同じように紙にペンを走らせていた坂野上が、突然二人に言い出したのだ。

「超能力……? もしかして課題を楽に終わらすため?」

 一星はとっくに、敵はユースティティアの天使ではなく、タイに行っても追ってくる課題なのではないかと錯乱していたため、坂野上の思わずほんわかとするような発言はとてもありがたい。なのだが……一星にとっては、坂野上が課題を早く終わらせたいという願望から、さっきの話をしてきたのだと考えていた。話をする前の坂野上の様子からして、相当課題の問題に頭を悩ませていたから。

「ま、まぁ、そういうことになっちゃうのかな。この空気だと……でもさ、欲しくない? 心を読んだり、物を浮かせたり、楽しそうじゃん!」

 しかし、課題を早く終わらせるためではなく、純粋に超能力が欲しいと考える坂野上に、一星はとりあえず坂野上の話に付き合うことにした。休憩もかねて。

「……まぁ、心を読む能力は要らないかなぁ……。空は飛んでみたいけど」

 超能力の話をする坂野上に、一星はこの能力が欲しいなという返事をする。心を読む能力は、そういう能力を手にしたらみたいな動画を練習の休憩間際に見ていたので、要らないと思ったのだ。知りたくもない心を読んで、また心を閉ざしたくはないので。

「でも超能力は手にしたら楽しそうだよね。野坂さんによれば、サイコキネシスの他に、テレポーテーション、透視、物体の取り寄せ、サイコメトリーとかもあるみたい」

「うんうん! 凄いよね!」

 坂野上は一星が提示する超能力の種類の用語に、一切質問することなく話を進める。

「ところで、なんで超能力の話に……? やっぱり課題が」

「そんなことないよ!」

 変な疑惑(?)を着せられそうになるため、坂野上は急いでこの話をした理由についてを話した。確かに課題は辛いが、超能力を利用して課題の答えを丸写ししようとかは考えてないことを説明する。

「前に剛陣さんが、ブラジル代表の拳法を超能力だと言っていたことがあってさ。それを課題中に思い出して、二人なら欲しいかなーってさ」

 確かにそういうこともあったなぁ……と一星はFFIの頃を振り返る。ここ最近ユースティティアの天使のことや、サッカー協会のことで忙しかったため、そんなことを思い出している暇がなかったのだ。坂野上の話を聞いて、改めて昔のことを思い出すきっかけになればいいかなと一星は思った。

「……いや、どう考えても超能力よりやばいのがここに一人いるだろ」

 その時だ。茜との対話を終えた灰崎が、突然一星を指さした。灰崎は超能力になんか興味ないだろうと一星たちは考えていたため、灰崎が話の内容に入ってくることに、二人は予想もしていなかった。

「あ、確かにそうだね…」

 灰崎が言っているのは、おそらくハーツアンロックとスペクトルフォーメーションを併せ持つ一星のことを話しているのだろうと、坂野上は考える。

「空は飛べる」

「確かに」

「なんか武器出せる」

「そう考えると一星くんの言っていた物体取り寄せみたいだね…」

「足は速い」

「確かに……ってそれ超能力関係ないよね!?」

 足が速くなるは関係ないんじゃないかと坂野上は思っていたが、灰崎はそうは思っていない様子で、すぐにそっぽを向いていた。その一方で、一星は嬉しような恥ずかしいような笑みで二人の会話を聞いていた。

「でも、超能力もハーツアンロックも」

「人のために使う」

「つーことは確かだな」

 超能力とハーツアンロック。種類は違えど強大な力を持つ能力の話になったので、三人は紙の力を持つハーツアンロックのルールに書いている、最初の一行、「人の為に使う」という文章を復唱していた。ハーツアンロックが闇の力だということを知った円堂達が創りあげたルールの草案は、その後監督たちの手によって追記修正され、今はラストプロテクターの中で、心得として存在していた。

「そういえば灰崎くん。灰崎くんなら、どんなハーツアンロックが欲しい?」

 ハーツアンロックの話になったのと相まって、一星は灰崎にハーツアンロックの話を振った。

「……俺か?」

「うん、でも言いたくないようだったら…」

 言った後に一星は、適合率1%の灰崎に言うことではなかったと後悔するも、言ってしまったものは仕方ないと、何とか灰崎を励ます言葉を言おうとする。

「俺は…」

 しかしその前に、灰崎は言葉にする。

「このままでもいい」

 えっ? と二人が言っている間に、灰崎は道具と課題を片付け始める。

「ハーツアンロックが手に入れられないんだったら、俺は俺だけの力であいつらを倒す。それだけだ」

 じゃあな。とだけ言って、道具を手に持った灰崎は赤いマフラーを靡かせながら、食堂を出る。

「……灰崎くん」

 それを、ぽかんと見つめる一星と坂野上。

「なんか、灰崎くんじゃないみたい…」

 一星は、今の灰崎の行動と以前の灰崎の行動を比べて、どう考えても違い過ぎると疑っていた。

「そうだよね…最近、灰崎くん大人しいっていうか、あまり怒らないよね…」

 一星が思っていたことと同じく、坂野上も、灰崎のことを考えていた。

 以前の灰崎は、少し感情的なところはあっても、しっかりと理念を持っている男だ。それなのに、今はどういうわけか理性的だ。成長した……と捉えることだって出来そうだが、二人にそんなことは出来なかった。

「うん…野坂さんがつまらなさそうしてた」

「いや、それはどういう…?」

「でも、四ヶ月前の灰崎くんと今の灰崎くん、まるで[[rb:別人 > ・・]]みたいだよね…あんまり苛立ってないし、ヒロトさんとも上手くやってるそうですし」

 ヒロトの名前が一星から出てきて、坂野上は一つの疑問が思い浮かぶ。

「え? いつの間にヒロトさんと仲良くなったの?」

「ハーツアンロックを会得してから、ちょこちょこだよ」

 一星の説明を聞いて、坂野上はハーツアンロックを最初に習得した二人だから、親近感が湧くのかなと考える。

「でも、多分これは茜さんいるからだよね…」

「まぁ…幼なじみの前で怒れないもんね」

 一星と坂野上は、最近灰崎が大人しいという疑問について、結論が出そうになりかけていた時のことだった。一星の頭に、何かがよぎったのだ。

「……ちょっと待って。灰崎くん、幼なじみの茜さんがマネージャーになった時も普通に野坂さんに対して怒ってたような…?」

「え? そういえば確かに…」

 一星の言葉によって、坂野上は最初にユースティティアの天使に勝って、パーティを行ったときのことを思い出していた。あの時の灰崎はまだマフラーをしておらず、野坂に茜のことをからかわれて怒っていた。

「それに、茜さんが編んだマフラーをしてから、なんだか灰崎くん、人格が変わったように大人しくなったよね…!?」

「うん…!!」

「え、じゃあなんだろ…マフラーパワー?」

「一星くんの口からそんな言葉が出るとは思わなかったけど……よくわかんないよー!!」

 灰崎が最近大人しいという問題については、中々答えが出ず、坂野上は頭を抱えた。

[newpage]

 坂野上たちと課題を終わらせた次の日。灰崎はなんとか課題を終わらせ、練習にそのことを響かせることは無くなったのだが、他の学校とは違って難しい課題に取り組んだことへの疲れからか、今日は誰かと一緒に食べようという気になれなかったのだ。

 そして、今日はやっとの晴天日だ。どうやら雨がしばらく続くという予報は外れたらしい。

 あの時は髪を切る事すら考えてなくて、すっかり伸びてしまった灰色の髪をまた耳にかけようとしたところ、自分の前の席に幼馴染みの茜が座ってきた。

「えへへ、来ちゃった」

「お、おう…」

 まるでテレビのドラマで見た、恋人が言うような言葉に灰崎は変なことを想像して、顔を少し赤らめる。

「朝食はベルナルド監督と奏多さんが作ってくれたから、今日はお休み。ほら、大谷さんも、神門さんも」

 茜から朝食のことを聞くと、彼女は向こうに指をさした。人に向けて指をさすことを咎めようかと灰崎は思ったが、確かに大谷と杏奈は、それぞれの席で朝食を食べていた。久しぶりに休暇を貰えたのか、二人共表情が緩くなっている。

「そうか…お疲れ様」

 茜は灰崎の言ったことに、きょとんと首をかしげた。そんなこと、灰崎は今まで言わなかったのに。

「どうしたの凌兵。いつもはそんなこと言わないのに」

「いや、今日はそういう気分だったんだよ」

 ふーん、という茜。灰崎はその場をしのげたかに思え。水を飲んだ。

「……凌兵は」

 だが。

「好きな人いるの?」

 その瞬間、水が気道に詰まって、酸素が欲しいと体が訴えかけてきた。茜から貰ったマフラーを汚さぬよう、そしてなおかつあまりに気づかれないように水を吐きだそうとした。だが、思ったより気道に水が詰まっていたのか、大声でむせてしまった。

「ゲボっゴボッ!!」

 苦しそうにむせる灰崎の声に、食堂はたちまち席を立ち上がる音で響いた。

「ど、どうしたんだ灰崎?」

「大丈夫ですか!?」

 円堂は当然のこと、色んな人が灰崎を見ている。見られるということに気づいた灰崎は、誰かに見られるという羞恥に耐えながら顔を上げる。するとそこには、茜が困った表情で自分を見つめていた。

「えっと、ごめんね……そういうつもりじゃなくて……」

「いや、どういうつもりだ?」

 灰崎は思わず冷静に答えてしまった。

「なんていうか、最近の、凌兵は、上の空っていうか、なんていうか……」

 説明をする度に、声を出す度に茜は、顔は赤くなり口調はどもったりするので、灰崎は本当にどういうつもりで茜が話しかけてきたのかがわからず、困惑してしまう。

「……ごめん! ちょっと聞いてみただけ!」

 すると、茜は顔を抑えて食堂を飛び出していってしまった。

「お、おい茜!」

 突然茜が食堂を飛び出すため、灰崎はただポカンと茜が出ていったドアを見つめていた。

「茜ちゃん!」

「宮野さん!」

 大谷たち女子も、茜を追いかけて食堂を出ていったしまったため、食堂には男性しかいなくなってしまった。

「………あ、なんだよお前ら」

 妙に周りの視線が痛いことに気づいた灰崎は、明日人たちの方に顔を向ける。

「灰崎、茜さん、どうしちゃったの?」

 明日人はどうしたのかと不安げに灰崎に話しかける。

「あぁ、なんか俺に好きな人は居んのかって聞いてきたんだよ。そんで、いきなり出ていっちまった」

「灰崎に好きな人……?」

 明日人は確かに、灰崎の気持ちがわかったような気がした。突然好きな人は居るのかと聞かれても、なんて答えればいいかわからなくなるし、そりゃあむせてしまうだろう。 

「……茜さんじゃないの?」

 しかし、明日人は灰崎が改めて水を飲んだところで、灰崎が水を吹き出す程のことを言ったのだ。おそらく、本当に何気なく言ってしまったのだろうが、さすがに直球過ぎるのではないか? という声も寄せられた。

「げほっ! ちょ、おま明日人ォ!」

 

 

 

「……良かった、いつもの凌兵だ…」

 茜は遠くに行った振りをして、食堂の前で灰崎の会話を聞いていたのだ。そして、いつもの灰崎だと安堵した。

「……なんで、あんなこと聞いちゃったんだろう……」

 茜は、灰崎に好きな人はいるのかと尋ねてしまったことに、なんでだろうと自分を疑った。灰崎の好きな人なんて、幼なじみの自分には関係ないことなのに___。

「それよりも……大谷さん達に心配かけちゃったな……」

 今でも、大谷たちは茜を探しているに違いない。ひとまず大谷に連絡を入れることにした。

[newpage]

「今日は、それぞれポジションに分かれて、各自で特訓を行ってもらう」

 朝食を終えた明日人たちは、宿舎の屋内グラウンドでベルナルド監督からの指示を仰いでいた。

「FWのリーダーは豪炎寺、MFのリーダーは鬼道、DFは風丸、GKは円堂だ」

『はい!』

「以上。無理のないようにな」

「んじゃ、儂らは儂らで、大人たちだけのお茶会でもするとしようかのぅ」

 ベルナルドはそれぞれのポジションのリーダーを決めたあと、奏多に連れられてベンチに戻った。明日人たちにとっては奏多の言うお茶会が何なのかは分からなかったが、(大人たちだけのお茶会なのだから)ひとまずは練習に打ち込むことにする。

「よし! 特訓だ!」

 ゴールキーパーの方は、円堂がどこからか本物のインド象を連れてきて、それを西蔭ら二人に見せている。

「灰崎とヒロトは、特に体の張ったプレーを主としているから、二人はフィジカルのトレーニング、残りは…」

「MFは主に、他のポジションをフォローする役割がある。地味そうだが、中々に大変なことだ」

 他のリーダーに選ばれた二人も、持ち味の観察眼を活かして、他の選手たちに指示を出している。

「風丸さん、これまでの試合から見て、俺達DFには体力の低さが表立っています」

「なるほど……体力をカバーしつつ、DFとしての能力も上げる。その方向で行くか」

 風丸は、星章学園のキャプテンである水神矢と共に、お互いの弱点をカバーしあいながらリーダーとしての役目を果たしていた。話し合いの結果、まずは体慣らしにランニングということになり、タイの公園を走ることになった。

「ルート的に、ルンピニー公園のランニングコースを三周してから、ベンジャシリ公園まで直線で走って、それから…」

 その道案内役にロイドが呼ばれることとなり、風丸と共にルートの確認を行っていた。

「……ん?」

 ランニングスタート地点で坂野上が伸びをしていると、どこからか歌が聞こえてきた。それも、かなり小さいながら、坂野上の耳に響いている。

「なんだろ…」

 後で怒られるのも承知の上で、坂野上は歌が聞こえる方に向かって歩いた。

 少しづつ、少しづつ聞こえるその歌は、とても聞き覚えのある歌だった。

 人気アニメのopで、cmにも度々アレンジとして使われていて、人気絶頂のアイドルの歌だ。

『哀しみを糧に、僕らは歌おう。』

 坂野上が辿り着いたのは、広場にある公園のベンチだった。ベンチの上には少女が上で歌を歌っており、それも先程の歌の歌手の顔にそっくりだった。

 いつのまにか、坂野上は歌を歌っている少女の声に、耳を澄ませていた。

 自分と少女との中に、空間を作るかのように、少女の歌声はその他の雑音を掻き消すほど、美しかった。

「柑奈さん、そろそろ…」

 その時、少女の声が止んだ。

 坂野上は少女を再び見る。すると、少女の横にはスーツを着た大人が立っていて、少し話したあと、向こうに行ってしまいそうになる。

「あ、あの!」

 坂野上が思わず呼び止めると、少女は坂野上の方を向いた。

「歌……とても良かったよ!」

 なんで呼び止めたのかは自分でもわからず、坂野上はそれらしいことを言ってその場を去った。

[newpage]

「歌を歌う女の子を見つけて、それでいつの間にかそちらに向かっていたと……」

「はい……」

 その後、坂野上は風丸から説教を受け、今はそのいなくなった理由についてを尋ねられていた。坂野上達は昼食を済ませたく、今はとある日本料理店の定食屋に到着していた。そこでは特大サイズの料理を食べたら全料理無料と書かれており、坂野上たちはそれをクリアして、(ほとんど夜舞が食べた)今はお茶などを飲んで休憩をしている。

「まぁまぁ風丸くん。多分、その子が凄く歌が上手だったんだね。僕もその子がとても歌が上手かったら、坂野上くんみたいに聞き惚れちゃうかもしれないしね」

「フォローありがとうございます吹雪さん……」

 吹雪はお茶を片手に、微笑みながら坂野上を見守っている。

「それよりいいか? 食事中になってしまうが……」

「全然大丈夫だよー」

 水神矢が心配そうに話すか話さないかを考えていると、風丸たちは快く承諾し、夜舞も箸を置いて話を聞く姿勢をとる。

「実は……度々ハーツアンロックとスペクトルフォーメーションを習得している円堂さんたちと比べたら、自分の力って大したことないんじゃないかって考えてしまってな…」

 あっ……と風丸たちも水神矢と同じように考えてしまった。風丸たちもうすうす気がついてはいたが、ハーツアンロックはすでにユースティティアに有効的な手段となりつつある。強大な力を持つ闇の力に、自分達の力なんてハーツアンロックと比べたら、たいしたことではないのではないか? というのが水神矢の意見だろう。

「……大丈夫だよ。水神矢くん」

 吹雪はひとまず、水神矢を安心させる。

「確かに俺達の力は、ハーツアンロックと比べたら微力かもしれない。だけど、比べるのはそこじゃないだろ? 比べなきゃいけないのは、過去の自分自身じゃないのか?」

「風丸先輩の言う通り、私達は、私達にしか出来ないことをやり遂げようよ。そうだ! 今日の特訓で、他の子達よりももっと強くなって、一気に差をつけちゃおうよ!」

 夜舞は特訓のためのボードを取り出し、それを水神矢に見せる。

「みんな…そうだな。少しネガティブになっていたかもしれない。ありがとう」

 風丸たちの励ましに元気を取り戻した水神矢は、口角を緩めながら風丸たちにお礼を言った。

[newpage]

「はい、はい……」

 明日人たちが特訓をしている間、宿所の監督室では、趙金雲が誰かから電話を受けていた。

「なるほど、こちらのアイドルをこちらにですかぁ。いいんですか? 確かにこちらのアイドルは、稲森君と同じ救済を言い渡された者。だとしても、結局はアイドル。こちらにアイドルのあの子がいるとなれば、追及が厳しいですよ?」

 趙金雲が忠告をするも、受話器の向こう側の人物は、断固として忠告を聞き入れず、それでも構わないとの一言だった。

 

 

 

 

 かつて____。美しき風景の集大成であったはずの島国、日本は、すっかりユースティティアの天使の植民地とかしていた。正確には植民地ではないのかもしれないが、奏多からすればどっちでも変わらないので、そういうのは頭の記憶から排除してしまおう。

 奏多はというと、ファイブフォースの応用でタイから日本に来ており、東京のシンボルである[[rb:トキオサンシャインタワー > 東京スカイツリー]]の頂上から、東京の街を見つめていた。

 一見変わり映えのしない国だが、国の雰囲気は変わった気がする。

 普通と変わったものを排除しようとする日本人特有の考えを改め、今では全てを受け入れる程の包容力に、個人個人の意見を大切にする政治制度。本当に、この国は変わってしまった。少し間違いがある昔の方が、よほど桜の風景は美しかったというのに。

「あら……日本を捨てた仙人様、でしたわよね? 今更何をしにいらっしゃいまして?」

 自分の後ろに誰かが来たことを、奏多は人間離れした五感で感じ取る。虹色の翼と、黒いドレス。この国の[[rb:女王 > ・・]]が現れた。

「この国の風景を楽しんで、何か悪いかの?」

「あらそうでしたの? なら、よくご覧になって。この国は、とても良き国に生まれ変わりましたわ」

 ミラは両手を広げ、奏多にこの国を見るように促していく。

「生気が一切感じられん国に、の間違いではないのか?」

「奏多さんは、冗談がお上手ですわね」

 ミラは扇子を広げ、口元を隠しながらほほ笑む。

「この街を一通り見てきたが、確かに人は生きている。殺してはいないようだな。だが、生気が一切感じられん。魂魄で言うところの、魂の部分が抜け落ちとる。こんなのが楽園なのか? 儂はこんな人間でなくなった化け物だらけの国、今すぐにでも壊したいくらいだな」

「それはいけませんわ。きっと貴方達の考えに、この国の人々はそれに反対するでしょう。それにしても、この国の皆さまは相当愛国心が御強い方なのですね。楽園を壊されるとなれば、きっと大勢の物たちが貴方達を倒しにいきますわよ?」

「壊してみせるさ。儂と、あの子達とで」

 

 

 

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