イナズマイレブン テミスの正義   作:暁月の太陽

4 / 49
第四話 壊す天使と無力な人間

 目の前に居る彼らは、どこにでもいる人間に見えた。

 頭、両腕、両足。多少の違いはあれど、人間であった。

 だが、その人間の正体は天使であり、地上に適するように人間の顔と形を作っていた。

 神の使いでもあり、天からの使者。

 なのだが、目的を果たすために行われる手段は、悪魔に等しい。

「怯える必要はない。私たちはお前たち人間を救いに来た。いいか、近い将来この地球は、血に塗られた戦場となる。そして全ての生物の命を枯らす砂漠とかす。この地上で一番の知識を持つ人間が、自らの知恵と力によって絶滅し、そして全ての生き物がこの世から消えるのだ」

 直毘の口から出たのは、これから近い未来、地球は大戦争の幕を開け、そして破滅を迎えるとのこと。

 確証は無かった。

 だが、氷浦の言う通り、どういう訳か蓮の言葉に惹かれていった。

 本当にこの地球は破滅するのか、と。

「だが。我々を産んでくれた神、フォルセティ様がお前達人間への思し召しとして考えてくださった、世界を破滅させぬ方法を聞き入れれば、お前達人間の支配するこの地球の破滅を免れる。その方法とは、「サッカーを捨てること」だ。勝ちたいという執着と野望を取り払うことで、人は争うことをやめる。そう、くだらぬサッカーを捨てることでな」

 そう直毘は、優しく答えた。

 天使の微笑み、とでもいうように。

 だが、その微笑みからは考えも出来ないが、蓮たち天使は昨日、伊那国島を襲った。

 還付無きままに。

「…サッカーは、くだらなくなんかないッ!!」

 蓮のいい加減すぎる言動に、円堂はこの地上が大地震を起こすくらいの大声で、自分の想いを爆発させた。

 サッカーによって多くの仲間たちと出会えた円堂からしたら、その出会いを導いてくれたサッカーを、そこまで酷く言われ、円堂の怒りは頂点に達していた。

「くだらなくなんかない? 己のチームが勝つためならば、相手や仲間すら貶めるサッカーの、何がくだらなくないんだ?」

「勝つためだけに相手を貶めるなんて、そんなのサッカーじゃない! それに、勝つためだけのサッカーなんて、楽しくないだろ!!」

「楽しい楽しくないに限らず、サッカーは人の闘気心を刺激し、争いを引き起こす。だからこそ、サッカーは捨てなければならない」

「楽しいから、サッカーを捨てたくはないんだ!! それに、俺はサッカーを通して、今の仲間に会えたんだ!! ここにいる皆も! お前達天使からすれば、サッカーは捨てなきゃいけない物なのかもしれないけど、サッカーがあったからこそ嬉しかったり悲しかったりしたことがあったんだぞ!? それを、簡単に争いを引き起こすって言って決めつけていいのか!?」

「それは人間の間違った考え方だ。そんなもので嬉しさや悲しみがあってたまるか」

 しかしそれでも、蓮は円堂のサッカーに対する熱い意志を、棘のように冷たく返す。

 だが、円堂の渾身を込めた思いは、仲間たちに強く響いた。

「…そうだ…俺は、円堂に助っ人として誘われたあの日から、今もこうしている」

 風丸が自身の重い体を持ち上げ、立ち上がる。

「それに、皆さんが居てくれたから、兄ちゃんも…俺も救われた」

 タツヤに肩を貸す一星。

「それを、くだらないの一言で片づけていいものか…」

 動きにぎこちなさはあったものの、蓮の言葉を無視してはいけないという意志で立ち上がる豪炎寺。

 それに同調するように、他のメンバーも立ち上がった。

「…サッカーには限らず、勝つためには力を要する。その力が無ければ、誰にも勝てない。それがサッカーだ。それに…」

 竜巻によって凸凹になってしまったグラウンドを横目に見ながら、直毘は手品のように手のひらから札を一枚出した。

 メンバー全員が直毘が出した白い何かを怪しんでいる中、鬼道は一人だけ理解できた。

 あの札は、直毘が出した物なのかと。

 札で俺達を閉じ込め、そして竜巻によって全員を戦闘不能にする為に俺達の周りに降り注いだのかと。

 だが、直毘の出した札は何かの文字を刻んだ後に、青いオーラとなって直毘の右手を包んだかと思えば、直毘はその右手をグラウンドに押し当てた。

 それは、まるで大地震のようにグラウンドを揺らした。

 誰もが攻撃かと考えたが、それは直毘の手から発せられた謎のオーラによって、その考えは砕けた。

 さっきまで凸凹だったグラウンドは、竜巻など無かったかのように元に戻っていった。

「強すぎる力は、破滅を導く! だからこそ、我らはサッカーを消すッ!!」

 そして、直毘もさっきまでの温度のない声とはうって変わり力強くなった。

「お前達がサッカーを望むと同時に、我らは消去を望む! さぁ、勝負せよ!」

 サッカーを捨てることで、本当に世界が救われるのか?

 だが、そんなことは無い。と、ここにいる人間達は、思った。

 サッカーは消させない。と。

 

 ***

 

 曇天の空。今その下で、サッカーの存続をかけた戦いが始まろうとしていた。

 ニケ月ぶりのスタメン、監督、その光景に誰もが胸を躍らせていた。

 だが、ユースティティアから発せられたのは、驚くべき宣言だった。

「交代は自由、キックオフはお前たちからでいい。そして、お前達に十点差を付けて終わらすことを宣言しよう。それが出来なかった場合、もしくは私達が負けた場合は、約束通りサッカーを返そう」

 ユースティティアのユニホームに衣類を変換した蓮が、そう宣言する。

 一見、イナズマジャパンに対するハンデと思わしきそれは、明らかにユースティティア側が不利になってしまう内容だった。

 ユースティティアの敗北条件が、二つも増えたのである。

 一つは、イナズマジャパンに敗北した場合。

 二つは、イナズマジャパンに十点差を付けることが出来なかった場合。

 これらの敗北条件があってのユースティティアの勝利条件とは、『イナズマジャパンに十点差を付けて勝つ』という物だった。

 普通なら、まず出来ないだろう。前半後半合わせても最低五点入れられればの話だが、イナズマジャパンはこれでも地上最強のチーム。五点取ったとしても、イナズマジャパンに一点や二点と入れられてしまう。

 普通なら無謀とも言えるその宣言だったが、蓮にはどこか自分達が勝つという自信があったようにも見えた。

「…マジかよ…」

 イナズマジャパンのユニホームに着替えたヒロトが、あまりにこちら側が有利すぎるハンデよる困惑のあまり、思わず呟いていた。

「よし! 十点差やハンデだろうがなんだろうが、絶対勝ってサッカーを取り戻すぞ!!」

 だが、円堂は違った。ユースティティアからのハンデに惑わされず、逆にメンバーの士気を上げようとしていた。

 スタメンは以下の通りとなった。

 GK 円堂守(キャプテン)

 DF 吹雪士郎 風丸一朗太 坂野上

 MF 鬼道有人 野坂悠馬 一星光 稲森明日人

 FW 吉良ヒロト 豪炎寺修也 剛陣鉄之助

「…まずは様子見ですね…」

 趙金雲が怪しげに呟いた。

 

 ***

 

 その時、真一文字の疾風が、イナズマジャパンのゴールに突き刺さった。その音が自身の後ろに響き、風丸は息を飲んだ。

 これまで何度もその風を見てきた風丸が、その風に気づけなかったのだ。

 事は、試合開始のホイッスルが鳴った直後に遡る。

 絶対にサッカーを取り戻すという熱い意志を籠めたボールが、キックオフで豪炎寺に渡された。

 ユースティティアのスライディングやディフェンスをかわしながら、豪炎寺は前線へと走り込んだ。そしてそのボールは、豪炎寺の判断でヒロトに渡され、イナズマジャパンは先陣を切った。

「(こんな時に灰崎は何してんだよ…)」

 ドリブルのさなか、ヒロトは灰崎のことが脳裏に浮かんだ。

 だが今は試合中。ヒロトは考えるのを止め、試合に脳内を集中させた。

 しかしその時、FWである筈の蓮がヒロトの前に立ち塞がった。

 視界に蓮はそこに居たのだが、すぐに居なくなってしまった。

 なぜなら、蓮はヒロトが気づかない程の足捌きでボールを取り、ヒロトから離れたのである。

 ヒロトの視界の端で目にした蓮は、すでにシュートの体制に入っていた。

 蓮が撃ったシュートは、イナズマジャパンのゴールへと一直線に風を作り、それはドリルのように、イナズマジャパンのゴールを『貫いた』。

 誰もが、この状況を理解できていなかった。

 そして、今に至る。

 風丸の後ろでは、ボールに対処しきれず、ましてはボールが来たのかすら判断出来なかった円堂が居た。

「円堂、大丈夫か?」

「あぁ…」

 ユースティティアの、良そうだにしていなかった実力に衝撃を覚えている円堂に、風丸が声をかけた。

「すまん、俺が対処出来なかったばかりに…」

「風丸のせいじゃない」

「あぁ…だが、あいつらの実力は本物だ。円堂も気を付けろよ」

 遠くから聞こえる円堂たちの会話を聞いた一星が、野坂に問いかけた。

「…野坂さん…」

 一星からの問いに、野坂は気を飲まれぬようにと自身を叱咤しながら、答える。

「…どうやら、僕達は恐ろしい敵と、出会ってしまったようだね…」

「だが、こうなってしまったからには、もう後戻りは出来ん。一星、ジェネラルを使いたい。出来るか?」

「…はい」

 状況を把握した鬼道が、一星と野坂の連携タクティクスのザ・ジェネラルを使いたいと、野坂に声を投げた。

 今までに見たことのない選手だが、情報だけでも得たいからな。と、万が一負けた場合のことを考えながら、鬼道はそう行動に出たのだ。

 試合再開のホイッスルが鳴る。

『ザ・ジェネラル!!』

 ボールを相手に取られぬうちに、一星と野坂は、『ザ・ジェネラル』を発動した。

 一星から野坂へと、指先から放たれた光が、イナズマジャパン全員にオーラとして纏わりつく。

 すんなりと相手の情報が、頭の中に入っていく___

 筈だった。

「なっ…!!」

「情報が無い!?」

 そう、一星の分析力を使ったとしても、そこに蓮という名前の選手、そしてユースティティアの選手の情報など、無いに等しかった。

「野坂、それってどういうこと?」

「あぁ、名前以外何もわからないんだ。必殺技も、プレイも」

「つまり、生まれたての子供みたいなんですよ。何も、わからないんです」

 それじゃあ、無名のチームと戦っているのとなんな変わりないと、一星は今回の試合についてをこう感じた。

「でも、この試合には絶対勝とう! サッカーを取り戻すんだ!」

「そうだね、明日人くん」

 明日人の意気込みに一星が答えたのか、一星が今ある自身の記憶力と分析力で、精一杯の情報をイナズマジャパンに届けていた。

 それを鬼道は感じとり、感傷に浸っていた。

 だが、その中でどうしても心残りがあった。

 灰崎は何をしているのだと。

「ヒロト!」

 しかし、考えている間に敵に囲まれていることに気づいた鬼道は、ボールを上に蹴りあげた。

「あぁ! 喰らいな、このゴッドストライカーの真の力を!!」

 敵の影に居たヒロトが飛び上がると、一瞬にして辺りは宇宙となり、超新星になりかけの星が生まれる。

 それを全方向からボールをぶつけ、爆発寸前のところまで追い上げる。

「スーパーノヴァ・エクスプロージョン!!」

 一か月前のFFオータムシーズンでも見ることはなかったヒロトの新必殺技、スーパーノヴァ・エクスプロージョンが、ユースティティアのゴールへ爆発を起こしながら向かった。

 だがキーパーのカデンツァは、ヒロトの新必殺技に対して、ただ右手を突き付けた。ボールがカデンツァの右手に触れた瞬間、シュートの勢いは無くなり、地面に落ちた。

「なっ…」

「右手だけで止めただと!?」

 ヒロトの新必殺技を右手だけで止めたその瞬間、イナズマジャパン側に戦慄が走った。

 それは、ベンチに居る選手たちもそうだった。

「そんな…ヒロトの必殺技が止められるなんて…」

 ヒロトとは親しいタツヤが、焦りを感じていた。

「必殺技事態も完成している。あいつの落ち度だとは考えられん」

 独り言のように見せかけ、タツヤに返事をする。

「…こりゃ、大変なことになっちまったなぁ」

 他人事のように不動が呟いた。

「蓮!!」

 カデンツァの蹴ったボールは、大きく弧を描きながら蓮の足元に着地する。

「…悔い改めよ」

 蓮が右足を大きく振りかぶり、ボールを必殺技も無しにイナズマジャパンのゴールを蹴った。

 ただのノーマルシュートだというのに、その威力は絶大で、フィールドの地面を抉っていった。

「まさか…伊那国島のグラウンドで見たのって…」

 明日人が、伊那国島の時に見たものと同じものかと考えたが、その瞬間蓮の撃ったボールが、明日人の鳩尾に直撃する。

「うっ…!!」

「明日人くん! うわぁあ!!」

 だが、それでもボールの勢いは収まらず、地面もろともイナズマジャパン全員を吹き飛ばしていく。

 仲間を助けたいが、キーパーである以上持ち場を離れるわけにはいかず、円堂は苦悩する。

「…ダイヤモンド、ハンド!!」

 永遠の絆という石言葉を持ち、最も固い物質のダイヤモンドの手で、円堂は蓮のボールを止めようとするが。

「うわっ!!」

 ダイヤモンドがガラスの様に砕け散り、ボールはゴールのネットに突き刺さる。

 その直後に、蓮のシュートによる衝撃波で吹き飛ばされた明日人たちが、地面に叩きつけられた。

「皆! 大丈夫か!」

「ッ…僕と風丸くんと坂野上くんは無事だよ。それに、皆も風丸くんのお陰で助かったみたいだ」

「風丸さん、ありがとうございます…」

 なんと、風丸はあの時地面に叩きつけられる寸前に、蹴りで真空を発生させ、一時的なクッションを作ったことで仲間を怪我させぬようにしていたのだ。

「いや、俺は灰崎のを真似てみただけだ。だが、何とかなっ…」

「剛陣! 大丈夫か!?」

 風丸に笑みがこぼれそうになったその瞬間、豪炎寺の声が響いた。

 皆が豪炎寺の所に目を向けると、そこには仰向けに倒れたまま動かなくなっている剛陣が居た。

「どうした豪炎寺!」

「鬼道…担架を頼む。剛陣があの時のシュートで、骨折をした…」

「なんだって!?」

 剛陣が怪我をした。

 それは、FW陣が居なくなったことを示す。

 灰崎が居ない今、このチームの中にFWを任せられる者は居ない。居たとしても、ユースティティアに通用するかもわからない。

「ひ…酷い…」

 それを、イナズマジャパンのマネージャーである大谷と神門は見ていた。

「監督、なんとかならな…って、子分くん…?」

 神門が趙金雲の方を向くが、そこに監督の趙金雲は居らず、代わりに李子分が居た。

 

「…マリク、ルース。剛陣が負傷した今、FWの代わりをやれるのは僕達だけだ。行くよ」

「待ってフロイ、正門から誰かが来る」

「え…? あ…」

 フロイがイナズマジャパンのFWの代わりとして出ようとするが、ルースに止められ、言われるままに正門の方を見た。

「ねぇ杏奈ちゃん、あれって…」

 同じように、大谷は正門からグランドに向かってくる人影を見た。

 他にはない特徴的な癖毛のある、灰色の長い髪。

 それはまさしく、灰崎凌兵そのものだった。

「あれは…灰崎ではないか!」

「やっと来たのか…」

 マネージャーとベンチに座っているメンバーの声によって、先ほどまで俯いていた明日人達は顔を上げる。

「…灰崎!!」

「来てくれたのか!!」

「…来るのが遅いんだよ…」

 各それぞれの声が上がる中、灰崎はイナズマジャパンのコートに着いた。

 その瞬間灰崎は、イナズマジャパン全員にもみくちゃにされた。

 それだけ、皆灰崎が来ることを願い、そして希望に思っていたのだ。

 だが、それを見ていた蓮は、イナズマジャパンに向けて言い放った。

「残念だが、この試合でお前達が勝つことなど、無い」

[newpage]

 負傷した剛陣に変わり、灰崎がスタメンとなった。

 イナズマジャパン結成当時から居た灰崎。実力としてはまだまだだが、それでも、安心感は強い。

「そういえば、集合時間よりかなり遅いが、何かあったのか?」

「いや…別に」

 豪炎寺が、灰崎に声をかけた。

 集合時刻より遅く来たことを心配してのことだろうが、灰崎には途切れの悪い返事しか出来なかった。

「どうしたんだよ灰崎、なんだか、歯切れ悪いね」

「……」

「何かあったのか」

 明日人や鬼道の言葉に、灰崎は一瞬、戸惑うような素振りを見せた。

 試合が再開され、灰崎が来たことによってイナズマジャパンの士気が上がっているのか、いつもよりパスがきめ細かくなっていた。

 だがそれでも、蓮や他の選手にボールを取られ、シュートを決められてしまうこともあったが、それでもサッカーを取り戻すために、戦った。

 現在の得点は、5ー0。まだイナズマジャパンは、ユースティティアに一点も入れていない。

 だが、イナズマジャパンの希望として、灰崎にボールが渡る。

「決めろ、灰崎!」

 明日人が叫ぶ。

「___シャーク・ザ・ディープ!!」

 灰崎の蹴ったボールは、青紫色のサメに変わり、フィールドを海の様に進みながら、ユースティティアのゴールに向かう…筈だった。

 ボールはなんとゴールから大きく外れ、グラウンドの外へと出てしまった。

 自分達の知っている灰崎がしないミスに、明日人たちは疑問符の文字が脳に浮かび上がる。

「調子悪いね、灰崎くん」

「どうしたんだ、灰崎」

 野坂と明日人が灰崎に駆け寄る。

 それぞれ、灰崎を思っての言葉だったのだが。

「今のは…ちょっとな…」

 灰崎が続きの言葉を言葉に出すより先に、遠方から円堂の声が聞こえた。

「灰崎! 失敗は誰にだってある! 元気出せよ!!」

「……」

 その時、竜巻によって怪我をした水神矢が、ブルーシートで寝そべりながら呟いた。

「灰崎…何かを隠しているな…」

 ユースティティアのスローインで試合再開となり、イナズマジャパンは戦闘態勢を取る。

「いかせるかよ!」

「…技を出すまでも無い」

 先にボールを取ったDFのセレナーデからボールを取ろうと、ヒロトが立ち塞ぐも、先にMFのシンフォニアにパスが回ってしまう。

「止めろ! 灰崎!」

「ッ…わかってる!」

 防衛に回っていた灰崎もシンフォニアの前に立つも、切り抜けられてしまった。それも、ごく一般の選手と変わらない速さで。

 切り抜ける瞬間、シンフォニアが灰崎の耳元に囁いた。

 悪魔の様に。

「心、乱れてる」

「__!!」

 灰崎の脳裏に、ある光景が映し出される。

 それは、灰崎のプレイが乱れている理由の一つとなっていた。

 だが、それを解決できるほどの力は、今の灰崎には無い。

 意識がその映像に向けている中、ホイッスルが鳴った。

 そのホイッスルは前半終了のホイッスルなどではなく、イナズマジャパンが点を取られた時のホイッスルだった。

 ホイッスルの音で灰崎が試合に意識を戻した時にはもう遅く、蓮がイナズマジャパンのゴールにシュートを決めていた。

「…くそっ…」

「灰崎」

 思い通りにいかないプレイに、灰崎は苛立ちが溜まっていた。そこに、鬼道からの声が響き、灰崎の意識が外側に向く。

「先ほどのお前のプレイを見て分かったことがある。今のお前にはサッカーをやれん。試合には降りて貰おう」

「なっ!?」

『ええ!?』

 鬼道から告知された、灰崎をこの試合から降ろすという宣言。

 それは、灰崎にこの試合は任せられないのと言っているようなものだ。

「鬼道! いくらなんでもそれはないだろ!」

 鬼道のやり方に、円堂が否定する。

 確かに乱れてはいるけど、それだけで降ろすなんて酷いじゃないかと、円堂は思ったのだ。

「円堂、見て分からないのか。今の灰崎のプレイを。それに……」

 だが鬼道は怯まなかった。

 むしろさっきより、口調が鋭くなっているような気もしてきた。

「何があった。正直に答えないのであれば…お前を試合から降ろす」

 鬼道には、鬼道なりの考えがあったのだ。

 試合の参加を利用し、灰崎に今のプレイに何か関する物を引き出そうとしているのだ。

「さぁ答えないか」

 正直に話すか、試合を降りるか。

 選ばせてやるから自分で決めろと。鬼道は言っているのだ。

「………………………」

 灰崎による、長い沈黙。

 その時間の中には、話すか降りるかと、迷っているのだろうか。

 だが、灰崎が出した答えはこれだった。

「……話さねぇ」

 何があったのかを話さなかった。

「……そうか」

 それだけを聞くと、鬼道は何も聞かずその場を離れた。

「……灰崎…」

 明日人が灰崎に問いかける。

「…これで、よかったのかよ。本当に、話さなくてよかったのかよ」

 だが、灰崎は何も言わなかった。

 

 ***

 

 鬼道の言った通りに、灰崎は試合から降ろされた。

 勿論、それで何かが変わるという訳でもなかった。

 何事もなく、試合が終わっただけである。

 ユースティティアにとっては、好都合だっただろう。

 前半開始から前半終了までにユースティティアが入れた点数、5点。

 イナズマジャパンがユースティティアに入れた点数、0点。

 イナズマジャパンは一回もユースティティアに得点を上げていない。おまけに、イナズマジャパンはユースティティアの実力に翻弄され、体力も残っていない。それでもイナズマジャパンは、点を取り返そうと奮闘した…が、ユースティティアの圧倒的な力に翻弄されるだけだった。

 そして、蓮の宣言通りにイナズマジャパンに十点差をつけて、試合は終わってしまった。

 蓮の力で治したグラウンドは、最初に見た時よりも酷くなっており、雑草すら生えてなかった。

「もうお前達人間に、抗う力は残されていないようだな。人間がいかに我々天使や神に無力かどうか思い知っただろう。我々天使は、長い間お前達人間を見守ってきたのだが…それももう潮時のようだな。よって、これからは永劫なる幸せの為、我々を産んだ神、フォルセティ様のお膝元で…」

 そう言い放ち、蓮は先ほどグラウンドを直した時に使われた札を、大量に自分の周りに展開した。それは、蓮の足元にあったボールを中心として集まり、陰と陽の巨大な陰陽玉にへと変換した。

『神に従って生きよ!!』

 陰陽玉に向けて、直毘が赤と青の札を両手でそれぞれ貼ると、陰陽玉は突然破裂し、中から大量の札と共に、蓮のシュートがイナズマジャパンのゴールに向かっていった。

 目の前に降りかかる大量の札に、明日人達は目を瞑った。

 ここまでなのか___と。

 だがその瞬間、一台のバスがグラウンドの外から猛スピードで駆けた。それは、イナズマジャパンとユースティティアとの間に止まり、蓮が出した札の進行を防いだ。

「皆さん乗ってくださ~い!」

「早く!!」

 開かれたドアから覗くのは、趙金雲と李子分だった。

 その声で目を開けたイナズマジャパンは、すぐに状況を理解し、趙金雲の言われた通りにバスに急いだ。

 怪我人やマネージャー、おまけにフロイ達を運び込み、最後に選手全員が乗り込んだ。

「灰崎も早く!」

「あ、あぁ…」

 茫然としていた灰崎の腕を、明日人が引っ張り、バスの中へと押し込む。

「このままだと取り逃してしまうな…少し手荒になってしまうが仕方ない」

 蓮が呟くと、右手から札が糸によって鎖のように連なった札を取り出した。それを、明日人が最後に乗る時を見計らって放つと、それは明日人の首に巻きついた。

「うぐッ!」

 その時グラついてしまい、思わずバスから引きずり込まれそうになったが、明日人が一瞬のうちに手すりを掴んだ為、何とか堪えた。だが、それでも蓮の引っ張る力は強く、今にも投げ出されそうだ。

 その時、蓮が引っ張った時に首を強く締めたのか、力が抜けてしまい、手すりから手を放してしまう。

「掴まれ明日人!!」

 だが瞬間、先に明日人によって乗り込まれた灰崎が明日人の手首を掴んだおかげで、外に投げ出されることは無かった。

 だがそれでも、灰崎諸共投げ出されそうだ。

「灰崎! 手伝うぞ!」

 その時円堂が、明日人を外に出さぬようにと、明日人の背中を抱える。

「監督! エンジンを!」

「わかってますよ~」

 円堂に言われた通りに、監督がエンジンをかけておく。

「この首輪になっているのを引きちぎれば…!!」

 明日人の首輪にもなってしまっている札を引きちぎろうとする坂野上。

 だが、札は普段自分達が使うような紙などではなく、鉄板でも使っているんじゃないかと思うくらいに硬く、引きちぎることは敵わなかった。。

「皆さん! 私ハサミ持ってます! これで明日人くんのを切れるかと…」

「わかった、早くこっちに!」

「はい!」

 大谷からハサミを受け取った吹雪は、一番明日人の近くにいる野坂に受け渡し、すぐに野坂は明日人に巻きついている札を、何度も刃を交差しながら斬り落とした。

 札が切れたのを確認すると、監督は一気にアクセルを踏み込み、雷門中を去る。

 やっと息が出来るようになった明日人は、そのまま灰崎に倒れ込み、ゼェゼェと呼吸を繰り返した。

「大丈夫か、明日人」

「ゲホッ、ゲホ…はいキャプテン、大丈夫です…」

 明日人の背中を擦りながら、円堂は明日人を近くの席に座らせる。

「監督、こんなバス一体どこで…」

「これですか? 雷門中の地下にあったバスですよ。夏美さんが手配してくれたんですよ」

 まず、こんなもの雷門中にあったか? と思いながら問いかける風丸に対し、監督はハンドルを切りながら答えた。

「夏美さんが、今のイナズマジャパンの実力では勝てないと見込んで、私にバスを貸すから、それで皆を逃がしてほしいと言ってきたんですよ。それに、怪我人も居る事ですしね」

 席で横になっている九名を横目で見ながら。

「ひとまず病院へ行きましょう。怪我人を見て貰わなければ!」

「そうですね、荷物はあとで取りに…いや、ここはオリオン財団の力を使いましょうか。その方が安全ですしね」

「……兄さんに頼んでおいておくよ…」

 オリオン財団の力をこのように使うとは思ってなかったフロイが空笑いする。

「それより監督、免許持っていたんですね」

「そうだね…てっきり持ってないのかと…」

「え? 持ってませんけど?」

 大谷と神門が話しているのを聞いていたのか、監督は会話に割り込む形で返した。

 だがその瞬間、バス内が一気に静まり返ったのは言うまでもない。

「えぇ!? 持ってないんですか!?」

「無免許運転じゃねぇか!」

「それ犯罪ですよね!?」

「大丈夫ですよ、今はこうやって安全に運転できてますし。それよりシートベルトは絞めてくださいねー」

「お、横暴すぎる……」

 それぞれが突っ込むも、趙金雲はそれを華麗にスルーし、ましてはシートベルトをしろと言ってきた。

 趙金雲ってこんなひとだったの…? とマリクは思った。

「……頭がいいのか悪いのか…」

 マリク同様に、監督の行動に愛想尽かしたようにルースが呟いた。

「そこが監督の良い所なんですよ。今は…無免許運転しちゃってますけど…」

 監督のその行動も長所の一つだと感じ始めていた大谷が、先ほど呟いたルースに答える。

[newpage]

 明日人たちは、先ほどの病院で負傷した九名を病院まで運び、今は病室で試合の疲れを癒していた。

 怪我人の九名全員、大事には命には別状ないが、重症の為入院をすることになってしまった。

「ごめんね円堂くん。治ったらすぐそちらに向かうよ」

「あぁ、待ってるからな!」

「兄貴、俺はこんな怪我すぐに治して、今よりももっと…」

「アツヤ。意気込むのはいいけど、ちゃんと横になってね」

「まさかこんな時にけがをするとはな…」

「伊那国島んときはけがしなくてよかったのによ…」

「でも、ちゃんと直せばいいじゃない!」

 大所帯となっている病室では、それぞれがそれぞれで会話をしていた。

 その頃明日人は、手洗いを済ませ皆が居る病室へと戻ろうとした。しかし、その時灰崎が病室とは違う場所に向かっているのを見かけた。

「…灰崎…?」

 トイレかな? と明日人が思ったが、一番病室に近いトイレはここだと感じた為、どうしたのだろうと明日人は灰崎の元へと向かう。

 だが、灰崎は明日人がついてきていることを知っているのか、少しずつ足を速めて行った。

「ちょ、ちょっと待ってよ、灰崎!」

 階段を下り、廊下を曲がり、やっと灰崎に追いついた場所は、病院の外だった。

「灰崎、どこ行くの?」

「……」

 明日人の呼びかけに答えたのか、さっきまで明日人に対して背中を見せていた灰崎が、明日人の方へと振り向いた。

「明日人、お前には言っておかなきゃならないことがある。俺はお前らとは行けねぇ。じゃあな」

 別れを告げるかのようにそう言った灰崎は、明日人がその言葉の本質に気づいた時にはもう外の方を体に向けていた。

 そして、外へと走って行ってしまった。

「ま、待ってくれよ灰崎! 何があったんだよ!」

 明日人が灰崎に向けて手を伸ばすも、その手は届かなかった。

「灰崎……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界の真実に抗う人間は

  人間の創った偽りを壊す天使には敵わなかった。

この小説の中でどのコンビが好きですか?

  • 明日人とエレン
  • 不知火と月夜
  • エレンとレン
  • エレンとメリー
  • エレンとミラ
  • 不知火とベルナルド
  • 明日人と月夜
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。