最近体がだるい。
もっと頑張りたいところ。
蠍座の紋章と、蠍の絵が書かれた画面の横には、最下位の12位の文字が隣にあった。
『残念ですが、最下位は蠍座の貴方! 今日は何もかもが上手くいかない日!』
それを見て、明日人はため息をついた。
明日人が携帯を通じて見ているのは、いわゆる星占いというもので、最近始めたものだ。占いとかおまじないとかはあまり信じていない明日人が、なぜ星占いをしているのかと言うと、マネージャーたちが星占いのことで話しているのがきっかけだ。それ以降、明日人は星占いのアプリを入れて、こうやって毎朝占いを確認しているのだ。
『ですが、ラッキーアイテムがあります! それは刀です! 神秘の刃で、不運を断ち切りましょう!』
最下位の星座には、毎回こうやってラッキーアイテムがある。効果があるのかは、分からないが__。まぁ、ラッキーアイテムが自分の持っているもので、または手に入れやすいものなら、手に持っておきたいものだ。そう明日人は考え、今日の一日一回の星占いは終わらせる。
「お、なんだ明日人。星占いなんて見ていたのか?」
「あ、剛陣先輩」
今日は練習が特になく、練習を行っていない人もいるが、自主練習は許されているため、朝から練習を行っている者も多くいる。剛陣はその中でも、自主練習をしない前者の方であり、食堂内をぶらぶらしていた。
「意外だな、明日人がそういうの信じるなんてな」
「まぁ、つくしさん達から誘われてやっているんですけどね……」
「ま、最下位だったとしてもめげないのが明日人だもんな!」
「そうですね。……って占い結果見ていたんですか!?」
知り合いに星座の運勢結果を見られて何になるんだとは思うが、さっきまでその運勢結果を見てため息をついていたところまで見られていたとなれば、話は別だ。明日人は剛陣の体をポカポカと叩く。
しばらくそうしていると、食堂のドアが開いた。
「おはよう。今日はいいことがあるぞ?」
食堂にやってきた奏多は、ニコニコ笑いながら言い放った。
「今日はオフじゃ。だから、遊園地で遊んでくるのじゃ!」
奏多からの提案で、いきなり遊園地に行くことなり、明日人たちは嬉しい気持ちもあるが、急すぎる報告に驚いている自分たちもいた。だが、奏多曰く「今日は羽根を伸ばすといい」と、わざわざ奏多のファイブフォースのひとつ、空間移動能力を使って明日人たちを遊園地に送り出してくれた。
「えっと、本当に楽しんでいいのかな?」
昨日までそんな報告をされなかった明日人は、どういうことか分からないでいた。
「今日は羽根を伸ばすといいって奏多さんは言っていたから、お前も楽しんだらいいんじゃないか?」
氷浦はとっくに遊園地の地図を持っており、楽しむ気満々のようだ。しかし、それでも明日人は、何かあるんじゃないかと心に引っ掛かりがあったのだ。
「まぁ、明日人にはちょっと嫌なことがあったからな」
「何があったんだ?」
剛陣の言うことに、円堂だけではなく、全員が気になっていた。
「実は明日人、今日の星占いで最下位だったんだよ!」
「わー! やめてください剛陣先輩!」
明日人が急いで止めるも、周りの人達は最下位なら仕方ない。と言いたげな顔をしていた。
遠足ということで連れてきた子供たちは、現在は教員たちに任せている。
今だけは社団のことも、子供たちのことを考えなくていいんだ。今は思い出に浸っていよう。
かつての思い出の場所であり、先代の会長が作ったこの遊園地の景色でも見つめながら。
「(ここは、私の祖父である不知火
不知火は、首から下げていたネックレスを手に取る。銀の宝石のリングが、宝石と同じ色のチェーンに通っているそれは、かなり使い古されたもののようで、何回か補修を受けている。
今はいない娘が、自分の誕生日のためにお小遣いを貯めて買ってくれたこのネックレスを片手に、不知火は歩きだそうとした。
「あ、不知火さん!」
ふと声をかけられ、不知火は目線の横を見た。見覚えのある袖の柄が写り、そして自分を呼びかけた声を、夜舞のものだと認識する。昭和後期のカメラを片手にこちらに向かってくる夜舞を、不知火はただ見つめていた。
「月夜ちゃん、久しぶりだね。今日は一人かい?」
不知火は現在一人しかいない夜舞を見て、一人でこの遊園地に来たのだろうかと推測する。オフならば、ここに来てもおかしくはないからだ。
「いえ、皆とここに来ていたんですけど、はしゃぎすぎていつの間にか皆とはぐれちゃって……」
どうやら推測は外れたようだ。夜舞曰く、この遊園地の写真を取りすぎて、皆とはぐれてしまったのだという。
「あ、電話ですね。失礼します」
その後に夜舞のカバンの中に入っていた携帯の着信音が鳴り響き、夜舞は電話を受ける。
『夜舞ちゃんどこにいるんですか! 皆探してますよ!』
「ごめんなさい大谷先輩! 今はどちらに来てますか?」
『えっと、お城の方に向かってるよ』
「わかりました! そういうわけで不知火さん、私はこれで失礼しますね」
大谷との電話を終えた夜舞は、不知火に挨拶をしてから大谷たちの元に向かおうと考える。
「いや、せっかくだからお城の方まで私と来ないかい? 一人だと色々と危ないだろうしね」
しかし、不知火は夜舞を一人にはしておけないという気持ちひとつで、夜舞と城まで歩くことにする。
「いいんですか?」
「構わないよ」
「あ、ありがとうございます!」
不知火に誘われるがままに、夜舞は不知火の左手を握った。男らしくたくましい手をしながらも、どこかしなやかな手の感触を胸に留めながら、夜舞と不知火は歩き出す。その姿はさながら親子のようだ。
明日人たちが今来ている遊園地のシンボル、西洋の城の屋根に、奏多は立っていた。
奏多はこの遊園地に流れる風を感じ、そしてこれからの事を考えていた。
「ハーツアンロックは、絶望が生み出す闇の力……精神が衰弱すれば、一気にダークアンロックになってしまう」
奏多はただ、ハーツアンロックの持つ闇の力に、ただ扇子を握りしめた。
「『
奏多は目を閉じて、かつて自分が体験したことを思い出す。
ハーツアンロックは危険だ。
人類を導く光にもなるし、人類を絶望に追い込む闇かもしれない。
だからこそ、絶望と運命に抗おうとする心__それによる解放こそが、ハーツアンロックをハーツアンロック至らしめているのだ。
それを、心無い人間が無理やりこじ開けて、解放するべきではない__!!
「こんにちは」
彼女が来る。彼女が自分の元に来るようになったのは、自分が古き故郷を見に東京に戻った時以来だ。あの時は何とかミラから逃げられたものの、エレンに付け狙われてしまっている。
「『多くの傷を胸に受けてなお……人は生き続けるもの。しかし、その中で人は、多くの間違いを犯してきた。だけど、それを制裁するのは人間だ。人間でなくなってしまった自分がやることじゃない。』そう思っているのかしら?」
「……黙れ」
奏多はただ、扇子で彼女、エレンの周りに結界を張った。だが、エレンは奏多を見つめて、ただ不敵に笑っていた。
「そう、貴方は純粋なのね。だからこそ、その絶望の反動は大きい」
「何を言う。人間の愚かしさは、お前たち天使が一番よく知っているだろう?」
「私は貴方の過去に何があったのかは知らない。だけど、
「人間をやめた儂……いや、俺から何をとる。確かに俺は、あの世界大戦の兵士にもなった男だ。人を殺したこともあるし、仲間を見殺しにしたことも、無関係の人達に手をかけたこともある。だが、そんなのは今の現代では忘れ去られる事実だ」
「…………」
夜舞奏多……いや、
奏多には過去を詮索しないと約束したものの、この世界を救うには必要な事だ。過去を探らせてもらおう。
そして、光と闇を採取させてもらおう。
それが、世界を救うに必要な事だから。
「あれ、茜さんここで何をしてるの?」
夜舞と不知火が、城に向かうまでの一方。
幼なじみの氷浦を入れた明日人は、お城の入口で茜に会った。
「凌兵は今トイレに行ってるから、待ってたんだ。あ、そうだ。クレーンゲームで取りすぎちゃったので、良かったら明日人さん達にあげますね」
茜は灰崎と遊園地を回っていたようで、さっきまでそこのゲームセンターでクレーンゲームをしていたようだ。茜は鞄の中から大量のキーホルダーを見せ、そのうちのどれかを明日人達にあげるようだ。
「(あ、これ……ラッキーアイテムのやつだ)」
一番先に明日人が目に付いたものは、日本刀の紋章がついた腕輪だ。金色のリングが、赤い刀の紋章を目立たせている。
「ありがとう。俺はこれにするよ」
「あ、俺も!」
氷浦は他のものを手に取る中、明日人も先程目に付いた腕輪を手に取った。
「待ったか? 茜」
明日人が腕輪をつけていると、向こうから灰崎がやってくる。
「ううん、大丈夫!」
完全にデート気分だなぁ。と二人は思っていると、向こうから罵声が聞こえてきた。
『お前ふざけてんのか!』
突然の罵声に明日人達が人盛りの方を向くと、そこには坂野上と咲がガラの悪い大人に絡まれているところだった。坂野上の頬が腫れているため、殴られた後だろう。だがそれでも坂野上は、咲を守るようにして立っている。
「昇くん、大丈夫!?」
大切な仲間が傷つけられていることに我慢ならなかった明日人は、人混みをかき分けて前に出る。だが、既に拳が坂野上の顔に当たりそうな瞬間だった。
「坂野上!」
坂野上が思わず目を瞑るが、衝撃が来ない。どういうわけかわからず、坂野上は目を開けると、そこには男が自分の横で倒れている光景だった。明日人から見れば、突然男の後頭部に石がぶつかり、そのまま倒れている瞬間だ。
「えっ……」
男が倒れ、他の取り巻きが逃げた先には、黒い髪を肘まで伸ばした男性がいる。
「坂野上、大丈夫か!?」
「昇くん!」
明日人と咲が必死に坂野上を呼んでいるも、坂野上は目の前の男性に気を取られていた。
「……不知火さん! いきなり走ったかと思えば石を蹴って、どうしたんですか?」
すると、夜舞が男性の元にやってくる。やっと追いついたようで、ハァハァと息を切らしている。
「不知火さん……?」
明日人の声に、目の前の男性が不知火一誠であることに気づいた坂野上は、急いでその場に立ち上がり、頭を下げた。
「あのっ、助けて下さり、ありがとうございます!」
「いや、その子を守ったのは君の勇気のおかげだ。その勇気で、その子を守るといい」
不知火は微笑んで、坂野上の頭を撫でる。
明日人に置いてかれていた灰崎たちも到着し、事態は収まったかに思えた。
『流石は元サッカー選手……蹴りは鈍っていないようで……』
この場に響いた声は、不知火の後ろで黒いフードを被りながら不敵に笑っている。
「あれは……!?」
「気をつけろ明日人、あいつはユースティティアの天使の部下、神父野郎だ!」
「神父!?」
突然現れた人物たちに、明日人が身構えていると、灰崎からこの人物たちはあの神父であることを知らされる。
「(そうか……あの時の!)」
ユースティティアの天使に仕える神父達がここにいるということは、きっとその上司である天使たちもここにいるに違いない。そう考え、明日人たちは身構える。
「……何の用だ」
だが、不知火は明日人たちの前に立つと、神父たちに問いかけた。
「まぁまぁ、落ち着いてください一誠様。私たちは貴方たちを傷つけるために来た訳ではありません」
「その言葉……信用ならないな」
今にも戦いが始まりそうな空気に、明日人たちに緊張が走る。
「さぁ一誠様。今こそ神の復活の依代となれるチャンスですよ」
だが、神父が言い放った一言に、明日人たちは驚愕した。
「神の……」
「依代!?」
それと、
一体、ユースティティアの天使たちは何をしようとしているのだろうか。
「不知火さん! それって本当なんですか……!?」
まさか、ベルナルドの師匠である不知火一誠が、フォルセティの依代であるということが信じられず、夜舞は不知火に問い詰める。
「……本当だ。だがこの子達には関係の無いことだろう」
不知火が、フォルセティの復活のための依代ではない。という夜舞の希望は、今不知火の言葉で砕かれた。
「関係なくはないですね。この欺瞞に満ち溢れた世界に降り立ち、復活する神こそが、この世界を救う救世主なのですから」
***
その頃、他のチームはというと。
「ヒロト、何か聞こえないか?」
「アナウンス……のようだが、何があったのだろうか」
遊園地内に響くアナウンスに、タツヤと砂木沼はその存在に気づく。
「迷子のお知らせとかじゃねぇのか? よく…………いや、タツヤたちはここにいろ」
ヒロトが遊園地内のアナウンスに、迷子のお知らせではないかと甘く見ていたが、タツヤの顔色が変わったのを見て、ただ事ではなさそうだなとヒロトは気づく。
おそらく、ユースティティアの天使たちが、この遊園地を襲撃しにきている。それを感じたヒロトは、タツヤたちの安全を確保する。
「ダメだヒロト! 俺も戦う! 確かに俺はヒロトみたいに強くはないし、ハーツアンロックも何も無い……だけど、ここで戦わなかったら、他の人達が傷つくかもしれない。そんなの、俺は嫌だ!」
自分では、強いヒロトの足手まといになるかもしれない。そんな気持ちもあったが、今はそんなこと考えてはいられなかった。
「タツヤ……」
どうすべきか。とヒロトが考えていると、後ろから黒フードの男が襲いかかってきた。
「危ないヒロト!」
「___!?」
タツヤの声で、後ろにいる神父の存在に気づき、何とか身をかわしたものの、次の攻撃に反応しきれず、腕に傷が走った。
「こいつッ……」
いつも間にか、三人は神父たちに囲まれている。
「ここから先は通しませんよ」
他の場所では、神父たちによる襲撃のためか、爆発が次々に起こっていた。その爆発の衝撃に、何とか受け身を取ったのがアツヤだ。
「くっ……こいつらここを襲うつもりだぜ、兄貴っ!」
自分の隣には、一般人の避難と神父との戦いのマルチタスクによって、膝をつき、いつもの二倍疲労している吹雪の姿があった。
「ッ……サッカーで勝負を仕掛けないところがっ……少し厄介だね」
吹雪たちは、サッカーであればあの神父たちに負けることはまず無いであろう。しかし、それは言い換えればサッカー
「吹雪、アツヤ、アフロディ!」
次の神父の攻撃……いわゆる銃による攻撃が吹雪に当たりそうになったその時、謎のバリアがその攻撃を防いだ。その直後に、円堂たちがこちらに向かって走ってくる。
さっきのバリアは、どうやらハーツアンロックをした円堂のデバイス、金剛杵によるものだろう。円堂がハーツアンロックとスペクトルフォメーションを身にまとっている。
「大丈夫か、吹雪」
「こっちは大丈夫だよ。豪炎寺くん」
「そういうわけにもいかないだろう。傷だらけじゃないか……」
豪炎寺と鬼道に肩を貸してもらい、何とか吹雪は立ち上がる。
「みんな、ここは俺に任せてくれ!」
円堂は金剛杵から光の剣を出し、神父たちに構えを取っている。
「何を言っているんだ。俺達も戦うぞ、円堂!」
円堂の横に、風丸も構えを取ってその場に立つ。
「やれやれ……聞き分けの悪い子達だ。さすがは全人類の最後の切り札といったところでしょう……」
「ハァッ!」
家族であろう一般人に襲いかかってくる神父たちを、一星はハーツアンロックのスピードによる足払いによって出来た風で吹き飛ばす。
「大丈夫ですか?」
「はい……ありがとうございます」
「お兄ちゃんありがとう!」
家族が遊園地の外に向かって逃げていったのを確認した一星は、再び神父と向き直した。
「セイヤは他の人の避難誘導、ユウマは可能ならヒカルのフォローを!」
神父の剣攻撃をデバイスのバリアによって守っている間に、フロイは野坂たちに指示を出す。
「わかった。こちらの敵が片付いたら、僕は他の人のフォローを一星くんとするよ。西蔭、頼むよ」
「はい」
野坂の指示であるため、従いたかった西蔭だったが、危険であろう敵の前に立つ野坂が心配であった。しかし、主の頼みだと、西蔭は走った。
「__西蔭さん!」
しかし、神父たちは目標を変え、西蔭をマークしようとしたその時だ。神父たちの前に謎の風が現れ、それは西蔭を守るかのように壁を作り、神父たちを吹き飛ばした。
謎の風に身を守っていた一星達だったが、風の中から現れた人物に、彼らは驚愕した。
「奏多さ__!?」
一星たちが言い終わる前に、奏多はファイブフォースによる空間移動能力で、一星達を城の前にまで飛ばした。
「やはり、日本奪還計画から辞退して、この遊園地に来てよかったな……」
自分の危険さに気づいた神父たちが、奏多を囲み出す。それに奏多は静かにため息をつくと、静かに言い放った。
「(……俺は覚悟を決めた。ハーツアンロックを日本奪還に使う。政府の考える日本奪還計画に嫌気がさし、辞退してしまったものの、これでは日本はずっとユースティティアの天使の支配下におかれたままだ。俺は、もう人を傷つけ、殺すためにハーツアンロックは使わない。希望としてハーツアンロックを使おう。彼らには、ハーツアンロックを忌々しい能力だという思いがなかった。むしろ、ハーツアンロックで人を助けようとするような素振りだ。俺も、最凶のハーツアンロックを持つものとして、誇りに思いたいものだ)」
奏多は、袖に隠していた金色の腕輪を外し、力を込めた。
「…………ハーツアンロック、リライズ」
城の方では、明日人たちが見守る中、不知火が神父たちと戦っていた。
「杏奈ちゃん……どうなっちゃうんだろう……」
大谷は城の影から、神父と明日人達の戦いを見つめており、杏奈は監督たちに電話をかけていた。
「つくしさん、監督に電話しました。ただ……今は忙しいのか、電源が切られているみたいです」
「ど、どうすればいいのかな……」
監督たちによって連絡し、今の現状を報告しようとするも、向こうでは電源が切られており、連絡することができなかった。それを知り、大谷はこの状況をどうしようと考えていた。
戦いのための手袋をつけた不知火は、大量の神父達の攻撃に体を対応出来ている。
「(さすがに、黒帯とはいえこの人数を一人で相手するのは難しいな……)」
不知火は神父の攻撃に受身をとり、体勢を立て直す。だが、互いに身構えていた不知火と神父たちの前に、突然一星たちが落ちてきた。突然のことに不知火が驚く中、明日人が一星たちの前に駆け寄った。
「一星! 野坂! 西蔭! フロイ、大丈夫か!?」
「痛ったた……明日人くん? 確か俺たちは奏多さんに……」
「一星くん。どうやらこの人がこの襲撃の犯人みたいだよ」
突然の再会に戸惑っている明日人と一星だったが、今自分たちがいる状況を把握した野坂が、二人に倒すべき相手を伝える。
「そうですね。私こそ、この遊園地を襲撃しました。しかし、もうとっくに我々の悲願は達成されました」
「なんだと?」
神父の言葉に、悲願とはどういうことだと、灰崎が乗り出す。
その時だ。野坂が大声で言い放った。
「まずい! みんな明日人くんと咲さんを守るんだ!」
前ぶりもなしに大声で言われたため、西蔭以外誰も野坂の言うことに反応出来ず、戸惑っていた。
『時は満ちた』
その隙を見ていた人物が、神父たちの後ろで、札を展開した。その直後に明日人の手首と足首が、謎の光によって拘束され、空中で磔にされる。
「明日人ッ!」
灰崎が明日人に手を伸ばすも、拘束された明日人の前に颯爽と現れたレンが、札による術によって咲以外の人たちを吹き飛ばす。
「ぐっ!」
「皆!」
「通さないよ?」
咲が灰崎たちの元に駆け寄ろうとするも、大天使の一人、メリーが咲の前に立ったため、咲は天使を前にして何も出来ないでいた。
「許せ、灰崎凌兵とその仲間よ。目的は、果たさなければならないからな」
「もうレンお兄様! ヒカルは傷つけちゃダメって言ったよね!」
咲を捕まえたメリーは、自分の好きな人である一星を傷つけられ、兄であるレンに文句を言っている。
「君が一星光のことが好きなのはわかった。だが、その一星光も、私たち天使の前では敵だ。さぁ、稲森明日人と七光咲を回収……」
メリーの言い分を聞き流し、レンは二人を天界に回収しようとする。機械仕掛けの翼が見える前は。
「レンお兄様!」
メリーの目の前で、レンが謎の人物によって倒された。そして、メリー本人も、その謎の人物によって倒れ込んだのだ。その光景を見ていた明日人と咲には、何が起こったのかがわからず、ただキョロキョロと周りを見渡していた。
「……やはり、絶望の闇は深いか……」
明日人の前に降り立った、機械仕掛けの翼を持つ人物は、己の手のひらの中にある絶望を眺めていた。
「奏多さん……!?」
「その翼……」
明日人と咲は、目の前にいる人物の正体に気がついた。機械仕掛けの翼を生やしているのは、夜舞奏多であり、変わったところといえば、翼と身体中にある赤い模様だろうか。
「なっ……」
「奏多さん……?」
起き上がった灰崎たちも、明日人たち同様に、目の前の人物の格好を見て驚いていた。
「感じる……このオーラ、ハーツアンロックだよ。波長は違うけど……」
フロイは、奏多のその機械仕掛けの翼こそが、奏多がハーツアンロックを身にまとっている証拠となっているのを皆に伝えていた。一星たちのような全身が装飾されているのとは違い、奏多のは単に翼だけという、とてもシンプルなハーツアンロックだったのだ。
「おぉ……その人間離れした戦闘能力、そしてその美しさ……流石は、最凶のハーツアンロック……」
しかし、神父の言う通り、美しいのは本当だ。神父たちは上司であるはずのレンとメリーに目もくれず、ただ奏多のハーツアンロックを敬うかのように眺めていた。
「御託はいい。子供たちに手を出すなら、まずは俺を倒すことだ」
「(あれ……?)」
オーラが変わっている。それはハーツアンロックを修得していない明日人でもわかっていた。どう言葉にすればいいのかは分からないが、奏多は目の前にいる神父たちに、憎しみとも恨みともいえない、漆黒の感情を持っているように見えたのだ。
そして___口調が変わっている。
いつもの奏多なら、老人のような語尾をつけて話すはずだ。だが、今の奏多は、まるで憎き敵を前にしたかのような男のような口調をしている。
「杏奈ちゃん、あれって……」
「ハーツアンロック……ですよね……?」
杏奈は目の前のハーツアンロックがどんなものかを調べる機械、スペクトルパーツカウンターを起動する。しかし、カウンターに表示されたのは、黒塗りの画面に、『禁忌』『最凶』『呪』という文字が赤く表示されただけだった。
「素晴らしいですわ。流石は、第三次世界大戦で大活躍したハーツアンロックですわね。世界で初の、人工的に作られたハーツアンロックにして最凶のハーツアンロック。出来ることなら、私の戦力になって欲しいところですわ」
いつの間にか、ミラが奏多の元にやってきていた。拍手をし、まるで彼のハーツアンロック復活を喜んでいるかのようだ。
「断る。俺にとっては、もう二度と使うことの無いものだったが、俺の姪である月夜の仲間たちが傷つけられているというなら、話は別だ」
すると、奏多は手に持っていた扇子を開いた。
「覚悟しろ」
奏多が扇子をミラたちに向け、一センチ程扇いだその時だ。
「『イドラデウス』」
雲ひとつない、青空に黄金色の球体が現れた。それは広範囲、いや遊園地内どころか、タイ中にその雷は球体を中心に降り注いだ。もちろん雷は明日人達や一般市民に当たらぬよう調整しているし、狙っているのはユースティティアの天使とその神父だけだ。しかし、ハーツアンロックにしては強すぎる力に、明日人たちは驚いていた。
「これが……最凶のハーツアンロック…………」
雷が降り続いている中、奏多はこの強大すぎる
「(扇子でリミッターをかけても、これほどとはな……政府がハーツアンロックを秘匿していたのもわかる気がするな)」
光のように速く落ちた雷たちは、すぐに止んだ。神父たちは雷に当たったのか、地面にその体を這っている。
「……そこまでですわ」
奏多が倒れている神父を見ていた時だ。声がして、後ろを振り向いた時には、ミラに銃を突きつけられている咲の姿があった。
「咲さん!」
『咲!』
灰崎たちは、咲を助けようと動いたが、他の神父たちに行く手を遮られる。
「(卑怯な……)」
「動かないでくれます? 動いたらこの子の命はありませんわ。それに、どうして人がハーツアンロックを秘匿していたのかがわかりましたわ。それは、貴方の持つ最凶のハーツアンロックによって、多くの人が亡くなったから……ですわよね?」
「奏多さんのハーツアンロックが!?」
明日人には何が何だかわからなかった。どうして奏多のハーツアンロックが最凶と呼ばれているのかも分からないし、なぜ奏多が人を大量に殺さなくてはならなかったのかも。
「そうだ。確かに俺は、この力で多くの人に手をかけた。国のためとは言い訳しない。だからこそ俺はこの力を封印し、人を助けるために生きてきた。ハーツアンロックの解放による実験で、人でならなくなってしまったとしてもな」
人を憎むつもりはない。
憎んだとしても、先に人として死んでいった仲間たちの気も晴れないだろう。
だから人を守るために、仲間を殺した憎い人間を守ってきた。
「明日人さん、聞きましたか? これが、偉い人達がハーツアンロックの存在を隠していた真実です。人を守るために使うハーツアンロックは、本当は破壊の道具にしか使われないのです」
ミラは、にっこりと明日人に問いかける。
「……奏多さん、嘘、だよね……?」
「奏多さん……」
明日人も咲も、奏多を信じていた。
いや、ハーツアンロックは人を助けるものだと信じていた。だからこそ、このショックは大きい。
「さて、既に目的は果たしましたし、咲さんは連れていきますわ」
「ま、待てミラ!」
咲を連れていこうとするミラを、明日人は引き止める。
「連れていくなら、俺にしろ!」
まさかの行動に、ミラは口を手で抑えた。
「まぁ明日人さん、あれほど救済は嫌だと申し出ておりましたのに?」
ミラは信じられない、という顔でこちらを見ている。だが、とうに覚悟は出来ていた。
「うん。でも俺はキャプテンだ。仲間を犠牲になんてできない!」
「明日人!」
「ダメだよ明日人くん!」
「稲森くん……」
灰崎たちが必死に明日人の行動を止めようとするも、その声は届かない。咲も明日人の名前を呼ぶも、既に咲はミラの手から解放されていた。
「そうですか。では、行きますよ。明日人さん」
ミラが手をかざす。すると、倒れた神父とレン、メリー、そして明日人と共に、この遊園地から消えた。
強すぎる力は、破滅を招く。
この小説の中でどのコンビが好きですか?
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明日人とエレン
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不知火と月夜
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エレンとレン
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エレンとメリー
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エレンとミラ
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不知火とベルナルド
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明日人と月夜